広帯域低モード分散を実現する 2モード光ファイバ 光電子技術研究所 丸 山 遼 1 ・ 桑 木 伸 夫 2 ・ 松 尾 昌 一 郎 3 ・ 佐 藤 公 紀 4 Two - Mode Optical Fibers with Low Mode Dispersion in a Wide Band R. Maruyama, N. Kuwaki, S. Matsuo, and K. Sato 次世代大容量伝送システムとして,複数のモードを伝搬する Few - Mode Fiber(FMF)を用いたモー ド分割多重(Mode Division Multiplexing ; MDM)伝送が近年注目されている.モード結合に起因する 信号劣化を補償するために MIMO を適用した場合,その信号処理量を軽減するためには,低モード分散 を有する FMF を適用する必要がある.そこで当社では,広波長範囲において低モード分散を実現する 2 モード光ファイバ(TMF)の最適設計法を明らかにし,それを基に作製した TMF が所望の特性を満足 することを確認した. Recently,mode division multiplexing transmission systems in Few - Mode Optical Fiber (FMF) have attracted considerable attention for the next generation transmission system. When MIMO is applied to suppress signal degradation due to mode coupling,a FMF with low mode dispersion is required reduce to MIMO complexity. In this paper,we describe the optimum design process for Two - Mode Optical Fibers (TMF) and confirm that the fabricated TMFs satisfy intended characteristics. 1.ま え が き 2. モ ー ド 分 割 多 重 ( M D M ) 伝 送 光伝送技術は過去 30 年間,時分割多重技術,光増幅 図 1 に MDM 伝送の概略を示す.伝搬モード毎に信号 技術,波長分割多重(WDM)技術,デジタルコヒーレン を載せ,モード合波デバイス(MUX),FMF,モード分波 ト技術の発展により飛躍的な成長を遂げ,これらの技術 デバイス(DeMUX)を介して,それぞれの信号を得る. を駆使した光ファイバ 1 本あたりの総伝送容量は ただし,FMF,MUX,DeMUX 中ではモード結合が生じ 100 Tbps 級を達成している 1).一方,トラヒック量は年 るため,受信側では信号が混同し,S/N 比が劣化する.こ 2) 率数十%以上で増加しており ,将来的には Pbps 級クラ のモード結合起因の信号劣化を回避する手段として,二 スの大容量伝送が必要であると考えられている.ところ つの方式が提案されている.一つは,モード結合を抑制 が,さらなる大容量化を目指した場合,シングルモード した FMF,MUX,DeMUX を用いた方法である 11)14).た 光ファイバ(SMF)を用いた既存の伝送システムではフ だし,MDM 伝送では WDM 伝送との併用が前提となるた ァイバヒューズ,非線形光学効果の観点から早晩限界に め, 広 波 長 範 囲 で 高 い モ ー ド 消 光 比 を 有 す る MUX, 達すると予想される 3).この限界を打破するためには,シ DeMUX を実現することが必須であり,大きな課題とな ステムだけでなく伝送路である光ファイバの革新的な技 る.もう一つは,モード間結合をある程度許容し,受信 術開発が必須であり,現在,複数のモードを伝搬する 側で信号を復元する方法である.信号の復元には,無線 Few - Mode 光ファイバ(FMF)を用いたモード分割多重 通信において既に実用化されている MIMO を適用するこ (MDM)伝送 4) 〜11) と 1 本の光ファイバに複数のコアを とが検討されており,MIMO を用いた伝送実験について近 有するMulti - Core 光ファイバを用いた空間分割多重伝送 年多数の報告がなされている 4)〜9).MIMO 伝送の場合,モ 12)13) が注目を集めている.われわれは,前者の FMF に着 ード結合を許容できる一方で,FMF のモード分散(本稿 目し,これまで開発を進めてきた.本稿では,FMF の重 では,モード間群遅延時間差(DMD)と記載する)を低 要な特性の一つであるモード分散を低減した光ファイバ 減することが必須となる.なぜならば,MIMO の信号処理 の最適設計法および作製結果について報告する. 演算量は DMD が大きいほど増加するためである 15)16).さ らに,前述の通り,MDM 伝送では WDM 伝送との併用が 前提であり,DMD は波長依存性を有しているため,使用 1 光ファイバ技術研究部 2 光ファイバ技術研究部光電研副所長 博士(工学) 3 光ファイバ技術研究部部長 博士(工学) 4 エネルギー・情報通信事業部 事業部長 波長帯全域において DMD を低減することが要求される. われわれは,MIMO 伝送用の FMF に照準を絞り,低 7 2013 Vol. 1 フ ジ ク ラ 技 報 略語・専門用語リスト 略語 ・ 専門用語 MIMO 第 124 号 正式表記 説 明 Multiple-Input-Multiple-Output 複数の送信機で同時に異なるデータを送信し,受信 時に合成することで広帯域を実現する伝送技術. C band,L band 通信波長帯として用いられる波長帯域.C band は 波 長 1530 ~ 1565 nm,L band は 波 長 1565 ~ 1625 nm を指す. Aeff Effective Core Area 実効コア断面積 ファイバ中を伝搬する光の電界分布の広がりを示す 指標のひとつ.主に,非線形光学現象の起こりにく さを示すときに用いられる. LP モード Linearly Polarized Mode 弱導波近似の基で成立する,縮退したモードをまと めて表現したモード概念. LP 01 を基本モード,LP 11 モードを第一高次モード, LP 21 モードを第二高次モードと呼ぶ. NFP 測定 Near Field Pattern Measurment ニアフィールドパターン測定 ファイバ出射端における近視野像.各モードによっ て電界分布が異なるため,近視野像より伝搬してい るモードを判断できる. C - OFDR Coherent - Optical Frequency Domain Reflectometry 光周波数領域反射測定 強度変調光を入射させ,その変調周波数を掃引し, 反射光成分の振幅と位相からファイバ中の状態を評 価する技術 λ1 LD 変調 λ2 LD 変調 Few Mode Fiber(FMF) LP01 Mode DeMux Mode Mux MIMO− DSP LP11 WDM 伝送 信号を復元 DMD が演算量に影響 MDM 伝送 図 1 モード分割多重(MDM)伝送システム(MIMO を用いた場合) Fig. 1. Mode division multiplexing transmission system(with MIMO). DMD を有する 2 モード光ファイバ(TMF)の開発を進 n [1 - 2D( r / a ) a ] 1/ 2 0 £ r £ a n( r ) = c n1 … …(式 1) r>a 2 めてきた.低 DMD を有する TMF を実現するにあたり, 単一の TMF で達成する方法と複数の TMF を組み合わせ Δ は比屈折率差を表し,次式で定義されている. て補償伝送路を構築する方法の 2 つのアプローチが考え られる(図 2).本稿では,これら 2 つの方法の光ファ イバの最適設計法および試作結果について報告する. D = (n12 - n22 ) / 2n12 ……………………………(式 2) ここで,n 1 と n 2 はコアとクラッドの屈折率,r は光ファ 3.低 DMD を有する 2 モード光ファイバ(TMF) イバの中心からの距離,a はコア半径,α は屈折率分布の 3.1 単一光ファイバ伝送路 形状係数である.最適化を行うにあたり,1)C band の中 3.1.1 設計 心 波 長 で あ る 波 長 1550 nm に お け る DMD の 目 標 値 を 低 DMD 化に有効であることが知られているグレーデッ 0 ps/km,さらに,TMF では SMF と同様,Aeff の拡大化や ドインデックス(GI)型屈折率分布 17)〜19) を基本に光フ 曲げ損失耐性も要求されるため,2)LP01モードの Aeff を ァイバ構造の最適化を行った(GI 型 TMF) .GI 型光ファ 150 µm 2 以 上,3) ケ ー ブ ル 化 時 の 等 価 的 な 曲 げ 半 径 イバの屈折率分布は以下の式で表される. 40 mm に お け る LP11モ ー ド の 曲 げ 損 失 を 0 . 01 dB/km 8 広帯域低モード分散を実現する2モード光ファイバ モード分割多重(MDM)伝送 MUX, DeMUX (Few - Mode ファイバ) デジタル処理 Few - Mode ファイバ 弱モード結合 モード結合 -free without MIMO with MIMO モード結合 -free 低 DMD 光ファイバ 弱モード結合 DMD-free 光ファイバ 単一光 ファイバ伝送路 補償伝送路 開発ターゲット 図 2 MDM 伝送に適用される FMF の分類 Fig. 2. Classification of FMF applied to MDM transmission systems. λ=1550 nm 200 以下 20),の 3 項目を設計の目標値とした.なお,曲げ損 0.40 % =0.35 % Δ 失は一般的に高次モードほど大きいため,LP11モードのみ 100 を評価対象とした.図 3 に波長 1550 nm におけるα , Δ をパラメータとした場合の規格化周波数T に対する DMD の計算結果を示す.DMD(Δτ )は以下の式で定義 する. α=2.8 2.4 =0.30 % Δ DMD (ps/km) 0 2.2 2.1 2.0 Dt = 1 / v g 11 - 1 / v g 01 …………………………(式 3) −100 ここで,vg 11 および vg 01 は LP11モード,LP01モードの群速 1.9 LP21 Cutoff −200 3.5 度をそれぞれ示す. また,T は以下の式で定義する. 4 4.5 5 規格化周波数 図 3 GI 型 TMF の規格化周波数に対する DMD 特性 Fig. 3. DMD characteristics of GI - TMF as a function of T at the various α and Δ . T = kan1 2D / A ………………………………(式 4) ここで,k (=2π / λ)は波数,A は屈折率分布の形状に よって決定する定数を示す.LP21モードのカットオフ周波 数は T=4 . 5 付近に存在することから,2 モード伝搬領域 ≦0.01 dB/km at である T < 4 . 5 の範囲において設計を行った.図 3 よ 190 り,DMD はΔ にほとんど影響されないことがわかる.ま た,α ≧ 2 . 2 のとき,2 モード伝搬領域内で DMD が 0 2.2 2.4 となる解が存在し,さらに,α が小さくなるほど DMD= 2.1 eff for LP01 2 (µm ) る.これは,言い換えれば,波長に対する DMD の傾きが 小さくなることを意味している.図 4 に,波長 1550 nm 150 において DMD=0 ps/km になるように T を調整したとき λ=1550 mm DMD=0 ps/km LP21Cutoff 170 α = 2.8 0 近傍の DMD のT に対する傾きは小さくなることがわか =40 mm 2 ≧150 μm のΔ に対する LP01モードの Aeff の計算結果を示す.図 4 中の設計目標値を満たす領域の中心の光ファイバパラメ 130 0.3 ータ(☆)を設計値とした. 3.1.2 試作結果 0.32 0.34 0.36 0.38 (%) Δ 上述の最適設計にしたがって,4 . 8 km の TMF を作製し 図 4 設計目標領域 Fig. 4. The region satisfying the requirements. た.DMD は干渉法を用いて測定した 21)22).測定結果より, 9 0.4 2013 Vol. 1 フ ジ ク ラ 技 報 第 124 号 3.2 補償伝送路 DMD=0 ps/km を得る波長は 1554 nm であり,設計通 図 6 に補償伝送路の概念図を示す.光ファイバ(p) りの値を得たことを確認した.また,C band において DMD ≦±36 ps/km であった.表 1 に波長 1550 nm に および光ファイバ(n)の DMD,光ファイバ長をそれぞ おける他の特性を示す.LP01モードの特性は実測値,曲 れΔτ p(> 0),Lp,Δτ n(< 0),Ln と表す.補償伝送 げ損失以外の LP11モードの特性は実測屈折率分布を用い 路の DMD,Δτ total は, て計算した値である.なお,LP01モードの特性は LP11モー ドのみが減衰する曲げを加えて評価した.カットオフ波 Dt total = (Dt p ◊ Lp ) + (Dt n ◊ L n ) … ……………(式 5) 長測定および NFP 測定(図 5)より,C band において となる.このとき,Δτ total がゼロになる条件は, LP01 および LP11モードのみが伝搬することを確認した. Aeff については, LP01モードは約 150 µm 2,LP11モードは 200 µm 2 以上の値を得た.R =40 mm における LP11モー Dt p : Dt n = L n : Lp ……………………………(式 6) ドの曲げ損失は,R =15,17,20 および 30 mm の実測値 を用いて外挿して算出したところ,0 . 10 dB/km と見積ら であり,式(6)が成り立つように光ファイバ長を調整す れ,設計目標よりやや大きい値となった.これは,作製 れば良い.補償伝送路では,製造誤差による DMD 変化を した TMF のΔ が設計値よりも低くなったことが原因だと 光ファイバ長で調整できるため,製造マージンが単一光 考えられる. ファイバ方式より広くなる利点がある. 表1 試作したGI 型 TMFの波長1550 nmにおける光学特性 Table 1. Optical properties of fabricated GI - TMF at 1550 nm. 特 性 Aeff 2 (µm ) ファイバカットオフ波長 伝送損失 (nm) (dB/km) 曲げ損失(R = 40 mm)(dB/km) 波長分散 (ps/km/nm) Mode LP 01 LP 11 * LP 21 LP 11 * LP 01 LP 01 LP 11 LP 01 LP 11 * GI - TMF 149 . 3 201 . 2 1495 2315 0 . 196 0 . 00 0 . 10 20 . 9 19 . 3 図 5 作製した GI 型 TMF の NFP 測定結果 Fig. 5. Measured NFP at the end of fabricated GI - TMF. * 計算値 Fiber (p) Fiber (n) τp Δ τn Δ LP01 LP11 入力 0 光ファイバ長: 光ファイバ長: p 出力 0 n 図 6 補償伝送路の概念図 Fig. 6. Conceptual diagram of DMD compensating optical transmission path. 10 広帯域低モード分散を実現する2モード光ファイバ 1 A)同種ファイバ接続 LP11 α + Δ LP01 2 光強度 − Δ (a.u.) / =0.2 − + =Rd Δ /Δ B)異種ファイバ接続 LP11 図 7 屈折率分布 Fig. 7. Refractive index profile. LP01 モード変換パルス 170 eff for LP01 2 (µm ) 150 d 130 3 1000 3.5 =1.0 4 λ=1550 nm + Δ =0.35 % α =2.0 500 DMD (ps/km) 時間[40 ps/div] 0 d 図 9 同種 TMF および異種 TMF を接続したときのイン パルス応答波形 Fig. 9. The Impulse response signals connecting to A)the same of TMF types and B) different TMF types. 5 4.5 =1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 −500 3.0 3.5 4.0 図 8 に波長 1550 nm における規格化周波数 T に対す LP21Cutoff 4.5 る DMD 特性および Aeff の計算結果を示す.コア中心の比 5.0 屈折率差Δ +に対するトレンチの比屈折率差Δ −の比率 Rd 規格化周波数 が 0 . 4 以下のとき,DMD は T の増加に伴って大きくな 図 8 トレンチ付 GI 型 TMF の規格化周波数に対する DMD 特性および Aeff Fig. 8. DMD and Aeff characteristics of GI Type TMF with trench. る.一方,Rd ≧ 0 . 6 のとき,DMD の T に対する傾きの符 号が 2 モード伝搬領域内で逆転することがわかる.さら に,Rd ≧ 0 . 6 のトレンチ構造を有する屈折率分布(TMF (p))と Rd=0 のトレンチ構造無しの屈折率分布(TMF (n) )は,規格化周波数 T が 4 . 0 ≦ T ≦ 4 . 5 の領域にお いて DMD と DMD の T に対する傾きの両方の符号が互い 3.2.1 設計 に逆となることがわかる.DMD および DMD の T に対す まず,設計に先立ち屈折率分布形状の予備検討を行っ る傾きの符号が互いに逆の場合,それらを接続した補償 た結果,GI 型を有するコアの外周にトレンチ層を付与した 伝送路は広波長範囲において DMD を低減できることが期 場合,トレンチ層の屈折率を変化させることで LP21モー 待できる.ところで,補償伝送路の Aeff については 2)の ドのカットオフ周波数に影響を与えることなく DMD 特性 目標値に加えて,構成する TMF の Aeff を同等に設計する のみを調整できることがわかった.そこで,本検討では 必要がある.なぜなら,Aeff が大きく異なる場合,接続点 図 7 に示した屈折率分布を用いることにし,コア半径α においてモード変換が発生する可能性があり,モード変 に対するトレンチ領域の幅 W の比率 W/a を一定(0 . 2) 換を起因として発生したパルスはノイズ成分となるため の条件の下,他のパラメータの最適化を行った.設計目 である.図 9 に同種 TMF および異種 TMF を接続したと 標値は,1)C+L band において 5 ps/km 以下の DMD, きのインパルス応答波形の一例をそれぞれ示す.同種 Aeff と曲げ損失については,3.1.1 の 2)と 3)の値を TMF ではモード変換パルスが観察されないのに対し,異 目標値とした. 種 TMF ではモード変換パルスが発生していることがわか 11 2013 Vol. 1 フ ジ ク ラ 技 報 第 124 号 3.2.3 DMD 補償実験 る.TMF(p)と TMF(n)は,図 8 より T 値,すなわ ち,Δ および a を調整することで,DMD と DMD の T に + TMF(p)と TMF(n)を接続し,DMD 補償伝送路を 対する傾きの符号を互いに逆であるように維持しつつ, 構築した.図 10 の結果より,TMF(p)と TMF(n)の LP01モードの Aeff を 150 µm2 以上,且つ,同等に設計する 光ファイバ長比率を最適にした場合,DMD は数 ps/km 以 ことが可能であり,モード変換パルスを抑制できること 下となることが予想される.しかしながら,C - OFDR を用 が期待できる.以上の計算結果より,TMF(p)と TMF いた本測定系では数 ps/km 以下の DMD を評価すること (n)の各パラメータを最適化した.図 8 中に設計値とし は難しい.そこで,光ファイバ長比率を大きくずらした 場合の DMD を測定し,得られた結果を内挿することで最 たパラメータ(☆)をそれぞれ示す。 3.2.2 試作結果 適光ファイバ長比率のときの DMD を評価した.TMF(p) の光ファイバ長 Lp は固定し,TMF(n)の光ファイバ長 上述の設計に基づき,TMF(p)および TMF(n)をそ れぞれ作製した.DMD は,C - OFDR を用いて評価した 23) Ln を変えて DMD をそれぞれ測定した.この際,各融着 24) .被測定光ファイバには TMF(p)および TMF(n)の 点は変化しておらず,TMF(n)の光ファイバ長のみを変 両端から 70 m を切り出し,合計 4 サンプルを選定し えた.図 11 に各 rL(=Ln/Lp)の各波長に対する DMD 測 た.図 10 に各波長に対する TMF(p)および TMF(n) 定値を示す.破線は TMF(p)および TMF(n)単体にお の DMD 測定値を示す.白抜きおよび塗りつぶしの点は, ける DMD 測定値と光ファイバ長を式(5)に代入して計 各 TMF の両端の測定結果である.TMF(p)および TMF 算した値である.実測値と計算値は良い一致を示してい (n)ともに,両端の測定結果は良い一致を示しており, ることがわかる.また,rL が約 0 . 5 に近づくにつれて, この測定結果は全長での DMD 値と見なすことができると 考えられる.さらに,図 10 より, TMF(p)と TMF(n) は DMD だけでなく波長に対する DMD の傾きの符号も逆 表 2 波長 1550 nm における試作した TMF(p)および TMF(n)の諸元 Table 2. Optical characteristics of TMF(p)and TMF(n) at 1550 nm. であり,設計どおりの特性を有することがわかった.表 2 に波長 1550 nm における 2 本の TMF の諸元を示す.2 本 の TMF の LP01モ ー ド の Aeff は 150 µm2 以 上, 且 つ, 1 . 3%以内の誤差で一致した.また,カットオフ波長測定 および NFP 測定より,C+L band において LP01モードお ファイバ長 よび LP11モードのみが伝搬することを確認した.LP11モー Aeff ド の 曲 げ 損 失 は R=40 mm に お い て,TMF(p) で は 特 性 (m) (µm 2) ファイバカットオフ波長 (nm) 0 . 15 dB/km,TMF(n)では 0 . 38 dB/km であった.こ 伝送損失 れは,単一光ファイバと同様,Δ が設計値よりも低くな + (dB/km) ったことが原因だと考えられ,その補正は容易であると 曲げ損失 at R = 40 mm(dB/km) 考える. 波長分散 * (ps/km/nm) LP 01 LP 11 * LP 21 LP 11 * LP 01 LP 01 LP 11 LP 01 LP 11 * TMF(p) 5750 150 . 9 212 . 1 1510 2285 0 . 206 < 0 . 00 0 . 15 20 . 5 20 . 0 TMF(n) 7800 152 . 8 220 . 3 1497 2305 0 . 203 < 0 . 00 0 . 38 20 . 3 19 . 0 計算値 200 800 = 0.351 100 DMD (ps/km) TMF(p) 400 0.414 0 0 DMD (ps/km) 0.612 0.752 −100 −400 実測: 計算: TMF(n) −200 1520 −800 1530 1550 1570 1540 0.816 1560 1580 1600 1620 波長 (nm) 1590 図 11 各ファイバ長比率 rL の各波長に対する DMD 実測 値と計算値 Fig. 11. Measured and calculated DMDS as a function of wavelength at the various rL. 波長(nm) 図 10 波長に対する DMD 実測値 Fig. 10. Measured DMD as a function of wavelength. 12 広帯域低モード分散を実現する2モード光ファイバ り抑制することが今後の課題である.それぞれのアプロ 10 ーチにおいて,課題を克服する光ファイバ設計の改良が 5 DMD (ps/km) 今後のキーポイントとなると考えている. 3 0 5.む す び 1625 nm 1600 1570 1550 λ= 1530 −3 −5 L −10 0.523 nm nm nm nm MIMO を用いた MDM 伝送に適用可能な広波長範囲で 低 DMD を有する TMF について,単一光ファイバ伝送路 と補償伝送路の 2 つのアプローチの最適設計法を明らか =0.540 0.535 にした.また,設計に基づいて作製したこれら 2 つの伝 0.548 送路は,世界トップクラスの DMD 値を達成した.今後 L は,単一光ファイバ伝送路では更なる低 DMD 化,補償伝 図 12 内挿直線より算出した補償伝送路の最小 DMD 値 Fig. 12. Minimum DMD of compensating transmission path by interpolation. 送路では接続点におけるモード変換量の評価に取り組ん でいく. 参 考 文 献 表 3 FMF の DMD 値の比較 Table 3. Comparison of DMDs by laboratries. 光伝送路 組織 128QAM - OFDM Transmission Over 3×55 - km SSMF モード数 DMD (LP モード) (ps/km) 2 ≦ 36 at C band 2 ≦ 76 at 1550 nm Fujikura 22) OFS 19) Alcatel - Lucent(米) 単一 O F S 5) 光ファイバ NEC America Corning 8) Fujikura 25) NTT 7) Alcatel - Lucent(米)6) 補償 OFS 伝送路 Corning 9) 1) D. Qian, et al,“101.7 - Tb/s (370×294−Gb/s) PMD - 2 ≦ 27 at C band 2 ≦ 80 at C band 2 2 ≦ 3 at C + L band ≦ 5 . 4 at C + L band 2 ≦ 3 . 3 at C band 4 ≦ 6 . 0 at C band (LP01,11モードのみ) using Pilot - based Phase Noise Mitigation,”OFC/ NFOEC 2011,PDP B5,2011 2) Cisco VNI Mobile,2012, “http://www.cisco.com/web/ JP/solution/isp/ipngn/literature/pdf/white_paper_c11 520862.pdf”Cisco 3) T. Morioka,“New Generation Optical Infrastructure Technologies:“EXAT Initiative”Towards 2020 and Beyond,”OECC 2009,FT4,2009 4) V.A.J.M. Sleiffer,et al., “73.7 Tb/s(96×3×256−Gb/s) mode - division multiplexed DP - 16QAM transmission with inline MM - EDFA,”ECOC2012 PDP Th3.C.4,2012 5) R. Ryf et al., “Mode - Division Multiplexing Over 96 km of DMD 値と波長に対する DMD の傾きはゼロに近づくこと Few - mode Fiber using Coherent 6×6 MIMO process- がわかる.図 12 に波長 1530,1550,1570,1600 および ing,”J. Lightwave Technol., vol.30,no.4,pp. 521 - 531, 1625 nm における rL と DMD の関係を示す.なお,波長 2012 1625 nm における DMD 値は計算値を示している.図 11 6) S. Randel,et al., “Mode - Multiplexed 6×20−GBd QPSK よ り,rL=0 . 540 の と き, 補 償 伝 送 路 の DMD は C+L Transmission over 1200 - km DGD - Compensated Few - band 全域において±3 ps/km 以内と見積もられることが Mode Fiber,”OFC/NFOEC2012,PDP5C.5,2012 わかった. 7) T. Sakamoto,et al., “Differential mode delay managed transmission line for wide - band WDM - MIMO system,” OFC/NFOEC 2012,OM2D.1,2012 4. M I M O 伝 送 の 展 望 8) N. Bai et al, “Mode - Division Multiplexed Transmission 単一光ファイバ伝送路では C band において±36 ps/km with Inline Few - Mode Fiber Amplifier,” Optics Ex- 以内,補償伝送路では C+L band において±3 ps/km 以 press,vol.20,no.3,pp. 2668 - 2680,2012 内を達成した.表 3 に他の組織の報告結果を示す.単一 9) M. Li,et al., “Low Delay and Large Effective Area Few - 光ファイバ伝送路,補償伝送路どちらにおいても,当社 Mode の DMD 値は世界最高クラスを達成している.ただし,単 Fibers for Mode - Division Multiplexing,” OECC2012,5C3 - 2,2012 一光ファイバ伝送路では数 ps/km オーダーの DMD 値に 10) C. Koebele,et al., “40 km Transmission of Few Mode は達しておらず,DMD の更なる低減が必要である.一方, Division Multiplexed Data Streams at 100Gb/s with MI- 補償伝送路では DMD 低減,製造マージンの観点ではアド MO - DSP Complexity, ”ECOC 2011 PDP Th.13.C.3,2011 バンテージが高いことがわかったが,3.2.1 で述べたよ 11) N. Hanzawa,et al.,“Asymmetric Parallel Waveguide うに,接続点において発生するモード変換量を可能な限 with Mode Conversion for Mode and Wavelength Divi- 13 2013 Vol. 1 フ ジ ク ラ 技 報 sion Multiplexing Transmission,” OFC/NFOEC 2012, 第 124 号 Electronics, vol.QE - 17,no.6,1981 OTu1I.4,2012 19) L. Grüner - Nielsen,et al., “Few Mode Transmission Fi- 12) H. Takara,et al., “1.01 - Pb/s(12 SDM/222 WDM/456 ber with Low DGD, low Mode Coupling and Low Gb/s)Crosstalk - managed Transmission with 91.4 - b/s/ Loss,”OFC2012 PDP,5A.1,2012 Hz Aggregate Spectral Efficiency,”ECOC 2012,PDP, 20) M. Ohashi,et al.,“Bend - optimized dispersion - shifted Th.3.C.1,2012 step - shaped - index(SSI)fibres,”Electron. Lett., 13) M. Mazurczyk,et al., “30 Tb/s Transmission over 6, vol.22,pp. 1285 - 1286,1986 630 km Using 16QAM Signals at 6.1 bits/s/Hz Spectral 21) N. Shibata, et al.,“Spatial Technique for Measuring Efficiency,”ECOC 2012,PDP,Th.3.C.2,2012 Modal Delay Differences in a Dual - Mode Optical Fi- 14) M. Bigot - Astruc, et al.,“Design and Fabrication of ber,”Appl. Opt.,19,1489 - 1492,1980 Weakly - Coupled Few - Modes Fibers,” IEEE Summer 22) R. Maruyama,et al., “Novel Two - Mode Optical Fiber with Low DMD and Large Aeff for MIMO Processing,” Topicals 2012,TuC1.1,2012 OECC 2012,PDP2 - 3,2012 15) B. Inan,et al., “Equalizer Complexity of Mode Division 23) R. Maruyama,et al., “Mode Dispersion Compensating Multiplexed Coherent Receivers” OFC/NFOEC 2012, Optical Transmission Line Composed of Two - Mode Op- OW3D.4,2012 tical Fibers,”OFC/NFOEC 2012,JW2A.3,2012. 16) 中 澤ほか,「2 モードファイバでのモード分割多重伝送 24) 丸 山ほか:「C - OFDR を用いた 2 モード光ファイバの群 に お け る MIMO 信 号 処 理 の 要 求 演 算 量 」, 信 学 技 報, 遅延時間差測定」,2012 年信学総大,B - 10 - 24,2012 OFT2012 - 36,2012 17) 大 越ほか,光ファイバ,オーム社,pp. 182 - 4,1989 25) R. Maruyama, et al.,“DMD Free Transmission Line 18) K. Kitayama,et al., “Structural Optimization for Two - Composed of TMFs with Large Effective Area for Mode Fiber: Theory and Experiment,” J. Quantum MIMO Processing,”ECOC 2012,Tu.1.F,2012 14