部品グリーン調達支援

部品グリーン調達支援
江森 雄二 高貫 智久
金井 善明 春日 伸一
グリーン調達とは、資材や部品を調達する際、環境負
表1 ハロゲン含有量閾値
単位 ppm
荷の低いものから優先的に選択することである。したがっ
て、調達に先立ち、部材に含まれる含有物質が特定され
ており、またそれらの情報が管理されていることが必要
である。今回紹介する有害物質分析、含有物質情報管理
システム、部品認定業務はよりスムーズで正確なグリーン
調達を支援することを目的とした技術である。
有害物質分析
(1)有害物質とは
日本電子回路工業会
(JPCA)
国際電気標準会議
(IEC)
米国電子回路協会
(IPC)
塩素
臭素
塩素+臭素
900
900
1500
900
900
1500
900
900
1500
(3)分析方法
燃焼フラスコ法は、試料を酸素雰囲気中で燃焼させ、分
有害物質と一言でいっても、人間に対する有害性を持
解発生したガスをアルカリ性水溶液に吸収させ、得られ
つもの、環境に対して有害性の持つものなど数限りなく
た水溶液中の塩素イオンや臭素イオンの濃度をイオンク
存在する。
ロマトグラフ法で定量的に測定する。
近年ではRoHS指令(電子・電気機器における特定有害
物質の使用制限についての欧州連合(EU)による指令)
REACH規則(欧州連合における人の健康や環境の保護の
為の法律)などに代表される、特定の有害物質の含有量
について閾値を定めて管理をしている法律がある。
最近は発がん性物質に変化しやすいハロゲンの含有が
問題視され、樹脂材料などに使用される難燃剤などは脱
ハロゲン化が進んでおり、分析依頼が増加している。
当社では、燃焼フラスコ法を採用し難燃剤を強制酸化
分解後抽出しイオンクロマトグラフ法により分析評価す
る手法を確立している。
(2)ハロゲンフリー分析
ハロゲンフリー分析とは、部材中のハロゲン物質の含
有量がある閾値以下であることを確認することをいう。ハ
ロゲンとは元素名でフッ素(F)・塩素(Cl)・臭素
写真1 燃焼フラスコ
(Br)・ヨウ素(I)・アスタチン(At)の総称で、ハロ
ゲンフリー分析の場合、一般的には塩素・臭素の量を測
① 燃焼フラスコ法による前処理
定する。それぞれの閾値は表1のとおりで、国内いずれの
燃焼フラスコは写真1のように二分割できるフラスコの
規格も塩素単体・臭素単体でそれぞれ900ppm未満であ
上方に酸素パージ用の枝管と、吸収液を注加するために
り、かつ塩素量と臭素量の合計が1500ppm未満である。
秤量目盛をきった検量カップ付コックがついており、ま
分析方法は、燃焼フラスコ法・ボンベIC法・蛍光X線分
析などいくつかあるが、本稿では燃焼フラスコ法につい
て説明する。
たフラスコ内にはプラチナ製の吊り下げカゴがついている。
試料を適量分取し、正確に秤量したものを火種となる
ろ紙などに包み吊り下げカゴに載せる。酸素用コックか
らフラスコ内に酸素で十分満たす。
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OKIテクニカルレビュー
2010年4月/第216号Vol.77 No.1
ものづくりを支える部品技術特集 ●
Br−
0
SO42−
8.917
5.647
6.529
Cl
25
NO3−
7.891
NO2−
−
11.874
電 50 mVCDD-10Asp
導
度
-25
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
13.0
min
保持時間
図1 イオンクロマトグラム
吊り下げカゴの先は電圧印加できるようになっており、
酸素でフラスコ内部を満たした後、吊り下げカゴに電圧
を印加することによりカゴは発熱し、内部が酸素で満た
されているため、試料は激しく燃焼する。試料に含有し
ていた塩素化合物や臭素化合物は、燃焼により酸化分解
し、ガス状の塩素イオンや臭素イオンが発生する。
このときフラスコ内部は燃焼分解ガスの発生と燃焼に
よる内部温度上昇で、内圧が何倍にもなる。内圧上昇に
よりフラスコが破損する恐れがあるため、樹脂製カバー
をかぶせて、万一のフラスコ破裂に備える。
燃焼が終わったことを目視で確認し、氷水浴でフラスコ
写真2 イオンクロマトグラフ外観
を冷却する。吸収液をフラスコ内部に注加し、発生した
ガスが吸収液に吸収されるまで数時間放置する。
その後、吸収液を取り出し分析試料の完成となる。
② イオンクロマトグラフ法による分析
できる。
(5)まとめ
ここではハロゲンフリー分析例を紹介したが、当社で
イオンクロマトグラフ法は、水溶液試料をイオン交換
はハロゲンフリー分析の他にも、RoHS分析、REACH分
樹脂に通水させ、目的となるイオン成分を分離、検出す
析などの有害物質分析や、環境関連分析など、化学的評
る方法である(写真2)。縦軸が検出器強度(電導度検出
価に関することを幅広く行っている。化学的評価でお困
器なので電導度)で横軸が保持時間(装置に注入してか
りのことがあれば、是非ご相談いただきたい。
らの時間)のチャート(イオンクロマトグラム)が得ら
れる。
得られたイオンクロマトグラムに示されるピークは、た
とえば、塩素イオンであれば必ず同じ保持時間に溶出する。
既知濃度の塩素イオンピーク面積と試料の塩素イオン
ピーク面積の比から、イオン成分濃度を算出する。
③ 含有物質量の算出
秤量した試料分取量、吸収液の注加量、ガス吸収後の
吸収液分取量、そして水溶液中の目的となるイオン成分
濃度から、試料中の量を算出する。最終的に単位は『重
量ppm』となる。
(4)その他
製品含有化学物質情報システム
RoHS指令、REACH規則に代表されるように化学物質
の管理における規制は急速に高度化している。
それに伴い、企業における化学物質情報管理も複雑さ
を増している。
特 に 、2 0 0 7 年 6 月 に 施 行 さ れ た R E A C H 規 則 は 、
2011年6月までに対応を完了しなければならない緊急
課題である1)(表2:次ページ)
。
(1)効率的な化学物質情報収集と管理
スピードが求められる開発・製造現場においては、含有
化学物質の効率的な情報収集と管理が不可欠になっている。
図1のイオンクロマトグラムをみると塩素イオンや臭素
OKIグループでは、REACH規則に対応するため、いち早
イオンのほかに亜硝酸イオン、硝酸イオン、および硫酸
く業界標準フォーマットを採用し、さらに情報収集と管
イオンなどが溶出しているのがわかる。
理を専任化することで、高効率、高品質の管理体制を構
これらを応用して、試料中の硫黄化合物量なども把握
築している2)。
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表2 化学物質情報管理の変遷
グリーン購入法:OKI独自フォーマット
・部材の化学物質含有量の管理
1998年
2008年
調査データのクレンジング(エラーチェック)
●
調査進捗管理と未調査データに対する調査依頼
● 設計評価プロセス
RoHS指令:業界標準JGPSSI-Ver3フォーマット
・部材のRoHS対応状況
・均質材料による最大濃度管理
・部位毎の濃度管理
・証明書管理(不使用証明書など)
・分析データ
(ICP/蛍光X線)
2004年
●
REACH規則:業界標準JAMP-AISフォーマット
・SVH総含有量管理(最大1,500物質)
●
構成情報登録/編集/連結
●
自社設計品の含有化学物質データ登録
●
製品の含有化学物質データの評価
● 製品情報報告プロセス
●
製品(捕材、梱包材を含めた)の含有化学物質データ
の評価
含有化学物質の調査業務においては、メーカーからの
●
REACH判定とEUへの届出
回答内容の不備が非常に多く、再調査を余儀なくされて
●
川下企業/EU消費者への製品情報提供
いるのが実情である。そこで当社では専任チームが作成
した独自のチェックシートを活用し、データの品質向上
を図っている(図2)
。以下にチェック項目の一例を示す。
調査部門
調査先
①調査部品の選定
②調査票作成
③調査票送付
⑤受取確認連絡
チェックシートの活用に
よりデータ品質を確保
④調査票/基準書受領
⑥問合せ
⑦督促
⑨回答受領
⑧回答記入
図3 COSMOS-R/Rの概要
⑪COSMOS-R/R登録
⑩調査票回答確認
⑫進捗管理
(3)まとめ
以上のように、当社では本業務で培ったグリーン調達/
図2 化学物質含有量の調査フロー
化学物質管理ノウハウを基盤とし、グリーン調達調査代
行およびCOSMOS-R/Rの外販ビジネスに取り組んで
【JGPSSI-Ver3調査時のデータチェック内容(抜粋)
】
いる。
1)依頼型番と回答型番が異なっていないか
部品認定業務
2)全ての化学物質含有量の総和が部品の重量を超えてい
電子部品の新規採用認定には、RoHS、REACH、
ないか
3)RoHS対象部品であるにもかかわらず、Pb-J-99、
Pb-J-0などが回答されていないか
4)高融点はんだ(85wt%を超える)の使用用途で回答さ
れているが、鉛含有量が85wt%以下となっていないか
5)抵抗部品の鉛(適用除外)含有が漏れていないか
・・・レンズ部品の鉛(適用除外)含有が漏れてい
ないか等
(2)COSMOS-R/Rの活用
つつある。これら要求に取り組むため、
「OKIグリーン調
達基準」が2009年に改定され推進が求められている。
RoHSの取り組みはすでに推進されており、新規採用に関
しては認定時にREACH、PFOS対応品かを確認していく。
以下採用部品認定の現状と環境施策について述べる。
(1)OKIにおける新規採用部品認定
購入電子部品類の採用・管理は、全社統一の部品管理
高度化する化学物質管理に対応するため、OKIグループ
コードで管理し、部品技術情報システム(以下PIE)に
では、COSMOS-R/Rを開発し、運用している(図3)。
データベース化している。PIEには定格特性、はんだ条件
このシステムにより、RoHS指令、REACH規則への対応
など製造に関する情報の他に、環境対応可否、事故事例
業務が飛躍的に効率化できる。
などの品質情報も登録されている。当社ではPIE情報のメ
【COSMOS-R/Rにより効率化された業務プロセス】
● 化学物質情報収集プロセス
●
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PFOSなどの環境規制に対応した部品の選定が必須となり
購入品の含有化学物質データ調査と登録
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2010年4月/第216号Vol.77 No.1
ンテナンスを行い、推奨部品の提案や使用禁止部品の公
開をし、OKIグループ全体で共有、設計者に有効活用され
ている。
ものづくりを支える部品技術特集 ●
新規採用に関しては、図4に示す認定の手順を標準化し
した既存部品の継続使用は、OKI製品の品質確保、コスト
ており、部品技術に精通した専門の技術者が、過去の障
低減に極めて有効であることから、EU向け製品に使用さ
害経験、ノウハウを生かし認定作業を行っている。
れる既存標準部品を優先して調査、確認を進めている。調
認定のための専門知識の技術継承をするために、品種
査に当っては、グリーン調達基準の非含有保証書、SVHC
ごとにポイントとなる部品の弱点、たとえばチップ抵抗
(高懸念物質)確認書、AISシートを利用し、前記した
器の電極部のガスによる断線を確認する試験項目などノ
ウハウを盛込み、標準試験方法の作成や技術の継承を図っ
COSMOS-R/Rシステムを活用している。
近年、中国など海外メーカーの部品やモジュール、機
能ユニット類の採用が増加してきており、それらの含有
ている。
化学物質調査をメーカーや代理店に依頼しても、回答に
時間がかかったり、回答がもらえないなどのケースや、回
新規部品受付
既存品
へ代替
採用否
既存品の
REACH、
PFOS確認
答を入手したとしてもその結果にリスクがともなう場合
RoHS適合
可否判定
有
がある。これらに対しては蛍光X線分析による確認でリ
既存代替品
有無調査
無
調査要/不要判定
REACH、PFOS
の確認
不要
要
採用否
スク回避している。リスク部品の一例として、黄銅製品
への鉛の含有、組立て加工メーカー使用のめっきリード
端子への鉛混入、複数社指定されがちなコネクタ付ケー
部品分野毎の
標準試験法
部品認定・環境情報
調査作業
ブルの線材への鉛やカドミウムの混入などが挙げられる。
当社では環境分析部門を有するため、こうしたリスクの
ある認定部品について分析を行い、含有化学物質データ
不採用
採用/不採用判断
採用
環境データの
検証、登録
蛍光X線分析
をチェックすることができる。
(2)課題と今後の取り組み
今後、グリーン調達部品の認定には、REACH、PFOS
部品管理コード付与
P
I
E
COSMOS
への取り組みや、増加傾向にある中国など海外メーカー部
環境情報&
部品DB登録
環境データ&
非含有保証書
品の含有化学物質の確認が重要になると考えられる。RoHS
の対応で培った経験とノウハウを最大限に活かし、早期に
図4 新規部品の認定手順
REACH、PFOS対応の認定手順を標準化して対応する。
また、当社としてエキスパートを揃え、着実に技術継
新規採用部品の認定におけるもうひとつの重要な点は、
承を図りながら、当社保有の信頼性評価、良品解析技術、
REACH、PFOSなど高度化した各種環境規制に対する含
化学物質をはじめとする環境分析技術、PIE技術情報を有
有化学物質の調査、検証が挙げられる。
機的に活用し、課題の解決とOKIグループ製品の環境負荷
現状は採用依頼の初期段階でRoHS対応部品か否かの確
低減、品質確保に貢献していく所存である。
◆◆
認を行っているが、今後はREACH、PFOS対応品かの確
認が必要となる。新規採用部品だけでなく、既存採用部
品に対しても環境規制対応品か確認する必要がある。コ
ストメリットがあり品質の安定した標準部品として登録
■参考文献
1)社会・環境レポート2009,pp.16-17
2)緒形博,金井善明:製品含有化学物質規制適合性管理シス
テ ムの展望,沖テクニカルレビュー206号,Vol.73 No.2,
pp.70-73,2006年4月
●筆者紹介
PFOS:Perfluorooctane sulfonate
パーフルオロオクタンスルホン酸塩
PIE:Parts Information system for Engineers
部品技術情報システム
AIS:Article Information Sheet
化学物質含有に関する情報の伝達手段シート
江森雄二:Yuji Emori. 沖エンジニアリング株式会社 部品情報事
業部長
高貫智久:Tomohisa Takanuki. 沖エンジニアリング株式会社
環境事業部 調査分析グループ長
金井善明:Yoshiaki Kanai. 沖エンジニアリング株式会社 部品情
報事業部 部品情報グループ長
春日伸一:Shinichi Kasuga. 沖エンジニアリング株式会社 部
品情報事業部 部品情報グループ
OKIテクニカルレビュー
2010年4月/第216号Vol.77 No.1
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