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NTCG
RoHS指令対応:EU Directive 2002/95/ECにもとづき、免除さ
れた用途を除いて、
鉛、
カドミウム、水銀、
六価クロム、および特定臭素
系難燃剤のPBB、PBDEを使用していないことを表します。
Series
エアコンや冷蔵庫、電子ジャーなど、家電製品の温度センサと
されたリチウム電池パックやニッケル - 水素電池パックの温度
して多用されているNTCサーミスタは、回路動作を温度の影
監視用ニーズが急速に高まってきました。
響から安定に保つための温度補償用としても不可欠な部品で
す。以前はビード型、
ディスク型が主流でしたが、現在では面実
装用チップタイプが主流となり、各種エレクトロニクス機器の
小型軽量化動向に対応するためさらなる極小化が追求されて
サーミスタ素体
います。
端子電極
チップNTCサーミスタは、まず携帯用液晶テレビパネルの温
しかし、
NTCサーミスタ素体に電極を形成した従来型単板構造
度補償用として製品化され、その後、
ビデオカメラの自動焦点
のチップNTCサーミスタ(上のモデル)では、形状寸法と密接に
用モータ、ビューファインダの回路などに使用されるようにな
関係する物性上の制約から、要求特性の達成とさらなる極小化
りました。
を共に満足することは困難でした。
そして、移動体通信機器のめざましい普及やPDAなどの小型
携帯デジタル機器の相次ぐ登場、各種機器、回路の表面実装、
小型軽量化の進展を背景に、チップNTCサーミスタに対する
そこで、
これらの先進ニーズに応えるために開発されたのが、
極小化ニーズも、
1608タイプから1005タイプ、そして0603
次頁に示すモデル、積層工法を適用した新たなチップNTCサ
タイプに向けて高まってきました。
ーミスタです。内部電極を交互に重ねる積層構造の実現によ
り、単板タイプが直面していた小型化限界も無理なく克服され、
従来チップ構造の直面した限界
同一形状で製造可能な抵抗値範囲も大幅に拡大されました。
とくに、セルラ、PHSの心臓部ともいえるTCXO(温度補償型
両者の構造の違いからくる特性と形状を制御する上での差異
水晶発振器)やRFモジュール、液晶パネルの温度補償と内蔵
を表にまとめました。
1
抑制することになります。
この操作を、単板構造のチップサーミスタで実行しようとした
場合は、以下のモデルのように素体の電極間寸法 t (チップの
長さ寸法に該当)を短縮し(a)、さらに電極重なり面積(すなわち
接続端子面積)を広くすればいいのですが(b)、しかし周知のと
おり、チップ部品には、L2.0×W1.25mm(2012タイプ)、
L1.6×W0.8mm(1608タイプ)、L1.0×W0.5mm(1005
タイプ)といったEIAJによる形状タイプの標準化規格があり、
この規格を満足しながら1005タイプ以下の極小化ニーズに
比較項目
積層構造
応えようとすると、接続端子を素子の長手方向の側面に付け
単板構造
抵抗値とB定数の制御
代えたフリップタイプ 積層セラミックチップコンデンサと似た
抵抗値の狭許容差化
下の a、
bのような形状、電極デザインにも限界があります。
高周波領域における静電容量成分
低抵抗値品種の小型化
端子電極形成時の耐めっき性
: 非常にすぐれている : すぐれている : やや劣る
そして、チップNTCサーミスタの用途推移は、
この積層タイプ
の登場により、最新鋭小型機器、回路の温度補償、高精度温度
検知領域において目覚ましい延びを示す現況に至っています。
a
積層チップタイプ開発の技術背景
このように、チップNTCサーミスタ技術は、単板構造から積層
b
構造へと推移してきましたが、以下、積層チップNTCサーミス
タの優位性と課題を中心に、単板構造と比較しながらこれまで
の弊社の取り組み成果について、説明いたします。
抵抗値とB定数の制御
NTCサーミスタは、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)、Co(コバル
0603
1005
1608
2012
ト)などの遷移金属の酸化物を主成分とする半導体です。2種
以上の酸化物からなるさまざまな材料が開発されていますが、
つまり、低抵抗で、かつ高いB定数を持つ極小チップサーミス
材料に固有の比抵抗値とB定数(温度係数)の組み合わせには
タを追求する上記の例題において、単板タイプは超克し難い
制限があり、「低い比抵抗値で高いB定数」や「高い比抵抗値で
構造・物性上の限界に直面することになります。
低いB定数」の材料を得るのは、物性上の制限から極めて困難
具体的な事例としてTCXO(温度補償型水晶発振器)がありま
です。
す。この低温領域(−30∼+25℃)を補償するチップNTCサ
そこで、たとえば、B定数が高い(すなわち比抵抗値の高い)材
ーミスタには、設計の効率化と自由度を高める目的から、30∼
料を用いて、抵抗値の小さなチップサーミスタを得ようとした
150Ωクラスの低抵抗チップサーミスタが求められます。 しか
場合、素子の抵抗値Rは、
し、従来の単板構造チップにおいて、極小化による抵抗値の上
昇を吸収し、 従来の抵抗値レベルより低い値を実現するため
には、前記の例題の結果が示唆するとおり、半導体セラミクス
そのものの比抵抗値を大幅に低下させなければなりません。
しかし、 もうひとつの重要特性であるB定数は、前述のとおり、
の関係式で求められますので、
この例題のようにρがすでに決
材料の比抵抗値にほぼ比例して増減するため、抵抗値30∼
まっている場合は、素子の電極間寸法 t をできるだけ小さくす
150Ωクラスの単板型チップサーミスタのB定数は一般的に
るか、電極重なり面積sを大きくする方法で素子の抵抗値Rを
2750K程度です。
2
一方、積層構造の場合、先程の関係式における電極間寸法tと
ーアップできる極小チップを実現するためには、サーミスタ材
電極重なり面積sは、単板タイプにおける端子電極間距離(チッ
料の比誘電率そのものを制御する必要があります。
プの長さ寸法)と端子電極面積ではなく、内部電極間寸法(電極
間セラミクス層の厚さ)とそれらの重なり面積となります。
したがって、たとえばサイズをEIAJ標準の1005タイプに固定
300
しても、
チップ内部の電極層数や重なりパターンの設計により、
250
ρ25 :at 25°C
比誘電率ε
t とsをさまざまに制御できますので、高いB定数材料を適用し
ても、
チップ自体の低抵抗化と極小化を推進することが可能に
なります。半導体セラミクスを内部電極層で複数のセルに分割
する積層構造は、微小なサーミスタ素子を並列に接続したのと
200
150
100
等価なので、
これらひとつひとつの抵抗値(すなわち、内部電極
50
の重なり面積と積層数)を制御することで、個々の回路要求に
応じたB定数とさまざまな抵抗値の組み合わせも同一サイズの
0
1
10
100
1000 10000 100000
比抵抗ρ25(Ω・cm/at10MHz)
チップでラインナップできるようになります。
上はNTCサーミスタ材料の比抵抗値と比誘電率の関係です。
温度変化や熱に反応する温度補償用半導体抵抗器として回路
全般的には、比抵抗値ρが大きくなるにつれて比誘電率εが
に組み込まれるNTCサーミスタは、容量成分を持たないのが
小さくなる傾向にありますが、添加物制御などによる組成改良
理想です。とりわけ、水晶発振子の温度補償を行う場合は、高周
により、低い比誘電率領域に数十Ωから数十MΩに至るさまざ
波帯域における容量成分が大きな問題として浮上してきます。
まな比抵抗値をラインナップ。抵抗値とB定数の各種組み合わ
下に直流回路用(汎用タイプ)NTCサーミスタのインピーダン
せにおいて、最適な周波数特性を実現しています。
ス周波数特性例を示します。
もちろん、移動体通信機器用TCXOのニーズに対応するため
に、新たな低誘電率材料も開発。問題となる10∼40MHz帯
域において3pF以下の低静電容量値を達成するとともに、内
1800
部電極配置を最適化することにより、低抵抗化と高B定数化を
インピーダンス|Z|(Ω)
1600
両立しました。 下に水晶発振子温度補償回路の構成と効果例
1400
を示します。
1200
1000
800
高温領域補償
600
C
低温領域補償
C
R
C
400
C
200
0
R
1k
10k
100k 1M 10M 100M
周波数(Hz)
1G
- t゜
Th 2
VC
NTCCM10054BH302JC
3kΩ・4100K・3pF max.
100kHzあたりから容量成分の影響が現れ、水晶発振子の発
振周波数である10∼40MHz帯域においてインピーダンスが
発振周波数偏差(ppm)
急落してしまいます。水晶発振子の温度補償を行うためには、
このような急激な特性変化を避ける対策、すなわちチップの容
量成分を極小化する技術が必須となります。
しかし、小型・大容量を追求する積層セラミックチップコンデン
サと基本的に同様の多層電極構造を持つ積層チップNTCサー
ミスタは、容量成分の抑制というテーマにおいては単板構造に
比べて明らかに不利です。この難題を克服し、
TCXOをフォロ
3
X
- t゜
Th 1
C
NTCCM10053EH400JC
40Ω・3250K・3pF max.
20
補償あり
補償なし
10
0
-10
-20
-20
0
25
50
温度(℃)
70
90
たとえば、単板構造の場合、1005タイプでそれまでの1608
チップ部品の端子電極は、はんだ耐熱性、はんだ付け性を考慮
タイプと同じ抵抗値を得るためには、比抵抗値が38%も違う
し、通常は電気めっきにより、ニッケル+スズ(Ni+Sn)膜を形
(低い)材料が必要になります。また、前記したとおり、比抵抗値
成しています。
の低下に伴ってB定数も小さくなるため、
1005タイプで1608
しかし、NTCサーミスタ素体は、還元雰囲気に対し、非常に脆弱
タイプと同一の抵抗値とB定数を実現することは非常に困難と
な性質を持っているため、
コンデンサなどに適用されている一
なります。
般的な端子電極めっき条件では、めっき時に発生する水素ガス
一方、積層構造では内部電極の重なり面積と電極間寸法を広
でサーミスタ素地表面が還元、浸食され、抵抗値変化や、素体
範囲に変えることができるため、下の特性マップと特性表組に
表面にまでめっき膜が形成されやすいなどの問題が発生しま
示すとおり、単板構造に比べて大幅な低抵抗化を実現でき、
す。以下にめっき前の素体表面状態と無電解Niめっき、および
1005タイプで1608タイプと同じ特性値を実現できます。
電解Niめっきを施した後の表面状態を示します。
a めっき処理前の素体表面状態
5000
表面の色の違いは、
個々の結
R 25 :at 25°C
晶粒子方位の違いによるも
4500
ので、正常な状態を示してい
B定数(K)
積層シリーズ
ます。
4000
3500
単板シリーズ
3000
2500
1
10
100
1k
10k
抵抗値 R25(Ω)
100k
1M
b 無電解Niめっき処理後の表面状態
めっき液により表面が著しく
浸食されています。浸食スピ
ードは結晶方位により異なり
ますが、
結晶粒子間の粒界層
B定数[+25/+85℃] : 3250K±3% 品種例
が完全に溶かされて結晶粒
1005、
1608タイプ共通スペック
子が剥脱した箇所も数多く観
察されます。
品名
□□ = 10:1005 /16:1608
公称抵抗値(Ω)
[at 25°C]
NTCG□□3EH220
22
NTCG□□3EH300
30
NTCG□□3EH330
33
NTCG□□3EH400
40
結晶剥脱に加え、
結晶粒子表
NTCG□□3EH470
47
面 の活性化エネルギーの高
NTCG□□3EH680
68
NTCG□□3EH101
100
NTCG□□3EH131
125
NTCG□□3EH151
150
c 一般的な電解Niめっき処理後の表面状態
いポイント(不安定な部分)が
欠損するボイド(穴)も多くみ
られます。
また、
このように形状が異なっても同一の製品抵抗値とB定数
が得られるため、回路パターンの高密度化に際しても回路定数
を変更する必要がないなど、回路設計上非常に扱いやすいメ
そこで、この問題を回避するために、めっき工程前にサーミス
リットも提供できます。
タ素体表面にガラスなどの無機膜を形成したり、Al(アルミニ
ウム)やSi(ケイ素)などを拡散させ改質層を形成する手法が採
られてきました。
4
しかし、
このような前処理工程の導入は無視できないコストア
ています。スピネル構造の金属酸化物結晶は、通常は絶縁物に
ップ要因となります。プライスパフォーマンスを厳しく追求する
近い高い抵抗値を持ちますが、NTCサーミスタは結晶内部で
家電機器、移動体通信機器などの要請に応えるために、私たち
正孔の移動が起きやすく半導性を示します(下に積層チップタ
は、
このような前処理を必要としない新たなめっき法の開発に
イプの製造プロセスを示します)。
取り組み、量産プロセスに組み込める安定した新めっき法を世
界に先駆けて完成しました。新開発めっき法を施したサーミス
タ素体表面の結晶状態を下に示します。
めっき処理後の素体表面状態
めっき液による腐食はみられ
ず、結晶剥脱やボイドの発生
もありません。
めっき液による溶解はみられず、めっき前の素地表面とほとん
なお、サーミスタは「温度に敏感な抵抗体」を意味するTher-
ど変わらない状態を保っています。また、
これは当然のことで
mally sensitive resistorの略語で、NTCサーミスタのNTC
すが、積層構造の場合、製品の抵抗特性は素体内部の電極に
は、負特性(Negative Temperature Coefficient)、すなわ
挟まれたサーミスタ層が支配しているため、めっき工程におけ
ち、温度上昇とともに抵抗値が下がる負の温度特性を意味する
る表面の浸食のみならず、ガス雰囲気など、
さまざまな外的要
用語の頭文字です。
因の影響を受けにくい点も、単板構造に比べ優れているとい
えます。
1000k
NTCG104LH104J
(R25:100kΩ)
100k
本稿では、チップNTCサーミスタの構造と特性の関係につい
て、最新の積層チップタイプを中心に述べてきました。温度セ
抵抗値(Ω)
10k
ンサ用途を含むNTCサーミスタのチップ化率は、すでに全使
用量の70%を超え、携帯機器の小型軽量化と多機能化の目
覚ましい進展に伴い、極小積層チップタイプの搭載率も急増し
NTCG104BH332J
(R25:3.3kΩ)
1k
100
ています。
今後は温度補償回路ばかりでなく、温度センサ用途にも積層チ
10
NTCG103EH300J
(R25:30Ω)
NTCG104BH102J
(R25:1kΩ)
ップタイプの起用が進むものと考えられますので、これらの先
1
-40 -20
進的なニーズにいち早くお応えするために、形状、特性ライン
ナップ拡充計画を推進するとともに、許容差のさらなる狭小化
0
20
40 60
温度(℃)
80 100 120
を追求した高精度極小品種の開発に鋭意取り組んでまいります。
NTCサーミスタ材料として一般に使われるのは、
Ni(ニッケル)、
Mn(マンガン)、Co(コバルト)などの遷移金属の酸化物からな
る半導体セラミクスで、2種あるいはそれ以上の複合酸化物を
組成とするスピネル構造の結晶粒が集まった多結晶体となっ
5
TFL-SA01JA 2011.01.05