技術紹介 実装性に優れた小型光ファイバカプラの開発

技術紹介 8 実装性に優れた小型光ファイバカプラの開発
1
技術紹介
8 実装性に優れた小型光ファイバカプラの開発
Development of Miniature Optical Fiber Couplers
武田 光善
佐々木 弘之
葛西 誠
川村 政則
キーワード
Keywords
Teruyoshi Takeda
Hiroyuki Sasaki
Makoto Kasai
Masanori Kawamura
光デバイス事業部 技術部
光デバイス事業部 技術部 マネージャー
弘前航空電子(株)光推進部
弘前航空電子(株)光推進部
光ファイバカプラ、 融着延伸
optical fiber coupler, fused taper
■ 要旨
■ SUMMARY
融着延伸型の光ファイバカプラ(以下光カプラと言
う)は市場に投入されて久しく、光通信技術の発達と共
に、要求仕様の変化に対応してきた光製品の一つです。
ブロードバンド通信が普及するに従って、 光カプラに対
するコストは低価格要求となってきております。当社で
は長年光カプラの開発、生産を行ってきましたが、今回
この新しい市場要求に答えるべく、 新たに実装性に優
れた小型光カプラの開発を行いました。その結果は大
変良好なものとなりました。
Long time has passed since fused taper type optical coupler,
which is one of the optical products to meet a various
market demand, was introduced to the market. Along
with the diffusion of broadband communication, severer
cost-down requirement has been imposed on the optical
fiber coupler. JAE has been engaged in development
and production of optical fiber coupler for a long time.
Responding to the new requirement of the market, we have
successfully developed a miniature easy-to-mount optical
fiber coupler.
図 1 集積型光カプラの外観
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2003, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.26 (2003.3)
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1 まえがき
当社の光カプラに関する製品コンセプトは、“実装性に優れた高機能な製品を提供する”こ
とにあります。当社では既に以下の光カプラ(詳細は図 2 参照)が開発されています。これら
の光カプラの開発については既にこれまでの航空電子技報で発表してきました。 1)2)3)4)
日本航空電子の光ファイバカプラ
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� � � � � � �� � � �
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��
��
��
��
��
��
��
�
������������
光デバイス事業部
図 2 日本航空電子の光カプラ
(1)単機能光カプラ
(2)パンダ光カプラ
(3)複合光カプラ
(4)小型光カプラ
このうち実装性に優れた光カプラとしては、 複数の光カプラを一体にした小型複合光カプラ
を開発して市場に投入しております。今回は新たに実装性に優れた以下の 3 品種(図 2 におい
て矢印で示してあります)を開発しましたので、これらについて報告します。
(1)0.98 / 1.55 WDM光カプラ
(2)短尺光カプラ
(3)集積型光カプラ
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3
2 開発コンセプト
光カプラの主要市場は通信市場となります。通信市場は大変大きな市場であり、その中でも
代表的な市場としてはインターネットに代表されるアクセス系市場があります。このアクセス系
市場に使用される光カプラには、特に低価格が要求されております。低価格の実現には光カプ
ラ自体の単価の低減と共に実装コストの低減も重要な要素となります。
実装コストはお客さまである装置メーカで発生するコストであり、お客様がどのような実装を
行っているかに強く依存することになります。一方で部品メーカとしては、 お客様において低コ
ストな実装が可能となるような部品を、供給する必要があります。
一般に実装容易な部品の条件としては、以下のような要素があります。
(1)実装に制約条件が少ないこと
(2)実装面積が可能な限り小さいこと
(3)実装部品点数が少ないこと
これらの要素と本発表の製品の開発方針をまとめると以下のようになります。
表 1 実装要求と開発方針
実装要求
実装条件に制約が少ないこと
開発方針
0.98 / 1.55WDM 光カプラにおいて
・ 実装時のファイバの曲げ半径の小径化
・ 光カプラとファイバとの接続損の低減化
実装面積が可能な限り小さいこと 光カプラの長さ方向の寸法の更なる短尺化
実装部品点数が少ないこと
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複数の光カプラをひとつのパッケージに納める集積化
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4
3 開発した光カプラの概要
今回開発したこれらの光カプラの概要を以下に述べます。
3.1 0.98 / 1.55 WDM光カプラ
この光カプラは、 光ファイバアンプの合波用(信号光と励起光の合波用)として使用される
ものです。この種類の光カプラの場合は、 実装上の制約条件が通常の光カプラよりも多く、
お客様において実装しにくい問題がありました。これらの問題の詳細は付録(7. 項)に述べま
すが、要約すると以下のようになります。
従来融着延伸法で製作するWDM光カプラでは、 融着延伸する 2 つの光ファイバは一般に
同一である必要があります。この場合、
● 1.55 μm用光ファイバ (1.3 μm帯シングルモード光ファイバ) で光カプラを製作した場
合は、 0.98 μmの光はマルチモードになるため使用出来ません。
● 0.98 μm帯光ファイバで光カプラを製作した場合は、1.55 μmの光に対して曲げ損失が
大きくなるため、大きなループで実装することとなり実装面積が広くなります。
又光カプラを他の部品と接続するときに 0.98 μm用光ファイバと 1.55 μm用光ファイバの
接続という、異種光ファイバ同志の接続のため接続損失が大きくなります。
一般的に融着延伸する2つの光ファイバーに異種光ファイバを用いたWDM光カプラでは
100%の分岐を実現することは出来ませんでしたが、今回当社はこの異種光ファイバ(0.98 μm
帯光ファイバと 1.55 μm帯光ファイバ)を用いて 100%分岐出来る光カプラ(0.98 / 1.55 W
DM光カプラ)を開発しました。従ってお客様において、光カプラの光ファイバの曲げ半径を大
きくとる実装を行う必要が無くなります。更に光ファイバの接続部分は同種光ファイバ同志の
接続が可能となります。
3.2 短尺光カプラ
この光カプラは、 お客様における実装スペースの小型化を実現するために開発を行いまし
た。光カプラは 2 本の光ファイバの被覆を除去しその部分を融着延伸させて作ります。従って
元々細長い光ファイバを延伸するため、 光カプラの形状は非常に細長くなります。一般的な光
カプラのパッケージ外形は、φ3 X 55 mmの円筒状をしています。この形状は他の光部品と比
較すると、体積としては小さいですが長さとしてはかなり長くなります。従って全体の実装スペー
スを制約している要素に光カプラの長さがあります。
当社が開発した短尺光カプラは、 パッケージの長さを短くする事によってお客様の実装ス
ペースを小さくすることが出来るようにしました。
3.3 集積型光カプラ
光ファイバによる高速大容量が実現されていくに従って、 複数(多チャンネル)の光ファイバ
を同時に処理する必要が増えてきています。これはすなわち複数の同じ光カプラがひとつの装
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置の中に実装される場合が増えてきていることになります。このようなお客様での実装状況を
踏まえて、 複数の同じ光カプラがひとつのパッケージに収納されていれば、 実装を短時間で行
うことが出来てかつ実装スペースを小さくすることが出来るようになります。当社では既に 2 つ
の光カプラを 1 つのパッケージに収納した複合光カプラ(パラレルタイプ)を開発しています。
今回本誌で発表するこの集積型光カプラは、 当社が既に実用化している複合光カプラ(パ
ラレルタイプ光カプラ)の集積度を更に向上させて、 最大 8 個の光カプラをひとつのパッケー
ジに収納させたものです。更にパッケージの大きさも従来までの光カプラのパッケージサイズ
とほぼ同じ大きさです。すなわち従来の 1 つの光カプラ実装スペースに最大 8 個の光カプラを
実装することが出来ることになります。
4 実現するための技術
3章で、 お客様において光カプラを実装する上で発生する課題を述べました。これらの課題
を解決するときに障害となる技術的課題とそれを解決するために今回開発した技術を以下の表
にまとめます。
表 2 光カプラの課題とそれを解決するための技術
開発した
光カプラ
実装上の課題
すなわち解決すべき課題
解決するときに
障害となる技術的課題
(1)0.98 μm光ファイバを使うと
1.55 μmの波長の光は実装すると
0.98 / 1.55 WD きに損失しやすい
異種光ファイバを用いた
M光カプラ
(2)0.98 μm光ファイバと 1.55 μ 時の WDM 性能の劣化
m光ファイバの接続は同種の光フ
ァイバ接続よりも難しい
延伸長を短くするにつれ
て光学性能が劣化する
技術的課題を
解決するための技術
融着延伸技術の応用
製造装置、
製造条件の最適化
短尺光カプラ
寸法が長い
集積型光カプラ
ひとつの実装スペースに同じ光カ 同時に複数の光カプラを
当社独自技術
プラがいくつも実装されるとスペー 延伸しそれを集積化する
(複合化技術)の応用
スが大きくなる
製造技術
上記の表を見てわかるように今回開発した技術は、今まで当社が保有している技術を応用あ
るいは発展させたものです。従って上記表には無い共通技術(例えば信頼性を確保する技術、
あるいは製造装置を設計する技術等々)についても、当社が保有している豊富な技術を有効に
発揮することが出来ます。
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4.1 0.98 / 1.55 WDM光カプラの概要
今回開発した 0.98 / 1.55 WDM 光カプラは、 0.98μm 入射ポートには 0.98μm 光ファイ
バを用い、1.55μm 入射ポートには 1.3μm 光ファイバを用いて実現しました。概要を図 3 に
示します。
光増幅器用 0.98/ 1.55µm WDM 光カプラ
�����������������������������������
���������������������
1.3 µmSMF
0.98
1.55
1.55
0.98
0.98 µmSMF
������
広帯域(0.98 ± 0.04 /1.55 ± 0.04 µm)を実現
抵損失(0.4dB 以下)を実現
抵 PDL(0.2dB 以下)を実現
各種コネクタ対応可
高品質/高信頼
用途に適したファイバを使用
使用ファイバ SMF & PureMode HI 1060
��� [%]
100
0
0.9
0.98
1.55
1.7
�� [ µm]
�
図 3 0.98 / 1.55 WDM光カプラの概要
4.2 短尺および集積型光カプラの概要
従来のφ 3 × 55 mmのカプラパッケージの大きさを φ3 × 35 mmへと短尺化しました。更
に φ3 × 35 mmの短尺パッケージに8個の光カプラを実装し、集積度を向上させたものを図 4
に示します。
図 4 集積型光カプラの外観 (拡大)
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5 試作結果
今回開発した3種類の光カプラの試作結果を紹介します。
5.1 0.98 / 1.55 WDM光カプラ
5.1.1 試作結果
試作した 0.98 / 1.55 WDMのデータを表 3 に示します。
表 3 試作データ
PDL*[dB]
挿入損失[dB]
S/N
0.98 μ m 側
1.55 μ m 側
0.98 μ m 側
1.55 μ m 側
1
0.05
0.12
0.13
0.01
2
0.08
0.09
0.17
0.05
3
0.06
0.11
0.16
0.02
4
0.06
0.08
0.03
0.08
5
0.09
0.06
0.01
0.02
6
0.10
0.05
0.19
0.05
7
0.07
0.06
0.14
0.02
8
0.06
0.11
0.17
0.05
9
0.09
0.08
0.18
0.02
10
0.08
0.14
0.14
0.01
平均
0.074
0.090
0.132
0.033
標準偏差
0.016
0.028
0.059
0.022
表 3 試作データからわかるように挿入損失および PDL についていずれも 2 つの波長共良好
な性能が得られています。既に述べましたように、 従来までの 0.98 μm帯光ファイバを用いた
WDM光カプラにおいては、 0.98 μm帯光ファイバに 1.55 μmの光を伝播させるため損失が
発生しやすかったのに対し、今回試作した結果では、最大でも 0.14 dBと非常に小さいことが
分かります。
更にこの結果をグラフ化するとグラフ 1、2 のようになります。
(注)* PDL:挿入損失偏光依存性
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8
������������
0.4
0.35
����µ�����
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0.4
����µ�����
グラフ 1 挿入損失分布
PDL������
0.3
����µ����
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
����µ����
グラフ 2 偏光依存性分布
この 2 つのグラフは、それぞれ横軸に 0.98 μmにおける性能(挿入損失および PDL)、 縦
軸に 1.55 μmにおける性能(挿入損失および PDL)をとりそれぞれの性能の分布を示してあり
ます。また 2 つのグラフは、スケールの最大値を目標規格にとってあります。従って開発した光
カプラは全て規格を満足していることがわかります。
挿入損失分布を見ると分布はグラフの原点付近に集中しており、 2 つの波長帯(0.98 μmと
1.55 μm)共に非常に挿入損失が小さいことが分かります。一方 PDL 分布を見ると、2 つの波
長帯いずれも PDL は小さいことが分かりますが、分布は特にX軸付近に集中しています。これ
より 0.98 μmの PDL よりも 1.55 μmの PDL の方がやや小さいことが分かります。今後更な
る高性能化を目指すために、 製造条件の最適化により 0.98 μm帯の PDL を小さくしていく予
定です。
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5.1.2 評価結果
この光カプラの評価結果を以下に紹介します。4章で述べたように、 耐環境性あるいは高
信頼性に影響を与えるパッケージング技術については当社で既に蓄積されている技術を反映し
て試作しています。従って実際に評価した結果も非常に安定した性能が得られました。
(1)高温高湿試験
● 試験条件
温度:75℃
湿度:95%
印加時間:2000 時間
������
試作した 0.98 / 1.55 WDMの高温高湿放置試験の結果をグラフ 3 に示します。
�������
���
���
���
���
���
���
���� �
����
����
����
����
��
���
��
��
����
����
��������
��
��
����
��
����
��
��
��
グラフ 3 0.98 / 1.55 WDM光カプラの高温高湿放置試験結果
このグラフでもスケールの最大を規格にとってあります。すなわち試験前後での挿入損失変
動は 1dB 以下を規格としています。
このグラフに示すとおり、高温高湿評価試験において非常に安定した性能を確認出来ました。
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(2)熱衝撃試験
● 試験条件
温度:ー 40 / 85℃
サイクル時間:1 時間
印加時間:500 時間
試作した 0.98 / 1.55 WDMの熱衝撃試験の結果を表 4 に示します。
表 4 熱衝撃試験前後の挿入損失変動[dB]
サンプル
0.98 μ m 側
1.55 μ m 側
17
0.04
0.06
18
0.02
0.03
19
0.04
0.02
20
ー 0.04
ー 0.01
21
0.05
0.03
この熱衝撃試験でも試験前後での挿入損失変動は 1dB 以下を仕様としています。従って熱
衝撃試験の印加前後での挿入損失変動はほとんど変化がなく、 非常に安定した性能が得られ
ました。
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5.2 短尺光カプラ
短尺光カプラの試作結果を以下に紹介します。
表 5 試作結果
挿入損失[dB]
サンプル
波長依存性*[dB]
PDL [dB]
パッケージ長
ポート1 → ポート1 → ポート1 → ポート1 → ポート1 → ポート1 →
ポート 3
ポート 3
ポート 3
ポート 2
ポート 2
ポート 2
[mm]
1
0.29
13.1
0.01
0.05
0.03
0.21
35
2
0.31
12.8
0.01
0.04
0.05
0.21
35
3
0.33
13.4
0.02
0.10
0.04
0.21
35
4
0.31
12.4
0.01
0.02
0.03
0.21
35
5
0.29
13.3
0.01
0.05
0.04
0.19
35
6
0.28
13.1
0.01
0.04
0.02
0.19
35
7
0.38
13.4
0.01
0.06
0.00
0.22
35
8
0.33
12.1
0.01
0.03
0.01
0.22
35
平均
0.315
12.95
0.011
0.049
0.028
0.208
標準偏差
0.030
0.45
0.003
0.023
0.016
0.011
今回開発した短尺光カプラのパッケージ長は 35 mmで、 通常の光カプラのパッケージ長が
約 55 mmであるのに対し約 2 / 3 とすることが出来ました。更に7.
2項に述べますように、一
般には延伸長を短くすると波長依存性、 PDL が劣化することが考えられますが、 従来の光カ
プラと同様に非常に良好な性能が得られています。
(注)* 波長依存性:挿入損失波長依存性
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5.3 集積型光カプラ
集積型光カプラの試作結果の一例を以下に紹介します。表 6 は、 挿入損失 13dB の集積
型光カプラを 3 個試作しました。
表 6 試作結果 測定波長 1550 nm
サンプル
カプラ番号
PDL [dB]
挿入損失[dB]
内部光ファイバ
ポート1 →ポート 2 ポート1 →ポート 3 ポート1 →ポート 2 ポート1 →ポート 3
1
0.38
13.3
0.01
0.06
2
0.36
13.2
0.01
0.02
3
0.32
13.1
0.03
0.02
4
0.28
13.5
0.01
0.04
5
0.31
13.2
0.02
0.04
6
0.32
12.2
0.01
0.02
7
0.38
13.4
0.01
0.04
8
0.38
13.4
0.01
0.04
1
0.38
13.3
0.01
0.07
2
0.33
13.2
0.01
0.02
3
0.28
13.5
0.01
0.07
4
0.33
12.8
0.01
0.07
5
0.29
13.4
0.01
0.07
6
0.39
12.4
0.01
0.04
7
0.23
13.5
0.01
0.04
8
0.27
13.1
0.01
0.05
1
0.27
13.7
0.02
0.09
2
0.27
13.4
0.01
0.08
3
0.35
13.5
0.01
0.02
4
0.29
13.0
0.01
0.03
5
0.36
12.8
0.01
0.06
6
0.27
13.7
0.02
0.09
7
0.27
13.4
0.01
0.08
8
0.35
13.5
0.01
0.02
平均
0.319
13.23
0.012
0.048
標準偏差
0.046
0.36
0.005
0.023
1
2
3
表 6 から分かるようにパッケージ内の8個の光カプラの挿入損失のバラツキも小さく、 また
PDL も全て非常に小さな光カプラが実現出来ていることが分かります。
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13
6 むすび
以上述べてきたとおり、実装性に優れた小型光カプラを開発し良好な性能が実現されている
事を確認しました。これらの光カプラは、 使用波長に対して最適な光ファイバを用いた光カプ
ラ、あるいは最大 8 個の光カプラを一つのパッケージに収納した光カプラなど、お客様におい
て実装しやすい光カプラです。
今後も“実装性に優れた高機能製品を提供する”ための、新たな光カプラの開発を実施して
いきたいと考えています。
7 付録
7.1 0.98 / 1.55 WDM光カプラの問題点
0.98 / 1.55 μmWDM光カプラに内在する基本的な問題について解説します。
問題は3点あり、このうち 2 点は実装に関する問題です。
(1)0.98 μm光ファイバを使うと 1.55 μmの波長の光は実装するときに損失しやすい
この光カプラは既に市場に投入されておりますが、実装面を考えると二つの問題があります。
その2つに共通する問題は 2 つの波長(0.98 μmと 1.55 μm)の差が大きいために、それぞれ
の波長帯で最適な光ファイバが異なることに起因するものです。現在市場に投入されている光
ファイバは、 この波長帯では 0.98 μm用シングルモード光ファイバと 1.3 μm用シングルモー
ド光ファイバです。
まず最も一般的な光ファイバである 1.3 μm帯光ファイバに 0.98 μmの波長の光を伝播さ
せるとマルチモードになってしまいます。マルチモードの状態の光を(シングルモード)光カプラ
に入射すると光学性能(分岐比あるいは過剰損失等)は不安定になります。一方反対に、0.98
μm帯光ファイバに1.55μmの波長の光を伝播させるとシングルモードでの伝播は出来ますが、
モードフィールド径が非常に大きいために伝播損失(特に光ファイバを曲げた場合に発生する
伝播損失)が大きくなってしまいます。これは、 光ファイバアンプでせっかく光のパワーを増幅
するのにかかわらず光ファイバアンプ自体で損失を発生させてはアンプとしての効率が悪くなり
ます。
この“0.98 μm帯光ファイバに 1.55 μmの波長の光を伝播させると伝播損失が大きくなって
しまう”という問題を解決するためにとられている対策は、 光カプラの光ファイバの曲げ半径を
出来るだけ小さくしないような実装をするということです。この実装条件に対する制約は、充分
な実装スペースをとれる場合はあまり問題にはなりませんが、 装置全体の小型化が進展してい
く中では次第に大きな問題となっていくと思われます。また一方でこの問題の対策として、1.55
μmの波長の光を伝播させても損失しにくい 0.98 μm用シングルモード光ファイバも市場に投
入されています。しかしこの場合は光ファイバがさらに特殊なものとなると同時に、このような損
失の発生しにくい光ファイバであっても原理的には 1.55 μmの光の損失は、0.98 μm光の損失
よりも大きくなります。従って対策としては充分ではありません。
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2003, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.26 (2003.3)
技術紹介 8 実装性に優れた小型光ファイバカプラの開発
14
(2)0.98 μm光ファイバと 1.55 μm光ファイバの接続は同種の光ファイバ接続よりも難しい
二つ目の問題点は、 お客様が実装する時に他の部品の光ファイバと接続する必要があるた
めに、 この接続は光ファイバが異種の光ファイバ同志を接続しなければならないことです。異
種光ファイバの接続は、同種光ファイバの接続よりも難しくなります。このWDM光カプラは、
幹線に使用されている光ファイバ(すなわち 1.3 μm帯光ファイバ)と接続されたり、 光ファイバ
アンプの中でEDF(エルビウム・ドープド・光ファイバ)と接続されたりあるいはアイソレータ、
0.98 LDと接続されたりします。これらの部品に使用されている光ファイバは全てが 0.98 μm
帯光ファイバで構成されているわけではありません。従って必ず異種光ファイバとしての接続が
必要となります。
異種光ファイバ同志の接続が同種光ファイバ同志の接続よりも難しい理由は、 2 つの光フ
ァイバのコア径が異なるもの同志を接続しなければならないことに主要因があります。コア径
が異なると(すなわち伝播路が異なると)光の損失が発生します。
但し異種光ファイバの接続は不可能と言うことではありません。すなわちコア径を連続的に
変化させることによって損失は小さくなります。しかしお客様において作り上げられる装置全体
の中でその大部分は、同種光ファイバ同志の接続となるはずです。あるいは更に装置全体の設
計を行う上では、基本的には同種光ファイバで接続されるように設計されるはずです。従ってこ
の部分の接続だけは通常他の部分の接続と接続条件が異なることになります。
(3)異種光ファイバを用いたWDM光カプラの実現が難しい
一般に方向性結合器ではWDM機能を実現する場合、相等しい2 本の伝送路(光ファイバ)
を用いて実現されます。これは 2 本の伝送路(光ファイバ)が異なると 100%分岐出来なくなる
ためです。当社において今回開発した 0.98 / 1.55 WDM光カプラは、 融着延伸方法を工夫
することにより、 0.98 μm帯光ファイバと 1.3 μm帯光ファイバという異なる光ファイバを用い
ても 100% 分岐出来るようにしました。
7.2 短尺光カプラの問題点
この光カプラを実現した技術は、融着延伸方法にあります。光カプラのパッケージ長は、延
伸部分の長さと固定部分の長さで決まります。このうち固定部分の長さは、 当社で保有してい
る固定技術から既に最も短くなるように最適化されております。従って光カプラのパッケージの
長さを短くするためには、延伸部分の長さを短くする必要があります。
延伸長を支配する要因は、 製造条件でありすなわち融着延伸条件と性能です。この融着延
伸条件と性能の 2 つが支配要因となる理由は、 延伸長が性能に影響するためです。すなわち
単に延伸長を短くするだけでは、性能を劣化させてしまう場合があります。性能を劣化させない
で延伸長を短くする製造装置、延伸条件を開発しなければなりません。
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[参考文献]
1)佐久間一浩 ほか:“シングルモード光ファイバカプラ,”航空電子技報 ,No.11, pp.21-26
(1988)
2)岡憲臣 ほか:“光ファイバカプラ製造装置「MARK −Ⅲ」,
”航空電子技報 ,No.13,
pp.80-84 (1990)
3)佐々木弘之:“融着延伸型光ファイバカプラの信頼度,”航空電子技報 ,No.21. pp.3-10
(1998)
4)武田光善 ほか:“小型複合光ファイバカプラの開発,”航空電子技報 ,No.24, pp.31-35
(2001)
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