AN-1085 アプリケーション・ノート 乗算型 DAC―AC/任意リファレンス・アプリケーション 著者: Liam Riordan 乗算型DACは、任意の電圧信号またはAC電圧信号の乗算に最適 なビルディング・ブロックを提供します。バッファ付き電流出 力DACアーキテクチャでは、非反転ゲイン・アンプ構造を採用 しています。乗算型DACはR-2Rアーキテクチャを採用して、図 1 に示す可変RDAC抵抗の機能を実現しています。VREFピンから 見たDACの入力インピーダンスは固定ですが、出力インピーダ ンスは、等価な可変RDAC値を与えるコードに依存して変化し ます。 概要 乗算型 D/A コンバータ(DAC)は、任意または AC のリファレン ス信号を使って動作できる点で従来型の固定リファレンス DAC と異なります。このアプリケーション・ノートでは、電流出力 乗算型 DAC の原理について詳しく説明し、これらの DAC が AC 電圧および任意電圧のコンデショニングに適している理由を 説明します。 このアプリケーション・ノートで使用するデバイスAD55xxと AD54xxは、www.analog.com/MultiplyingDACに掲載している乗 算型DACを意味します。 基本的な波形減衰 AC 信号ゲインを調整するシンプルな方法は、従来型の反転オペ アンプ・ステージを使う方法であり、十分な帯域幅を持つアン プを選択して、次式に従ってゲインを調節します。 VOUT = −[RDAC/RFB(VIN)] 機能ブロック図 IOUT DAC AC REFERENCE RFB 0V A1 0V ATTENUATED REFERENCE 09275-001 RDAC 図 1.反転ゲインの設定 Rev. 0 アナログ・デバイセズ社は、提供する情報が正確で信頼できるものであることを期していますが、その情報の利用に 関して、あるいは利用によって生じる第三者の特許やその他の権利の侵害に関して一切の責任を負いません。また、 アナログ・デバイセズ社の特許または特許の権利の使用を明示的または暗示的に許諾するものでもありません。仕様 は、予告なく変更される場合があります。本紙記載の商標および登録商標は、各社の所有に属します。 ※日本語データシートは REVISION が古い場合があります。最新の内容については、英語版をご参照ください。 ©2010 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 社/〒105-6891 東京都港区海岸 1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話 03(5402)8200 大阪営業所/〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原 3-5-36 新大阪トラストタワー 電話 06(6350)6868 本 AN-1085 アプリケーション・ノート 目次 概要......................................................................................................1 シグナル・コンデショニング用に重要なDAC仕様 ...................... 5 基本的な波形減衰 ..............................................................................1 乗算帯域幅...................................................................................... 5 機能ブロック図 ..................................................................................1 アナログ総合高調波歪み .............................................................. 5 乗算型DAC .........................................................................................3 乗算フィードスルー誤差 .............................................................. 5 ゲインの追加 ..................................................................................3 オペアンプの選択.............................................................................. 6 正の電圧入力/正の電圧出力 .........................................................3 シングルエンド/差動変換構成 .....................................................4 安定性の問題 ..................................................................................4 Rev. 0 - 2/6 - AN-1085 アプリケーション・ノート 乗算型DAC つまり、乗算型 DAC の出力信号は、リファレンス入力とデジタ ル入力値の積に比例します。 乗算型DACでは、電流がIOUT1 ノードに接続された仮想グラウ ンドまたはグラウンド・ノード(デバイスによってはIOUT2 ノー ド)に流れるため、出力電圧のグリッチは非常に小さくなります (図 2 参照)。 ゲインの追加 この構成で IOUT DAC を使う主要な利点の 1 つは、内蔵 RFB 抵 抗が RDAC の等価抵抗と一致するため、ゲイン温度係数の誤差 が非常に小さくなることです。 VIN より大きい出力電圧が必要なアプリケーションでは、外付け アンプを追加してゲインを増やすか、あるいはシングル・ステ ージで実現することもできます。 出力アンプをユニポーラ・モードで接続した場合、図2に示すよ うに、出力電圧は次式で与えられます。 図 3 に示す推奨構成を使って、回路のゲインを増やします。R1、 R2、R3 はすべて同じ温度係数を持つ必要がありますが、DAC の温度係数に一致する必要はありません。 D V REF 2n 正の電圧入力/正の電圧出力 ここで、 Dは、DACに設定されるデジタル・ワード(非整数値)。 D = 0~255 (8ビットAD5450) = 0~1023 (10ビットAD5451) = 0~4095 (12ビットAD5452) = 0~16,383 (14ビットAD5453) = 0~65,536 (16ビットAD5543) n =ビット数。 乗算型DAC構成を使って正電圧出力を発生させるときは、シグ ナル・チェーンへ反転アンプを追加して出力を再反転させるこ とができます。もう 1 つの方法は、図 4 のような抵抗を内蔵す るデバイスを選択する方法です。内蔵抵抗を使う方法の利点は、 これらの温度係数がほぼ一致していることです。 AC REFERENCE VREF 0V C1 RFB VDD IOUT1 AD55xx SYNC SCLK A1 0V GND SDIN ATTENUATED REFERENCE GND MICROCONTROLLER 09275-002 VOUT 図 2.乗算型 DAC、VOUT = 0 V~−VREF AC REFERENCE 0V VREF SYNC C1 RFB VDD R1 AD55xx SCLK IOUT1 A1 0V GND SDIN R3 R2 GND GAINED OUTPUT MICROCONTROLLER R2 + R3 R1 R2 × R3 R1 = R2 + R3 図 3.乗算型 DAC 使用による信号ゲイン Rev. 0 - 3/6 - 09275-003 GAIN = AN-1085 アプリケーション・ノート A2 C2 RCOM VREF ROFS RFB C1 AC REFERENCE ATTENUATED REFERENCE AD55xx R1 IOUT1 0V VDD A1 0V GND SCLK SDN GND 09275-004 SYNC MICROCONTROLLER 図 4.乗算型 DAC、VOUT = 0 V~VREF A2 RCOM 1.5V A3 C2 VREF ROFS RFB C1 AC REFERENCE DIFFERENTIAL OUTPUT VOLTAGE AD55xx R1 IOUT1 1.5V VDD A1 GND SCLK SDN 1.5V A4 GND 09275-005 SYNC MICROCONTROLLER 図 5.シングルエンド/差動変換構成 帰還コンデンサC1 がDACの内部RFBと並列に接続されます(図 2 参照)。C1 が小さ過ぎると出力で歪みが発生し、大き過ぎると システムの帯域幅に悪影響を与えます。DACの内部出力容量は コードにより変化するため、C1 の正確な値を決めることは困難 です。この値は、次式で近似されます。 シングルエンド/差動変換構成 この構成を使って差動出力を発生するときは、2 個のオペアン プを追加する必要があります。詳細については、CN-0143 サー キ ッ ト ・ ノ ー ト 「 Single-Ended-to-Differential Converters for Voltage Output and Current Output DACs Using the AD8042 Op Amp」を参照してください。 C1 20 安定性の問題 1 GBW ここで、 GBW は使用するオペアンプの小信号ユニティ・ゲイン帯域幅積。 CO は DAC の出力容量。 目的の波形コンデショニング信号を実現するために考慮しなけ ればならない重要部品は、補償コンデンサです。DACの内部出 力容量によりオープン・ループ応答内に極が導入されるため、 クローズド・ループ・ランプ発生回路でリンギングや不安定が 発生することがあります。これを補償するため、通常、外付け Rev. 0 CO 2 R FB - 4/6 - AN-1085 アプリケーション・ノート シグナル・コンデショニング用に重要なDAC仕様 乗算帯域幅 乗算帯域幅は、ゲインが-3 dBとなる入力周波数で表します。与 えられたデバイスに対して、乗算帯域幅は振幅と選択した補償 容量の関数になります。 図 6 に、AD5544、AD5554、または AD545x電流出力DACの乗算帯域幅のプロットを示します。これ らのDACは最大 12 MHzまでの信号を乗算することができます。 一緒に使用している低消費電力 AD8038 オペアンプは 350 MHz の帯域幅を持っているため、このスケールでオペアンプから発 生するダイナミック誤差は小さくなっています。 V2 V3 V4 V5 FREQUENCY (Hz) 図 7.総合高調波歪み 乗算フィードスルー誤差 乗算フイードスルー誤差は、全ビット 0 をDACにロードしたと きの、リファレンス入力からDAC出力への容量フイードスルーに より発生する誤差として定義されます。理論的には、DB0 まで 1 ビット低下するごとに、ゲインに 6 dBの減衰が発生します (図 8 参照)が、下位ビットほど、乗算フイードスルーはデバイスのゲ インに多く影響を与えます。これは、図 8 で、平坦な直線が下位 ビットほど上向きになることにより示されます。例えば、14 ビ ットDACのDB2 では、1 MHzで 72 dBになるはずですが、実際に はフイードスルーのため 66 dBになります。 TA = 25°C VDD = 5V 0 –3 10 = ±2V, AD8038 C COMP = 1pF = ±2V, AD8038 C COMP = 1.5pF = ±15V, AD8038 C COMP = 1pF = ±15V, AD8038 C COMP = 1.5pF = ±15V, AD8038 C COMP = 1.8pF 100k 1M 0 –10 10M 100M GAIN (dB) –9 10k VREF VREF VREF VREF VREF 09275-079 –6 FREQUENCY (Hz) 図 6.乗算帯域幅 アナログ総合高調波歪みは、乗算された波形信号に含まれる高 調波の数学的な表現です。基本波値 V1 に対する DAC 出力の高 調波(V2、V3、V4、V5)の rms 和の比で、次式で表わされます。 THD 20 log Rev. 0 DB11 DB10 –30 DB9 –50 アナログ総合高調波歪み DB12 –20 –40 DB8 DB7 DB6 DB5 –60 DB4 DB3 –70 DB2 –80 10k TA = 25°C LOADING ZS TO FS ALL ON DB13 VDD = 5V VREF = ±3.5V CCOMP = 1.8pF AD8038 AMPLIFIER 100k 1M 10M FREQUENCY (Hz) V2 2 V3 2 V4 2 V5 2 V1 図 8.乗算フィードスルー誤差 - 5/6 - 09275-108 3 GAIN (dB) V1 09275-007 MAGNITUDE (dB) AC リファレンス入力信号または任意のリファレンス入力信号を 乗算する際に考慮しなければならない幾つかの重要な AC 仕様 としては、乗算帯域幅、アナログ総合高調波歪み、乗算フイー ドスルー誤差などがあります。 100M AN-1085 アプリケーション・ノート オペアンプの選択 乗算型 DAC 回路の性能は、選択したオペアンプがラダー出力で ヌル電圧を維持し、電流/電圧変換を実行する能力に強く依存し ます。最適 DC 精度を得るためには、DAC 分解能と釣り合った 誤差を維持するために、低いオフセット電圧と低いバイアス電 流を持つオペアンプを選択することが重要です。詳細なオペア ンプ仕様は、デバイスのデータシートに記載されています。 ガイドラインは、リファレンス信号周波数の 10 倍の-3 dB 帯域 幅を持つオペアンプを選択することです。 リファレンス入力が比較的高速な信号を持つアプリケーション の場合、信号品質の低下を回避するため広帯域幅で高スルーレ ートのオペアンプが必要です。オペアンプ回路のゲイン帯域幅 (GBW)は、帰還回路のインピーダンス・レベルとゲイン構成に より制限されます。必要とされる GBW を求めるときの有効な 表 1 に、乗算アプリケーションに使用できるオペアンプの選択 肢を示します。 大きな高周波信号の歪みを制限するためにはオペアンプのスル ーレート仕様を考慮する必要があります。AD54xx と AD55xx デ バイスに対しては、一般にスルーレート 100 V/µs のオペアンプ は十分な性能です。 詳細については、www.analog.com/MultiplyingDACの乗算型DAC 製品ページを参照してください。 表 1.アナログ・デバイセズ高速オペアンプの選択肢 Part No. Supply Voltage (V) BW @ ACL (MHz) Slew Rate (V/µs) VOS (Maximum) (µV) IB (Max) (nA) Packages AD8065 AD8066 AD8021 AD8038 5 to 24 5 to 24 5 to 24 3 to 12 145 145 490 350 180 180 120 425 1500 1500 1000 3000 0.006 0.006 10,500 750 ADA4899 AD8057 AD8058 AD8061 AD8062 AD9631 5 to 12 3 to 12 3 to 12 2.7 to 8 2.7 to 8 ±3 to ±6 600 325 325 320 320 320 310 850 850 650 650 1300 35 5000 5000 6000 6000 10,000 100 500 500 350 350 7000 SOIC-8, SOT-23-5 SOIC-8, MSOP-8 SOIC-8, MSOP-8 SOIC-8, SC70-5, SOT-23-5 LFCSP-8, SOIC-8 SOT-23-5, SOIC-8 SOIC-8, MSOP-8 SOT-23-5, SOIC-8 SOIC-8, MSOP-8 SOIC-8, PDIP-8 ©2010 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 商標および登録商標は各社の所有に属します。 Rev. 0 - 6/6 -