Apex-AN09 電流制限

AN09
APEX – AN09
AN09 電流制限
Product Innovation From
電流制限
適切な電流制限のないパワー・オペアンプは危険を伴いま
す。つまり、動作するかもしれませんが、いつ不具合が発生
するかわかりません。パワー・オペアンプには、複雑な回路
が使用されてきていますが、多くの場合、簡単でコスト効率
のよい回路が使用されています。しかし依然として安全のた
めの技術的課題が残っています。 その目標とするところは、
SOA を侵すことなく負荷に必要な電力を供給することです。
基本的な電流制限
パワー・オペアンプにおける電流制限回路は、出力段の近
辺のみに置かれているため、出力電流を予め決められたレベ
ルに、瞬時に(サブ・マイクロ秒で)減少させることができま
す。そのような制限を組み込む理由は、次のとおり少なくと
も 4 つあります。
5.0
SE
CO
ND
steady state
.5
s
.7
5m
1.0
C =
85
°C
=1
25°
C
s
C
0.
T
1m
T
1.5
MA
L
5°C
t=
2.0
ER
=2
s
C
5m
T
t=
TH
3.0
t=
1. アンプの出力トランジスタには、ほとんどの場合そのアンプ
の絶対最大定格を超える電流を供給する能力があります。
この制限を超えると、金属部を破壊する可能性があります。
通常は、電源に接続されているワイヤー・ボンドまたは出力
ピンが溶解します。よくある間違いは、この保護のために
電源の電流制限に頼る方法です。この間違いにご注意くだ
さい。フィルタ・コンデンサ(電源内部およびオペアンプ
の近く)が、大量のエネルギーを蓄積し、ワイヤー・ボンド
を気化させることがよく起こります。
2. 可変インピーダンス負荷の場合は、起こりうる故障状態に
対する保護が必要な場合があります。よい例として、モー
ター駆動における機械的な停止状態が挙げられます。
3. 電流制限によって、電源の過負荷を防止できます。別の回
路が同じ電源を共用している場合は、このことが重大な事
態になる可能性があります。
4. パワー・アンプの安全動作領域(SOA)を守ることによっ
て接合温度を妥当なレベルに保つことができます。出力電
流は、電力方程式の 1 つの項です。
通常の電流制限であっても、最初の 3 つの理由に対しては
十分です。電流制限に対する簡単でコスト効率のよいアプロー
チを図 1 に示します。出力トランジスタ Q1 を流れる電流は、
センス抵抗 Rcl によって電圧に変換されます。この電圧が、
電流制限トランジスタ Q2 の Vbe を超えると前段からの駆動
電流が出力側に迂回させられ、Q1 をシャットダウンします。
Q2 は、アンプとしてだけでなく、制限電流を設定するため
の、
不完全ながらも基準電圧として機能します。室温において、
その基準値は約 0.65V です。Rb は、Q2 の容量とともに、
発振を防止するのに十分な程度まで回路の速度を低下させま
す。数式で表現すると次のようになります。
Icl = 0.65/Rcl
(1)
または
Rcl = 0.65/Icl
(2)
ここで、Icl は制限電流で、単位は A、Rcl は電流制限抵抗で、
単位はΩです。
4 番目の理由は、より複雑です。図 2 と 3 に、固定の電
流制限で SOA の制限を満足するための課題を示します。まず、
PA10 の SOA グラフにおける X 軸の表示は出力電圧ではな
く、導通しているトランジスタの両端にかかるストレス電圧で
あることに注意してください。DC 信号と 25℃のケース温度
を想定して次に進みます。抵抗負荷であることから、ストレス
電圧は供給電圧の片側に限定されること、および出力トランジ
スタにおける熱の発生は、出力が電源電圧の 50% になった
ときに、最大になることがわかります。SOA グラフは、25V
における最大電流が 2.7A であることを示しています。このこ
とは、最小負荷が約 9.3 Ωであれば、どのような出力電圧で
あっても安全なレベルまで電流が制限されることを意味してい
ます。最大電流は 4.75A(44V/9.3 Ω)で、最大の出力電
力は 209W となります。PA10A の電圧スイングの仕様は、
5A 時で Vs-6V であることに注意してください。しかし、そ
のアプリケーションが出力における部品やケーブルの短絡に耐
える必要がある場合、ストレス電圧は 50V に跳ね上がり、安
全電流の最大値は 1.05A にすぎない値となります。一度こ
の電流制限が設定されると、
44 Ωの負荷に対して 46W(ピー
ク)に制限されます。エネルギーを蓄積する負荷に対しては、
約 -50V の初期電圧および正方向へ立ち上がる信号を想定し
ています。初期の電源と出力間のストレスは、ほぼ 100V に
なり、安全電流の最大値は 0.3A にも満たなくなります。
OUTPUT CURRENT FROM +VS OR – V S (A)
概要
BR
EA
KD
O
W
N
.3
.2
10
15
20
25 30 35 40
50 60 70 80 100
SUPPLY TO OUTPUT DIFFERENTIAL VOLTAGE V S – V O (V)
図2. PA10のSOAグラフ
+ 50V
+VS
PA10A
Q1
Rb
Q2
280
Rcl
– 50V
VO
図1. 従来の電流制限回路
AN09U
www.cirrus.com
図3.
難しい負荷または可能な障害条件
Copyright © Cirrus Logic, Inc.
2011
(All Rights Reserved)
2011年3月
39
APEX − AN09UREVD
AN09
移動目標としての電流制限
PA10、PA12 は、フォルドオーバー電流制限を利用できま
す。従来の電流制限回路(図 4)
に抵抗を 1 つ追加するだけで、
出力スイングに対して強力な応答特性を得ることができます。
一般的に Rcl が Rb に対して 3 桁低い値であることがわかる
と、Rcl を無視して、Rb と Rfo で接地と出力電圧の間の電
圧分圧器を構成していると考えるのが合理的です。Rb に比
べて一般的に 2 桁大きい値の Rfo があるため、この分圧器
は出力電圧の非常に小さな一部を Q2 のベースに直列に追加
します。出力が 0V の場合、電流制限は従来の回路と同じで
す。しかし、出力が正側に立ち上がるにつれて、分圧器の電
圧による増加分が基準電圧(Q2 の Vbe)を効果的に増加さ
せ、より大きな電流が流れることができるようになります。負
側の出力電圧(Q1 は依然として導通状態)に対しては、追
加された負側の出力のごくわずかな部分によって電流の流れ
が減少します。別の見方をすると、これは、出力電圧に基づ
いて電流制限の式に項を加えたにもかかわらず、導通してい
るトランジスタの電圧ストレスに反比例する方法で電流制限を
変更する、という状況です。これは、ワット数を算出する乗算
器といった理想からは依然としてかけ離れています。これは可
変電源の場合は何もしませんが、電流制限の機能に対しては
望ましい勾配を与えています。数式で表現すると次のように
なります。
電流制限回路における最大の変数は、不完全基準電圧、
つまり Q2 の Vbe の温度係数です。これは、ケース温度の
上昇に対して 1℃当たり約 2.2mV 低下します。したがって、
0.65 という数字は、-55℃における 0.826 から 125℃に
おける 0.43 まで幅を持っています。この勾配と最初に述べ
た電流制限の理由を比較してみると、次のとおりです。
1. この理由は温度によって変化しない。
2. この理由は負荷によって変化する。
3. この理由は電源によって変化する。
4. この理由は温度によって変化しない。
SOA グラフ上に限界点をプロットし、システムにおける
他の要件と比較するのが最適です。詳細は、www.Cirrus.
com 内の Apex Precision Power の Web サイトをご覧く
ださい。また、この作業を自動化するソフトウェアについては、
Apex Precision Power のアプリケーション・エンジニアリ
ングに問い合わせてください。
再度図 1 を見てみると、実際の電流制限が前述の式と異
なるいくつかの原因がわかります。電流制限の状態に入ると、
Q2 は駆動段の電流を Q1 から切り離し、出力に直接流します。
このことは、実際の電流制限をドライブ段の能力より小さくす
ることができないことを意味しています。現実的な電流制限
の最小値を示しているデータ・シートもあります。ドライブ段
の電流は出力能力よりはるかに小さいため、この領域での動
作は異常です。つまり、この領域で動作するということは、ア
ンプの能力がそのアプリケーションに対して、おそらく過剰で
あることを意味しています。
ここで、Q2 が導通しているとき、Rb を通って流れるベー
ス電流があり、これが効果的に基準電圧を上昇させる、とい
うことを検討します。あるアンプでは、この効果は十分大きく、
この場合、
アンプのデータシートには、前述の式で使った 0.65
よりも大きい独自な値が記載されています。
図 1 を見てもすぐにわかるわけではありませんが、内部ワ
イヤー・ボンドおよび半田接合部、配線パターン、Rcl のリー
ド部のすべての抵抗は、これら 4 つの配線の電流検出を実
行するための端子がアンプに備えられていない限り、Rcl の
定格値を増大させます。大電流アプリケーションでは、試作
回路での測定が、設計を完成させるための最適な方法である
と言えます。
ここまでで、負荷や耐える必用のある故障状態に関して、
きわめて広範囲の「安全な」電流というものを理解しました。
また、簡単でコスト効率はよいが、これらの制限回路は基準
としての標準にはならず、+/-20% の範囲でものを考える必
要がある、ということもわかりました。残念な部分は、通常の
電流制限は、ワースト・ケースの故障状態に対して保護するよ
うに機能しますが、故障でない状態に対しても電流を制限して
しまうところです。非現実的なヒートシンクを想定したことと、
安全電流は依然としてアンプの絶対最大定格に比べれば、わ
ずかであることを理解することは重要です。このことは、ヒー
トシンクと電流制限の両方の重要性を示しています。SOA 保
護についての理想的な解決策としては、ワット数に応じた制限
となるように、各出力トランジスタへストレス電圧センサーと
乗算器を追加する方法もあります。回路のすべてが十分高速
であれば、これ以上の SOA に関する心配は不要になります。
部品、設計時間およびスペースの観点で見積もったコストは、
より大きなアンプを使用した場合に比べて、ほとんどの場合で
高くなるため、このアプローチはきわめて稀です。明らかに、
電流制限の手法に関するコスト効率のよい改善策が必要とさ
れています。
(
0.65 + VO •
ICL =
Rb
RFO + RB
)
Rb
RFO + RB
)
(3)
RCL
0.65 + VO •
RCL =
(
(4)
ICL
ここで、Vo は出力電圧で、単位は V、抵抗は図 4 で示さ
れており、単位はΩです。
+VS
Q1
Rb
Q2
280
R CL
R FO
VO
図4. 基本的なフォルドオーバー電流制限回路
出力の短絡に耐える必要のある抵抗負荷駆動の場合を
再 び 考 察しな がら、22 Ωをピ ークで 88W(44Wrms、
44Vpk、2Apk)まで駆動することを目的とすると仮定しま
す。Rb を 280 Ω、Rfo を 20K Ωとし、ピーク電圧時のピー
ク電流に対して、式 4 を使用して Rcl = 0.629Ω を算出し
ます。0.62 Ωの抵抗を使用します。ここで、式 1 は、短絡
故障の状態における電流が 1.05A に制限されることを示して
います。図 5 に示すように、
SOA グラフ上に電流制限をプロッ
トすることによって、この電流制限が、ゼロから電源電圧まで
のどのような電圧に対しても安全であることが明らかになりま
す。通常の電流制限の代わりにフォルドオーバーを使用するこ
とによって電力供給能力がほぼ 2 倍になっています。
フォルドオーバー電流制限の基本
Apex Precision Power のモデル PA04、PA05、
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AN09U
AN09
エネルギーを蓄積する負荷の場合は、このフォルドオーバー
回路の電流制限はゼロを横切り、25℃を超える全温度にお
いてアンプのスイング能力の範囲で負側にも極性を変えるこ
とを、式 3 が示しています。これは、アンプのラッチアップ
の原因になることがあるので、避ける必要があります。低い
電源電圧または大きなフォルドオーバー抵抗を使用すればこ
の問題を解決することができます。
電流制限が接地への短絡および最大 100V のストレス・レ
ベルに対して安全であることはわかっていますが、25℃以下
における許容電流が、
これら 2 点間で SOA 直線の上を横切っ
ていることを、図 5 は示しています。Rcl を増加させること
によって、すべての出力電圧における電流制限を下げ、この
問題を解決することができます。
CURRENT LIMIT, A
10.000
PA04/05
11
7
Rcl
Vo
Rb
Rfo
図6. PA04またはPA05用のフォルドオーバー回路
結論
SOA
動物に生存本能があるようにパワー・オペアンプには電流
制限があり、備えておくべき優れた機能です。基本的な電流
制限は簡単なものですが、温度変化やフォルドオーバーのよ
うな回路オプションが加わると、危険な可能性がある箇所を
すべてチェックする作業が非常に煩雑になります。まずは計算
を行い、次に、誰でも理解しやすい対数目盛の SOA グラフ
にデータをプロットします。
– 55°C
1.000
125°C
85°C
0.100
10
25°C
15.8
25.1
63.1
100
SUPPLY TO OUTPUT DIFFERENTIAL VOLTAGE, V
39.8
– V O (V)
S
図5. フォルドオーバー電流制限対出力電圧
2種類のフォルドオーバー
PA10 および PA12 には、正側と負側の電流制限トラン
ジスタの両方に対し、280 Ωの Rb と 20K Ωの Rfo を内蔵
しています。2 つの 20K Ω抵抗はピン 7 でお互いに接続さ
れており、そのピンを接地することで最大のフォルドオーバー
勾配を得ることもできれば、追加の抵抗をピン 7 から接地に
対して直列に挿入し、より小さなフォルドオーバー効果を得る
こともできます。280 Ωの抵抗は、元々両方とも Vo に接続
されており、0.28K と 20K の 2 つの直列ネットワークは本
質的に並列なので、PA10 および PA12 に特有の式は、前
述の例に比べ、より複雑になります。
0.65 + VO •
ICL =
(
10.14
10.14 + RFO
)(
.28
20.28
)
)(
.28
20.28
)
•
(5)
RCL
0.65 + VO •
RCL =
(
10.14
10.14 + RFO
•
(6)
ICL
ここで、Icl の単位は A、Vo の単位は V、Rcl の単位は Ω で、
Rfo は PA10 および PA12 の外部フォルドオーバー抵抗で、
単位は K Ωです。
PA04 または PA05 用のフォルドオーバー接続を図 6 に
示します。Rb には 270 Ωを使用し、式 3 および 4 を使用し
ます。ピン 10 における直接の短絡は瞬間的であってもアン
プを即座に損傷させる可能性があること、およびピン 10 は
270 Ωで出力から絶縁されていることに注意してください。
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