Vol.26 No.1 高di/dt耐量逆阻止サイリスタ 坂本 洋明* 岡本 恭一* るスイッチとしてTST06A60の高di/dtサイリスタが配 1.はじめに 置されます。 HID (High Intensity Discharge) ランプは高輝度であ 今回開発した逆阻止型サイリスタTST06A60型は高い るため自動車のライト,オーバヘッド・プロジェクタ等 di/dt耐量特性を得るために,ゲート電極とカソード電 に使用されています。従来のハロゲンランプに比べ太陽 極の対向長を極力長くしサイリスタの初期導通面積が大 光に近く且つ,光量が豊富という特徴から特に自動車用 きくなるパターン構造としました。また,接合のディメ のヘッドライトには安全面からも急速に普及していま ンジョン及び拡散濃度プロファイル等の最適化により, す。 均一なターンオン拡がり特性が得られるように設計しま このランプの点灯用回路には従来は真空管であるスパ ークギャップ方式を採用していました。しかしスパーク ギャップは,構造上寿命が短くオン,オフを繰り返すと 10万回程度で交換する必要がありました。こうした理由 した。 3.電気的特性 TST06A60型はオフ電圧,逆電圧を有しており,ゲー からHID点灯用デバイスを半導体化し,高寿命で高信頼 ト・カソード間にRGK =100Ωを挿入した条件で600V耐 性とすることが市場から要求されていました。 圧を保証しています。また,同条件下でのdi/dt耐量保 弊社では,このような要求に応えるために,高di/dt 耐量特性を有したTST06A60型逆阻止型のサイリスタを 証値は2000A/μsです。 TST06A60型は逆阻止能力を有しているため,シンプ ルな回路構成でサイリスタをオフさせることが可能で 開発しましたので紹介します。 す。 2.構造 次にdi/dtの測定回路例を図2に示します。 HIDランプを点灯させるには,点灯回路の二次側の昇 R L 圧トランスに約2万ボルトの高い電圧を発生させる必要 があります。このため一次側のサイリスタは,大きな di/dtで,且つ,高ピーク電流を流します。このように, VDM C この種サイリスタには,高い耐量が要求されます。HID ランプへの応用例を図1に示します。 RGK R 図2 測定回路 RGK C TST06A60 L 図1 応用例 図1において,400Vの電圧をコンデンサCに充電し, そこに蓄えられたエネルギを高効率でトランスLに伝え 図2の回路において, VDM;電源電圧 C;充・放電用コンデンサ L;放電回路に含まれるインダクタンス分 R;充電抵抗 RGK;ゲート・カソード間抵抗 RGKとして100Ωをゲート・カソード間に近接した位 置に挿入します。 この抵抗は実際の使用回路においても, 4 Vol.26 No.1 高温時の洩れ電流, 外来ノイズ等による誤点弧を阻止し, 確実にサイリスタを動作させるために必要なものです。 図2の回路で測定したdi/dtの波形を図3に示します。 5.定格・特性 開発製品TST06A60型の定格・特性を表1に示しま す。 iA 0.5 ITM ■最大定格 項目 記号 条件 繰り返しピークオフ電圧 VDRM RGK=100Ω 繰り返しピーク逆電圧 VRRM RGK=100Ω TC≦100℃ VDM・VRM≦400V RGK=100Ω 繰り返しピークオン電流 ITRM IG≧80mA dig/dt≧0.5Aμs tw≦1.0μs (注1) di/dt≦2000Aμs duty≦0.005% 臨界オン電流上昇率 Ta≦100℃ VDM・VRM≦400V RGK=100Ω オン電流降下率耐量 di/dt IG≧80mA dig/dt≧0.5Aμs ITM≦600A (注1) tw≦1.0μs 50Hz 1分間 フィン無し 動作接合温度範囲 Tjw 保存温度範囲 Tstg ITM VDM vA t 定格値 単位 600 V 600 V 600 A ±2000 A/μs -40∼+125 -40∼+125 ℃ ℃ tW=1.0μs VRM 0.5 ITM di/dt= t 図3 測定波形 図3の測定波形は,サイリスタがオンする時の電圧・ ■電気的特性 項目 記号 ピーク繰り返しオフ電流 IDRM ピーク繰り返し逆電流 IRRM オン電圧 VTM ゲートトリガ電流 IGT ゲートトリガ電圧 VGT 熱抵抗 Rth(j-c) 電流波形です。 VDM;印加電圧 条件 最小 標準 最大 VDM=VDRM RGK=100Ω Tj=25℃ − − 100 VRM=VRRM RGK=100Ω Tj=25℃ − − 100 ITM=10A Tj=25℃ − − 1.50 VDM=6V RL=10Ω − − 10 RGK=100Ω Tj=25℃ − − 1.0 接合部−ケース間 − − 5 単位 μA μA V mA V ℃/W (注1)測定回路は図2による vA;サイリスタのA−K間電圧波形 表1 TST06A60型 定格・特性 iA;サイリスタのアノード電流波形 ITM;アノード電流のピーク値 VRM;サイリスタのオフ時に発生する転流サージ電圧 4.TST 06A 60型のスイッチング特性波形 写真1にTST06A60型の代表的なスイッチング波形の 6.外観 及び外形 写真2はTST06A60型の外観写真です。 TO-220類似外形で夫々の外部電極にはハンダメッキ が施してあります。図4に外形寸法を示します。 実例を示します。 ■外形図 単位:mm 電極接続 ① カソード ②④アノード ③ ゲート iA vA 質量:約1.45g GND 時間:500ns/DIV, iA:100A/DIV.(Tc=25℃) v :100V/DIV A 写真1 TST 06A60の電圧・電流波形 (代表例) 5 図4 外形寸法 Vol.26 No.1 ∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼ まとめ 高di/dt・高パルス電流制御用サイリスタTST06A60 型は発売以来好評を得ております。外形ではタブ付も用 意してあります。 *執筆者紹介 坂本 洋明 Hiroaki Sakamoto 1968年入社 現在,生産本部開発設計部勤務 岡本 恭一 Kyouiti Okamoto 1990年入社 現在,生産本部プロセス技術部勤務 写真2 TST06A60の外観写真 6