HFAN-02.5.0

Application Note:
HFAN-2.5.0
Rev. 5; 10/08
シングルエンド方式と差動方式によるレーザダイオードの駆動
Functional Diagrams
Pin Configurations appear at end of data sheet.
Functional Diagrams continued at end of data sheet.
UCSP is a trademark of Maxim Integrated Products, Inc.
LE
AVAILAB
シングルエンド方式と差動方式によるレーザダイオードの駆動
1
はじめに
最適化された光トランスミッタを設計するには、ドライバを
レーザダイオードに接続するための適切なインタフェース
回路が必須となります。一般的に、レーザダイオードの
シングルエンド駆動は、部品と基板のスペースが少なく
てすむため、簡単で利用しやすいソリューションです。
欠点としては、出力エッジ速度が比較的遅く、トランシーバ
の電源にノイズが加わるため、結果的にレシーバの
感度に影響するということがあります。近年の業界実績
によれば、差動駆動ベースの光トランスミッタによって、
シングルエンド駆動に伴う問題点を克服することができる
ことがわかっています。このアプリケーションノートは、
差動駆動がどのようにしてシングルエンド駆動よりも
速いエッジ速度を実現するかについて明らかにすること
を目的としています。
2
シングルエンド駆動と差動駆動の
回路構成
VCC
Laser Driver CP2
OUTCP1
RD
OUT+
BIAS
RF
CF
図1. シングルエンド方式によるレーザダイオードの駆動
VCC
Laser Driver CP2
OUT-
シングルエンド駆動では、レーザ変調電流がレーザ
アノード(コモンカソードレーザ)またはレーザカソード
(コモンアノードレーザ)に流れます。図 1 は、コモン
アノードレーザを駆動する場合の簡略回路図です。変調
電流がダンピング抵抗(RD)を通ってレーザのカソードに
供給されます。レーザのアノードは電源にじかに接続され、
レーザバイアスはフェライトビーズで絶縁されたドライバ
バイアス出力から与えられます。DC および AC 負荷を
平衡化するために、ドライバの相補出力は、フェライト
ビーズと抵抗(レーザ負荷とダンピング抵抗の相当値に
一致)からなる並列ネットワークによって VCC にプルアップ
されます。RC シャントネットワーク(R F と C F )によって
高周波を減衰させています。ドライバ出力における容量
CP (CP1 と CP2)は、出力トランジスタの等価容量、パッケージ、
および基板レイアウトの寄生容量を結合した容量を表し
ています。
Application Note HFAN-02.5.0 (Rev. 5; 10/08)
CP1
OUT+
RD
BIAS
図2. 差動方式によるレーザダイオード駆動
図 2 は差動駆動の例を示しています。レーザのカソードは
ダンピング抵抗(RD)を経由し、ドライバ出力に AC 結合
されています。ドライバ出力は、フェライトビーズを通って
VCC にプルアップされ、出力トランジスタに DC バイアス
を与えます。ドライバの相補出力とレーザダイオードの
アノードの共有ノードは、フェライトビーズを経由して VCC
に接続されており、VCC からの高周波を絶縁しています。
レーザバイアスは、シングルエンド駆動の構成と同様の
方法で与えられています。同じレーザダイオードとドライバ
を使用した場合、2.5Gbps の差動駆動方式の光トランス
ミッタの方が、シングルエンド駆動よりもエッジ速度が
20ps 速くなることを示しています[1]。
Maxim Integrated
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3
シングルエンド駆動の充電と放電
VCC
図 1 のシングルエンド駆動の回路を再構成したものを
図 3 に示しています。簡単にするため、以下の説明では、
RF と CF 補償ネットワークについては省略します。レーザ
のターンオン期間に、出力トランジスタ T1 がシンク電流
を供給し、ダンピング抵抗 RD を介してレーザを変調し、
また寄生コンデンサ CP1 を充電します。CP1 の充電が
完了した後に、ようやく全変調電流がレーザの方に切り
替えられます。このコンデンサを充電する過渡電流が
主に立上りエッジの速度を妨げる原因です。
CP2
CP1
A
レーザがオフにされると、T1 はシンク電流を停止し、
レーザダイオードとダンピング抵抗で構成される一連の
ネットワークを介して寄生コンデンサ CP1 が放電されます。
この過渡電流によってレーザオフの遷移が遅くなり、
その結果、光出力の立下りが遅くなります。充電と放電
のループ時定数 τSE は、以下の式で概算されます。
RD
T2
T1
Modulation
Bias
τ SE ≈ ( R D + RL ) ⋅ C P
ここで、RL はレーザの等価抵抗です。レーザの直列イン
ダクタンスの寄与については、この解析には含まれて
いません。
直列抵抗 RD は、レーザとアセンブリのインダクタンスに
よって生じるオーバシュートやリンギングを減衰させる
ために必要です。このため、ドライバ出力ノードにおける
等価容量を減少させることが、高速な光エッジ速度を
達成するための重要なポイントとなります。図 4 はステップ
応答のシミュレーション結果を表しています。レーザダイ
オードは、1pF コンデンサと並列な 5Ω 抵抗としてモデル
化しています。ダンピング抵抗 RD は 10Ω が選択されて
います。このテストに使用されているトランジスタ(T1 と T2)
のエッジ速度(20%~80%)は約 25ps です。シミュレート
したレーザダイオード出力のエッジ速度を表 1 に示します。
立下りエッジが立上りエッジよりも遅くなっています。
表 1. シングルエンド駆動のエッジ速度(単位:ps)と出力
容量
CP (CP1 & CP2)
1pF
2pF
3pF
tr/tf (20%-80%)
41/46
53/59
71/78
tr/tf (10%-90%)
60/72
83/97
118/125
Application Note HFAN-02.5.0 (Rev. 5; 10/08)
VCC
CP2
CP1
A
RD
T2
T1
Modulation
Bias
図3. シングルエンド駆動回路の充電ループ(上図)と
放電ループ(下図) (点線は、コンデンサが充電/放電する
場合の過渡電流を表します)
Maxim Integrated
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0.055
0.053
0.050
0.048
0.045
0.043
0.040
0.038
0.035
0.033
0.030
0.028
0.025
0.023
0.020
1pF
2pF
3pF
0
100
200
300
400
500
600
700
800
Time (ps)
図4. シングルエンド駆動のステップ応答シミュレーション
もう 1 つの欠点は、シングルエンド駆動では、VCC プレーン
に大量の過渡電流が流れてしまうということです。レシ
ーバが電源からのノイズを拾い、光レシーバの感度に
影響を与えてしまうことにならないよう、トランシーバの
レイアウトと電源デカップリングを綿密に設計する必要
があります。
4
差動駆動の充電と放電
図 5 は、レーザダイオードを差動で駆動した場合の電流の
流れを示しています。レーザがオンになると、出力トラン
ジスタ T1 がシンク電流を供給して、T1 のコレクタでの
寄生容量 CP1 を充電し、ダンピング抵抗 RD と AC 結合
コンデンサを介してレーザを変調します。フェライトビーズ
が電流の流れを一定にするため、iCP1 = iCP2 となります。
レーザオフの期間にドライバの電流が相補側に切り替え
られると、充電と放電のプロセスが同じループで逆に
なります。
差動駆動でシングルエンド駆動と同じレーザ変調電流を
達成するには、レーザダイオードとダンピング抵抗に対
する電圧スイングの振幅を同じ値に保つことが必要です。
つまり、シングルエンド駆動のノード A (ΔVA)における
電圧スイングが差動駆動での(VA - VB)に等しくなると
いうことです。したがって、差動駆動の寄生容量 CP1 と
CP2 に対する電圧スイングは、シングルエンド駆動の電圧
スイングのわずか半分になります。全体的な効果として、
差動駆動では信号の伝達が速くなります。レーザオンと
レーザオフの時定数 τDF は、以下の式で概算されます。
τ DF ≈ (R D + R L ) ⋅
CP2
1
= ( RD + RL ) ⋅ C P
1 + C P 2 / C P1 2
図5. 差動駆動回路の充電ループ(上図)と放電ループ
( 下図 ) ( 点線は、コンデンサが充電 / 放電する場合の
過渡電流を表しています。フェライトビーズを流れる電流
は一定とみなされます)
差動駆動の時定数 τDF はシングルエンド駆動の時定数
τSE のおよそ半分であり、トランスミッタのエッジ速度が
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Maxim Integrated
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速くなるということです。図 6 と表 2 はステップ応答の
シミュレーション結果を表しています。2pF の出力容量
の場合、20%~80%と 10%~90%での立下りエッジ
速度は、それぞれ 20ps と 43ps 向上しています。
表 2. 差動駆動のエッジ速度(単位:ps)と出力容量
CP (CP1 & CP2)
1pF
2pF
3pF
tr/tf (20%-80%)
34/34
39/39
45/45
tr/tf (10%-90%)
51/50
58/57
71/69
0.0425
0.04
0.0375
0.035
0.0325
0.03
0.0275
0.025
1p
2p
3p
0.0225
0.02
0.0175
0.015
0.0125
5
結論
このアプリケーションノートは、差動レーザ駆動構成を
用いることによって、光トランスミッタのエッジ速度が
改善されることを示しています。差動駆動の主な利点の
1 つは、出力ノードでより多くの容量を許容することが
できるということです。ただし、これは出力容量を無視
してもよいという意味ではありません。優れた高周波の
基板レイアウト技術や、出力容量の他の低減手法は
依然として重要です。また、実際のアプリケーションでは
(このアプリケーションノートでは取り上げていませんが)、
その他数多くの要素についても考慮しなければなりません。
たとえば、(a)回路に別の極をもたらすレーザの等価
容量、および(b)エッジ速度を遅延させ、立上りエッジと
立下りエッジの関係を非対称にするレーザの電気-光変換、
などがあります。これらの要因があるため、高速な動作
を実現するためには、比較的速いレーザダイオードと
ともに、レーザパッケージのインダクタンスの最小化も
必要となります。
参考資料
0.01
0.0075
0
100
200
300
400
500
600
700
800
Time (ps)
図6. 差動駆動のステップ応答シミュレーション
[1] アプリケーションノート:「MAX3735A: MAX3735A
Laser Driver Output Configurations, Part 3:
Differential Drive」Maxim Integrated Products、2003
年 11 月
差動駆動方式は、その対称性から容量負荷に対して
優れた耐性を示します。出力容量によるエッジ速度の
低下がシングルエンド駆動よりも大幅に少なくなります。
また立上り 時間と 立下り 時間が 一致 しているため 、
トランスミッタの光アイダイアグラムを容易に最適化する
ことができます。一方、レーザの充電と放電のループ
には同じ外部回路が含まれるため、基板レイアウトでの
ばらつきや不整合を幅広く許容することが可能で、VCC
プレーンに余分なノイズが付加されることがありません。
欠点は、差動駆動方式はドライバとレーザダイオード
間の AC 結合をベースとしているため、アプリケーション
によっては低周波カットオフの問題を生じる可能性が
あるということです。
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