Vol.27 No.1 大容量IGBTパッケージの開発 富田直樹 門前智也 宮本虎壽 1. はじめに 2.製品の外観 日本インターでは,1200V系のIGBTモジュー ル製品群に『Bシリーズ』として,新たに2品種をライ ンナップいたしました。 この製品群における従来品での最大定格は,ダブラー タイプ(2回路)は400A,またシングルタイプ(1 回路)は800Aまでが供給可能となっていましたが, 近年,特に溶接機などの産業機器用や大型のインバータ 用市場からの根強い開発要求があり,当社としてもその 市場ニーズに応えるため,今回,上記の『Bシリーズ』 製品群の中でもさらに大電流容量のIGBTモジュール 製品を開発いたしました。 ダブラータイプについては600A品(定格)を,ま 写真1 PDMB600B12の外観 た,シングルタイプについては1200A品(定格)の シリーズ化のための開発を完了しましたので,この2品 130 種について,今回,紹介させていただきます。 110 10 2-M4 4-φ6.5 27.5 140 130 110 4-φ6.5 4 130 110 3 2-M8 2 1 14.5 130 20 40 110 3-M8 46.75 14.5 19.5 4-M4 13 30 36 7 銘 板 7 銘 板 図1 PDMB600B12外形図 図2 PHMB1200B12外形図 ―13― 44 13.811.5 37 43.8 24 35 36 Vol.27 No.1 大電流化に対応するため,新たなパッケージを設計い ケージでは,端子とケースとを一体化したインサート型 たしました。今回開発しました600A定格のダブラー のケース方式を採用いたしました。このため,従来型パッ タイプ『PDMB600B12』を,図1(外形寸法) , ケージでの端子固定用のエポキシ樹脂厚相当分が不要と 写真1(外観)に示します。 なり,その分,より薄型化が可能となっていますし,ま また,1200A定格のシングルタイプ『PHMB1 た環境に対する負荷も大幅に軽減されております。 200B12』を,図2(外形寸法),写真2(外観) さて,モジュールの大電流化を行う上では,同一パッ に示します。 ケージ内に沢山のチップを搭載し,並列動作させる必要 があるため,各チップが負担する電流の大きさや,また それに伴う熱的なバランス,あるいは,モジュール内部 に配置された個々の主電流導出用端子,各端子間を接続 するアルミワイヤーなどが有する寄生のインダクタンス に配慮する必要があります。さらには,モジュール内部 の温度上昇がより均等化できるように,各部品のレイア ウトや端子の形状・配置にも,大電流化に見合う工夫を しております。 今回ラインナップしましたパッケージの特徴は,端子 配置を近接させ重ね合わせることによる効果と,配線ルー プによって生じる(基板パターンの引き回し)面積をよ り小さくする効果とにより,さらなる低インダクタンス 写真2 PHMB1200B12の外観 化の実現を達成したことにあります。 3. 内部回路 従来品 PHMB600B12(60nH) 新製品 PDMB600B12(40nH) ダブラータイプ『PDMB600B12』 :図3 電流容量の増大はまた,短時間により大きな電流を遮 シングルタイプ『PHMB1200B12』 :図4 断する必要が生じることから,この観点からもモジュー ル全体をより低インダクタンス化することの必要性がま すます高まります。 7(G2) 6(E2) (C2E1) 1 (E2) 2 この対策として,式(1)に示したような寄生のイン (C1) 3 ダクタンス(L成分)をより低減化することにより,特 にターンオフ時に発生するサージ電圧(はね上がり電圧) を抑制できるため,このL成分の低減化が達成されるこ 5(E1) 4(G1) とで,大電流時でのより高速な運転も可能となります。 図3 PDMB600B12回路図 ΔV= L・ (−di/dt) −式(1) ただし,ΔV:はね上がり電圧 [ V ] L:寄生インダクタンス [ H ] (E) (E) (C) 4 2 1 −di/dt:電流の減少率 [ A/μ s] 電流容量の増大はさらに,端子部や基板パターンによ る抵抗分の影響もより大きく現れるという結果を招き, (G) ひいては損失の増大にと繋がります。このため,端子の 板厚もより厚くするなどの対策が必要となることに加え, 3 大電流化に伴う発熱に対処するためにはパッケージの機 図4 PHMB1200B12回路図 械的強度もより高められていなければなりません。 今回の開発品ではインサート型のケース方式を採用し, 4. 内部構造 種々の工夫をすることで,端子の固定がより確実となり, 機械的強度の確保も充分に可能なものとなりました。 従来の設計では,端子をエポキシ樹脂で固定する方式 熱抵抗特性に関しても,大電流化に見合うさらなる対 でしたが,今回,新たに開発しました大電流容量のパッ 策が不可欠となります。従来のIGBTモジュールでは ―14― Vol.27 No.1 ターンオン時 上から見た図 7 6 5 4 図6 従来品の代表例 PHMB600B12 ターンオン時 E2端子 C1E2端子 C1端子 図5―A パッケージのイメージ図 (PDMB600B12) 下から見た図 ターンオフ時 C1E2端子 C1端子 E2端子 図7 新製品の代表例 PDMB600B12 図5―B パッケージのイメージ図 (PDMB600B12) 熱伝導率の優れた窒化アルミ基板の使用が主流でしたが, 今回開発の『Bシリーズ』においては,コスト的に優位 ターンオフ時 なアルミナ基板を採用し,これを大幅に薄型化すること によって,熱抵抗特性についても従来と同等,あるいは それを上回る仕様を達成することが可能となりました。 5.定格・特性 2タイプの定格・特性については『PDMB600B 12』および『PHMB1200B12』の特性を表1 に示します。 ―15― Vol.27 No.1 となります。当社では,今後もIGBTモジュール製品 6.まとめ の市場動向をふまえ,その市場ニーズに応えるべくさら 以上が今回『Bシリーズ』に新たに追加した『PDM なる特性の改善や,高耐圧IGBTモジュールのシリー B600B12』と『PHMB1200B12』の説明 ズ化とラインナップ化の充実を進めていく予定です。 表1 PDMB600B12 / PHMB1200B12 定格・特性 (1)最大定格 Item Symbol コレクタ・エミッタ間電圧 Collector-Emitter Voltage ゲート・エミッタ間電圧 Gate-Emitter Voltage DC コレクタ電流 Ims Collecter Current コレクタ損失 Collecter Power Dissipation 接合温度 Junction Tempereture Range 保存温度 Storage Temperature Range 絶縁耐圧(Terminal to Base AC, 1minute) I solation Voltage 締め付けトルク Mounting Torque Rated Value Unit VCES 1,200 V VGES ± 20 V Ic Icp 600 1,200/2,400 A Pc 2,770/5,600 W Tj -40 ∼ +150 ℃ Tstg -40 ∼ +125 ℃ VISO 2,500 V(RMS) Moudule Base Heastsink Ftor Busbar to Main Terminal M4 M8 3(30.6) 1.4(14.3) 10.5(107) N・m (kgf・cm) (2)電気的特性 Item コレクタ遮断電流 Collector-Emitter Cut-Off Current ゲート漏れ電流 Gate-Emitter Leakage Current コレクタ・エミッタ間飽和電圧 Collector-Emitter Saturation Voltage ゲートしきい値電圧 Gate-Emitter Threshold Voltage 入力容量 Inpact Capacitance 上昇時間 Rise Time スイッチング時間 ターンオン時間 Turn-on Time Switching Time 下降時間 Foll-Time ターンオフ時間 Turn-off Time Symbol Test Condition VCE=1200V, CES VGE=0V VGE= ± 20W, IGES VCE=0V Ic=600A, VCE(sat) VGE=15V VCE=5V, VGE(th) Ic=600mA VCE=10V, Cies VGE=0V, f=1MHz tr VCC=600V ton RL=1 Ω tf RG=1 Ω toff VGE= ± 15V (3)フリーホイールダイオードの特性 Item 順電流 Forward Current DC 1ms Symbol IF IFM VF IF=600A, VGE=0V Rated Value 600/1,200 1,200 逆回復時間 Reverse Recovery Time trr ― Typ. Max. Unit ― ― 12/24 mA ― ― 1 μA ― 1.9 2.4 V 4 ― 8 V ― 50,000 ― pF ― ― ― ― 0.25 0.4 0.25 0.8 0.45 0.7 0.35 1.1/1.5 μs Max. Unit (4)熱的特性 Characteristic Unit 熱抵抗 Thermal Impefance A Characteristic Symbol Test Condition Min. Typ. Max. Unit 順電圧 Peak Forward Voltage Min. 1.9 2.4 V IF=600A, ― 0.25/0.4 0.35/0.5 μ s VGE=10V di/dt=1200A/ μ s ―16― Symbol Test Condition Min. Typ. Junction Rth (j-c)to Diode Case IGBT ― ― 0.044/0.022 ― ― 0.085/0.043 ℃/W