カラー画像評価システム 大瀧 登 画像品質のよしあしを判定する場合,人の視覚系によ でシステムを構築している。スキャナにプリントサンプ る主観的評価法と物理量で表せる客観的評価法がある。主 ル③をセットし,パソコンからの指示によりプリントサ 観的評価法例としては,限度見本を作成し,プリントさ ンプルをスキャンし,プリントサンプルの画像データが れたサンプルと見比べてそのよしあしを判定する方法が デジタルデータに変換される。変換されたデジタルデー あるが,人によってその判定の再現性が異なるという問 タはケーブル④を介してパソコンに取り込む。取り込ん 題や作業能率が劣るという問題がある1)。計測値で表現で だプリントサンプルの画像データをパソコンのソフト処 きれば,その再現性や効率の問題が解消できる。 理で解析し,その計測値を算出する。 特に,画像品質の判定基準を製品の企画,研究,開発, 1 カラースキャナ 設計,製造,保守などの各工程で統一的な計測値で管理 できれば,最終ユーザに常に安定した品質の商品を提供 2 パソコン できることになる。この意味でも,安価で簡易な画質評 3 プリントサンプルを セット 価システムを開発することは我々にとって重要な課題で あった。 4 接続ケーブル 一方で,カラーの画像品質を評価する項目は多岐に渡っ ている。例えば,色再現範囲,階調性,装置の色経時変 化,色の均一性(色ムラ),光沢,粒状性(グレイニネ ス),色ずれ,印刷の位置精度,ピッチバリエーション, 図1 簡易型画像評価システム その他のノイズ系(かぶり,斑点,帯/すじ,残像,か スキャナの解像度は最高で1600dpiのものを採用して すれ,汚れ,など) ,解像度,シャープネス(文字/線の いるが,一般には解像度を高くすればするほどその読み 鮮明さ) ,などがある。 取り速度は遅くなってしまう。そこで,目的ごとに最適 色の測定に関しては,いろいろなものが市販されてい な解像度を設定するようにしている。 る。ハンディタイプの測色計から,X-Yスキャン付きで自 以下,色ずれ,かぶり,粒状性(グレイニネス) ,CTF 動読み取りが可能な測色計,X方向のみであるが1分間に (解像度),およびピッチバリエーションの画質の計測方 約900のパッチもの高速読み取りができるものまである。 法について説明する。 我々もこれらを用途によって使い分けている。 今まで主観的評価に頼っていた項目で,重要と思われ る画質要因を抽出し,定量値で計測できる画像評価シス テムを開発したのでここに紹介する。 この画像システムは現在製品開発/設計の段階で使わ 色ずれ タンデム方式の一つの問題として色ずれがある。カラー 画像を直接媒体に順次形成していくため媒体の送り速度 が均一でないと各色の印刷位置がずれてしまう問題である。 れており,成果を上げている。また,本システムは工場 世の中のタンデム方式カラープリンタ機は色ずれの自動 の試験工程でも使われていて工場出荷時の品質安定化に 補正機能を持ってはいるが,部品の精度の問題などがあっ も貢献している。 て完璧に補正することは困難であり,100μm程度の色ず れが発生していると言われている。 カラー画像評価システムの概要 68 色ずれの要因としては,媒体搬送の速度変動,レジスト 本システムの構成を図1に示す。一般に市販されている 速度変動,定着速度変動,駆動ギヤ精度,感光ドラムの カラースキャナ①を採用し,パソコン②に接続するだけ 偏心,負荷変動,温度上昇による部品の膨張,などが挙 沖テクニカルレビュー 2003年4月/第194号Vol.70 No.2 プリンティングソリューション特集 ● げられる。これら色ずれ要因を分析する上でも色ずれを 100 50 25 22 19 16 1 13 0 Kのみが等間隔に並べられている。 10 ンタ)Y(イエロー)の順に等間隔で並べられ,下部には 150 7 ターンの上部には,K(ブラック)C(シアン)M(マゼ 200 4 色ずれ測定に使用するパターンを図2に示す。色ずれパ 250 Scaner output 高速に測定する手段が必要となっていた。 Dots' position K1 C1 M1 Y1 K2 C2 M2 Y2 K4 C4 M4 Y4 K3 C3 M3 Y3 K5 図3 スキャナ読み取り値 A 160 200 140 図2 色ずれパターン スキャナ解像度は読み取り速度を考慮して400dpi(1 インチ当たり400ドットの解像度)に設定して色ずれパ ターンを読み取る。図2の矢印A位置を読み取り,そのう 180 160 120 140 100 120 80 100 60 80 60 40 40 20 ちK線のみを抽出したものを図3に示す。横軸が400dpi単 20 0 0 1 2 3 1 2 3 位(63.5μm)のドット列,縦軸がこれらドットのスキャ ナ読み取り値(輝度値)を表している。輝度値が高いと 線1の拡大図 線2の拡大図 ころは,色ずれパターンの白色部,輝度値が低いところ はK線を示していることになる。この輝度値が低いドット 各線の位置をミクロン単位で予測できる。これら位置を K1,K2,・・・,Knとして記憶しておく。 矢印A位置で読み取った他色のものも同様にして抽出 して,計測する。例えばC(シアン)線の輝度値が低い3 図5 する。 のを代用する。Kに対するCの色ずれ量ΔK/Ciは,次のよ 51 46 41 36 31 26 位置(mm) 点からC線の各位置C1,C2,・・・,Ci,・・・,Cnを算出 C1位置に相当するK位置は, (K2−K1)を4等分したも 21 16 近似曲線を求め,最小輝度値を計算する。これによって 6 キャナ輝度が小さな3点を抽出し,その3点の輝度値から 40 20 0 -20 -40 -60 -80 1 そこで,色ずれ精度を高めるため,図4に示すようにス 色ずれ量(μm) しては63.5μmになってしまう。 11 図4 線1の拡大図 線2の拡大図 間のピッチを計測して位置を算出してもよいが,精度と 色ずれ周期 れ量と画像評価システムで計測した色ずれ量はほぼ一致 した値を示した。 うになる。 ΔK/Ci =Ci−Ki−(Ki+1−Ki)/4 同様にして,Kに対するM,Cの色ずれ量ΔK/Mi,Δ K/Yiも求めることができる。 かぶり かぶりとは,本来印刷されてはならない用紙の白地部 にトナーが微量転写されてしまい,白地部が多少汚れて ΔK/Mi =Mi−Ki−2×(Ki+1−Ki)/4 灰色に見える現象のことを言う。かぶりは画質の総合評 ΔK/Yi =Yi−Ki−3×(Ki+1−Ki)/4 価値を決定する上で重要な画質パラメータとされている。 このようして計測された色ずれをグラフ上にプロット 下地(Background)の汚れの度合いを表わすものとし すると図5のようになる。図5から,色ずれに周期性があ ては,プリントサンプルの白地部の濃度値と印刷されて ることことがはっきりしている。これをさらに周波数分 いない用紙の白色部の濃度値を相対比較して行う方法が 析すれば,その要因などが解析できることになる。 ある。しかし,極少量のトナーによる灰色であるため,濃 なお,光学顕微鏡を用いてマニュアルで測定した色ず 度値としては本来の白色とほとんど変わらない濃度値を 沖テクニカルレビュー 2003年4月/第194号Vol.70 No.2 69 示し物理量としての比較にならないことが多い。そのため, この関係をパソコンに記憶させておき,計測したσ値 各種段階の限度見本を用意し,プリントサンプルと見比 から限度見本レベル値に置き換えることとした。こうす べて,主観的な評価を行っていることが現実である。先 ることによって,従来から使ってきた限度見本方式の継 に述べた通り,主観的評価方法にはいろいろな問題がある。 承ができるとともに,個人差が現れる主観的評価から,計 また,トナーの粒子サイズが異なると,同じ濃度であっ 測値による客観的判断に委ねることができる。 ても見え方が違ってくるという問題も潜んでいる。 粒状性(グレイニネス) プリントサンプルのかぶり部をスキャナ(解像度 1200dpi,モノクロモード)で読み取って,その読み取 オーディオ機器における音質の劣化要因として,ノイ り値,すなわち輝度値の分布をグラフにすると図6のよう ズがあるのと同じように,画像においてもその品質を劣 になる。かぶり部は微量なトナーが用紙上に分散してい 化させるノイズ問題がある。電子写真においてはトナー るため,そのトナーを読み取った部分の輝度値は白色部 粒径が銀塩や印刷などに比べて大きいため,紙上のトナー の輝度値よりは小さく,逆にトナーが存在しない白紙部 で形成されたドットは粒状に分布している。また,その の輝度値は大きくなって表れる。 大きさがまちまちに分散していて画像上にざらつき感と これらの全輝度値の平均値をDとすれば,標準偏差σは して現れる。このざらつき感のノイズを粒状性(グレイ ニネス)と呼んでいる。カラー画質を評価する中で,最 次式で求められる。 も重要な画質パラメータの一つである。 2 σ= {Σ (Di−D) }/(N−1) この粒状さはトナーの粒状分布のばらつきとして表れ ここで,Nは輝度値の総サンプル数,Diはスキャナで読 ているので,各ドットの濃度分布のばらつき,すなわち み取った各輝度値を示す。σを求めれば,平均値からの 標準偏差σを求められれば,粒状性を計測できることに 散らばり方が得られる。小さい輝度値が増えれば,輝度 なる。 値のばらつきも大きくなり,標準偏差σも大きくなる。 微量なトナーのチリなどを読み取る必要があるため,ス キャナの解像度は最大の1600dpiとする。 図8にスキャナで読み取った画像データの拡大図を示す。 白紙部 300000 200000 このように,実際の印刷物の各ドットはある傾き,いわ ゆるスクリーン角度をもって配列されている。このスク かぶり部 205 210 215 220 225 230 235 240 の最小輝度点(濃度最大点)を求める。図8の塗りつぶし 245 リーン角度を求める必要がある。画像データの中央付近 0 250 100000 255 度数 400000 枠の黒点がこれに該当する。中央のドットはこの塗りつ スキャナ読み取り値 (大←)輝度値 図6 かぶりサンプルの輝度値分布 この標準偏差σでかぶりの物理量を代用できないか検 討した。我々が今までに使用してきたかぶりの限度見本 θ2=97.125° をこの画像評価システムで読み取り,標準偏差σを求めた。 限度見本レベルとσとの関係をプロットすると図7が得ら 標準偏差(σ) れた。 θ1=7.125° 14 12 10 8 6 4 2 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 限度見本レベル値(→良) 図7 70 限度見本レベルと標準偏差σの関係 沖テクニカルレビュー 2003年4月/第194号Vol.70 No.2 図8 画像データの拡大図 プリンティングソリューション特集 ● Ave=(ΣDn)/N N:総ドット数 2 σ'= {Σ (Ave−Dn) }/(N−1) このσ'値が大きいと言うことは,各ドットのばらつき が大きい,すなわち粒状性(グレイニネス)が悪いとい うことになる。 ここで,濃度値がそれぞれ0.15,0.22,0.29,0.35の 各プリントサンプルをスキャナで読み取り,そのσ'値を 求め,その濃度とσ値の関係をプロットすると図11に示 す結果が得られた。 P(y) 0.020 スクリーンの模式図 標準偏差σ 図9 j=8 0.018 0.016 0.014 0.012 0.010 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 濃度値 I i=8 図11 濃度とσとの関係 図11から濃度値とσは比例関係にある。この比例式 から,求めたσ'を濃度0.30に相当するσ値に換算するよ うにした。同じハーフトーンの画像を各社の装置で印刷 しても,濃度は装置によってかなり異なる。他社機との 図10 枠とピクセルの関係 比較も行えるように濃度0.30のσ値で粒状性(グレイニ ネス)を代表するようにした。 ぶし枠で囲まれることになる。この中央点から各角度の また,我々は今まで粒状性(グレイニネス)の評価は 輝度値の総和を計算し,この中からその最小値を検索す 限度見本との比較で行ってきた。この評価法との継承も ることによって2本のスクリーン線が求まる。図8の例で あるので,レベル3∼10の限度見本のσを求めてみた。そ はθ1=7.125°とθ2=97.125°が求まる。 の結果を図12に示すが,反比例関係を示している。 これを模式的に示すと図9のようになる。図8の中央塗 りつぶし部の形をさらに拡大したものを図10に示す。図 かぶりの場合と同様に,計測したσ値を限度見本レベル の値に置き換えて使用することとした。 10に示す一つ一つのマス目がスキャナの画素(ピクセル) Magenta Graininess限度見本と濃度0.30σとの関係 図10の例では,1ドットが8×8+1=65ピクセルで構 成される。各ピクセルの輝度値P(i, j)から1ドットの濃度 値D'を計算する。濃度とは光の反射率を対数にしたもの である。その定義から次式が得られる。なお,濃度値は 単位を持っていない。 D'=−log[{ΣP(i, j)+P(y)}/(65×255)] ( i=1∼8, j=1∼8, P(y)・・・図10参照 ) 濃度0.30σ に相当する。 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 3 4 図12 5 6 7 8 9 限度見本レベル値(→良) 10 限度見本レベルとσとの関係 スクリーン角度が分かっているので,図9に示す各枠の 濃度値も同様にして上式から求めることができる。 求められた各ドットの濃度値Dnから全濃度値の平均値 Aveと,そのばらつきを表す標準偏差σ'を求める。 CTF(解像度) CTFとは,Contrast Transfer Functionの略であり, プリンタの解像度の実力を調べる上で,重要な印刷品質 沖テクニカルレビュー 2003年4月/第194号Vol.70 No.2 71 エーションという。印刷機構の駆動系の部品(例えば の指標である。 CTFの算出方法は,図13に示すような線間距離が小さ モータ,ギヤ,ローラ等)が原因であることが多い。本 く(例えば0.1mm) ,均等間隔で並んだ線郡の画像を印刷 現象が発生した場合,駆動系のどこに問題があるか解析 する。 する必要がある。 Dmin(白地) Dmax(線) ← 主走査方向 → 図13 CTFパターン そのプリントサンプル画像をスキャナで読み取り,黒 色部の線濃度をDmax,線間における用紙の白地部の濃度 図15 ピッチバリエーションサンプル をDminとすると,CTFは Dmax − Dmin CTF= ×100 Dmax + Dmin この画像評価システムはピッチバリエーションが発生 したプリントサンプルを読み取り,フーリエ変換を用い て測定データを解析し,現象の発生原因を解析すること で表される。 しかし,上記濃度を一般に使われている濃度測定器で 測定するには高価なマイクロ濃度計が必要になり,また もできる。 ここで,フーリエ変換とは,信号処理の分野でよく使 われているものであるが 2),信号の周波数特性を調べる際 線群が多くなるにつれて作業時間もかかってしまう。 この画像評価システムは,線間距離が小さくても,多 くの線を一括して計測できるシステムである。 に用いられる計算方法である。信号のサンプリングデータ に対して,級数計算を行うことによって,スペクトル図 スキャナから送られたデジタルデータ(輝度値)を濃 度値に変換しプロットすると,図14のような波状形状と が作成され,この図から現象の周波数特性を調べること ができる。 なる。この図の山頂がDmaxに当たり,谷底がDminに当 この画像評価システムではスキャナによって生成され たる。これらDmaxとDminの各々のペアからCTFを求め たデジタルデータをサンプリングデータとし,このデー ることができる。 タをフーリエ変換することにより,画像に発生している 周期的現象を周波数特性から解析する。 濃度 D max 0.700 図16は85μmピッチでドットが形成され,かつ,ピッ 0.600 チバリエーションが発生したプリントサンプルをこの画 0.500 像評価システムで処理し,作成したスペクトル図である。 0.400 グラフ中では,周期85μmにおいて突出した部分が見 0.300 られる。この突出した部分を一般にパワースペクトルと 0.200 呼ぶ。周期85μmにおけるパワースペクトルはプリント 0.100 D min サンプルのドットピッチを示している。理想的にはドッ 0.000 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ←主走査方向→ 図14 線群の濃度 トピッチを示すパワースペクトルのみが現れていれば問 題はないのであるが,それ以外に周期0.37mmでパワース ペクトルが見られ,これがピッチバリエーションを示し ている。このことから,周期0.37mm特性を持つ,駆動系 ピッチバリエーション 印刷品質の問題の一つに,図15のように細かな周期の すじや帯が現れるという問題がある。これをピッチバリ 72 沖テクニカルレビュー 2003年4月/第194号Vol.70 No.2 の部品(ギヤ,ローラ等)が印刷画像に何らかの影響を 与え,ピッチバリエーションの原因となっていることが わかる。 プリンティングソリューション特集 ● 周期0.37mm (ピッチバリエーション) 周期0.085mm 16.000 パワースペクトル 14.000 12.000 10.000 8.000 6.000 4.000 2.000 0.000 0.01 0.1 1 周 期(mm) 図16 スペクトル図 お わ り に カラー画像評価システムにより,主だった画像評価項 目は計測できるようになった。今後は,さらに評価項目 を増やしていくとともに,心理要因による画質のよしあ し(きれい−きたない,コントラストの良否,立体的− 平面的など)を本システムで計測した定量値で判定でき るような画質総合評価システムへと進化させていく予定 である。 ◆◆ ■参考文献 1)電子写真学会編:電子写真技術の基礎と応用,コロナ社, p.704 2)中村尚五:デジタルフーリエ変換,東京電機大学出版局, pp.2-7 ●筆者紹介 大瀧登:Noboru Otaki.株式会社沖データ アーキテクトグループ チームリーダ 沖テクニカルレビュー 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