富士時報 Vol.81 No.6 2008 携帯機器用マルチチャネル電源 IC「FA7763R」 特 集 遠藤 和弥(えんどう かずや) 大和 誠(おわ まこと) 一岡 明(いちおか あきら) まえがき 降圧コンバータの 4 チャネル分は同期整流方式に対応した。 高効率・高周波動作に対応 ( 3) 近年,デジタルスチルカメラやビデオカメラなどの携帯 降圧コンバータのスイッチング素子として,ハイサイ 機器の小型化,軽量化,高機能化が進んでいる。その電源 ド n チャネル MOSFET を採用した。従来の p チャネル である DC-DC コンバータも,低電圧化,小型化,軽量化, MOSFET に比べ,パワー MOSFET の面積を小さくでき, バッテリーによる長時間動作のための高効率化,低消費電 入力容量を低減し高周波動作に対応した。 スタンバイ機能 ( 4) 流化がますます要求されている。 特にデジタルスチルカメラやビデオカメラにおいては, 高機能化に伴って電圧の異なる多出力系統の安定した電源 スタンバイ時の消費電流は 1 µA 以下を実現した。 保護機能 ( 5) ソフトスタート機能 (a) が要求されている。 起動時の出力コンデンサへのラッシュ電流を抑制する。 富士電機ではこれまでも,携帯機器向けに PWM(Pulse Width Modulation)方式のマルチチャネル出力の DC-DC (b) UVLO(Under Voltage Lock Out) コンバータ制御 IC を数多く開発してきた。今回これらの 市 場 要 求 に 対 応 し て, パ ワ ー MOSFET(Metal-Oxide- 電源電圧低下時の回路誤動作を防止する。 タイマラッチ式短絡保護 (c) DC-DC コンバータの各チャネル出力電圧が短絡で一 Semiconductor Field-Effect Transistor)を内蔵した 7 チャ ネル出力の DC-DC 定時間低下した場合に,全チャネルのスイッチングを停 コンバータ IC「FA7763R」を開発し 止させる。 たので,ここにその概要を紹介する。 過電流保護 (d) 製品の概要 表 FA7763Rの主な仕様 今回開発した FA7763R の外観を 図 1 に,主な仕様を 表 1に示し,特徴を以下に述べる。 動作電源範囲 ( 1) リチウムイオンバッテリー 2 セルのほか,より低電圧の アルカリ乾電池 4 本の電源にも対応した。 外部設定 基準電圧 1,00 V±1% 動作温度範囲 1 ソフトスタート 内部固定 UVLO 過熱保護 過電圧保護(CH5, CH7) パッケージ A以下 2.6 V 84 ms固定 パルスバイパルス 140 ℃ 27 V Epad-QFN56 (エクスポーズドパッド付き) 遠藤 和弥 大和 誠 一岡 明 スイッチング電源 IC の開発に従 スイッチング電源制御 IC の開発 スイッチング電源制御 IC の開発 事。現在,富士電機デバイステク に従事。現在,富士電機デバイス に従事。現在,富士電機デバイス ノロジー株式会社半導体開発営業 テクノロジー株式会社半導体開発 テクノロジー株式会社半導体開発 本部開発統括部ディスクリート・ 営業本部開発統括部ディスクリー 営業本部開発統括部ディスクリー IC 開発部プリンシパルエンジニ ト・IC 開発部。 ト・IC 開発部。 ア。 428( 48 ) 裏面 4W −20∼+85 ℃ スタンバイ電流 保 タイマラッチ式短絡保護 護 機 能 過電流保護(CH1∼CH6) 表面 500∼1,200 kHz 許容損失 6 チャネル分が電流モード制御方式で,さらにそのうち FA7763R の外観 仕 様 4∼10 V 出力電圧 スイッチング周波数 7 チャネル出力と同期整流,電流モードに対応 ( 2) 図 項 目 入力電圧 携帯機器用マルチチャネル電源 IC「FA7763R」 富士時報 Vol.81 No.6 2008 電流モード制御において,スイッチング MOSFET に 部品点数の削減 ( 6) スイッチング素子と同期整流素子であるパワー が過電流レベルを超えた場合,スイッチングをオフさせ MOSFET を IC に内蔵するとともに,ブートストラップ用 る。 ダイオードも内蔵し,外付け部品点数の削減を図った。 過熱保護 (e) パッケージ ( 7) IC チップの温度上昇を監視し,140 ℃以上でラッチし 56 ピン QFN(Quad Flat Non-lead)パッケージでピン 間隔 0.4 mm を採用し,ボディサイズ 7 mm×7 mm,厚さ て全チャネルのスイッチングを停止する。 過電圧保護 ( f) 0.9 mm を実現した。また,放熱性に優れた裏面パッド付 チャネル 5,7 の昇圧チャネルは,27 V 以上の出力過 きとなっている。 電圧でラッチしてスイッチングを停止する。 内部ブロック図および応用回路例 電源 VREG TL6 TL7 TL5 TL3 VCC TL4 Vbat TL2 VREG TL1 図 CNT1 CNT4 制御電源 タイマラッチ GND UVLO OV5 TSD OV7 基準電圧 オンオフ 制御 & シーケンス SEL4 発振器 TL1 Vr1 IN1 エラー アンプ − CH5,6 オンオフ SEL6 CH5,6 起動・停止の 順序設定 CH7 オンオフ VS1 PVC1 VREG コンパレータ OC1 + FB1 CH4 モード設定 CNT5 CNT7 (VREF=1.0 V) RT CH1,2,3 オンオフ CH4 オンオフ − − + S R CH1:降圧 ドライバ 1 Q OC1 OUT1 電流モード 同期整流 PGND1 スロープ 補償 1.2 V (300 mA) Vr1 VS2 TL2 Vr2 IN2 − + FB2 PVC2 VREG OC2 − − + S R CH2:降圧 ドライバ 2 Q OC2 OUT2 電流モード 同期整流 1.5 ∼ 1.8 V (300 mA) Vr2 スロープ 補償 VS3 TL3 Vr3 IN3 − + FB3 PVC3 VREG OC3 − − + S R CH3:降圧 ドライバ 3 Q OC3 OUT3 電流モード 同期整流 PGND3 スロープ 補償 3.0 ∼ 3.6 V (500 mA) Vr3 VS4 TL4 Vr4 IN4 − OC4 + FB4 PVC4 VREG − − + S R CH4:降圧 Q OC4 スロープ 補償 OUT4A ドライバ 4 OUT4B 電流モード 同期整流 TL5 Vr5 IN5 OUT5 − OC5 + FB5 IN6A FB6 R Q CH5:昇圧 ドライバ 5 電流モード VS5 12 ∼ 18 V (50 mA) PGND5 OC5 − VS6 + IN6B S スロープ 補償 TL6 Vr6 − − + 3.0 ∼ 3.6 V (300 mA) Vr4 コンパレータ − エラー アンプ OC6 − − + S R Q 電流モード OUT6 −6 ∼−9 V (100 mA) Vr6 OC6 スロープ 補償 + CH6:反転 ドライバ 6 TL7 FB7 Vr7 電流設定値 IN7− IN7+ OUT7 コンパレータ エラー アンプ − ドライバ 7 − + OV5 OV7 OVP5 OVP7 コンパレータ − + CH7:昇圧 VS7 電圧モード + オフ タイマ PGND5 12 ∼ 24 V (25 mA) VS7 Vr7 VS5 VS5 SW5 Vr5 SW7 Rs 429( 49 ) 特 集 流れる電流を監視し,スイッチング周期ごとにこの電流 富士時報 Vol.81 No.6 2008 携帯機器用マルチチャネル電源 IC「FA7763R」 力端子 OUT4A と OUT4B を接続して降圧同期整流回路 動作説明 を構成できる。 特 集 SEL4 端子を Hi に設定すると,図 4 に示すように SEPIC 図 2 に内部ブロック図と応用回路例を示す。また,表 2 方式の昇降圧回路を構成することができる。 なお,このときハイサイド出力 OUT4A はオープンと にチャネル制御仕様を示す。以下に 7 チャネルそれぞれの 動作について述べる。 する。 アルカリ乾電池 4 本のように,入力電源電圧がチャネル . チャネル 1,2,3 の動作 4 コンバータ出力電圧近くや,あるいはそれ以下の低電圧 チャネル 1,2,3 は電流モード制御の降圧同期整流回路 である。最大負荷電流は,チャネル 1,2 が 300 mA,チャ となるようなアプリケーションでは,この昇降圧モードが 有効である。 ネル 3 が 500 mA である。 どちらのモードも最大負荷電流は 300 mA,ソフトス 起動・停止は,図 3 に示すように CNT1 端子によって行 タート時間は 10 ms である。 われる。CNT1 端子をハイレベル(Hi)にすると,まず内 部制御電源 VREG が起動し,続いてチャネル 1,チャネル . チャネル 5,6 の動作 2,チャネル 3 の順序で,それぞれ 10 ms のソフトスター チャネル 5 は昇圧回路,チャネル 6 は極性反転回路であ ト時間で起動する。なお,CNT1 端子の Hi はバッテリー る。最大負荷電流は,チャネル 5 が 50 mA,チャネル 6 が 電 源 を 直 接 入 力 で き る。 停 止 時 は CNT1 端 子 を ロ ー レ 100 mA である。 ベル(Lo)にすると,まずチャネル 3 が停止し,続いて チャネル 5,6 の起動・停止は,図 5 に示すように CNT チャネル 2,チャネル 1 がそれぞれ 20 ms 時間差で停止し, 5 端子で共通に制御される。また,チャネル 6 の起動・停 チャネル 1 の停止から 20 ms 後に内部制御電源 VREG が 止順序は SEL6 端子で切り替えることができる。 停止し,スタンバイモードに移行する。 図 5(a) に示すように,SEL6 端子を Hi に設定した場合, まずチャネル 5 が起動しその後チャネル 6 が起動する。ソ . チャネル 4 の動作 フトスタート時間はそれぞれ 20 ms 固定である。停止は チャネル 4 は CNT4 端子で起動・停止制御され,SEL4 端子で動作モードを切り替えることができる。SEL4 端子 チャネル 6 が停止後,20 ms の時間差をもってチャネル 5 が停止する。 図 5(b) に示すように,SEL6 端子を Lo に設定した場合, を Lo に設定すると,図 2 の応用回路例に示すように,出 表 チャネル制御仕様 チャネル 出力端子 電流モード制御 対応 同期整流 対応 構成可能な コンバータ * 最大負荷電流 ソフトスタート 時間 CH1 OUT1 ○ ○ 降圧 300 mA 10 ms CH2 OUT2 ○ ○ 降圧 300 mA 10 ms CH3 OUT3 ○ ○ 降圧 500 mA 10 ms CH4 OUT4A OUT4B ○ ○,− 降圧,昇降圧 300 mA 10 ms CH5 OUT5 ○ − 昇圧 50 mA 20 ms CH6 OUT6 ○ − 極性反転 100 mA 20 ms CH7 OUT7 − − 昇圧 25 mA 10 ms オンオフ 制御端子 備 考 CNT1 CNT4 SEL4端子で切替え CNT5 CNT7 LED電流制御に対応 * ただし,パッケージの許容損失を超えないこと 図 チャネル 1,2,3 の起動・停止シーケンス 図 チャネル 4 の昇降圧モード設定 VREG Vbat CNT1 信号 SEL4 VREG 電圧 20 ms CH1 出力電圧 OC4 10 ms 10 ms 430( 50 ) 20 ms PVC4 ドライバ 4 20 ms 10 ms CH2 出力電圧 CH3 出力電圧 VS4 VREG 電流モード 非同期整流 (SEL4=H) OUT4A OUT4B PGND3 CH4:昇降圧 3.0 ∼ 3.6 V (300 mA) Vr4 携帯機器用マルチチャネル電源 IC「FA7763R」 富士時報 Vol.81 No.6 2008 図 チャネル 5,6 の起動・停止シーケンス チャネル 3 の効率特性 100 20 ms CH5 出力電圧 電源効率(%) 20 ms CH6 出力電圧 20 ms (a)SEL6=Hi の場合 入力電圧 4 V 90 入力電圧 7 V 80 入力電圧 10 V 70 f osc ( V OUT =3.3 V, =1 MHz, L =10 H) CNT5 信号 60 CH5 出力電圧 特 集 CNT5 信号 図 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 負荷電流(A) CH6 出力電圧 20 ms (b)SEL6=Lo の場合 チャネル 7 は CNT7 信号がオンのとき,IN7+端子の電 流設定値を 0.1 V 以下に設定するとスイッチングを停止す ることができる。この状態から電流設定値を 0.1 V 以上に チャネル 5 と 6 が同時に 20 ms のソフトスタート時間で起 上げると,通常のソフトスタート動作で起動する。 チャネル 7 もチャネル 5 と同様に昇圧回路であるので, 動する。停止もチャネル 5,6 が同時に停止する。 なお,SEL6 端子信号の Hi と Lo の切替えは,CNT5 信 ロードスイッチと過電圧保護回路を備えている。 号の変化前に,コンバータ動作中でも切り替えることが できる。したがって,起動時は SEL6 端子を Hi に設定し . 効率特性 てチャネル 5 起動後にチャネル 6 を起動し,停止直前に 効率特性の例として,図 6 にチャネル 3 の負荷電流に対 SEL6 端子を Lo に切り替え,チャネル 5 と 6 を同時に停 する VS3 電源端子の電源効率特性を示す。出力電圧 3.3 V 止させることもできる。 チャネル 5 の昇圧回路には,停止中に入力電源電圧がイ ンダクタとダイオードを通して負荷側に出力されるのを防 設定,スイッチング周波数 1 MHz で,入力電圧が 4V, 7 V,10 V の場合を示す。入力電圧 7 V で負荷電流 0.2 A において,電源効率 90 % 以上を達成している。 止するため,負荷側にロードスイッチを設けてある。図 2 のブロック図で,端子 VS5 がロードスイッチの入力,端 あとがき 子 SW5 がロードスイッチの出力である。 ロードスイッチの入力端子 VS5 には過電圧保護回路が 携帯機器用マルチチャネル電源回路に適した,パワー 設けてあり,過電圧検出時は全チャネルスイッチングを停 MOSFET 内蔵の 7 チャネル DC-DC コンバータ IC「FA 止する。 7763R」の概要を紹介した。 この IC は,電流モード制御の降圧同期整流回路や LED . チャネル 7 の動作 チャネル 7 は,LED バックライトの電流制御に適した 電圧モード制御の昇圧回路である。最大負荷電流は 25 mA の定電流制御回路に対応しており,高周波動作で高効率電 源回路を構成することができ,ビデオカメラなどの小型 化・高機能化に貢献できる。 でソフトスタート時間は 10 ms となっている。起動・停止 制御は CNT7 端子で行う。 図 2 の応用回路例に示すように,LED と GND 間に電流 検出抵抗 Rs を接続し,その検出電圧 Vr7 をエラーアンプ の反転入力端子 IN7−に入力する。エラーアンプの非反転 入力端子 IN7+には LED の電流設定値が入力され,電流 参考文献 遠藤和弥.同期整流対応 6 チャネル DC-DC コンバータ制 ( 1) 御 IC.富士時報.vol.73, no.8, 2000, p.436-439. 山田谷政幸.小型 5 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC. ( 2) 富士時報.vol.76, no.3, 2003, p.160-162. 検出信号 Vr7 がこの電流設定値に一致するよう制御する。 431( 51 ) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。