RF システム向けの堅牢な 10MHz リファレンス・クロック入力保護 回路および分配器 – デザインノート 514 Michel Azarian はじめに RF システム向けリファレンス入力回路は、設計の難易度 が高くなりがちです。1 つの課題は、クロックの保護要 件、バッファ要件、および分配要件を満たしながら入力ク ロックの位相ノイズ性能を維持することです。 本記事は、 10MHzリファレンス入力回路を設計し、その性能を最適 化する方法を紹介します。 LTC6957 は、PECL、LVDS、および CMOS(同相お よび相補)の各種出力ロジック信号オプションを提供して おり、幅広い負荷をドライブできます。 図 2 は、2 つの 同相 CMOS 出力を供給する、LTC6957-3 を使用した 10MHzリファレンス入力回路を示しています。 図 2 に示すトランスは、いくつかの役割を果たしています。 まず、隣り合う複数のショットキ・ダイオードと一緒に、入 力過電力 / 過電圧保護を提供します。これらのダイオー 設計要件 RF 機器やワイヤレス・トランシーバは、多くの場合、外部 ドにより、LTC6957-3 に入る AC 電圧が制限されます。 リファレンス・クロック用の入力を備えています。たとえば、 WBC16-1T は、 最 大 0.25W の 電 力(50Ω に 対し て RF 機器に見られるユビキタス 10MHzリファレンス入力 3.5VRMS)に対応しています。 ポートなどです。これらのシステムの多くは、そのリファレ また、このトランスは、通常 RF システムのシャーシに接 ンス・クロックをシステム全体に分配するための機能も備 続されているコネクタ・グランドをシステムの内部アナロ えています。図 1 は、1 つのリファレンス・クロックから 2 グ・グランドから絶縁します。 つの独立した位相ロック・ループ(PLL)にリファレンス入 さら に、 入 力 信 号 に 対 し て 電 圧 利 得 が あ る の で、 力を供給する場合の一般的な構成を示しています。 LTC6957-3 に入るエッジを鋭くする役割も果たします。 注意深く堅牢に設計された入力は、幅広い振幅にわたる これにより、AM から PM へのノイズ変換が少なくなり、 正弦波と方形波の両方の信号を受け入れることができま 特に入力信号が小さい場合の位相ノイズ劣化が抑えられ す。また、入力が変化した場合でも、システム内の PLL ます。WBC16‑1T の電圧利得は 4 です。LTC6957-3 への入力は、一定の信号レベルでのドライブを維持します。 は、このトランスに対して高インピーダンスの負荷となる 外部に面するリファレンス入力ポートは、過電圧 / 過電力 ため、トランスの最大および理想電力利得の 1 とは対照 保護を備えている必要があります。そして、何より重要な 的に、電圧利得の 4 は信頼できます。 のは、クロック信号の位相ノイズ性能の避けられない劣化 R1 と R2 は、入力ポートに合わせて 50Ω に調整できま を最小限に抑えることです。 す。入力信号が小さい場合、ダイオードはオフで、トラン 設計の実装 スには図 2 の場合 804Ω の負荷がかかります。この負荷 ® LTC 6957 は、付加される位相ノイズ(またはジッタ)が は、トランスの 1 次側と 2 次側のインピーダンス比が 16 非常に小さいデュアル出力のクロック・バッファおよびロ であることから、約 50Ωとして入力に反映されます。 入 ジック変換器です。LTC6957 は、幅広い振幅にわたる 力信号が大きい場合、ショットキ・ダイオードがオンになり、 正弦波と方形波の両方を入力として受け入れ、一定の振 604Ω の抵抗は下がり、短絡に近い状態になります。こ 幅で負荷をドライブします。 れにより、リファレンス入力のリターン・ロスが劣化します。 これは R1 と R2 の値を調整することで回避できる問題で すが、それによって犠牲になる側面があります。 10MHz PLL1 PLL1 REF 10MHz REF IN LO1 PROTECTION 10MHz PLL2 LO2 OR PLL2 REF ADC/DAC CLOCK DN4MA F01 図 1.RF システム向けの一般的なリファレンス入力 およびリファレンス分配を示すブロック図 05/13/514 入力信号が大きい場合、入力リターン・ロスは、R1 と R2 の直列抵抗の合計を約 800Ω に維持しながら、R1 の値 を大きく、R2 の値を小さくすることで改善できます。しか L、LT、LTC、LTM、Linear Technology および Linear のロゴはリニアテ クノロジー社の登録商標です。その他すべての商標の所有権は、それぞれの所 有者に帰属します。 3.3V 3.3V 0.1µF 0.1µF WBC16-1T 10MHz REF IN –10dBm to 24dBm R1 100Ω 0.1µF R1 100Ω HSMS-281C 0.1µF FILTA PHASE NOISE FLOOR = –169dBc/Hz AT 100kHz OFFSET 2 3 R2 604Ω 0.1µF 4 5 FILTB WENZEL 501-04608A 1 10MHz TEST TONE –10dBm to 10dBm PHASE NOISE FLOOR = –163dBc/Hz AT100kHz OFFSET AND –10dBm PHASE NOISE FLOOR = –169dBc/Hz AT100kHz OFFSET AND 10dBm 6 LTC6957HMS-3 12 SD1 FILTA 11 + + VOUT V 10 IN+ OUT1 9 OUT2 IN– 8 GNDOUT GND 7 SD2 FILTB 0.1µF 0.1µF CMOS OUT1, 10MHz CMOS OUT2, 10MHz AGILENT E5052A 100Ω PHASE NOISE FLOOR READING 100Ω DN514 F02 図 2.LTC6957-3 を使用した、フロントエンド保護を備えた 10MHz リファレンス入力回路。 テスト信号と位相ノイズ測定セットアップを記載 図 2 で選択した R1 と R2 の値を使用すると、リファレン ス入力の電力が 50Ω に対して 0dBm のとき、入力リター ン・ロスが –9dB になります。リターン・ロスは、入力電力 が小さい場合に向上し、電力が大きい場合は劣化します。 PHASE NOISE FLOOR AT 100kHz OFFSET (dBc/Hz) し、R1 は信号に対して直列なため、信号にノイズが付加 されます。大きい R1 と小さい R2 を組み合わせることで、 LTC6957-3 の入力に供給される信号の比率が下がり、 位相ノイズ性能がさらに低下します。言い換えれば、設計 者は、入力リターン・ロスに対する位相ノイズ性能を、R1 と R2 の値を調整することでトレードオフできます。図 2 は、 これらの 2 つの性能指標の全体的なバランスを考えて選 択した値を示しています。 図 2 でトランスとコネクタを分離している AC カップリング・ コンデンサは、DC ソースからの入力保護を提供します。 LTC6957-3 は、FILTA ピンおよび FILTB ピンを介して 選択できる内部ローパス・フィルタを備えています。この オプションは、次に示すように、特に入力信号が弱い場合 に、LTC6957 の第 1 増幅段の帯域幅、すなわち、回路 の付加的な位相ノイズを戦略的に制限します。 性能 10MHz OCXO は、図 2 に示すステップ減衰器を介して 回路の入力に接続されています。Agilent E5052A シグ ナル・ソース・アナライザを使用して、LTC6957-3 の出 力における位相ノイズ・フロアをさまざまな入力フィルタ設 定で測定しながら、リファレンス入力信号を –10dBm ~ 10dBm の間で変化させました。図 3 は、 100kHz オフセッ トで測 定された LTC6957-3 の 10MHz CMOS クロッ ク出力の位相ノイズ・フロアを示しています。 外部で印加された 10MHzリファレンス信号の振幅が未知 の場合、FILTA を "L" に引き下げ、FILTB を "H" に引き 上げることで、図 3 に示すように全体的な位相ノイズ性能 が向上します。とはいうものの、入力で印加された信号 レベルが測定済みで適切なフィルタ設定が適用されている 場合、性能は最適化できます。 –140 –145 –150 FILTA, FILTB = L, L FILTA, FILTB = L, H FILTA, FILTB = H, L FILTA, FILTB = H, H OPTIMUM FILT SETTINGS –155 –160 –165 –170 –10 –5 0 5 10MHz REFERENCE INPUT POWER WITH REFERENCE TO 50Ω (dBm) 10 DN514 F03 図 3.さまざまな LTC6957 フィルタ設定を使用した 10MHz リファレンス入力電力レベルに対する、 LTC6957-3 の出力における 100kHz オフセット 位相ノイズ・フロア まとめ LTC6957-3 をベースにして、堅牢で高性能な 10MHz リファレンス入力回路を構築できます。位相ノイズの劣化 を抑えながら、幅広い入力信号タイプおよびレベルに対応 し、保護、クロック分配機能を提供します。 回路の位相 ノイズおよび入力リターン・ロスを評価し、最適化します。 LTC6957-3 は、設計プロセスを単純化するとともに、最 高の総合的性能を達成します。 LT6957 のデータシートのダウンロード: http://www.linear-tech.co.jp/product/LTC6957 リニアテクノロジー株式会社 102-0094 東京都千代田区紀尾井町 3-6 紀尾井町パークビル 8F TEL(03)5226-7291 FAX(03)5226-0268 http://www.linear-tech.co.jp dn514f LT/AP 0513 • PRINTED IN JAPAN © LINEAR TECHNOLOGY CORPORATION 2013