Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織

Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響
Effects of Microstructures on Magnetic Properties of Fe-Ni-Mo Semi-Hard Magnetic Material
横山 紳一郎*
森 英樹*
Shin-ichiro Yokoyama
Hideki Mori
半硬質磁性材料である Fe-20 mass%Ni-4 mass%Mo 合金の磁気特性と材料組織の関係を明ら
かにする目的で,この合金の磁気特性と組織に及ぼす冷間圧延率と熱処理温度の影響を調べた。こ
の材料の磁気特性は,冷間圧延率と熱処理温度に依存して変化し,圧下率 96 % の冷間圧延後に
500 ℃で 1 h の熱処理を行うことにより,B r:1.44 T,B r/B 8000:0.83,H c:2,089 A/m の高角
型比の半硬質磁気特性が得られた。500 ℃での熱処理後には,
(1)わずかな結晶方位変化を伴う
母相の回復,
(2)常磁性の逆変態オーステナイト相の生成,
(3)微細金属間化合物の析出,の 3 つ
の組織的因子が,磁 気特 性に複合的に関与することが示唆された。また,冷延率が増加すると,
500 ℃で熱処理時の金属間化合物の析出と bcc から fcc への逆変態が促進され,熱処理後の B r,
B r/B 8000 ,H c の値が増加した。
Effects of reduction in cold rolling and heat treatment temperatures on magnetic
properties and microstructures of Fe-20 mass%Ni-4 mass%Mo semi-hard magnetic alloy
were investigated in order to clarify the correlation between microstructures and magnetic
properties of the alloy. Magnetic properties varied depending on reduction and heat
treatment temperatures, and exhibited semi-hard magnetic property with high squareness
of Br : 1.44 T, Br/B8000 : 0.83 and Hc : 2,089 A/m by heat treatment at 500 ℃ for 1h after
cold rolling with high reduction of 96 %. It was suggested that three metallographic factors
of (1) recovery of matrix with slight change of texture, (2) formation of paramagnetic
austenitic phase, and (3) precipitation of a fine intermetallic compound, contributed to the
magnetic properties after heat treatment at 500 ℃ . In addition, the values of Br, Br/B8000 and
Hc increased with the increase of reduction in cold rolling due to enhancement of precipitation
of a fine intermetallic compound and reverse transformation from the bcc to the fcc phase.
● Key Word:半硬質磁性材料,高角型比,Fe-Ni-Mo
● Production Code:Fe-Ni-Mo semi-hard magnetic material
● R&D Stage:Research
化方向を一致させる必要があるとされており2),そのため
1. 緒 言
には高圧下の冷間圧延を施すことが有効とされている2)。
大型量販店における盗難防止を目的として,磁気センサー
また,半硬質レベルでの保磁力の調整には,磁壁の移動を
を用いた不正持ち出し監視システムが実用化されている1)。
妨げる必要があり,強磁性相中に常磁性相や微細析出物等,
このシステムは,商品にタグを取り付け,店舗の出入口に
異相の存在する組織とする必要があるとされている3)。こ
設置するゲートのセンサーと連動して動作するものであ
のような高角型比を示す半硬質磁性材料の一つとして,質
り,このタグの中にはレゾネータ(共鳴子)と呼ばれる軟
量比でFe-20 % Ni -(4∼6)%Mo合金(以下,mass%と示
磁性のアモルファス薄帯と,このレゾネータに磁場を与え
す)の磁気特性が,TiefelとJinによって1984年に報告され
るバイアス(励磁子)と呼ばれる半硬質磁性材料が用いら
ている4)。それによると,冷間加工→(α+γ)二相域での
れている1)。料金が正規に支払われた時のセンサーの誤作
熱処理→最終冷間加工→最終時効処理の工程を経ることに
動を防ぐ目的で,バイアスには着磁状態と脱磁状態の区別
よ っ て,B r:0.4∼1.6 T,H c:1,600∼17,600 A / m,B r /
が付きやすい高角型比の半硬質磁性材料が用いられている
B s:0.8∼0.99の高角型比の半硬質磁気特性が得られている
1)
。
4)
。しかし,この工程によってできる材料組織と磁気特性
高角型比の磁気特性を得るためには,着磁方向と容易磁
の関係についての議論は十分になされておらず,この組成
*
26
日立金属株式会社 特殊鋼事業部
日立金属技報 Vol. 29(2013)
*
Specialty Steel Division, Hitachi Metals, Ltd.
Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響
の合金で高角型比の半硬質磁性材料が得られる材料組織的
2
な理由は明らかになっていない。それ故,本研究の目的は,
Cold rolling 96 %→heat treatment T(℃)×1 h air cooling
Fe-20 mass%Ni- 4 mass%Mo合金の磁気特性に及ぼす冷間
(b)T=500
圧延率と熱処理温度の影響を系統的に明らかにし,磁気特
性と材料組織の関係を議論することである。
1
(a)As cold rolled
2. 実験方法
B(T)
(d)T=600
0
(c)T=575
Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo組成の合金の熱間圧
延材(板厚2.5 mm)に対し,830 ℃で1 h保持後に空冷す
−1
る溶体化処理を施して出発材とした。この出発材に対して
圧下率60∼ 96 %の範囲で冷間圧延を行った後,各冷延材
より各種の試験片を切り出し,425∼650 ℃の各温度に保
持したAr雰囲気炉中で1 h加熱後,空冷する熱処理を施し
−2
−8,000
−4,000
て評価に供した。
直流磁束計を用いて最大印加磁場8,000 A/mの条件で
B-H特性を測定し,
直流磁化曲線を得た。この磁化曲線より,
残留磁束密度B r,角型比B r /B8000と保磁力H cを決定した。
また,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,
以下,SEMと表記)により組織観察を行い,ビッカース硬
0
4,000
8,000
H(A/m)
図1 96 % 冷延材および冷延後に熱処理した Fe-20.13 mass%Ni4.14 mass%Mo 合金の磁化曲線
(a)冷延まま(b)500 ℃× 1 h(c)575 ℃× 1 h(d)600 ℃× 1 h
Fig. 1 B-H curves of 96 % cold rolled, and then heat treated
Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy
(a) as cold rolled (b) 500 ℃×1 h (c) 575℃×1 h (d) 600 ℃×1 h
度計により硬さを測定した。さらに,X線回折装置を用い
てX線回折図形を測定し,
検出されるbcc(110)
,
bcc(200)
,
Cold rolling 96 %→heat treatment T(℃)×1 h air cooling
bcc(211)
,fcc(111)
,fcc(200)
,fcc(220)
,fcc(311)の各
1.5 (a)
集積度を決定した。また,このI値を用いた強度平均法5)
により,次式(1)を用いて常磁性相であるfccのオーステ
ナイト量Vγ(%)を決定した。
Br(T)
回折ピークの積分強度Iを測定し,このI値から各方位の面
1.0
0.5
0
1.0 (b)
)
(1)
Vγ(%)=100×(ΣIfcc/Σ(Ibcc+Ifcc)
3. 実験結果と考察
Br/B8000
0.8
3.1 磁気特性と組織に及ぼす熱処理温度の影響
延材に図 1(b)500 ℃,図 1(c)575 ℃,図 1(d)600 ℃
A/mの高角型比の半硬質磁気特性が得られることがわか
6,000
Hc(A/m)
の500 ℃での熱処理後にBr:1.44 T,Br /B8000:0.83,Hc:2,089
0.4
0.2
図 1 は,図 1(a)圧下率96%の冷延材,および,この冷
の各温度で1 h熱処理後の直流磁化曲線を示す。図 1(b)
0.6
(c)
4,000
2,000
る。また,各磁化曲線の形状は,熱処理温度ごとに顕著に
異なっており,この材料の磁気特性が,大きな熱処理温度
依存性を持つことを示唆している。これらの各直流磁化曲
As(CR)
400
450
500
550
600
650
Heat treatment temperature(℃)
線から決定されるB r,B r /B8000,H cに及ぼす熱処理温度の
影響を図 2 に示す。Brは,冷延後に0.95 Tであるのに対し,
425∼500 ℃で熱処理後には1.36∼1.44 Tに上昇している。
熱処理温度がさらに高温になると,Brは,一旦低下して
575 ℃での熱処理後に最低値0.03 Tを示した後,600 ℃以
上で再び上昇している。角型比B r /B8000も,B rとよく似た
挙動を示している。また,H cは,冷延後に1,301 A/mであ
図 2 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 冷延材(圧下率 96 %)
の磁気特性に及ぼす熱処理温度の影響
(a)残留磁束密度 Br(b)角型比 Br/B8000(c)保磁力 Hc
Fig. 2 Effects of heat treatment temperatures on magnetic properties
of cold rolled Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy with
reduction of 96 %
(a) residual magnetic flux density, Br (b) squareness ratio, Br/
B8000 (c) coercive force, Hc
るのに対し,425 ℃で熱処理後には736 A/mまで低下し,
その後425∼525 ℃の範囲では,熱処理温度の高温化とと
を示した後,525∼575 ℃の範囲で低下,575∼600 ℃の範
もに上昇している。H cは525 ℃での熱処理後に4,226 A/m
囲で上昇,600∼650 ℃の範囲で低下し,熱処理温度とと
日立金属技報 Vol. 29(2013) 27
(a)
(b)
Cold rolled
Matrix
bcc→fcc
bcc→fcc→bcc
Amount of fine precipitates
Intermetallic
compound
10 μm
Recrystallization
Recovery
bcc
Fewer → Many ←
Fewer
10 μm
Cold rolling 96%→heat treatment T(℃)×1h air cooling
(c)
(d)
550 (a)
Hv
500
450
400
10 μm
10 μm
350
60
Vγ(%)
図 3 96 % 冷延材および冷延後に熱処理した Fe-20.13 mass%Ni4.14 mass%Mo 合金の SEM 観察組織
(a)冷延まま(b)500 ℃× 1 h(c)575 ℃× 1 h(d)600 ℃× 1 h
Fig. 3 SEM microstructures of 96 % cold rolled, and then heat treated
Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy
(a) as cold rolled (b) 500 ℃×1 h (c) 575 ℃×1 h (d) 600 ℃×1 h
(b)
40
20
0
図 3 は,図 1 に示した各磁化曲線の状態における組織の
SEM観察像を示す。図 3 中(a)の冷延96 %材では,圧延
方向に細長く伸ばされた圧延組織が観察されている。一方,
冷延後に熱処理を施した図 3 中(b)(d)では,冷延後と
比較して組織が微細に変化している。この内,図 3(b)の
500 ℃熱処理材には圧延方向に伸ばされた母相の形態を確
認することができるが,図 3(c)の575 ℃熱処理材と図 3
(d)の600 ℃熱処理材では,図 3(a)の冷延材に見られ
た圧延組織を識別することが難しくなっている。また,熱
処理材では微細な粒子が析出しているようにも見られ,そ
の量や大きさは,熱処理温度とともに変化している。すな
わち,磁気特性と同様に,組織も大きな熱処理温度依存性
を持つことが分かる。
この熱処理温度の変化に伴う材料組織の変化を定量的に
Texture of bcc(%)
もに大きく変化している。
80
60
40
(c)
(211)
(200)
20
0
(110)
As(CR)
400
450
500
550
600
650
Heat treatment temperature(℃)
図 4 96 % 冷間圧延した Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 合
金の硬さ,γ量と集合組織に及ぼす熱処理温度の影響
(a)硬さ(b)γ量(c)bcc の面集積度
Fig. 4 Effects of heat treatment temperatures on hardness, Vγ and
texture of 96 % cold rolled Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo
alloy
(a) hardness (b) Vγ (c) texture of bcc
把握するため,硬さHv,オーステナイト量Vγ(%)とbcc
(マルテンサイト)の面集積度に及ぼす熱処理温度の影響
方で,
(211)は,575 ℃までは低下した後,600 ℃以上の
を図 4 に示す。硬さは,熱処理温度に対して逆V字型の熱
温度で増加している。このことから,bccの面集積度は,
処理温度依存性を示しており,
冷延後のビッカース硬さ(以
575 ℃を境に大きく変化することがわかる。575 ℃で熱処
下,Hvと表記)378に対し,425 ℃での時効処理後には
理後の図 3(c)の組織において,
圧延組織の識別が難しく,
Hv459まで高硬度化し,以後,475 ℃で最高硬さHv498を
組織が微細化していることから,575 ℃での面集積度の変
示した後に熱処理温度とともに軟化している。この475∼
化は,母相の再結晶が始まった結果,圧延集合組織から再
525 ℃で熱処理後の高硬度化は,金属間化合物の析出硬化
結晶集合組織へと優先方位が変化するためと考えられる。
によると考えられ,Fe-18 mass%Ni-5 mass%Mo合金の時
また,常磁性のfcc相(γ)は,冷延後および425∼450
効析出挙動について調べたSpeich6)
℃での熱処理後には存在しておらず,475 ℃以上での熱処
Ni3Moが析出していると思われる。最高の硬さとなる475 ℃
理によって生成している。475 ℃以上でのγ量は,逆V字
付近では,微細な金属間化合物の析出量が多いと考えられ
型の温度依存性を示しており,575 ℃までは熱処理温度の
る。
高温化とともに増加し,575 ℃での熱処理後に最高値48.7
一方,母相であるbcc相の面集積度に着目すると,
(110)
%を示した後,さらに高温側では低下している。このこと
の集積度は熱処理温度を変えてもほとんど変化せず,ゼロ
から,475 ℃以上の温度ではbcc→fccの逆変態が起きるが,
近傍の値を示しているが,
(200)と(211)の集積度は,
熱処理温度が575 ℃を超えて生成した逆変態γ相の再結晶
の研究結果と併せると,
500 ℃以上の範囲で,熱処理温度とともに変化している。
が 始 ま る と, 冷 却 中 の マ ル テ ン サ イ ト 変 態 開 始 温 度
(200)は,熱処理温度の高温化とともに単調に低下する一
(Martensite start temperature, 以下,M s点と表記)が
28
日立金属技報 Vol. 29(2013)
Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響
上昇して,冷却中にfcc→bccの変態が起こった結果、逆変
る。換言すれば、圧下率96 %の冷間圧延後に行う500 ℃で
態γ相の不安定化が起きると考えられる。熱処理温度の高
の熱処理には,母相の回復,逆変態オーステナイトの生成,
温化に伴う逆変態γ相の不安定化現象については,Fe-Cr-
金属間化合物の時効析出,の3つの材料組織的な意味があ
Ni系の準安定オーステナイト系ステンレス鋼においていく
ると言える。
つかの報告がされているが 7)∼9),これらの報告では,γ化
温度が750∼1,100 ℃,γ粒径が2∼115 μmの範囲での結
3.2 磁気特性と組織に及ぼす冷間圧延率の影響
晶粒成長に伴うMs点の上昇について述べている。しかし
図 5 は,冷延後,および冷延後に500 ℃で1 h熱処理後の
ながら,図 4 のようにγ化する熱処理温度が575∼650 ℃
磁気特性に及ぼす冷延率の影響を示す。Br,Br/B8000,Hcの
と低く,また,図 3 のように結晶粒径を特定できない程の
各特性値は,冷延ままの状態では冷延率が変化しても,あ
亜結晶粒域においては,結晶粒成長によるM s点の上昇は考
まり変わらないが,500 ℃での熱処理後には冷延率の影響が
え難い。それ故,575 ℃以上の熱処理温度でのγ相の不安
顕著に現れており,高冷延率材ほど高い値を示している。
定化の要因としては,
(1)金属間化合物の析出によるγ相
1.8
理温度の高温化によりγ相中の格子欠陥が除去されると,
1.6
マルテンサイト変態時のせん断変形の障害が減る結果,せ
1.4
ん断エネルギーに要するエネルギーが低下すること10),お
よび(3)熱処理温度の高温化により,冷却時のマルテン
Br(T)
中のNi濃度とMo濃度の低下によるM s点の上昇,
(2)熱処
0.8
0.9
Br/B8000
先述したように,この硬さの変化は,金属間化合物の析出
0.7
0.5
3,000
合物がB rとB r /B8000に及ぼす影響は大きいと考えられる。
併せて,この温度範囲では母相の回復も起きていると考え
2つの組織的因子が影響していると考えられる。また,450
(c)
Hc(A/m)
が生じる要因として,金属間化合物の析出と母相の回復の
(b)
0.8
0.6
によると考えられることから,微細析出物である金属間化
られるので,冷延材と425∼450 ℃での熱処理材のB rに差
As cold rolled
1.0
図 2 と図 4 から,磁気特性と材料組織の関係に着目する
挙動は,同じ熱処理温度範囲での硬さの挙動と似ている。
Cold rolling→500 ℃×1 h air cooling
1.2
サイト変態の駆動力が増加すること11)などが考えられる。
と,冷延後および425∼450 ℃で熱処理後のBrとBr /B8000の
(a)
2,000
1,000
∼500 ℃の範囲でのBrの変化は,1.36から1.44 Tとわずか
であるが,この範囲では常磁性相である逆変態γの影響も
現れ始めると考えられる。さらに500 ℃以上の温度で熱処
60
70
80
90
100
Reduction in cold rolling(%)
理後のB rは、Vγ と裏返しの関係となっており,またbcc
(211)集積度の挙動とも似ている。よって,500 ℃以上の
熱処理温度でB rとB r /B8000に影響を及ぼす組織因子は,Vγ
と結晶方位が支配的であると考えられる。
一方、熱処理温度の変化に伴うH cの変化に着目すると,
425 ℃で熱処理後のH cが冷延後より低い原因は,母相の回
復により母相内の転位密度が減少して,磁壁が移動しやす
図 5 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 合金の磁気特性に及ぼ
す冷間圧延率の影響
(a)残留磁束密度 Br(b)角型比 Br/B8000(c)保磁力 Hc
Fig. 5 Effects of reduction in cold rolling on magnetic properties of
Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy
(a) residual magnetic flux density, Br (b) squareness ratio, Br/
B8000 (c) coercive force, Hc
い状態になるためと思われる。その後,425∼475 ℃では
また,図 6 は,冷延後,および冷延後に500 ℃で1 h熱処
微細析出物である金属間化合物の時効析出,475∼525 ℃
理後の硬さ,Vγ(%)とbccの面集積度に及ぼす冷延率の
では金属間化合物と常磁性相であるVγ の増加によって,
影響を示す。硬さは,冷延後,熱処理後のいずれの状態に
H cが増加すると考えられる。また,高温側の525∼575 ℃
おいても,冷延率の増加とともに上昇しているが,冷延率
では,Vγ の変化によってH cが変化し,さらに高温側の575
60 %材では冷延後(Hv336)と熱処理後(Hv417)の硬さの
∼650 ℃では,Vγの変化と併せて,母相の再結晶によって
差がHv 81であるのに対し,冷延率96 %材では,冷延後
も,Hcが変化すると考えられる。
よって,図 1 ∼2 において,高B rと高角型比の半硬質磁
(Hv378)と熱処理後(Hv484)の硬さの差がHv106まで広
がっている。また,冷延後のVγ は,いずれの冷延率の材
気特性が得られる500 ℃での熱処理後には,
(1)わずかな
料においても0 %であるが,熱処理後のVγは,冷延率60 %
結晶方位変化を伴う母相の回復,
(2)常磁性相である逆変
材で1.2 %,冷延率96 %材で6.3 %と冷延率とともに増加して
態γ相,
(3)微細析出物である金属間化合物,の3つの組
いる。このように熱処理後の硬さとVγに冷延率依存性が
織的因子が,磁気特性に複合的に関与していると考えられ
ある要因は,冷延率の増加により金属間化合物の時効析出
日立金属技報 Vol. 29(2013) 29
4. 結 言
600
(a) Cold rolling→heat treatment 500 ℃×1 h air cooling
(1)Fe-20 mass%Ni-4 mass%Mo 合金の磁気特性は,冷
500
Hv
間圧延率とその後の熱処理温度に依存して変化する。
冷延率 96 % の冷間圧延後に 500 ℃で 1 h の熱処理を行
400
300
Vγ(%)
10
うことにより,B r:1.44 T,B r/B8000:0.83,H c:2,089
As cold rolled
A/m の高角型比の半硬質磁気特性が得られた。
(b)
(2)熱処理温度が 425 ∼ 650 ℃の範囲で変化すると,組
織形態,硬さ,結晶方位、逆変態オーステナイト量が
5
変化し,これらの組織的因子の変化に伴って磁気特性
が変化する。高角型比が得られる 500 ℃での熱処理後
0
Texture of bcc(%)
(c) As cold rolled Cold rolling→500 ℃×1 h air cooling
80
(110)
(200)
(211)
には,僅かな結晶方位変化を伴う母相の回復,逆変態
オーステナイト,金属間化合物の 3 つの組織的因子が,
(110)
(200)
(211)
磁気特性に複合的に関与することが示唆された。
60
(3)熱処理前の冷間圧延率が増加すると,500 ℃で熱処
理後に高 B r,高 B r /B8000,高 H c が得られる。この磁
40
気特性の変化には硬さと逆変態オーステナイト量の増
加が伴っており,冷間圧延率が増加すると,500 ℃で
20
熱処理時の金属間化合物の析出と bcc → fcc の逆変態
0
60
70
80
90
100
Reduction in cold rolling(%)
が促進されることが示唆された。
本研究により,Fe-20 mass%Ni- 4 mass%Mo合金で高角
型比の半硬質磁気特性を得るための材料組織についての知
図 6 Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo 合金の硬さ,γ量と集
合組織に及ぼす冷間圧延率の影響
(a)硬さ(b)γ量(c)bcc の面集積度
Fig. 6 Effects of reduction in cold rolling on hardness, Vγ and texture
of Fe-20.13 mass%Ni-4.14 mass%Mo alloy
(a) hardness (b) Vγ (c)texture of bcc
サイトとbcc→fccの逆変態の駆動力が増加するためと考え
られる。
一方,冷延後のbccの面集積度は,冷延率の増加ととも
に変化しており,
(100)は減少する一方で,
(200)と(211)
は増加している。しかし,このような結晶方位の変化が起
きていても,図 5 に示すように,冷延後の磁気特性は,ほ
とんど変化していない。さらに,この面集積度は,冷延後,
熱処理後ともによく似た挙動を示しており,冷延後と熱
処理後での明確な結晶方位差は認められない。それゆえ,
図 5 に示した高圧下の冷間圧延が熱処理後の磁気特性の発
現に対する役割は,圧延による集合組織の形成よりもむし
ろ,上述した金属間化合物の時効析出とbcc→fccの逆変態
を促進させることにあると考えられる。
30
日立金属技報 Vol. 29(2013)
見が得られた。今後,この知見を活かし,レアメタルであ
るNiやMoの含有量を減らした省資源型の半硬質磁性材料
を開発する所存である。また,盗難防止タグ以外の新たな
用途の開発にも注力していく所存である。
Fe-Ni-Mo 系半硬質磁性材料の磁気特性に及ぼす材料組織の影響
引用文献
横山 紳一郎
Shin-ichiro Yokoyama
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of AIME, 227(1963)p.p.1426-1432
7)藤倉正国,加藤哲男:鉄と鋼 64(1978)p.p.1179- 1188
8)竹内桂三,杉浦慎也,片山義唯,乾勉:日本金属学会会
報 36(1997)p.p.358 - 360
9)乾勉.砂川淳:日立金属技報 13(1997)p.p.33 - 36
10)西山善次 著:
「マルテンサイト変態 基本編」丸善(1971)
p.221
11)尾崎良平,長村光造,足立正雄,田村今男,村上陽太郎 著:
「金属材料基礎学」朝倉書店(1978)p.p.125 -126
特殊鋼事業部
安来工場
博士(工学)
森 英樹
Hideki Mori
日立金属株式会社
特殊鋼事業部
安来工場
日立金属技報 Vol. 29(2013) 31