光通信用ATM-PON 送受信光モジュール 工藤 美行 寺嶌 宗弘 中村 努 近年IT革命という言葉が一躍有名になり,インターネッ トに代表される情報通信ネットワークが,オフィスの範 内藤 勝好 の実現を目指した組織である。国際標準化勧告ITU-T ( International Telecommunication Union, 囲を超え,各家庭,一個人ユーザへ急速に普及するよう Telecommunication Standardization Sector) になってきた。各ユーザへのサービスの提供を可能とす G.983.1と G.983.2が完成し3) 4),世界統一標準,国際 るアクセス系ネットワークの形態が多様化する中,特に 標準化が確立された。 光ファイバを伝送路とする経済的高速広帯域アクセスシ ATM-PONは,マルチメディアの多元速度多重化技術, ステムATM-PON(Asynchronous Transfer Mode 品質制御機能に優位なATM技術と,光アクセス網の共有 based Passive Optical Network)システムへの早期導 化による経済化が期待されるPON技術を組み合わせたシ 入 を 目 指 し て き た FSAN( Full Service Access ステムである。システムの普及には,システム仕様の世 Networks)グループの展開が,期待されている1) 2)。 界共通化による大量生産を可能とした低コストな装置の FSANとは,アメリカ,ヨーロッパ,日本の通信事業者 供給が必要である。装置のコストの大半を占める光モ が中心となった組織のことであり,システム仕様の共通 ジュールの低コスト化,および,量産化技術の開発によ 化を図るため,開発段階から共に検討を行い,多様なサー る供給の確保は,重要な課題となっている。 本稿では,沖で開発されたATM-PONシステム用 ビスの要求に柔軟に対応できる光アクセスネットワーク Enterprise WDM Links 企業 都市 Hybrid Fiber Coax Passive Optical Network FSAN 加入者 OLT ODN 加入者 ODN ONU ONU (ケーブルTVシステム) ODN 1.3um ONU 加入者 1.5um 光アクセス網 ATM-PON: Asynchronous Transfer Mode - Passive Optical Network 図1 ATM-PONシステムの構成 114 沖テクニカルレビュー 2001年1月/第185号Vol.68 No.1 OLT:Optical Line Termination ODN:Optical Distribution Network 21世紀のソリューション特集 ● 155.52Mbps低コスト化ONU(Optical Network Unit) PRE-AMP 光モジュールの構造と特性について述べる。 ATM-PONシステムの概要 ITU-T 勧告 G.983.1で規定されているATM-PONシス WDM filter PLC-Chip PD-chip Si-substrate(2) Fiber Cover Fiber テムの構成を図1に示す。システムは,OLT(Optical line Terminal; ネットワーク側で複数のユーザを持つ光 加入者線終端装置)とONUで構成される。ネットワーク を構成している光ファイバは1.3μm帯シングルモードファ Si-substrate(1) Ceramic substrate LD-Chip MPD-Chip イバを使用した1心ファイバであり,1.3μm帯と1.55μ m帯の波長多重による双方向伝送方式としている。ONU からOLTへの上りの信号光は波長1.3μm帯を使用し,伝 送速度は155.52Mbpsである。OLTからONUへの下りの Fiber LD-Chip PLC-Chip Fiber Cover PRE-AMP PD-chip Si-substrate(2) 信号光は1.55μm帯を使用し,伝送速度は622.08Mbps または155.52Mbpsである。OLTから複数のユーザ (ONU)へ光ケーブルを提供するネットワークは光アクセ Plastic Package ス分配網ODN(Optical Distribution Network)で構成 され,光スプリッタ等の光分岐回路部品が使われる。光 Si-substrate(1) WDM filter MPD-Chip 加入者側終端装置ONUは,1.55μm帯の受光部と,1.3 μm帯の発光部からなる光電変換部(光モジュール)と, 電子回路から構成される。 ONU光モジュールの構成 図2に,今回開発したONU光モジュールの構成と外観, 表1にモジュールの仕様を示す。1.3μm帯の波長と1.5μ m帯の波長を合分波するWDM(Wavelength Division Multiplex)光回路部には,WDMフィルタを挿入した光 導波路(PLC; Planar Lightwave Circuit)を使用して いる。ここでは,ファイバカプラタイプや空間ビームタ イプに比べ,小型集積化,および,組立工程での自動化 に適し,量産,低コスト化に優位であるPLCを選択した。 WDMフィルタは低コスト化を図るためポリイミドフィ 図2 モジュール構造および外観 ルタを使用している。ポリイミドフィルタをPLCの分岐 個所にあるダイシング溝に挿入固定することによって, と受信側のPD素子間を電気的に絶縁する,分離搭載構造 1.3μm帯の波長と1.5μm帯の波長を合分波している。ポ としている。従来,送信側LDと受信側PDは同一Si基板上 リイミドフィルタはLWPF (Long Wave Pass Filter) に搭載されていたため,電気クロストークを低減するに 仕様である。ファイバから入力された1.5μm帯の受信波 は,LD素子-PD素子間の距離を十分に離すことや,GND 長はフィルタを通過し,受信用のPD(Photo Diode)に の強化等の対策が必要となり,小型,低コスト化の実現 受光され,一方,1.3μm帯の送信側LD(Laser Diode) が困難な構造であった。しかし,LD素子,モニタ用PD素 信号光はフィルタによって反射し,ファイバより出力さ 子を搭載した送信側Si基板(1)と受信用PD素子を搭載 れる構成となっている。 した受信側Si基板(2)を,絶縁体となるPLCを介してそ ATM-ONU光モジュールは,送信,受信を同時に駆動 れぞれ接続される分離構造とし,かつ,PLCに搭載した させて使用することから,電気クロストーク,光クロス Si基板(1)とSi基板(2)を,セラミック基板を介し, トークの問題が発生する。今回紹介するモジュールは,電 プリアンプと共にプラスチックパッケージへ搭載するこ 気クロストークの問題を回避するため,送信側のLD素子 とによって,電気的な絶縁性を強化することができたの 沖テクニカルレビュー 2001年1月/第185号Vol.68 No.1 115 で,電気クロストークの問題を回避しながら,さらに, 10-3 LD素子-PD素子間の実装距離の短小化,つまり,PLCの ■送受信同時動作時 ▲ -40℃ ● 25℃ ■ 85℃ □送信動作無し △ -40℃ ○ 25℃ □ 85℃ 小型化を図ることを可能とし,同時に低コスト化を達成 することに成功した。 一方,光クロストークについては,特に,信号パワー の大きい送信部と微弱な信号を検出する受信部における, Bit Error Rate 同時送受信を満足する必要があるので,送信波長である 1.3μm帯の波長を受信部で十分に阻止する必要がある。 本光モジュールは,PLCの受信側端面と受信用PD素子間 にLWPFフィルタを挿入し,かつ,受信側Si基板(2)へ, 10-5 迷光防止用樹脂のポッティングをすることによってクロ ストークの低減を図った。 その他,分離構造により,個別部品ごとにおける歩留 の管理を可能とし,モジュール全体の歩留の向上と工程 管理の簡素化を図ることが可能となり,コストの削減,お 10-10 ClassC よび,量産に向けたモジュール提供を実現している。モ ジュール外形寸法は23.7(L)×8.2(W)×3.5(T)mm ClassB 10-12 -40 である。 -38 -36 -34 -32 -30 Optical Input Power(dBm) ONU光モジュールの特性 図3 符号誤り率特性(155.52Mbps) 図3に155.52Mbps信号受信時の符号誤り率特性を示 す。送受同時動作時の最小受光感度は,温度範囲-40∼ 時のパワーペナルティは1dB以下となり,良好な特性を +85℃において-36dBm(BER=10-10)以下を得,この 得た。ITU-T G983.1で勧告された最小受光感度Class 表1 155.52Mbps ONU光モジュールの仕様 (Ta=-40 to 85℃) 項目 記号 条件 最小値 光出力 Pf CW -2 しきい値電流 Ith - 最大値 155.52 伝送速度 送信側 平均値 1270 単位 Mbit/s 4 dBm 40 mA 中心波長 λc Pf=2.25mW,RMS 1360 nm スペクトル半値幅 Δλ Pf=2.25mW,RMS(σ) 5.8 nm 順方向電圧 Vop Pf=2.25mW 1.45 V mA 動作電流 Iop Pf=2.25mW 80 立ち上がり、 立ち下がり時間 tr, tf Pf=2.25mW 1 ns モニタ電流 Im Pf=2.25mW 300 μA 15 nA 1 dB モニタ暗電流 Id Ta=25℃ トラッキングエラー Er Im=const 80 -1 @Pf=2.25mW (25℃) 受信側 電源電圧 Vcc - 3.0 3.3 受光感度 Re Pin=3μW, Vcc=3.3V 14 16 バイアス電圧 Vb Pin=0mW, Vcc=3.3+/-0.17V 0.82 1.02 トランスインピーダンス Zt - 立ち上がり、 立ち下がり時間 tr,tf 10%-90% Rl λ=1480-1580nm 反射減衰量 116 沖テクニカルレビュー 2001年1月/第185号Vol.68 No.1 3.6 1.22 88 V dBΩ 3.9 20 V kV/W ns dB 21世紀のソリューション特集 ● B,Class Cの仕様を十分に満足する結果である。図4に 受信波形(Pin=-35dBm,@25℃)を示す。受光感度に ついては,0.85A/W(@25℃) ,プリアンプを含む変動 量±1dB以下(@-40∼+85℃)となり,安定した結果を 得ている。モジュールの光出力特性は,ファイバ出力 Pf=2.25mW(25mA,@25℃)に対し,トラッキング エラー±0.6dB以下(@-40∼+85℃)の良好な結果を得 た。この時の光出力波形を図5に示す。モジュールの内部 反射減衰量については,送信波長における反射減衰量 図4 受信波径形(Pin = -35dBm,@25℃) 25℃ が-15dB以下,受信波長における反射減衰量が-25dB 以下となり,良好な結果を得た。 あとがき 経済的高速広帯域アクセスシステムATM-PONの国際 標準化勧告ITU-T G.983.1に準拠する155.52Mbps低コ スト化ONU光モジュールについて紹介してきた。モジュー ルの設計評価,検証において,十分な特性が得られるこ とを確認した。今後,商用化に向けた量産化が最重要課 題である。そのためには,モジュールの信頼性の確保を 進めると共に,さらなる低コスト化モジュールの要求に 対応できる柔軟性を持つことが必須と考えている。今後 のATM-PONシステムのグローバルな展開に期待すると 同時に,アクセスシステム全体の動向,展開について注 目していきたい。 -40℃ ◆◆ ■参考文献 1)前田,他:高速広帯域光アクセス網の標準化動向,電子情報 通信学会誌,Vol.83 No.3 pp.169-173 2000年3月 2)横田,他:光アクセスシステム,沖電気研究開発第182号, Vol.67 No.1 pp19-22 2000年4月 3)ITU-T Recommendation G.983.1 "Broadband optical access systems based on Passive Optical Networks (PON)" 1998 4)I T U - T R e c o m m e n d a t i o n G . 9 8 3 . 2 " T h e O N T Management and Control Interface Specification for ATM-PON," COM 15-R44, June 1999 +85℃ ●筆者紹介 工藤美行:Miyuki Kudo.コンポーネント事業部 アドバンストオ プト部 光モジュール開発第2チーム 寺嶌宗弘:Tokihiro Terashima.コンポーネント事業部 アドバ ンストオプト部 光モジュール開発第2チーム 中村 努:Tsutomu Nakamura.コンポーネント事業部 アドバ ンストオプト部 光モジュール開発第2チーム サブチー ムリーダ 内藤勝好:Katsuyoshi Naito.コンポーネント事業部 アドバン ストオプト部 光モジュール開発第2チーム チームリー ダ 図5 光出力波形(-40℃∼+85℃) 沖テクニカルレビュー 2001年1月/第185号Vol.68 No.1 117