ミニ分光器/技術資料

技術資料
ミニ分光器
1. 概要
色測定・化学分析などに使用されてきた分光装置は、一般的に大型で、測定するために分光装置が設置された分
析室などに測定対象を持ち込む必要がありました。これに対して、測定対象を分析室に持ち込むことなく現場にて分
析を行うリアルタイム計測、および常時測定監視を行うモニタリング計測への関心が近年急速に高まりつつあります。
当社は、長年にわたって培ってきた独自のイメージセンサ技術と、エッチングなどのマイクロマシン技術を融合した
小型で低価格のミニ分光器を用意しています。ミニ分光器には、波長分散素子であるグレーティングなどの光学系とリ
ニアイメージセンサが内蔵されています。ミニ分光器は、化学分析、色測定、環境計測、生産ラインにおけるプロセスコ
ントロールなどの幅広い測定に応用できます。なお当社は、モバイル測定機器への組み込みを想定した OEM モデル
も用意しています。
2. 構成
モノクロメータは、従来から分光装置として広く普及しており、通常はフォーカスレンズ (またはフォーカスミラーミ
ラー)の焦点面に出射スリットが配置されています。一方、ポリクロメータは、モノクロメータの分光原理を利用して、同
時に複数のスペクトルの測定を可能にしたものです。ミニ分光器はコンパクトなポリクロメータであり、フォーカスレンズ
/ミラーの焦点面にリニアイメージセンサが配置されています。小型化を実現するために、コリメートレンズ (またはコ
リメートミラー)およびフォーカスレンズ/ミラーの焦点距離がモノクロメータに比べて短いものを採用しています。
以下にミニ分光器の主要な構成について説明します。
入射スリット
測定光を導入するための開口部です。開口の大きさは、波長分解能・スループットなどの光学的特性に大きな影響
を与えます。光ファイバ入射型と空間入射型の2つの光入射方式があります。
コリメートレンズ/ミラー
入射スリットを透過した光は、一般に広がり角をもちます。コリメートレンズは、この透過光を平行にしてグレーティン
グに導きます。
グレーティング
グレーティングは、コリメートレンズを通過した入射光を波長ごとに異なる回折角度にて出射して分光を行います。
1
フォーカスレンズ/ミラー
グレーティングによって分光された光を波長順にイメージセンサ上へ直線状に結像させます。
イメージセンサ
グレーティングで分光され、フォーカスレンズによって結像された光信号を電気信号に変換して出力します。
【図 2-1】 光学系配置図 (TG シリーズ)
フォーカスレンズ
透過型グレーティング
イメージセンサ
コリメートレンズ
入射スリット
KACCC0256JA
2-1. 入射スリット
(1) スリット幅
入射スリットは、ミニ分光器に取りこむ測定光の空間的広がりを制限する機能をもっています。ミニ分光器の入射ス
リット像はイメージセンサ上に結像します。スリット幅は、波長分解能を決定する要素です。スリット幅を狭くすると、ミニ
分光器の波長分解能はある程度まで向上します。しかし光学系の収差があるため、波長分解能の向上には限界があ
ります。収差の影響を少なくするためにはNAを小さくするという方法があります。これにより分解能の向上の限界をあ
る程度広げることが可能になります。
波長分解能とスループットはトレードオフの関係にあります。波長分解能を上げるためにスリット幅を狭くしたり NA を
小さくしたりすると、スループットは低下します。必要とする波長分解能とスループットを考慮してスリット幅と NA を決め
る必要があります。
【表 2-1】 ミニ分光器の NA、スリット幅 (C10082CA/C10083CA シリーズ)
型名
感度波長範囲
200~800 nm
C10082CA-2200
C10082CA-2100
C10082CA
C10082CA-2050
C10082CA-1050
C10082CA-1025
C10082CAH
感度波長範囲
320~1000 nm
C10083CA-2200
C10083CA-2100
C10083CA
C10083CA-2050
C10083CA-1050
C10083CA-1025
C10083CAH
NA
0.22
0.11
スリット幅
200 m
100 m
70 m
50 m
50 m
25 m
10 m
2
【図 2-2】 波長分解能-波長
(a) C10082CA シリーズ
(b) C10083CA シリーズ
(Typ. Ta=25 °C)
9
8
12
C10082C A-2200
7
波長分解能 (nm)
波長分解能 (nm)
C10083C A-2200
10
6
C10082C A-2100
5
4
(Typ. Ta=25 °C)
14
C10082CA
3
C10082C A-1050
C10082C A-2050
C10083C A-2100
8
6
C10083C A-2050
C10083CA
4
C10083C A-1050
2
2
1
0
200
C10082CAH
C10082C A-1025
300
400
500
600
700
800
波長 (nm)
0
300
C10083C A-1025
C10083CAH
400
500
600
700
800
900
1000
波長 (nm)
KACCB0194JA
KACCB0195JA
(2) スリット高さ
スリット高さは、装置のスループットに影響を与えますが、波長分解能にはほとんど影響を与えません。しかし、実際
には光学系の収差のためにスリット像がイメージセンサ上で歪むことにより、波長分解能や迷光特性を悪化させる場
合があり、注意する必要があります。
輝線の中心波長
輝線の中心波長 (λc)を決めるには、輝線を 3 画素以上で検出してガウス関数で近似する必要があります。
光強度
【図 2-3】 ガウス関数で近似することによる輝線の中心波長の確定
輝
線
の
中
心
波
長
波長
KACCC0335JA
3
2-2. コリメートレンズ (ミラー)
コリメートレンズは、スリット透過光を平行光にしてグレーティングに入射させます。このときアパーチャ (開口)を併
用することにより、ミニ分光器内に取りこむ光束の NA*1 を制限します。
*1: 光束の NA は、立体角から求められます。
例) 光束の立体角 θ=25.4°の場合
NA  sin
θ
のため、NA ≒ 0.22
2
2-3. グレーティング
(1) 回折格子方程式
グレーティング (回折格子)による分光の原理は、式 (2-1)の回折格子方程式によって表されます。
d (sinα±sinβ) =mλ ・・・ (2-1)
d: 開口の間隔
α: 入射角 (入射光とグレーティング法線がなす角度)
β: 回折角 (回折光とグレーティング法線がなす角度)
m: 回折次数 (m= 0, ±1, ±2…)
λ: 波長
d
【図 2-4】 回折格子方程式の変数


グレーティング法線
入射光
KACCC0246JC
(2) 仕様
グレーティングの主な仕様は、以下の 4 点です。
・ サイズ
・ 格子周波数: 1 mm 当たりのスリット数 (溝の本数)
・ 回折有効波長帯 (ブレーズ波長)
・ 回折効率
4
格子周波数
格子周波数 (N)は、式 (2-2)で表されます。
N=1/d ・・・・・・ (2-2)
d: 開口の間隔
格子周波数は、逆線分散値 (D)を決めるパラメータです。逆線分散値は、フォーカスレンズの焦点面上における単
位長さ当たりの波長差を示します。逆線分散値は以下のように求められます。
回折格子方程式 d (sinα±sinβ) = mλより
sinα± sinβ= Nmλ
入射角αを一定として両辺をλで微分すると
dβ/dλ = Nm/cosβ
両辺にフォーカスレンズの焦点距離 f をかけると
f・dβ/dλ = Nmf/cosβ
この逆数が逆分散値であり、f・dβ=dx とすると
D = dλ/dx = cosβ/Nmf
回折効率
回折効率 (DE: diffraction efficiency)は、入射光のエネルギーのうち、回折光としてどの程度のエネルギーを取り
出せるかを示す値です。ミニ分光器の回折効率は、入射光量に対する特定の次数の回折光量比で表されます。当社
の透過型グレーティングは格子形状であり、広い波長範囲に対して一定の回折効率を実現しています。また、当社の
反射型グレーティングは、ブレーズドグレーティング (鋸形状)であり、特定の波長に対して高い回折効率が得られま
す。
当社のミニ分光器には、表 2-2 の種類のグレーティングが内蔵されています。ミニ分光器のグレーティングは、光学
シミュレーション技術を用いて凹凸の比率や溝の深さを最適化し、製品に合った回折効率と偏光依存性を実現してい
ます。
【表 2-2】 ミニ分光器のグレーティングの種類
種類
マスター/レプリカ 作製方法
透過型
反射型
マスター
レプリカ
エッチング
成型
材質
形状
石英
格子形状
・
・
・
樹脂
ブレーズド
(鋸形状)
・
・
・
特徴
温度変化に対して安定した仕様
広い波長範囲に対して一定の回折効率
グレーティング角度に対する回折光の出射
角度依存性が少ない
格子周波数を高くすることができる
低コスト
特定の波長に対して回折効率が高い
5
【図 2-5】 回折効率 (代表例)
(a) C11482GA, C9913GC
(b) C9914GB
100
100
TMモード
90
90
80
80
TEモード
70
60
非偏光光
50
40
回折効率 (%)
回折効率 (%)
70
60
20
20
10
10
波長 (nm)
非偏光光
40
30
1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700
TEモード
50
30
0
900
TMモード
0
1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100 2200
波長 (nm)
KACCB0075JB
KACCB0116JA
2-4. フォーカスレンズ (ミラー)
フォーカスレンズは、グレーティングからの回折光をイメージセンサ上に波長の順に直線状に結像させます。
2-5. イメージセンサ
ミニ分光器には、当社が長年にわたって培ってきたイメージセンサ技術をベースに最適化したイメージセンサが内蔵
されています。
グレーティングで分光されたスペクトルは、フォーカスレンズ (ミラー)によって波長ごとに直線状にリニアイメージセ
ンサへ結像され光電変換されます。イメージセンサでは、各画素に入射される光信号をある期間ごとに出力します。こ
の期間を蓄積時間と呼び、蓄積時間を調節することにより光信号の出力を最適化することができます。たとえば微弱
光を検出する場合、蓄積時間を長くすることにより光信号の出力を信号処理が可能なレベルまで引き上げることがで
きます。
ミニ分光器に用いられているイメージセンサの電荷蓄積方式には、イメージセンサの構造により時系列蓄積方式と
同時蓄積方式があります。
(1) 時系列蓄積方式
時系列蓄積方式のイメージセンサでは信号転送はアドレス方式であり、シフトレジスタからの連続的なパルスがアド
レス信号としてフォトダイオード部に加えられ、フォトダイオードに蓄積されていた電荷を共通信号線に出力します。
各画素の蓄積時間は同一ですが、画素ごとにスキャンタイミングが異なるため (図 2-6)、時間によって変動する入射
光を検出する場合には注意する必要があります。パルス光を検出する場合には、すべての画素が蓄積タイミングのと
きに入射させることを推奨します。
時系列蓄積方式では、繰り返し時間 (Tc)と蓄積時間 (Ts)は一致します。
各画素の読み出し時間が 4 s/ch、画素数が 512 ch の場合、センサ全体の読み出し時間 (Tr)は以下のように表され
ます。
Tr = 4 s/ch×512 ch = 2.048 ms
6
【図 2-6】 タイミングチャート(時系列蓄積方式)
Tc
Start
Ts
1 ch蓄積タイミング
Ts
2 ch蓄積タイミング
Ts
最終ch蓄積タイミング
Tr
Video
信号出力期間
1 ch目出力
休止時間
2 ch目出力
最終ch出力
繰り返し時間 (Tc) = 蓄積時間 (Ts) = 読み出し時間 (Tr) + 休止時間
KACCC0247JA
【図 2-7】 時系列蓄積方式と同時蓄積方式の違い
時系列蓄積方式
同時蓄積方式
入射
光量
1 ch目のアナログスイッチ
最終chのアナログスイッチ
1 ch目のフォトダイオードに
蓄積される信号量
最終chのフォトダイオードに
蓄積される信号量
時間
KACCC0250JA
(2) 同時蓄積方式
同時蓄積方式のイメージセンサでは、シフトレジスタからのパルスによりフォトダイオードに蓄積された電荷は全画
素同時にアナログシフトレジスタに移され、各画素の電荷はクロックパルスにより順次出力部に転送・出力されます。こ
の方式は、InGaAs リニアイメージセンサに採用されています。
InGaAs リニアイメージセンサの蓄積時間 (Ts)は、RESET 信号のレベルで制御されます。RESET 信号が High レ
ベル時は蓄積モード、Low レベル時はリセットモードです。繰り返し時間 (Tc)は、蓄積時間 (Ts)とリセット期間
(Treset)の合計になります。なお、リセット期間内に入射された光信号は検出されません。パルス光を入射する場合に
は、蓄積時間に入射する必要があります。
7
【図 2-8】 タイミングチャート(同時蓄積方式)
Tc
Start
Treset
Ts
1 ch蓄積タイミング
2 ch蓄積タイミング
最終ch蓄積タイミング
Tr
Video
信号出力期間
1 ch目出力
休止時間
2 ch目出力
最終ch出力
繰り返し時間 (Tc) = 蓄積時間 (Ts) + リセット期間 (Treset)
KACCC0248JA
2.6 ミニ分光器への光入射
ミニ分光器には、2種類の光入射方式のタイプがあります。
・SMA905 コネクタ付光ファイバを接続することによって、測定光を分光器内部に導く SMA905 コネクタ付タイプ
(光ファイバ入射型)
・光ファイバを用いずに、入射光を空間を介して導くタイプ (空間入射型)
ここでは光入射に用いる光ファイバや光入射方法について説明します。
光ファイバを曲げた場合の影響
光ファイバ (パッチコード)は光ファイバ素線、光ファイバ素線を保護する保護チューブ、および光ファイバ素線を接
続するために両端に設けられた光ファイバコネクタにより構成されます。光ファイバ素線は、コアよりも屈折率がわず
かに低いクラッドがコアを取り囲む構造になっています。コアとクラッドの屈折率の差により、その界面において臨界角
以上の光が全反射をして伝達されます。このため、外部から光ファイバ内部へ光を入射する角度が光ファイバの NA
になります。
【図 2-9】 光ファイバ入射光
入射光
NA
臨界角
コア
クラッド
KACCC0656JA
光ファイバを曲げることにより、光ファイバ素線内部の伝達条件が変化します。このためミニ分光器に接続した光
ファイバを測定中に曲げたり、揺らしたりすると、ミニ分光器の出力が変動する場合があります。
注) 「ミニ分光器の使用上の注意」に記載された最小曲げ半径よりも小さく曲げて使用すると断線する場合があるた
め、避けてください。
8
光入射の NA (開口率)≧0.22 にする方法
ミニ分光器の多くは内部光学系が NA=0.22 に設計されています。これに伴って、ミニ分光器に測定光を入射する部
分では光入射の NA≧0.22 にする必要があります。この条件を満たすための光入射方法を紹介します。
(1) 測定サンプルに光ファイバの先端を十分に近接させる方法
この場合には、測定サンプルからの光放射の NA が 0.22 より十分に大きいことが必要です。
(a) 測定サンプルの光放射部分が有限の大きさをもつ場合
【図 2-10】 測定サンプルと光ファイバの配置例 (1)
測定サンプル
光ファイバから測定サンプルの光放射を見込む角
度が NA≧0.22 になるよう設定してください (測定
サンプルの光放射部の大きさと NA、および測定サ
ンプルと光ファイバの距離を確認してください)。
光ファイバ
NA≧0.22
KACCC0654JB
NA=0.22 の場合は立体角 25.4°のため、測定サンプルから光ファイバ入射端までの距離 L は以下の条件を満たす
必要があります。
D/2≧tan {(25.4°/2) × L} + d/2
L≦(D/2-d/2)/ tan(25.4°/2) = (D-d)/0.113
測定サンプル径: D
光ファイバコア径: d
(b)
測定サンプルが点光源の場合
【図 2-11】
測定サンプルと光ファイバの配置例 (2)
測定サンプル
(点光源)
光ファイバ
測定サンプル(点光源)からファイバのコア
径を見込む角度が NA≧0.22 となるように
測定サンプルと光ファイバ入射端の距離
を設定してください。
NA≧0.22
KACCC0768JA
L は以下の条件を満たす必要があります。
tan (25.4°/2)≧(d/2)/L
L≦(d/2)/ tan(25.4°/2)=d/0.113
9
(2) 集光レンズを用いて NA≧0.22 の条件で光入射をする方法
・測定サンプルの光放射部分が有限の大きさをもつ場合、もしくは点光源の場合
【図 2-12】 測定サンプルと光ファイバの配置例 (3)
測定サンプル
集光レンズ
点光源
光ファイバ
NA≧0.22
KACCC0655JB
光ファイバから光ファイバと対向する集光レン
ズの出射光を見込む角度が NA≧0.22 となる
ように集光レンズの口径と焦点距離を選定し
てください。
集光レンズの口径 d、焦点距離 f は、以下の式を満たす必要があります。
tan (25.4°/2)≦(d/2)/f
d≧2 × f × tan(25.4°/2)=f × 0.451
実際の測定においては測定サンプルから放射される光束に指向性があったり平面内で強度分布をもつ場合があり、
注意が必要です。また光学部品を使用して集光などを行う場合は、その収差についても配慮する必要があります。
ミニ分光器と接続する光ファイバに必要とされる条件
(1) ミニ分光器の感度波長域、測定光の波長域において透過率が優れているもの
一般に純粋石英ファイバは、広い波長域において高い透過率を示します。しかし OH 基の含有率の高い純粋石英
ファイバでは、長波長域 (1 m 付近など)において高い伝送損失をもちます。一方、OH 基の含有率の低い純粋石英
ファイバや Ge ドープ石英ファイバの伝送損失は、長波長域では低く紫外域では高くなります。また 250 nm 付近の紫
外域においては、石英ファイバであっても劣化することが知られています。これらのことを考慮して光ファイバを選定す
る必要があります。
10
【図 2-13】 光ファイバの伝送損失(代表例)
(a) 純粋石英ファイバ (耐紫外線)
(b) Ge ドープ石英ファイバ
0.2
0.4
伝送損失 (dB/m)
伝送損失 (dB/m)
0.6
0.2
0
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
0.1
0
400
600
800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200
波長 (nm)
波長 (nm)
KACCB0079JB
KACCB0080JA
(2) ミニ分光器の内部 NA 以上の NA で光ファイバに光入射すること
光ファイバに光入射する NA がミニ分光器の内部 NA より小さい場合に、波長シフトなどの影響が発生する恐れがあ
ります。
(3) コア径がミニ分光器の入射スリット幅の 3 倍程度より大きいもの
光ファイバのコア径が入射スリット幅の 3 倍程度より小さい場合、測定値の波長再現性が悪くなります。
【図 2-14】 波長再現性-コア径 (光ファイバ)
1.0
C9914GB
0.9
波長再現性 (nm)
0.8
C11482GA , C9913GC
0.7
C9405CB
0.6
0.5
0.4
C9404CAシリーズ
0.3
0.2
0.1
0
0
100 200 300 400 500 600 700 800 900
ファイバコア径 (µm)
KACCB0112JD
さらに、C9405 シリーズのようにスリット高さが大きく光ファイバのコア径よりも大きい場合、光ファイバの入射端にお
ける光量密度が同じとすると、光ファイバのコア径が大きいほどミニ分光器への入射光量が大きくなり高い出力が得ら
れます。
11
【図 2-15】 スリット高さと光ファイバのコア径 (例)
コア径大
コア径小
スリット
KACCC0546JA
(4) 光ファイバの保護チューブの遮光性が高いもの
光ファイバの保護チューブの遮光性が低いと、光ファイバに外乱光が迷光として混入し、測定に影響を及ぼします。
【図 2-16】 遮光性の異なる光ファイバを用いた迷光の測定例
50000
40000
A/Dカウント
30000
遮光が不十分な
光ファイバ
20000
10000
0
遮光が十分な光ファイバ
-10000
0
100
200
300
400
500
画素数
KACCB0113JB
12
光ファイバのオプション
紫外/可視域用ファイバ (耐紫外線)と可視/近赤外域用ファイバのコア径 600 m、800 m のタイプを用意してい
ます (別売)。
製品名
型名
仕様
コア径 600 m, NA 0.22
A9762-01
長さ 1.5 m, 両端 SMA905D コネクタ付
紫外/可視域用ファイバ
(耐紫外線)
コア径 800 m, NA 0.22
A9762-02
長さ 1.5 m, 両端 SMA905D コネクタ付
コア径 600 m, NA 0.22
A9763-01
長さ 1.5 m, 両端 SMA905D コネクタ付
可視/近赤外域用ファイバ
コア径 800 m, NA 0.22
A9763-02
長さ 1.5 m, 両端 SMA905D コネクタ付
注) 光ファイバ選定時の注意
・ 測定波長範囲に 400 nm 以下の波長が含まれる場合は、紫外/可視域用ファイバが適しています。
・ スリット高さが 600 m 以上のミニ分光器の場合は、コア径 800 m の光ファイバを選定するとミニ分光器
への入射光量を上げることが可能です。ただしデータシートなどに記載された仕様は、コア径 600 m の光
ファイバを接続した場合のデータです。
2-7. 駆動回路
モジュールタイプのミニ分光器には、イメージセンサ専用の駆動回路を内蔵しています。駆動回路上のビデオ信号
処理回路において信号処理されたビデオ信号を 16 ビット A/D 変換器にてデジタル信号に変換し、コントローラの制御
によって USB を介して PC へデータ転送します。
ミニ分光器の駆動回路は、以下の部分で構成されています。
非冷却型
・ センサ駆動回路
・ ビデオ信号処理回路
・ A/D 変換器
・ コントローラ
・ データ転送部
・ 電源回路
冷却型
・ センサ駆動回路
・ ビデオ信号処理回路
・ A/D 変換器
・ コントローラ
・ データ転送部
・ 電源回路
・ 温度制御部、冷却ファン
(1) センサ駆動回路
ミニ分光器内蔵のイメージセンサの仕様に合った信号 (CLK, START, RESET など)を生成し、イメージセンサの端
子に入力します。
(2) ビデオ信号処理回路
ビデオ信号処理回路は、イメージセンサから出力されたビデオ信号を処理します。ミニ分光器内蔵の A/D 変換器の
性能を最大限に生かすため、オフセット電圧の調整や出力信号の増幅を行います。
(3) A/D 変換器
ビデオ信号処理回路から出力されたビデオ信号は、A/D 変換器で 16 ビットのデジタル信号に変換されます。
13
(4) コントローラ
コントローラはセンサとデータ転送のやりとりを実行するほか、適切なタイミングでスキャン開始信号を発生させま
す。
(5) データ転送部
A/D 変換器で変換されたデータは、センサ駆動回路の FIFO メモリに格納された後、センサのスキャンとは非同期に
CPU の内部 RAM を経由して USB を介して PC へデータ転送されます。
(6) 電源回路
電源回路には、PC からの USB バスパワーおよび外部からの電源が供給されます。供給された電源によって、
DC/DC コンバータにて必要な電圧を生成します。また、PC および DC/DC コンバータから発生するスイッチングノイズ
をフィルタ回路により極力低減させ、回路の低ノイズ化を実現します。
(7) 温度制御部、冷却ファン
冷却型のミニ分光器は、イメージセンサに内蔵された電子冷却素子で受光部を冷却することで、低暗電流で高精度
の測定を行います。温度制御部は、受光部を一定温度に冷却するために電子冷却素子に流す電流を制御します。ま
た、冷却ファンは電子冷却素子の放熱を効率よく行います。
2-8. インターフェ-ス
ミニ分光器は、モジュールタイプと機器組込用に分類されます。モジュールタイプは、表 2-3 の USB インターフェース
に対応しています。
【表 2-3】 モジュールタイプのミニ分光器の USB インターフェース
ミニ分光器
型名
C9404CA, C9404CAH
TG/TG-cooled
C9405CB
シリーズ
C9913GC, C9914GB
C11713CA, C11714CA
TG2/TG-cooled2
C11118GA, C11482GA
シリーズ
C10082MD, C10082CA, C10082CAH
TM シリーズ
C10083MD, C10083CA, C10083CAH
TM2 シリーズ
C11697MB
C13053MA
FT2 シリーズ
C11007MA, C11008MA
RC シリーズ
インターフェース
USB 1.1
USB 2.0
USB 1.1
USB 2.0
USB 2.0
USB 1.1
14
(1)モジュールタイプ
モジュールタイプのミニ分光器には、光学系・イメージセンサ・駆動回路などが含まれています。USB インターフェー
ス (USB 1.1 または 2.0)を搭載し、PC と接続して使用します。付属の評価用ソフトウェアを用いて、イメージセンサの
動作条件(蓄積時間・ゲインなど)の設定、イメージセンサからのデータの取得などを行うことができます。
【図 2-17】 ブロック図 (C10082MD)
PLD
FIFO
EOS
コントロール
CPU
データ
H8S/2000
(16 MHz)
内蔵RAM
イメージセンサ
変換
USB 1.1
USB
START, CLK, Vg
16ビット
ADC
AMP
レギュレータ
DC/DC
KACCC0251JA
【図 2-18】 ミニ分光器と PC の接続例
計測動作などの各種命令の送信
計測データなどの送信
ミニ分光器
USBケーブル
KACCC0657JA
15
【図 2-19】 ソフトウェア構成例
付属のCD-ROM
サンプルソフトウェア
ユーザーサイドで構築可能
アプリケーション
ソフトウェア
DLL
関数仕様書を添付 (CD-ROM内)
デバイスドライバ
USBドライバ (winusb.sys)
ミニ分光器
USB接続
USBホストコントローラ
KACCC0658JB
(2) 機器組込用
機器組込用ミニ分光器には、光学系とイメージセンサが含まれています。イメージセンサの入出力端子を外部と接
続して使用します。機器組込用ミニ分光器を用いて、用途に合わせた任意の回路設計のシステムを構成することがで
きます。
【表 2-4】 機器組込用ミニ分光器の接続形態
ミニ分光器
C11009MA, C11010MA
C10988MA-01, C11708MA, C12666MA
接続形態
フレキ基板
IC ピン
【図 2-20】 機器組込用ミニ分光器のフレキ基板コンタクト部の例 (C11009MA, C11010MA)
6 ± 0.5
10.5 ± 0.2
4 ± 0.5
黒色カバー
厚さ: 0.3
単位: mm
KACCC0261JB
16
2-9. 評価用ソフトウェア
モジュールタイプのミニ分光器付属の評価用ソフトウェアを用いて、USB 接続された PC 上からミニ分光器の操作お
よび計測データの取得・保存を行います。
(1) 機能
評価用ソフトウェア*1 を PC にインストールすることにより、以下の基本的な操作を行うことができます。
・ 測定データの取得・保存
・ 測定条件の設定
・ モジュール情報 (波長変換係数*2、ミニ分光器のタイプなど)の取得
・ グラフ表示
・ 演算機能
[画素 No.から波長への変換/参照データとの比較演算 (透過率、反射率)/ダーク減算/ガウス近似 (ピークの
位置とカウント、半値幅)]
*1: 対応 OS については、データシートを参照してください。
*2: イメージセンサの画素 No.を波長に変換する係数。A/D 変換後のカウント値を入射光量に比例する値に変換する
係数は用意していません。
注) 1 台の PC に複数台のミニ分光器を接続して使用することも可能です (TM/TG/TG-cooled,
TM2/TG2/TG-cooled2 シリーズ)。
評価用ソフトウェアには、以下の 4 種類があります。対応するタイプ以外のミニ分光器を駆動することはできません。
・ TG/TM/TG-cooled シリーズ(インターフェース USB 1.1)用
・ TG2/TM2/TG-cooled2/FT2 シリーズ(インターフェース USB 2.0)用
・ RC シリーズ用
・ MS シリーズ用
【図 2-21】 評価用ソフトウェアの画面例
17
ミニ分光器付属の CD には、アプリケーションソフトウェアとハードウェアの仲介を受けもつ DLL およびそれらを使用
する評価用ソフトウェアとサンプルソフトウェアが含まれています。評価用ソフトウェアによってミニ分光器を制御するた
めには、DLL を利用します。アプリケーションソフトウェアにおいて、直接 I/O やメモリにアクセスすることはできないため、
DLL から必要な関数を呼び出し、デバイスドライバや USB インターフェースを介してミニ分光器の制御を行います。
DLL を用いてユーザ独自のアプリケーションソフトウェアを開発することも可能です。
DLL および評価用ソフトウェアは、ミニ分光器の機種によって異なります。なお関数仕様書・ソフトウェア取扱説明書
は、ミニ分光器付属の CD に収納されています。なおミニ分光器の購入前に関数仕様書・ソフトウェア取扱説明書の入
手を希望する場合は、ご相談ください。
【表 2-5】 評価用ソフトウェア
ミニ分光器
C9404CA
TG シリーズ
C9404CAH
C9405CB
TG-cooled
C9913GC
C9914GB
C10082MD
TM シリーズ
C10082CA
C10082CAH
C10083MD
C10083CA
C10083CAH
Raman
C11713CA
C11714CA
C11007MA,
RC シリーズ
C11008MA
DLL
specu1b.dll
評価用ソフトウェア
対応 OS
備考
複数
接続
対応
SpecEvaluation
.exe
Windows 7
Professional
(32/64 ビット)*
rcu1b.dll
RCEvaluation
.exe
TG2 シリーズ
C11482GA
TM2 シリーズ
C11697MB
SpecEvaluation
HSUSB2A.dll
USB2.exe
TG-cooled2
C11118GA
C13053MA
FT2 シリーズ
C11351
MS シリーズ用
HMSUSB2.dll
HMSEvaluation
(関数非公開)
.exe
評価回路
* 使用する PC に対応したインストーラを使用してください。
複数
接続
対応
-
18
(2) 測定モード
評価用ソフトウェアには、Monitor モード、Measure モード、Dark モード、Reference モードなどの測定モードを用意
しています。表 2-6 に各計測モードの概要を示します。
【表 2-6】 評価用ソフトウェアの計測モード
測定モード
概要
特長
画素 No.-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
波長-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
選択波長の時系列表示グラフ描画可能*2
計測データの保存を目的とし
計測データ保存不可能
Monitor モード
ない計測モード
Dark 減算可能
Reference データ表示可能
計測スキャン数設定不可能、スキャン数制限なし
画素 No.-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
波長-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
選択波長の時系列表示グラフ描画可能*2
計測データの保存を目的とし
計測データ保存可能
Measure モード
た計測モード
Dark 減算可能
Reference データ表示可能
計測スキャン数設定可能
画素 No.-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
ダークデータ (ダーク減算を
Dark モード*1
行う際に使用)を取得するため
波長-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
の計測モード
計測データ保存可能
画素 No.-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
レファレンスデータを取得する
Reference モード*1
波長-A/D 出力値のリアルタイムグラフ描画可能
ための計測モード
計測データ保存可能
ソフトウェアトリガ非同期計測
ソフトウェアトリガ同期計測
外部トリガ非同期エッジ
トリガ信号によりデータを取得
Trigger モード*2
するための計測モード
外部トリガ非同期レベル
外部トリガ同期エッジ
外部トリガ同期レベル
画素 No.-A/D 出力値の転送完了時、グラフ描画可能
データをまとめて転送すること
連続計測モード*2
波長-A/D 出力値の転送完了時、グラフ描画可能
により連続データを取得
計測データ保存可能
*1: TG2/TM2/TG-cooled2/MS シリーズには Dark モード、Reference モードはありません。Measure モードにて同様
の機能をもちます。
*2: TG2/TM2/TG-cooled2 シリーズのみ対応
(3) 評価用ソフトウェアの演算機能
評価用ソフトウェアには、以下の演算機能を用意しています。
演算機能
特徴
ダークデータの測定および測定データからダークを減算して表示することが可能
ダーク減算
参照データ測定/表示
レファレンスデータの測定およびグラフ表示が可能
ガウスフィッティング
指定した範囲のデータに対するガウス関数への近似が可能
19
(4) データの保存
評価用ソフトウェアは、Measure モード、Dark モード、Reference モードで取得したデータを以下のファイル形式で
保存することができます。
ファイル形式
特徴
CSV 形式
Microsoft® Excel®で読み込み可能
注) Microsoft、Excel は米国 Microsoft Corporation の米国およびそのほかの国における登録商標です。
3. 特性
3-1. 感度波長範囲
感度波長範囲は、輝線を入力した際に出力のピークが確認できる波長の範囲です。当社は、紫外から赤外におい
て、異なる感度波長範囲をもったミニ分光器を用意しています。
3-2. フリースペクトルレンジ
分光光学設計が-1 次光を基準にしていて、フィルタを用いることによって-2 次光/-3 次光などの高次光の影響を防ぎ、
測定が可能な波長範囲をフリースペクトルレンジといいます。ミニ分光器の場合、フリースペクトルレンジと感度波長範
囲は一致しています (C9405CB を除く)。
(1) 高次光
感度波長範囲の上限
感度波長範囲の下限
> 2 の場合
この場合は構造上、高次光が発生します。この高次光を除去するためにミニ分光器には高次光カットフィルタが搭
載されています (C9405CB を除く)
感度波長範囲の上限
感度波長範囲の下限
≦ 2 の場合
この場合にも、感度波長範囲より短波長の光が入射したときには、その入射光が-2 次光としてエラー測定されるこ
とがあります。たとえば C11482GA (感度波長範囲 900~1700 nm)の場合、800 nm の光が測定光とともに入射した
ときには、800 nm の-2 次光が 1600 nm 付近で検出されて問題になることがあります。このとき、フリースペクトルレン
ジの条件に合うようにロングパスフィルタ (上記の例の場合は 900 nm のロングパスフィルタ)と組み合わせて使用する
必要があります。
(2) C9405CB の場合
C9405CB (感度波長範囲 500~1100 nm)の光学系には、高次光カットフィルタは搭載されていないため使用条件
に合ったロングパスフィルタと組み合わせて使用する必要があります。表 3-1 に特定波長のロングパスフィルタを用い
た場合のフリースペクトルレンジの例を示します。
【表 3-1】 ロングパスフィルタと組み合わせた場合のフリースペクトルレンジ (C9405CB)
ロングパスフィルタ波長
フリースペクトルレンジ
500~800 nm
400 nm
600~1100 nm
600 nm
20
3-3. 波長分解能
(1) 定義
波長分解能を定義するには 2 種類の方法があります。1 つは DIN 規格におけるレイリー基準による分解能です。同
一の強度の波長差が同時にどこまで近接して識別できるかが、数字によって定義されます。この場合 2 つのピークの
間の谷の部分は、ピーク値の少なくとも 81%以下にて観測されなければなりません。一方、より実践的な分解能の定
義としてはスペクトルの半値幅 (FWHM)に基づく定義方法が広く知られています。これはスペクトルのピーク値に対す
る 50%の部分におけるスペクトルの広がりを定義する方法です。半値幅の定義による分解能は、レイリー基準による
分解能の定義に対しておよそ 80%の値になることが知られています。ミニ分光器の波長分解能は、半値幅によって定
義されています。
【図 3-1】 レイリー基準による分解能の定義
【図 3-2】 半値幅の定義
50%
相対光量
相対光量
レイリー分解能
50%
81%
半値幅
波長
波長
KACCC0545JA
KACCC0320JB
【図 3-3】 波長分解能-波長(代表例)
(Typ. Ta=25 °C)
18
C11708MA
16
C11118GA
14
C12666MA
波長分解能 (nm)
12
C10988MA-01
10
C11008MA
8
C11007MA
C11697MB
C10083MD
C10083CA
C9914GB
6
C9913GC
C13053MA
4
C10082CA
C10082MD
2
0
200
C9404CA
C9404CAH
400
C10082CAH
C10083CAH
C11714CA
C11713CA
600
C11482GA
C9405CB
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
2200
2400
2600
波長 (nm)
KACCB0139JH
21
(2) 波長分解能を決める要因
ミニ分光器の波長分解能は、以下の要因によって決定されます。
・
・
・
・
入射スリット幅
ミニ分光器内部の NA
グレーティングの格子周波数
光学系の結像倍率
波長分解能を向上させるためには、入射スリット幅を狭くしたり、ミニ分光器内部の NA を小さくしたり、グレーティン
グの格子周波数を高くするなどの方法があります。しかし、入射スリット幅を狭くするとミニ分光器のスループットが下
がり、グレーティングの格子周波数を高くすると装置が大きくなったり感度波長範囲が狭くなったりします。このような仕
様のトレードオフに注意する必要があります。
3-4. 波長精度
波長校正 (キャリブレーション)には、モノクロメータまたは輝線ランプを用いる場合が一般的であり、当社はモノクロ
メータを使用しています。モノクロメータを使用する場合、モノクロメータの波長精度がミニ分光器の絶対波長精度に影
響するため、事前にモノクロメータの波長校正を高精度に行う必要があります。
波長校正の結果をガウスフィッティングする場合は、一般的には高次近似式によって行います。近似式の次数が高
次であるほどフィッティング精度は高くなりますが、一般的には 5 次の近似式で十分な精度が達成されます。図 3-4 に
C10082MD の 5 次の近似式によってフィッティングしたときのフィッティングエラーの例を示します。
【図 3-4】 波長校正のフィッティングエラーの例 (C10082MD の 5 次の近似式による)
0.06
0.04
残差 (nm)
0.02
0
-0.02
-0.04
-0.06
200
300
400
500
600
700
800
入力波長 (nm)
KACCB0282JA
22
3-5. 波長再現性
ミニ分光器は機械的可動部分がないため、優れた波長再現性 (±0.1 nm~±0.8 nm)を実現しています。
また、堅牢で温度膨張係数の極めて低い材質の光学系を採用することによって、低い温度依存性(±0.01~
±0.08 nm/℃)も実現しています。
また、光ファイバによる波長のズレも考慮する必要があります。これは、光ファイバのコアの偏芯、フォーミングの変
化、入射端の光軸・入射 NA の変化によるものです。コアの偏芯の影響をなくすためには、光ファイバをミニ分光器に
接続して波長校正を行う必要があります。
3-6. 迷光
迷光は、本来測定すべき光以外の光がイメージセンサに入射した結果、発生します。迷光の要因には次のものがあ
ります。
・ 外乱光
・ グレーティングの不完全性
・ レンズ表面、検出器の窓材、検出器の受光面からの表面反射
迷光の定義には、ロングパスフィルタを利用する方法と狭い波長帯域の参照光 (モノクロメータ出射光や輝線ランプ
のスペクトルなど)を利用する方法があります。
ロングパスフィルタを利用する方法では、特定波長用のロングパスフィルタを白色光が透過した光を用います。この
場合の迷光は、透過波長域とブロック波長域の透過率の比で定義されます。この迷光レベル (SL)は、式 (3-1)で表さ
れます (Tl, Th の定義については図 3-5 参照)。
SL=10 x log (Tl/Th) ・・・・・・・ (3-1)
この定義の場合、広い波長範囲における迷光の影響を測定できるため、蛍光測定などの実際の用途に適合してい
ます。ただし、参照光として用いる白色光の強度プロファイルが、測定値に影響を与えることを考慮する必要がありま
す。
【図 3-5】 Tl, Th の定義
透過率
Th
Tl
波長
KACCC0255JA
23
一方、狭い波長帯域の参照光を利用する方法では、迷光レベル (SL)は式 (3-2)で表されます。
SL=10 x (log IM/IR) ・・・・・・・ (3-2)
IM: 参照光の波長から、ずれた位置において出力される不必要な光量
IR: 参照光の光量
この定義では測定条件が非常に単純なため、ミニ分光器の迷光の定量的な評価についての再現性は高くなりま
す。
なお、2 つの方法によって定義された迷光は、検出波長によって異なることを考慮する必要があります。このため
ミニ分光器の迷光は、複数の波長で測定する必要があります。
【図 3-6】 輝線による迷光の測定例 (100 回測定した平均値)
(a) C10082MD
(b) C9914GB
10
10 0
300 nm
400 nm
600 nm
10
-1
10
-2
10
-3
10 - 4
10
-4
10 - 5
10
-5
10 - 1
250 nm
750 nm
500 nm
相対出力
10 - 3
10 - 6
200
2150 nm
1150 nm
10 - 2
相対出力
0
700 nm
1300 nm
1500 nm
1650 nm
1900 nm
-6
300
400
500
600
700
800
10
1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100 2200
波長 (nm)
波長 (nm)
KACCB0281JA
KACCB0119JA
3-7. 感度
ミニ分光器に内蔵されているイメージセンサの出力電荷量は、式 (3-3)で表されます。
Q(λ) = k(λ)・P(λ)・Texp ・・・・・・・ (3-3)
Q(λ): イメージセンサの出力電荷量 [C]
k(λ): ミニ分光器の入射光量からイメージセンサの出力電荷量への変換係数
(=光学系の効率×グレーティングの回折効率×イメージセンサの感度)
p(λ): 各波長におけるミニ分光器への入射光量 [W]
Texp: 蓄積時間 [s]
イメージセンサの出力電荷量 Q(λ)は電荷-電圧変換回路により電圧に変換され、さらに A/D 変換器でデジタル
値に変換され、最終的にミニ分光器の出力値となります。ミニ分光器の出力値は、式 (3-4)で表されます。
I(λ) = ε・Q(λ) = ε・k(λ)・P(λ)・Texp ・・・・・・・ (3-4)
I(λ): ミニ分光器の出力値 [counts]
ε: イメージセンサの出力電荷量からミニ分光器の出力値への変換係数
(=電荷-電圧変換回路の回路定数、A/D 変換器の分解能の積)
24
ミニ分光器の感度は式 (3-5)で表されます。
E(λ) = I(λ) /{P(λ)・Texp} ・・・・・・ (3-5)
E(λ): ミニ分光器の感度 [counts/(W・s)]
式 (3-5)に式 (3-4)を代入すると式 (3-6)になります。
E(λ) = ε・k(λ) ・・・・・・ (3-6)
【表 3-2】 変換係数を決める要素の波長依存性
変換係数を決める要素
光学系の効率
グレーティングの回折効率
イメージセンサの感度
電荷-電圧変換回路の回路定数
A/D 変換器の分解能
波長依存性
あり
あり
あり
なし
なし
ミニ分光器の分光感度特性のグラフは、輝線を入射したとき、ガウス関数で近似したピーク値で表しています。なお、
広い波長帯域の光を入射した場合の分光感度特性は、図 3-7 の分光感度特性とは異なりますので注意する必要があ
ります。
【図 3-7】 分光感度特性
(Typ. Ta=25 °C)
100
C9404CA
C9405CB
C10083CA
C11714CA
10-1
C11697MB
C11713CA
C9404CAH
10-2
相対感度*
C9914GB
C13053MA
C10082CA
C10083CAH
C11118GA
C11008MA
C10082CAH
C11482GA
10-3
C11007MA
C9913GC
C10083MD
10-4
C10082MD
10-5
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
2200
2400
2600
波長 (nm)
* 光ファイバに入射する光量が一定の場合のA/Dカウント値
(コア径: 600 µm、光ファイバによる減衰はないものとする)
KACCB0137JH
25
3-8. ダイナミックレンジ
ミニ分光器のダイナミックレンジは、以下に分類されます。これらのダイナミックレンジの算出例を示していきます。
・
・
・
・
・
出力のダイナミックレンジ
光量のダイナミックレンジ
ダーク (暗出力)に制限されるダイナミックレンジ
ショットノイズに制限されるダイナミックレンジ
直線性に対するダイナミックレンジ
(1) 出力のダイナミックレンジ
モジュールタイプの出力のダイナミックレンジは、回路ノイズや A/D 変換器の飽和に影響を受けるため、機器組込用
のダイナミックレンジに比べ同一のイメージセンサを内蔵している場合は、やや小さくなります。なお、回路ノイズが読
み出しノイズに比べ十分に小さい場合は、回路ノイズの影響はほとんどありません。
(a) 機器組込用
ダイナミックレンジ 
飽和出力電圧
読み出しノイズ
例: C11009MA (S8378-256N 内蔵)
イメージセンサの飽和出力電圧=2.5 V (Low ゲイン時)、イメージセンサの読み出しノイズ=0.2 mV rms の場合
ダイナミックレンジ=2500/0.2=12500
(b) モジュールタイプ
ダイナミックレンジ 
A/Dカウント飽和時 の出力電圧
2
2
{(読み出しノイズ)  (回路ノイズ) }
例: ミニ分光器の A/D カウント飽和時の出力電圧=2.4 V
イメージセンサの読み出しノイズ=0.2 mV rms、回路ノイズ= 0.1 mV rms の場合
ダイナミックレンジ = 2400/ (0.2) 2  (0.1) 2 = 10700
(2) 光量のダイナミックレンジ
ダイナミックレンジ 
(Lowゲイン時
* 5
) 蓄積時間の下限においてA/Dカウントが飽和直前の光量
(Highゲイン時
* 5
) 蓄積時間の上限において輝線が確認できる光量
* 6
*5: ゲイン設定が可能な場合
*6: たとえば蓄積時間の上限における暗出力のバラツキをσとしたとき、入射光による A/D カウント出力が 3σである
光量
A/D カウントはダーク減算後の光出力のカウントを用います。なお機器組込用は、専用評価回路に接続して測定し
ます。
例: Low ゲイン時の蓄積時間の下限における A/D カウントが飽和直前の光量=40 mW、High ゲイン時の蓄積時間の
上限における輝線が確認できる光量=0.001 mW の場合
ダイナミックレンジ = 40/0.001 = 4×104
26
【図 3-8】 A/D カウント-光量
AD sat
A/Dカウント
Low gain 時の
蓄積時間の下限
High gain 時の
蓄積時間の上限
3
0
A(α)
A(β)
光量
ダイナミックレンジ = A(β)/A(α)
KACCC0549JA
(3) ダークに制限されるダイナミックレンジ
(a) 機器組込用
ダイナミックレンジ 
飽和出力電圧
蓄積時間 1 ms当たりの暗出力電圧
例: 飽和出力電圧=2.5 V、暗出力電圧=1.6 mV の場合
2.5/1.6×10-3≒1.6×103
(b) モジュールタイプ
ダイナミックレンジ 
飽和A/Dカウント- オフセットA/Dカウ ント
蓄積時間 1 ms当たりのダークカ ウント
例: 飽和 A/D カウント=65535、オフセット A/D カウント=1000、1 ms 当たりのダークカウント=0.2 の場合
(65535-1000)/0.2≒3.2×105
周囲温度によって暗出力電圧、ダークカウントは変わり、ダイナミックレンジも変化します。
27
【図 3-9】 出力成分の概念図
(a) 機器組込用
(b) モジュールタイプ
Vo + Vsat
飽和出力電圧
AD sat
光出力範囲
Vo + Vd
Vo
光出力範囲
AD offset + Dark
AD offset
1 ms当たりのダーク
1 ms当たりのダーク
オフセットA/Dカウント
オフセット電圧
0
0V
ダイナミックレンジ = Vsat/Vd
ダイナミックレンジ = (AD sat - AD offset)/Dark
Vo: オフセット電圧
Vsat: 飽和出力電圧
Vd: ダーク
AD sat: 飽和A/Dカウント
AD offset: オフセットA/Dカウント
Dark: ダーク
KACCC0550JA
KACCC0551JA
蓄積時間が長くなるとダークは増加して、ダイナミックレンジは低下します。ミニ分光器への入射光量を増やし、蓄積
時間を短く設定することによってダークによるダイナミックレンジの制限を抑えることが可能です。
【図 3-10】 出力-蓄積時間
(a) 機器組込用
(b) モジュールタイプ
AD sat
Vo + Vsat
ダイナミックレンジ
電圧
A/Dカウント
ダイナミックレンジ
ダーク
ダーク
AD offset
Vo
オフセット電圧
0
0
上限
蓄積時間
オフセットA/Dカウント
上限
蓄積時間
KACCC0552JA
KACCC0553JA
(4) ショットノイズに制限されるダイナミックレンジ
ダイナミックレンジ 
信号電子数
ショットノイズ
ショットノイズ (Ns)は、信号電子数 (S)の平方根で表されます。
Ns  S
28
例: 飽和信号電子数=200 ke-の場合
ダイナミックレンジ  S/Ns  200 k/ 200 k  200 k ≒ 447
イメージセンサの飽和時に、CMOS は CCD に比べ飽和信号電子数がはるかに大きくなります。このためショットノイ
ズに制限されるダイナミックレンジは、CMOS の方が優れています。
【図 3-11】 飽和電子数とショットノイズの関係
KACCC0554JA
(5) 直線性に関するダイナミックレンジ
「A/D カウント-蓄積時間 [図 3-12]」のグラフにおいて、飽和時の 1/2 の A/D カウント出力 (または出力電圧)を基
準としたとき、理想直線からの誤差が特定範囲 (図 3-12 の例: ±10%)である蓄積時間の上限と下限の比でダイナ
ミックレンジを表します。なお A/D カウントはダーク減算後のカウントを用います。
【図 3-12】 A/D カウント-蓄積時間
A/Dカウント
AD sat, V sat
理想直線からの誤差
±10%未満
±10%以上
理想直線
1/2
0
1/2
Ts (α)
Ts max
Ts (β)
蓄積時間
ダイナミックレンジ = Ts (β)/Ts (α)
KACCC0555JA
29
4. レーザ光などの測定時の注意
レーザ光などの平行光の波長を測定する場合、測定精度はミニ分光器へ光入射するまでの光学系に依存します。
レーザ光を反射光学系のみによりミニ分光器の入力用光ファイバに入射した場合には、光ファイバの出射光のプロ
ファイルが不均一になる場合があります。この場合、測定光を積分球に入射し、その拡散反射光をミニ分光器の入力
用光ファイバに入射して測定することによって、測定精度を上げることができます。
He-Ne レーザ出射光を反射光学系により、直接にミニ分光器の入力用光ファイバに入射させて測定した場合と、積
分球を利用して測定した場合のピーク波長の測定例を示します (表 4-1)。
【表 4-1】 ピーク波長の測定例 (C10082MD)
項目
He-Ne レーザ光
反射光学系を用いて測定したピーク波長
積分球を用いて測定したピーク波長
波長
632.8 nm
634.9 nm
632.5 nm
【図 4-1】 反射光学系を用いた測定方法
ファイバコネクタ
反射ミラー
He-Neレーザ
KACCC0556JA
【図 4-2】 積分球を用いた測定方法
ファイバコネクタ
積分球
He-Neレーザ
KACCC0557JA
30
5. 冷却型ミニ分光器の周囲温度変化に対するダーク安定性
(1) ダークの安定性
図 5-1 は、C9914GB の周囲温度を 25℃→0℃→30℃→25℃と変化させた場合の各種パラメータの測定結果を示し
ます。イメージセンサ温度は、イメージセンサ内部に配置されたサーミスタで測定された温度です。イメージセンサ温度
は周囲温度が変化しても -20℃に温度制御されていることがわかります。一方、ダークはミニ分光器筐体内温度に合
わせて変化しています。このことは、イメージセンサ温度が精度よく制御されていても、ダーク特性は周囲温度に依存し
ていることを示します。
【図 5-1】 C9914GB の温度特性
40
6000
5500
ミニ分光器筐体内温度
20
5000
10
4500
0
4000
環境温度
イメージセンサ温度
-10
ダーク
3500
-20
0
2
4
6
8
A/Dカウント
温度 (°C)
30
10
3000
12
経過時間 (h)
KACCB0283JA
(2) 背景輻射による影響
イメージセンサが-20℃に温度制御されているにもかかわらず、ダークが変化するのは、背景輻射の影響によります。
これは、2 m 以上に感度がある検出素子に顕著に見られます。
注) 背景輻射は、検出器の周囲にある絶対零度以上の物体より放射される電磁波を意味します。この電磁波は真空
中でも伝搬するため、熱伝導の考え方による方法ではキャンセルすることができません。
図 5-2 は、カットオフ波長 1.7 m・2.05 m・2.15 m の当社製イメージセンサのダークを周囲温度 5~30℃におい
て測定した結果です。カットオフ波長が長いイメージセンサでは、周囲温度が変動すると背景輻射の影響によってダー
クが大きく変動します。ミニ分光器のダークを安定させるためには、周囲温度を一定に制御する必要があります。
31
【図 5-2】ダークの温度特性
(a) カットオフ波長 1.7 m のイメージセンサ
(b) カットオフ波長 2.05 m のイメージセンサ
25
250
周囲温度 (°C)
20
5
25
10
30
15
200
ダーク (mV)
ダーク (mV)
20
15
10
5
0
周囲温度 (°C)
20
5
25
10
15
30
150
100
50
0
200
400
600
800
1000
1200
積分時間 (ms)
0
0
200
400
600
800
1000
1200
積分時間 (ms)
KACCB0284JA
KACCB0285JA
(c) カットオフ波長 2.15 m のイメージセンサ
600
周囲温度 (°C)
20
5
25
10
15
30
ダーク (mV)
500
400
300
200
100
0
0
200
400
600
800
1000
1200
積分時間 (ms)
KACCB0286JA
Cat. No. KACC9003J05 Dec. 2014
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