FEJ 85 06 422 2012

エネルギーマネジメン
特集 トに貢献するパワー半
導体
3.3 kV IGBT モジュールの系列拡大
Expansion of the 3.3 kV IGBT Module Series
福知 輝洋 FUKUCHI Akihiro
金子 悟史 KANEKO Satoshi
近年,再生可能エネルギーの市場が急速に伸びており,大容量 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの
ニーズは急激に拡大している。富士電機ではこれに応えるため,3.3 kV の IGBT モジュールで定格電流を 25 % 向上した新
製品を系列化した。0.8 kA 品と同じパッケージの 3.3 kV/1.0 kA と,1.2 kA 品と同じパッケージの 3.3 kV/1.5 kA の製品であ
る。チップ配置をシンメトリーにしたことにより,高スイッチング耐量を確保している。また,絶縁基板には放熱能力向上
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
のため AlN 基板を,ベース材料には高い信頼性を確保するため AlSiC ベースを採用している。
In recent years, there has been a rapid growth in the market for renewable energy, and the needs for high-capacity insulated gate
bipolar transistor(IGBT)modules have expanded quickly. To answer these needs, Fuji Electric has arranged a new line of products that
have a 25 % higher current rating into 3.3 kV modules. These are 3.3 kV/1.0 kA products of the same package as 3.3 kV/0.8 kA devices, and
3.3 kV/1.5 kA products of the same package as 1.2 kA devices. By reappraising chip configuration and using a symmetric configuration, we
can ensure high switching capacity. Also, to improve the heat-dissipation capability, we use an AlN substrate as the insulating substrate, and
to ensure reliability, we use an AlSiC base plate as the base material.
まえがき
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュール
は,その低損失性・高破壊耐量・駆動回路の設計の容易
さから広く普及している。高耐圧・大容量分野において
も,これまで広く適用されてきた GTO(Gate Turn-off)
サイリスタから IGBT モジュールに置き換えられてきてお
り,大容量インバータや高圧インバータ装置などに広く応
用されている。特に近年,地球温暖化防止のため再生可能
エネルギー(風力発電・太陽光発電)の市場が急速に伸び
ており,この分野で適用されるインバータ装置の大容量化
(a)3.3 kV/1.0 kA,3.3 kV/0.8 kA〔130×140(mm)
〕
が進み,大容量 IGBT モジュールのニーズは急激に拡大し
ている。
富 士 電 機 で は, こ れ ま で 大 容 量 分 野 へ の 適 用 を 狙 っ
た IGBT モジュールの製品展開を行ってきた。1,200 V・
⑴〜 ⑷
1,700 V 製品をラインアップ するとともに,2010 年には,
産業・電鉄分野向けに 3.3 kV/0.8 kA,3.3 kV/1.2 kA を量
⑸,⑹
産化している。
今回,さらなる大電流化のニーズを受けて新しいチップ
を開発し,0.8 kA 品と同じパッケージの 3.3 kV/1.0 kA と,
1.2 kA 品と同じパッケージの 3.3 kV/1.5 kA の製品を系列
化した。どちらも定格電流を 25 % 向上させている。本稿
では,その概要・性能について述べる。
製品系列
(b)3.3 kV/1.5 kA,3.3 kV/1.2 kA〔190×140(mm)
〕
図
3.3 kV IGBT モジュール
図 1 に,3.3 kV IGBT モ ジ ュ ー ル の 外 観 を 示 す。 パ ッ
電気的特性
ケ ー ジ は,130×140(mm) と,190×140(mm) の 2
種類があり,他社モジュールとの互換性を持っている。
1 in 1 3.3 kV/1.5 kA モジュールを例として,最大定格およ
び特性を表
に示す。
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
422(34)
I-V 特性
.
図
にモジュールの飽和電圧−コレクタ電流特性を,図
3.3kV IGBT モジュールの系列拡大
表
最大定格および特性(型式:1MBI1500UE-330)
(a)最大定格(指定なき場合は,T j = T c = 25 ℃)
項 目
記 号
条 件
定 格
コレクタ−エミッタ電圧
V CES
V GE=0 V
3,300
V
ゲート−エミッタ間電圧
V GES
─
±20
V
I C(DC)
T c=95 ℃
連 続
単 位
1,500
A
I C(Pulse)
1 ms
3,000
A
Pc
─
15.6
kW
T j max.
─
150
℃
コレクタ電流
最大損失
最大接合温度
保存温度
T stg
─
−40 ∼+125
℃
絶縁耐圧
V iso
AC:1 min
6.0
kV
部分放電消滅電圧
Ve
AC,Q≦10 pC
2.6
kV
(b)電気的特性(指定なき場合は,T j = T c = 25 ℃)
記 号
試験条件
最 小
標 準
最 大
単 位
コレクタ−エミッタ間
漏れ電流
I CES
V GE=0 V,V CE=3,300 V
─
─
1.0
mA
ゲート−エミッタ間
漏れ電流
I GES
V GE=±20 V
─
─
4.8
µA
ゲート−エミッタ間
しきい値電圧
V GE(th)
V CE=20 V,I C=1.5 A
6.0
6.75
7.5
V
T j= 25 ℃
─
2.46
2.96
飽和電圧(chip)
V CE(sat)
T j=150 ℃
─
3.43
─
─
300
─
─
3.1
─
─
2.2
─
─
2.6
─
─
0.5
─
T j= 25 ℃
─
2.35
2.95
T j=150 ℃
─
2.61
─
V GE=+15 V
I C=1,500 A
C ies
入力容量
V
V GE=0 V,V CE=10 V,f =1 MHz
t on
ターンオン時間
V CC=1,800 V,I C=1,500 A
V GE=±15 V,T j=150 ℃
R g=±1.6Ω,L m=160 nH
tr
t off
ターンオフ時間
µs
tf
V GE=0 V
I F=1,500 A
VF
順電圧(chip)
逆回復時間
nF
V
t rr
V CC=1,800 V,I F=1,500 A,T j=150 ℃
─
1.0
─
µs
記 号
条 件
最 小
標 準
最 大
単 位
(c)熱的特性
項 目
IGBT
─
─
8.0
FWD
─
─
15.0
R th(j-c)
熱抵抗
℃/kW
3,000
3,000
T j =125 ℃
2,500
2,000
2,000
T j =25 ℃
1,500
順電流 I F(A)
コレクタ電流 I C(A)
2,500
T j =150 ℃
1,000
500
0
T j =25 ℃
1,500
1,000
T j =150 ℃
500
0
1
2
3
4
0
5
0
1
飽和電圧−コレクタ電流特性
に順電圧−順電流特性を示す。IGBT および FWD
(Free
2
3
4
順電圧 V F(V)
飽和電圧 V CE(sat)
(V)
図
T j =125 ℃
図
順電圧−順電流特性
Wheeling Diode) チ ッ プ は, と も に 飽 和 電 圧 お よ び 順
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
423(35)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
項 目
3.3kV IGBT モジュールの系列拡大
電圧が正の温度係数を持つ。正の温度係数を持つチップ
である。
は,接合温度が高くなると内部抵抗が高くなり,電流が
図
⒜ に,VCC=2,500 V,Rg=−1.6Ω,Tj=150 ℃ に お け
流れにくくなる。そのため,チップの並列接続数の多い
るターンオフ波形を示す。IC=4,700 A(定格の 3 倍以上)
大容量 IGBT モジュール内部でチップ間の接合温度 Tj を
を遮断できる能力を持っている。図
均一化するように働き,電流バランスを自動的に調整す
Rg=+1.6Ω,Tj=150 ℃ に お け る 短 絡 波 形 を 示 す。20 µs
る。1.2 kA モ ジ ュ ー ル は,IGBT チ ッ プ( 定 格 50 A)24
以 上 の 短 絡 で も 正 常 に タ ー ン オ フ で き る。 図
⒝に,VCC=2,300 V,
⒞ に,
個・FWD チップ(定格 100 A)12 個を並列に接続してい
る。1.5 kA モジュールでは,IGBT チップ(定格 62.5 A)
I C =4,700 A,
=
R g =−1.6Ω,
V GE +20 V, −15 V,
V
CC =2,500 V,
24 個・FWD チップ(定格 62.5 A)24 個を同一モジュー
T j =150 ℃
L m =220 nH,
ルに配置できるように絶縁基板内に配置し,定格電流を
V GE:10 V/div
25 % 向上させた。
0V
I C:4,700 A
I C:1,000 A/div
.
スイッチング特性
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
図
V CE:3,300 V
に,VCC=1,800 V,Rg= +
−1.6Ω,Tj=150 ℃ に お け る
定格電流(1,500 A)でのスイッチング特性を示す。発振
0V
0A
などのノイズや大きなサージ電圧は発生しておらず,良好
V CE:1,000 V/div
t :1 µs/div
(a)ターンオフ波形
な波形である。
また,高耐圧モジュールは,その適用用途から高い信頼
T j=150 ℃
=
R g =+1.6Ω,
V GE ±15 V,L V
m=153 nH,
CC =2,300 V,
性が求められ,高スイッチング破壊耐量を持つことが必須
V GE:10 V/div
0V
I C =1,500 A,
=
nH,
R g =+1.6Ω,
V GE ±15 V,L =160
V
m
CC =1,800 V,
j =150 ℃
T
V CE:1,000 V/div
V GE:10 V/div
0V
t :5 µs/div
(b)短絡波形
I C:500 A/div
V CE:500 V/div
I C:2,000 A/div
20 µs 以上
0V
0A
I F =2,500 A,
=
R g =+1.0Ω,
V GE +20 V, L V
m=220 nH,
CC =2,300 V,
T j =150 ℃
0V
0A
t :1 µs/div
V AK:1,000 V/div
(a)ターンオン波形
0V
0A
IC
=1,500
A,R
g=−1.6Ω,V GE
=±15 V,L =160
nH,
V
m
CC =1,800 V,
j =150 ℃
T
P max =6.2 MW
I F:1,000 A/div
V GE:10 V/div
0V
t :1 µs/div
(c)逆回復波形
I C:500 A/div
V CE:500 V/div
0V
0A
図
大電流でのスイッチング特性
図
1.5 kA モジュールの製品内部構造
t :1 µs/div
(b)ターンオフ波形
IF
=1,500
A,R
g=+1.6Ω,V GE
=+15 V,L =160
nH,
V
m
CC =1,800 V,
j =150 ℃
T
V AK:500 V/div
0V
0A
I F:500 A/div
t :1 µs/div
(c)逆回復波形
図
定格電流でのスイッチング特性
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
424(36)
3.3kV IGBT モジュールの系列拡大
VCC=2,300 V,Rg=+1.0Ω,Tj=150 ℃における逆回復波形を
示す。Pmax(電流×電圧の瞬時パワー最大値)が 6.2 MW
でも,正常に逆回復動作が可能である。
る製品と確信している。
今後は,素子のさらなる高性能化・高信頼性化に取り組
み,期待に応える製品開発を行っていく所存である。
大容量モジュールは,チップの並列接続数が多く,電流
のアンバランスを発生しやすい。図
に,1.5 kA モジュー
ルの製品内部構造を示す。チップ配置をシンメトリーにし
たことにより,電流のアンバランスを可能な限り小さくし,
参考文献
⑴ 西 村 孝 司 ほ か. IGBTハ イ パ ワ ー モ ジ ュ ー ル. 富 士 時 報.
2008, vol.81, no.6, p.390-394.
⑵ 西村孝司ほか. 3レベルインバータ対応 大容量IGBTの系列
高スイッチング耐量を確保している。
化 ─高絶縁パッケージ─. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.370374.
パッケージ構造
⑶ 山本拓也, 吉渡新一. 新型大容量2 in 1IGBTモジュール. 富
大容量インバータ装置に使用される IGBT モジュール
には,高信頼性,高放熱能力(低熱抵抗)が求められる。
ため,低耐圧モジュールで一般に採用されているアルミナ
(Al2O3)や窒化けい素(Si3N4)より熱伝導率が 2.5 〜 8 倍
⑺
高い窒化アルミニウム(AlN)絶縁基板を採用した。その
結果,表
⒞に示す低い熱抵抗を実現した。ベース材料は,
低耐圧モジュールでは一般に銅ベースが採用されている
が,3.3 kV IGBT モジュールでは,高い信頼性を確保する
⑷ 山本拓也ほか. 大容量第6世代IGBTモジュールの系列拡大.
富士時報. 2011, vol.84, no.5, p.317-321.
⑸ 古 閑 丈 晴 ほ か. 3.3 kV IGBTモ ジ ュ ー ル. 富 士 時 報. 2007,
vol.80, no.6, p.397-401.
⑹ 古 閑 丈 晴 ほ か. 3.3 kV IGBTモ ジ ュ ー ル. 富 士 時 報. 2009,
vol.82, no.6, p.371-374.
⑺ Minghui Zhan, et al.“3.3 kV IGBT Modules with Trench
Gate FS Structure.”PCIM Asia 2011.
ために AlSiC ベースを採用した。AlSiC は Al と SiC の複
合材料であり,熱膨張率が AlN 絶縁基板に近い。このた
福知 輝洋
め,銅ベースに比べてヒートサイクル寿命やパワーサイク
IGBT モジュールの開発 ・ 設計に従事。現在,富
ル寿命が数倍向上する。また,ベースの初期形状を適切に
士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導
体事業統括部産業モジュール技術部。
管理することにより,マウント時の平坦(へいたん)性も
向上させている。
あとがき
金子 悟史
IGBT モジュールの開発 ・ 設計に従事。現在,富
本稿では,3.3 kV IGBT モジュールの系列拡大について
士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導
体事業統括部産業モジュール技術部。
述べた。本モジュールは,電気的特性や熱的特性に優れて
おり,再生可能エネルギー分野および車両分野で貢献でき
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
425(37)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
3.3 kV IGBT モジュールでは,絶縁基板の放熱能力向上の
士時報. 2010, vol.83, no.6, p.388-392.
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。