新構造IGBTモジュールSPpakII、SPpakIIIの開発

Vol.26 No.2
新構造IGBTモジュール SPpakⅡ,SPpakⅢの開発
早坂 力*
宮本 虎壽*
SPpak(エスピーパック)の名前の由来は,常にユー
1.はじめに
ザが要求している高速応答性,大電力化等の様々な観点
今までのパワーエレクトロニクスにおいて,
大容量化,
低損失化,高速化,小型軽量化,高機能化等といった
様々なユーザの要求に対応するため数々のパワー半導体
素子が開発されシリーズ化されてきました。また素子自
体の開発もさることながら,素子を収納するパッケージ
にしても絶縁・放熱特性等の性能向上・改善が成されて
います。
こうした状況の中,複数個の素子を目的に応じて配線
から,SpeedとPowerを結集したモジュールとして一つ
のpackageに納めたことから,SPpakとしました。
2.SPpakの外観
写真1にSPpakⅡの外観を示します。
3.SPpakシリーズの特長
3.1 製品の小型軽量化
したモジュールも個別半導体と同様,様々な構造が開
次に、SPpakⅢおよび,これと同等クラスの従来品モ
発・シリーズ化されて,近年急速に普及してきました。
ジュールの外形寸法を図1,内部構造を図2に,それぞ
また,ユーザ側からも装置の小型化にあわせ,組立に関
れ対比して示します。
わる部品点数の大幅な削減,且つ回路配線を簡素で効率
94.0
的に実装したいといった,モジュールに対する要望が出
されています。
86.0
今回紹介する新構造IGBTモジュール,SPpakⅡ,
SPpakⅢは,従来のモジュール構造から,更に小型軽量
(従来外形)
化,低損失化,高機能化を目指して開発した製品です。
またユーザ側の実装のし易さを配慮した構造になってお
り,従来のパッケージとは異なる斬新なスタイルとして
94.0
34.0
仕上げました。以下に概要を説明します。
61.5
121.5
写真1
20.5
(新外形)
SPpakⅡ外観
図1 外形寸法
6
Vol.26 No.2
(従来外形)
3.3 高信頼性の確保
アルミワイヤ
端子
カバー
エポキシ樹脂
端子ストリング
構造
ケース
今までに説明しましたエポキシ充填材の廃止,端子一
体モールド型ケース採用によるモジュール構造の改良
は,小型軽量化,パッケージ簡素化だけに言えることで
はありません。
図2に示す様に,従来構造では端子の下端部をストリ
銅ベース
基板
チップ
シリコーンゴム
ング構造とし,内部基板の導体パターンに半田付けして
いました。このため,端子の半田付け部の導体パターン
面積が必要となり,内部基板の面積が大きくなってしま
(新外形)
います。モジュール内部の基板と銅ベース間や,端子と
アルミワイヤ
カバー
シリコーンゴム
導体パターンの半田付け部に発生する熱応力対策などが
課題となっていました。
端子一体型
ケース
これに対し,新構造パッケージでは端子をケースにイ
ンサートモールドしたので,端子を内部基板に半田付け
銅ベース
基板
チップ
図2 内部構造
まず従来構造と比較して明らかなように,モジュール
イヤで接続ができ,さらに,端子を半田付けする導体パ
ターンの面積が不要となるので,内部基板の面積を小さ
くできました。
の高さが低くなり,小型化が図られたことが挙げられま
この結果,銅ベースと内部基板の熱応力の減少と,端
す。これは,従来構造モジュールで充填材として使用し
子と内部基板との半田付けによる熱応力の解消により,
ていたエポキシ樹脂の充填を廃止することによって解決
熱応力に対する信頼性が更に向上しました。
しました。
3.4 低インダクタンス化
エポキシ樹脂の主な役目は,端子及びカバーを固定す
ユーザ側の装置の小型化や低損失化等の設計に対応す
るために充填しています。今回の新構造モジュールは,
るため,モジュール製品についてもスイッチング時の応
ケースに端子をインサートモールドした,端子一体モー
答性を改良しながら安定動作を目指した製品を開発して
ルド型ケースを採用することにより,エポキシを充填し
います。
なくても端子を固定させることができます。
今回の新構造パッケージでは,従来構造より更に安定
封止材をコートした後,カバーを差し込むことで最終
した動作が得られるようにモジュール内部のインピーダ
的な外観となります。これにより小型化と同時に軽量化
ンス,寄生インダクタンスを極力抑えるような構造とし
が実現でき,SPpakⅢでは従来構造モジュールと比較し
ています。この結果,インダクタンスLsは従来構造で
て質量では40%に,全高では約60%に抑えた低背構造と
は最小値が27nH,新構造パッケージでは最小値を20nH
なりました。
に下げることができました。
3.2 装置への実装
従来品と比較して端子のストリング部分を廃止すると
新構造パッケージでは先に掲げた小型軽量化を図った
共にインサートモールド化によって端子の長さが短くな
ことに付随して,更に,ユーザでの組立時の作業上の負
り,インピーダンスが低くなりました。更に近接に配線
担を軽減するため,従来構造には無い新規な構造を採用
されたワイヤーやパターンの逆平行電流による磁界の相
しています。駆動回路,制御回路等を組み込んだ制御基
殺によって低インダクタンスを実現しています。
板の実装用としてスタンドを,ケース上面に4箇所に設
SPpakⅢでは,端子一体モールド型ケース内部の個々
けており,このスタンドによって制御基板を,タッピン
の端子の配置が,当社独自の構造としており,この部分
グスクリューで締め付けて容易にモジュールに取り付け
でも低インダクタンス化を図っています。
ることができます。
制御基板のパターンとモジュールの各端子の接続を簡
単にするため,従来のネジ締めタイプの端子から,全て
の端子をピン形状とした半田付けタイプの端子へと変更
しました。こうした構造を採用する事により,組立の自
動一括作業を可能にしました。
7
する必要がなく,チップから端子に直接ボンディングワ
Vol.26 No.2
上記のように,モジュール内部の実装配置や配線構造
の最適化を図り,寄生インダクタンスLsを低く抑える
3.5 回路構成の多様性
今回シリーズ化した製品群を表1にまとめました。
SPpakは6 in lの3相ブリッジ構成が基本ですが,信号
ことができました。
新構造パッケージでは図3に示すようにターンオフ動
端子及びメイン端子を合計21本備えているため,三相半
作時におけるサージ電圧の発生を抑制でき,素子をサー
波・三相逆並列等の各種回路構成が組めるだけでなく,
ジ電圧破壊から保護し,安定動作・低損失動作に結びつ
複合化したカスタムモジュール等に柔軟に対応できま
きます。
す。
代表的な応用回路の構成を図5に示します。これは,
最近のインバータ装置に適用されている制御方式の一例
① ΔVP
です。同図aのように,コンバータ部,インバータ部,
そしてブレーキ動作中の負荷から発生したエネルギーを
②
転流させる回生回路部の大きく3つに分けられた回路部
を,
まとめて一つのパッケージに納めることができます。
IC
VCC
−di/dt
また,この他にも突入電流防止回路や保護回路等を組み
込み,更に高機能化した電力回路にも対応が可能です。
18
21
①−di/dtより発生したサージ電圧
②インダクタンスLsを低くした場合のサージ電圧
3
4
16
17
1
20
2
図3 ターンオフ時のサージ電圧
9
5
6
7
8
13
14
10
11
15
19
12
SPpakのご使用にあたって,主回路の配線インダクタ
コンバータ部
回生回路部
インバータ部
(a)
ンス,動作周波数等の使用条件によっては,スナバ回路
を簡略化若しくは不要とすることができます。
ここに従来品
「PTMB75A6」
と新構造品
「PTMB75A6C」
4
3
16
17
2
のスイッチング波形をそれぞれ図4に示します。素子は同じ
ものを採用していますので,構造の違いが波形の差となっ
15
5
6
90
450
80
400
70
350
60
300
250
200
IC( A)
VCE( V)
て現われ,特性が明らかに改善されていることが判ります。
500
21
新構造モジュール
PTMB75A6C
10
50
0
0
−10
コンバータ部
11
12
19
インバータ部
従来構造
PTMB75A6
30
20
7
8
13
図5 回路構成例
40
100
9
10
14
(b)
50
150
1
18
20
−2×10−7 −1.5×10−7 −1×10−7 −5×10−7 0×10−7
5×10−7
1×10−7 1.5×10−7 2×10−7
Time( S)
図4 従来品と新構造品のスイッチング波形
8
Vol.26 No.2
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
4.目標定格・特性値
表1にSPpakシリーズの目標定格・特性値の一覧を示
*筆者紹介
早坂 力 Chikara Hayasaka
1992年入社 現在,生産本部モジュール技術部勤務
します。
宮本 虎壽 Toratoshi Miyamoto
1997年入社 現在,生産本部モジュール技術部勤務
5.まとめ
以上,新構造IGBTモジュールのSPpakⅡ,SPpakⅢ
の概要を紹介しました。これからもユーザーの幅広い要
求に応えるべく,更に使いやすいモジュールとしてシリ
ーズ化を図ると共にIGBTを始めMOSFETやサイリスタ
など種々の電力半導体素子を搭載したパワーモジュール
として,製品化を進めていく予定です。
表1 SPpakシリーズ目標定格・特性値
9
項 目
Parameter
VCES
IC (Rated)
条 件
Condition
VGE=0V
VCE(sat) (V)
VGE(th) (V)
Cies (pF)
tr (μs)
ton (μs)
tf (μs)
toff (μs)
RG (Ω)
VF (V)
trr (μs)
熱抵抗
Rth(j-c)
IC=Rated,VGE=15V
IC=Rated×10−6
VCE=10V,f=1MHz
VCC=300V
IC=Rated
RG=Rated
VGE=±15V
Test Condition
IF=Rated
IF=Rated
IGBT
FWD
項 目
Parameter
VCES
IC (Rated)
条 件
Condition
VGE=0V
VCE(sat) (V)
VGE(th) (V)
Cies (pF)
tr (μs)
ton (μs)
tf (μs)
toff (μs)
RG (Ω)
VF (V)
trr (μs)
熱抵抗
Rth(j-c)
IC=Rated,VGE=15V
IC=Rated×10−6
VCE=10V,f=1MHz
VCC=600V
IC=Rated
RG=Rated
VGE=±15V
Test Condition
IF=Rated
IF=Rated
IGBT
FWD
SPpakⅡ
PTMB50A6C
PTMB30A6C
600
600
50
30
min
typ
max
min
typ
max
2.6
2.1
−
2.6
2.1
−
8.0
−
4.0
8.0
−
4.0
−
5,000
−
−
3,000
−
0.3
0.15
−
0.3
0.15
−
0.4
0.25
−
0.4
0.25
−
0.35
0.2
−
0.35
0.2
−
0.7
0.45
−
0.7
0.45
−
−
15
−
−
20
−
2.4
1.9
−
2.4
1.9
−
0.25
0.15
−
0.25
0.15
−
0.65
−
−
1.0
−
−
1.48
−
−
2.0
−
−
SPpakⅢ
PTMB100A6C
PTMB75A6C
600
600
100
75
min
typ
max
min
typ
max
2.6
2.1
−
2.6
2.1
−
8.0
−
4.0
8.0
−
4.0
− 10,000 −
−
7,500
−
0.3
0.15
−
0.3
0.15
−
0.4
0.25
−
0.4
0.25
−
0.35
0.2
−
0.35
0.2
−
0.7
0.45
−
0.7
0.45
−
−
7.5
−
−
10
−
2.4
1.9
−
2.4
1.9
−
0.25
0.15
−
0.25
0.15
−
0.42
−
−
0.5
−
−
0.85
−
−
1.0
−
−
SPpakⅡ
PTMB50B12C
PTMB25B12C
1200
1200
50
25
min
typ
max
min
typ
max
3.0
2.7
−
3.0
2.7
−
6.5
−
4.5
6.5
−
4.5
−
4,000
−
−
2,000
−
0.6
0.3
−
0.6
0.3
−
1
0.5
−
1
0.5
−
0.5
0.3
−
0.5
0.3
−
1.5
0.8
−
1.5
0.8
−
−
24
−
−
51
−
2.3
2.0
−
2.3
2.0
−
0.3
0.2
−
0.3
0.2
−
0.47
−
−
0.68
−
−
0.85
−
−
1.40
−
−
SPpakⅢ
PTMB100B12C
PTMB75B12C
1200
1200
100
75
min
typ
max
min
typ
max
3.0
2.7
−
3.0
2.7
−
6.5
−
4.5
6.5
−
4.5
−
8,000
−
−
6,000
−
0.6
0.3
−
0.6
0.3
−
1
0.5
−
1
0.5
−
0.5
0.3
−
0.5
0.3
−
1.5
0.8
−
1.5
0.8
−
−
12
−
−
15
−
2.3
2.0
−
2.3
2.0
−
0.3
0.2
−
0.3
0.2
−
0.28
−
−
0.33
−
−
0.47
−
−
0.58
−
−