FEJ 76 03 153 2003

富士時報
Vol.76 No.3 2003
液晶モニタ用 3 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC
藤井 優孝(ふじい まさなり)
まえがき
図1 FA7711V の外観
マルチメディア化の進行に伴い,電子機器においても軽
薄短小,低消費電力化の傾向があり,表示機器分野ではこ
れらの特徴を生かした液晶モニタが従来の CRT から急速
に置き換えられている。
現在,小型の表示機器では CRT から液晶モニタへの置
換えが一般的となっているが,今後表示機器の大型化に伴
い,軽薄短小・低消費電力である大画面液晶モニタへの
ニーズはますます高まると予想される。一方,普及の促進
には低価格化が重要なアイテムとなっている。
一般的に液晶モニタの駆動には昇圧・降圧そして極性反
転の 3 種類の電圧が必要であり,液晶モニタへの入力電圧,
その駆動に必要な電圧構成および電源シーケンスは各モニ
単に構成することができる。
FA7711V の特徴は次のとおりである。
タメーカーや機種により異なっている。このため,より一
(1) 大容量パワー MOSFET(Ciss = 2,000 pF 程度)を直
層汎用性の高い電源 IC が液晶モニタメーカーからは求め
接駆動可能(ピーク出力電流+
− 800 mA)なため,高速
スイッチングにより高効率化が可能
られている。
富士電機ではこれまでも液晶モニタ用の電源 IC を系列
製品化してきたが,上述の課題を解決するために,このた
び新系列として大画面液晶モニタ用電源を構成するうえで,
外 付 け パ ワ ー MOSFET( Metal Oxide Semiconductor
Field Effect Transistor)駆動用バッファが不要である3
(2 ) 降圧,昇圧,極性反転およびフライバック回路が構成
可能な 3 チャネル PWM 制御出力内蔵
™チャネル1
p チャネル MOS 駆動専用(降圧回路)
™チャネル 2,チャネル 3
チャネルの PWM(Pulse Width Modulation)方式スイッ
n チャネル MOS/p チャネル MOS 駆動切換(昇圧,降
チング電源制御 IC「FA7711V」を開発・製品化したので,
圧,極性反転)
。OUT2 と OUT3 とは互いに逆相。極性
ここにその概要を紹介する。
切換は極性切換端子にて個々に設定
(3) 広い動作電源電圧範囲: 4.5 ∼ 15 V
製品の概要
(4 ) 200 ∼ 800 kHz の高周波動作が可能で,タイミング抵
抗のみで動作周波数の設定が可能
図1に FA7711V の外観を示す。
(5) 基準電圧:3.70 V(精度+
−1%)
(6 ) CMOS プロセスにより低消費電流(動作時 7 mA)
2.1 IC 全体の特徴
今回,開発製品化した FA7711V は大型の液晶モニタ用
電源制御 IC で,大容量パワー MOSFET を直接駆動でき
るため,従来必要であった外付けパワー MOSFET 駆動用
(7) 各チャネル独立のソフトスタート回路と最大デュー
ティ設定が可能
(8) 各チャネル独立のタイマ・ラッチ式出力短絡保護回路
内蔵
のバッファが不要となる。また,3 チャネルの PWM 制御
(9) 低電圧誤動作防止回路内蔵
出力端子を内蔵しているため液晶モニタに必要な電源を簡
(10) 小型・薄型の TSSOP-24 ピンパッケージ(取付け高
藤井 優孝
りん酸形燃料電池発電装置の開
発・設計を経て,スイッチング電
源制御 IC の開発・設計に従事。
現在,松本工場 IC 第一開発部。
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液晶モニタ用 3 チャネル DC-DC コンバータ制御 IC
Vol.76 No.3 2003
さ最大 1.20 mm)
出力の極性切換は極性切換端子(SEL)にて設定する。
また,チャネル 2 とチャネル 3 とは逆相となっており,電
2.2 動作説明
源を駆動する際の入力電源の負荷を分散することにより入
図2に FA7711V の内部ブロック図を示す。また,各部
力リプルの低減ができる。
の動作について以下に述べる。
(2 ) 最大デューティ設定
(1) PWM 制御部
昇圧回路および極性反転回路駆動の場合は外付けパワー
MOSFET のフルオンによる電源入力とグラウンド間の短
各チャネルとも誤差増幅器の非反転入力端子(IN+)
にて外部から 1.3 ∼ 2.3 V の範囲内で個々に基準電圧を入
絡を防止するために最大デューティを制限する必要がある。
力設定することが可能である。
このため,各チャネルともソフトスタート端子(CS)に
て 1.3 ∼ 2.3 V の範囲内で入力し,最大デューティを設定
することができる。
図2 FA7711V の内部ブロック図
(3) ソフトスタート回路
(4)
VREF
(18)
VCC
(16) (14) (11)
CS3 CS2 CS1
各チャネルとも独立したソフトスタート回路にて起動時
ソフト
スタート
と電源出力電圧のオーバシュートを防止することができる。
にデューティサイクルを徐々に広げ,入力電源の突入電流
基準電源
UVLO
ソフトスタート端子(CS)には内部電流源を内蔵してい
PVCC
(2)
RT
三角波
発振器
(6)
IN1+
(7)
IN1(8)
FB1
(21)
IN2+
(20)
IN2 (19)
FB2
(24)
IN3+
(23)
IN3(22)
FB3
PWM
コンパレータ1
誤差増幅器1
+
PVCC
+
-
p
ドライバ
-
誤差増幅器2
-
+
n/p
ドライバ
+
-
回路にて個々の誤差増幅器の出力電圧異常を監視し,ある
PGND
PVCC
PWM
コンパレータ3
誤差増幅器3
PGND
タイマ・
ラッチ
(充電式)
一定の遅延時間経過後,IC 出力を停止する。この遅延時
間の設定は内部に電流源を内蔵しているタイマ・ラッチ用
コンデンサ接続端子(CP)にて設定することが可能であ
(15)
OUT3
(3)
SEL3
(10)
PGND
-
FB検出
各チャネルとも独立したタイマ・ラッチ式出力短絡保護
(13)
OUT2
(5)
SEL2
n/p
ドライバ
+
-
(4 ) タイマ・ラッチ式出力短絡保護回路
(12)
OUT1
PGND
PVCC
PWM
コンパレータ2
+
るため外部にコンデンサを接続して使用する。
(17)
PVCC
PGND
る。
(5) 低電圧誤動作防止用回路
電源入力端子(VCC)および基準電圧出力端子(VREF)
の電圧が低下(3.3 V 以下)するとすべてのチャネルの出
GND
(9)
CP
(1)
力を停止する。
図3 FA7711V の応用回路例
4.7
V in
8∼14V
(4.5∼8V)
H
SC802-04
15V/800mA
(10V/800mA)
+
+
22 F
(OS-CON)
2kΩ 13kΩ 5.1kΩ 36kΩ
(3kΩ) (12kΩ) (2.7kΩ) (15kΩ)
150kΩ
0.1
100
kΩ
100kΩ
0.1
F
SC802-04
150kΩ
22
1
4.7
H
23
22
21
IN3-
FB3
IN2+
20
IN2 -
H
3.3V/300mA
19
18
17
16
15
14
13
FB2
VCC
PVCC
CS3
OUT3
CS2
OUT2
+
120
SC802-04
FA7711V
CP
1
RT
2
SEL3
3
9.1
kΩ
VREF
SEL2
IN1+
IN1-
FB1
GND
PGND
CS1
OUT1
4
5
6
7
8
9
10
11
12
33
kΩ
2.2
F
39kΩ
20kΩ
154(12)
F
F
47
24
IN3+
-10V/50mA
( -7.5V/50mA)
F
13kΩ
100kΩ 0.1
F
F
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図5 4.5 ∼ 8 V 入力電圧の電力変換効率データ
(560 kHz スイッチング)
(560 kHz スイッチング)
100
100
95
95
90
90
効率(%)
効率(%)
図4 8 ∼ 14 V 入力電圧の電力変換効率データ
85
85
80
80
75
75
70
6
8
10
12
電源入力電圧 V cc(V)
14
70
16
(6 ) 三角波発振器
4
5
6
7
電源入力電圧 V cc(V)
8
9
チャネル3:昇圧(10 V/800 mA)
三角波発振器の発振周波数はタイミング抵抗接続端子
この場合の電力変換効率を図5に示す。入力電圧が低い
(RT)に 28 ∼ 6 kΩの抵抗を接続することで 200 ∼ 800
ことにより,ラインの電流増加による構成素子抵抗分の電
kHz の間で任意に設定できる。三角波の振幅は 1.3 ∼ 2.3 V
力損失増大のために入力電圧 8 V 以上の場合よりも効率は
であり,各チャネルの PWM コンパレータの基準電圧と
低下するが,89 ∼ 91 %と比較的高い効率となっている。
して供給されている。
あとがき
応用回路例
液晶モニタ用電源制御 IC である FA7711V の概要を紹
図3に FA7711V の応用回路例を示す。入力電圧範囲が
変わることで出力電圧が変わり,出力電圧の検出抵抗の回
介した。
現在,表示機器の分野ではモニタサイズの大小によらず,
路定数が変更となる。入力電圧が 8 V 以上の場合,電源の
従来の CRT モニタから液晶モニタへの置換えが急速に進
入出力条件は以下のとおりである。
み,電源の小型・薄型化およびこれに伴う低消費電力化の
(1) 入力電圧(Vin)8∼ 14 V
要求が高まっている。一方,液晶モニタの低価格化要求に
(2 ) 出力電圧(Vout)
より,IC の外付け部品の削減が電源の低コスト化に対し
チャネル1:降圧(3.3 V/300 mA)
重要なアイテムとなっている。富士電機ではこうした市場
チャネル2:極性反転(−10 V/50 mA)
要求に応えるべく,今後パワー MOS 内蔵化など液晶モニ
チャネル3:昇圧(15 V/800 mA)
タ用電源制御 IC のさらなる系列化を進めていく所存であ
この場合の電力変換効率(=出力電力/入力電力)を図
る。
4に示す。出力部の高速スイッチングにより IC での損失
を抑えることで 91 ∼ 93 %の高い効率を実現している。
入力電圧が 8 V 以下の場合,電源の入出力条件は以下の
とおりである。
(1) 入力電圧 4.5 ∼ 8 V
(2 ) 出力電圧
チャネル1:降圧(3.3 V/300 mA)
チャネル2:極性反転(−7.5 V/50 mA)
参考文献
(1) 山田谷政幸.LCD パネル用電源 IC.富士時報.vol.74,
no.10,2001,p.561- 563.
(2 ) 野村一郎.1 チャネル CMOS DC- DC コンバータ制御 IC.
富士時報.vol.73,no.8,2000,p.432- 435.
(3) 遠藤和弥.6 チャネル DC- DC コンバータ用 IC.富士時報.
vol.71,no.8,1998,p.438- 441.
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*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。