The World Leader in High Performance Signal Processing Solutions 高速アナログ回路技術の 基本を正しく理解して正しく設計する (前編) アナログ・デバイセズ株式会社 石井 聡 アジェンダ 【前編】 1. イントロダクション 2. 「大きさ」を表すデシベル(dB)とdBmの考え方 3. dBmをちょっと基本クイズで考える 4. dBに関連して出てくる用語 5. 電圧と電流は伝送線路内を波として伝わっていく 【後編】 6. 伝送線路と特性インピーダンス 7. 電圧と電流が反射する「反射係数」 8. 低雑音設計で重要なNF(ノイズ・フィギア)の理解 9. 実際のデータシートを引用した用語の意味合い 2 Analog Devices Proprietary Information © その2 【後編】も 是非ご覧ください 3 このセッションでのゴール アナログ信号もデジタル信号も周波数が高速化 高周波回路技術的な要素が必要になってくる アナログ・デバイセズの高速アナログ製品をどのように活用するか 顧客/同僚/発注先の高周波回路的な要求/話題/仕様をどのよう に理解するか 高周波回路で用いられる用語、技術を理解できます 実際の設計業務に使える内容 高速アナログ・デジタル信号の基板上の振る舞いも理解 高速回路が初めての方でも理解できるように説明します! 4 Analog Devices Proprietary Information © なぜ高速アナログ回路のセミナーなのか 回路設計・仕様がどんどんハイスピード化している 数10MHz~100MHzを超えたあたりがハイスピード回路の入り口 高周波回路技術や用語が多用される(知識として知っておく必要あり) 特性インピーダンスや伝送線路(同軸ケーブル、プリント基板)など、 高周波回路的な振る舞いが回路の動作上見えてくる 高周波回路は当然ながら同軸ケーブルなどの伝送線路をもちいる 高周波回路のスミスチャートやSパラメータ 3GHz といった聞きなれない用語が出てくる 高速デジタル回路も・・・ LVDS, シリアルATA, IEEE-1394, USB 2.0 CPUバスラインなどなど 500MHz ・・・プリント基板上やリード線内の電圧や電流の うごきを伝送線路として考える必要あり 100MHz 5 Analog Devices Proprietary Information © ADIの高速アナログ製品のカテゴリ(一部の例) 高速アナログ製品として取り扱うもの ADC DAC Pipelined High Speed SAR ΔΣ 汎用 AMP ゲインブロック 電流帰還 高速電圧帰還 VGA ADCドライバ ビデオ用高速 RF (Radio Frequency) 高周波 (色々な製品 がある) 汎用 計測アンプ 高精度 一番基本的な用語 RF (Radio Frequency; 高周波) IF (Intermediate Frequency; 回路内部で処理するための中間周波数) 6 Analog Devices Proprietary Information © 2. 「大きさ」を表すデシベル(dB)とdBmの考え方 dBとdBmは高周波的な回路設計をするときに、必ず出て くる「大きさ」を表す単位です。実際の大きさとどのような 意味的違いがあるかをぜひ知ってください 「xxdBmって何V?」・・・「デシベルでしゃべる高周波回路 屋さん」とご自身の電圧レベルでの理解との間を 橋渡しでき、他者との意思疎通がスムースになります 7 Analog Devices Proprietary Information © dB, dBmはハイスピード・デザインでは 必須の用語 高周波回路や高速アナログ回路では dB値 対数で考えるもの(一部例外もあり) B[V] D[W] A[V] C[W] AMP 電圧増幅率 電力増幅率 8 -20 -10 -5 -3 0 3 5 10 20 このあたりは覚えて おいていただくと良 いです 黄色はとくに重要 電圧比 0.1 0.3 1/√3 1/√2 1 √2 √3 3 10 電力比 0.01 0.1 0.3 0.5 (1/2) 1 2 3 10 100 ● 電圧でも電力でも(抵抗が同じなら)dB値は 同じになる P = I2R = V2/Rだから ● dBがマイナスになるからと言って比率自体が マイナスになるのではありません log, 対数の考え方を日常生活でイメージ 取り扱いしやすい数字、数比になる 木星周回半径 778,412,010,000m 土星周回半径1,426,725,400,000m 比率が約2倍 dB相当だと、119と122、その差は3dB 9 白血球半径 ウイルス 0.000,01m 0.000,02m 比率が2倍 dB相当だと、-50と-47、その差は3dB dBだと複数接続されたアンプの利得が足し算でOK! 合計の利得は 25 x 43 x 18 = 19350 プリアンプ 25倍 プリアンプ 28.0dB ゲインブロック パワーアンプ 43倍 18倍 ゲインブロック パワーアンプ 32.6dB 25.1dB 合計の利得は 28.0 + 32.6 + 25.1 = 85.7dB dBだと足し算で計算できるので見積もりがしやすい 10 Analog Devices Proprietary Information © dBm(ディービーエム)の意味合い dBは「相対値」だが、dBmは 1mWを基準とした絶対値 真値(実際の電力) 0.000000001mW 0.000001mW (1nW) 0.001mW (1μW) 0.1mW 1mW 10mW 1000mW (1W) 100W 普通に「マイナス90」 とかいうが、驚異的 小ささ! dBm -90dBm -60dBm -30dBm -10dBm 0dBm +10dBm +30dBm +50dBm dBmが+10になれば実際の電力 は10倍になる(1mW, 10mW, 100mW) -10になれば実際の電力は1/10 11 Analog Devices Proprietary Information © 実際の波形で感じをつかむ。10dBは電圧だと3:1 +6dBm 630mV PK 4mW 50Ω負荷で考えている 10dB 3:1 -4dBm 200mV 0.4mW 10dB 3:1 -14dBm 63mV 0.04mW 10dB 3:1 10dB 3:1 -24dBm 20mV(ほとんど見えない) 0.004mW 12 -34dBm 6.3mV(ホントに見えない) 0.0004mW 2. まとめ dB(デシベル)、dBm(ディービーエム)は普通の数値(真数)から、大 きさ(比)に応じて縮尺を変えたもの dBmは1mWを基準にしている dBで+40とか、-60とかいうちょっとした大きさでも、実際の波形の大 きさはかなり異なる dBで+10になれば電力が×10, 13 dBが-10になれば電力が÷10 Analog Devices Proprietary Information © 3. ちょっとここで基本クイズ この計算は実はちょっとポイントがあります。意味合いを 良くご理解いただければと思います dBmで表された数値と実際のアンプの信号振幅の関係 を見ていくことで、アンプに求めるべき要求 (電源電圧・振幅範囲)が理解できると思います 14 問題 高周波回路でよく用いる 「dBm」という単位は、 電力を現すものです。 0dBmは1mWです ?V R1が実際の負荷 抵抗に相当します R2 50Ω 100MHz サイン波 R1 50Ω R1に10dBmの信号電力がかかってるとき ここの信号源の振幅(ピーク値)は何V? 15 Analog Devices Proprietary Information © R1に10dBmが・・・というところがポイント 1. 10dBmとは R1に10dBmの信号電力 R2 50Ω R1 50Ω という計算により10mWが得られますが、 ややこしいので、スライド10のような表で 求めたほうが簡単です 2. R1に発生する10mWとは 16 オームの法則で求まります。しかし この0.71Vは実効値であり・・・(続く) R1の端子電圧が0.71Vいうのは 3. R1の端子電圧が実効値0.71Vとは 実効値はピー クの1/√2 ここが0.71V ピークは実効値の√2倍 つまり0.71×√2 = 1V ピーク電圧は1V P-Pは2V! 4. ところがさらにR2があるので R2 50Ω 17 R1/R2で分圧さ れているので 信号源は ピーク電圧2V! P-P 4V! R1 50Ω ここが ピーク電圧1V P-P 2V 実際の振幅はだいぶ大きい R1/R2で分圧されて いるので信号源は ピーク電圧2V! P-P 4V! 送信端 R2 50Ω ここが ピーク電圧1V P-P 2V 受信端 同軸ケーブル50Ω R1 50Ω 100MHz サイン波 10dBmを 発生する ようにセットす ると 18 高周波信号発生器 ここが ピーク電圧1V P-P 2V 50Ωで終端(ターミネート)しているのでこうなるが 送信端 信号源抵抗 同軸ケーブル50Ω 受端で50Ωで 終端されているので ピーク電圧1V P-P 2V 受信端 R2 50Ω R1 50Ω アンプ自体で考えると ピーク電圧2V! P-P 4V! つまり10dBm(10mW)出す にはP-P 4Vをアンプが出力 できないといけない 19 10dBmを 発生する ようにセットす ると 高周波信号発生器 R1がついていな い(オープンのま ま)状態だと ピーク電圧2V P-P 4V 3. まとめ dBmから普通の数値(真数)に戻して考える dBmは負荷抵抗に加わる電力 普通の数値に戻した電圧(電流も同じ)は実効値になる ピーク値はその√2倍。ピーク to ピークはさらにその2倍 信号源抵抗があるので、アンプに要求される振幅はさらにその2倍! アンプに求められる要求(電源電圧・振幅範囲)をこれで算出する 20 Analog Devices Proprietary Information © 4. dBに関連して出てくる用語 高周波的な回路設計をするときに、dBを使った関連した 用語が複数あります。それぞれの意味合いだけでも覚え ていただければと思います 21 dBに関連して出てくる用語 ① 電力を表すもの dBm さきほど説明。1mWを基準にした大きさ dBm/Hz(MHz) 1Hzや1MHzあたりの密度電力 その他にも dBuV, dBVなど電圧を表すものもあり 中心周波数(キャリア)からの低減率で考えるもの(次のスライド) 22 dBc dBc/Hz キャリアと比較したスプリアス(雑音)の大きさ 上記の1Hzあたりの大きさ(密度電力) Analog Devices Proprietary Information © dBcとdBc/Hzについて:特にPLLとかCLKで出てくる この信号対SSB雑音 の比率をキャリア比と してdBc/Hzで表す ノイズマーカを使う キャリア (本来の信号) 1HzあたりのSSB雑音。 ノイズマーカという測定 方法で換算する 23 SSB: Single Side Band、片側側波帯 この信号対雑音の比 率をキャリア比として dBcで表す この場合は-50dBc スプリアス (雑音) dBに関連して出てくる用語 ② 増幅器の特性を評価するときに用いるもの(次のスライド) P1dB IP3 3dBポイント アンプの増幅率が入力レベルを上げていくと1dB 低下するところ アンプのひずみ特性を評価するもの 増幅率が周波数を上げていくと3dB低下するところ アンテナなどの利得で用いるもの 24 (ADI製品とはあまり関係ありませんが) dBd ダイポールアンテナを基準にしたアンテナ相対利得 dBi 全方向均一アンテナを基準にしたアンテナ相対利得 なお、0dBd = 2.14dBi Analog Devices Proprietary Information © 1dB利得圧縮点:P1dBについて:パワー系アンプ、ゲイ ンブロックで出てくる 1dB利得圧縮 点(P1dB) P1dB(out) 飽和 出力電力 飽和してくる 飽和 P1dB(in) 飽和 入力電力 P1dBが大きければリニアリティが高い、高出力アンプ。しかし消費電流も大きい(バ イアス自動制御というアンプもあるが)です P1dBはアンプの入力側で規定している場合と出力側での場合があるので良く注意 してください 25 Analog Devices Proprietary Information © アンプのひずみ特性:IP3 3次インターセプトポイント。パ ワー系アンプやゲインブロック、ミキサで出てくる P1dBとも関係している アンプのひずみ特性を示す数値 信号源1 100MHz スペクトラム アナライザ 信号源2 100.1MHz このレベルを両方同 時に数dBステップで 大きくしていく 26 Analog Devices Proprietary Information © アンプのひずみ特性:IP3 3次インターセプトポイント 信号源1 100MHz の信号レベル 信号源2 100.1MHz の信号レベル ひずみで 出てくる オバケ 27 ひずみで 出てくる オバケ Analog Devices Proprietary Information © アンプのひずみ特性:IP3 3次インターセプトポイント IP3 出力電力 dBm 40dBm 20dBm IP3(out) 信号源 入力が1dB UPする と出力電力も1dB UPする この場合は利得 60dBとしてある オバケ 信号源入力が1dB UPするとオバケは 3dB UPする 0dBm -60dBm 28 飽和してくる (P1dB) -40dBm 入力電力 dBm IP3も入力で表現する場合 と出力で表現する場合があ ります。見掛け上大きく見え る方で表現されていること が多いです(アンプなどは出 力)。 同僚やメーカとの話し合い では「入力?出力?」をよく 確認してください IP3(in) -20dBm 0dBm 5. 電圧と電流は伝送線路内を波として 伝わっていく 高周波信号は信号の変動(周波数)に対して、信号がつ たわる経路(ケーブルやパターン;伝送線路)の長さが無 視できなくなります。そのため経路上で信号を波として考 える必要があります。 29 Analog Devices Proprietary Information © 電圧や電流は伝送線路内を波として移動していく f=50MHz。波長 は4mになる。 位相速度が2×108m/sのため、 波長は6mでは無い 15 電圧 [V] 10 デジタル信号も 波として移動 5 0 -5 0.2m@1nsだけ -10 進んでいる -15 0 位相速度2×108m/sで負荷 側に進んでいる。電流も同じ 2 4 6 同軸ケーブル上の位置 [m] 8 10 負荷抵抗 ● 周波数50MHz ● 1nsごとに表示している ● 位相速度というものがあり、光速ではない ここでは2×108m/s(一般に使われる同軸ケー ブルでの位相速度) 30 Analog Devices Proprietary Information © デジタル信号が伝わるようすも同様 デジタル信号も 波として移動 進む波 (たとえば5V) 信号源 31 進む波 信号が伝わるのはロープ上を波が伝わるのと同じ イメージ実験をしてみましょう 7.の反射係数の様子もわかります ① ロープを繰り返し振り、波が伝わるようす(連続波)を 確認します ② ロープをひと振りして波が伝わるようす(パルス・デジ タル信号)を確認します ③ ①および②から電気信号の伝わるようすを思い描いて みてください 32 Analog Devices Proprietary Information © 前編全体のまとめ dBという概念はダイナミックレンジの広い信号/回路を取り扱うときに 便利な数字 dBmは信号源抵抗と、負荷抵抗の両方を考える必要がある 負荷抵抗に現れる電力を考えるのが一般的 正しく理解して、正しく設計することが肝要 基本となる用語や意味合いが「そのイメージで」わかるだけでも、開発 業務がスムース 信号が伝わるようすは「波」 後編では、特性インピーダンスや信号の反射に言及 33 Analog Devices Proprietary Information ©