NEC 技報 Vol. 58 No. 2/2005 普通論文 FOMA N901iCの開発 Development of FOMA N901iC 本橋輝行 * Teruyuki Motohashi 森 右京 * Ukyo Mori 芦川 茂 * Shigeru Ashikawa 小林武史 ** Takeshi Kobayashi 要 旨 細川知志 * Satoshi Hosokawa 菊地好文 ** Yoshifumi Kikuchi videophone calls, a substitutive image can be used until the sender is ready to display their own image). NEC は 2005 年 1 月に,㈱ NTT ドコモ殿向けに携帯電話 1.まえがき 端末 FOMA® N901iC を開発しました。ディジタル信号処理 とステレオツインスピーカの搭載により,音の定位情報の 昨今の携帯電話は通話の基本機能に加え,高機能化が進 操作によって音の空間表現を可能とした 3D サウンドに対 んでいます。また,第 3 世代携帯電話の普及によりテレビ 応しました。さらに 3D グラフィックス機能の強化,i モ 電話機能付きの携帯電話も一般化しています。一方,コン ード FeliCa を搭載しながらも,前商品と同一の外形寸法を パクトで携帯性とデザイン性に優れていることも求められ 実現しました。 ています。 また,テレビ電話中に自分の画像に貼り付けたスタンプ このような状況のなかでFOMA N901iC は,音の空間表現 が顔の動きに合わせて動く「デコレーションテレビ電話機 を可能とした 3D サウンドの対応と 3D グラフィックス機能 能」や,文字メッセージを自分の画像に重ねて相手に送信 の強化,i モード FeliCa を搭載しました。さらに,テレビ することができる「プチメッセージ機能」 ,テレビ電話がか 電話機能の利便性の向上を実現しました。 かってきた時に相手側には代替画像を見せながら自分の端 これらを実現させた技術の概要について紹介します。 末では自分の顔を画面でチェックでき,準備を整えてから 2.製品仕様 相手に自分の画像を送ることができる「ビジュアルチェッ ク機能」を搭載し,テレビ電話機能の利便性の向上を実現 しました。 写真に FOMA N901iC の外観を示します。また,FOMA N901iC の製品仕様の概要を表に示します。参考のために前 NEC has developed the cellular-phone terminal “FOMA N901iC”for NTT DoCoMo in January 2005. The N901iC mounts the digital signal process or and the twin stereo speaker to offer 3D-surround sound for vivid ringing melodies and realistic audio effect. Moreover, we realized the same size as the previous product, in spite of installing additional functions such as enhanced 3D graphics and i-mode FeliCa. In addition, we improved the videophone functions such as“Decoration Videophone Calls”(during videophone calls, the speaker can decorate their image with emotional moves),“Petit Message”(during videophone calls, the speaker can also send text messages superim- 写真 FOMA N901iC の外観 Photo External view of FOMA N901iC. posed on their actual image) and“Visual Check”(during * モバイルターミナル事業部 Mobile Terminals Division ** NEC 埼玉 NEC Saitama,Ltd. 63 NEC 技報 Vol. 58 No. 2/2005 表 FOMA N901iC の仕様概要 Table Specifications of FOMA N901iC. FOMA N901iC 項 目 FOMA N900iS 102( H) ×48( W) ×26( D)mm 102( H) ×48( W) ×26( D)mm 外形寸法 質 量 119g 115g 連続通話時間 140分 140分 連続テレビ電話時間 90分 90分 連続待受時間(静止時) 430時間 430時間 正面液晶 2.3インチ QVGA+ 2.2インチ QVGA 3Dサウンド 有 無 iモード FeliCa 有 無 デコレーション テレビ電話機能 有 無 プチメッセージ機能 有 無 ビジュアルチェック機能 有 無 抗菌コート 有 無 製品の FOMA N900iS の仕様を併記します。 FOMA N901iC は高機能化を実現しながら前商品と同一 の外形寸法を実現しています。また,アークラインによる 美しいフォルムを実現しました。さらに抗菌コートを施し 図 1 3D サウンド機能の原理とブロック図 Fig.1 Block diagram of 3D sound function. た素材を筐体に採用しています。 3.ハードウェア設計 3.1 3 Dサウンド機能の実現 ため,2 個のスピーカ間の音孔距離を大きくとることが困 難でした。今回,新たに音孔を周辺部に設けたスピーカを FOMA N901iC は,ディジタル信号処理とステレオツイ 開発することにより,筐体側面の左右に音孔を配置するこ ンスピーカの搭載により,音の定位情報の操作によって音 とができました。この音孔配置により,左右スピーカの音 の空間表現を可能とした 3D サウンドに対応しました。 響的セパレーションを確保し,指向性が強く出る高域周波 (1)ディジタル信号処理 FOMA N901iC では,3D サウンドをアプリケーションプ ロセッサで処理しています。図 1 に 3D サウンド機能の原理 とブロック図を示します。 現実の世界では,音源から発せられた音は様々な特性変 化を起こしながら左右の耳に到達します。この特性変化に は距離や角度による影響,リスナー自身の頭による遮蔽効 数では LCD 表示面方向の高域周波数特性を改善することが できました。 また,新開発スピーカは 3D サウンドに大切な高域周波数 特性の音圧低下のないよう配慮しています。 以上,新たにスピーカを開発することで高音質な 3D サウ ンド効果を得ています。 (3)筐体設計 果などがあります。3D サウンドではこれらの特性変化をデ 一般的に筐体とスピーカを密着させるために,筐体とス ィジタル信号処理で再現することで,空間上の任意の一点 ピーカの間にクッションを配置しますが,N901iC では,こ から音が鳴っているかのような効果を生むことができます。 のクッションを配置する面を傾斜面としています。N901iC FOMA N901iC のアプリケーションプロセッサには汎用 で採用した構造を図 ( 2 a) に構成図,図 ( 2 b) に断面図を示し のDSP(Digital Signal Processor)が搭載されており,3D サ ウンドのディジタル信号処理はこの DSP で実行されます。 ます。 密着面を傾斜にすることで,通常筐体上面へ抜ける音道 また,アプリケーションプロセッサ内の CPU が音源位置な を側面へ回り込ませることができ,装置厚みの増加を抑え どの管理を行っており,DSP を制御しています。 ています。また,スピーカの取り付け方向も筐体に対し垂 なお FOMA N901iC には 3D サウンド機能のほかにサラ ウンド機能も搭載されており,この信号処理も同様に DSP で処理しています。 (2)新型スピーカの開発 従来の携帯電話機ではスピーカ上面に音孔を設けていた 64 直に落とし込む構造となっており,音孔は側面ですが,従 来品同等の組立性を確保しました。 3.2 小型化設計とデザイン性の確保 (1)キーボード側の実装構造 N901iC では,i モード FeliCa を搭載するに当たり,その通 FOMA N901iC の開発 a (a) 構成図 (b) 断面図 Fig.2 図 2 スピーカ実装図 Mounting structure of speaker. Fig.3 信距離を確保するため,FeliCa 用アンテナを筐体表面に極 図 3 キーボード側実装構成図 Mounting structure of keyboard side. 力近く,広い範囲で実装できるよう,実装レイアウトの見 直し,部品の新規開発を行いました。図 3 にキーボード側 筐体の実装構成図を示します。 まず,電池パック脇の空間を有効利用するため,高さの 高いバイブモータを電源端子と並べ電池パック脇に実装し ました。さらに FOMA カード用コネクタと miniSD カード 用コネクタを一体化することにより部品の低背化を図り, 電池パックの下側の筐体表面近くに空間を確保しました。 ユニット化した FeliCa 機能部をフレームを用いて,一体化 した FOMA カード/miniSD カード用コネクタ上の空間に実 装することで,実装効率を向上させ小型化を図るとともに, 筐体表面近くに FeliCa 用アンテナを実装することを実現し ています。 (2)デザイン性の確保 N901iC ではアークラインフォルムを生かしつつ,背面表 Fig.4 示部の筐体面を縦に色分けをするデザインを採用していま 図 4 背面 LCD 周辺の構造 Structure of back-side LCD circumference. す。色分けされる部分が背面表示面から筐体上面と側面に までまたがり,塗装による塗り分けが困難となるため,色 リエーション展開を実現しています。 分けする部分を別のパーツで構成することで本デザインを 4.ソフトウェア設計 実現しています。また別パーツ部は複数箇所を熱溶着によ りリアケースへ固定することで,取り付け強度を確保して います。図 4 に背面 LCD 部周辺の構造を示します。 色分けする部分を別のパーツに分けることで,表面にシ ボ加工処理を施し,革張り調の風合いとしたデザインや, 4.1 3D グラフィックス機能の強化 N901iC では,音響の 3D 化に合わせて JavaAPI による 3D グラフィックス描画機能を強化しました。主な強化機能は 以下となります。 印刷フィルムを転写する工法を用い,柄を施したデザイン ・クリッピング領域の設定機能 を採用することが可能となり,より広がりのあるカラーバ ・投影方法(平行投影/透視投影)の設定機能 65 NEC 技報 Vol. 58 No. 2/2005 図 7 フェイススタンプ表示 Fig.7 Face stamp image. 図5 3D グラフィックス機能(複数光源設定機能) Fig.5 3D graphics function. なお,ベースとなる技術は N-Vision 社製「EVA エンジ ン」 (スタンプ合成) , 「RTT エンジン」 (フェイストラッキ ング)を使用しています。 ・トゥーンシェイディングの設定機能 また,イメージビューアからもスタンプデータを選択し, ・環境マッピング用の設定機能 機能メニューから「プレビュー表示」を行うことでデモ再生 ・テクスチャ歪み補正,パースペクティブ補正の設定機能 が可能です。図 7 にフェイススタンプの表示例を示します。 ・フォグ効果機能 ・複数光源設定機能(図 5 参照) N901iC では各々の処理の最適化を行うことにより,上記 機能をアプリケーションプロセッサのみで実現しました。 4.2 テレビ電話に関する新機能の搭載 N901iC では,テレビ電話機能のさらなる利便性の向上の ために次の新機能を搭載しました。 (1)デコレーションテレビ電話機能(フェイススタンプ) テレビ電話中,自画像に他の画像を合成することで飾り 付けをする機能です。 この機能は,カメラ画像にスタンプ画像を合成して相手 に送信する画像合成機能と,顔の動きを認識し,それに合 (2)プチメッセージ機能 本機能はテレビ電話での表現力を強化するため,テレビ 電話中に,任意の文字列を送信画面にはめ込むことで相手 に文字メッセージを送るための機能です。 言葉ではうまく伝わらないこと,伝えられないことを, テレビ電話で会話をしながら,リアルタイムに文字列の入 力・編集を行い,送信画面に重ねて相手に送ることができ ます。 送信画面にはめ込む文字は,画面表示に通常使用するフ ォントのままでは読み難くなるため,テレビ電話の画質や 圧縮方式に合わせ,太く縁取りのある文字をソフトウェア で作成しています。 わせてスタンプが追従動作するフェイストラッキング機能 今回採用した方式では,相手に送信されるテレビ電話の とで構成されます。図 6 にデコレーションテレビ電話機能 画面に文字データを合成して送るため,同じ機能を持たな の構造を示します。 い相手にも文字メッセージを送ることが可能です。このた め,新機能でありながら,機種・メーカに依存することな く文字メッセージの送信が可能です。 (3)ビジュアルチェック機能 テレビ電話通話中に相手に送られる自分側の画像を画面 上で見て確認する機能です。簡単にいえば,手鏡の代わり をする機能です。 確認中は相手に代替画像を送信しておき,送信する自画 像を確認後に,自画像の送信に切り替えることができます。 本機能は,自分がどのように写っているのか分からないま まテレビ電話に出るということに対して,一種の抵抗感を 持っているユーザに対して,少しでもテレビ電話の敷居を 下げるために有効と考えます。 図 6 デコレーションテレビ電話機能 Fig.6 Decoration Videophone function. 66 5.むすび 本稿では,このたび開発した FOMA N901iC について説 FOMA N901iC の開発 明しました。 FOMA N901iC は,3D サウンドの対応,3D グラッフィ クスの強化と i モード FeliCa を搭載し,さらに,テレビ電 話機能の利便性の向上を実現しました。 今後は,ますます多種多様化するシステムのなかで,常 に市場ニーズに応えられる商品の開発を行っていきたいと 思います。 最後に,本製品開発にご協力いただいた関係者に心から 感謝申し上げます。 *「FOMA」 「iモード」は株式会社NTTドコモの登録商標です。 FeliCa は,ソニー株式会社が開発した非接触 IC カードの技術方式です。 FeliCa は,ソニー株式会社の登録商標です。 *「miniSD」はSDアソシエーションの商標です。 * その他,本稿に記載された会社名,製品名は,各社の商標または登録商標 です。 * 筆者紹介 Teruyuki Motohashi もとはし てるゆき 本橋 輝行 1988 年 NEC 入社。現在,モバイ ルターミナル事業本部モバイルターミナル事業部商 品開発部主任。 Shigeru Ashikawa あしかわ しげる 芦川 茂 2001 年 NEC 入社。現在,モバイ ルターミナル事業本部モバイルターミナル事業部商 品開発部主任。 Satoshi Hosokawa ほそかわ さと し 細川 知志 2000 年 NEC 入社。現在,モバイ ルターミナル事業本部モバイルターミナル事業部商 品開発部勤務。 Ukyo Mori もり 森 う きょう 右京 1999 年 NEC 入社。現在,モバイ ルターミナル事業本部モバイルターミナル事業部グ ローバル調達戦略部勤務。 Takeshi Kobayashi こ はやし たけ し 小林 武史 1991 年 NEC 入社。現在,NEC 埼 玉 携帯端末開発部主任。 Yoshifumi Kikuchi きく ち よしふみ 菊地 好文 1992 年 NEC 入社。現在,NEC 埼 玉 技術部主任。 67