FEJ 73 08 436 2000

富士時報
Vol.73 No.8 2000
同期整流対応 6 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC
遠藤 和弥(えんどう かずや)
まえがき
表1 FA3676F の定格
(a)絶対最大定格
項 目
近年,携帯型電子機器の小型化・軽量化・高機能化が進
定 格
んでいる。その電源である,バッテリーからほかの直流電
電 源 電 圧
20 V
源に変換する DC-DC コンバータも,小型化,軽量化,バッ
出 力 電 流
±0.2 A
テリーによる長時間動作のための高効率化,低消費電流化
全 損 失
550 mW
がますます要求されている。
動作温度範囲
−20∼+85℃
保存温度範囲
−40∼+125℃
特に,ディジタルカメラやビデオカメラにおいては,高
機能化に伴って,出力電圧の異なる多数系統の電源が要求
(b)電気的特性
されている。
項 目
定 格(標準値)
富士電機では,高効率で多数系統電源装置に適した,パ
電 源 電 圧 範 囲
2.5∼18 V
ルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)式スイッ
発 振 周 波 数
50 kHz∼1 MHz
チング電源用制御 IC「FA3676F」を開発したので,ここ
タ イ ミ ン グ 容 量
22∼1,000 pF
にその概要 を 紹介する。この IC は, 6 チャネル制御回路
タ イ ミ ン グ 抵 抗
6.8∼100 kΩ
をワンチップに納め,そのうち 2 チャネルを高効率電源が
デッドタイム設定抵抗
0∼100 kΩ
実現できる同期整流方式に対応させ,さらに CMOS(Com-
基 準 電 圧
1.0 V
plementary MOS)プロセスを用いて低消費電流化を図っ
消 費 電 流
4 mA/12 A(待機時)
ている。
制御 IC の概要
(a)
FA3676F の 絶対最大定格 を 表1
に, 主 な 電気的特性
(6 ) タイマ・ラッチ式短絡保護機能付き
内部回路
(b)
を表1
に示す。
この IC の主な特長は次のとおりである。
(1) LQFP(Low Profile Quad Flat Package)48ピンパッ
ケージを採用
図1に FA3676F
の内部回路ブロック図を示す。制御電
源回路,1.0 V 基準電圧回路,三角波発振回路,低電圧誤
動作防止 ( UVLO:Under Voltage Lock-Out) 回路 など
(2 ) 6チャネル出力と同期整流対応
p チャネル MOS 駆動:5 チャネル(そのうち 2 チャネ
ルは同期整流方式に対応)
駆動 MOS の p チャネル/n チャネル選択が可能:1 チャ
の共通部分と,チャネルごとの誤差増幅器,PWM 比較器,
ソフトスタート回路,出力ドライバ回路などで構成されて
いる。
表2にチャネル制御仕様を示す。この表を基に制御の概
要を説明する。
ネル
(3) 広い動作電源電圧範囲: 2.5 ∼ 18 V
(4 ) CMOS アナログ技術による低消費電流
3.1 制御仕様
™ 動作時: 4 mA(標準値)
6チャネルともすべて, 外部 MOSFET( Metal-Oxide-
™ 待機時: 12 μA(標準値)
Semiconductor Field-Effect Transistor)を 直接 スイッチ
(5) 待機機能付き
遠藤 和弥
パワーエレクトロニクス製品の開
発を経て,スイッチング電源用制
御 IC の開発に従事。現在,松本
工場半導体開発センター IC 開発
部。
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ング駆動できるようプッシュプル型のドライバ出力回路と
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同期整流対応 6 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC
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なっている。各チャネルのオン抵抗は,第 3 チャネルが6
ソフトスタート制御端子のうち CS1 端子と CS3 端子は
Ω で,その 他 のチャネルは 10 Ω となっており, 出力電流
定電流出力となっているが,CS2 端子は電流出力がなく,
は最大+
− 0.2 A まで 流 せる。これらの 出力端子 に 電流制限
外部抵抗で端子の充電完了電圧を設定することで,外部駆
抵抗を接続することで,バイポーラトランジスタを外部ス
動 MOSFET の最大オンデューティを制限することができ
イッチング素子として使用することも可能である。
る。
第 6 チャネルの 出力 は, PNSEL 端子 の Hi/Low 接続 に
より, 外部駆動 MOSFET のタイプを p チャネル /n チャ
3.2 同期整流方式
ネルに切り換えることができ,製品システムに合わせて降
第 1 チャネルと第 2 チャネルは同期整流方式に対応した
圧回路または昇圧回路を選択することができる。
降圧コンバータ回路を構成することができる。
(a)
同期整流回路の構成を図2
に示す。この回路において,
各チャネルは,2本のオンオフ制御端子と 3 本のソフト
スタート制御端子で表2に示すように制御される。また,
p チャネル MOSFET( Q11)がオフの 期間 に,リアクト
2 本 のオンオフ 制御端子 をすべてオフ 設定 にすると, IC
ル電流はダイオード(D)を流れ,ダイオードのオン電圧
は待機モードになり,内部制御電源を遮断して消費電流の
とそこに流れる電流とによって損失が発生する。特にコン
大幅な低減を図っている。
バータ出力電圧が低く出力電流が大きい場合には,この損
pチャネル
ドライバ
PNSEL
OUT5
pチャネル
ドライバ
OUT6
OUT4
PGND3
OUT3
nチャネル
ドライバ
DT2
pチャネル
ドライバ
VCC3
OUT2n
nチャネル
ドライバ
OUT2p
OUT1n
pチャネル
ドライバ
DT1
OUT1p
VCC2
VDRV
図1 FA3676F の内部回路ブロック図
各ドライバへ
ドライバ
用電源
第1チャネル
制御
UVLO
電源
第3
チャネル
デッドタイム
設定
デッドタイム
設定
VCC1
pチャネル
ドライバ
第4
チャネル
pチャネル/
nチャネル
ドライバ
第5
第6
チャネル
チャネル
RT
三角波
発振器
CT
第2チャネル
CS3
CS2
VREG
CS1
制御
電源
ソフト
スタート
制御
PWM比較器
基準
電圧
CNT3
タイマ
ラッチ
CNT1
CREF
オンオフ
制御
誤差増幅器
CP
TLSEL
IN6+
IN6−
FB6
IN5+
IN5−
FB5
IN4+
IN4−
FB4
IN3+
FB3
IN3−
IN2−
FB2
IN1+
IN1−
FB1
VREF
バッファ
表2 チャネル制御仕様
項目
チャネル
出力仕様
出力端子記号
駆動 MOS
オン抵抗
同期整流
構成可能な
コンバータ
第1
OUT1p/n
p チャネル
10Ω
対応
降圧型
第2
OUT2p/n
p チャネル
10Ω
対応
降圧型
第3
OUT3
p チャネル
6Ω
第4
OUT4
p チャネル
10Ω
降圧型
第5
OUT5
p チャネル
10Ω
降圧/反転型
OUT6
p チャネル/
n チャネル切換
10Ω
降圧/昇圧型
第6
降圧型
オンオフ
制御端子
ソフトスタート
設定端子
CNT1
CS1
CNT3
CS3
CS1
CNT1
CS2
(オンデューティ
制限設定可)
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失分が電源効率を下げる要因となる。そこで,ダイオード
チャネル /n チャネル MOSFET が 直列 に 入 り, 両 MOS
に 並列 にダイオードよりもオン 電圧 が 低 い n チャネル
FET が 同時 オンすると 電源短絡 となるので,これを 避 け
MOSFET( Q12)を 接続 し,ダイオードに 電流 が 流 れる
(b)
のゲート信号特性に示
る必要がある。そのために,図2
期間,並列 MOSFET をオンさせ,電流を MOSFET 側に
すように,スイッチングの切換時に両 MOSFET が共にオ
流して損失分を低減しようとするものが同期整流方式であ
フとなる期間(デッドタイム)を設ける必要がある。この
る。この方式は電源効率向上の有効な手段となる。
デッドタイムは,外部 MOSFET のスイッチング特性で決
同期整流方式 では, 電源 ー GND(グラウンド) 間 に p
まるので,アプリケーションごとに最適設定値が異なる。
そこで FA3676F では,DT1 端子および DT2 端子と GND
間に抵抗を接続することで,各チャネル独立して,抵抗値
図2 同期整流回路とゲート信号特性
に応じたデッドタイムが設定できるようにしてある。
VCC
FA3676F
図3に外部抵抗とデッドタイム設定値との関係を示す。
S
G
OUT1p
Q11 D
L
VOUT
D
G
OUT1n
Q12 S
D C
GND
図3 デッドタイム設定特性
DT1
R DT
デッドタイム(ns)
VCC(Q11オフ)
0 V(Q11オン)
t
VCC(Q12オン)
0 V(Q12オフ)
t
OUT1p信号
OUT1n信号
デッド
タイム
(V CC=6V, C T=100pF, R T=10kΩ)
300
(a)同期整流回路
デッド
タイム
200
100
0
(b)ゲ−ト信号特性
0
20
40
60
80
外部設定抵抗 R DT(kΩ)
100
図4 FA3676F の応用回路例
VCC
S
G
D
C11
D
G
C1
D1
RS21
CS2
RS22
CREF2
OUT5
D3
Q41
L4
PGND1
VCC3
VCC2
RDT1
RDT2
CDRV
CP
CP
RT
RT
GND
CT
IN6+
DT1
OUT1p
DT2
FB1
VDRV
OUT1n
S
D
C42 R41 CH4
R42(降圧)
G
C41
OUT3
PGND3
CNT3
D4
Q51
C3
S
D5
D
C4
G
L5 + C52
L6
C61
D
G
RG6
438(18)
C32 R31 CH3
R32(降圧)
G
C51
オンオフ制御入力
CNT1
L3
D
C31
OUT2p
IN1−
R60 C60
S
OUT2n
FA3676F
IN1+
IN6−
FB6
RG3
OUT4
IN2−
CT
R10 C10
CS3
C2
OUT6
C22 R21 CH2
R22(降圧)
D2
Q31
CS3
PNSEL
IN4−
L2
Q22
S
PGND2
IN4+
FB2
R20 C20
CS2
CS1
TLSEL
VREF
CS1
G
VCC1
CREF
D
FB4
R40 C40
Q21
D
C21
CNT1
R50 C50
S
G
CREF1
CREG
FB5
VREG
C30 R30
FB3
IN3−
R52
IN3+
R51
R53
R54
IN5+
IN5−
C12 R11 CH1
R12(降圧)
Q12
S
GND
CNT3
Q11 L1
S
CH5
(反転)
D6
Q61
C62
R61 CH6
R62(昇圧)
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応用回路例
図4に FA3676F
あとがき
の応用回路例を示す。この例では,第
多出力電源回路 に 適 した, 同期整流対応 の 6 チャネル
1チャネルから第 4 チャネルまでは降圧型コンバータを構
DC-DC コンバータ用制御 IC FA3676F の概要を紹介した。
成し,第 5 チャネルは極性反転回路,第 6 チャネルは昇圧
富士電機では,今後この A3676F をベースに,リチウム
回路を構成している。また,第 1・第 2 チャネルは同期整
イオン 電池 1 セル 駆動 に 対応 したさらなる 低電圧動作 IC
流方式となっている。
や,電池の充電制御機能を内蔵した電源 IC,6チャネル
このように,6 回路 のスイッチング 電源 をワンチップ
IC で 構成 することができ,また 同期整流方式 による 電源
以上の同期整流対応の多出力制御 IC などを開発し,市場
要求にこたえていく所存である。
効率向上も達成できる。なお,各チャネルのリアクトルの
代わりに,多巻線変圧器を用いることで,6回路以上の多
出力電源を構成することも可能である。
参考文献
(1) 遠藤和弥: 6 チャネル DC- DC コンバータ用 IC,富士時報,
Vol.71,No.8,p.438- 441(1998)
439(19)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。