1芯WDM 光トランシ-バ

技術紹介 10 1 芯 WDM 光トランシ−バ
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技術紹介
10 1芯 WDM 光トランシ−バ
Dual-wavelength Single-fiber Transceiver
松井 淳一郎
安藤 典浩
佐々木 琢男
宮下 拓也
岡田 正史
西村 貴行
木村 龍男
キーワード
Keywords
Junichirou Matsui
Norihiro Andou
Takuo Sasaki
Takuya Miyashita
Masashi Okada
Takayuki Nishimura
Tatsuo Kimura
中央研究所 研究開発部 主任
中央研究所 研究開発部 主任
中央研究所 研究開発部 主任
中央研究所 研究開発部 主任
中央研究所 研究開発部
中央研究所 研究開発部
中央研究所 研究開発部
FTTH、 メディアコンバータ、 光トランシ−バ、 光導波路、 パッシブアライメント
FTTH, mediaconverter, optical transceiver, optical waveguide, passive alignment
■ SUMMARY
■ 要旨
インターネットの国内ブロ−ドバンド化を担う FTTH
(Fiber to the Home)サービスの通信 機 器である
メディアコンバ−タに適合する小型の、 SFF (Small
Form Factor)規格に対応した、 1芯双方向 WDM
(Wavelength Division Multiplex)トランシ−バの開
発に成功しました。このトランシーバはシリコン基板上
に、光導波路、 V 溝、 LD および薄膜 WDM フィルタ
を集積、 また 1 枚のプリント基板上にこの集積化光学
モジュール、 IC 等を搭載し、全パッシブアライメントを
実現しました。開発した光トランシーバは目標仕様に対
し最小受信感度 − 37.6 dBm と良好な特性を得ること
ができました。
JAE has successfully developed a compact dual-wavelength
single-fiber WDM (Wavelength Division Multiplexing)
transceiver, which is suitable for the mediaconverter, the
communications equipment used for FTTH (Fiber to the
Home) service essential for broadbandization of Internet
in Japan, and also meets the SFF (Small Form Factor)
standard. The transceiver has an optical module integrating
optical waveguides, V-grooves, LD and thin film WDM filter
on a silicon substrate. And, then, the integrated optical
module, IC, etc. are mounted on a printed circuit board
so that all passive alignments can be realized. The newly
developed optical transceiver can achieve good performance
of the minimum receive optical level of -37.6dBm better
than the target specification.
写真 1 開発したトランシーバ
Copyright
2003, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.26 (2003.3)
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1 はじめに
インターネットの急速な普及に伴い、 昨年来、 国内ブロードバンド化の一環として FTTH の
商用サービスが始まっています。 FTTH が広く普及していくためには、 メディアコンバ−タを用
いたシングルスタ−方式(1対1接続)によるシンプルな通信系統と、使用される機器を安く提供
することが必要です。我々は、メディアコンバータの主要な構成部品である小型の光トランシー
バを開発したので紹介します。
2 FTTH とメディアコンバータ方式
FTTHは、局と家とを1対1にファイバで直接結ぶネットワーク方式であり、高速な通信サー
ビスの変化への対応に有利であるとされています。 FTTH は、局側でインターネットに接続、
宅側でイーサネットによりPC等に接続しています。局、宅側の電気信号を、 光ファイバ通信
用の光の信号に変換するのがメディアコンバータです(図 1)。
局にはキャビネットが置かれ内部には集合型メディアコンバ−タが多数内蔵されています。限
られたスペ−スの問題から、メディアコンバ−タは高密度配置が必要です。よって、メディアコ
ンバ−タのキ−パ−ツである光トランシ−バは更なる小型化が求められています。
メディアコンバ−タで電気信号と光信号を変換する主要な構成部品が光トランシ−バです。
光トランシ−バに求められているものは、より小さなサイズ、 低コストで製造できること、およ
び FTTH 用として双方向、多重通信機能を有することです。
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図 1 メディアコンンバ−タ方式
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3 光トランシーバの構成と構造
実際に 1 芯双方向光トランシ−バがどのような構成になっているかを図 2 に示しました。トラ
ンシーバは通信路であるシングルモード光ファイバの両端にそれぞれ異なる波長で送受信を行
うように局側、 宅側 1 対で用いられます。今回開発した光トランシーバは SC コネクタ(MU コ
ネクタも可能)を有するコネクタライズドパッケージとしており、 光トランシーバ部分で光ファイ
バの脱着が行えます。光は波長分離フィルタで送信器側と受信器側に分離されます。送信器
の電気回路は発光素子であるレーザダイオードの駆動回路であり APC による発光光量の安定
化と変調機能を有します。受信器の電気回路は受光素子であるフォトダイオードから得られた
微小な光電流を必要な大きさまで増幅しデジタル信号に変換する機能を持っています。
図 2 光トランシーバの構成
従来、 上記のような光トランシーバの機能・性能を得るためには光ファイバ、 WDM フィル
タとLD、PD 素子を相互に高精度実装し、これらを実施する機構部品も必要になります。また、
CAN パッケージタイプの LD、 PD 素子を使用した場合、 CAN パッケージ外郭とその中に実
装されるLD、PD 素子の位置精度がそれほど高くなく、光ファイバとの高効率結合を図る場合、
例えば LD であれば素子を動作させ LD 放射光が効率良く光ファイバに入射される位置を探し
固定する、アクティブアライメント技術を用いる必要があります。
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4 光導波路を用いた光トランシーバの特徴
今回開発した光トランシーバの構造は図 3 に示すように、1 枚のプリント基板上に、集積化
した光学モジュール、 及び IC 類を搭載しました。通信路であるシングルモード光ファイバは光
学モジュール上で光導波路に実装、 LD、 PD 素子も光導波路に実装されています。このプリン
ト基板がベースプレートに取りつけられ、ケースに収められ光トランシーバが完成します。
シリコン基板上への光学部品の実装構造は、シリコン基板上に形成した V 溝が高寸法精度
を有するため、これを光ファイバの支持ガイドとして用いることで高寸法精度が必要な光ファイ
バと導波路部分の結合をパッシブアライメントとしました。また LD、 PD 素子と導波路部分の
結合もパッシブアライメントとする方法を開発しました。
この様に高密度高精度実装が要求される光学系をパッシブアライメントに実装することによ
り小型でローコストな光トランシーバとすることが可能となりました。
大きさは SFF 規格に対応した、W13.59 × H9.8 × L49.5〔mm〕であり局用集合型メディア
コンバータ上に高密度に実装することが可能となりました。
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ケース
IC
プリント基板
集積化した光学モジュール
シングルモ−ド光ファイバ
光レセプタクル
ベ−スプレ−ト
図 3 光トランシーバの構造
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5 光導波路を用いた光トランシーバの特徴
図 3 で示したような構造を採用することで目標仕様を十分に満足する光トランシーバを開発
することができました。表 1 に目標仕様を示します。
光トランシーバの最小受信感度は、 受信光量、アンプノイズ、アンプ帯域、 光学損失、ク
ロストークで決まります。同一のアンプと光学系を使用した場合、クロストーク低減が最小受
信感度を支配する要因となります。クロストークは電気クロストークおよび光クロストークが
存在します。電気クロストークは主に送信側 LD を駆動する電流が受信側に電磁結合している
ためと考えられます。この電気クロストークは空間や容量で電磁結合する場合と、 電源および
GND 経由で電磁結合する場合が考えられ、それぞれ対策は異なりますが、一般の電気回路と
同様の対策により減少させることができます。また光クロストークは、 送信側 LD 光が受光部
PD に直接、 間接に光結合しているために起こります。対策として、アイソレーションの向上と
迷光遮断技術の開発を行ないました。これらの対策の結果、 本光トランシーバの最小受信感
度は対策前に比べ 4dB 向上しました。
今回、 集積化した光学モジュールを用いることにより光路損失の低減と電気光クロストー
クの低減を図ることができました。これは上記推定の様に光クロスト−クが減少する事により
BER プロットの示す傾向と、今回開発した光トランシーバの特性が同様な傾向となっているこ
とから光クロストーク低減が達成できたと言えます。図 5 に受信光量対符号誤り率(BER)の
代表的な特性を示します。
得られた最小受信感度(BER < 1 × 10 −10、 PRBS:2 23 −1)は、− 37.6 dBm であり、目標
仕様値 − 31dBm に対し 6dB 以上のマージンを確保することができました。
ここで光クロストークの低減効果を推定するために、 光トランシーバに光クロストークが存
在する場合の受信レベルと BER 特性(BER プロット)について検討します。
光トランシーバで用いられるデジタル通信系では、 伝送誤り率は「マーク」レベルが「スペー
ス」レベルと判定される誤り率および「スペース」レベルが「マーク」レベルと判定される誤り率
の和として考えられています。
従来考えられていたガウシアン分布を前提とする BER プロットとは光クロストークが信号のマーク
スペースに与える変位を考えることにより、従来のBERプロットと異なる傾向を示す事が解りました。
この伝送系に対し電気クロストークノイズが加わるような場合、ガウス分布のノイズの加算を
行っても BER プロットは平行移動すると考えられてきましたが、光クロストーク信号として別の
「マーク」レベルと「スペース」レベルが存在し、元信号に加算される条件を仮定すると BER プ
ロットの傾きが変化することが解りました。またアンプの「マーク」レベルまたは「スペース」レ
ベルと判定する閾値を変化させても同様に BER プロットの傾きが変化することも解りました。
図 5 はクロストーク量が BER プロットに与える影響を実験値と計算値を比較した結果です。
図 6 中、丸で示したのは自発光 LD の光量を変えることで光クロストークの影響度が異なるモ
デルサンプル A, B, C, D の BER プロット実測値です。実線は計算による、 BER プロットの
クロストーク依存性で、 例えば青で示した実線は、自発光 LD による光クロストーク光量が−
90dBm と少ない条件、 紫の実線は − 40dBm と自発光 LD によるクロストーク光量が多い条
件を仮定しています。
ここでは、 自発光 LD による光クロストークのみを考慮しましたが、 判定閾値を変化させて
も同様の結果が得られました。光クロストークと判定閾値の影響度の切り分けは困難ですが、
この 2 つの要素が BER プロットの傾きを支配する要因であることが判明いたしました。
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� � � � � � � � � �図� 4� 光クロストークが存在する場合の BER プロット
表 1 仕様一覧
項目
伝送容量
平均光出力
最小受信感度
∼ 156Mbps
(マーク率 0.4 ∼ 0.6)
− 11dBm
− 31dBm
(BER < 1 × 10 − 10、PRBS:2 23 − 1)
適用コネクタ
SC、MU
適用ファイバ
SMF
電源電圧
Copyright
仕様
2003, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
+ 3.3V
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図 5 受信感度特性
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6 むすび
以上により FTTH のメディアコンバータ方式に適合した小型の 1 芯 WDMトランシーバを開
発し、最小受信感度− 37.6 dBm を得ました。
インターネットアクセスのブロードバンド化は今後数年にわたり伸びていくことが予想されて
います。伝送容量 100 Mbps を提供する FTTH サービスは次世代の良質なコンテンツを生み
出していく基盤となることでしょう。今後も急速に進化していく通信機器分野において更なる開
発を進めてまいります。
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