NJU8754 アプ アプリケーションノート アナログオーディオ用 アナログオーディオ用モノラル D 級パワーアンプ ■ 製品概要 NJU8754 は、アナログ信号入力、D 級動作出力のモノラル オーディオ用パワーアンプです。 アナログ信号を 1 ビット PWM 信号に変換する変調器と D 級動作のパワー MOSFET を内蔵しています。出力に LC 型ロー パスフィルタを接続することで低損失にオーディオ再生ができます。また、出力端子の短絡保護機能を有し、電源電圧 監視機能により電源投入時のボツ音を抑止する他、制御信号により無音状態と待機状態への遷移ができます。 ■ 応用回路 図 1 に代表的な応用回路例を示します。 C2 10uF C1 0.1uF VDD 1 C6 1uF In Mute 10uF VSS IN OUTP 2 3 C5 10 VDD 4 5 L1 22uH 9 COM VDDO MUTE OUTN STBY VSS 7 Out+ C7 1uF 8 L2 C8 1uF 22uH Out- 6 Standby VDD C3 C4 0.1uF 10uF 図 1. 応用回路例 <注意事項> 注意事項> 本アプリケーションノートに掲載されている製品の仕様等は、予告なく変更することがあります。ご使用にあたっては、納入 仕様書の取り交わしが必要です。 このアプリケーションノートの掲載内容の正確さには万全を期しておりますが、掲載内容について何らかの法的な保証を行う ものではありません。とくに応用回路・特性例については、製品の代表的な応用例を説明するためのものです。また、 工業所有権その他の権利の実施権の許諾を伴うものではなく、第三者の権利を侵害しないことを保証するものではあ りません。 Ver.2003-09-18 -1- NJU8754 アプ アプリケーションノート ■ 最大出力電力 [BTL 接続] BTL(Bridge-Tied-Load)接続の接続例を図 2 に示します。非反転信号出力端子(OUTP)と反転信号出力端 子(OUTN)出力を負荷の両端に接続します。 OUTP L C RL OUTN SpeakerSpeaker-phone 図 2. BTL 接続例 出力波形がクリップすることなく再生可能な最大出力電圧:VRL[Vrms]、最大出力電流:IRL[Arms]および出力電 力:PO[W]は、パワー MOSFET のオン抵抗:RDS[Ω]とコイルの直流抵抗:RDC[Ω]およびスピーカの負荷インピーダンス:RL[Ω] より式(1)∼(2)を用いて概算できます。 VRL2 PO = = IRL2 × RL RL ・・・ (1) 2 RL 2(RDS+RDC)+RL VDD × PO = ÷ RL ・・・ (2) √2 VDD ON VDD RDS RDC OFF + VRL RL - OFF RDC IRL RDS ON 図 3. HH-ブリッジ リッジ D 級出力段 例えば、パワー MOSFET のオン抵抗は約 0.5Ωですから、電源電圧が 5V、8Ω負荷そしてコイルの直流抵抗が 0.2Ω とすると、最大出力電力は約 1.1W となります。 Ver.2003-09-18 -2- NJU8754 アプ アプリケーションノート ■ 出力フィルタ 出力フィルタ NJU8754 の出力はキャリア周波数が約 300kHz の PWM 信号です。負荷に供給される可聴帯域外の高周波成分を抑 制するため出力フィルタとして 2 次以上の LC 型 LPF(Low-Pass-Filter)を使用します。フィルタを構成するコイル(インダ クタンス:L[H])と容量(キャパシタンス:C[F])の値は負荷インピーダンスに依存し、図 2 の 2 次フィルタでは式(3)∼(4)によ り算出します。通常、カットオフ周波数:FCL[Hz]として、25∼50kHz、Q 値(カットオフ周波数近傍の特性)として 1/√2 を使用して算出後、系列近傍の部品を選択します。例えば、カットオフ周波数を 30kHz 辺りとした場合、8Ω負荷で は 22uH/1.0uF が、4Ω負荷では 15uH/2.2uF が選択されます。 注:コイルの直流抵抗や容量の直列等価抵抗は導伝損失の要因になります。これを低減するには、抵抗成分の小 さい部品の選定が必要です。 注:カットオフ周波数や Q 値の設定は音質に影響を与えます。また、Q 値が大きいとカットオフ周波数近傍のオーディオ信号 に対して消費電流が増加するため、Q≦1 となるように定数を設定します。 C= Q ・・・ (3) π・FCL・RL L= RL ・・・ (4) 4π・FCL・Q ■ 電圧利得 NJU8754 単体の電圧利得は、初段反転オペアンプの約7倍と BTL 出力で約 14 倍となっています。 初段反転オペアンプの電圧利得は、内蔵の入力抵抗:RI[Ω]と帰還抵抗:RF[Ω]により固定になっていますが、 外付けの調整用抵抗:r[Ω]を追加することで変更することができます。 140kΩ 140kΩ IN RF 20kΩ 20kΩ RI r COM 図 4. 電圧利得の 電圧利得の調整 調整用抵抗挿入時の電圧利得:AV は式(5)で求められます。 AV= 140kΩ 140kΩ 20kΩ 20kΩ + r ×2 ・・・ (5) 注:最大入力電圧を入力した時に式(1)の最大出力電圧が得られるように調整用抵抗の値を選択します。 Ver.2003-09-18 -3- NJU8754 アプ アプリケーションノート ■ 入力フィルタ 入力フィルタ 入力フィルタは1次の RC 型 HPF(High-Pass-Filter)を構成します。カットオフ周波数:FCH[Hz]は、入力抵抗:RI[Ω]、 利得調整用抵抗:r[Ω]および AC カップリング容量:CC[F]より式(6)で求められます。例えば、調整用抵抗なしで AC カップリング容量が 1uF の場合、カットオフ周波数は約 8Hz になります。 注:調整用抵抗を挿入した時は、カットオフ周波数も変化します。 注:DA コンバータのポストフィルタによっては折り返しノイズが出力される場合があります。必要に応じて DA コンバータの後 にプリフィルタ(RC 型 LPF)を挿入します。 1 FCH = ・・・ (6) 2π・(RI + r)・ r)・CC CC r 20kΩ 20kΩ IN RI 図 5. 入力フィルタ 入力フィルタ ■ スタンバ スタンバイ/ミュート制御 ミュート制御 STBY 端子をロウ・レベルにするとスタンバイ機能が働き、出力端子(OUTP、OUTN)がハイ・インピーダンス状態となり、完全に 回路を停止して、消費電流が 1uA 以下の待機状態になります。 OUTN)からはデューティー 50% MUTE 端子をロウ・レベルにするとミュート機能が働き、入力信号とは無関係に出力端子(OUTP、 の無音信号が出力されます。 NJU8754 は、STBY 端子をハイ・レベルにすると入力部外付け AC カップリング容量を動作点まで充電します。充電完了 前に MUTE 端子をハイ・レベルにするとこの充電音が出力されます。充電時間は容量値に依存しますが、電源投入時 などの完全に放電した状態では 2.2uF で 100ms 以上が目安です。また、スタンバイ動作無しに電源をオフすると放電 音が出力されます。STBY 端子をロウ・レベルにしてから電源をオフします。 注:STBY 端子と MUTE 端子を共にロウ・レベルにした場合、スタンバイ機能が優先されます。また、スタンバイ機能または ミュート機能を使用しない場合は、それぞれ STBY 端子または MUTE 端子を VDD 電位に接続します。 注:STBY 端子と MUTE 端子の状態遷移は 100us 以内に完了する必要があります。 Ver.2003-09-18 -4- NJU8754 アプ アプリケーションノート ■ 電力損失 IC 固有の電力損失:PD[W]は、負荷出力電力:PO[W]、パワー MOSFET のオン抵抗:RO[Ω](BTL 接続時は RDS×2)、 負荷インピーダンス:RL[Ω]そして IC 内部回路の電力損失:PDIC[Ω]より式(7)で概算できます。 PD = PO × RO + PDIC RL ・・・ (7) 例えば、電源電圧 5V で 8Ω負荷に 1W 出力する場合、IC 固有の電力損失は式(8)のように約 153mW となります。 1W × 1.0Ω 1.0Ω 8Ω ・・・ (8) + 28mW = 153mW 注:電源電圧 5V、出力フィルタ 22uH/1uF(東光製コイル:A918CY-220M、村田製作所製容量:GRM31MB11E105KC12B) で無音信号出力時の PDIC は、約 28mW です。 また、電力効率:η[%]は、IC 固有の電力損失:PD[W]とコイルの直流抵抗による電力損失:PC[W]および負荷出 力電力:PO[W]より式(9)で概算できます。上記の例では約 83%となります。図 6 に NJU8754 の出力電力に対す る電力効率の特性例を示します。 PO × 100 PO + PD + PC η = ・・・ (9) 100 電力効率 (%) 90 80 70 60 50 40 0.0 0.5 1.0 1.5 出力電力 (W) 図6. 電力効率対出力電力 Ver.2003-09-18 -5- NJU8754 アプ アプリケーションノート ■ 許容損失 D 級動作のアンプは、一般的なアナログ動作のアンプに比べて電力効率が高く、発熱も少ないのですが、NJU8754 NJU8754 は小型パッケージを使用しているため、最大出力で連続動作させた場合、最大許容損失を超える場合があります。 一般的な音楽信号の場合、平均電力は最大出力電力の 1/5 から 1/10 程度であり、基板からの放熱もあるため、 実使用上は許容損失を超えることはありませんが、使用の際、実装基板の熱抵抗、使用周囲温度、出力電力(平 均値)等を考慮し、最大許容損失を超えないよう注意が必要です。 NJU8754 の SSOP10 パッケージの最大許容損失:PdMAX[W]は、ジャンクション温度:TjMAX[℃]、周囲温度:Ta[℃]およ びパッケージの熱抵抗:θja[℃/W]より式(10)で求められます。例えば、ジャンクション温度は 125℃、IC 単体のパッケー ジ熱抵抗は 400℃/W ですから、周囲温度が 25℃の最大許容損失は約 250mW となります。 PdMAX = TjMAX - Ta θja ・・・ (10) また、参考データとして、SSOP10 パッケージの IC 単体、2 層基板(EIA/JEDEC STD 仕様)実装時および 4 層基板 (EIA/JEDEC STD 仕様)実装時の許容損失を図 7 に示します。 600 4層基板 許容損失 (mW) 500 400 2層基板 300 200 IC単体 IC単体 100 0 0 20 40 60 周囲温度 (℃) 80 100 図 7. SSOP10 パッケージ ッケージの許容損失 Ver.2003-09-18 -6- NJU8754 アプ アプリケーションノート ■ 電源 NJU8754 の電源は、式(1)で示されるオーディオ信号帯域の電流供給と出力段のスイッチングによる吐き出し/吸い込 み電流に対して安定動作する必要があります。電源端子間 VDD -VSS および VDDO -VSS のデカップリングコンデンサは、こ れら電流によるリップルを抑制するため補助的に働きます。アプリケーション回路や使用温度に合わせて容量値を調整し ます。また、配線インダクタンスはデカップリングコンデンサの周波数特性を劣化させます。デカップリングコンデンサは、高周波用 途のものから IC の近くに配置し、太く短く配線します。 ■ レイアウト 図 8 に部品配置およびレイアウト例を示します。例では、両面基板の表面を部品面および配線に、裏面をグランド プレーンとしています。 NJU8754 は単一電源で動作します。VDD(端子 1)および VDDO(端子 8)は IC の近くで直結します。また、OUTP/OUTN 両端子出力特性を同じにするため、出力フィルタおよび出力部電源の部品配置と配線を対称にします。 EMI ノイズ(電磁ノイズ)の大きさは、高周波の電流が流れる部品および配線で囲まれた電流ループの面積と長さに 依存します。IC の出力電源端子とデカップリングコンデンサで形成される電流ループおよび出力端子と出力フィルタで形成 される電流ループの面積が最小となるよう部品を配置し、太く短く配線します。 C2 C4 L1 C1 C6 C7 C3 C8 C5 L2 図 8. レイアウト例 レイアウト例(部品面) 部品面) Ver.2003-09-18 -7-