長尺・高速伝送FPCを開発

長尺・高速伝送FPCを開発
− 従来比10倍の製品長(3m)を実現 −
栗原 繁
画像処理装置をはじめ、デジタル機器の高速化は進む
一方にある。高速化は、周辺機器とインタフェースを含
めたシステムを構成する線路の伝送特性によって実現さ
れる。
沖電線の高速伝送FPC(フレキシブルプリント配線板)
は、各分野・用途での採用実績を持ち、機器の高速化と
3層構造品
軽薄化に貢献している。しかし、従来の製品長は、0.3m
以下であり、大型機器やインタフェースの配線路として
は短いという課題があった。
片面構造品
『長尺・高速伝送FPC』は業界で初めて、FPCの高速
伝送を最長3mに進化させた製品である。本製品であれば、
大型機器やインタフェースの高速化と軽薄化、高機能化
への貢献が可能である。以下に本製品を紹介し、さらに
写真1 長尺高速伝送FPC
次世代の高速化に向けた伝送品質の向上への取り組みを
説明する。
製品の特長
両面構造品
長尺・高速伝送FPCの特長を以下に示す。また特徴的
な製品例を写真1∼写真3に示す。
写真2 HDMI1.3
(Cat.2)対応FPC
① 任意のインピーダンス整合
差動(ディファレンシャル)伝送路、シングルエンド
路であっても、任意の整合が可能である。
たとえば、差動98Ω,85Ω、シングルエンド55Ω,
67Ωなど、システムとのバランスを考慮した設計が可能
である。
② 用途に応じた構造設計
図1の構造例に示した基本構造に、配線パターン,シー
ルドなど、用途に応じた多様な構造設計が可能である。
③ EMC対策
各種のシールドパターンおよびシールド材によるEMC
対策の提案が可能である。
写真3 極細長尺FPC
④ 軽薄化と高密度配線
軽薄化と高密度化において、FPCは他の配線部材に比
べて圧倒的な優位性を有する。
極薄化については、片面構造であれば50μm、両面構
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表1 画像処理装置の市場予測 GND
+
−
GND
+/−:差動信号
GND:グランド
片面構造
(コプレナー)
GND
+
−
GND
2010年予測
2006年
対06年比
処理装置(5品目)
615億円
815億円
132.50%
産業用カメラ
(2品目)
253億円
304億円
120.20%
検査アプリケーション(21品目)
1,800億円
2,341億円
130.10%
セキュリティ
(10品目)
1,185億円
1,651億円
139.4%
車載・ITS(5品目)
212億円
399億円
188.2%
医療関連(5品目)
1,586億円
1,786億円
112.6%
合計
5,650億円
7,296億円
129.1%
GND
出典:富士経済 https://www.fuji-keizai.co.jp/market/07083.html
両面構造
(マイクロストリップ)
比29.1%)に成長すると予測し、さまざまな業種・用途
GND
で幅広く需要が高まり、特に車載・セキュリティ・用途
GND
+
−
GND
が伸びると予測する。また、画像処理装置は、電機業界
から食品業界まで、さまざまな業種・用途で幅広く需要
GND
が高まるとまとめている。
3層構造
(ストリップ)
図1 長尺高速伝送FPC
構造例
画像処理装置の動向
造で150μm厚みでの製品化が可能である。
高密度配線については、180μmピッチ(最小)の高密
度配線が可能である。
画像処理装置とは、カメラなどの画像を活用してパター
ンマッチングで対象物を確認・検査を行うことや、位置
測定を行うことを指す。
先の調査レポートに基づき、この分野の動向と課題を
⑤ 高屈曲性(高耐久性)
紹介し、本製品の貢献範囲を示す。
屈曲性は、FPCでなければ、不可能な耐久性の実現が
この分野においては処理装置、産業(FA)カメラ、検
可能となる。他の配線部材では考えられない微小R可動
査アプリケーションを組み合わせたシステムの採用が一
で、驚異的な屈曲寿命を実現できる。たとえば、屈曲半
般化しつつあるとし、製造ラインの設計に必ず画像処理
径1.5mmで1億回以上の屈曲寿命を実現できる。
の導入が検討される傾向が続くとしている。デジタル化
(高速化)やソフトウエア技術の進化によってアプリケー
⑥ 狭スペースへの組み込み性
FPCは ④ 項で示した通り、極薄のフィルム製品である。
ションの拡大が見込まれ、多様な新画像装置の提供やビ
ジネスが生まれるとも予測する。検査アプリケーション
折り曲げることや折り畳むことが可能な製品である。た
では、小型ロボットに、画像カメラを搭載した検査シス
とえば、0.1Rでの折り曲げも可能である。折り曲げや折
テムが採用されている。画像装置は、ロボットの稼動速
り畳みを行うと必ず、元に戻ろうとする反力が生じる。こ
度にマッチする処理速度が必要となる。
の反力を極めて小さく抑えた高柔軟対応も可能である。
セキュリティ分野は、モニタリングが中心で監視カメラ
FPCは狭スペースでの組み込み性に優れる製品であり、機
が市場を牽引している。最近は、バイオメトリクスをは
器の軽薄小型化に貢献できる。
じめとする画像処理を活用したシステムの構築が進み、単
一機能のセキュリティシステムから勤怠管理などと連動
させる動きが画像処理技術の採用を後押ししている。ま
ターゲット分野と市場
現在、高速化と共に軽薄小型化および高機能化が進む
市場は画像装置分野であり、本製品が最も貢献できる分
野と考える。
た、セキュリティ分野も画像伝送のデジタル化と小型化
が進んでいる。
車載・ITS分野では、バックモニタ用の車載カメラが今
後も主力であり、カーナビの標準搭載が行われれば需要
富士経済による画像処理装置分野の市場調査結果1)を
拡大が見込まれる。また画像認識用途の車載カメラの拡
表1に示す。この調査は、産業(FA)分野の画像処理装
大も見込まれている。運転支援に留まらずドライバー認
置を中心にセキュリティ、車載などを含めた6分野を市場
証や居眠り検知といった用途への展開も期待できる。車
としてまとめている。市場は2010年で7,296億円(06年
載分野の装置には高い信頼性と耐環境性が要求される。
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医療分野では、医用X線装置が伸び悩む中、FPD搭載モ
デルが消火器系だけでなく泌尿器、整形外科など多目的
の差動ラインが100±5%以内で制御されていることが確
認できる。
に使用が可能で採用が検討されている。MRIは欧米で主
流の高磁場型製品の需要が国内でも高まり、大規模病院
② 挿入損失(IL)
を中心に採用が進んでいくと見られる。高機能でPET/
ポリイミド材の片面構造品と両面構造品および上位グ
CTは保険適用と検診範囲の拡大で伸びが期待される。眼
レード材料である液晶ポリマー材の両面構造品の挿入損
底カメラもデジタル化が進行しており健康診断・特定保
失(IL)データを図3に示す。
険指導などで底固い推移が予測される
3GHz帯域まで、いずれの構造品であっても使用に問題
各分野共通の課題は、大容量の情報を『より美しく、よ
はない。以下に各構造の相違点を説明する。まず、ポリ
り速く』伝える技術革新である。また、配線部材に要求
イミド材で比較すると、片面構造品が低損失であること
されるのは高速化と軽薄化・小型化と高機能化に伴う高
が分かる。この結果は、片面構造品の線路の断面積が大
密度化への進化である。この技術動向は、今後ますます
きく、導体損が小さいことに起因する。片面構造品は線
加速することが予測される。
路の断面積が1.4×10-2mm2であるの対し、両面構造品の
本製品は、これらの画像処理装置が取り組まなければ
ならない課題解決に貢献できる新たな配線部材である。
線路の断面積は4.8×10-3mm2である。薄板であるFPCの
両面構造品は、図1に示した断面構造をとるため、裏面
GNDの影響を大きく受ける。線幅を細くしないとインピー
ダンス整合ができない。一方、片面構造品には、裏面GND
長尺高速伝送FPCの伝送特性
が存在しないので、同一面の隣接GND線とインピーダンス
本製品の伝送特性を以下に示す。
整合を行うため、線幅を太く設計することが可能である
からである。
次に、ポリイミド材と液晶ポリマー材の両面構造を比
① 特性インピーダンス
高速伝送路の基本はインピーダンス整合にある。配線
較すると、液晶ポリマー材が低損失であることが分かる。
板であるFPCは、回路をフォトリソ工法により形成する
この結果は、液晶ポリマーが誘電体損の少ない材料であ
ため、高精細・高精度のインピーダンス整合が実現できる。
ることに起因している。しかし、液晶ポリマーは高価で
Zo±5%の確保も可能である。また、回路の被覆は熱硬
ある。
化樹脂で行うため、折り曲げや屈曲に際しても構造が一
定であり、インピーダンスは殆ど変動しない。基材は高
0
-5
耐熱性(300℃≦)のポリイミドフィルムであるため、熱
環境においてもインピーダンス変動は少ない。
図2は、HDMI 1.3 Cat.2規格(3.4Gbit/s)対応FPC
のインピーダンス(差動100Ω)測定データである。全て
Differential TDR
(Params) : t(s)
120.0
par(tdr_diff)
par(tdr_diff)
115.0
par(tdr_diff)
110.0
[dB]
-10
-15
ポリイミド材片面構造
-20
-25
-30
液晶ポリマー材両面構造
ポリイミド材両面構造
-35
-40
-45
-50
0.1
par(tdr_diff)
1
[GHz]
2
3
4
5
10
(Params)
105.0
図3 長尺高速伝送FPC
100.0
伝送損失
(IL)
95.0
長尺高速伝送FPCは、用途,特性および価格バランス
90.0
に応じて、多様なバリエーションからの製品選定が可能
85.0
である。
80.0
0.0
2n
4n
6n
t(s)
8n
10n
12n
14n
図2 長尺高速伝送FPC インピーダンス
(差動100Ω)
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③ アイパターン
図4に、ポリイミド材両面構造品のアイパターンデータ
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CLK
hex_MASK
0.2
0.1
0.1
(H)
DataX=222p
eye((ch1-ch3))
しかし、高速要求と技術は進化の方向のみに進む。こ
DataX=222p
-0.1
-0.2
-0.2
高速伝送FPCで、次世代規格をクリアするには更なる伝
送品質の向上が必要になる。
-0.3
-0.4
0.0
222p
666p
444p
-0.4
0.0
888p
222p
time(s)
666p
888p
DATA2
(H):time(s)
hex_MASK
0.3
eye((ch1-ch3))
0.2
0.1
0.1
(H)
最後に、次世代規格への特性改善へのアプローチ例を
示す。FPCは部品実装が可能な製品である。長尺高速伝
DataY=0.15
0.0
DataX=222p
送FPCにリピータを実装することで、次世代規格を満足
DataX=222p
-0.1
-0.1
-0.2
-0.2
-0.3
する製品長を2m以上とすることが可能になる。このアプ
-0.3
-0.4
0.0
-0.4
222p
444p
666p
888p
沖電線は、今後も技術革新と市場ニーズに呼応する製
品開発を進め、市場の発展に貢献していく所存である。
hex_MASK
0.3
0.2
DataY=0.15
(H):time(s)
0.4
eye((ch1-ch3))
0.0
444p
time(s)
DATA1
0.4
(H)
れは高速化の動向からも明らかである。0.6m以上の長尺
DataY=0.15
0.0
DataY=0.15
-0.1
-0.3
ハウと製造ノウハウによって実現できた。
hex_MASK
0.3
0.2
0.0
(H):time(s)
0.4
eye((ch1-ch3))
0.3
(H)
DATA0
(H):time(s)
0.4
0.0
222p
time(s)
666p
444p
888p
time(s)
図4 長尺高速伝送FPC
ローチは、他の配線部材にはできない方法であり、FPC
の優位性を示す例でもある。
アイパターン
を示す。アイパターンの測定ダイヤグラムの中に示した
マーキングがHDMI規格を示し、測定ダイヤグラムがマー
キングに掛かるとNGと判定される。本製品の測定データ
は規格を示す開口マーキングに対して、十分のマージン
を有した開口を示しており、良好な特性であることが分
かる。
◆◆
■参考文献
1)株式会社富士経済マーケット情報,
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/07083.html
●筆者紹介
栗原繁:Shigeru Kurihara. 沖電線フレキシブルサーキット株式
会社 製品技術課
高速化の動向
画像処理装置の高速化要求は加速する一方である。現
在、画像処理装置のインタフェース規格は、次世代規格
への変革期にある。図5に規格の動向を示す。この図から
も高速化の推移と近年での加速性が分かる。
9
HDMI
(信号線1対)
データ伝送(転送)速度(Gビット/秒)
8
7
USB
6
IEEE1394
5
4
PCI Express
(1レーン)
3
Serial ATA
2
SSD
(シーケンシャル
読み出し速度)
1
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010(年)
出典:日経エレクトロニクス No.998,p.41,2009年
図5 次世代インタフェース動向
今後の展開
本製品は、2Gbit/s伝送が3mまで可能である。高速伝
送FPCの長尺化(従来比10倍)は、沖電線の設計ノウ
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