Vol.27 No.1 エンジン発電機用複合モジュールの開発 根本康志 伊澤朋大 1.はじめに で締付けることが可能となり,PIM本体に容易に取り 付けられるというメリットがあります。 2003年のNY大停電以来,ポータブル型エンジン また,制御基板の外部電極取り出し導体パターンとモ 発電機の需要が大幅に伸びました。 ジュールの各端子の接続を容易にするため,従来のネジ その結果,発電機電装メーカー各社(S社,H社,Y 締めタイプの端子から,全ての端子をピン形状の半田付 社等)の競争が激化し,より小型化・低価格化・高信頼 けタイプとすることにより,各ユーザーでの組立工数の 性タイプの発電機の開発が行われています。 削減化を図った構造となっております。 従来は,各電装メーカーではディスクリート部品の組 17 立で対処しておりましたが,装置の小型化 ,組立に関 的に実装したいといった,モジュール化に対する強い市 場ニーズがあり,当社にその新規発電機用PIM(Power 20 18 21 19 45.00 わる部品点数の大幅な削減,回路配線を簡素でかつ効率 Integrated Module)の開発依頼がありました。 このポータブルエンジン発電機の市場は他に屋外工事, アウトドアレジャー,トラック等のアイドリングストッ 107.00 らに増加するものと予想され,当社でもその開発に取り 組んでまいりました。 21.00 プ時の電力供給等にも見込まれるため,今後も需要はさ 今回開発した4タイプのポータブル型エンジン発電機 用PIM(PVD30―8,30―8A2,40−8, 図1 外形寸法 43−8)の製品について紹介します。 3.内部回路 2.製品の外観 PIM本体の代表的な回路図を図2に示します。 コンバーター部 これらの4タイプ共にパッケージは共通で,その外観 インバーター部 15 および外形寸法を,写真1,図1に示します。 4 3 18 2 5 6 16 17 20 9 10 14 21 7 8 13 11 12 19 1 図2 回路構成例 図1 PVD40−8外観 駆動回路,制御回路等を組み込んだ制御基板の実装用 回路構成は,インバータ部をIGBTの単相ブリッジ としてのスタンドをPIMの上面に4箇所設けておりま とし,コンバータ部はHighアーム側サイリスタとL す。このスタンドによって制御基板をタッピングスクリュー owアーム側ダイオードとを組み合わせた三相整流回路 ―17― Vol.27 No.1 と,温度検出用サーミスタ回路とを内蔵し,構成されて 従来から採用されている銅ベース構造を廃止し,新規 おります。 なアルミベース構造の採用により軽量化を実現させてお なお,PVD30−8,PVD40−8,PVD43 ります。 (重量比:同一パッケージ品で約45%減) −8の3製品はインバータ部とコンバータ部のコモン端 アルミナDBC基板を廃止し,アルミ絶縁基板を採用 子が各々独立した回路構成となっております。 することにより,ベーシング工程を不要とすることが可 一方,PVD30−8A2は,インバータ部とコンバー 能となりました。それにより,半田層が従来の2層構造 タ部のコモン端子が共通の回路構成となっています。 から1層構造になり,工数削減,低コスト化が実現され ております。基板構造図を図4に示します。 4.構造上の特徴 ベアチップ 半田層 内部構造図を図3に示します。 銅箔 従来構造 アルミナDBC基盤 アルミ ワイヤー 端子 銅箔 カバー 半田層 エポキシ樹脂 銅ベース アルミナDBC基盤 ケース ベアチップ 半田層 銅メッキ(10μm) 銅ベース 新構造 基盤 チップ 導体パターン シリコーンコム 絶縁層 カバー アルミワイヤー アルミベース シリコーンコム アルミ絶縁基板 端子一体型 ケース 図4 基盤構造 チップ アルミ絶縁基板 従来のアルミ絶縁基板は,アルミナDBC基板と比較 導体パターン して,熱伝導率が低く,放熱上の観点から,大電流を流 すことに不向きであるという欠点がありました。しかし, 図3 内部構造 熱伝導率のグレードアップ品を採用することで低熱抵抗 外部端子一体モールド型ケース(インサートケース) 化を達成しております。 を使用することにより,端子及びカバーを固定するため また,大電力タイプの新基板をいち早く採用して,導 に充填材として使用していたエポキシ樹脂を廃止するこ 体パターンをより厚くすることにより,大電流化の市場 とが可能となり,高信頼性,耐環境性を図っております。 ニーズにも対応可能となりました。 さらにエポキシ樹脂厚相当分がなくなることにより, 低背構造となっております。ワイヤーボンド接合方式を 採用することにより,従来行われていた端子を内部基板 に半田付けする必要がなくなりました。チップと端子間 を直接ボンディングワイヤーで接続することが可能とな 従来の アルミ絶縁基板 導体パターン厚 (μm) 105 熱伝導率 (W/mk) 2.0 アルミベース厚 (mm) 3.0 新規開発品の アルミ絶縁基板 400 4.0 3.0 表1 基盤仕様 り,端子を半田付けする導体パターン面積が不要となる 分,小型化されました。 下表にアルミ絶縁基板仕様を示します。 また,従来構造では半田接合方式を採用しており,外 以上の結果,銅ベースと基板間,端子と基板間の半田 部及び内部応力を緩和の目的で端子部にストリング構造 付けによる熱応力が解消され,熱応力に対する信頼性が を採用しておりましたが,ワイヤーボンド接合方式を採 向上しました。 用することにより,この部分も不要となり,さらなる小 アルミ導体パターンを採用することにより,Al−A 型化を実現させております。 lの同素材間でのボンディングとなるため,ボンディン ―18― Vol.27 No.1 グの条件設定幅が広がり,ボンディング強度もより向上 耐久性試験 Endurance Tests しております。 試験項目 Tests また,環境問題の観点から,共晶半田を廃止し,Pb フリー半田を使用しての製品化を実現しております。 高温保存 High Temperature Storage 耐湿性 Humidity Temperature 表2 信頼性試験結果 環境試験 Environmental Stress Tests 試験項目 Tests +3 1)低温側 : −40 −5℃ Lowest Temperature +5 2)高温側 : +125 − ℃ 3 Highest Temperature 3)回 数 : 100サイクル Number of Cycles 温度サイクル Temperature Cycling Max Max 断続通電 Intermittence Operating Life 準拠規格 Reference JIS C-7021 試験条件概要 Conditions A−4 30 60 30min 1 Cycle 1)Ta: +125±2℃ 2)時間: 1,000h Duration B−10 B−11 条 件 B 1)Ta: +60±3℃ +5 2)相対湿度: 90 −10 %RH Relative Humidity 3)時間: 1,000h Duration 1)ΔTj≧80℃ 2)回数: 5,000回 Number of Cycles 3)締め付けトルク: 2.0N・m Mounting Torque 接 合 Tj 温 度 B17 Δ Tj On Off 1Cycle 高温側 High Temp 室温 Room Temp 60 準拠規格 Reference JIS C-7021 試験条件概要 Conditions 高温電圧印加 High Temperature Bias 低温側 Low Temp 1) 印加電圧 Test Bias VCE=VCES=600 V(IGBT) VDM=VRM=800 V(Thyristor) VRM=800 V(Diode) 2) 140℃≦Tj≦150℃(IGBT,Diode) 115℃≦Tj≦125℃(Thyristor) 3) 時間: 1,000h Duration 4) 締め付けトルク: 2.0N・m Mounting Torque B19 表3 特性値 Inverter Converter 項目 Parameter VCES Ic(Rated) 条件 Condition VGE=0V VCE(sat) (V) IC=Rated,VGE=15V VGE(th) (V) IC=Rated × 10-6 VCE=10V,f=1MHz Cies(pF) VCC=300V tr(μ s) IC=Rated ton(μ s) RG=Rated tf(μ s) VGE= ± 15V toff(μ s) Test Condition RG(Ω) IF=Rated VF(V) IF=Rated trr(μ s) IGBT 熱抵抗 Per 1Arm FWD Rth(j-c) VDRM(V) VDSM(V) VRRM(V) VRSM(V) IO(AV) (A) IFSM(A) I2t(A2S) di/dt(A/ μ s) Tj=125℃VD=2/3V PGM(W) PG(AV) (W) IGM(A) VGM(V) VRGM(V) VDM=VDRM,T=125℃ IDM(mA) VRM=VRRM,T=150℃ IR(mA) ITM=Rated VTM(V) IFM=Rated VF(V) Tj=-40℃ "VD=6V IGT(mA) Tj=25℃ IT=1A" Tj=125℃ "VD=6V VGT(V) Tj=-40℃ IT=1A" Tj=25℃ Tj=125℃ Tj=125℃VD=2/3V VGD(V) dv/dt(V/ μ s) Tj=125℃VD=2/3V T j =125℃VD=2/3V tq(Ms) Tj=25℃VD=2/3V tgt(Ms) td(Ms) tr(Ms) Tj=25℃ IL(mA) Tj=25℃ IH(mA) Tyrristor 熱抵抗 Per 1Arm Diode Rth(j-c) PVD30-8 600 50 typ min 2.0 4.0 5000 0.15 0.25 0.2 0.45 10 1.9 0.15 800 900 800 900 30 200 200 100 5 0.5 2 10 5 0.25 100 80 6 2 4 70 50 - max 2.5 8.0 0.3 0.4 0.35 0.7 2.4 0.25 1.22 2.5 10 10 1.4 1.4 100 50 25 4 2.5 2 2.7 2.55 ―19― PVD30-8A2 600 50 max typ min 2.5 2.0 8.0 4.0 5000 0.3 0.15 0.4 0.25 0.35 0.2 0.7 0.45 10 2.4 1.9 0.25 0.15 1.22 2.5 800 900 800 900 30 200 200 100 5 0.5 2 10 5 10 10 1.4 1.4 100 50 25 4 2.5 2 0.25 100 80 6 2 4 70 50 2.7 2.55 - PVD40-8 600 75 typ min 2.1 4.0 7500 0.15 0.25 0.2 0.45 10 1.9 0.15 800 900 800 900 30 300 450 100 5 0.5 2 10 5 80 6 2 4 70 50 - max 2.6 8.0 0.3 0.4 0.35 0.7 2.4 0.25 1.1 1.5 10 10 1.4 1.4 100 50 25 4 2.5 2 2.7 2.55 PVD43-8 600 75 typ min 2.1 4.0 7500 0.15 0.25 0.2 0.45 10 1.9 0.15 800 900 800 900 50 400 800 100 5 0.5 2 10 5 0.25 500 100 6 2 4 100 50 - max 2.6 8.0 0.3 0.4 0.35 0.7 2.4 0.25 1.1 1.5 10 10 1.35 1.25 200 100 50 4 2.5 2 2.1 2.1 Vol.27 No.1 5.Pbフリー半田導入と高信頼性の実現 図5―2 オン電圧特性 前述していますように,本製品は環境問題(RoHS 指令)に対応するため,弊社製品群の中でもいち早くP bフリー半田を導入しました。同時に信頼性試験におき ましても,既存のワイヤーボンディング製品と同等以上 の高信頼性を実現しています。 信頼性試験結果を表2に示します。 図5−1∼5にPVD30−8の仕様カーブし示します。 6.定格・特性 4タイプの定格・特性は表3に示します。PVD30 図5―3 平均順電力損失特性 −8,PVD30−8A2は3KW定格対応で,PVD 40−8,PVD43−8は4KW定格対応 7.まとめ 以上がポータブル型エンジン発電機用PIMの概要説 明となります。 汎用型IGBTPIMモジュールは他にも5.5KW 用,7.5KW用,11KW用,15KW用のPVDシ リーズ(SP」外形品) がラインナップされております。 また,本製品と同一パッケージでのカスタム化にも対 図5―4 サージ順電流定格 応できる準備は整えられており,今後も多種多様なニー ズに応えていきたいものと考えております。 図5―5 過渡熱抵抗 図5―1 順電圧特性 ―20―