AN-825 アプリケーション・ノート ® iCoupler アイソレーション製品での電源の考慮事項 著者: Rich Ghiorse はじめに このアプリケーション・ノートは、種々の電源条件でのアナロ グ・デバイセズ iCoupler 機能の理解を支援するガイドです。ま た、消費電流と消費電力の計算も詳しく説明します。 05784-001 iCoupler 製品は、優れた集積度、性能、消費電力特性を持つ、 フォトカプラの代替アイソレーション・ソリューションを提供 します。 iCouplerアイソレーションチャンネルは、CMOSの入出力回路と チップ・スケール・トランス(図 1)から構成されています。すべ てのアプリケーションで、iCouplerはグラウンドを共通にしない 2 つの別々の電源から電力が供給されます。すべての電源オン 状態を理解するためにはデザイン時に様々な状況を考慮する必 要があります。 図1.ADuM140x クワッド・アイソレータ Rev. 0 本 社/〒105-6891 東京都港区海岸 1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話 03(5402)8200 大阪営業所/〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原 3-5-36 新大阪トラストタワー 電話 06(6350)6868 AN-825 目次 はじめに..............................................................................................1 電源変化時のiCouplerチャンネル ................................................4 改訂履歴..............................................................................................2 電源電流の計算..............................................................................5 iCoupler電源の基礎 ........................................................................3 消費電力について ..........................................................................7 iCouplerの内部................................................................................4 結論..................................................................................................7 改訂履歴 2/06—Revision 0: Initial Version Rev. 0 - 2/7 - AN-825 iCoupler電源の基礎 図 2 に、電源オン状態のiCouplerの簡略化した図を示します。 iCouplerは 2 つの回路部分Side1 とSide2 を持つと見なすことは理 解に役立ちます。iCouplerをアイソレータとして使うときは、 VDDとVDD2 を互いにアイソレーションする必要があります。こ れにより次の幾つかの重要なポイントが発生します。 Side1 は VDD1 のみから、Side2 は VDD2 のみから、それぞれ電 源を得ます。 VDD1 と VDD2 は、それぞれ GND1 と GND2 を基準とします。 アイソレーション障壁があるため、VDD1 と VDD2 は互いに 基準点を持ちません。 電源電流 IDD1 と IDD2 は、それぞれの側に制限されます。 図 3 に、異なるグラウンドを基準とする電圧測定の例を示しま す。このケースでは、iCouplerはVDD1 = 5V、VDD2 = +3Vから電 源を得て、アイソレーション障壁(VCM)の両面間に 400 Vの同相 モード電圧があります。通常フォントであらわす電圧は共通シ ステム・グラウンド(GND1)を基準とし、引用する電圧はローカ ル・グラウンドGND1 とGND2 を基準とします。電圧値が異なっ ても、異なる基準点で測定されるためこの例では有効です。 この例では、次の 2 つの重要なポイントが強調されます。 すべての iCoupler 電圧測定での基準点に常に注意してくだ さい。 すべての iCoupler 電圧は、それぞれのグラウンド(GND1 ま たは GND2)を基準とします。 i Coupler iCoupler VDD1 VDD2 + – SIDE1 GND1 + SIDE2 – + – VDD2 GND2 "0V" 0V SIDE1 GND1 GND2 – VCM 図2.電源オン状態の iCoupler の基本図 + – SIDE2 + ISOLATION BARRIER MEANS NO REFERENCE POINT OR CURRENT PATH BETWEEN SIDE 1 AND SIDE 2 CIRCUITS Rev. 0 403V "3V" 400V "0V" 05784-003 VDD1 VDD2 IDD2 05784-002 IDD1 VDD1 "5V" 5V 図3.異なるグラウンドを基準とする測定を示す iCoupler の例 - 3/7 - AN-825 iCouplerの内部 電源変化時のiCouplerチャンネル 図 4 に、ADuM1201デュアル・チャンネルiCouplerの詳細ブロッ ク図を示します。ADuM1201 は、アイソレーション障壁の各側 に入力チャンネルと出力チャンネルを持っています。各チャン ネルは同じで、データの方向だけが異なっています。各iCoupler チャンネルは、入力バッファ、エンコーダ(リフレッシュ・ジェ ネレータ付き)、アイソレーション・トランス、デコーダ(ウォ ッチドッグ・タイマ付き)、出力バッファの各回路のカスケード 接続で構成されています。 様々な電源状態でのiCoupler動作を考える際、デバイス全体では なく個々のチャンネルを考えることが役立ちます。iCouplerチャ ンネルには 表 1に示す 4 つの電源状態があります。State 0 とState 3 は通常の状態で、チャンネルが完全にオフか、または完全に オンになっています。State 1 とState 2 は、チャンネルに部分的 にパワーアップしている特別な状態です。これらの状態は、電 源の変化時または故障状態で見られる状況を表しています。 入力と出力のチャンネル・パラメータは下付き文字Iと下付き文 字Oで識別され、この下付き文字Iは入力電源値を、下付き文字 Oは出力電源値を、それぞれ表します。幾つかの例には、IDDI (入力電源電流)とVDDO (出力電源電圧)が含まれます。この表記 法と 図 4から、VDD1 はVDDOおよびVDDIと見なすことができます。 これは、チャンネルAの出力とチャンネルBの入力は、iCoupler のVDD1 側にあるためです。iCouplerの他方の側にも同じことが 適用できて、VDD2 はチャンネルAに対するVDDIと、チャンネルB に対するVDDOと、それぞれ見なすことができます。 iCouplerは、デジタル信号のアイソレーションのためにチップ・ スケール・トランスを使っています。入力信号のエッジ情報が エンコードされて、1 ns幅のパルスとしてアイソレーション・ トランスT1 とアイソレーション・トランスT2 に加えられます。 これは、図 4のエンコーダ出力に示してあります。2 個のパルス で立ち上がりエッジの入力信号を表し、1 個のパルスで立ち下 がりエッジの入力信号を表します。これらのパルスはT1 とT2 を介して結合され、障壁の反対側でデコードされて出力に再生 されます。リフレッシュ・ジェネレータ出力は、1 μs毎のパル スで出力でのDCを正しく維持します。ウォッチドッグ・タイマ は、入力側で電源がなくなった場合やデバイスが損傷した場合 のように、約 2 μs以内にパルスがデコーダに入力されない場合、 自動的に出力をハイ状態にします。 表1.iCoupler チャンネルの 4 つの電源状態。 State VDDI VDDO Comments 0 Off Off Entire channel off, normal condition 1 Off On 2 On Off 3 On On Input side off; output side on, special condition Output side off; input side on, special condition Entire channel on, normal condition 実際には、iCoupler 電源は 2.7 V より低い値でオフと見なされま す。電源が有限の立ち上がり時間を持つため、微妙なポイント が発生します。すなわち、電源電圧が 2.7 V より低いある値で、 予 想 し な い チ ャ ン ネ ル 動 作 が 開 始 さ れ ま す 。 iCouplers の ADuM1xxx シリーズの場合、電源に対するこのウェイクアップ 値は約 1.8 V です。 ADuM1201 ENCODED PULSES VDD1 CHANNEL A VOA VDD2 WATCHDOG 2S REFRESH DECODER ENCODER VIA T1 T2 CHANNEL B GND1 ENCODER DECODER REFRESH WATCHDOG 2S 図4.ADuM1201 内部回路のブロック図 Rev. 0 - 4/7 - VOB GND2 05784-004 VIB AN-825 図 5 に、様々な電源状態に対するiCoupler出力の応答方法を示し ます。VDDIの 1.8 V~2.7 Vの領域に不確定な動作が発生します。 これは電源立ち上がり時間を 0.1 V/μsより大きくすることによ り回避することができます。電源がオンになっていない出力ま たは入力を電源が入っている他の回路に接続する場合には、 iCouplerに加える電圧が絶対最大定格を超えないようにしてくだ さい。 STATE 0 STATE 1 STATE 2 STATE 3 VDDO OUTPUT SUPPLY iCouplerの電源電流は、電源電圧、出力負荷、アイソレーショ ン・チャンネルのデータ・レートの各値の影響を受けます。 IDD1 とIDD2 は、各チャンネルについて別々に計算し、結果を加算 することにより求めます。マルチチャンネルiCouplersのIDD1 と IDD2 の計算のために、アナログ・デバイセズのウエブサイト http://www.analog.com/jp/interface/digital-isolators でデザイン・ツ ールを提供しています。 与えられたチャンネルの IDDO と IDDI の値は、式 1 と式 2 を使っ て計算します 1。 2.7V 1.8V VDDI INPUT SUPPLY 電源電流の計算 IDDO = (IDDO (D) + (0.5 × 10 - 3) × CL × VDDO) × (2f-fr) + IDDO f > 0.5 × fr 2.7V IDDI = (IDDI (D)) × (2f-fr) + IDDI (Q) (mA); f > 0.5 × fr VOX INDETERMINATE (LOGIC LOW) 05784-005 FULLY OPERATIONAL (Q) (mA); (1) (2) ここで、 IDDI(D)、IDDO(D)はチャンネルあたりの入力と出力のダイナミック 電源電流(mA/Mbps)。 CL は出力負荷容量(pF)。 f は入力ロジック周波数(MHz、入力データ・レートの 1/2、 NRZ )。 fr は入力ステージ・リフレッシュ・レート(Mbps)。 図5.様々な電源状態での iCoupler 出力 この例での重要な点は、 電源の立ち上がり時間を 0.1 V/μs より大きくする必要があ ります。 電源オフ状態では、iCoupler に加える電圧は絶対最大定格 を超えることはできません。 iCouplers の ADuM3xxx シリーズは ESD 強化型製品です。この 製品は、iCouplers の ADuM1xxx シリーズと同じ機能仕様を持っ ています。ADuM3xxx シリーズは ESD/ラッチアップ耐性を強化 するために開発されていますが、パワーアップとパワーダウン の問題にも対処しています。ADuM3xxx シリーズでは、すべて の電源電圧で不確定動作を解消する低電圧ロックアウト回路を 使ってこれを実現しています。ADuM3xxx シリーズは次のよう なアプリケーションで使用してください。 電源立ち上がり時間が 0.1 V/μs より小さい。 電源にノイズが多い。 システム・レベルのテストでラッチアップと EOS/ESD の 問題が発生する。 Rev. 0 - 5/7 - IDDI(Q)と IDDO(Q)は、それぞれ入力静止電源電流と出力静止電源電 流(mA)。 VDDO は出力電源電圧(V)。 1 ADuM1100 と ADuM3100 は 1 チャンネル・アイソレータであり、IDDO と IDDI の計算には異なるセットの式を使います。これらのモデルでは入力と出力の ダイナミック消費電力容量 CPD1 と CPD2 を規定して、次の式を使います。 IDD1 = CPD1 × VDD1 × f + IDD1Q。 IDD2 = (CPD2 + CL) × VDD2 × f + IDD2Q、ここで CL は負荷容量です。 AN-825 図 6 に、ADuM1401 クワッドiCouplerを使用した例を示します。 動作条件は、VDD1 = +5V、VDD2= +3V、CL = 15 pF、f = 40 Mbps (f = 20 MHz)です。IDD1 とIDD2 の合計電流は、各 4 チャンネルの 該当するIDDIとIDDOの和です。 最初のステップは、VDD1 が入力 3 チャンネル(A、B、C チャン ネル)と出力 1 チャンネル(チャンネル D)に電源を供給している ことを確認することです。これに対して、VDD2 が入力 1 チャン ネル(チャンネル D)と出力 3 チャンネル(A、B、C チャンネル)に 電源を供給しています。したがって、IDD1 と IDD2 は次のように 式 3 と式 4 で与えられます。 IDD1= IDDI (ChA) + IDDI (ChB) + IDDI (ChC) + IDDO (ChD) (mA) (3) IDD2= IDDO (ChA) + IDDO (ChB) + IDDO (ChC) + IDDI (ChD) (mA) (4) IDDI = (0.1) × (2 × 20 −1.1) + 0.26 = 4.2 mA Channel A N/A Channel B N/A 7.9 Channel C N/A 7.9 2.2 N/A Channel D 3.5 N/A N/A 4.2 IDD1 = 3.5 + 7.9 + 7.9 + 7.9 = 27.2 mA (3) IDD2 = 4.2 + 2.2 + 2.2 + 2.2 = 10.8 mA (4) 表 2の値から、入力電流値が出力電流値より大きいことが分か ります。入力チャンネルはアイソレーション・トランスの電流 を駆動する必要があるため、負荷が大きくなります。iCouplerに 流れる電流は周波数に依存し、式 2 のIDDI (D)項(ダイナミック入 力電流)で表されます。出力チャンネルにも周波数に依存する項 があり、式 1 のIDDO (D) (ダイナミック出力電流)で表されます。 この例での重要な点は、 IDDO と IDDI の値を求めるときは、各チャンネルに対して 別々の計算が必要です。 IDD1 と IDD2 の電源電流最終値は、IDDO と IDDI の個々の値の 和として計算されます。 容量負荷、ロジック周波数、電源電圧が大きくなると、電 源電流が増えます。 IDD2 (mA) IDDI (mA) 7.9 チャンネル D の場合: 最後に、IDD1 と IDD2 の値を式 3 と式 4 を使って計算します: 表2.図 6 の電源電流の計算 IDD1 (mA) IDDI = (0.19) × (2 × 20 − 1.1) + 0.50 = 7.9 mA IDDO = (0.05 + 0.0005 × 15 × 5) × (2 × 20 − 1.1) + 0.11 = 3.5 mA 次に、式 1 と式 2 を使ってIDDOとIDDIの値を計算します。この例 では、合計 8 個の中間計算があります。表 2は、これらの計算 結果をまとめるのに役立ちます。理論的には、16 個の計算があ りますが、8 個は適用外(NA)としています。これは、アイソレ ータの与えられた側のチャンネルは入力または出力であり、同 時に入力と出力になることはないためです。式 1 と式 2 を使う 中間計算とADuM1401 データ・シートのtyp値を使います。簡単 のため、データ・レートとすべてのチャンネル負荷は同じとし ます。これは常に成立することではありません。 IDDO (mA) チャンネル A、チャンネル B、チャンネル C の場合: IDDO = (0.03 + 0.0005 × 15 × 3) × (2 × 20 − 1.1) + 0.11 = 2.2 mA IDDO (mA) 2.2 IDDI (mA) 2.2 N/A N/A 0.1F 5V VDD2 VDD1 3V + + – 0.1F IDD1 – IDD2 VIA ENCODE DECODE VIA 15pF T1 40Mbps = 20MHz T2 VIB DECODE ENCODE VOB 15pF 40Mbps = 20MHz VIC ENCODE DECODE VOC 15pF 40Mbps = 20MHz VOD ENCODE DECODE VID 15pF GND2 GND1 ADuM1401 図6.ADuM1401 を使った電源電流の計算例 Rev. 0 - 6/7 - 05784-006 40Mbps = 20MHz AN-825 消費電力について 結論 総合消費電力 PD は、式 5 と式 6 に示すように Side1 の電力と Side2 の電力(P1 と P2)の和になります。 アイソレーション・デバイスとしての iCoupler の独自な性質か ら、電源条件、電源変化、電源電流、消費電力の詳しい理解が 必要となります。このアプリケーション・ノートで説明した内 容は、iCoupler アプリケーションでの電源の微妙さを理解するた めに役立ちます。これにより iCouplers の電源条件、消費電流、 消費電力について詳しい情報に基づく判断が可能になります。 PD = P1 + P2 (W) (5) PD = VDD1 × IDD1 + VDD2 × IDD2 (W) (6) 式 7 を使って、総合パッケージ温度上昇を計算します。iCoupler の内部構造が少し異なるため、Side1 と Side2 は異なる熱抵抗 ( θJCI と θJCO)を持っています。 TRISE = θJCI × VDD1 × IDD1 + θJCO × VDD2 × IDD2 (°C) (7) TRISE と TAMAX が与えられ、式 8 を使うと、次のように最大ジャ ンクション温度 TMAX を超えないことを確認する計算を行うこと ができます。 TAMAX + TRISE ≤ TMAX (°C) (8) 消費電力についてワーストケース条件を使った ADuM1401 の計 算例は次のようになります。 f = 90 Mbps、CL = 15 pF、VDD1 = VDD2 = 5.5 V、IDD1 = 82 mA、 IDD2 = 43 mA、θJCI = 33°C⁄W、θJCI = 28°C⁄W、TAMAX = +105°C。 TMAX は次のように計算されます。 P1 = 5.5 V × .082 A = 0.45 W P2 =5.5 V × .043 A = 0.23 W TRISE = (33 × 0.451 + 28 × 0.237) = 21.5°C TMAX = 105°C + 21.5°C = 126.5°C (規定値 150°C よりは可成り低い 値) デザイン基準で最大ジャンクション温度を 150°C 未満とするア プリケーションでは、最大安全周囲温度は、前の計算を逆向き に進めることにより求めることができます。この計算結果から、 与えられた電源値とデータ・レートで、TMAX の異なる値に対し て新しい TAMAX が求まります。これが、軍用、航空宇宙、また はその他の高信頼性アプリケーションで要求される信頼性ガイ ドラインに従うデザインになります。 ©2006 Analog Devices, Inc. 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