第05章 イメージセンサ - Hamamatsu Photonics

イメージセンサ
1 CCDイメージセンサ
1-1
1-2
1-3
1-4
構造、動作原理
特性
使い方
新たな取り組み
2 NMOSリニアイメージセンサ
6-1
6-2
6-3
6-4
6-5
特長
構造
動作原理
特性
使い方
7 InGaAsリニアイメージセンサ
7-1
7-2
7-3
7-4
7-5
7-6
5
特長
構造
動作原理
特性
使い方
新たな取り組み
イメージセンサ
特長
構造
動作原理
特性
使い方
6 アンプ付フォトダイオードアレイ
章
2-1
2-2
2-3
2-4
2-5
第 章
5
3 CMOSリニアイメージセンサ
3-1
3-2
3-3
特長
動作原理、特性
新たな取り組み
8 InGaAsエリアイメージセンサ
8-1
8-2
8-3
8-4
特長
構成
特性
新たな取り組み
4 CMOSエリアイメージセンサ
4-1
4-2
4-3
特長
動作原理、特性
新たな取り組み
5 測距イメージセンサ
5-1
5-2
5-3
5-4
5-5
特長
構成
動作原理
特性
使い方
9 応用例
9-1 DNAシーケンサ
9-2 ICP AES装置
9-3 発光分光分析装置
9-4 分光測光装置
9-5 穀物選別機
9-6 光チャンネルモニタ
9-7 SD-OCT (Spectral Domain-Optical
Coherence Tomography)
9-8 セキュリティ、入退出管理、
障害物検知、形状認識
9-9 すばる望遠鏡の主焦点カメラ用検出器
9-10 小惑星探査機 はやぶさ
99
イメージセンサ
当社は、赤外から可視・紫外・真空紫外・軟X線・硬X線までの広い波長域とエネルギー範囲の計測用として、
イメージセンサ
を開発してきました。
使用目的に応じたイメージセンサを幅広くそろえ、
窓材の変更、
フィルタ付き、
ファイバカップリングなど、
きめ
細かな対応を行っています。
また、
評価用や組み込み用の駆動回路やマルチチャンネル検出器ヘッドも提供しています。
微弱光検出には紫外感度が高く、
高S/N・広ダイナミックレンジの裏面入射型CCDイメージセンサが適しており、
DNA解析、
分
光分析、
半導体検査装置に代表される産業分野、
医療分野など幅広い用途で使用されています。
表面入射型CCDイメージセンサは、
可視・近赤外センサとしてだけでなく、
シンチレータ付FOP (Fiber Optic Plate)をカップリン
グすることで、高解像度X線センサとしての用途が拡大しており、歯科用に代表される医療機器や工業用非破壊検査に使用さ
章
5
れています。
イメージセンサ
精密分光分析には、
紫外感度が高く、
リニアリティ特性の優れたNMOSリニアイメージセンサが適しています。
また、
安価で低消費電力や小型化が必要とされる産業分野には、
CMOSイメージセンサが適しています。
測距イメージセンサ
は、
TOF(Time-of-Flight)
方式で対象物までの距離を測定するCMOSイメージセンサです。
アンプ付フォトダイオードアレイは、
ピッチ幅が自由に変更できるフォトダイオードアレイとCMOSアンプアレイチップをハイブリッド化したユニークな構造をもっていま
す。
紙幣鑑別用センサや、
シンチレータを接着して食品・工業用材料のX線非破壊検査などの用途に使用されています。
InGaAsフォトダイオードアレイとCMOSチャージアンプを実装したInGaAsイメージセンサは、近赤外域における分光分析・
DWDMモニタ・近赤外画像検出などに用いられています。
その他、
X線検出用に単結晶Siを用いた大面積CMOSイメージセンサにシンチレータを組み合わせたフラットパネルセンサなど
も用意しています 「
( 9章 X線検出器」
参照)。
浜松ホトニクスのイメージセンサ
タイプ
100
特長
ラインアップ
裏面入射型
CCDリニア/エリアイメージセンサ
可視域から真空紫外域まで高い量子効率を実現
したイメージセンサです。
分光分析用
科学計測用
TDI-CCDエリアイメージセンサ
完全空乏型エリアイメージセンサ
表面入射型
CCDリニア/エリアイメージセンサ
低暗電流・低ノイズのイメージセンサです。
分光分析用
科学計測用
NMOSリニアイメージセンサ
紫外感度が高く、出力直線性が優れているため
精密測光に適しています。
電流出力タイプ (標準タイプ)
電流出力タイプ (赤外高感度タイプ)
電圧出力タイプ
CMOSリニア/エリアイメージセンサ
信号処理回路を内蔵したイメージセンサです。低消費
電力や装置の小型化が必要な用途に適しています。
分光分析用
産業計測用
測距リニア/エリアイメージセンサ
TOF方式で対象物までの距離を測定するセンサ
です。パルス変調した光源と組み合わせて使用し、
発光・受光タイミングの位相差情報を出力します。
測距リニアイメージセンサ
測距エリアイメージセンサ
アンプ付フォトダイオードアレイ
Siフォトダイオードアレイと信号処理ICを組み
合わせたセンサです。複数配列によって、長尺イ
メージセンサを構成することができます。
長尺タイプ
非破壊検査用
InGaAsリニア/エリアイメージセンサ
近赤外域用のイメージセンサです。CMOS IC
内蔵により、取り扱いが容易です。
近赤外分光分析用
DWDMモニタ用
近赤外画像検出用
X線イメージセンサ
FOS (X線シンチレータ付ファイバ)や蛍光板と
組み合わせて使用することにより、高品質X線画
像の撮像が可能なイメージセンサ/フォトダイ
オードアレイです。
フラットパネルセンサ
リアルタイムにX線画像を得られるセンサです。
X線ラジオグラフィ用
CCD/CMOSエリアイメージセンサ
TDI-CCDエリアイメージセンサ
非破壊検査用アンプ付フォトダイオードアレイ
ラジオグラフィ用
X線非破壊検査用
イメージセンサが検出可能なエネルギー/波長範囲 (例)
章
5
イメージセンサ
KMPDC0105JH
イメージセンサが検出可能な光量範囲 (例)
KMPDC0106JC
101
1.
CCDイメージセンサ
利用されています。
(1) FT型
FT型CCD (FT-CCD)は、
受光部と蓄積部から成る2つの
1-1
構造、動作原理
垂直シフトレジスタと1つの水平シフトレジスタおよび出力
部より構成されます。垂直シフトレジスタはパラレルレジス
章
5
CCDイメージセンサ[以下CCD: Charge Coupled
タ、
水平シフトレジスタはシリアルレジスタまたは読み出しレ
Device]
は、
1970年にAT&Tベル研究所のBoyleとSmithに
ジスタと呼ばれることもあります。受光部の電極としては、
より考案されたデバイスです。CCDは、電荷転送デバイス
一般的にPoly-Si (多結晶Si)などの透明電極を使用します。
(CTD: Charge Transfer Device)の1つであり、
ポテンシャル
透明電極を通ってCCDの半導体中に光が入射すると、
ウェル (potential well: 電位の井戸)を利用して半導体中
光電変換が行われ信号電荷が発生します。
この信号電荷
で電荷を転送するイメージセンサです。今日では、
ほとんど
は、特定の蓄積時間に、電極下のポテンシャルウェルに集
のCCDで基板内部に電荷転送路が埋め込まれたBCCD
められます。
その後、信号電荷は、垂直帰線期間を利用し
(Buried-channel CCD)構造が使われています。
てフレームごと蓄積部に高速転送されます。
このようにFT
イメージセンサ
CCDのポテンシャルウェルは、
図1-1に示すように複数の
型では、受光部の垂直シフトレジスタは、蓄積時間におい
MOS (Metal Oxide Semiconductor)構造の電極の1つに
て光電変換デバイスとして機能します。
他と異なる電圧を加えることによって実現されます。
ポテン
蓄積部の信号電荷は、
受光部で光電変換と信号の蓄積
シャルウェルに閉じ込められた信号電荷は、
半導体中を出
が行われる間に、水平シフトレジスタを通って出力部に転
力部に向かって順次転送されます。
したがってCCDは、
ア
送されます。
この動作は、蓄積部の1ラインごと水平帰線
ナログシフトレジスタとも呼ばれています。
期間に水平シフトレジスタへ電荷が転送されることによっ
このようにCCDは、
半導体中で電荷を転送するデバイス
て行われます。
なおFT型の受光部以外の部分は、光が入
ですが、現在ではイメージセンサとして広く一般に使用さ
らないようにアルミなどの不透明金属で覆われています。
れているため、
イメージセンサやカメラの代名詞としても呼
[図1-2] FT型の構造
ばれるようになっています。
[図1-1] CCDの基本構造とポテンシャルウェル
P2
P1
P3
メタル
(Metal)
酸化膜 (Oxide film)
半導体 (Semiconductor)
ポテンシャル
転送方向
電荷
KMPDC0036JB
CCDの種類
現在、
実用化されているCCDは、
転送方式によって以下
KMPDC0037JA
の5つに分類されます。
102
・FT (Frame Transfer)型 (2次元)
(2) FFT型
・FFT (Full Frame Transfer)型 (2次元)
FFT型CCD (FFT-CCD)は、
基本的にはFT型CCDから
・IT (Interline Transfer)型 (2次元)
蓄積部をなくした構成です。蓄積部がないために、通常は
・FIT (Frame Interline Transfer)型 (2次元)
何らかの外部のシャッタ機構と併用して使用されます。
こ
・1次元型 (リニアイメージセンサ)
の制約のため、
ビデオカメラに使用することは難しい構成
FFT型・1次元型以外のタイプは、
汎用のビデオカメラに
になっています。
使用されています。
FFT型・1次元型は、
動作原理上ビデオ
動作原理はFT型に似ており、
蓄積時間には受光部のポテ
カメラに利用することは難しく、
主として計測用や分析用に
ンシャルウェルに電荷を集め、
シャッタの閉期間などに水平
1. CCDイメージセンサ
シフトレジスタを通して信号電荷が出力部に転送されます。
[図1-4] IT型の構造
FFT型は、蓄積部がないため同一のチップサイズで画
素数を多くしたり、
画素サイズを大きくできるため、
主として
フレームレートの遅い計測用のカメラシステムに使用され
ます。
なお、
当社製のCCDの多くはFFT型です。
[図1-3] FFT型の構造
KMPDC0039JA
(4) FIT型
FIT型CCD (FIT-CCD)は、
IT型CCDの問題点を改善す
るために考案されたタイプで、IT型に蓄積部を設けた構
成になっています。
FIT型では、
フォトダイオードから垂直シ
フトレジスタへ信号電荷が転送されると、すぐに蓄積部に
KMPDC0038JA
5
[図1-5] FIT型の構造
イメージセンサ
IT型CCD (IT-CCD)では、
受光部は、
フォトダイオードか
型に比べてスミアを少なくできるという特長があります。
章
(3) IT型
信号電荷が高速転送されます。
したがってFIT型には、IT
MOS構造のダイオードで成り立っており、転送部とは別に
設けられています。最近のIT型では、暗電流の少ない埋
め込み型フォトダイオードが用いられています。
垂直シフト
レジスタはフォトダイオードの横に配置され、
さらに水平シ
フトレジスタと出力部により構成されます。
フォトダイオードで光電変換により発生した信号電荷
は、
フォトダイオード自身の接合容量などに集められます。
その後、垂直帰線期間に、
フォトダイオードと垂直シフトレ
ジスタの間にスイッチとして設けられたトランスファーゲー
ト (転送ゲート)を通して、垂直シフトレジスタに信号電荷
が転送されます。
この動作はFT型とはやや異なり、
IT型の
フォトダイオードから垂直シフトレジスタへの電荷の転送
は、
全画素について同時に行われます。
KMPDC0040JA
この後の動作は、FT型の「蓄積部への信号電荷の転
送」
以降の動作と同じであり、
信号電荷は水平帰線期間に
(5) 1次元型
1ラインずつ水平シフトレジスタへ転送され出力されます。
1次元型CCDでは、
フォトダイオードで光電変換により
図1-4にIT型の構造を示します。FT型と同様にフォトダ
発生した信号電荷は、隣接したストレージゲートに集めら
イオード以外の部分は、
アルミなどによって遮光されてい
れます。
その後、
ストレージゲートと水平シフトレジスタの間
ます。IT型では、信号電荷の蓄積部から出力部への転送
にスイッチとして設けられたトランスファーゲートを通して、
は、
フォトダイオードが蓄積動作を行っている期間を利用
水平シフトレジスタに信号電荷が転送されます。
ストレージ
して行われます。
このため、
垂直シフトレジスタへの信号電
ゲートから水平シフトレジスタへの転送は、全画素につい
荷の漏れ込みによるスミアと呼ばれる現象が発生しやすく
て同時に行われます。
なっています。
図1-6に、
1次元型CCDの構造を示します。
フォトダイオー
ドアレイの奇数画素の信号電荷は上の水平シフトレジス
タへ、偶数画素の信号電荷は下の水平シフトレジスタへ
転送され、
1つのFDA (Floating Diffusion Amplifier,「1-1
構造、動作原理/FDA」参照)で交互に信号電荷が検出
されます。奇数画素と偶数画素の信号電荷を別々の水平
シフトレジスタへ転送することによって、
フォトダイオードア
レイの小ピッチ化や、
アンチブルーミングや電子シャッタの
103
(c) タイミングチャート
構造を形成することが可能になります。
[図1-6] 1次元型の構造
KMPDC0042JB
FDA
FDA (Floating Diffusion Amplifier)は、
最も広く使用さ
KMPDC0280JA
れている
「CCDの電荷検出の方式」です。FDAは、図1-8
に示すように電荷の検出ノードと、それに接続されたリ
電荷転送動作
セット用MOSFET (MOS1)と電荷−電圧変換用MOSFET
(MOS2)により構成されます。検出ノードに転送された電
章
5
転送電極において、1画素を2本の電極 (gate)で構成
荷は、
電荷−電圧変換用MOSFETで、
Q = C Vの関係によ
したCCDを2相CCDまたは2電極CCDと呼びます。
2相CCD
り電荷から電圧に変換されます。次の信号を読むために
では、
2つの異なる電圧レベル (Highレベル、
Lowレベル)を
検出ノードは、
いったんリセット用MOSFETによりリファレン
もったクロックパルスを加えることによって [図1-7 (c)]、
信
スレベル (RDの電圧)にリセットされます。
イメージセンサ
号電荷の転送が行われます。
FDAでは、検出に伴うノイズはノードの容量によって決
2相CCDでは、半導体プロセスによって作成した電位差
まりますが、Whiteによって提案されたCDS (Correlated
により信号電荷の転送方向が決まります。信号電荷は、蓄
Double Sampling: 相関2重サンプリング)によってほとんど
積電極下に蓄積されます。
たとえば図1-7の場合、時刻 t1
除去することができます。
ではP1電極をHighレベル (P2電極はLowレベル)にするこ
信号電荷が出力されるタイミングは、
シフトレジスタの最
とで、
信号電荷はP1電極の蓄積電極下に蓄積されます。
終クロックゲートであるサミングゲート (SG)がHighレベル
2相CCDでは、
クロックパルスのオーバーラップが重要で
からLowレベルになるときと同期しています。
す。
タイミングチャート [図1-7 (c)]に示すように、P1・P2が
HighレベルとLowレベルの中間よりも高いレベル (Highレベ
[図1-8] FDAを採用したCCDの出力部
RD
ルをV、Lowレベルを0としたとき、V/2以上のレベル)で交差
する必要があります (時刻 t2)。
P1がHighレベルのときにP2
がLowレベルになるような状態が交互に切り替わるように設
[図1-7] 2相CCDの動作原理
MOS1
RG
定することで、
信号電荷を転送することが可能になります。
P1
SG
OD
OG
検出ノード
(a) 構造
MOS2
OS
信号電荷
FD
外部負荷抵抗
電荷転送
KMPDC0043JB
(b) 電位
信号電荷のビニング
CCDの信号電荷は、
蓄積時間にそれぞれの画素のポテ
ンシャルウェルに蓄積されます。FFT型CCDでは、蓄積時
間の終了時には、
図1-9 (a)に示すように2次元的に情報が
蓄えられています。
垂直のシフトレジスタと水平のシフトレジスタは個別にク
104
1. CCDイメージセンサ
ロックパルスを入れることができるため、
ビニングと呼ばれ
クロックパルス期間に1クロックの割合でSG端子にクロック
る動作方法が可能です。
ビニングはCCD特有の動作方法
パルスを入れることで、
SGにおいて水平の2つの画素の信
で、
信号電荷を加算する方向によってライン (垂直)ビニン
号を転送して加算することができます。
グとピクセル (水平)ビニングに分けられます。
この方法を用いれば、
たとえば1024 × 1024画素のCCD
において入射光量が十分でないとき、
512 × 512画素のセ
(1) ラインビニング (line binning)
ンサとして機能させることによって、解像度は低下します
ラインビニングでは、縦方向の画素の信号を加算しま
が、
コントラストの優れた画像を得ることができます。
す。
図1-9 (b)に示すように、
水平シフトレジスタのクロックパ
ルス P1Hを停止した状態で垂直レジスタに所定の回数の
クロックパルス P1V・P2Vを入れると、
信号電荷は対応する
[図1-10] ピクセルビニング
(a) 信号電荷の流れ
水平シフトレジスタの1画素に次々に転送され信号が加算
されます。
ラインビニングを用いることによって、縦方向に非常に
長い受光領域をもった1次元センサと同等の信号を得るこ
とができ、
さらに出力部における読み出しが一度で済むた
め、読み出しに伴うノイズの混入を最小限にすることがで
きます。
章
5
[図1-9] ラインビニング
イメージセンサ
(b) タイミングチャート
(a) 信号電荷の流れ
KMPDC0045JB
信号電荷の注入
CCDには、電気的な信号入力テスト端子として、垂直
シフトレジスタと水平シフトレジスタの先頭に入力ソース
(b) タイミングチャート
(ISV, ISH)と入力ゲート (IGV, IGH)が配置されています。
通常は、
これらのテスト端子には一定のバイアス (データ
シート参照)を印加しておきますが、入力ソースと入力ゲー
トに既定値以外のバイアスやクロックパルスを加えること
でシフトレジスタに信号電荷を注入することができます。
こ
KMPDC0044JA
(2) ピクセルビニング (pixel binning)
れによって、放射線によるCCDの電荷転送効率の劣化を
低減することができます。
また、飽和電荷量やFDAの直線
性を定量的に評価するためにも利用できます。入力ソース
CCDの水平シフトレジスタの最終ゲートは、
サミングゲー
に電流源を接続し、入力ゲートをP2と短絡してクロックパ
ト (SG)と呼ばれる単独のゲートで構成されています。
ピク
ルスを入れることで、
シフトレジスタに信号電荷を注入でき
セルビニングを行わない場合には、SG端子を直接P2Hと
ます [図1-11]。
この方法における注入電荷量は、電流源
短絡することによって使用できます (SGをP2Hと短絡しな
の注入電流値と注入時間 (CCDの駆動周波数の逆数に
いで、
P2Hと同じクロックパルスを入れても構いません)。
SG
相当)の積に一致します。
に別のクロックパルスを入れることによって、
ピクセルビニン
グが可能になります。
ラインビニングと組み合わせて使用することで、図1-10
に示すように2 × 2画素などの信号を加算することができ
Qinj = Iinj × t ……… (1)
Qinj: 注入電荷量 [C]
Iinj : 注入電流 [A]
t : 注入時間 [s]
ます。
この場合、
まずラインビニングによって2ラインの信号
が水平シフトレジスタの画素に加算されます。
次に、
水平シ
フトレジスタによる信号電荷の読み出しにおいて、P1Hの2
105
[図1-11] 電流源を接続した信号電荷注入部の構造
(b) CCDイメージセンサ (IT型、1次元型)
KMPDC0137JA
KMPDC0136JB
表面入射型/裏面入射型CCD
NMOSイメージセンサとの比較
CCDイメージセンサとNMOSイメージセンサは、方式が
異なるため仕様や性能が大きく異なります。
NMOSイメージセンサは、
フォトダイオードに蓄積された
信号電荷をデジタルシフトレジスタにより順次アドレスする
ことで、
スイッチのMOSFETを通して信号ラインに電荷を
出力します。
このとき、
デジタルシフトレジスタにTTLレベル
の一定のタイミングのクロックパルスを供給すれば動作す
章
5
るため、外部の信号処理部を除けば5 V単一電源で動作
イメージセンサ
させることができます。
一方、CCDイメージセンサ (IT型、1次元型)の場合、
フォトダイオードに蓄積された信号電荷は、スイッチの
MOSFETをオンにすることでアナログシフトレジスタに転
送されます。
その後、信号電荷はアナログシフトレジスタに
より、順次、最終に設けられたFDAに転送され出力されま
す。
CCDイメージセンサは、
動作に必要な電源は単一では
なく、
クロックパルスは仕様に定められた所定の振幅にす
る必要があります。CCDイメージセンサは、読み出しノイズ
レベルが数∼十数e- rmsと小さく、
また、
FDAを構成するア
一般的にCCDは、
パターンが形成されている側から光を
入射させる構造になっています。
このような構造のCCDを
表面入射型CCDといいます。
表面入射型CCDの光入射面
は、
BPSG膜・Poly-Si電極・ゲート酸化膜などが堆積したSi
基板の表面にあるため、入射光はその部分で大きく反射・
吸収されます [図1-13 (a)]。
このため量子効率は可視域
で最大40%程度になり、
紫外域には感度がありません。
このような問題を解決するために開発されたのが裏面
入射型CCDです 1)。
裏面入射型CCDでもSi基板の表面に
はBPSG膜・Poly-Si電極・ゲート酸化膜などがありますが、
Si基板の裏面から光を入射する構造になっています [図
1-13 (b)]。
このため裏面入射型CCDは、広い波長域で高
い量子効率を実現します。裏面入射型CCDは、CCDが本
来もっている高感度・低ノイズといった特長をそのまま生か
した上に、電子線・軟X線・紫外・可視・近赤外域に感度を
もっています。
[図1-13] CCDの概念図
(a) 表面入射型
ンプの帯域により、
10 MHzを超える画素レートでの読み出
しが可能になります。
NMOSイメージセンサは、
ノイズが3000 e- rmsと大きい
ですが、取り扱い可能な信号電荷量がCCDイメージセン
サの数十万e-に比べて100倍以上も大きいため、
一般に検
出する光が十分に大きい場合にはNMOSイメージセンサ
を使った方が簡易なシステムが実現できます。
一方CCDイ
メージセンサは、
ノイズが小さいため、NMOSイメージセン
サで検出できない光でも十分なS/Nが得られ、
微弱光検出
KMPDC0179JB
(b) 裏面入射型
に適しています。
[図1-12] NMOS/CCDイメージセンサの比較
(a) NMOSイメージセンサ
KMPDC0180JB
裏面入射型CCDの高感度を実現するためには、
Si基板
の薄型化と受光面の活性化が不可欠です。受光面の活
性化は、裏面入射面近くで発生した信号電荷が、再結合
せずに入射面からCCDのポテンシャルウェルまでスムーズ
に運ばれるように内部電位の勾配を形成すること (アキュ
106
1. CCDイメージセンサ
ムレーション)によって行われます 2) 3)。
アキュムレーション
性領域 (空乏化していない領域)における電荷が横方向
状態の内部電位の様子を図1-14に示します。
に拡散することにより、
解像度が劣化してしまいます。
このような問題を解決するために開発されたのが近赤
[図1-14] 裏面入射型CCDの内部電位
外高感度タイプ裏面入射型CCDです。
近赤外域で高感度
を実現するために、
以下の2つのタイプを用意しています。
(1) 完全空乏化タイプ
完全空乏化タイプは、空乏層を厚くするために超高抵
抗のN型ウエハを使用しています。Siの比抵抗が同じ場
合、N型ウエハはP型ウエハよりも不純物濃度を低くでき、
同じバイアス電圧でも厚い空乏層にすることができます
[図1-16 (b)]。一方、裏面にバイアス電圧を印加するこ
KMPDC0138JB
裏面入射型CCDを光入射方向から見た場合、
水平シフ
トレジスタはSiの厚い部分 (不感部分)で覆われており、
短波長の光はほとんど水平シフトレジスタに到達すること
し、
水平シフトレジスタで受光される可能性があります。
とSiが厚いことから暗電流が大きくなり、-70∼-100 °Cに
冷却する必要があります。
なお、標準タイプの裏面入射型
CCDはSi厚が薄いため大面積化は困難ですが、
完全空乏
化タイプ裏面入射型CCDはSi全体を100∼300 µm程度に
厚くするため、
大面積化を容易に行うことができます。
(2) 微細構造タイプ
にも水平シフトレジスタに光が入り、
その信号は偽信号とし
Siの入射面にミクロン単位の特殊な微細構造を形成し
て実際の信号に重畳されます。
たとえば、
時間的に変化の
ています[図1-16 (c)]
。
これにより、
通常は透過してしまう
ない信号が水平シフトレジスタに入射する場合、
信号に一
近赤外光をSi内部に閉じ込めて吸収率を増やすことで
定のオフセット上昇として現れます。
その影響は水平転送
CCDの高感度化を実現します。
これにより、
近赤外線の検
時間が短いほど小さくなります。
出時に問題となるエタロニング (図1-51)を抑制することも
必要に応じて、外部シャッタの使用、光入射位置の調
できます。
5
イメージセンサ
外部シャッタを使用しない場合、
電荷の蓄積中や転送中
章
はありません。
しかし、長波長の光は不感部分のSiを透過
とでMPP動作 「
( 1-2 特性/暗電流」
参照)ができないこと
整、
遮光などの対策を行ってください。
[図1-16] 裏面入射型CCDの内部構造
[図1-15] 裏面入射型CCDのデバイス構造
(外形寸法図において上面から見たCCDチップ概念図)
(a) 標準タイプ
KMPDC0281JA
(b) 完全空乏化タイプ
KMPDC0282JA
KMPDC0016JE
(c) 微細構造タイプ
近赤外高感度タイプ裏面入射型CCD
通常の裏面入射型CCDは、紫外/可視域で高い量子
効率をもっていますが、
Si厚が15∼30 µm程度のため近赤
KMPDC0456JA
外域の量子効率は低く、波長 1 µmの量子効率は約20%
です。
Siを厚くすれば近赤外域の感度は向上しますが、
中
107
[図1-17] 分光感度特性 (裏面入射型CCD, 窓なし時, 代表例)
電子冷却型CCD
CCDの暗電流は温度特性をもち、
CCDの温度が5∼7 ̊C
下がるごとに約半分になります。
このためCCDを冷却するこ
とは、
MPP動作 「
( 1-2 特性/暗電流」
参照)と並んで暗電
流を低減して検出限界を改善する効果的な方法です。
電子冷却型CCDにおいて、パッケージに内蔵された電
子冷却素子 (ペルチェ素子)によってCCDの冷却を行いま
す。
冷却温度は、
電子冷却素子の最大吸熱量や放熱能力
によって決まります。電子冷却素子は、製品によって以下
の値が異なります。
・最大電流 (Imax)
KMPDB0295JC
・最大電圧 (Vmax)
・最大吸熱量 (Qmax)
マルチポートCCD
電子冷却素子やCCDを破損しないためには、
データシー
トに記載された数値の範囲内で使用してください。
電子冷
章
5
イメージセンサ
CCDの読み出し時間は、画素数と読み出し周波数に
却素子の使用に当たって、放熱の方法は重要です。放熱
よって決まり、長い時間を必要とします。
たとえば1024 ×
が十分に行われない場合、期待した冷却ができないこと
1024画素で読み出し周波数 100 kHzの場合には、
読み出
があります。
これは、高温側の温度上昇が起きるためであ
し時間だけで10秒以上がかかります。
り、放熱器の最適化や強制空冷/水冷などが必要になり
読み出し周波数と読み出しノイズは、
トレードオフの関係に
ます。
なお電子冷却素子は、最大電流値の60%以下で使
あります。
読み出し周波数を高くすると、
読み出し時間は短く
用することによって効果的にCCDを冷却できます。
なりますが読み出しノイズは大きくなってしまいます [図1-43]。
周囲温度 25 ̊Cの場合、
CCDは以下の温度に冷却され
CCDのアンプを複数にすること (マルチポート化)で、
画
ます。
素の読み出しを並列化してフレームレート (1秒当たりに取
得できる画面数)を向上させることができます。
・1段電子冷却型: 0∼-10 ̊C位
・2段電子冷却型: -20∼-30 ̊C位
・4段電子冷却型: -50∼-70 ̊C位
[図1-18] マルチポートCCDの構造
安定した動作を実現するために、周囲環境に合わせて
電子冷却素子の電流や放熱条件を決める必要があります。
[図1-19] 1段電子冷却素子の特性 (S7171-0909-01)
KMPDC0140JA
KMPDB0180JA
108
1. CCDイメージセンサ
TDI-CCD
[図1-20] TDI動作による積分露光の模式図
裏面入射型TDI (Time Delay Integration)-CCDは、
高
速撮像時などにおいて低照度下でも高いS/Nの画像が
得られるCCDです。TDI動作により、移動する対象物を積
分露光することで、飛躍的に高い感度を得ることができま
す。裏面入射型のため、紫外∼近赤外の幅広い波長域
KMPDC0139JA
(200∼1100 nm)で高い量子効率を実現しています。
TDI動作
CCDでは、
ポテンシャルウェルに信号電荷を保持して、
[図1-21] TDI動作による撮影例
(a) 高速移動する対象物の撮影
個々の電荷が混じらないように転送して出力します。
TDI動
作は、
このようなCCDの電荷転送の原理を巧みに利用し
て、微弱光を検出したり、移動する物体を撮影したり、
ある
いはCCDセンサ自体が移動して、静止物体をスキャンして
撮影する場合に有効な方法です。
通常、
センサ上に結像された画像は、
その位置に対応し
章
た信号量として出力されます。
この方法では、蓄積時間の
5
イメージセンサ
間に結像された画像は必ず同じ位置にあることが必要で
あり、何らかの理由で結像位置にずれが生じると画像の
S/Nが低下します。被写体が移動する場合、結像位置が
ずれることで画像にボケが発生し、
場合によってはまったく
画像にできないこともあります。
KMPDC0266JB
それに対してTDI動作は、
移動する被写体に対しても画
像化できるユニークな動作方法です。
FFT型CCDでは、
電
(b) 高速回転する対象物の撮影
荷読み出しの際、列単位で電荷の垂直転送を行います。
その転送のタイミングと被写体の移動タイミングを合わせ、
CCD画素の垂直段数分の積分露光をする方式がTDI動
作です。
TDI動作においては、被写体の移動と同じ方向に同じ
速度で電荷転送を行う必要があります。
その速度は、式
(2)で表されます。
v = f × d ……… (2)
v : 被写体移動速度、電荷転送速度
f : 垂直の転送周波数
d : 画素サイズ (転送方向)
KMPDC0267JA
図1-20の1段目で蓄積された電荷が2段目に転送される
のと同時に2段目においても光電変換により電荷の蓄積
図1-21 (b)においてCCDを2次元動作させてドラムが静
が行われます。
この動作をM段 (垂直段数)まで連続して
止した状態で撮影した場合、図1-22 (a)のようにブレのな
行った場合には、
M倍の電荷が蓄積されます。
このため、
リ
い画像を取得することができますが、
ドラムが回転してい
ニアイメージセンサに比べてM倍の感度を実現できます
ると図1-22 (b)のように画像はブレてしまいます。
シャッタ
(垂直段数が128の場合、
通常のリニアイメージセンサに比
時間を短くした場合、
ブレのない画像が得られますが、画
べて128倍の感度が得られます)。
蓄積された電荷はCCD
像は図1-22 (c)のように暗くなります。TDI-CCDは、
ドラム
の水平シフトレジスタから列ごとに出力され、
とぎれがない
の回転と同じ方向に同じ速度で電荷転送を行うため、図
2次元の画像が得られます。
またTDI動作では、
2次元動作
1-23のような明るくブレのない連続画像が得られます。
モード時よりも感度のバラツキが改善されます。
109
[図1-22] 2次元動作による撮影
[図1-24] 通常の2相CCDの概念図と電位
(a) ドラム静止時
(b) ドラム回転時
(c) ドラム回転時 (シャッタ時間を短くした場合)
KMPDC0320JA
[図1-23] TDI動作による撮影 (ドラム回転時の連続画像)
[図1-25] レジスティブゲート構造の概念図と電位
章
5
イメージセンサ
KMPDC0321JB
埋め込み型フォトダイオード
レジスティブゲート構造
受光部にフォトダイオード構造を採用したCCDリニアイ
メージセンサにおいて、
フォトダイオードを埋め込み型に
通常のCCDの場合、1画素内に複数の電極があり、異
することによって低暗電流を実現できます。埋め込み型
なったクロックパルスを印加することで信号電荷を転送し
フォトダイオードは、
受光部の表面に薄いP+拡散層を設け
ます [図1-24]。
レジスティブゲート構造の場合、受光部に
たP+N+P構造となっています [図1-26]。空乏層がSi-SiO2
単一の高抵抗電極があり、
その両端に異なる電圧を印加
界面から離れているため、暗電流をMPP動作時のCCDと
してポテンシャルスロープを形成することで信号電荷を転
同等のレベルまで低減できます。
送します [図1-25]。
CCDエリアイメージセンサをラインビニ
ングし1次元のセンサとして使用する場合に比べると、
CCD
[図1-26] 断面構造 (埋め込み型フォトダイオード)
リニアイメージセンサの受光部においてレジスティブゲー
ト構造を採用することによって、高速転送が可能になり、
画素高さが大きい場合でも読み残しの少ない読み出しを
行うことができます。
KMPDC0461JA
1-2
特性
変換係数
変換係数は、
FDAが電荷を電圧に変換する割合を示す
係数です。
110
1. CCDイメージセンサ
FDAによって信号電荷は、
出力端 OSにて電圧 侏Voutと
[図1-27] 分光感度特性 (窓なし時)
して出力されます。
ΔVout = Av × Q / Cfd ……… (3)
Av : 電荷ー電圧変換MOSFETの電圧ゲイン
Q : 信号電荷 [C]
Cfd : ノードの容量 [F]
変換係数 (Sv)は、
式 (4)で表されます。
Sv = q × ΔVout / Q [V/e-] ……… (4)
q: 1電子当たりの電荷量
S7030/S7031シリーズの場合: Sv=2.2 μV/eS11071シリーズの場合
: Sv=8.0 μV/e-
ノードの容量 (Cfd)は、
式 (5)で表されます。
KMPDB0280JB
Cfd = q × Av / Sv [F] ……… (5)
S7030/S7031シリーズの場合: Cfd=48 fF
S11071シリーズの場合
: Cfd=12 fF
[図1-28] 表面入射型CCDの分光感度特性 (窓なし時)
章
5
分光感度特性
イメージセンサ
表面入射型CCDと裏面入射型CCDの分光感度特性を
図1-27に示します。
表面入射型CCDは紫外域に感度がな
く、可視域の量子効率のピークは約40%であるのに対し、
標準タイプ裏面入射型CCDは紫外域で40%以上、
可視域
のピークで約90%という非常に高い量子効率を実現して
います。
完全空乏化タイプ裏面入射型CCDは、
Siが厚いた
め波長 800∼1100 nmの領域で、標準タイプの裏面入射
型CCDよりも高い感度をもっています。
また、
特殊なARコー
ト形成プロセスを採用することで400∼700 nmの可視域
KMPDB0205JC
でも高い感度をもっていますが、紫外域の感度は低くなっ
ています。
[図1-29] 感度の温度特性 (S7031シリーズ)
分光感度特性の長波長側は使用するSiの厚さで決ま
り、短波長側はセンサの光入射面側の構造によって決ま
ります。
表面入射型のFFT-CCDでは構造上、有効受光面
の上にPoly-Siゲート電極を形成する必要があるため、
400
nm以下の紫外域ではほとんど感度がありません。紫外域
に感度をもたせるためにCCDにルモゲン (Lumogen)シン
チレータをコートしたタイプもあります。裏面入射型CCD
は、紫外域から近赤外域まで高い量子効率を実現し、紫
外線に対しての安定性も非常に優れています。
特に700 nm以上の近赤外域において、
標準タイプの表
面入射型CCDの量子効率は高くありませんが (空乏層の
厚さによる)、近赤外高感度タイプ表面入射型CCDは、近
KMPDB0383JA
赤外域でも高い量子効率を実現しています [図1-28]。
なおCCDを冷却して使用する場合、
約800 nm以上の波
長域では感度が低下する方向にシフトするため注意が必
要です [図1-29]。
(1) 分光感度特性を最適化した裏面入射型CCD
裏面入射型CCDにおいては、受光面上の反射防止膜
を最適化することによって、
さまざまな分光感度特性を実
現することが可能になります [図1-30]。
111
[図1-30] 分光感度特性
(裏面入射型CCD, 窓なし時, 代表例)
属に近いため結露しにくい、気密封止が可能など、窓材と
して非常に優れています。ARコートされていないサファイ
アの透過率は高くありませんが、ARコートによって可視域
では石英よりも高い透過率が得られます。
当社は、S9971/
S7031シリーズなど電子冷却素子を内蔵したCCDには、
標
準の窓材としてサファイアを採用しています。
石英には合成石英と溶融石英がありますが、CCDの窓
材としては金属不純物が少ない合成石英がよく使われま
す。
石英は、
ARコートなしでも可視域で約94%の透過率が
あります。石英は、200 nm以下の波長まで透過し、窓材と
して適しています。
しかし石英を冷却型CCDの窓材として
使用する場合、接着部の樹脂の透湿性によるパッケージ
内部の結露を考慮する必要がありました。
当社では新技
KMPDB0385JA
術の採用によって、石英窓の接着部に樹脂を用いないで
気密封止を行うことが可能になりました。
章
5
(2) 紫外域において安定した分光感度特性をもつ 当然ながら、
窓材を使用しないタイプにおいて量子効率
表面入射型CCDリニアイメージセンサ
は最も高くなります。
特に160 nm以下の真空紫外域では、
紫外域に感度をもつ表面入射型CCDの紫外域の分光
イメージセンサ
感度特性は、
素子によってバラツキがありました。
当社は、
受
光面に特殊な構造を形成することにより、紫外域における
分光感度特性の素子ごとのバラツキを抑制した表面入射
型CCDリニアイメージセンサ S11151-2048を開発しました。
透過する適当な窓材がないため、窓材を使用しない場合
があります。
その他の窓材としては、石英に比べて安価な硼珪酸ガ
ラスがあります。
硼珪酸ガラスは、
300 nm付近で急激に透
過率が低下するため、主として可視域やそれ以上の長波
長を検出対象とします。X線検出用としては、X線を透過し
(3) ルモゲンコート表面入射型CCD
て光を遮断するアルミニウムやベリリウムが窓材として使用
表面入射型CCDでは、
受光面上をPoly-Siの電極が覆っ
される場合があります (ベリリウムは有毒です)。
ています。紫外線はPoly-Siによってほとんど吸収されてし
まい、量子効率はほぼゼロになります。
このため表面入射
[図1-31] 窓材の分光透過特性
型CCDは、紫外感度を得るためルモゲンシンチレータを
コートする場合があります。ルモゲンは、真空昇華により
CCDの有効受光面上に直接コートされます。
ルモゲンは、480 nm以下の波長の光を吸収して約530
nmを中心に発光します。CCDに入射した紫外線は、
ルモ
ゲンシンチレータにより可視光に変換され、
この可視光を
CCDは検出します。
ルモゲンコート表面入射型CCDは、裏面入射型CCDに
比べて紫外線に対する寿命が桁違いに短く、感度の温度
依存性が高いため注意が必要です。
窓材の選択
裏面入射型CCDは、
最大感度波長の700 nm付近で量
KMPDB0110JA
感度不均一性
子効率が90%以上になりますが、
これは受光窓がない場
112
合の値です。
感度不均一性は、CCDの画素ごとの感度のバラツキを
CCDの量子効率は、使用する窓材によって影響されま
規定するもので、受光窓やプロセスのバラツキに起因して
す。
当社のCCDの窓材としては、
AR (反射防止)コート付サ
発生します。
なお、感度不均一性に伴うノイズは、信号量
ファイア (Sタイプ)、石英 (Qタイプ)、
窓なし (Nタイプ)の3
に比例します。
種が主に使われています。
均一光を有効受光領域に入射して50 × 50画素程度の
サファイアは優れた強度をもち、石英に比べて傷つきに
測定領域を設定することによって、露光量に対応した入力
くく、高湿環境で安定しています。
その上、熱伝導率が金
信号量とノイズの関係をプロットするフォトントランスファー
1. CCDイメージセンサ
曲線 [図1-32]が得られます。感度不均一性 (PRNU:
Photoresponse Nonuniformity)は、
式 (6)で定義されます。
PRNU =
Vsat = FW × Sv ……… (7)
FW : 飽和電荷量
Sv : 変換係数
ノイズ
× 100 [%] ……… (6)
信号
直線性
ここでのノイズは統計的な値であり、
画素の信号の標準
偏差です。信号は、有効受光領域における各画素の信号
CCDの出力特性の直線性は、信号量によって理想的な
量の平均値です。信号量が少ない場合は、
ショットノイズ
直線であるγ=1からわずかにずれます。
この原因は出力段
「
( 1-2 特性/ノイズ」参照)の影響を受けてしまいますが、
に関係し、FDAを構成する逆バイアスされたPN接合の容
十分な信号量の場合は、PRNUは一定の値になります。
量変化や、
MOSFETのトランスコンダクタンスの変化による
当社のデータシートでは、飽和電荷量の50%のときの測
ものです。
定値をPRNUとして示しています。
標準的なFFT型CCDの
直線性のズレを表す直線性誤差 (L R: L i n e a r i t y
PRNUは、
約1% rmsまたは±3% typ.(peak to peak)です。
Residual)は、
式 (8)で定義されます。
[図1-32] フォトントランスファー曲線 (S9974-1007)
LR = ( 1 - Sm/Tm ) × 100 [%] ……… (8)
S/T
章
Sm : 飽和電荷量の半分のときの信号量
Tm : 飽和電荷量の半分のときの露光時間
S : 信号
T : 露光時間
5
イメージセンサ
[図1-33] 直線性 (S9971-1007, 2次元動作)
KMPDB0210JA
飽和電荷量
CCDの飽和電荷量は、
ポテンシャルウェルによって転送
できる信号電子数を示し、
一般にフルウェル (full well)と
も呼ばれ、
単位はe で表されます。
CCDの飽和電荷量は、
以下の4つによって決定されます。
・垂直シフトレジスタの飽和電荷量 (vertical full well)
・水平シフトレジスタの飽和電荷量 (horizontal full well)
・サミングウェルの飽和電荷量 (summing full well)
・出力部の飽和電荷量
KMPDB0211JA
電荷転送効率
CCDは、
理想的には電荷の転送過程における損失はあ
りません。
しかし実際は、材料に起因するトラップやプロセ
ス工程で発生するトラップにより電荷の転送が完全にはい
かず、
ごくわずかの量は転送されずに残ってしまいます。
2次元動作モードでは、各画素の信号電荷は分離して
電荷転送効率 (CTE: Charge Transfer Efficiency)は、
出力されるため、飽和電荷量は垂直シフトレジスタで決定
任意の1画素から隣接する画素へ転送される電荷の割合
されます。一方、水平シフトレジスタの飽和電荷量は、
ライ
で規定されます (2相CCDでは、
1画素分の信号電荷を転
ンビニングを可能にするため、垂直シフトレジスタの飽和
送するのにゲート単位では2回の転送が必要ですが、
これ
電荷量より大きな値になるように設計されています。
最終ク
を1回として規定しています)。
ロックゲートであるサミングゲートによって形成されるサミン
X線を用いると、
電気的な方法によらないでCCDの画素に
グウェルの飽和電荷量は、水平シフトレジスタの信号を加
理想的なポイント電荷を入力することができます。
そのため、
算するため (ピクセルビニング)、
水平シフトレジスタの飽和
微小電荷の転送効率を測定するために有効な方法です。
電荷量よりも大きな値に設計されています。
水平スタッキング (stacking)は、
水平方向に対して各ラ
出力信号の飽和電圧 (Vsat)は式 (7)で求められます。
インの信号を積み重ねることです。水平スタッキングを利
113
用するとCCDの出力は、図1-34に示すようにX線のエネル
ギーに応じたシングルイベントライン (single event line)を
描きます。
理想的なCCDでは、
CTE=1であるため、
Leading
[表1-1] ラインビニング時の電荷転送効率と残像の割合
CTE
S9971-0906
S9971-0907
0.99995
0.0032
0.0064
(先頭)とTrailing (最後尾)で信号の高さは同じになりま
0.99999
0.00064
0.00128
す。
実際のCTEは1より小さいため、
Trailingでの信号電荷
0.999995
0.00032
0.00064
は電荷転送損失を生じ、
Leadingでの信号電荷を1とすれ
ば、
電荷転送損失は式 (9)で表されます。
暗電流
電荷転送損失 = n × CT I ……… (9)
暗電流は、光入力のない状態における電流出力です。
n: 画素数
CTI (Charge Transfer Inefficiency: 非転送効率) = 1 - CTE
単位としては、
一般にA (アンペア)、
A/cm2、
V (ボルト)が用
当社の標準的なCCDは、
CTE=0.99999 typ.です。
いられますが、
計測用CCDでは単位時間に1画素当たりで
発生する電子数を示すe-/pixel/sやe-/pixel/hが一般的に
[図1-34] Fe-55のスタッキングによる電荷転送効率の評価方法
用いられます。温度が5∼7 ̊C上昇すると、暗電流はほぼ
倍になります。
CCDで暗電流が発生する主な原因は、
以下の3点です。
① 空乏化していない領域での熱励起とその拡散
章
② 空乏層内での熱励起
5
イメージセンサ
③ 表面準位による熱励起
この中では③が最も支配的です。
MPP (Multi-Pinned Phase)動作は、
暗電流を下げるた
めの動作で、
反転動作とも呼ばれます。
MPP動作は、
CCD
KMPDC0046JA
インターライン型のCCDでは受光部のフォトダイオード
からシフトレジスタへの信号の転送が不完全であるため、
数%程度の残像が存在することがあります。一方でFFT
型CCDのようにシフトレジスタ自身が受光する場合では、
ト
の電極を構成するMOS構造のすべてのゲート下を反転
状態にすることにより実現できます。
MPP動作では、
③の影響を抑制でき暗電流を大幅に低
減できます。
[図1-36] 暗電流−温度 (S9970/S9971シリーズ)
ラップ 「
( 1-3 使い方/放射線損傷」参照)への信号電荷
の捕獲と放出による残像が生じます。
この残像は結果とし
てはCTEの劣化として観察されます。
ここではラインビニン
グの場合を例にCTEによる残像について簡単に示します。
ラインビニングでは、
信号は水平シフトレジスタの数に対
応した1ラインの信号として得られます。
CTEが1 (理想的)
の場合には、1ラインの信号の後の読み出しにおいて信号
電荷はダークレベルと同じになりますが、
CTEが1未満の場
合には転送数により表1-1に示すような信号電荷が読み残
されることになります。
[図1-35] ラインビニング時のCCDの残像
KMPDB0152JB
2相CCDでは、バリア相と信号電荷を蓄積する蓄積相
にイオン注入などにより電位差が設けられています。
した
KMPDC0047JB
がって、すべてのゲートが同じ電圧になった場合でも、2相
CCDは電荷を蓄積するためのポテンシャルウェルをもつこ
とができます。CCDのすべての相が反転状態になるように
バイアスすることによって、
MPP動作を実現できます。
暗電流を低減する必要がある場合には、
このMPP動作
とCCDの冷却が非常に効果的です。
114
1. CCDイメージセンサ
[図1-37] MPP動作時の電位分布図
ノイズ
CCDのノイズは、
以下の4種類に分類されます。
(1) 固定パターンノイズ (Nf: fixed pattern noise)
CCDの画素間の感度のバラツキによるノイズです (画
素間の感度のバラツキは、開口面積や膜厚のバラツキに
よって発生します)。固定パターンノイズは、信号量が大き
い場合、
露光量 (信号電子量)に比例します。
なお、
1画素
のノイズについて考える場合は、
Nf=0になります。
(2) ショットノイズ (Ns: shot noise)
KMPDB0055JB
CCDに入射するフォトンの統計的な変化により発生する
図1-37で示すように、
MPP動作時には蓄積相・バリア相
ノイズです。
ショットノイズは、
ポアソン統計に従い式 (10)
がともに反転状態にピンニング (pinning)されます。
ピンニ
で表されます。
ングされた状態では、CCD表面がチャンネル分離領域か
ら供給された正孔によって反転され、
それ以上の電圧を
S: 信号電子数 [e - ]
章
負側に印加しても酸化膜界面の電位は基板と同じ電位に
Ns = S ……… (10)
5
固定されます。
は、熱励起電子の発生が極端に抑制されるため、暗電流
たとえば、
フォトンの入射によりCCD内で信号電子量が
10000 e-発生する場合には、
ショットノイズは100 e- rmsで
イメージセンサ
酸化膜界面が正孔によって反転された状態において
す。
の少ない状態が実現できます。
(3) ダークショットノイズ (Nd: dark shot noise)
[図1-38] 暗電流−ゲート電圧 (S9974-1007)
ダークショットノイズは、暗電流によって発生するノイズ
で、暗電子数の平方根に比例します。
ダークショットノイズ
を低減するためには、
暗電流そのものを低減する必要があ
ります。
なお、画素間の暗電流のバラツキは、感度のバラ
ツキよりも大きくなっています。
(4) 読み出しノイズ (Nr: readout noise)
CCDの出力部のアンプを構成するMOSFETに起因す
る熱雑音と読み出し回路に起因する電気的なノイズで、
最終的にCCDの検出限界を制限します。
このノイズは、
CCDの出力方式によって決まり、露光量の影響は受けま
せん。
また読み出しノイズは、
周波数依存性をもちます [図
KMPDB0212JA
MPP動作においては、
ピンニング電圧 (ピンニングされる
1-43]。
トータルノイズ (Nt)は、
式 (11)で表されます。
ときの電圧)を正確に印加することによって暗電流を大幅
に低減することができます。
ピンニング電圧に満たないと、
正孔による反転層の形成が不十分なため、
暗電流が最小
まで下がりません。一方、
ピンニング電圧を超えて大きく負
の値をとると、余分なクロック振幅が必要となるばかりでな
く、
スプリアスチャージ 「
( 1-2 特性/スプリアスチャージ」
参照)という過剰電荷によって暗電流が増加することがあ
ります。
データシートに記載されたゲート電圧の付近で可
変させて電圧を調整することによって、暗電流を最小にす
ることができます。
Nt =
Nf 2 + Ns 2 + Nd 2 + Nr 2 ……… (11)
図1-39は、
これらの4種類のノイズと露光量の関係を示
しています。
CCDの検出限界は、
ダークショットノイズと読み
出しノイズによって決まります。
暗電流を下げてダークショッ
トノイズを読み出しノイズ以下に下げることで、
CCDの検出
限界を読み出しノイズまで下げることができます。
S/Nは、露光量が大きい場合では主として固定パターン
ノイズによって決まり、
露光量が小さい場合はショットノイズ
によって決まります。
115
[図1-39] ノイズ−露光量
解像度
イメージセンサが、
ある画像内の空間的な周波数のコン
トラストを再現する性能は空間解像力と呼ばれ、
サイン波
に対するMTF (Modulation Transfer Function)で定量化
されます。
CCDの画素は分離しているため、
離散サンプリン
グ定理によりナイキスト (Nyquist)限界によって決定される
限界解像度があります。
たとえば、入力が白黒のパターン
の場合に、
パターンが細かくなるに従って、
信号の白レベル
と黒レベルの差が小さくなって、
最終的には解像できなくな
ります。
CCDの理想的なMTFは式 (14)で表されます。
KMPDB0057JB
MTF = sinc {(π × f)/(2 × fn)} ……… (14)
f : 画像の空間周波数
fn : 空間ナイキスト周波数
ダイナミックレンジ
光学的なサイン波を実現することは難しいため、
一般に
章
5
イメージセンサ
ダイナミックレンジは、一般に検出器の測定可能範囲を
は矩形波のパターンをもったテストチャートが代用されま
規定するもので、最大レベルと最小レベル (検出限界)の
す。
この場合の空間周波数特性は、
コントラスト伝達関数
比で定義されます。
(CTF: Contrast Transfer Function)と呼ばれ、
MTFとは異な
CCDのダイナミックレンジは、
飽和電荷量を読み出しノイ
ります (CTFはフーリエ変換によりMTFに変換できます)。
ズで割った値です。
実際のCCDの解像度は、
Si内で電荷が収集されるときに
ダイナミックレンジ =
起きる拡散によって決まります。
入射フォトンが空乏層内で
飽和電荷量 ………
(12)
読み出しノイズ
吸収されることによって、発生した電子は広がることなくそ
の画素に収集され、
解像度の劣化は起きません。
解像度は
ダイナミックレンジは、
式 (13)でも表されます。
ダイナミックレンジ = 20 × log
(
入射フォトンが吸収される深さによっても変わり、
入射フォト
)
飽和電荷量
[dB] … (13)
読み出しノイズ
ンの波長が長いほど深く吸収されて解像度は劣化します。
[図1-40] 入射フォトンの波長とMTFの関係
(S9970/S9971シリーズ, 計算値)
動作温度や蓄積時間などの動作条件によってダイナ
ミックレンジは変わってきます。室温付近ではダークショット
ノイズが検出限界を決定しますが、
ダークショットノイズが
無視できるような動作条件 (十分に冷却した状態)では、
読み出しノイズによってダイナミックレンジが決まります。
2次元動作では、垂直シフトレジスタが転送できる電荷
量が飽和電荷量になります。
ラインビニングでは、
水平シフ
トレジスタの転送できる電荷量が飽和電荷量になります。
[表1-2] CCDの仕様例
項目
タイプ
S9736シリーズ S7170-0909
表面入射型
画素数
画素サイズ [µm]
KMPDB0206JA
24
飽和電荷量 (垂直) [ke-]
300
320
変換係数 [µV/e-]
3.5
2.2
4
8
75000
40000
読み出しノイズ [e- rms]
ダイナミックレンジ
暗電流 (0 °
C) [e-/pixel/s]
116
裏面入射型
512 × 512
10
1. CCDイメージセンサ
[図1-41] CTFの計算方法
また、
MOSFETの熱雑音は、
バイアス条件に大きく影響
を受けます。
当社のデータシートに掲載されている読み出
しノイズを実現するためには、推奨動作条件に従ってバイ
アスすることが必要です。
しかし、上記のバイアス条件に
設定した場合でも、CCDの読み出しノイズは、信号処理回
路によって大きく影響されます。
CCDの信号処理には一般
にCDS回路が使われ、CDS回路とその前段に設けたLPF
KMPDC0048JA
(Low-Pass Filter)の伝達関数を最適化することが、
CCD
の読み出しノイズの低減につながります。CCDの読み出し
点像分布関数 (point spread function)
空乏層内における電荷の広がりの標準偏差 (σD)は、
式
(15)で定義されます。
σDは、
Siの空乏層厚さと絶対温度の
平方根に比例し、裏面に印加するバイアス電圧の平方根
に逆比例します。
きれば、
信号処理回路を含めたCCDシステムの出力ノイズ
は、
ホワイトノイズとノイズ帯域幅で決まることになります。
以上によりCCDの読み出しノイズは、読み出し周波数に
依存し、
計測レベルで必要とされる数e- rmsレベルの読み
出しノイズが達成できるのは、
読み出し周波数が低い場合
(100 kHz以下)になります。読み出し周波数が高くなると、
読み出しノイズは急激に増加します。
2 × Xdep 2 × k T ………
(15)
Vbb × q
章
σD =
周波数に対して1/fノイズのコーナ周波数の影響を低減で
5
[図1-43] 読み出しノイズ−読み出し周波数 (S9737-01)
空乏層の厚さ
ボルツマン定数
絶対温度
裏面に印加するバイアス電圧
1電子当たりの電荷量
イメージセンサ
Xdep:
k
:
T
:
Vbb :
q
:
[図1-42] 電荷の広がりの標準偏差−バイアス電圧
KMPDB0207JA
スプリアスチャージ
スプリアスチャージは、
MPP動作時などにクロックパルス
KMPDB0281JB
によって発生する電荷で、入射光による信号以外の電荷
です。MPP動作時には、垂直クロックパルスがLowレベル
ノイズの周波数特性
にセットされ、
この期間は各画素のゲート下は反転状態に
なっています。
この状態では、
チャンネルストップ領域から
暗電流やスプリアスチャージ (spurious charge)が十分
正孔がゲート下に移動して、
その領域の表面電位は基板
に小さい状態では、読み出しノイズがCCDの最終的なノイ
の電位にピン (pin)されています。
このときに、正孔のうち
ズ電子数を決定します。読み出しノイズは、読み出し部の
のいくらかは酸化膜界面に沿ってトラップされ、
クロックパ
FDAを構成するMOSFETの熱雑音によって決まります。
ルスがHighレベルとなるときにその相は非反転状態になり
MOSFETの熱雑音には、
ホワイトノイズと1/fノイズがあり、
ます。
トラップされた正孔は、放出された後に高いエネル
低ノイズを実現するためにはホワイトノイズと1/fノイズの両
ギーをもち、
これによりスプリアスチャージが発生しポテン
方を低減する必要があります。
ホワイトノイズは、
MOSFET
シャルウェルに集められます。CCDの出力は、信号と暗電
の相互コンダクタンス (gm)を増加させることによって低減
流とスプリアスチャージが加算された値となります。
できます。
計測用CCDに内蔵されているMOSFETの1/fノイ
スプリアスチャージは、
クロックパルスの立ち上がりを遅く
ズのコーナ周波数は、
数kHz程度と低くなっています。
したり、
クロックパルスのHighレベルとLowレベルの電位差
117
を小さくすることによって改善できます。CCDが十分低い
[図1-46] アンチブルーミング構造 (横型)とポテンシャル
温度まで冷却され、
読み出しノイズレベルに近い信号量に
なる場合には、
スプリアスチャージを考慮したクロッキング
が重要になります。
[図1-44] スプリアスチャージ−温度 (代表例)
KMPDC0286JA
[図1-47] 撮像例
(a) アンチブルーミングなし (b) アンチブルーミングあり
章
5
KMPDB0208JA
イメージセンサ
アンチブルーミング
受光面に強い光が入り信号電荷が特定量を超えた場
合に、
余剰電荷が隣接した画素や転送領域にあふれ出る
現象がブルーミング (オーバーフロー)です。
ドレインを設
けて余剰電荷を捨てることによりブルーミングを防止する
ことをアンチブルーミングといいます。
CCDのアンチブルーミング構造には大きく分けて横型と
縦型があり、
当社のCCDでは横型を採用しています。
横型
CCDリニアイメージセンサでは、
ストレージゲートの近くに
は、画素もしくは電荷転送路の脇にドレインを設けた構造
アンチブルーミングドレインとアンチブルーミングゲートが
で、
表面入射型CCDでは開口率が小さくなる欠点がありま
形成されています。
アンチブルーミングドレインとアンチブ
す。一方、裏面入射型CCDでは、
この欠点を回避すること
ルーミングゲートに適切な電圧を印加することでアンチブ
ができます。縦型は、余剰電荷を基板内部に捨てる構造
ルーミング機能を使うことができます。
アンチブルーミング
で、
開口率は小さくなりませんが長波長の感度が低下する
ゲート電圧によって、
飽和出力電圧を制御します。
また、
アン
欠点があります。
チブルーミングゲート電圧を高くすることで、
フォトダイオー
なお、
オーバーフロードレイン電圧 (V OFD)とオーバーフ
ドで発生した信号電荷をすべてアンチブルーミングドレイン
ローゲート電圧 (V OFG)によりアンチブルーミング機能を制
に掃き出し、
出力をゼロにすることも可能です。
この機能を
御する場合、印加電圧により飽和電荷量が低下すること
使って、
後述の電子シャッタを機能させることができます。
があるため注意が必要です。
[図1-45] アンチブルーミングの概念図
KMPDC0285JA
118
CCDリニアイメージセンサのアンチブルーミング機能
1. CCDイメージセンサ
[図1-48] 飽和出力電圧ーアンチブルーミングゲート電圧 (代表例)
[図1-50] 出力電圧ー有効蓄積時間 (CCDリニアイメージセンサ, 代表例)
KMPDB0282JA
電子シャッタ
KMPDB0283JA
エタロニング
スファーゲートのクロックパルスの間隔になります。電子
と減衰を繰り返す間に、干渉により感度に強弱が現れる
シャッタ機能を使うことで、
トランスファーゲートのクロック
現象です。
一般にエタロニングとは2面の高反射フィルタを
の間隔よりも短い有効蓄積時間に設定することが可能で
向き合わせて配置した光学素子のことを指しますが、
CCD
す。
アンチブルーミングゲートの電圧を高くすると、
フォトダ
内部でも入射した光が不完全な反射・透過・吸収を繰り返
イオードで発生した信号電荷はすべてアンチブルーミング
し、
エタロニングのような振る舞いをするため、
このように呼
ドレインに捨てられます。
トランスファーゲートのクロックの
ばれます。
裏面入射型CCDの場合、
Siの厚さと吸収長との
間にアンチブルーミングゲートの電圧を高くする期間と低
関係から、
入射光が長波長の場合、
エタロニングが発生し
くする期間を設けることで、通常の蓄積時間よりも短い有
ます [図1-51]。
当社では、独自に開発した技術でエタロニ
効蓄積時間を実現できます。
また、蓄積時間の開始タイミ
ングを低減した裏面入射型CCDを製品化しました。
なお、
ングを外部トリガパルスと同期させることができます。
エタロニングは裏面入射型CCDに特有の現象であり、表
[図1-49] CCDリニアイメージセンサのタイミングチャート
(電子シャッタ機能)
5
イメージセンサ
エタロニングは、
入射した光がCCDの表面と裏面で反射
章
CCDリニアイメージセンサの蓄積時間は、通常はトラン
面入射型CCDではみられません。
[図1-51] エタロニング特性 (代表例)
KMPDC0287JA
KMPDB0284JB
コスメティックス
コスメティックスは、CCDの欠陥 (汚れ、傷)のレベルを
示すものです。汚れや傷は、暗状態で明るく見える白キ
ズ (white spot)と入射光のある状態で暗く見える黒キズ
119
(black spot)の2種類に分類できます。
宇宙線によるCCDへの影響
白キズの発生する原因としては、
材料の格子欠陥、
材料
に含まれる金属不純物、機械的損傷やプロセス中の埃に
CCDに宇宙線が入射した場合、図1-52のように宇宙線
起因するパターン不良などがあります。黒キズは、
プロセス
が検出される場合があります。宇宙線は、
ある程度の割合
中のCCD表面への埃や表面の絶縁膜の部分的欠陥によ
で地表に降り注いでいます。
主なものはµ粒子 (∼数GeV)
る反射の違い、素子の表面や窓材における埃などの汚れ
で、CCDのSi内部で飛跡に沿って信号電荷を発生させま
によるものです。
白キズ・黒キズをゼロに保つことは難しく、
す [図1-53]。
標準タイプ裏面入射型CCDの場合はSiが薄
面積が大きく画素サイズが小さいCCDほどキズの影響は
いため、
宇宙線による偽信号が現れるのは多くても数画素
顕著になります。
程度ですが、完全空乏化タイプ裏面入射型CCDでは、多
当社は、
白キズと黒キズの仕様を定めて、
すべてのCCD
数の画素で偽信号が現れる場合があります。
に対して、
その量を検査しています。
宇宙線が検出される頻度は、
センサ構造や環境によっ
コスメティックスの定義を以下に示します。
メーカーに
て異なりますが、
おおよその目安として150個/(cm2・h)程
よって定義に差がありますので、比較する場合には注意
度です。
なお、地表から離れるほど、宇宙線の量は増える
が必要です。
ことが知られています。
(1) ポイント欠陥 (point defect)
宇宙線によって一時的に偽信号が発生する場合は、複
・白キズ
章
5
数回の画像を取得して平均化したり、
蓄積時間を短くする
ことによって、
その影響を低減できます。
イメージセンサ
冷却温度 0 ̊Cで1秒間蓄積したときに、
飽和電荷量の3
宇宙線は、Si原子との相互作用により格子欠陥を発生
%を超える暗電流が発生する画素を白キズとして定義して
させる場合があり、
白キズや電荷トラップの原因となりま
います。
す。
あらかじめ白キズに対する補正機能を装置に加えるこ
・黒キズ
飽和電荷量の50∼90%になるように、CCDに均一光を
入射します。
このときの各画素の出力の平均値を算出し、
とを推奨します。
[図1-52] 完全空乏化タイプ裏面入射型CCDにおける
宇宙線による擬似信号発生画像例
平均値の50%以下の出力の画素を黒キズとします。
当社
は、通常、飽和電荷量の50%になるような均一光で検査を
しています。
(2) クラスタ欠陥 (cluster defect)
連続した画素欠陥で2∼9個の固まりをクラスタ欠陥と
呼び、
ポイント欠陥と区別します。
クラスタ欠陥は、縦方向
にみられる場合が多いですが、裏面入射型CCDやFOS
(Fiber Optic plate with Scintillator)がカップリングされた
表面入射型CCDの黒キズに起因するクラスタ欠陥は、2次
元的な固まりとしてみられます。
(3) コラム欠陥 (column defect)
連続した画素欠陥で10個以上の固まり (クラスタ欠陥
よりも大きいもの)をコラム欠陥と呼び、
クラスタ欠陥とは区
別します。
コラム欠陥も縦方向にみられる場合が多いです
が、
裏面入射型CCDやFOSがカップリングされた表面入射
[図1-53] 宇宙線が入射したCCD (裏面入射型)の断面図
(a) 標準タイプ
型CCDの黒キズに起因するコラム欠陥は、
クラスタ欠陥と
同様に2次元的な固まりとしてみられます。
S9970/S9971シリーズのように受光面積の小さな表面
入射型CCDは、
ポイント欠陥・クラスタ欠陥・コラム欠陥は
ゼロになっています。
FOP (Fiber Optic Plate)やFOSをカッ
プリングしたCCDでは、
CCD以外の要因で欠陥が発生する
ため、
欠陥の形状や数はCCDのみの場合とは異なります。
120
KMPDC0412JA
1. CCDイメージセンサ
(b)完全空乏化タイプ
平方向をすべて転送しますが、
このときサミングゲートパ
ルスをサミングするビット数だけパルスを止めると、
サミング
ウェルに電荷が加算されます。
注) ラインビニングとピクセルビニングは、同時に動作させることもできます。
(4) TDI動作
「1-1 構造、動作原理/TDI-CCD」
で説明したように、
TDI動作によって移動する物体の画像化が可能になりま
す。
そのためには、
被写体の受光面上での移動速度とCCD
の垂直転送クロックパルスを同期させる必要があります。
KMPDC0413JA
1-3
使い方
章
5
タイミング
イメージセンサ
C C Dを動作させるためには、垂直シフトレジスタ用2
相クロックパルス (P1V, P2V)、
トランスファーゲートパル
ス (TG)、水平シフトレジスタ用2相クロックパルス (P1H,
P2H)、
サミングゲートパルス (SG)、
リセットパルス (RG)の
7つの信号が必要になります。TGは、最終のP2V電極を分
割したもので、P2Vと同じタイミングで別端子としてクロック
パルスを入れることを推奨しますが、P2V端子と短絡させ
ることによっても動作します。CCDの動作に必要なパルス
のタイミングチャートについてはデータシートを参照してく
ださい。
FFT型CCDには、
ラインビニング・2次元動作・ピクセルビ
ニング・TDI動作という4つの動作モードがあります。
これら
の動作モードは、各動作のタイミングを調整することで、簡
単に選択することができます。
(1) ラインビニング
最初に、
ビニングしたいビット数だけ垂直方向を転送
します。
これによって、対応する水平レジスタに電荷が加
算されます。
その後、水平方向をすべて転送します。サミ
ングゲートパルスは、水平シフトレジスタ用クロックパルス
(P2H)とまったく同じパルスにします。
(2) 2次元動作 (エリアスキャン)
垂直方向に1ビット転送するごとに、水平方向をすべ
て転送します。垂直方向がすべて転送し終わったとき、
フレームの転送が終了することになります。
このとき、サミ
ングゲートパルスは、水平シフトレジスタ用クロックパルス
(P2H)とまったく同じパルスにします。
(3) ピクセルビニング
最初に、垂直方向は1ビットの転送をします。
その後、水
121
[図1-54] ラインビニングのタイミングチャート
蓄積期間 (シャッタ開)
垂直ビニング期間 (シャッタ閉)
読み出し期間 (シャッタ閉)
Tpwv
P1V
Tovr
P2V, TG
Tpwh,Tpws
P1H
P2H
SG
Tpwr
RG
OS
KMPDC0050JB
項目
記号
S703*-0906
P1V, P2V, TG*1
パルス幅
S703*-0907/-1006
上昇/下降時間
章
パルス幅
5
P1H, P2H*1
上昇/下降時間
イメージセンサ
デューティ比
パルス幅
SG
上昇/下降時間
デューティ比
パルス幅
RG
上昇/下降時間
TG‒P1H
*1:
Tpwv
S703*-1007
オーバーラップ時間
Min.
Typ.
Max.
1.5
2
-
3
4
-
6
8
-
単位
µs
Tprv, Tpfv
10
-
-
ns
Tpwh
500
2000
-
ns
Tprh, Tpfh
10
-
-
ns
-
-
50
-
%
Tpws
500
2000
-
ns
Tprs, Tpfs
10
-
-
ns
-
-
50
-
%
Tpwr
100
-
-
ns
Tprr, Tpfr
5
-
-
ns
Tovr
3
-
-
µs
最大パルス振幅の50%のところに対称クロックパルスをオーバーラップさせてください。
[図1-55] 2次元動作のタイミングチャート
(a) 低暗電流モード
蓄積期間 (シャッタ開)
読み出し期間 (シャッタ閉)
Tpwv
P1V
P2V, TG
P1H
P2H
SG
RG
OS
Tovr
P2V, TG
拡大図
Tpwh, Tpws
P1H
P2H
SG
Tpwr
RG
OS
KMPDC0049JB
122
1. CCDイメージセンサ
(b) 大飽和電荷量モード
蓄積期間 (シャッタ開)
読み出し期間 (シャッタ閉)
Tpwv
P1V
P2V, TG
P1H
P2H
SG
RG
OS
Tovr
P2V, TG
拡大図
Tpwh, Tpws
P1H
P2H
SG
Tpwr
RG
OS
KMPDC00145JA
章
5
項目
パルス幅*2
パルス幅
P1H, P2H
S7171-0909-01
上昇/下降時間
*2
上昇/下降時間
デューティ比
パルス幅
SG
全シリーズ
上昇/下降時間
デューティ比
RG
TG-P1H
*2:
パルス幅
上昇/下降時間
オーバーラップ時間
記号
Min.
Typ.
Max.
単位
Tpwv
6
8
-
µs
Tprv, Tpfv
200
-
-
ns
Tpwh
500
2000
-
ns
Tprh, Tpfh
10
-
-
ns
-
40
50
60
%
Tpws
500
2000
-
ns
Tprs, Tpfs
10
-
-
ns
-
40
50
60
%
ns
Tpwr
100
-
-
Tprr, Tpfr
5
-
-
ns
Tovr
3
-
-
µs
イメージセンサ
P1V, P2V, TG
センサ
最大パルス振幅の50%のところに対称クロックパルスをオーバーラップさせてください。
[図1-56] ピクセルビニング(2 × 2)のタイミングチャート
(a) 低暗電流モード
蓄積期間 (シャッタ開)
読み出し期間 (シャッタ閉)
Tpwv
P1V
P2V, TG
P1H
P2H
SG
RG
OS
拡大図
Tpwh, Tpws
Tovr
P2V, TG
P1H
P2H
SG
Tpwr
RG
OS
KMPDC0051JB
123
(b) 大飽和電荷量モード
蓄積期間 (シャッタ開)
読み出し期間 (シャッタ閉)
Tpwv
P1V
P2V, TG
P1H
P2H
SG
RG
OS
拡大図
Tpwh, Tpws
Tovr
P2V, TG
P1H
P2H
SG
Tpwr
RG
OS
KMPDC0146JA
章
5
イメージセンサ
項目
記号
S703*-0906
P1V, P2V, TG*1
パルス幅
S703*-0907/-1006
上昇/下降時間
パルス幅
P1H, P2H*1
上昇/下降時間
デューティ比
パルス幅
SG
上昇/下降時間
デューティ比
RG
TG‒P1H
*1:
124
Tpwv
S703*-1007
パルス幅
上昇/下降時間
オーバーラップ時間
Min.
Typ.
Max.
1.5
2
-
3
4
-
6
8
-
単位
µs
Tprv, Tpfv
10
-
-
ns
Tpwh
500
2000
-
ns
Tprh, Tpfh
10
-
-
ns
-
-
50
-
%
Tpws
500
2000
-
ns
Tprs, Tpfs
10
-
-
ns
-
-
50
-
%
Tpwr
100
-
-
ns
Tprr, Tpfr
5
-
-
ns
Tovr
3
-
-
µs
最大パルス振幅の50%のところに対称クロックパルスをオーバーラップさせてください。
1. CCDイメージセンサ
[図1-57] TDI動作のタイミングチャート
(a) 1 × 1、大飽和電荷量モード
KMPDC0147JA
章
注) 低暗電流モードでのタイミングチャートは、図1-55 (a)のP1V、P2V、TGを参考にしてください。
5
イメージセンサ
(b) 2 × 2、ピクセルビニング、大飽和電荷量モード
KMPDC0148JA
注) 低暗電流モードでのタイミングチャートは、図1-56 (a)のP1V、P2V、TGを参考にしてください。
項目
P1AV, P18V
P2AV, P2BV, TG*2 *3
P1AH, P1BH
P2AH, P2BH*3
センサ
パルス幅
上昇/下降時間
パルス幅
上昇/下降時間
デューティ比
パルス幅
SG
上昇/下降時間
デューティ比
RG
TG-P1AH, P1BH
*2:
*3:
パルス幅
上昇/下降時間
オーバーラップ時間
S7199-01
記号
Min.
Typ.
Max.
単位
tpwv
30
-
-
µs
tprv, tpfv
200
-
-
ns
tpwh
125
-
-
ns
tprh, tpfh
10
-
-
ns
-
-
50
-
%
tpws
125
-
-
ns
tprs, tpfs
10
-
-
ns
-
-
50
-
%
ns
tpwr
10
-
-
tprr, tpfr
5
-
-
ns
tovr
10
-
-
µs
TGにP2AVと同じパルスを入力してください。
最大パルス振幅の50%のところに対称クロックパルスをオーバーラップさせてください。
125
クロックパルス、DCバイアスの調整
ロジックレベルのICを使用します。
これらの動作電圧は、
+3.3 Vもしくは+5.0 Vであるため、
MOSドライバにはレベル
CCDの性能を最大限に利用するためには、
クロックパル
変換回路を接続する必要があります。
スやDCバイアスを調整する必要があります。
2相CCDの場合では、
垂直シフトレジスタや水平シフトレ
(1) 転送クロックパルス
ジスタを駆動するクロックパルスはオーバーラップが必要
です 「
( 1-1 構造、
動作原理/電荷転送動作」
参照)。
この
垂直シフトレジスタのクロック電圧のLowレベルは、
CCD
ため、
MOSドライバICとCCDの間には適当な値の抵抗 Rd
の暗電流に影響し、
MPP動作になるピンニング電圧より高
クロックパルス
(ダンピング抵抗: 数Ω∼数十Ω)を挿入し、
い電圧に設定した場合には、期待したほどには暗電流が
の上昇時間と下降時間を調整します。
下がらなくなります。
ピンニング電圧は、製造時のバラツキ
デジタル系回路からのCCDへのノイズ混入をできるだけ
などにより個々のCCDで異なるため、理想的には製品ごと
減らすため、
アナログ系グランドとデジタル系グランドは転送
に調整する必要があります。
クロックパルス生成回路で同電位とすることを推奨します。
垂直のクロック電圧のLowレベルを決定した後に、High
レベルを調整します。飽和電荷量を確保するためには、
[図1-58] 転送クロックパルス生成回路の例
VDD
クロックパルスの振幅をある程度大きくする必要がありま
10 μF
す。
ただしクロックパルスの振幅が大きすぎると、
スプリアス
チャージが大きくなってしまい、読み出し時間中の暗電流
章
5
(Nb)が大きくなり、結果として出力信号全体にわたるオフ
P1V
P2V
6
5
Rd
+Vcc
100 p
EL7212
2.2 k
2
7
20
4
2.2 k
Rd
18
17
16
15
14
13
12
11
Y1
Y2
Y3
Y4
Y5
Y6
Y7
Y8
3
イメージセンサ
セットの形で現れます。
通常スプリアスチャージは、
室温付
G1
G2
100 p
近では暗電流とは区別できませんが、CCDを冷却した状
A1
A2
A3
A4
A5
A6
A7
A8
74HCT540
0.1 μF
2
3
4
5
6
7
8
9
P1V_in
P2V_in
1
19
10
2.2 k
2.2 k
態においては問題になることがあります。
したがって垂直
クロックパルスの振幅は、他の特性に対して問題ない範囲
で最小になるように調整する必要があります。
(2) リセットクロックパルス
10 μF
VEE
VDD: クロックパルスHighレベル電圧
VE E : クロックパルスLowレベル電圧
Rd: ダンピング抵抗 (数Ω∼数十Ω)
KMPDC0052JB
リセットクロックパルスは、
リセットゲート (RG)に加えるク
ロックパルスで、
FD (Floating Diffusion)に流れ込んだ信号
[図1-59] CCD出力部の電位
電荷を定期的にリファレンス電圧 (VRD)にリセットします。
ク
ロックパルスのLowレベル・Highレベルの調整によって、
出
力部の飽和電荷量が変化します。
出力部の飽和電荷量は、
適切に調整された状態では、CCDの飽和電荷量よりは十
分に大きくなります。
リセットクロックパルスのLowレベルの
電圧が高くなると、
リセットスイッチがオフになった状態での
電位が十分に下がっていないためFDに蓄積できる電荷量
が減少し、転送電荷のすべてを電圧に変換する前にオー
バーフローしてしまうことがあります。
このため、
リセットクロッ
クパルスのLowレベルは、
出力部の飽和電荷量に影響しな
KMPDC0183JA
いように十分に低い電圧に設定することが必要です。
リセットクロックパルスのパルス幅は、
10 ns∼100 ns程度に
設定してください (100 nsよりも長くても問題は生じません)。
(3) 転送クロックパルス生成回路
・ODに加えるバイアス (VOD)
V ODは、
出力トランジスタに加えるバイアスです。1段ソー
転送クロックパルス生成回路の例を図1-58に示します。
スフォロワ出力形式のアンプでは、
VODとして約20 Vを印加
前述の通りCCDを動作させるためには、
HighレベルとLow
してください。
ソースフォロワ回路においてMOSFETのソー
レベルの電圧振幅をもつクロックパルスが必要です。
このク
スに接続した20 kΩ程度の負荷抵抗では、
ソースのDCレ
ロックパルスは数百pF∼数nFの入力容量をもつ垂直シフト
ベルは15 V程度になっています。
したがって、ODに加える
レジスタや水平シフトレジスタを高速で動作させなければ
電圧によりMOSFETのソースドレイン間には数V程度の電
なりません。
このため、
一般にCCDを駆動する場合は、
容量
圧が加わりますが、
この電圧が十分に高くないと次の現象
性負荷を高速で駆動できるMOSドライバが使用されます。
が発生します。
通常、
タイミング信号発生回路には、TTLもしくはCMOS
126
(4) DCバイアス
1. CCDイメージセンサ
① ソースフォロワ回路の電圧ゲイン (Av)が低くなる。
[図1-60] バイアス電圧発生回路の例
② MOSFETが飽和領域で動作しない。
これらの現象によって、
CCDの変換係数 (単位: µV/e-)
の低下や読み出しノイズの増加、
直線性の悪化など、
性能
に悪影響があります。
2段ソースフォロワ出力形式などの多段のアンプでは、
VODは約+15 Vで1段の場合に比べて低くします。
なお、
2段
ソースフォロワ出力形式の場合も、1段と同様に①②の現
象が発生します。
KMPDC0303JB
・RDに加えるバイアス (VRD)
V RDはリセットドレインに加えるバイアスで、出力部の
信号処理回路
リセットレベルを決めるとともに、出力トランジスタのゲー
CCDのノイズの主な要因には、一般的によく知られて
MOSFETの動作領域を決定し、
出力部の飽和電荷量に影
いるkT/Cノイズと1/fノイズがあります。kT/Cノイズは、FDA
響します。
V RDを大きくするとFDの電位も大きくでき信号量
「
( 1-1 構造、
動作原理/FDA」
参照)における電荷放電 (リ
としては増加しますが、
出力トランジスタで①②の現象が
セット動作)によって生じます。
このノイズはFDAのノード容
発生することを考慮して最適な値にする必要があります。
量 (Cfd)の平方根に反比例し、CCDの全ノイズに対して
MOSFETで発生するノイズで、
周波数に反比例します。
V OGは、水平シフトレジスタの最終部に配置されたFDと
これらのノイズはCCDシステムのS/Nを悪化させるため、
最終のクロッキングゲート (サミングゲート)を分離するため
信号処理回路においてできる限り減らすように工夫する
のOGに加えるバイアスです。信号電荷は、最終のクロッキ
必要があります。
その代表的な回路がCDS回路です。
ングゲートであるサミングゲートパルス (SG)のLowレベル
CDS回路の動作原理について説明します。図1-61は
への立ち下がりに同期してFDに出力されます。
したがって
CCDの出力波形を示しています。
前述の通りFDAにおける
OGの電位は、
SGがLowレベルになったときの電位よりも小
リセット期間中にkT/Cノイズが発生します。
このため、
リセッ
さくなり、OGの電位とリセット時の電位差が取り扱い可能
ト期間が終了した時点の電圧レベルはkT/Cノイズによっ
な信号電荷量を決める要因になります。図1-59からも明ら
て変動します。
したがって、
時間 T2においてデータを取得
かなように、
信号電荷量は、
OG下の電位とリセットゲートの
した場合、kT/Cノイズの変動分がS/Nを悪化させます。
こ
Lowレベル時の電位のいずれかで制限されます。
VOGが低
れに対して、
出力波形の時間 T1と時間 T2でデータを取得
いほど、
出力部の飽和電荷量は大きくなりますが、
低すぎる
し、
その差を取ることでkT/Cノイズが除去された信号分 ΔV
場合にはSGのLowレベル時に信号電荷がFDに流入でき
のみを取り出すことができます。
このとき、
オフセット電圧分
なくなるため、
VOGは適切な値に調整する必要があります。
や、
リセットフィードスルーなどのDC成分も同時に取り除か
・バイアス電圧発生回路
バイアス電圧は、主にCCDの出力アンプ周辺部に印加
5
大きな比率を占めます。
また、1/fノイズはFDAを構成する
イメージセンサ
・OGに加えるバイアス (VOG)
章
トの電圧になります。V RDは、V ODと同様に電圧ゲインや
れます。
[図1-61] CCDの出力波形
されます。
したがって、電源は比較的ノイズの少ない安定
したものを使用してください。
また、電圧精度・電圧変動・
リップル・出力電流などに注意することも重要です。
図1-60にOD端子のバイアス電圧発生回路の例を示しま
す。
基準電圧は電源ICより生成し、
ローパスフィルタを構成
する増幅器で所定の電圧値にしています。
これにより、
低ノ
イズで高安定・高精度の電圧が得られます。
KMPDC0304JA
CDS回路には
「①クランプ回路とサンプル&ホールドア
ンプ (以下、SHA)を組み合わせた方式」
と、
「②SHAと差
動アンプを組み合わせた方式」
があります。①の方式 [図
1-62]は、非常に単純な回路構成ですが、
クランプ回路に
使用するスイッチのオン抵抗が大きい場合、除去されるノ
イズ量が少なくなったり、
DC電圧誤差を生じたりします。
な
お、
オン抵抗は0 Ωであることが理想的です。
127
[図1-62] CDS回路 (クランプ回路とSHAを組み合わせた
方式)のブロック図
図1-64に①の方式の回路例を示します。
プリアンプではCCDの出力を十分に増幅するためゲイン
を高くします。CCDの出力にはDC電圧成分を含んでいる
ため、
コンデンサでAC結合します。
しかし、
プリアンプのバ
イアス電流が大きい場合、
このコンデンサによって大きな
DC電圧誤差を生じます。
したがってバイアス電流の小さな
アンプを選択する必要があります。一般的にはJFETもしく
はCMOS入力型アンプを使用します。
またCCDの出力波形
を増幅できる十分な帯域をもった低ノイズのアンプを選択
する必要があります。
クランプ回路はコンデンサとアナログスイッチにて構成し
ます。
アナログスイッチについては、低オン抵抗でチャージ
インジェクション量の小さな高速タイプを推奨します。
KMPDC0305JA
最終段のアンプは、
プリアンプと同様にコンデンサによる
章
5
イメージセンサ
②の方式 [図1-63]は、
部品点数が多くなりますが、
①の
AC結合となるため、JFETまたはCMOS入力型を選択しま
方式に比べてノイズの除去効果は高くなります。
しかし、
SHA
す。
また、入力インピーダンスが高くなるように非反転増幅
出力をアナログ的に演算するため、
SHA自体のもつノイズが
器を構成します。
加算され、
ノイズが多くなる場合があります。
SHAのノイズは
ところで、CCDの出力は負極性であり、
アナログ−デジタ
kT/Cノイズが無視できる程度に小さい必要があります。
ル変換を容易にするために最終段アンプの出力を正極性
[図1-63] CDS回路 (SHAと差動アンプを組み合わせた
方式)のブロック図
とします。
このため、
プリアンプの後段に反転増幅器を接
続します。
KMPDC0306JA
[図1-64] CDS回路例 (クランプ回路とSHAを組み合わせた方式)
KMPDC0053JC
128
1. CCDイメージセンサ
高速信号処理回路
レージゲート、水平シフトレジスタで受光すると、暗状態に
おいても読み始めの画素で出力が大きくなる現象が発生
数MHz以上の読み出し速度が必要とされるCCDの信
します [図1-67]。
号処理回路において、
ディスクリート部品だけで構成され
この影響を減らすためには以下の対策が有効です。
た回路ではクランプの高速動作やコンデンサへの速い充
① Vret端子に+1 V typ.の電圧を印加する (Vret端子があ
放電特性を実現することは困難です。
CCDの信号処理に最適化されたアナログフロントエンド
IC (CDS/ゲイン/オフセット回路、
A/D変換器などを1チッ
プで構成したIC)を使用することで高速信号処理回路を
構成できます。
出力回路における発光の対策
る場合)。
② 水平シフトレジスタクロックパルス (P1H, P2H)を振幅の
50% ± 10%で交差させる [図1-68]。
・水平2相駆動の場合: P1H, P2H
・水平4相駆動の場合: P1H, P3HおよびP2H, P4H
③ 全画素の読み出し後、
TGがHighレベルになる直前まで
水平方向の空読み出しを行う。
2段MOSFETソースフォロワを採用しているCCDの出力
回路において、動作条件が適切でない場合、
アンプが発
光することがあります。
この発光をレジスティブゲートやスト
章
5
[図1-65] 高速信号処理回路例 (S11155/S11156-2048-01とアナログフロントエンドICを使用)
イメージセンサ
KMPDC0457JA
[図1-66] タイミングチャート (S11155-2048-01)
KMPDC0382JB
129
[図1-67] 出力回路における発光の影響
(暗状態における水平プロファイル, 代表例)
補正
一般にイメージセンサには、画素間においてフォト
ン (光子)に対する感度の不均一性 (PRNU)と、設定し
た動作条件における暗電流の不均一性 (DCNU: Dark
Current Nonuniformity)があります。
高精度のデータを収
集するためには、少なくともこれらの2つの不均一性を補
正する必要があります。
不均一性は温度によって値が変わ
ります。
そのため、
温度を考慮に入れた上で補正する必要
があります。
(1) 暗電流の補正
暗電流は画素によって異なるため、高精度に補正する
KMPDB0328JA
ためには画素単位で考える必要があります。光の入射が
ないときのCCDの暗電流 (Nt)は式 (16)で表されます。
[図1-68] 水平シフトレジスタクロックパルスの波形
Nt(x, y, t, T) = Nd(x, y, T) × t + Nb(x, y, T) …… (16)
章
5
イメージセンサ
KMPDC0381EA
x y t T Nd(x,
Nb(x,
:
:
:
:
y, T):
y, T):
水平方向のアドレス
垂直方向のアドレス
蓄積時間
CCDの温度
各画素の暗電流 [e -/pixel/s]
蓄積時間ゼロのときの暗電流
比較的長い蓄積をする場合には、水平シフトレジスタで
蓄積時間がゼロのときの暗電流 Nb(x, y, T)は、
オフセッ
発生する電荷を捨てるために、
全画素の読み出し後にトラ
トやバイアスとも呼ばれます。
この値は、動作条件によっ
ンスファーゲートへの転送を開始する直前まで空読み出し
て変わります。
当社のデータシートに記載された暗電流値
を行います。
この方法は、
蓄積時間中に水平シフトレジスタ
は、
Nd(x, y, T)をある領域で平均した暗電流であり、
実際
で発生する電荷を捨てる場合にも有効です。
にCCDから出力される暗電流とは異なります。補正のため
には、
NdとNbの両方を取得する必要があります。
NdやNb
は1回の読み出しデータから取得できますが、外乱ノイズ
素子温度
の影響を除くためには数回から10回程度、画像を取得し
図1-69は当社製評価回路を用いてS11155-2048-01を動作
て平均化すれば、
より精度の高い補正画像データが得ら
させたときの素子温度と動作時間の関係を示した測定例で
れます。
す (回路系は密閉されており、
放熱対策が施されていない状
態)。
高速動作させた場合は、
素子温度の上昇が顕著になり
(2) フラットフィールド補正
ます。
素子温度の上昇は暗電流の増加を招くため、
放熱器
「1-2 特性/感度不均一性」
で示したように、CCDの感
の取り付けや送風などの放熱対策を行うことを推奨します。
度は各画素で均一でないため、
暗電流と同様に画素単位
で補正する必要があります。
ある露光条件での補正され
[図1-69] 素子温度−動作時間
(S11155-2048-01, 当社製評価回路を使用, 代表例)
ていない出力 I(x, y)は、
式 (17)で表されます。
I(x, y) = Nt(x, y, t, T) + i(x, y) × r(x, y) ……… (17)
i (x, y): 元画像の出力
r(x, y): 各画素の感度
元画像の出力 i(x, y)を得るためには、
暗電流 (Nt)とと
もにr(x, y)を知る必要があります。通常は、CCDに非常に
均一な光を入射して、
そのときの出力を取ることで r(x, y)
が得られますが、均一な光を入射することは困難です。
ま
た、CCDの受光部上の位置によって波長ごとの感度が異
なることがあります。1%以下の精度で補正するためには、
光学系や温度などに注意して補正データを取得する必要
があります。r(x, y)は、1回の読み出しデータでも取得でき
KMPDC0382JA
130
1. CCDイメージセンサ
ますが、外乱ノイズの影響を除くためには、数回から10回
子間の位置に置き換えます (これが発生するには約100
程度、画像を取得して平均化すれば、
より精度の高い校
eVのエネルギーが必要です)。置き換えられたSi原子は、
正データが得られます。
他のSi原子と衝突してさらに多くの原子を置き換えます。
これにより生じた欠陥は、電子のトラップとして働きます。
CCDの電荷転送チャンネル内に多くのトラップが作られる
FOSとのカップリング
と、電荷転送効率 (CTE)が劣化します。生成された欠陥
表面入射型CCDにFOS (Fiber Optic plate with
Scintillator)をカップリングして数十keV以上のX線を検出
することができます。
詳細は
「9章 X線検出器/3. CCDエリ
は、
暗電流の大きい画素となります。
[図1-71] X線による損傷 (S9970-0907)
アイメージセンサ」
を参照してください。
放射線損傷
Siを使った他のデバイスと同じように、CCDも放射線に
よってイオン損傷とバルク (bulk)損傷を生じます。
CCDをX
線検出に使用したり、
宇宙環境で用いる場合には、
放射線
損傷についてあらかじめ考慮しておく必要があります。
章
5
[図1-70] 放射線によるCCDへの影響
イメージセンサ
KMPDB0243JA
放熱
(1) 放熱器の選択
電子冷却型CCDを使用する場合には、
十分な放熱能力
をもった放熱器を選択する必要があります。
[図1-72] 1段電子冷却素子の温度特性
(S7031-1006S/-1007S, CCD未駆動)
KMPDC0206JA
イオン損傷は、
あるレベル以上のエネルギー (おおむ
ね紫外線よりエネルギーが高い場合)のフォトンが入射し
ゲート酸化膜内で電子−正孔対が生成されたときに発生
します。
フォトンにより発生した電子−正孔対のほとんどは
再結合して消滅しますが、電子に比べて移動度の小さな
正孔の一部は酸化膜中でトラップされ、
CCDの動作ゲート
電圧をシフトさせるような電圧を発生させます。
これによっ
てCCDのピンニング電圧がより負側に移動します (シフト
量が数Vになる場合もあります)。高エネルギーの電子あ
るいはフォトンが入射すると、
イオン損傷とバルク損傷を引
き起こします。一方、陽子や中性子のような重粒子も、
ゲー
ト絶縁膜中で電荷を発生させます。電子やフォトンは、酸
KMPDB0179JA
化膜界面において新たな界面準位を発生させます。
その
界面準位のエネルギーレベルはバンドギャップ中にあるた
め、
暗電流が増加することになります。
バルク損傷は、陽子のようなエネルギーを帯びた荷電
粒子がSi原子と相互作用するときに発生します。
陽子に十
分なエネルギーがあると、Si原子を格子状の位置から格
131
[図1-73] 2段電子冷却素子の温度特性
(S7032-1007, CCD未駆動)
[図1-74] 放熱器への取り付け方法
KMIRC0023JA
[図1-75] 基板への取り付け方法
KMPDB0384JA
(2) 装置の設計
章
5
放熱器で発生した熱が十分放熱されるように装置を設
計する必要があります。
エアファンや通気ダクトを配置した
イメージセンサ
通風のある設計を行ってください。
(3) 放熱器の取り付け方法
冷却能力を十分に発揮させるためには、製品と放熱器
(4) 電子冷却素子への供給電流
電子冷却素子を保護し安定した動作を維持するため
に、電子冷却素子への供給電流はデータシートに定めら
れた最大電流の60%以下に設定してください。
を正しく接着する必要があります。以下の点に注意して放
熱器を取り付けてください。
静電気/サージ対策
・ 製品の放熱面と放熱器の接着面がきれいで平坦である
ことを確認してください。
・ 電子冷却素子による冷却時の放熱が不十分な場合、素
子温度が高くなり製品に物理的な損傷を与える可能性
があります。冷却時には十分な放熱を行ってください。
放熱方法としては、製品と放熱器の間に熱伝導性の高
い材料 (例: 富士高分子工業社製放熱シリコーンゲル
GR-d、
東レ・ダウコーニング社製放熱シリコーン SE 4490
CV、住友スリーエム社製熱伝導シート 5580Hなど)を挟
むことを推奨します。
これらの熱伝導材を使用する場合、
製品と放熱器の接合部の全面に均一な厚さで塗布して
ください。
また、
マイカなどを使用する場合にも、パッケー
ジ放熱面の全面が接触するようにしてください。
もし、
ネ
ジ止め位置までマイカの寸法がないままネジ止めした
場合、冷却効果が下がるだけでなく、
ベースがそり、
セン
サとベースの間でクラックが発生することがあります [図
1-74]。
・製品を基板などに挿入する際、
受光窓を絶対に押さない
CCDは、静電気やサージにより破壊もしくは劣化する危
険性がありますので、
以下の点に十分注意してください。
(1) 取扱上の注意
CCDを梱包ケースから取り出す際は、静電気対策をし
た場所にて行います。
作業台・床は、
導電性シート (1 MΩ
∼100 MΩ)を敷いて接地してください。
CCDを取り扱う作業者は、
必ずリストバンドを装着し、
静電
気防止対策のされた作業服・手袋・靴などを着用してくださ
い。
リストバンドは、
必ず人体側に保護抵抗 (1 MΩ程度)入
りのものを使用し、接地してください。
保護抵抗がない場合
は、
漏電によって感電する恐れがあり、
非常に危険です。
はんだごては、
漏洩電圧が加わらないように必ず接地す
る必要があります。
CCDに帯電物 (プラスチック、
ビニールなどの絶縁物、
PCのVDTなど)を近づけないでください。近づけるだけで
CCDが帯電し、
放電破壊を起こす危険性があります。
でください。受光窓にひび・割れが生じたり脱落する可能
(2) 使用上の注意
性があり、
故障の原因となります [図1-75]。
測定器や治工具などは、必ずアースに接続して、漏洩
・ 放熱器に製品をネジ止めする場合、
トルクは0.3 N・m以
電圧によりサージが加わらないようにしてください。CCDに
下に設定し、製品に均等な応力がかかるように2箇所の
は、測定器などから絶対最大定格を超えた電圧が加わら
ネジを交互に締めてください。
ないようにしてください (特に電源のオン・オフ時に起こり
やすいので注意する必要があります)。
サージが加わる恐
132
1. CCDイメージセンサ
れのある場合は、
フィルタ (抵抗・コンデンサで構成)を入
[図1-76] 部分薄型CCDの構造
れて保護してください。
CCDの逆挿入・誤挿入・端子間ショートをしないように
十分注意してください。
動作中は、電源ラインや出力ラインに接続されているコ
ネクタなどを付けたり外したりしないでください。
KMPDC0458JA
(3) 運搬上の注意
[図1-77] 全面薄型CCDの構造
CCDは、導電性のマットに挿して (リードを短絡)、導電
性の容器に入れて運搬してください。
実装基板は、
導電性
の容器に入れて運搬してください。
プラスチック・発泡スチ
ロールなどにCCDを入れて運搬すると、振動などで静電
気が発生し、
劣化もしくは破壊の原因となります。
(4) 保管上の注意
KMPDC0459JA
CCDは、導電性のマットに挿して (リードを短絡)、導電
(2) TDI-CMOS CCD
の容器に入れて保管してください。
TDI-CMOS CCDは、
高速撮像時において低照度下でも
高電圧・高電磁界を発生する機器の近くにCCDを置か
高S/Nの画像が得られるTDI-CCDの特長と、
デジタル出力
5
イメージセンサ
ないでください。
章
性の容器に入れて保管してください。
実装基板は、
導電性
(A/D変換器をチップに内蔵)・低電圧駆動というCMOSセ
ンサの特長を融合させたイメージセンサです。
信号電荷は
以上のような静電気/サージ対策は、必ずしもすべて
TDI動作により電荷の状態で蓄積・転送され、
各列に設け
実施しなければならないということではありませんが、
劣化
た読み出しアンプで電圧に変換した後、
オンチップの信号
もしくは破壊の発生状況に応じて実施してください。
処理回路とA/D変換器によりデジタル信号に変換して出力
されます。
1-4
新たな取り組み
(3) 紫外線照射による感度劣化を抑えた裏面入射型CCD
製造方法・センサ構造を工夫することにより、紫外域に
当社は、
これまでに蓄積した技術に加え新しい技術を
高い感度をもち、紫外線照射時に問題となる感度劣化の
応用して、
新たなCCDを開発しています。
少ない裏面入射型CCDを開発しています。
(1) 全面薄型CCD
当社の裏面入射型CCDは、一部の近赤外高感度タイ
プを除き、部分薄型と呼ばれる、Siを部分的に薄くした構
造です。部分薄型CCDは、受光部のSi厚が10∼30 µm程
度のため大面積化は困難です。
また、
薄いSiを支えるため
に、厚いSiでその周囲を取り囲む必要があるため、受光部
表面における遮光部の形成やFOPなどの実装が難しくな
ります。
このような問題を解決するために、
当社では全面薄型
CCDの開発を行っています。
全面薄型構造にするために、
ウエハにサポート基板を貼り付けた後、
ウエハ全面を薄く
します。電極については、
サポート基板側に貫通電極を設
けます。
全面薄型構造を採用することにより、
チップの強度
が高まり、大面積化が可能となるとともに、受光部表面へ
の遮光部の形成やFOPなどの実装が容易となります。
133
2.
ています。
アドレススイッチは、
フォトダイオードをソース、
シフ
NMOS
リニアイメージセンサ
トレジスタからのアドレスパルスをゲート、
ビデオライン (共
通出力線)をドレインとするMOSスイッチで形成されていま
す。
電流出力タイプNMOSリニアイメージセンサ (S3901∼
NMOSリニアイメージセンサは、
マルチチャンネル分光
光度計用の検出器として設計された自己走査型フォトダイ
S3904シリーズ)の等価回路を図2-1に示します。
[図2-1] 等価回路 (S3901∼S3904シリーズ)
オードアレイです。走査回路は、NチャンネルMOSトランジ
スタで構成され、
低消費電力の駆動が可能なため、
取り扱
いが容易です。各フォトダイオードの受光面積が大きく紫
外感度が高い上、
ノイズが極めて小さいため微弱な入射
光に対してもS/Nの高い信号が得られます。
なお、電流出
力タイプのNMOSリニアイメージセンサは、優れた出力直
線性、
広いダイナミックレンジを実現しています。
特長
2-1
章
5
KMPDC0020JA
・広い受光面
2-3
動作原理
イメージセンサ
・紫外感度が高く、紫外線照射に対して特性が安定している
フォトダイオードは、
アドレススイッチがオン状態になった
・低暗電流、大飽和電荷量
ときに外部から一定の電位に初期化されます。光が入射
常温で長い蓄積時間と広いダイナミックレンジが得られ
すると、
フォトダイオードには入射光量に比例した光電流
ます。
が流れ、
光電流 (IL)と蓄積時間 (Ts)の積で表される電荷
(Qout = IL × Ts)がフォトダイオードの接合容量 (Cj)に蓄
・優れた出力直線性と感度均一性
・低消費電力
チがオンになってから、次にオンになるまでの時間であり、
・ スタートパルス、クロックパルスは、CMOSロジックコ
シフトレジスタに加えるスタートパルス間隔に相当します。
積されます。
蓄積時間は、
フォトダイオードのアドレススイッ
ンパチブル
このようなフォトダイオードの動作を電荷蓄積モードと呼
び、
電荷を蓄積することで、
画素サイズの小さいイメージセ
・赤外高感度タイプ: 赤外域・軟X線域で高感度
ンサでも大きな信号を得ることができます。微弱光検出の
・電子冷却型: サファイア窓を溶接した信頼性の高い
際は、蓄積時間を長くすることにより、大きな出力を得るこ
パッケージ
とができます。
シフトレジスタにクロックパルス列を加えた状態でスター
トパルスを入力すると、
シフトレジスタが走査を開始しま
構造
2-2
す。
クロックパルスに同期して、
まず1画素目のフォトダイ
NMOSリニアイメージセンサは、光電変換と電荷蓄積を
オードに接続されたアドレススイッチがオン状態となり、1
兼ねたフォトダイオードアレイ、
各フォトダイオードに接続さ
画素目のフォトダイオードに蓄積された電荷がビデオライ
れたアドレススイッチ、
デジタルシフトレジスタから構成され
ンから外部に出力されます。次に1画素目のアドレスパル
スがオフ状態、2画素目のアドレスパルスがオン状態にな
[表2-1] 浜松ホトニクスのNMOSリニアイメージセンサ (電流出力タイプ)
タイプ
型名
S3901シリーズ
標準タイプ
S3904シリーズ
S3902シリーズ
S3903シリーズ
赤外高感度タイプ
S8380シリーズ
S8381シリーズ
画素高さ
(mm)
2.5
0.5
2.5
注) 電流積分回路を内蔵した電圧出力タイプ、微弱光検出用の電子冷却型も用意しています。
134
画素ピッチ
(µm)
画素数
50
128, 256, 512, 1024
25
256, 512, 1024, 2048
50
128, 256, 512
25
256, 512, 1024
50
128, 256, 512
25
256, 512, 1024
2. NMOSリニアイメージセンサ
り、2画素目のフォトダイオードに蓄積された電荷が同様に
分光感度特性
外部に読み出されます。
この動作を最終画素まで順次繰
り返すことにより、1次元に配置されたフォトダイオードアレ
図2-3にNMOSリニアイメージセンサの標準タイプと赤外
イに照射された光の位置情報は、時間差をもった時系列
高感度タイプの分光感度特性を示します。
どちらのタイプ
信号として外部に読み出されます。
も200 nmから1000 nmまで感度をもっています。
最小の蓄積時間は、1画素の読み出し時間と画素数の
感度は温度に対して直線的に変化します。最大感度波
積になります。NMOSリニアイメージセンサは、
アドレスス
長以下では、
ほとんど温度依存性がなく安定しています。
イッチのオン/オフ動作がフォトダイオードの蓄積時間を
長波長域ほど温度依存性は大きくなり、
1000 nmの温度係
決定し、
そのタイミングはフォトダイオードごとにずれていま
数は約0.7%/̊Cです。
す。
したがって蓄積時間は全画素で同じでも、
蓄積開始/
NMOSリニアイメージセンサは、紫外線による感度劣化
終了時刻は画素ごとに異なります。
なお、最終画素までの
を防ぐ構造を採用しているため、
安定した紫外線計測を行
走査が完了しないうちに、
次のスタートパルスを入れること
うことができます。
はできません。
[図2-3] 分光感度特性 (代表例)
2-4
特性
章
入出力特性
5
イメージセンサ
図2-2に電流出力タイプN M O Sリニアイメージセンサ
(S3901/S3904シリーズ)の入出力特性を示します。横軸は
入射光量と蓄積時間の積である露光量です。
フォトダイ
オードは、
接合容量 × バイアス電圧以上の電荷を蓄積で
きず、
出力電荷量には上限が存在します。
出力電荷量の
上限を飽和電荷量といい、
そのときの露光量を飽和露光
量と呼びます。
KMPDB0161JA
過飽和状態では、過剰電荷はフォトダイオードに接続さ
れているオーバーフロードレインに流れるため、
過剰電荷が
他の画素に影響を与えることはありません。
チャージアンプ
感度不均一性
で読み出しを行う場合、
γ=1の理想直線に対する実際の
出力の差は1%以下であり、
良好な入出力特性を示します。
イメージセンサには多数のフォトダイオードが配列され
ていますが、
それぞれのフォトダイオードの感度には違い
[図2-2] 出力電荷量ー露光量 (S3901/S3904シリーズ)
があります。
これはSi基板内の結晶欠陥や製造工程に
おける加工や拡散のバラツキによって生じるものです。
NMOSリニアイメージセンサでは、
タングステンランプの均
一光を入射したときの全画素の出力バラツキを感度不均
一性 (PRNU: Photoresponse Nonuniformity)として式 (1)
のように定義しています。
PRNU = (ΔX/Xave) × 100 [%] ………… (1)
Xave: 全画素の出力の平均値
ΔX : 画素の出力の最大値または最小値とXaveとの差
当社のNMOSリニアイメージセンサのPRNUは、最大
±3%で規定しています。
KMPDB0042JB
暗出力
暗出力は、光が照射されていないときの出力です。暗出
力は、
フォトダイオードの表面や空乏層内における再結合
電流によって生じます。暗出力の値は画素ごとに異なりま
135
すが、固定パターンのため、暗状態と明状態の2つのデー
[図2-4] 推奨ブロック図 (外部電流積分方式)
タを取り、
ソフトウェア上で差を取ることによって暗出力成
分を取り除くことができます。暗出力は温度依存性をもち、
NMOSリニアイメージセンサの場合、
温度が5 ̊C上昇する
ごとに約2倍になります。長時間露光を行う場合は暗出力
が増加しますが、
センサを冷却することによって暗出力を
減らすことができます。
ノイズとダイナミックレンジ
ノイズは、時間的にランダムな出力の揺らぎで、微弱光
領域での検出限界を決定します。
ノイズには、
フォトダイ
KACCC0149JA
オードの暗電流のショットノイズ、入射光のショットノイズ、
チャージアンプのリセットノイズ、
アンプノイズなどがありま
[図2-5] タイミングチャート
す。
チャージアンプのリセットノイズは、
クランプ回路によっ
て低減することができます。
NMOSリニアイメージセンサで
はアンプノイズが支配的で、
ビデオライン容量が大きいほ
章
5
イメージセンサ
どノイズ量が大きくなります。
ノイズは出力の標準偏差で定
義しており、
S3901-128Qの場合、
電子数で3000 e- rms、
電
KMPDC0024JA
荷量で0.5 fC rmsです。
ダイナミックレンジを上限の飽和電
荷量と、下限のノイズの比で定義する場合、S3901-128Q
フォトダイオードに接続されたアドレススイッチがオンに
の飽和電荷量は50 pC、
ノイズは0.5 fCのため、
ダイナミック
なる直前に、
チャージアンプのフィードバック容量をリセット
レンジは105となります。
ノイズを小さくするには、信号処理
パルスによって放電させます。
アドレススイッチがオンにな
回路にローパスフィルタを入れた上で低速読み出しを行う
ると、
フォトダイオードに蓄積された電荷がフィードバック
ことと、10回以上取り込んだデータの平均を取ることが有
容量に蓄積されます。
チャージアンプの出力電圧 (Vout)、
効です。
フォトダイオードの蓄積電荷量 (Qout)、
フィードバック容量
(Cf)の関係は式 (2)で表されます。
2-5
使い方
NMOSリニアイメージセンサの外部駆動回路は、入力ク
Vout = Qout/Cf ………… (2)
フィードバック容量には、10 pF程度の容量を用います。
ロックパルスを発生させるデジタル回路部と出力電荷を電
チャージアンプの後段にはクランプ回路を接続します。
クラ
圧信号に変換するアナログ回路部に分けられます。
デジタ
ンプ回路では、
フィードバック容量のリセット直後の期間に
ル回路部は、
クロック発振回路とタイミング制御回路で構成
出力をグランドに固定します。
これによって、
フィードバック
されます。
クロックパルス信号は、
CMOSロジックレベルで入
容量をリセットする際に生じるノイズ成分を大幅に低減さ
力します。
アナログ回路部は、
出力処理回路と増幅回路で
せます。
構成されます。
通常、
出力処理回路にはチャージアンプによ
る電荷積分回路が用いられます。
この方式には、
信号検出
駆動回路を作成する際の注意点
精度が高いことと信号処理しやすいボックスカー波形が得
られるという利点があります。図2-4に外部電流積分方式
の推奨ブロック図、
図2-5にタイミングチャートを示します。
・アナログ回路部とデジタル回路部のグランドを分離してく
ださい。
・ビデオ出力端子からアンプ入力端子までを最短で配線
してください。
・アナログ/デジタル信号の交差をできるだけ避けてくだ
さい。
・電圧変動の小さいシリーズ電源を使用してください。
136
2. NMOSリニアイメージセンサ 3. CMOSリニアイメージセンサ
3.
CMOSリニアイメージセンサ
3-2
動作原理、特性
当社のCMOSリニアイメージセンサの中から5タイプを紹
CMOSプロセスでは、NMOSプロセスと異なりデジタル
回路・アナログ回路をチップ内に形成することができます。
介します。
CMOSリニアイメージセンサは、
イメージセンサチップ上に
標準タイプ S8377/S8378シリーズ
信号処理回路・タイミング制御回路などを搭載したセンサ
で、外部駆動回路を簡略化できるという利点があります。
また、外部回路での構成が難しい機能をセンサ内部に取
り入れて、
イメージセンサを高機能化することができます。
A/D変換器をチップ上に搭載すれば、
ビデオデータをデジ
S8377/S8378シリーズは、
NMOSリニアイメージセンサの
外部回路部をチップ内に搭載したCMOSリニアイメージセ
ンサです。図3-1にブロック図を示します。NMOSリニアイ
メージセンサと同様にフォトダイオード、
アドレススイッチ、
シ
タル信号として出力することができます。特注品にも対応
フトレジスタの構成になっています。入力側にタイミング発
していますので、
お気軽にご用命ください。
生回路、
出力側に読み出し回路としてチャージアンプ、
クラ
ンプ回路による信号処理回路が形成されています。
3-1
特長
[図3-1] ブロック図 (S8377/S8378シリーズ)
章
仕様に合わせた信号処理回路をチップに内蔵すること
5
によって、
以下のような特長のある機能をセンサにもたせる
イメージセンサ
ことができます。
これによって光検出システムの小型化・高
性能化が可能となります。
・高速応答
・高ゲイン
・低ノイズ
・デジタル出力方式 (A/D変換器を搭載)
・低電圧駆動 (3.3 V駆動)
KMPDC0150JC
S8377/S8378シリーズは、5 V単一電源、
グランド、
クロッ
クパルス、
スタートパルスだけで動作します。
シフトレジス
タ、
チャージアンプ、
クランプ回路を動作させるために必要
なパルスは、すべてタイミング発生回路で作られます。
出
[表3-1] 浜松ホトニクスのCMOSリニアイメージセンサ
タイプ
PPS (Passive Pixel Sensor)
APS
(Active Pixel Sensor)
小型
高感度
高速
デジタル出力
電流出力
*
型名
画素数
画素高さ
(µm)
画素ピッチ
(µm)
ビデオデータレート
max. (MHz)
S9226シリーズ*
1024
125
7.8
0.2
S8377シリーズ
128, 256, 512
S8378シリーズ
256, 512, 1024
500
S9227シリーズ*
512
250
S10453シリーズ
50
25
12.5
512, 1024
500
25
S11106
64
127
127
S11107
128
63.5
63.5
S11108
S11638
2048
14
42
0.5
5
10
14
10
S11105
512
250
12.5
50
S10077
1024
50
14
1
S10111シリーズ
128, 256, 512
S10114シリーズ
256, 512, 1024
S10112シリーズ
128, 256, 512
S10113シリーズ
256, 512, 1024
2500
500
50
25
50
25
0.25
0.5
表面実装型の小型プラスチックパッケージタイプも用意しています。
137
力信号として、
ボックスカー波形によるアナログビデオ出力
ることにより、
チャージアンプの出力は、全画素同時に各画
とエンドオブスキャン (走査終了)パルスが出力されます。
素のホールド回路に保持されます。
チャージアンプのリセッ
ゲイン選択端子入力電圧によって、
チャージアンプのフィー
トスイッチがオフになってからホールドパルスが入るまで
ドバック容量を切り替えて、
電荷−電圧変換ゲインを2段階
の間が、
蓄積時間となります。
このように蓄積の開始・終了
に変えることができます。
は全画素同時に行われます。
その後、
シフトレジスタからの
最大感度波長は500 nmで、
NMOSリニアイメージセンサ
アドレスパルスがホールド回路の後段のスイッチに入力さ
より短波長側にシフトしています。
5 V単一電源で動作させ
れ、
ホールド回路に保持された出力信号が時系列信号と
るため、
±15 V電源で駆動するNMOSリニアイメージセンサ
して順次ビデオ出力端子から出力されます。
フォトダイオー
に比べるとダイナミックレンジは狭いですが、
リニアリティ精
ドの蓄積動作とホールド回路からの信号読み出し動作は
度や暗出力特性などの基本特性は、
NMOSリニアイメージ
別の回路部で行われるため、
ビデオ出力を読み出している
センサとほとんど違いはありません。
また外部駆動回路が
期間にもフォトダイオードとチャージアンプは次の蓄積を始
簡略化できるため、
小型計測システムに適しています。
めることができます。
S8377/S8378シリーズには、
ピッチや画素数が異なる6
種類が用意されています。
また、
同じブロック構成で7.8 µm
[図3-2] ブロック図 (S11105シリーズ)
ピッチ、
受光部高さ 0.125 mm、
1024画素のS9226シリーズ
も用意しています。
S8377/S8378シリーズは、
最終段の1個のチャージアンプ
章
5
で読み出しを行うため、1画素を読み出すごとにチャージ
イメージセンサ
アンプをリセットする必要があります。
なおS8377/S8378シ
リーズのビデオデータレートは500 kHz max.です。
KMPDC0312JA
高速タイプ S11105シリーズ
[図3-3] 等価回路 (S11105シリーズの高速読み出し回路)
S11105シリーズは、高速読み出し用の同時蓄積機能を
もったCMOSリニアイメージセンサです。従来の高速タイ
プ (S10453シリーズ)がビデオデータレート 10 MHz max.で
あったのに対して、
ビデオデータレート 50 MHz max.を実現
しました。
受光部は12.5 µmピッチ、
高さ 0.25 mmで512画素
が配置されています。
NMOSリニアイメージセンサ、
CMOSリ
ニアイメージセンサ S8377/S8378シリーズでは各画素の蓄
KMPDC0462JA
積開始/終了時刻にはズレが生じますが、
S11105シリーズ
では内蔵のCMOS信号処理回路によって、
同時蓄積機能
S11105シリーズでは、
ビデオデータレートを高速化する
と蓄積時間可変機能 (シャッタ機能)をもっており、
全画素
ため、
ピークホールド回路を使った高速読み出し回路を採
で同時に蓄積開始/終了することが可能です。
用しています [図3-3]。
信号成分とリセット成分が差動回路
S11105シリーズは、
CMOSアンプアレイによって電荷−電
に入り、信号成分のみが出力されてピークホールド回路に
圧変換を行います。変換ゲインは、
チャージアンプのフィー
入り、信号成分のピーク値で出力波形をホールドします。
ドバック容量によって決まります。
フィードバック容量を0.1
通常の回路のように1画素の信号を読み出すごとにリセッ
pFと小さい値に設定しているため、高い出力電圧を得るこ
ト動作を行う必要がないため、信号変動が小さくなり高速
とができます。
読み出しが可能です。図3-4にオシロスコープで表示した
フォトダイオードには、画素ごとにチャージアンプが接続
ビデオ出力波形を示します。
されています。
フォトダイオードとチャージアンプの間にス
イッチはなく、
フォトダイオードは電流源として働くため、
フォ
トダイオードには電荷は蓄積されず、信号電荷はチャージ
アンプのフィードバック容量に蓄積されます。蓄積時間中
には、入射光量に比例してチャージアンプの出力電圧が
変化します。
チャージアンプの後段には、画素ごとにホー
ルド回路が接続されています。
チャージアンプのリセット動
作は、全画素同時に行われます。
チャージアンプのリセット
が行われる直前にホールド回路にホールドパルスを入れ
138
[図3-4] ビデオ出力波形 (S11105シリーズ)
3. CMOSリニアイメージセンサ
[図3-5] タイミングチャート (S11105シリーズ)
KMPDC0463JA
S11105シリーズへの入力パルスは、
クロックパルスとス
(b)1∼32画素のすべてを読み出す場合
タートパルスの2種類です。
チャージアンプのリセットパルス、
ホールド回路へのホールドパルス、
シフトレジスタへのスター
トパルスは、
すべて内蔵のタイミング発生回路で作成されま
す。
スタートパルスをHighからLowにすることで、
タイミング発
生回路が初期化され、
各種制御パルスを順次発生します。
章
まずホールドパルスが発生し、
チャージアンプの出力がホー
5
ルド回路に保持されます。次にチャージアンプのリセットパ
イメージセンサ
ルスがオン状態になり、
チャージアンプがリセット状態に入り
ます。
チャージアンプがリセット状態になると、
信号電荷の蓄
積動作は行われません。
その後、
シフトレジスタのスタートパ
ルスが入り、
ビデオ出力信号が1画素目から順次時系列信
号として読み出されます。
チャージアンプのリセットパルスの
オフ状態への変化、
つまり蓄積の開始動作は、
スタートパル
KMPDC0408JA
従来品 S10453シリーズのパッケージはDIPタイプのみで
したが、
S11105シリーズではDIPタイプ (S11105)と表面実
装型 (S11105-01)の2種類を用意しています。
スのLowからHighへの変化によって決定します。
再びスター
トパルスがHighからLowに変化すると、
前述のようにタイミン
グ発生回路が初期化され、1周期の動作が終了します。厳
密には、
蓄積の開始はスタートパルスのLowからHighへの
変化の0.5クロック後、
蓄積の終了はスタートパルスのHighか
らLowへの変化の0.5クロック後に行われます。
したがって蓄
積時間は、
スタートパルスのHigh期間と等しくなります。
1周
期の長さを固定した場合、
スタートパルスのHighとLowの比
率を変えることで、
蓄積時間を変化させることができます。
S11105シリーズは、
512画素をすべて読み出すことに加え
て、1画素目からたとえば32画素目までの32画素を読み出
すことができます [図3-6]。
ラインレートは、
512画素を読み
デジタル出力タイプ S10077
S10077は、低消費電力で同時蓄積機能とA/D変換器
を内蔵したCMOSリニアイメージセンサです。
デジタル出
力で、8ビットと10ビットを切り替えることができます。
ビデオ
データレートは1 MHz max.、
電源電圧は3.3 V単一が可能
で消費電力は30 mWです。
14 µmピッチ、
受光部高さ 0.05
mmで1024画素が配置されています。内蔵のCMOS信号
処理回路によって、同時蓄積機能と蓄積時間可変機能
(シャッタ機能)をもっています。
[図3-7] ブロック図 (S10077)
出す場合 88.65 kHz、
32画素の場合は595 kHzになります。
[図3-6] 動作例
(a)512画素のすべてを読み出す場合
KMPDC0293JA
KMPDC0407JA
139
[図3-8] 等価回路 (S10077)
分の和になります。1周期の中でスタートパルスのHighと
Lowの比率を変えることで、蓄積時間を変化させることが
できます。
[図3-9] タイミングチャート (S10077, 10ビットモード)
(a) スタート画素付近
KMPDC0292JA
S10077では、
フォトダイオードに蓄積された信号電荷を
ホールド回路に転送し、
アドレススイッチを介して読み出し
回路からA/D変換器にアナログ電圧を送ります。A/D変換
器でデジタルデータに変換されてMSB (Most Significant
Bit: 最上位ビット)からシリアル出力されます。読み出し回
路用チャージアンプのフィードバック容量を0.05 pFと小さ
い値に設定しているため、受光面サイズが小さくても高い
出力電圧を得ることができます。
フォトダイオードには、画
素ごとにスイッチとホールド回路が接続されています。蓄
章
5
積時間中には、入射光量に比例したフォトダイオードの信
号電荷をホールド回路に転送して保持します。
フォトダイ
イメージセンサ
オードのリセット動作は、全画素同時に行われます。
フォト
(b) 最終画素付近
ダイオードのリセットスイッチがオフになってからホールド
パルスがオンになり、
オフになるまでの間が蓄積時間となり
ます。
その後、
シフトレジスタからのアドレスパルスがホール
ド回路に入力され、
保持された出力信号が時系列信号とし
て順次ビデオ出力端子から出力されます。
フォトダイオード
の蓄積動作とホールド回路からの信号読み出し動作は別
の回路で行われるため、
ビデオ出力を読み出している期間
にもフォトダイオードは次の蓄積を始めることができます。
S10077への入力パルスは、
クロックパルスとスタートパル
スの2種類です。
フォトダイオードへのリセットパルス、
ホー
ルド回路へのホールドパルス、
シフトレジスタへのスタート
パルスは、
すべて内蔵のタイミング発生回路で作成されま
す。
スタートパルスをHighからLowにすることで、
タイミング
発生回路は初期化され、各種制御パルスを順次発生しま
す。
まずホールドパルスを発生し、
フォトダイオードに蓄積
された電荷がホールド回路に保持されます。次にフォトダ
イオードのリセットパルスがオン状態になり、
フォトダイオー
ドがリセット状態に入ります。
フォトダイオードがリセット状
態になると、信号電荷の蓄積動作は行われません。
それ
からスタートパルスがシフトレジスタに入り、
ビデオ出力信
号が1画素目から順次時系列信号として読み出されます。
フォトダイオードのリセットパルスのオフ状態への変化、
つ
KMPDC0226EA
S10077の解像度をコントラスト伝達関数で示します。
解像度は、入射パターンをどれだけ細かく出力に再現で
きるかを示す度合いのことです。
イメージセンサの受光部
はフォトダイオードが規則的に並んでいるため、図3-10に
示すような間隔の異なる白黒の繰り返しパターン像を入
射すると、入射パターンのパルス幅が狭くなるほど白黒の
出力差が小さくなります。
この場合、
コントラスト伝達関数
(CTF: Contrast Transfer Function)は、式 (1)で定義さ
れます。
CTF =
まり蓄積の開始動作は、
スタートパルスのLowからHighへ
の変化のタイミングに行われます。再びスタートパルスが
HighからLowに変化すると、前述のようにタイミング発生
回路が初期化され、1周期の動作が終了します。厳密に
は、
蓄積の開始はスタートパルスのLowからHighへの変化
の0.5クロック後、蓄積の終了はスタートパルスのHighから
Lowへの変化の7.5クロック後に行われます。
したがって蓄
積時間は、
スタートパルスのHigh期間とクロックパルス7つ
140
VWO:
VBO :
VW :
VB :
VWO - VBO
……… (1)
VW - VB
出力の白レベル
出力の黒レベル
出力の白レベル (入射パターンのパルス幅が広い場合)
出力の黒レベル (入射パターンのパルス幅が広い場合)
3. CMOSリニアイメージセンサ
[図3-10] コントラスト伝達関数特性
[図3-12] 概念図 (CMOSリニアイメージセンサ)
(a) PPSタイプ
KMPDC0070JA
入射パターンの白黒の間隔の細かさは、入射像の空間
周波数で与えられます。
空間周波数は、
単位長さ当たりの
繰り返しパターンの数です。
この空間周波数が高いほど、
入射パターンが細かくなりコントラスト伝達関数は低下し
KMPDC0464JA
(b) APSタイプ
ます。
S10077のコントラスト伝達関数の測定例を図3-11に
示します。
[図3-11] コントラスト伝達関数−空間周波数
(S10077, 代表例)
章
5
イメージセンサ
KMPDC0465JA
KMPDB0291JA
[図3-13] 受光部の構造
高感度タイプ S11108
(a) 表面型フォトダイオード
S11108は、
画素サイズ 14 × 14 µm、
2048画素の高感度
タイプCMOSリニアイメージセンサです。電源電圧 5 Vと2
種類の駆動用パルス信号を入れるだけで動作させること
ができるため、
取り扱いが容易です。
S11108は、
バーコードリーダやエンコーダなどの民生・産
業用として、
従来品に比べて画素サイズを小さく、
画素数を
多くし、
高感度・高速応答を実現しています。
最終段アンプ
にて電荷−電圧変換を行う従来からのPPS (Passive Pixel
KMPDC0466JA
Sensor)タイプに対して、
S11108は画素ごとにもつアンプに
て電荷−電圧変換を行うAPS (Active Pixel Sensor)タイプ
で、
電荷−電圧変換効率を高くして高感度を実現していま
す。
また、
受光部で発生した電荷の変換効率を上げるため
に電荷−電圧変換部において、
その電荷蓄積容量を小さく
しました。受光部には、従来からの表面型フォトダイオード
構造に対して、
暗電流や暗状態のショットノイズを小さくす
るために埋め込み型フォトダイオード構造を採用しました。
141
(b) 埋め込み型フォトダイオード
[図3-16] 等価回路 (S10111∼S10114シリーズ)
KMPDC0467JA
KMPDC0279JB
[図3-14] 分光感度特性 (S11108, 代表例)
S10111∼S10114シリーズの構造はNMOSリニアイメー
ジセンサ S3901∼S3904シリーズとほぼ同じですが、読み
出し制御機能付シフトレジスタを採用している点が異なり
ます。S10111∼S10114シリーズは、INTパルスにより、
シフ
トレジスタの出力を制御することができます。
D型フリップフ
章
5
ロップの出力とINTパルスがNORゲートに入力されます。
イメージセンサ
NORゲートの出力は、
アドレススイッチのゲートと接続され
ています。
読み出しを行う場合は、
D型フリップフロップから
の出力信号と外部からのINTパルスをともにLowレベルに
する必要があります。
D型フリップフロップにクロックパルスを入力した状態で
スタートパルスを入力すると、
D型フリップフロップが動作を
KMPDB0308JB
開始します。
D型フリップフロップはクロックパルスの立ち下
がりに同期して、1画素目から順番にLowレベルのロジック
電流出力タイプ S10111∼S10114シリーズ
信号を出力します。読み出す画素のINTパルスもLowレベ
ルにし、
読み出さない画素のINTパルスはHighレベルにし
S10111∼S10114シリーズは、
光電変換と電荷蓄積を兼
ます。
このようにINTパルスを制御することで、読み出した
ねたフォトダイオードアレイ、
各フォトダイオードに接続され
い画素だけを選択して読み出すことが可能となります。
こ
たアドレススイッチアレイ、読み出し制御機能付シフトレジ
れにより、
蓄積時間を画素ごとに変更することができます。
スタなどから構成された電流出力タイプのCMOSリニアイ
蓄積時間可変機能についてのタイミングチャートを図
メージセンサです。
アドレススイッチは、
フォトダイオードを
3-17に示します。
ここでは、1画素目の蓄積時間を基準とし
ソース、
シフトレジスタからのアドレスパルスをゲート、
ビデ
て、2画素・3画素・4画素目の蓄積時間をそれぞれ2倍・3
オライン (共通出力線)をドレインとするMOSスイッチで形
倍・4倍に設定した場合の例を表しています。1画素目はス
成されています。
シフトレジスタはD (delayed)型フリップフ
タートパルスの1周期分、2画素目は2周期分、3画素目は3
ロップとNORゲートで構成されています。
周期分、4画素目は4周期分となるように、INTパルスを入
[図3-15] ブロック図 (S10111∼S10114シリーズ)
となります。
力することで、蓄積時間を画素ごとに変更することが可能
KMPDC0232JC
142
3. CMOSリニアイメージセンサ
[図3-17] タイミングチャート (蓄積時間可変機能)
3-3
新たな取り組み
埋め込み型フォトダイオード構造の大画素化
埋め込み型フォトダイオード構造を採用したCMOSリニ
アイメージセンサは、画素サイズが14 × 14 µm、14 × 42
µmと比較的小さいサイズとなっています。現在、7 × 125
µm、
14 × 200 µm、
127 × 127 µmなどの大画素サイズの開
発に取り組んでいます。
また、
その受光部に紫外域高感度
KMPDC0233JC
/高耐性、近赤外高感度などの特長をもたせていくことも
進めていきます。
CMOSリニアイメージセンサの飽和電荷量は、
同じ画素
サイズのNMOSリニアイメージセンサの2倍以上です [表
デジタル出力
3-2]。
このため、CMOSリニアイメージセンサが検出できる
光量の上限が大きくなります。図3-18にS10111∼S10114
∼1000 nmで、
高い紫外感度を特長としています。
紫外線
アナログ出力ですが、現在12ビットのパイプライン型のA/
による感度劣化を抑える構造を採用しているため、安定し
D変換器を搭載した製品を計画しています。
これによって、
た紫外線計測を行うことができます。
オールデジタル入出力を実現でき、非常に取り扱いが容
5
イメージセンサ
当社のCMOSリニアイメージセンサは、
ほとんどの製品が
章
シリーズの分光感度特性を示します。
感度波長範囲は200
易になります。
また、
高速化も可能になります。
[図3-18] 分光感度特性 (S10111∼S10114シリーズ, 代表例)
さらに、
これらの取り組みを融合したCMOSリニアイメー
ジセンサの開発も進めていきます。
KMPDB0250JE
[表3-2] 飽和電荷量の比較表 (NMOSリニアイメージセンサ、CMOSリニアイメージセンサ)
製品名
型名
NMOSリニアイメージセンサ
S3901
シリーズ
画素ピッチ (µm)
S3902
シリーズ
S3903
シリーズ
50
CMOSリニアイメージセンサ
S3904
シリーズ
S10111
シリーズ
25
S10112
シリーズ
S10113
シリーズ
50
S10114
シリーズ
25
画素高さ (mm)
2.5
0.5
0.5
2.5
2.5
0.5
0.5
2.5
飽和電荷量 (pC)
50
10
5
25
140
28
14
70
143
4.
CMOS
エリアイメージセンサ
を減らすことによりフレームレートを高速化することが可能
です。
なお部分読み出し領域の指定は、
フレームごとに変
えることができます。
S11661・S11662はパイプライン型A/D変換器を内蔵し
当社のCMOSエリアイメージセンサは、歯科用の口腔内
撮影などのX線撮像に用いられる画素サイズの比較的大
きなセンサから製品化が始まりました。近年、埋め込み型
ており、
アナログ信号を12ビットデジタル信号に変換して出
力します。
[図4-1] 近赤外高感度APSタイプ S11661, S11662
フォトダイオード構造の開発、画素の微細化、読み出し回
路の改良により、通常の撮像機能に加えて、産業・計測
用として位置/パターン検出などの特殊機能に対応した
CMOSエリアイメージセンサを用意しています。
4-1
特長
・近赤外高感度 (S11661, S11662, S12524)
章
5
・グローバルシャッタ読み出し
(S11661, S11662, S12524)
イメージセンサ
・高速部分読み出し (S11661, S11662, S12524)
・位置検出 (S9132)
・単一電源動作
・カスタム対応が可能 (さまざまな機能を追加)
マルチポートタイプ S12524
4) 5)
マルチポート (8ポート)で、
512 × 512画素のアナログビ
デオ出力を並列に出力するCMOSエリアイメージセンサで
す。S11661・S11662と同様に、近赤外域で高感度を実現
しています。
画素サイズは20 × 20 µmで、
埋め込み型フォ
トダイオート構造を採用しています。
グローバルシャッタ読
4-2
動作原理、特性
み出しを可能にするために、1画素は5個のトランジスタで
形成されています。
内蔵タイミング回路は必要最小限の回
当社の産業・計測用CMOSエリアイメージセンサの代
路で構成され、垂直走査回路・水平走査回路はともに、外
表的な製品を紹介します。
部から直接制御できる構成です。
外部から制御することに
より、任意の領域・領域数の部分読み出しが可能となり、
近赤外高感度APS (Active Pixel Sensor)タイプ
S11661, S11662
り、
移動する対象物を追尾する読み出しも可能です。
図4-3にブロック図を示します。部分読み出し時にも、8
近赤外域で高感度を実現したCMOSエリアイメージセ
ポートの読み出し負荷が均一になるように工夫されていま
ンサです。SXGAタイプ (1280 × 1024画素)のS11661、
す。
512 × 512画素のフル画面読み出し時は250 frames/s
VGAタイプ (640 × 480画素)のS11662の2タイプを用意し
m a x.、64 × 64画素の4領域の部分読み出し時は880
ています。
画素サイズは7.4 × 7.4 µmで、
埋め込み型フォト
frames/s max.で撮像が可能です。
なおS12524は、
当社製
ダイオード構造を採用しています。
インテリジェントビジョンセンサの高速センサヘッドに採用
一般的にCMOSイメージセンサは4個のトランジスタで1
されています [図4-4]。
画素が形成されることが多いですが、S11661・S11662で
は、
蓄積時間中の読み出しを可能 [グローバルシャッタ(全
画素同時蓄積)読み出し時]にするために、5個のトランジ
スタで1画素を形成しています。
広いダイナミックレンジを実
現するために画素内のトランジスタのみ5 Vを超える電圧
信号で駆動させていますが、
チャージポンプ型の昇圧回路
を内蔵することにより、
3.3 V単一電源駆動が可能です。
また、
タイミング回路を内蔵することにより、
クロック信号
のみで連続駆動させることができます。特定領域の画素
の部分読み出し機能が搭載されており、読み出し画素数
144
その部分読み出し領域を1フレームごとに変えることによ
[図4-2] マルチポートタイプ S12524
4. CMOSエリアイメージセンサ
[図4-3] ブロック図 (S12524)
め、非常に簡単な外部駆動回路と外部信号処理回路で
動作させることが可能です。
[図4-5] プロファイルセンサ S9132
KMPDC0468JA
[図4-4] インテリジェントビジョンセンサの高速センサヘッド
[図4-6] 動作原理 (プロファイルセンサ)
章
5
イメージセンサ
プロファイルセンサ S9132
6) 7)
プロファイルセンサは、射影プロファイルデータの取得
に特化したCMOSエリアイメージセンサです。
射影プロファ
イルデータとは1ラインの出力の総和のデータであり、
この
データから、入力スポット光の位置情報・輝度情報を得る
KMPDC0197JA
ことができます。
プロファイルセンサの受光部は、X方向
用の受光部とY方向用の受光部に分けられています [図
4-6]。X方向用の受光部は縦1列の受光部をメタル配線で
4-3
新たな取り組み
接続し、Y方向用の受光部は横1行を同様にメタル配線で
接続した形状をしています。
これにより、X軸・Y軸の射影
カラムパラレルADCタイプ
プロファイルデータを読み出すことが可能となります。X方
向・Y方向には、
それぞれに読み出しアンプとA/D変換器が
A/D変換器の数でイメージセンサのタイプを分類する
あり、
X方向・Y方向で別々に動作させることが可能です。
と、
チップに1個の高速A/D変換器を搭載したタイプと、各
プロファイルセンサのX方向・Y方向の射影プロファイル
列に1個の低速A/D変換器を搭載したタイプ (カラムパラ
データはデータ量が小さいため、通常のエリアイメージセ
レル型ADC)があります。
CMOS微細加工技術の進歩によ
ンサに比べスポット光の高速の位置検出・動体検出が可
り、
カラムパラレル型ADCのイメージセンサが高速・低ノイ
能です。画素レートは833 kHzで、256画素を読み出すと、
ズの用途では採用されるケースが多くなりました。
カラムパ
フレームレートは3200 frames/s max.です。
一般的にスポッ
ラレル型ADCの性能は、
特に画素数が多くなったときに発
ト光検出には2次元PSDが使用されますが、
プロファイル
揮されます。
センサには、
出力直線性の向上、
マルチスポット光の検出
当社ではチップに1個のA/D変換器をもったCMOSエリア
が可能、外部駆動回路の簡易化といったメリットがありま
イメージセンサを主に製品化してきましたが、
近年はさまざ
す。
センサチップ内にタイミング発生回路、バイアス電圧発
まなタイプのカラムパラレル型ADCの開発を進めています。
生回路、逐次比較型10ビットA/D変換器を内蔵しているた
モノリシックで高速・低ノイズのCMOSエリアイメージセンサ
145
の読み出し回路と、
CCDまたは化合物光半導体 (InGaAsな
ど)をハイブリッド接合したイメージセンサの製品化も企画
5.
測距イメージセンサ
しています。
測距イメージセンサは、
TOF (Time-of-Flight)方式で対
2ポート並列出力型
象物までの距離を測定するイメージセンサです。
パルス変
8)
調した光源と組み合わせて使用し、発光/受光タイミング
当社ではさまざまな機能を内蔵したCMOSエリアイメー
の位相差情報を出力します。
その信号を外付けの信号処
ジセンサを開発していますが、
その一例として、2ポート並
理回路またはPCで演算することによって、距離データが得
列出力型を紹介します。
2ポート並列出力型は、
図4-7のよう
られます。
に受光部の上下に1つずつの読み出し回路をもち、
それぞ
れを独立して動作させることが可能です。各画素には上
5-1
下回路用のビデオラインが1本ずつ接続されており、すべ
ての画素のデータを上下どちらかの回路から読み出すこ
とが可能です。
この回路構成により、
たとえば受光部の上
半分を上の回路で読み出し、
受光部の下半分を下の回路
章
5
特長
・高速電荷転送
・非破壊読み出しによる広いダイナミックレンジ・
で読み出すことが可能です。
また、
一方の回路で小さな特
低ノイズ (S11961/S11963-01CR)
定領域を高フレームレートで読み出し、他方の回路で残り
・列ゲインアンプ内蔵 (S11963-01CR)
の領域を通常の速度で読み出すことも可能です。本セン
イメージセンサ
サを光通信と画像撮像を並列に行う光通信イメージセン
サとして使う場合、以下のような、
さまざまなモードの読み
出しが可能です。
① 通常撮像モード (640 × 480画素, 40 frames/s, 残り1
ゲイン: 1倍, 2倍, 4倍
・外乱光のもとでも誤動作の少ない検出
(電荷排出機能)
・リアルタイム距離計測用
ポートは休止)
② 倍速撮像モード (640 × 240画素の上半分: 80 frames/s,
5-2
構成
下半分: 80 frames/s)
③ 点滅光源検出モード (640 × 240画素の奇数行: 80
frames/s, 偶数行: 80 frames/s)
測距イメージセンサは、
受光部・シフトレジスタ・出力バッ
ファアンプ・バイアス発生回路・タイミング発生回路などか
④ 撮像/通信 (1箇所)並列モード (640 × 479画素: 40
frames/s, 32 × 1画素: 100 kHz)
ら構成されています。図5-1にブロック図を示します。測距
イメージセンサは、一般的なCMOSイメージセンサとは以
⑤ 撮像/通信 (3箇所)並列モード (640 × 477画素: 40
frames/s, 136 × 1画素 × 3領域: 20 kHz)
⑥ 通信 (2箇所)並列モード (32 × 1画素: 100 kHz, 32 ×
1画素: 100 kHz)
下の点が異なります。
・高速電荷転送が可能な画素構造
・2つの出力端子から距離情報に相当する2つの位相信号
を出力
[図4-7] ブロック図 (2ポート並列出力型)
受光部からの出力信号は、
一般的なCMOSイメージセン
サと同様に、
サンプル&ホールド回路または列ゲインアンプ
回路で必要な信号処理が行われ、
シフトレジスタで順次
走査されて電圧出力として読み出されます。
KMPDC0469JA
146
4. CMOSエリアイメージセンサ 5. 測距イメージセンサ
[図5-1] ブロック図
式 (3)で表されます。
(a) S11961-01CR
Td = {V2/(V1 + V2)} × T0 …… (3)
距離に応じて出力された値 (V1, V2)を用いて、
距離 (L)
を式 (4)で表すことができます。
L = 1/2 × c × Td = 1/2 × c × {V2/(V1 + V2)} × T0 ・・・・・・(4)
c: 光速 (3 × 108 m/s)
[図5-2] 受光部のタイミングチャート
KMPDC0430JA
(b) S11963-01CR
章
5
イメージセンサ
KMPDC0470JA
測距イメージセンサの受光部構造および表面ポテン
シャルを図5-3に示します。一般的なCMOSイメージセン
サは単一電源駆動が可能ですが、受光部から蓄積部へ
電荷を転送するのにµsオーダーの時間が必要です。一
KMPDC0443JA
方CCDイメージセンサは、高速電荷転送が可能 (nsオー
ダー)ですが、
高電圧、
複数の印加電圧が必要です。
5-3
動作原理
距離情報を取得するために必要な高速電荷転送 (数
十ns∼)を実現するために、
当社はCMOSプロセスにおい
測距イメージセンサの受光部のタイミングチャートを図
て、CCDのような高速電荷転送が可能な画素構造を開発
5-2に示します。蓄積電荷 Q1およびQ2をそれぞれの積分
しました。
これにより、測距イメージセンサは距離測定に必
容量 Cfd 1、Cfd 2において電荷−電圧変換した出力電圧
要とされる高速の電荷転送が可能となりました。
1回のパルス発光で発生する電子数は数e-程度です。
V1、
V2は式 (1)(2)で表されます。
このため、図5-3の動作を数千回∼数万回繰り返した後
V1 = Q1/Cfd1 = N × Iph × {(T0 - Td)/Cfd1} …… (1)
に、蓄積された電荷の読み出しを行います。
なお繰り返す
V2 = Q2/Cfd2 = N × Iph × (Td/Cfd2) …………… (2)
回数は、入射光量や、必要とされる距離精度などによって
変わります。
Cfd1, Cfd2: 各出力の積分容量
N
: 電荷転送クロック回数
Iph
: 光電流
T0
: パルス幅
Td
: 遅延時間
式 (1)(2)においてCfd1=Cfd2の場合の遅延時間 Tdは、
[表5-1] 浜松ホトニクスの測距イメージセンサ
型名
S11961-01CR
タイプ
画素数
画素サイズ
[µm (H) × µm (V)]
リニアイメージセンサ
256
20 × 50
S11962-01CR
64 × 64
40 × 40
160 × 120
30 × 30
エリアイメージセンサ
S11963-01CR
パッケージ
外形寸法
(mm)
10.6 × 5.8 × 1.85
表面実装型
PWB
8.18 × 9.26 × 1.85
11.85 × 9.5 × 1.85
147
[図5-3] 受光部構造、表面ポテンシャル
5-4
(a) VTX1: オン, VTX2: オフ (図5-2 ①の場合)
特性
S11961-01CRと光源を用いて、以下の条件にて距離を
測定した例を図5-4・図5-5に示します。
・蓄積時間=30 ms (実効的な蓄積時間=180 µs)
・電荷転送クロック幅 (VTX1, VTX2)=30 ns
・受光レンズ F=1.2, 受光画角=37.5°× 27.7°
・光源出力=10 W, デューティ比=0.3%,
発光パルス幅=30 ns,λ=870 nm
・投光角度=10°× 10°
・外乱光: 室内光レベル
[図5-4] 計測距離−実距離
(S11961-01CR, 受光部中央の1画素, 代表例)
章
5
KMPDC0471EA
イメージセンサ
(b) VTX1: オフ, VTX2: オン (図5-2 ②の場合)
KMPDB0389JA
[図5-5] 距離精度−実距離
(S11961-01CR, 受光部中央の1画素, 代表例)
KMPDC0472EA
[表5-2] 測定距離範囲とVTX1、VTX2、発光パルス幅
測定距離範囲
max.
(m)
VTX1, VTX2
発光パルス幅
(ns)
4.5
30
6
40
9
60
注) 光は、1 nsに約30 cmを進みます。
KMPDB0390JA
5-5
使い方
測距イメージセンサを動作させるためには、電源電圧・
タイミング信号・バイアス電圧を入力する必要があります。
S11963-01CRの場合、電源電圧としてはVdd=5 V, Vdd_
tx=3 Vの2種類が必要です。
また、
タイミング信号 (ext_res,
148
5. 測距イメージセンサ
reset, vst, hst, mclk, VTX1, VTX2, VTX3)を外部回路で
生成して入力します (データシート参照)。
ただし、VTX1、
[図5-7] 距離精度−パルスピーク出力 (試算例)
(a) 計測距離: 1 m
VTX2、
VTX3は高速クロックパルス信号のため、
高速応答に
対応したバッファICを測距イメージセンサの近くに配置す
る必要があります。
バイアス電圧 (Vr, Vpg, Vref, Vref2)は、
データシートに記載された範囲の値を入力してください。
構成例
測距イメージセンサを使用した距離計測システムの構
成例を図5-6に示します。測距イメージセンサ、光源および
光源用駆動回路、投/受光の光学系、
タイミング発生回
路、
距離演算回路から構成されています。
距離精度は、
光
源の発光量や投/受光の光学系に大きく依存します。
KMPDB0391JA
[図5-6] 距離計測システムの構成例
(b) 計測距離: 2 m
章
5
イメージセンサ
KMPDC0473JA
光源の選択
測距イメージセンサを使用して距離計測を行う場合、
測
距イメージセンサの電荷転送クロックのパルス幅に合わせ
た光源 (LEDまたはパルスレーザダイオード)を選択する
KMPDB0392JA
必要があります。
たとえば、
4.5 mまでの距離計測を行う場
合には、
電荷転送クロックのパルス幅、
および発光パルス幅
(c) 計測距離: 4 m
を30 nsに設定する必要があるため、
光源には上昇/下降
時間 10 ns程度以下の応答性が必要です。測距リニアイ
メージセンサ S11961-01CRを使用する場合はライン状に、
測距エリアイメージセンサ S11962-01CR、
S11963-01CRを
使用する場合はエリア状に光源を照射するため、大きな出
力パワーが必要で、
そのために光源を複数個配列する場
合もあります。
光源を複数個配列する場合、
複数光源を高
速・高出力でドライブするための駆動回路も必要です。
光源のパルスピーク出力と距離精度の関係についての
試算例を図5-7に示します。
条件
・蓄積時間=16 ms (実効的な蓄積時間=32 µs)
KMPDB0393JA
・電荷転送クロック幅 (VTX1, VTX2)=30 ns
・受光レンズ F=1.2, 焦点距離 f=2.8 mm
・発光パルス幅=30 ns,λ=870 nm
・投光角度=20°× 20°
・外乱光: 室内光レベル
149
6.
[図6-1] 構成図 (S11865シリーズ)
アンプ付
フォトダイオードアレイ
アンプ付フォトダイオードアレイは、
等倍光学系を用いた
長尺検出システム用に適したCMOSリニアイメージセンサ
です。
SiフォトダイオードアレイとCMOS信号処理ICから構
成されています。
CMOS信号処理ICには、
タイミング発生回
KMPDC0186JA
路、
シフトレジスタ、
ホールド回路、
チャージアンプアレイが
内蔵されているため、外付け回路の構成を簡略化できま
信号処理は64画素または128画素ごとにCMOS信号処
す。
アンプ付フォトダイオードアレイを複数配列することに
理ICにて行うため、
フォトダイオードアレイの1画素ずつに
より、
長尺イメージセンサを構成することができます。
なお、
外部信号処理回路を接続する場合に比べると、
システム
X線検出用として受光部上に蛍光板を付けたタイプも用意
全体の構成を非常に簡単にすることができます。
しています。
X線検出用として受光部上に蛍光板を付けたタイプは、
センサ上にX線を照射すると、X線は蛍光板によって可視
光に変換され、受光部はこの可視光を検出します。
このタ
特長
6-1
イプは、検出長が長いX線非破壊検査用ラインセンサとし
章
5
て用いられます。
イメージセンサ
・複数配列により長尺センサを構成することが可能
・5 V電圧駆動
6-3
動作原理
・チャージアンプアレイによる同時蓄積方式
CMOS信号処理ICチップは、
タイミング発生回路、
シフト
・シフトレジスタによる時系列信号読み出し
レジスタ、
ホールド回路、
チャージアンプアレイで構成され
(データレート: 1 MHz max.)
ています [図6-2]。
フォトダイオードの各画素とCMOS信号
・フォトダイオードをゼロバイアス駆動するため低暗電流
処理ICチップ内のチャージアンプは、
ワイヤボンディングで
・クランプ回路内蔵により低ノイズ、広ダイナミックレンジ
接続されています。
フォトダイオードで生じた光電流 (I L)
と蓄積時間 (Ts)の積で表される光生成電荷 (Qout)は、
・タイミング発生回路を内蔵し、2種類の入力パルス
チャージアンプのフィードバック容量 (Cf)によって出力電
(リセット、
クロック)で動作
圧 (Vout = Qout/Cf)に変換されます。
チャージアンプがリ
・X線検出用として受光部上に蛍光板を付けたタイプを用意
セットされる前にホールド回路に移された出力信号は、
シ
・さまざまな仕様のフォトダイオードを使用できる
フトレジスタによって時系列電圧信号として読み出されま
す。S11865/S11866シリーズでは、全画素において同時蓄
(特注品)
積方式で信号を読み出します。
また、
蓄積時間を可変する
シャッタ機能も備えています。
ビデオデータレートは1 MHz
6-2
構造
max.です。
アンプ付フォトダイオードアレイは、
図6-1に示すように受
光部のSiフォトダイオードアレイチップとCMOS信号処理IC
チップの2つのチップから構成されています。
[表6-1] 浜松ホトニクスのアンプ付フォトダイオードアレイ
画素高さ
(mm)
画素ピッチ
(mm)
画素数
ラインレート
(lines/s)
S11865-64
0.8
0.8
64
14678
S11865-128
0.6
0.4
128
7568
S11866-64-02
1.6
1.6
64
14678
S11866-128-02
0.8
0.8
128
7568
型名
注) 受光部上に蛍光板を付けたX線検出用のタイプも用意しています。
150
6. アンプ付フォトダイオードアレイ
[図6-2] ブロック図 (S11865/S11866シリーズ)
ステムを構成することができます。複数のセンサを並べて
配置した場合、各センサの出力信号を複数の外部回路で
並列に読み出すことができ、
1つの回路で直列に読み出す
こともできます。直列に読み出す場合には、前段のエンド
オブスキャン (走査終了)信号を次段のスタート信号として
使用するように外部電圧を設定します。
アンプ付フォトダイオードアレイによって検出長の長いイ
メージセンサを形成できる上に、検出システムを小型化す
ることができます。
また、CMOS信号処理ICに当社の標準
KMPDC0153JA
チップを使えば、
Siフォトダイオードアレイチップまたは基板
を任意の形状に変えた特注イメージセンサを簡単に作る
6-4
特性
ことができます。
図6-3にS11865/S11866シリーズの分光感度特性を示し
[図6-5] アンプ付フォトダイオードアレイを複数並べた
長尺イメージセンサ
ます。
[図6-3] 分光感度特性 (S11865/S11866シリーズ, 代表例)
章
5
イメージセンサ
KMPDB0220JA
6-5
使い方
S11865/S11866シリーズは、
有効エリア長と基板長が同
じ長さで設計されているため、複数を並べることにより、一
般のイメージセンサでは作成が難しい長尺の1次元検出シ
[図6-4] タイミングチャート
(S11865/S11866シリーズ)
KMPDC0294JB
151
7.
InGaAs
リニアイメージセンサ
7-2
構造
InGaAsリニアイメージセンサは、
InGaAsフォトダイオード
アレイと、
チャージアンプアレイ・サンプル&ホールド回路・
InGaAsリニアイメージセンサは近赤外線検出用のリニ
シフトレジスタ・読み出し回路・タイミング発生回路をもった
アイメージセンサです。InGaAsフォトダイオードアレイをゼ
CMOS IC (ROIC)から構成されています。
InGaAsフォトダ
ロバイアスで駆動することにより、暗電流の影響を極力抑
イオードアレイとCMOS ICはワイヤボンディングまたはバン
え、
近赤外域で広いダイナミックレンジを実現しています。
プによって接続されています。パッケージには、常温動作
用セラミックパッケージや電子冷却素子が内蔵されたメタ
ルパッケージがあり、用途に応じて選択できます。電子冷
特長
7-1
却型InGaAsリニアイメージセンサのブロック図を図7-1に示
します。
アナログ入力の+5 V (Vdd)、
GND (Vss)、
チャージ
・広いダイナミックレンジ
アンプリセット電圧 (INP)、
画素電圧(PDN)、
読み出し回路
・ゼロバイアス駆動のため低暗電流
リセット電圧 (Vinp, Vref, Fvref)、
デジタル入力のマスター
・広い感度波長範囲
クロックパルス (CLK)と蓄積時間制御パルス (Reset)を入
力すれば、
アナログビデオ出力 (Video)とサンプル&ホール
・チャージアンプ方式のため高ゲイン
章
5
ド用デジタル出力 (AD_trig, AD_sp)が得られます。
・CDS回路によって低ノイズを実現
イメージセンサ
・飽和制御回路を内蔵
・タイミング発生回路内蔵のため簡単動作
・低クロストーク
・ゲインの選択が可能
・ハイブリッドタイプ: 異なる感度波長範囲の
裏面入射型チップを内蔵
[表7-1] 浜松ホトニクスのInGaAsリニアイメージセンサ
入射型
タイプ
感度波長範囲
(µm)
標準タイプ
0.9∼1.7
高速タイプ
表面入射型
0.9∼1.85
0.9∼2.05
長波長タイプ
0.9∼2.15
0.9∼2.25
0.9∼2.55
裏面入射型
152
標準タイプ
0.95∼1.7
ハイブリッドタイプ
0.95∼2.15
画素数
画素サイズ
[µm (H) × µm (V)]
パッケージ
128
50 × 250
セラミック
256
50 × 250, 50 × 500
512
25 × 250, 25 × 500
セラミック,
メタル
256
50 × 50
512
25 × 25
1024
25 × 25, 25 × 100
256
50 × 250
512
25 × 250
256
50 × 250
256
50 × 250
512
25 × 250
256
50 × 250
256
50 × 250
512
25 × 250
256
50 × 50, 50 × 500
512
25 × 25, 25 × 500
512 (256 + 256)
25 × 250
セラミック
メタル
セラミック
メタル
7. InGaAsリニアイメージセンサ
[図7-1] ブロック図 (電子冷却型)
とチャージアンプのフィードバック容量では蓄積しきれな
い電荷があふれて隣の画素に流れ込み、信号出力の純
度を下げてしまいます(ブルーミング)。
この対策として、
チャージアンプのフィードバック容量が飽和したことを検知
し、蓄積を停止する回路を各画素に設けることにより、
ブ
ルーミングの回避をしています。
チャージアンプは、連続した信号を取り出すために積分
容量をリセットする必要があります。
その際、大きなリセット
ノイズが発生するという欠点があります。
このリセットノイズ
を除去しないと、高精度の測定を行うことができません。
InGaAsリニアイメージセンサのCDS回路では、
リセット直後
KMIRC0033JC
に信号処理回路内で蓄積開始出力をホールドし、次に蓄
積終了出力をホールドし、
その差を取ることによりリセット時
7-3
のスイッチングノイズを除去しています。
動作原理
なお、標準タイプはダイナミックレンジを優先した回路構
InGaAsリニアイメージセンサのCMOS ICには、
「チャー
InGaAsフォトダイオードアレイの各画素と1対1で接続され
5
また、
マルチポートタイプは、
さらに高速化を実現するた
めに、
画素をポートに分割して並列に読み出すマルチポー
イメージセンサ
ています。
図7-2に1画素分の等価回路を示します。
章
ジアンプとサンプル&ホールド回路」
のアレイが形成され、
成で、高速タイプは高速読み出しを優先した回路構成と
なっています。
ト読み出し方式を採用しています。
[図7-2] 等価回路 (1画素分)
[図7-3] マルチポートの例 (8ポート)
KMIRC0034JA
InGaAsリニアイメージセンサのフォトダイオードに光が
入射すると電荷が発生し、
チャージアンプのフィードバック
容量に流れ込みます。差動入力型チャージアンプを採用
しており、
フォトダイオードをほぼゼロバイアスで駆動する
ことができるため暗電流を抑えることができます。
しかし
実際にはアンプにオフセット電圧が存在し、各画素の印
KMIRC0039JA
加電圧には±数mV程度のバラツキがあるため、
ビデオ出
力がリセットレベルに対してプラス側だけではなく、
マイナ
ス側に出力する画素も存在します。
このため光を入射し
7-4
特性
ない場合、蓄積時間を延ばすとプラス・マイナスの両側に
出力が伸びていきます。
ただし、
この暗電流による出力は
固定パターンであるため、光入射がある場合の出力信号
入出力特性
から暗電流による出力を減算することによって、光入射に
イメージセンサの入射光量と信号出力の関係を示した特
より発生した出力信号のみを取り出すことができます。
な
性を入出力特性といいます。
InGaAsリニアイメージセンサは
お、InGaAsフォトダイオードは化合物半導体のため格子
チャージアンプ方式で動作するため、
露光量 (単位: J)は、
欠陥が存在し、暗電流の絶対値およびそのバラツキはSi
光量 (単位: W)と蓄積時間 (単位: s)の積で表されます。
フォトダイオードと比較すると大きな値となります。
その結
InGaAsリニアイメージセンサの出力は、電圧で表されま
果InGaAsフォトダイオードでは、最大蓄積時間 (暗電流
す。図7-4に入出力特性の概念図を示します。斜線部分は
によって飽和するまでの蓄積時間)が画素間で異なりま
式 (1)で表されます。
す。暗電流の大きな画素が飽和し、
その後も蓄積していく
153
[図7-4] 入出力特性の概念図 (対数グラフ)
[図7-5] 直線性変動率
(a) G9204-512S
KMIRC0019JB
y = axγ + b ............ (1)
章
5
y: 出力電圧
a: 感度 (露光量に対する出力比)
x: 露光量
γ: 傾き係数
b: 暗出力 (露光量=0 のときの出力)
KMIRB0081JA
(b) G12230-512WB (λc=1.7 µmのチップ)
イメージセンサ
露光量を増やした場合、
出力電圧の上限はチャージア
ンプの出力電圧範囲で決まるため、入出力特性は屈曲点
をもちます。
この屈曲点における露光量を飽和露光量、
出
力電圧を飽和出力電圧、
チャージアンプに蓄えられた電
荷量を飽和電荷量と呼びます。
当社のデータシートでは飽和出力電圧 (Vsat)は、
光入射
による出力の飽和電圧から暗出力を引いた差と定義して
います。光を入射しない状態 (暗状態)では、蓄積時間を
延ばしていくとプラス・マイナスの両側に出力は伸びていき
ます。
マイナス側に振れる電圧は、
約0.5 Vで飽和します。
KMIRB0082JA
飽和電荷量は、
飽和出力電圧からQ = C Vの式により算
出されます。積分容量 (Cf)が10 pF、飽和出力電圧が3.2
Vの場合、
飽和電荷量は32 pCとなります。
分光感度特性
PN接合で形成された受光部に入射した光のエネル
直線性変動率
ギーが、InGaAsのバンドギャップエネルギーより大きいと、
価電子帯の電子が伝導帯に励起され、
電子−正孔対が生
前項における傾き係数 (γ)は、
入出力特性を対数グラフ
成されます。
この生成電荷は、拡散によってフォトダイオー
で示したときの傾きに相当します。
γの値は1ですが、実際
ドの空乏層に到達し、電界で加速されPN接合を通過し、
の入出力特性は1よりわずかにずれています。
このズレを
信号として読み出されます。バンドギャップエネルギーより
直線性変動率 (リニアリティエラー)と呼び、パーセントで
も小さいエネルギーの光は検出することができません。
カッ
表示します。
トオフ波長 (λc)は式 (2)で表されます。
図7-5にランダムサンプリングの直線性変動率を示し
ます。G9204-512Sの直線性変動率は飽和の95%以下
の露光量に対して±3%以下と小さい値になっています。
G12230-512WBは、
高ゲイン (CE=160 nV/e-)における直
線性変動率が小さくなるように改善されたタイプです。
λc =
1.24
[ m] ............ (2)
Eg
Eg: バンドギャップエネルギー [eV]
InxGa1-xAs (x=0.53)のバンドギャップエネルギーは常
温で0.73 eVのため、
カットオフ波長は1.7 µmです。
また、
長
波長タイプのInxGa1-xAs (x=0.82)のバンドギャップエネル
ギーは常温で0.48 eVのため、
カットオフ波長は2.6 µmにな
ります。
154
7. InGaAsリニアイメージセンサ
InGaAsの光吸収係数は、
波長によって異なります。
長波
感度不均一性
長ほど光吸収係数が小さくなり、
カットオフ波長付近で急
激に減少します。
長波長の光ほどInGaAs基板の深部まで
InGaAsリニアイメージセンサには多数のInGaAsフォト
到達し、
キャリアの生成位置が深くなります。
キャリアは特
ダイオードが配列されていますが、
それぞれのフォトダイ
定の寿命をもっており、
生成されてから特定の距離 (拡散
オードの感度にはバラツキがあります。
これは、InGaAs基
長)しか拡散できないため、
同じ入射光量が入っても空乏
板内の結晶欠陥や製造工程における加工や拡散のバラ
層に到達し信号として出力される確率は、波長によって異
ツキに加えて、CMOSチャージアンプアレイのバラツキな
なります。
また、
フォトダイオード上の絶縁膜などの表面保
どに起因しています。
当社のInGaAsリニアイメージセンサ
護膜による入射光の干渉・反射・吸収も波長によって異な
では、
フォトダイオードの有効受光面に均一な光を入射し
り、
感度に影響します。
たときの全画素出力のバラツキを感度不均一性 (PRNU:
図7-6・図7-7に分光感度特性の例を示します。温度
Photoresponse Nonuniformity)として式 (3)のように定義
が変わると、分光感度特性も変化します。
これは、バンド
しています。
ギャップエネルギーが温度依存性をもっているためです。
温度が低下すると、
InGaAsのバンドギャップエネルギーが
大きくなるため、最大感度波長およびカットオフ波長が短
波長側に移動します。
PRNU = (ΔX/X) × 100 [%] ............ (3)
X : 全画素の出力の平均値
ΔX: 最大または最小出力画素の出力とXとの差の絶対値
感度不均一性の出荷検査は、飽和出力電圧の約50%、
章
[図7-6] 分光感度特性
5
使用光源はハロゲンランプで行われています。
InGaAsリニ
イメージセンサ
アイメージセンサは、検出部に化合物半導体結晶を用い
ているため、
フォトダイオードアレイ中に結晶欠陥などが存
在し、異常出力信号を示す画素 (不良画素)があります。
感度不均一性の仕様は、
±5%∼±20%の範囲です。
受光窓上の傷や汚れによって感度均一性が悪化する
ことがあるため、素子の取り扱いには注意が必要です。図
7-8に感度不均一性の測定例を示します。
いずれもランダ
ムサンプリングのデータです。
[図7-8]感度不均一性 (代表例)
(a) G9204-512S
KMIRB0068JB
[図7-7] 分光感度特性 (G12230-512WB)
KMIRB0026JC
KMIRB0065JB
155
(b) G9207-256W
[図7-9] 暗電流−素子温度 (G9204-512S, 代表例)
KMIRB0028JA
KMIRB0027JC
暗出力
章
5
暗出力は、光が入射していない状態における出力で、
フォトダイオードの暗電流 (拡散電流・再結合電流・表面
イメージセンサ
リーク電流の合計)がチャージアンプを充電し、電圧変換
して出力されます。
出力の上限は飽和出力電圧で制限さ
れるため、暗出力が大きいと出力信号のダイナミックレンジ
が狭くなります。暗出力と光出力の和が出力信号となるた
め、画素ごとに暗出力を減算する信号処理を行うことによ
り、
出力信号の純度を高めることができます。
暗出力は式 (4)で表されます。
蓄積時間は、
暗出力の大き
さを考慮して決める必要があります。
ノイズ
InGaAsリニアイメージセンサのノイズは、
固定パターンノ
イズとランダムノイズに大別されます。
固定パターンノイズには、
フォトダイオードの暗電流など
があります。
暗電流はDC成分の電流性ノイズです。
固定パ
ターンノイズは読み出し条件が変わっても一定で、外部信
号処理によってキャンセルすることができます。
ランダムノイズは、
センサ内部で信号が出力される過程
に起こる
「電圧・電流・電荷の揺らぎ」によって生じます。
固定パターンノイズを外部信号処理でキャンセルした場
合、
ランダムノイズがInGaAsリニアイメージセンサの微弱光
に対する検出限界、
つまりダイナミックレンジの下限を決定
Vd = I D × (Ts/Cf) + Voff ............ (4)
Vd :
ID :
Ts :
Cf :
Voff :
暗出力 [V]
暗電流 [pA]
蓄積時間 [s]
積分容量 [pF]
ROICのオフセット電圧 [V]
します。
ランダムノイズには次の4種類の成分があります。
① 暗電流によるショットノイズ (Nd)
② 光入射時の信号電流によるショットノイズ (Ns)
③ チャージアンプをリセットする際のリセットノイズ (Nr)
ここで、暗出力 (Vd)を飽和出力電圧 (Vsat)に置き換
④ CMOSチャージアンプの読み出しノイズ (NR)
え、蓄積時間 (Ts)について式を書き直すと、最大蓄積時
間 (Tsmax)は式 (5)で表されます。
通常、③のチャージアンプのリセットノイズが支配的で
す。
リセットノイズはCDS回路で大幅に低減でき、
ノイズ量
Tsmax = Cf × Vsat/ID ............ (5)
温度が低いほどバンドギャップが広がり、伝導帯から価
電子帯に励起するキャリアの数が減るため、暗電流は温
度に対し指数関数的に減少します。
当社のInGaAsリニアイ
メージセンサの場合、暗電流の温度係数 㸥は1.06∼1.1で
あり、
ある温度 T1 (単位: ̊C)での暗電流をIDT1 (単位: A)
とすると、
任意の温度 Tにおける暗電流 I DTは式 (6)で求
められます。
IDT = IDT1 × β (T - T1) [A] ............ (6)
図7-9にG9204-512Sの暗電流の温度特性 (ランダムサ
ンプリング)を示します。
156
は①の暗電流によるショットノイズと④のCMOSチャージア
ンプの読み出しノイズが大きな成分となります。暗電流に
よるショットノイズは、暗電流による出力電荷の不規則な発
生によって生じます。
このノイズは暗電流による出力電荷量
とともに増加するため、蓄積時間・温度などの動作条件に
よって値が異なります。
②のショットノイズは、入射フォトンが不規則に到達する
ことによる揺らぎによって生じます。
トータルノイズ (N)は、
式 (7)で表されます。
N=
Nd2 + Ns2 + NR2 ...................... (7)
暗電流によるショットノイズ (Nd)や光入射時の信号電
流によるショットノイズ (Ns)は、
イメージセンサへの入力電
7. InGaAsリニアイメージセンサ
荷量に換算した等価入力雑音電荷量で示すと、発生した
(b) G9207-256W
電荷量の平方根で表すことができます。
Nd =
2ID
q
× TS [e- rms] ............ (8)
Ns =
2IS
q
× TS [e- rms] ............ (9)
Is: 光入射による信号電流
q : 1電子当たりの電荷量
当社では、InGaAsリニアイメージセンサのノイズ量を各
画素の出力電圧の揺らぎで示しており、単位は実効雑音
電圧 (V rms)で表しています。
したがって式 (8)(9)を電圧
換算すると、
それぞれ次の式になります。
KMIRB0030JB
Ts
Nd = 2q ID ×
[V rms] ............ (10)
Cf
Ns = 2q IS ×
7-5
Ts
[V rms] ............ (11)
Cf
使い方
章
5
InGaAsリニアイメージセンサの駆動方法、動作条件の
設定、
取り扱いの注意について説明します。
イメージセンサ
CMOSチャージアンプの読み出しノイズ (NR)は、
25 ̊C、
蓄積時間 1 ms、
データレート 250 kHz、積算回数 50回
で行い標準偏差を算出すると、G9201シリーズの場合、
Cf=10 pFで180 µV rms、
Cf=0.5 pFで400 µV rmsとなりま
セットアップ
す。
データシートに記載されているノイズ量の測定方法は、
InGaAsリニアイメージセンサには、
冷却用の電子冷却素
G9201/G9211シリーズの場合、25 ̊C、蓄積時間 10∼20
子およびサーミスタを内蔵したタイプと内蔵しないタイプが
ms、
データレート 250 kHz、積算回数 50回で標準偏差を
ありますが、
冷却の有無を除けば駆動方法は同じです。
算出しています。
また、
G9205∼G9208シリーズの場合、
-20
̊C、
蓄積時間 1 ms以下、
データレート 250 kHz、
積算回数
50回で行っています。
図7-10にG9204-512S・G9207-256W
の遮光時のノイズ出力のバラツキを示します。
いずれもラ
ンダムサンプリングによるデータです。
(1) 端子の説明
図7-11・図7-12と表7-2を参照して接続を行ってください。
[図7-11] ピン接続 (G9201∼G9204シリーズ, 上面図)
[図7-10]ノイズ出力のバラツキ
(a) G9204-512S
KMIRC0013JA
KMIRB0029JB
157
[表7-2] 端子の機能および推奨接続 (G9201∼G9204シリーズ)
端子名
入出力
機能および推奨接続
CLK
入力 (CMOSロジック)
CMOSシフトレジスタを動作させるためのパルス
Reset
入力 (CMOSロジック)
CMOSチップ上のチャージアンプのフィードバック容量を初期化するためのリセットパルス。
パルス幅によって積分時間が決まります。
Vdd
入力
Vss
−
CMOSチップ上の信号処理回路を動作させるための供給電圧
CMOSチップ上の信号処理回路用グランド
INP
入力
CMOSチップ上のチャージアンプアレイ用のリセット電圧
Cf select
入力
CMOSチップ上のフィードバック容量 (Cf)を決める電圧
Case
−
この端子はパッケージに接続されています。
Therm
−
パッケージ内の温度をモニタするためのサーミスタ用端子
TE+, TE-
−
フォトダイオードアレイを冷却するための電子冷却素子用電源端子
AD_trig
出力
A/D変換用のデジタル信号、正極性
Video
出力
アナログビデオ信号、正極性
Vref
入力
CMOSチップ上のオフセット補償回路用のリセット電圧
[図7-12] セットアップ図 (G9201∼G9204シリーズ)
[図7-13] 1段電子冷却素子の温度特性
章
5
イメージセンサ
KMIRB0031JC
KMIRC0035JA
[図7-14] 2段電子冷却素子の温度特性
(2) 放熱器
・放熱器の選択
1段電子冷却素子を-10 ̊Cに設定する場合、
セーフティ
マージンをみて0.5 ̊C/W以下の放熱器を選択してくださ
い。
また、2段電子冷却素子を-20 ̊Cに設定する場合は、
0.4 ̊C/W以下の放熱器を選択してください。
放熱器を熱がこもるような環境下に置かないように装置
の設計をする必要があります。エアファンや通気ダクトを
配置して、
放熱器で発生した熱が十分放熱されるように通
風設計を行ってください。
なお、強制ファン空冷によっても
放熱器の熱抵抗は変わります。
KMIRB0032JC
・放熱器への取り付け方法
冷却能力を十分に発揮させるには、
パッケージと放熱器
を正しく接着する必要があります。以下の点に注意して取
り付けてください。
158
7. InGaAsリニアイメージセンサ
・ 放熱器の接着面およびパッケージの放熱面がきれいで
平坦であることを確認してください。
電源を切り、
電源ラインを確認してください。
(2) パルスジェネレータからの制御信号入力
・パッケージ放熱面の全面が放熱器に密着するように取り
付けてください。破損を防止し冷却効率を向上させるた
図7-16のタイミングチャートを参照して、パルスジェネ
め、
放熱面は表面積を広くする必要があります。
レータからの制御信号をI n G a A sリニアイメージセンサ
・パッケージ放熱面と放熱器の間の熱抵抗を下げるため、
(G9201/G11135シリーズ)へ入力します。2種類の制御信
熱伝導グリスなどを薄く均一に塗布し、
一様に広がるよう
号 (CLK, Reset)を入力します。
各信号は、
H-CMOSレベル
に均一にネジ止めしてください。
また、
マイカなどを使用す
の入力にしてください。
これ以外のレベルで入力すると誤
る場合にも、パッケージ放熱面の全面が接触するように
動作します。
またG9201/G9494シリーズの場合、
Reset信号
してください。
もし、
ネジ止め位置までマイカの寸法がな
のパルス幅は6 µs以上にしてください。
CLK信号の周波数
いままネジ止めした場合、冷却効率が下がるだけでなく、
はVideoの読み出し周波数を決定し、Resetのパルス間隔
ベースがそりセンサとベースの間でクラックが発生するこ
は蓄積時間を決定します。
とがあります [図7-15 (a)]。
CLKとResetは、
同期していなくても正常に動作します。
・パッケージを放熱器やプリント基板に固定する際は、
パッ
Resetの立ち上がりがCLKの立ち下がりと同期している場
ケージ上面を指などで押して付けないようにしてください。
合、
Resetの立ち上がりから次のCLKの立ち下がりで蓄積
ガラス面板に応力がかかり、
ガラス面板の脱落やパッケー
が開始します。
同期していない場合は、
Resetの立ち上がり
ジの気密が損なわれる原因になります [図7-15 (b)]。
から2つ目のCLKの立ち下がりで蓄積時間が開始します。
章
また、
Resetの立ち下がりがCLKの立ち下がりと同期してい
[図7-15] センサの取り付け方法
5
る場合、Resetの立ち下がりから次のCLKの立ち下がりで
イメージセンサ
(a) 例1
蓄積を終了します。
同期していない場合は、
Resetの立ち下
がりから2つ目のCLKの立ち下がりで蓄積を終了します。
(3) 駆動タイミングの設定
・ 例1: InGaAsリニアイメージセンサ G9201-256S
をCLK周波数 1 MHzで動作させる場合
KMIRC0023JA
Video信号の読み出し周波数は、CLK信号の周波数の
1/8であり、1画素当たりの読み出し時間 (tr)は8 µsとなり
(b) 例2
ます。
このため、
1回のスキャンにかかる時間 (tscan)は、
式
(12)のようになります。
tscan = (tc × 14) + (tr × N) ....................... (12)
= 1 [ s] × 14 + 8 [ s] × 256
= 2062 [ s]
KMIRC0024JA
tc: CLK周期
N : 画素数
(3) VIDEO信号のモニタ
この場合のリセット時間 [図7-16 (a)のResetのLow期間]
ビデオ信号はイメージセンサ出力端において駆動能力
は、
1回のスキャン時間より長くする必要があるため、
tscan >
がないため、バッファアンプを通した後、
オシロスコープに
2062 µsに設定します。
スキャン時間は、
Resetのパルス幅や
てモニタしてください。
CLK信号との同期の仕方により若干長くなります。
G9201シリーズは全画素同時蓄積/順次読み出し方
駆動方法
動作確認は、センサを暗状態にして行う必要がありま
す。
受光部を遮光して行ってください。
式を採用しているため、
ラインレートは蓄積時間 (Resetの
High期間)と1回のスキャンにかかる時間 (tscan)を用いて
計算します。G9201シリーズの最大CLK周波数は4 MHz、
最小蓄積時間は6 µsのため、G9201-256Sの最大ライン
レートは式 (13)で表されます。
(1) 駆動回路への電源投入
センサに供給する電源電圧 (Vdd, INP, Vrefなど)を確
認してから電源を投入します。
このとき、電流値が正常で
最大ラインレート = 1/(設定蓄積時間 + tscan) .......... (13)
= 1/(6 [μs] + 515.5 [μs])
= 1917 [lines/s]
あることを確認してください。
過電流が流れている場合は、
電源ラインがショートしている可能性があるため、
速やかに
蓄積時間が長くなると、
ラインレートは下がります。
159
[図7-16] タイミングチャート
(a) G9201シリーズ
KACCC0224JB
項目
章
5
クロックパルス周波数
イメージセンサ
クロックパルス幅
クロックパルス上昇/下降時間
リセットパルス幅
リセットパルス上昇/下降時間
記号
Min.
Typ.
Max.
単位
f
0.1
-
4
MHz
tpw(clk)
100
-
-
ns
tr(clk), tf(clk)
0
20
100
ns
tpw(RES)
6000
-
-
ns
tr(RES), tf(RES)
0
20
100
ns
リセット (上昇)タイミング
t1
50
-
-
ns
リセット (下降)タイミング
t2
50
-
-
ns
出力セトリング時間
t3
-
-
600
ns
(b) G11135シリーズ
KMIRC0050JC
160
7. InGaAsリニアイメージセンサ
項目
記号
Min.
Typ.
Max.
単位
f
0.1
-
5
MHz
tpw(clk)
60
100
-
ns
tr(clk), tf(clk)
0
20
30
ns
*1
-
*2
チャンネル数 + 12
-
-
0
20
30
クロックパルス周波数
クロックパルス幅
クロックパルス上昇/下降時間
High
リセットパルス幅
Low
リセットパルス上昇/下降時間
tpw(RES)
tr(RES), tf(RES)
clock
ns
*1:
(8 µs + 5 CLK)、 (18 µs - 1 CLK)のうちの長い方の時間
*2: 1.008 ms - 1 CLK
・例2: InGaAsリニアイメージセンサ G11135-512DE
をCLK周波数 5 MHzで動作させる場合
Video信号の読み出し周波数は、CLK信号の周波数と
くしてください。
・電子冷却素子の破損を避けるため、過電流防止回路を
必ず付けてください。
同じであり、1画素当たりの読み出し時間 (tr)は0.2 µsで
・ 放熱器の高温側の温度をモニタし、過冷却で放熱器の
す。
このため、1回のスキャンにかかる時間 (tscan)は、式
温度が設計値以上にならないように保護回路を付けてく
(14)のようになります。
ださい。
・ 図7-13・図7-14を参照して、
目標温度にするために最適
な電圧値・電流値を設定してください。
章
tscan = (tc × 12) + (tr × N) ....................... (14)
= 0.2 [ s] × 12 + 0.2 [ s] × 512
5
= 104.8 [ s]
リセット時間は、
スキャン時間より大きくする必要がある
ため、
リセット時間>104.8 µsに設定します。
スキャン時間
は、
Reset信号のパルス幅やCLK信号との同期の仕方によ
り若干長くなります。
G11135シリーズは全画素同時蓄積/順次読み出し方
式を採用しているため、
ラインレートは蓄積時間 (Resetの
High期間)と1回のスキャンにかかる時間 (tscan)を用いて
計算します。
G11135シリーズの最大CLK周波数は5 MHz、
最小設定蓄積時間は17.8 µsのため、
G11135-512DEの最
大ラインレートは式 (15)で表されます。
イメージセンサ
7-6
tc: CLK周期
N : 画素数
新たな取り組み
InGaAsイメージセンサは、近赤外域の分光測光用に広
く利用されています。近赤外域の光を試料に照射し、反射
または透過した拡散光を分光することにより、特徴的なス
ペクトルを得ることができます。
このスペクトルには、
試料の
構成部分に関する複数の情報が含まれており、短時間に
非破壊で定量/定性分析を行うことができます。
また、近
赤外分光器は小型化され、実験室からオンラインや屋外
において使われるようになりました。
近赤外用イメージセンサは、
用途の拡大に伴い高いコスト
パフォーマンスを求められています。
そのためにはウエハを
大面積化し、
その上でチップを小型化する必要があります。
最大ラインレート = 1/(設定蓄積時間 + tscan) .......... (15)
= 1/(17.8 [μs] + 104.8 [μs])
= 8156 [lines/s]
この問題に対して裏面入射型構造は、
チップの小型化
とともに配線容量の減少による高速化を実現しました。今
後は狭ピッチチャージアンプアレイの開発により、
従来問題
設定蓄積時間が長くなると、
ラインレートは下がります。
(4) 電子冷却素子への電源投入
電子冷却素子への電源の投入時には、
センサを破損さ
とされてきたビデオラインごとの出力バラツキを抑えていき
ます。
また、
裏面入射型InGaAsチップのInP基板を薄型化
することで、
短波長域の感度を向上させ、
可視域から近赤
外域までの広い範囲の光検出を可能にしていきます。
せないように十分に注意する必要があります。
電子冷却素
子の電源回路を設計する場合、次の点について注意して
ください。
・絶対最大定格を超えて使用しないでください。
・電源電圧・極性を間違えないように確実に行ってくださ
い。間違えた状態で電源を投入すると、センサを破損
します。
・電源は、
できる限り低ノイズ・低リップルのものを使用して
ください。電源ラインは、低インピーダンスになるように配
線はできるだけ太くしてください。
特にTE+・TE-は必ず太
161
8.
[図8-1] 分光感度特性
InGaAs
エリアイメージセンサ
人の目には見えない近赤外線を感知し、微弱光を画像
化することが可能なInGaAsエリアイメージセンサです。
高い
量子効率の裏面入射型InGaAsフォトダイオードの2次元ア
レイと、
高ゲインで低ノイズのCMOS読み出し回路 (ROIC:
Readout Integrated Circuit)をInバンプで接続したハイブリッ
ド構成です。
1画素は、
1素子のInGaAsフォトダイオードと1
つのROICから構成されています。
ROICにはタイミング発生
器が内蔵されており、
外部からマスタークロック (MCLK)と
マスタースタートパルス (MSP)を入力するだけで、
アナロ
KMIRB0084JA
グビテオ出力、
AD_trigデジタル出力が得られます。
ROIC
8-1
特長
章
InGaAsエリアイメージセンサのROICは、
InGaAsフォトダ
5
イメージセンサ
・カットオフ波長: 1.7 µmまたは1.9 µm
イオードの特性に合わせCMOS技術を用いて作製されて
います。信号処理を行うアナログ回路と、
タイミング発生器
・高い量子効率
のデジタル回路を同一のチップ上に搭載して、多機能・高
・高感度: 1600 nV/e- min.
性能とともにシステムの低コスト化を実現しています。
・読み出しモード:
ROICには、CTIA (Capacitive Trans-Impedance
Amplifier)タイプとSF (Source Follower)タイプの2種類が
グローバルシャッタモード、
ローリングシャッタモード
あります。
用途に適したROICのタイプを選ぶ必要がありま
・簡易動作: タイミング発生器を内蔵
す。
それぞれのタイプのブロック図を図8-2に示します。
・量産可能なTO-8パッケージのタイプを用意:
CTIAタイプのメリットは、電荷−電圧変換部がアンプ構
小型、低価格
成であることと、InGaAsフォトダイオードへの印加電圧を
一定に保持できるため優れた直線性をもつことです。
デメ
8-2
リットは、
アンプに供給する消費電流が大きいことと、消費
構成
電力が大きくセンサの温度上昇があるため電子冷却素子
による温度制御が必要であることです。
また、CTIAタイプ
InGaAsフォトダイオード
はSFタイプに比べアンプのサイズが大きいため、
ピッチが
大きくなります。
InGaAsエリアイメージセンサに内蔵した裏面入射型
SFタイプは、
高ゲイン・高分解能を実現しています。
電荷
InGaAsフォトダイオードの2次元アレイは、近赤外域で高
−電圧変換部が単純な構成で小型のため、
ピッチを小さく
い量子効率を実現しています [図8-1]。
なお、
フォトダイ
でき高密度化が可能です。
また、低消費電力のため冷却
オードの温度制御を行うために電子冷却素子を内蔵した
する必要がありません。
さらに、
寄生容量を減らすことがで
タイプも用意しています。
きるため、高感度化が可能です。
なおSFタイプのデメリット
[表8-1] 浜松ホトニクスのInGaAsエリアイメージセンサ
タイプ
小型
カットオフ波長
(µm)
1.7
高分解能
長波長、小型
画素数
高分解能、小型
162
50
CTIA
128 × 128
20
640 × 512
冷却
1段電子冷却
64 × 64
1.7
VGA
ROIC
64 × 64
128 × 128
1.9
画素ピッチ
(µm)
パッケージ
TO-8
28Lメタル
2段電子冷却
TO-8
2段電子冷却
TO-8
4段電子冷却
40Lメタル
SF
8. InGaAsエリアイメージセンサ
[図8-3] InGaAsエリアイメージセンサの概念図
は、
直線性の範囲が狭いことです。
[図8-2] ブロック図
(a) CTIAタイプ
KMIRC0036JB
KMIRC0078JA
8-3
特性
(b) SFタイプ
入出力特性
章
5
入出力特性は、
イメージセンサの入射光量と出力の関
イメージセンサ
係を示す特性です。
InGaAsエリアイメージセンサはチャー
ジアンプ方式で動作するため、露光量 (単位: J)は、光量
(単位: W)と蓄積時間 (単位: s)の積で表されます。
図8-4
に入出力特性の概念図を示します。斜線部分は式 (1)で
表されます。
[図8-4] 入出力特性の概念図 (対数グラフ)
KMIRC0079JA
信号の読み出し方式には、
グローバルシャッタモードと
ローリングシャッタモードがあります。
グローバルシャッタ
モードでは、全画素が同時にリセットされ、全画素同時に
積分が開始されます。
このため、同じ時間に蓄積された
データが全画素から出力されます。
ローリングシャッタモー
ドは、1行ごとにリセットを行い、出力後、直ちに積分を開
始します。
フレームレートを優先する場合には、
ローリング
シャッタモードを選択する必要があります。
Inバンプ
Inバンプは、
InGaAsフォトダイオードとROICを電気的に
接続しています。Inのヤング率は、Au・Cu・Alと比較すると
低く、融点は157 ̊Cのため熱的歪みを抑えられるため、熱
膨張係数が異なる金属や半導体の接続に適しています。
KMIRC0019JB
y = axγ + b ……… (1)
y : 出力電圧
a : 感度 (露光量に対する出力比)
x : 露光量
γ: 傾き係数
b: 暗出力 (露光量=0のときの出力)
出力電圧の上限はROICの出力電圧範囲で決まるため、
入出力特性は屈曲点をもちます。
この屈曲点における露光
量を飽和露光量、
出力電圧を飽和出力電圧、
チャージアン
プに蓄えられた電荷量を飽和電荷量と呼びます。
当社のデータシートでは、
飽和出力電圧 (Vsat)は、
光入
射による出力の飽和電圧から暗出力を引いた差と定義し
ています。
飽和電荷量は、
飽和出力電圧からQ = C Vにより
163
算出されます。
積分容量 (Cf) 0.1 pF、
飽和出力電圧 2.0 V
の場合、
飽和電荷量は0.2 pCとなります。
力信号の純度を高めることができます。暗出力は式 (3)で
表されます。蓄積時間は、暗出力の大きさを考慮して決め
る必要があります。
Vd = ID × (Ts/Cf) + Voff ……… (3)
感度不均一性
InGaAsエリアイメージセンサには多数のInGaAsフォト
ダイオードが配列されていますが、
それぞれのフォトダイ
オードの感度にはバラツキがあります。
これは、InGaAs基
板内の結晶欠陥や製造工程における加工や拡散のバ
ラツキ、ROICのゲインのバラツキなどに起因しています。
当社のInGaAsエリアイメージセンサでは、
フォトダイオー
ドの有効受光面に均一な光を入射したときの全画素出
力のバラツキを感度不均一性 (PRNU: Photoresponse
Nonuniformity)として、
式 (2)で定義しています。
温度が低いほどバンドギャップが広がり、伝導帯から価
電子帯に励起するキャリアの数が減るため、暗電流は指
数関数的に減少します。
当社のInGaAsエリアイメージセン
サの場合、
暗電流の温度係数 (㸥)は1.06∼1.1であり、
ある
温度 T1 (単位: ̊C)における暗電流をIDT1 (単位: A)とする
と、
任意の温度 Tにおける暗電流 I DTは式 (4)で表されま
す。
PRNU = (ΔX/X) × 100 [%] ……… (2)
章
5
Vd : 暗出力 [V]
ID : 暗電流 [pA]
Ts : 蓄積時間 [s]
Cf : 積分容量 [pF]
Voff : ROICのオフセット電圧 [V]
IDT = IDT1 × 㸥 (T - T1) [A] ……… (4)
X : 全画素の出力の平均値
ΔX: 最大または最小出力画素の出力とXとの差の絶対値
図8-6は、G12242-0707Wの暗電流の温度特性 (ランダ
イメージセンサ
感度不均一性についての製品出荷時の検査は、飽和
出力電圧の約50%、光源はハロゲンランプで行っていま
す。
InGaAsエリアイメージセンサは、
光電変換部に化合物
ムサンプリング)を示します。
[図8-6] 暗電流の温度特性 (G12242-0707W)
半導体結晶を用いているため、
フォトダイオードアレイ中に
結晶欠陥が存在し、異常出力信号を示す画素 (不良画
素)があります。
また、受光窓上の傷や汚れによって感度
均一性が悪化することがあるため、
素子の取り扱いには注
意が必要です。
図8-5に感度不均一性の測定例 (ランダム
サンプリング)を示します。
[図8-5] 感度不均一性 (G12242-0707W, 代表例)
KMIRB0085JA
ノイズ
InGaAsエリアイメージセンサのノイズは、
固定パターンノ
イズとランダムノイズに大別されます。固定パターンノイズ
KMIRB0086JA
には、ROICのDCオフセット電圧やフォトダイオードの暗電
流などがあります。
暗電流はDC成分の電流性ノイズです。
暗出力
暗出力は、光が入射していない状態の出力です。
フォト
ダイオードの暗電流 (拡散電流・再結合電流・表面リーク
電流の合計)とROICのオフセット電圧の和として出力され
ます。
ビデオ出力の上限は飽和出力電圧で制限されるた
め、暗出力が大きいと出力信号のダイナミックレンジが狭く
なります。暗出力と光出力の和が出力信号となるため、画
素ごとに暗出力を減算する信号処理を行うことにより、
出
164
固定パターンノイズは読み出し条件が変わっても一定で、
外部信号処理によってキャンセルすることができます。
ランダムノイズは、
センサ内部で信号が出力される過程
に起こる
「電圧・電流・電荷の揺らぎ」
によって生じます。
固
定パターンノイズを外部信号処理でキャンセルした場合、
ランダムノイズがInGaAsエリアイメージセンサの微弱光に
対する検出限界、
すなわちダイナミックレンジの下限を決定
します。
ランダムノイズには次の4種類の成分があります。
8. InGaAsエリアイメージセンサ 9. 応用例
① 暗電流によるショットノイズ (Nd)
② 光入射時の信号電流によるショットノイズ (Ns)
9.
応用例
9-1
DNAシーケンサ
③ チャージアンプをリセットする際のリセットノイズ (Nr)
④ CMOSチャージアンプの読み出しノイズ (NR)
①の暗電流によるショットノイズは、
電荷の不規則な揺ら
ぎによって生じます。
このノイズは暗電流による出力電荷
裏面入射型CCDの応用例の1つとして、
DNAシーケンサ
量とともに増加するため、蓄積時間・温度などの動作条件
を紹介します 9)。
断片化され蛍光色素で標識されたDNAを
によって値が異なります。②のショットノイズは、入射フォト
分子量の大きさに従って分離させ、
レーザ光で励起し、
その
ンが不規則に到達することによる揺らぎによって生じます。
蛍光を検出することにより塩基配列を順次読み取ります。
トータルノイズ (N)は、
式 (5)で表されます。
N=
Nd2 + Ns2 + Nr2 + NR2 ......... (5)
DNAシーケンサは、
DNAの4種の塩基 (アデニン、
チミン、
シトシン、
グアニン)に対応する微弱な蛍光を精度よく検出
することが求められ、可視域で極限に近い高い量子効率
当社では、
InGaAsエリアイメージセンサのノイズ量 (単位:
V rms)を各画素の出力電圧の揺らぎで定義しています。
8-4
をもつ裏面入射型CCDが利用されています。
[図9-1] DNAシーケンサの構成
章
新たな取り組み
5
イメージセンサ
近赤外線検出素子としてInGaAsエリアイメージセンサ
は、単素子InGaAs PINフォトダイオード・InGaAsリニアイ
メージセンサよりも、検出によって得られる情報が格段に
増加します。
その応用分野は広がりつつあり、
セキュリティ
などに利用されるナイトビジョン、
プラスチック選別 (ペット
ボトルなどの廃棄物)、
農作物選別 (穀類など)、
半導体解
析装置、天文・衛星などの学術研究など多岐にわたりま
す。
ナイトビジョンや半導体解析装置では、対象物からの
KMPDC0204JA
微弱な発光を再現性よく検出することが要求されます。
そ
のためには、高感度・高解像度が必要とされます。
これを
実現するためには、変換ゲインを上げることと狭ピッチ化
9-2
ICP AES装置
を同時に達成する必要があります。
当社はROICの最適化
と、狭ピッチのバンプ接合の開発を進めています。選別機
ICP AES (Inductively Coupled Plasma Atomic
では、対象物により使用する波長が異なります。農産物の
Emission Spectroscopy)装置は、
液体中の微少金属を定
選別では長波長が使用され、
さらに高速処理も要求され
性/定量分析する装置で、環境測定用として急速に需要
ます。
当社は、
長波長タイプのInGaAsエリアイメージセンサ
が拡大しています。
の大面積化とともに、
バッファアンプの高速化とマルチポー
ICP AES装置には、高い検出感度および精度が要求さ
ト化による高速処理を実現していきます。
れるため、
低ノイズ・高感度の裏面入射型CCDが使用され
ています。検出波長域の一部は紫外域であり、裏面入射
型CCDの高い紫外感度がICP AES装置の高感度化に役
立っています。
[図9-2] 各種分析法の感度比較
KMPDC0205JA
165
9-3
発光分光分析装置
[図9-3] 穀物選別機の構成
発光分光分析装置 (OES: Optical Emission Spectrometer)
は、試料にさまざまな方法でエネルギーを与えて、放射さ
れた光を分光分析することで、試料の成分の定性/定量
分析をします。放射される光のスペクトルは試料に含まれ
る元素により異なり、紫外域から近赤外域にわたります。
当社の裏面入射型CCDリニアイメージセンサは、
発光分光
分析装置に適した高い紫外感度を実現しています。
9-4
分光測光装置
電子冷却素子を内蔵した表面入射型CCDのS9971シ
リーズは、広い波長範囲 (400∼1200 nm)における分光
分析に用いられます。
同じ受光面積の裏面入射型CCDに
KMIRC0037JA
比べて安価なため、
コンパクトな分光測光装置用のセンサ
章
5
に適しています。
9-6
イメージセンサ
紫外域から近赤外域で高い感度をもつ裏面入射型
CCDエリアイメージセンサは、
ビニング時に縦長画素のリニ
光チャンネルモニタ
伝送情報量の多い波長多重 (WDM)ネットワークにお
アイメージセンサとして使用することができます。
幅広い波
いて、信号の波長・パワーをモニタする光チャンネルモニ
長範囲にわたり高感度で、分光測光装置に適したセンサ
タ (OCM)というデバイスが重要な役割を果たしています。
構造のため、
LED検査装置や、
半導体プロセスモニタ用の
OCMにおいて、
InGaAsリニアイメージセンサは、
分光素子
光干渉式膜厚計をはじめ、高精度な測定が要求されるさ
により空間的に分波された光を検出します。
まざまな分光測光装置に搭載されています。
なお、当社のC C Dイメージセンサ、I n G a A sリニアイ
[図9-4] 光チャンネルモニタの構成例
メージセンサを内蔵したマルチチャンネル検出器 PMA
(Photonic Multichannel Analyzer) やミニ分光器も用意し
ています。
9-5
穀物選別機
穀物選別機では、流下する穀物に光を照射し、
その反
射光・透過光から不良品を識別し、高圧空気の噴射に
KMIRC0038JA
よって不良品を除去します。InGaAsリニアイメージセンサ
を用いることで、穀物の成分分析ができ同時に多数の穀
物の識別処理が可能になります。
9-7
SD-OCT (Spectral DomainOptical Coherence Tomography)
OCTは、光干渉を利用した断層イメージング技術です。
広波長帯域光源 (SLDなど)と分光器を用いたOCTが
SD-OCTであり、
眼底組織などの検査に利用されています。
光源からの光をビームスプリッタでプローブ光と参照光に
分けて、
プローブ光を対象物 (眼球など)に照射します。
プ
ローブ光と参照光による干渉信号をグレーティングで分光
し、
リニアイメージセンサが計測します。眼底の検査におい
ては高速イメージングが必要とされ、
当社製の高ラインレー
トのCCDリニアイメージセンサが利用されています。
166
9. 応用例
[図9-5] SD-OCTの構成
[図9-8] ロボットによる形状認識
KMPDC0460JA
9-8
セキュリティ、入退出管理、
障害物検知、形状認識
KMPDC0478JA
光源を対象物に照射して、反射光を測距イメージセン
サが検出することによって、
TOF (Time-of-Flight)方式で
対象物までの距離を計測します。距離計測システムを構
すばる望遠鏡の
主焦点カメラ用検出器
章
築し画像処理を行うことで、
セキュリティ・入退室管理 (共
9-9
5
形状認識 (物流、
ロボットなど)、モーションキャプチャなど
近赤外高感度タイプ裏面入射型CCD (Si厚を厚くした
への応用が期待されます。
完全空乏型CCD)は、
ハワイ島マウナケア山の山頂に設置
イメージセンサ
連れ検知など)、
障害物検知 (自動走行車、
ロボットなど)、
されている国立天文台すばる望遠鏡の主焦点カメラ用検
[図9-6] セキュリティ (共連れ検知)
出器として使用されています。
このCCDの特長である1000
nmにおける高い量子効率は、
ダークエネルギーの研究、
宇宙で最初にできた天体の発見といった遠方宇宙の研究
など、観測天文学の最先端分野に多大な貢献をすること
が期待されています。
2008年には、
当社のCCD (S10892-01)が10個配置さ
れたSuprime-Camの運用が始まりました。
2013年からは、
青領域の感度をさらに向上させたCCD (S10892-02)を焦
点面に116個配置したHyper Suprime-Camによる観測が
開始されました。
このCCDは可視域から1000 nmの近赤
外域だけでなく、軟X線領域 (∼20 keV)にも高い感度を
KMPDC0474JA
もっています。
この優れた性能により、
日本のX線天文衛星
ASTRO-Hへの搭載も決まっています。
[図9-7] 自動車による障害物検知
[図9-9] すばる望遠鏡
KMPDC0475JA
KMPDC0476JA
167
[図9-10]すばる望遠鏡が撮影したアンドロメダ銀河
参考文献
1) Masaharu Muramatsu, Hiroshi Akahori, Katsumi Shibayama, Syunsuke
Nakamura and Koei Yamamoto, Hamamatsu Photonics K. K., Solid State
Division: "Greater than 90% QE in Visible Spectrum Perceptible from UV
to near IR Hamamatsu Thinned Back Illuminated CCDs", SPIE, Solid State
Sensor Arrays: Developments and Applications,3019 (1997), P2
2) M. P. Lesser, Steward Observatory, University of Arizona: "Chemical/
Mechanical Thinning Results", SPIE, New Methods in Microscopy and Low
Light Imaging, 1161 (1989),P98
3) James Janesic, Tom Elliott, Taher Daud, Jim McCarthy, Jet Propulsion
Laboratory California Institute of Technology, Morley Blouke, Tektronix.
Inc.,: "Backside charging of the CCD", SPIE, Solid State Imaging Arrays,
570 (1985), P46
4) Y. Sugiyama, et. al., "A High-Speed CMOS Image Sensor With Profile Data
Acquiring Function", IEEE Journal of Solid-State Circuits, Vol.40, No.12,
pp.2816-2823, (2005)
5) 宅見ら, “高速部分読み出しイメージセンサを用いた微弱光計測カメラの評
価”, 高速度撮像とフォトニクスに関する総合シンポジウム2005論文集, P2-3,
(2005)
6) Y. Sugiyama, et. al., “A 3.2kHz, 14-Bit Optical Absolute Rotary Encoder
with a CMOS Profile Sensor”, IEEE Sensors Journal, Vol.8, No.8, pp.14301436, (2008)
7) 松井ら, “点滅信号源に対するプロファイルセンサの基礎的評価”, 第15回画像
センシングシンポジウム, IS1-03, (2009)
章
5
9 - 10
小惑星探査機 はやぶさ
イメージセンサ
「はやぶさ」
の蛍光X線スペクトロメータ (小惑星の地表
物質を上空から調べる装置)の検出部として当社製CCD
エリアイメージセンサが採用されました。地表物質の元素
は、太陽からのX線が当たると、
そのエネルギーによって特
定の波長の蛍光X線を発します。
この蛍光X線は元素によ
り波長が決まっているため、
小惑星の地表から発せられる
蛍光X線を測定することで、
どのような元素がどのくらい存
在するのかを知ることができます。蛍光X線スペクトロメー
タは、今回の計測で小惑星「イトカワ」
の地表物質の組成
(マグネシウム、
アルミニウム、
シリコンなど)を調べることが
できました。
また、
「はやぶさ」
の近赤外線分光器には、近赤外域に
おける高い感度に加え、高い信頼性と耐久性が評価され
た当社製InGaAsリニアイメージセンサが採用されました。
近赤外線分光器は、小惑星の表面で反射した太陽光の
赤外線を分光し検出することにより、
地表の鉱物の種類や
地表形状を分析する装置です。
「イトカワ」
からの0.8∼2.1
µmの反射光を分光計測した結果、
1 µmと2 µm付近に反
射率の低下が存在したため、地表の鉱物にかんらん石と
輝石が含まれていることが分かりました。
168
8) 淨法寺ら, “点滅光源検出機能と高速部分読み出し機能を有する2ポート並列
出力型光通信用CMOS エリアイメージセンサ”, 第16回画像センシングシンポジ
ウム講演論文集, IS1-17, (2010)
9) 神原秀記 光アライアンス 1998. 12 光による遺伝子解析 分析展総覧
DNAシーケンサ (1998)12月号, P1