微細深穴加工用ドリル構造の改良とその効果

微細深穴加工用ドリル構造の改良とその効果
Improvement of Micro Drill Mechanics for Super Deep Drilling and Their Effects
赤松 猛史*
Takeshi Akamatsu
機械部品や金型などに微細深穴加工を行う上で,精度の高い加工を行うために,切削に使用する
ドリルの切り屑排出溝および工具首部の形状を改良した。これにより工具剛性が改善されるととも
に,切り屑が穴内面に溶着することなくスムーズに排出された。この改良構造を採用した刃径1 mm
以下の極小ドリルを用い,穴深さが刃径の 100倍という微細深穴加工が可能であることを実証した。
Recent years, higher-precision deep miniature hole machining has been strongly required in
die & mold and parts industry.
In order to meet these strict demands, authors have developed a new-concept miniature drill
with revolutionary designs of flutes and neck geometry, which improved tool rigidity and chip
evacuation. This new miniature drill makes it possible to accurately open small holes with
diameter less than 1 mm and 100 times L/D depth.
● Key
Word :深穴加工,ドリル,切り屑 Code : EPOCH® MICRO STEP BORER
● Production
● R&D
Stage: Mass-production
よそ10 倍以上になると,スムーズな切り屑排出ができず,
1. 緒 言
穴位置が要求精度を満たさなかったり,工具が折損しやす
機械・電子機器の小型化・高機能化に対応する部品や金
いため,実用的でない(図1)。
型の製作には,微細形状加工とともに微細穴加工技術が強
そこで本報では,φ1 mm 以下の小径ドリルを,L/D が
く求められる 1)。微細穴の加工方法としては,レーザー加
10 倍以上の微細深穴加工用として実用化する場合の課題
工や電子ビーム加工,放電加工,切削加工などがある 2),3)。
を抽出し,この課題の対策として実施したドリル構造の改
中でも切削による微細穴加工は,加工する穴の数,穴加工
良,および改良効果に関して述べる。
パターン,加工精度などの変化に柔軟に対応できるため,
2009 年現在,最も広く用いられている方法といえる 4)。し
かし,微細穴加工の用途が化学繊維用ノズル,半導体検査
するにつれて,加工する穴の微細化,高精度化への要求,
深穴加工の必要性も増しており 5),従来のドリルで対応が
困難な分野や加工領域が拡大している。
ドリルで加工する対象となる穴の直径が小さい場合,例
えば極小ノズルについて言えば,そのノズル穴の導入部か
ら先端部に至る穴精度が問われ,この精度が悪いとノズル
から吐出される噴流が乱れてノズルとしての品質を損なう。
そのため,穴の入口と出口の位置ずれ,すなわち真直度の
穴径と穴深さの比 L/D(倍)
100
装置,光コネクタ,医療機器,燃料噴射ノズルなどに拡大
開発工具の
対応領域
50
市販工具例(A)
(汎用)
市販工具の
対応領域
市販工具(B)
(高精度用)
10
0.1
要求精度は高い。特に穴径がφ 0.5 mm よりも小さくなる
と,真直度を0.01 mm 以内に抑えることが求められる。し
かし,市販の,すなわち従来のφ 1 mm 以下の小径ドリル
では,穴径に対する穴深さの比(以下,L/D と記す)がお
*
40
日立ツール株式会社
日立金属技報 Vol.26(2010)
*
従来工具の
高精度加工領域
1
工具径 φ(mm)
図1 微細穴加工対応の現状市販ドリル(刃径φ1 mm以下)と開発目標
Fig. 1 Available L/D of micro drill on the market and the development
target
Hitachi Tool Engineering, Ltd.
微細深穴加工用ドリル構造の改良とその効果
穴位置精度の測定方法としては図2に示すように,ワー
2. 微細深穴加工の課題
ク端面のコーナー部分を基準座標値として穴入口(ワーク
2. 1
実験装置および実験方法
表面)と穴出口(ワーク裏面)のそれぞれの穴中心座標値
小径ドリルによる微細深穴加工の課題を抽出することを
目的として,実用的な切削でも使用頻度が増えている工具
を工具顕微鏡で測定して,位置ずれを算出した。本報では
この穴位置のずれ(真直度)を評価する。
径φ0.5 mm のドリルを使い,深さ5 mm,すなわちL/D が
基準座標点
10 倍の貫通穴を加工し,その穴位置精度を評価するととも
ワーク
に,加工後のドリルおよび加工穴,切り屑の状態を観察した。
穴出口(ワーク裏面)
供試ドリルとしては市販品である3種類(A,B,C)
穴位置のずれ(真直度)
のドリルを用いた。工作機械には高速回転に対応したマシ
ニングセンタ(ソディックハイテック,MC430L)を,被
削材にはSUS304 を用いた。ステップ加工では,1回の加
工ごとにドリルを穴入口付近まで戻す,いわゆる深穴サイ
クルを採用し,1回のステップ量は穴深さの50 分の1であ
る0.1 mm とした。実験条件をまとめて表1に示す。
Y方向ズレ
表2に供試ドリルAの形状および仕様を示す。刃先より
後方には穴深さに応じた切り屑排出のための溝が設けられ
ている。また,他の市販品であるB,Cも同様に溝が設
X方向ズレ 穴入口(ワーク表面)
けられている。ここで,切り屑排出溝の長さR(ここでは
5 mm)はこの工具で加工することのできる穴深さと見な
すことができる。
表1 工具径φ 0.5 mm の小径ドリルで深さ 5 mm の穴を加工した場
合の切削試験条件
Table 1 Test-drilling conditions (hole depth 5 mm with φ0.5 mm drill)
工具径 (mm)
9,550
切削速度 (m/min)
15.7
送り速度 (mm/min)
38
一回転送り(mm/rev.)
0.004
ステップ送り(mm)
加工深さ (mm)
実験結果
200 穴加工後の穴の真直度測定結果を図3に示す。穴の
る。すなわち実用レベルにある市販品を用いても,0.01 mm
以内の真直度を維持するのは容易でないか,または困難で
ある。
真直度(mm)
回転数 (min-1)
2. 2
真直度はいずれの工具も0.01 mm 以上のずれ量を示してい
φ0.5
SUS304
被削材
図2 穴位置のずれ(真直度)の測定方法
Fig. 2 Measuring method of straightness
0.1
5
貫通穴加工,with cutting oil
0.01
切削方式
0
ドリルA
表2 供試ドリルA(工具径φ0.5 mmの小径ドリル)の概略図と仕様
Table 2 Schematic and specification of testing drill A(φ0.5 mm)
φD
φd
0.5 mm
L/D が 10 倍を超える微細穴加工の課題
前項で示したように微細穴あけ切削加工には,真直度の
0.1 mm
側面図
ドリルC
図3 工具径φ0.5 mmの小径ドリルで深さ5 mmの穴を200穴加工し
た後の真直度
Fig. 3 Straightness after 200 holes drilling (hole depth 5 mm with
φ0.5 mm drills)
2. 3
W
ドリルB
刃先端正面図
高精度化に関する課題もあるが,さらに大きな課題は,
L/D が10 倍を超える深穴加工の場合,穴深さに対応した
0.5
切り屑排出溝をドリル上に加工するための,高度な研削技
0.18
術が必要となることである。
5
表3に,著者が製作した刃径φ 0.15 mm,溝長さ4 mm
3
の微細穴あけ用ドリルの形状および仕様を示す。本ドリル
TiAlN
は工具径に対する溝長さの比は26 倍を超え,剛性が不足
微粒子超硬合金
するためこれ以上の長さの切り屑排出溝を加工するのは困
日立金属技報 Vol.26(2010) 41
表3 工具径φ 0.15 mm 溝長さ4 mm の小径ドリルの概略図と仕様
Table 3 Schematic and specifications of a testing drill with diameter
φ0.15 mm and flute length 4 mm
φD
φd
表4 工具径φ0.15 mm溝長さ4 mmの小径ドリルで深さ3.5 mmの
穴を加工した場合の切削試験条件
Table 4 Test-drilling conditions (hole depth 3.5 mm with φ0.15 mm
and flute length 4 mm drill)
工具径 (mm)
φ0.15
被削材
W
0.15 mm
0.01 mm
側面図
刃先端正面図
0.15
0.053
SUS304
回転数 (min-1)
25,000
切削速度 (m/min)
12
送り速度 (mm/min)
37.5
一回転送り(mm/rev.)
0.0015
ステップ送り(mm)
0.015
3.5
加工深さ (mm)
4
貫通穴加工,with cutting oil
3
切削方式
TiAlN
微粒子超硬合金
難である。またこのドリルを用いて表4の条件でSUS304
切り屑の付着
の穴あけ加工(貫通穴)を行った結果,工具は2穴目で折
損した。さらに図4に1穴加工した後のドリルの溝部分の
写真を示す。切り屑を排出するための溝部表面には切り屑
が付着しており,ドリルの外周側にも切り屑が付着してい
るのが確認される。ここに観察された現象から高精度の穴
あけ加工を行うためには切り屑の排出性が重要であると考
工具先端側
えられる。また,2穴で欠損した原因は工具径に対する溝
100 μm
長さの比が26 倍を超えるため,ドリル製作上の研削加工の
難しさに起因し,溝の表面の平滑性が悪く切り屑排出性が
悪化したことと,工具そのものの剛性が低下したことによ
るたわみが影響したと考えられる。このことから,仮に深
図4 工具径φ0.15 mm溝長さ4 mmの小径ドリルで深さ3.5 mmの穴
を1穴加工した後のドリルの溝観察
Fig. 4 Observation of drill flute after 1 holes drilling (hole depth 3.5 mm
with φ0.15 mm and flute length 4 mm drill)
穴に対応した長い溝を研削で加工できたとしても,それを
使った穴あけ加工は実用的に困難といえる。つまりさらに
深い微細穴切削加工を行うためにはドリルの構造に関して
も抜本的な見直しが必要であり,既存の考え方のみでは対
表5 工具径φ0.45 mm溝長さ4 .5 mmの小径ドリルの概略図と仕様
Table 5 Schematic and specifications of a testing drill (φ0.45 mm
and flute length 4.5 mm)
L
応できないと考えられる。
φdn
φD
φd
3. 微細深穴加工に対応したドリル最適形状の検討
3. 1
最適形状の検討1
3. 1. 1
実験ドリル
前項で述べたように,微細な深穴加工を行う場合,重要
な課題としては,曲げに強くするためのドリルの高剛性化,
スムーズな切り屑の排出の2点が挙げられる。ところが,
既存の設計手法で剛性を向上させるためにはドリルの心厚
を大きくとる必要があり,心厚が大きすぎると切り屑排出
溝の深さが十分に確保できなくなる。また加工する穴が深
0.5 mm
0.45
4.5
17
0.43
3
TiAlN
微粒子超硬合金
ければ切り屑排出溝も長くする必要があるため折損やたわ
みを引き起こしやすい。よって,十分な溝深さを確保しな
細深穴加工の場合は,深穴サイクルを使用したステップ加
がら剛性を上げるには,新しい観点の形状を創案する必要
工でなければ加工ができない。そこで著者はステップ加工
がある。
によって穴あけを行うための最適な形状を創案する必要が
ここで一般的なサイズのドリルで深穴を加工する場合を
考えてみると,ステップ加工を行う際,ドリルを穴入口付
近まで戻す深穴サイクルを使用することが多い。また,微
42
日立金属技報 Vol.26(2010)
あると考えた。ステップ加工を前提とすれば,穴深さと同
じ長さの切り屑排出溝は必要ないと考えられる。
表5に実験に供したドリルの形状および仕様を示す。実
微細深穴加工用ドリル構造の改良とその効果
験条件については後述するが,穴深さ17 mm に対して,溝
前記図2のように,まずワークの端面に基準座標点を設
長は4.5 mm と非常に短い設定にしている。従来の工具設
け,ワーク表面の穴中心座標と裏面の穴中心座標のずれ
計技術であれば溝長は17 mm 以上を要するが,ステップ
(真直度)を測定した。表6に切削試験条件を示す。
加工は連続的に切り屑を排出するのではなく,ステップを
繰り返しながら徐々に切り屑を排出するので溝長に関して
3. 1. 3
実験結果
有利な設計が可能と思われる。すなわち,本実験では1 回
図6に切削初期におけるドリルの損傷状態を示す。同図
のステップ量を0.075 mm に設定しており,溝長を4.5 mm
から,切り屑排出溝と首下ストレート部の境目に切り屑が
に設定してもステップ量から判断して十分な切り屑排出溝
溶着している様子が確認できる。これは,首下ストレート
が確保できると考えた。また,その後方には刃径より片側
部分に溝がないため切り屑の排出場所が不十分となり後方
で0.01 mm だけ細い首下ストレート部を設けた。これによ
に流れ込んだためと考えられる。
り,工具剛性は十分確保でき,曲げに対しても強くなるこ
3. 2
とが期待できる。
最適形状の検討2
3. 2. 1
3. 1. 2
実験装置および実験方法
実験工具と実験方法
3. 1 項で用いた工具の課題は切り屑が溝のない首下スト
実験用の工作機械は高速回転に対応した,2. 1 項に既述
レート部分へ流れることであった。本来ドリルの設計上は,
のマシニングセンタを用いた。本機の主軸に試作した小径
切り屑が溝に沿って上面(後方)へ流れるように設計され
ドリルを装着して切削試験を行った。被削材にはステンレ
ている。しかしこれで課題を解決できないことはすでに述
ス鋼の中でも部品加工等に多用されるSUS440 を用いた。
べた。そこで筆者は新しい設計手法として,切り屑が上面
実験方法は図5に示すように,厚さが17 mm の材料に穴
に上がらないよう切り屑排出溝の後方に壁となる段差部
径φ 0.45 mm の貫通穴あけ加工を行うこととした(L/D は
(以下,切り屑ストッパーと称する)を設けることを創案
38 倍)。穴あけの方法は,深穴サイクルを使用したステッ
プ加工とした。また貫通穴の位置精度を確認するため,
した。
以下,前項で使用したドリルをタイプ1とし,切り屑ス
首下ストレート部分
300 μm
図5 工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mmの小径ドリルで深さ17 mmの
穴を加工した場合の切削試験状況
Fig. 5 View of the test drilling (hole depth 17 mm with φ0.45 mm
and flute length 4.5 mm drill)
表6 工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mmの小径ドリルで深さ17 mmの
穴を加工した場合の切削試験条件
Table 6 Test-drilling conditions (hole depth 17 mm withφ0.45 mm
and flute length 4.5 mm drill)
工具径 (mm)
被削材
φ0.45
10,600
切削速度 (m/min)
15
送り速度 (mm/min)
30
一回転送り(mm/rev.)
0.003
ステップ送り(mm)
0.075
17
貫通穴加工,with cutting oil
切削方式
(a)
L
φdn
φd
φD
SUS440
回転数 (min-1)
加工深さ (mm)
図6 工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mmの小径ドリルで深さ17 mmの
穴を加工した場合のドリルの首部の状態(切削初期)
Fig. 6 Drill neck in early stage of drilling (hole depth 17 mm with
φ0.45 mm and flute length 4.5 mm drill)
(b)
切り屑ストッパー
図7 工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mmの供試小径ドリルの概略図
(a)タイプ1(b)タイプ2
Fig. 7 Schematic of the testing drills (φ 0.45 mm and flute length
4.5 mm)(a) type 1, (b) type 2
日立金属技報 Vol.26(2010) 43
トッパーを付加したドリルをタイプ2と呼ぶ。これらドリ
一方,タイプ2のドリルは切り屑ストッパーの効果で,
ルの形状を比較して図7に示す。これらドリルを用いて,
生成された切り屑が首下ストレート部分へ流れず,1回の
表6と同じ条件で切削試験を行った。
ステップごとに排出され,安定な加工を実現したものであ
る。筆者の考えた上述の切り屑排出メカニズムの概略を
3. 2. 2
実験結果
図9に示す。
図8に5穴加工した後のドリルの摩耗状態を示す。タイ
また図 10 にタイプ2の工具で40 穴加工した場合の穴の
プ1のドリルは工具刃先の外周マージン部に多くの溶着物
真直度の推移を示す。同図により,従来は困難とされてい
が確認されたが,タイプ2のドリルに溶着物は確認できな
たL/D が38 倍の微細深穴加工においても,真直度はすべ
かった。また穴あけテストを継続した結果,タイプ1は10
て0.01 mm 以内に入っており,安定な穴あけ加工ができて
穴で折損したが,タイプ2は40 穴まで破損せず,真直度の
いる。
悪化も見られなかった。
0.01
タイプ1では,切削加工中に切り屑が溝のない首下スト
0.009
ステップ加工によって工具が抜き差しされる際,繰り返し
切り屑がこすられ,結果的に工具刃先の外周マージン部に
溶着物となって残存し,この溶着物によって切削抵抗が増
大して折損につながったと考えられた。
真直度(mm)
レート部へ流れ,その切り屑が加工穴入口付近に付着し,
0.008
0.007
0.006
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
首下ストレート部
首下ストレート部
0
1
10
20
30
40
穴数
マージン部 (b)
(a)
マージン部
図10 タイプ2(工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mm)の小径ドリルで
深さ17 mmの穴を40穴加工した場合の真直度の推移
Fig. 10 Variation of straightness for 40 holes (hole depth 17 mm)
drilling with type 2 drill (φ0.45 mm and flute length 4.5 mm drill)
エンド部
エンド部
50 μm
溝後端の首下ストレート部分へ切り屑が
流出し,ステップの繰り返しによってマー
ジン後ろへ切り屑が挟まり溶着している
50 μm
切り屑ストッパーによって後端への切り屑
流出を防いでいるため溶着は見られない
4. 切削加工事例
上述のように,新しく創出した形状によるタイプ2のド
図8 工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mmの小径ドリルで深さ17 mmの
穴を加工した場合の5穴加工後の工具摩耗状態
(a)タイプ1(b)タイプ2
Fig. 8 Tool wear after 5 holes drilling (hole depth 17 mm withφ0.45
mm and flute length 4.5 mm drill) (a) type 1, (b) type 2
リルは,実用的に困難であった領域の微細深穴加工を高精
度に実現した。さらに,タイプ2の新形状の能力を確認す
るためにL/D が100 倍の切削加工について試行したので事
例として以下に示す。
SUS304 を被削材として,高精度の加工を維持するため
被削材
切り屑を排出溝
に蓄積
切り屑ストッパーによって
首下ストレート部分への
切屑の流出を抑制
(a)
切り屑ストッパーによってガイド性が向上(ブレを抑制)
蓄積した切り屑
の排出
(b)
被削材
に,あらかじめ先端がボール形状をした専用工具(商品
名:日立ツール・エポックマイクロスターター)によって
表7 工具径φ 0.5 mm 首下長さ 50mm の開発ドリルで深さ 50mm の
穴を加工した場合(L/D =100 倍)の切削試験条件
Table 7 Test-drilling conditions (hole depth 50 mm with φ 0.5 mm
and under neck length 50 mm newly developed drill)
被削材
9,550
切削速度 (m/min)
15
送り速度 (mm/min)
28
一回転送り(mm/rev.)
0.003
ステップ送り(mm)
0.025
加工深さ (mm)
図9 タイプ2(工具径φ0.45 mm溝長さ4.5 mm)の工具による切
り屑排出メカニズム(a)切り屑発生,蓄積(b)切り屑排出
Fig. 9 Drilling mechanism by type 2 drill (φ0.45 mm and flute length
4.5 mm) (a) generation and trapping of chips in a drill flute
(b) evacuation of chips
44
日立金属技報 Vol.26(2010)
SUS304
回転数 (min-1)
50
貫通穴加工,with cutting oil
切削方式
微細深穴加工用ドリル構造の改良とその効果
ガイド穴を形成し,次に工具径φ0.5 mm,首下長さ50 mm
引用文献
の本開発ドリルを用いて,穴径がφ0.5 mm,穴深さが50 mm
の微細深穴加工を行った。切削試験条件を表7に,加工結
1)松岡甫篁:機械技術,vol.55No.4,
(2007)18.
果を図 11 に示す。この結果,穴内面の仕上げ面粗さRz は
2)田中正信:ツールエンジニア,Vol.47No.2,
(2006)44.
0.9 μ m と良好であり,真直度も0.04 mm と従来は放電加
3)田中正信:ツールエンジニア,Vol.48No.7,
(2007)40.
工でも困難であった領域まで高精度な深穴切削加工ができ
4)武藤一夫:金型設計・加工技術 日刊工業新聞社
1995
ることを確認した。
5)西口敏隆:機械技術,vol.55No.4,
(2007)29.
(a)
(b)
0.5 mm
6)河野正彦:機械技術,vol.55No.4,
(2007)48.
(c)
ライト
50 mm
10 mm
(d)
10 mm
赤松 猛史
Takeshi Akamatsu
日立ツール株式会社 (e)
野洲工場 商品開発センター
工学博士
300 μm
100 μm
図11 工具径φ0.5 mm首下長さ50 mmの開発ドリルで深さ50 mmの
穴を加工した場合(L/D=100倍)の切削加工事例
(a)加工穴概略図(b)加工後外観1(c)加工後外観2(貫通
穴であることを示す)
(d)穴内面(穴切断後観察)
(e)穴内面拡大図
Fig. 11 An example of drilling(hole depth 50 mm with newly
developed, φ0.5 mm and under neck length 50 mm) (L/D=100)
(a) schematic of drilling, (b) appearance after drilling (No.1),
(c) appearance after drilling (No.2), showing a through hole,
(d) inner surface of a hole, and (e) a magnified view of inner
surface
5. 結 言
穴径φ 1 mm 以下,穴深さと穴径の比 L/D が10 倍以上
の微細深穴加工において,一般的な小径ドリルを用いた場
合の課題を抽出し,新しい工具設計方法を創案して以下の
性能を確認した。
(1)深穴サイクルを採用したステップ加工において,ドリ
ルの切り屑排出溝を短く設定するとともに,後方に首下
ストレート部分を設けることで微細な深穴加工に対応で
きるドリルを創出した。
(2)切り屑排出溝の後方に切り屑ストッパーを設けたこと
で,生成された切り屑が首下ストレート部分に流れず,
加工精度と加工寿命(加工穴数)の改善が可能となった。
(3)切り屑ストッパーがドリル位置を保つガイドの役目を
果たし,0.01 mm 以下の高精度な真直度が得られるよう
になった。
(4)本開発ドリルを用いて,従来実用的には困難であった
L/D が100 倍の深穴切削加工が可能であることを実証し
た。
ここに創案した新設計工具は,2009 年 8 月現在,日立ツ
ールより「エポックマイクロステップボーラー」の商品名
で,販売供給を開始している。
日立金属技報 Vol.26(2010) 45