超分子型金ナノ粒子集合体の電位による配列制御

技術紹介 超分子型金ナノ粒子集合体の電位による配列制御
1
技術紹介
1 超分子型金ナノ粒子集合体の電位による配列制御
え
A Thermodynamically Controlled Adsorption of Gold nanoparticles with Fullerenes on Au Electrode
山田 一彦
Kazuhiko Yamada
商品開発センター 商品開発部
三井 亮介
Ryosuke Mitsui
商品開発センター 商品開発部
林
Hiroyuki Hayashi
商品開発センター 商品開発部
國方 亮太
Ryota Kunikata
商品開発センター 商品開発部
香川 加奈
Kana Kagawa
商品開発センター 商品開発部
大西 賢
Ken Onishi
商品開発センター 商品開発部 主任 工学博士
中島 伸一郎
Shin-ichiro Nakajima
商品開発センター 商品開発部 シニアマネージャー 薬学博士
泰之
キーワード:
金ナノ粒子,シクロデキストリン,フラーレン,自己組織化,配列制御
Keywords: Gold nanoparticles, Cyclodextrin, Fullerene, Self-assembly, Ordered nanostructure
要 旨
金ナノ粒子は、発光や磁性などの物性を示す代表的なナノ
テクノロジー材料のひとつです。近年では、その物性の向上や
デバイス化に対する興味と相俟って、金ナノ粒子の配列制御
に高い関心が寄せられています。
当グループでは、これまでにシクロデキストリン分子で被覆さ
れた修飾金ナノ粒子の過塩素酸ナトリウム水溶液を用いて、
金(111)電極上での電位変化に伴う金ナノ粒子の吸着挙動を
調べてきました。その結果、飽和カロメル電極に対して 0 V 以
上の電位を電極に印加すると、金ナノ粒子はランダムな吸着
膜を形成し、一方、-0.6 から 0 V の範囲の電位では、シクロデ
キストリン分子どうしの分子間相互作用に基づき、金ナノ粒子
どうしが密集した吸着膜が形成されることを見出しました。すな
わち、電極/溶液界面の表面電荷変化に伴い変化する吸着
力を駆動源として利用することにより、従来の制御手法では達
成困難であった金ナノ粒子の可逆的(動的)な配列制御が可
能となることを明らかにしました。
このような金ナノ粒子の配列制御技術の適用範囲を拡張す
ることを目的として、今回、シクロデキストリン分子と超分子形
成することが知られるフラーレン分子を、シクロデキストリン分
SUMMARY
Recent work on gold nanoparticles has flourished
in the past few years, as a result of development of
several methods to control the particle size and to
stabilize the particles in solution. More, considerable
attention focuses on the possibility of nanoparticles
assembly because of their important physical,
electronic, optical properties, and of potential
applications for electronic circuit components of
extraordinary high integration.
Among various patterning strategies have been
developed to create characteristic ordered nanostructures of gold nanoparticles, we so far have
reported a new methodology for a reversible selfassembly of gold nanoparticles bearing β-cyclodextrin
molecules, which was constructed by a potentially
controlled adsorption onto Au(111) surfaces in sodium
perchrolate solution.
The gold nanoparticles
randomly adsorb on Au(111) at a positive potential of
more than 0 V vs. SCE. On the other hand, a
cohesive structure of the particles is observed at the
range of a potential from -0.6 to 0 V vs. SCE, due
mainly to weaken adsorption of the particles, resulting
intermolecular interaction of the β-cyclodextrin
substituted onto the gold nanoparticles.
子で被覆された修飾金ナノ粒子に作用させることにより、シク
ロデキストリンとフラーレンにより形成される超分子を金ナノ粒
子間の連結ユニットとする超分子型金ナノ粒子集合体を合成し
ました。その水溶液に対して、飽和カロメル電極に対して-0.2 V
の電位を印加したところ、金ナノ粒子が配列した自己組織化膜
が形成されることを見出しましたので、以下報告いたします。
We herein enclose a reversible self-assembly of
gold nanoparticles bearing a supramolecular complex
consisting of β-cyclodextrin and fullerene molecules,
which shows highly ordered nanostructures with a
potentially controlled adsorption onto Au(111) surfaces
in sodium perchrolate solution.
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1. まえがき
ナノテクノロジーブームが訪れて 10 年以上が経過し、「ナノ」と名の付く研究開発の進展と
ともに、次々と新しい技術が創出されてきました。現在では、化粧品ならびに微細な電気配
線用インクや電子・光素子などの分野でナノテクノロジーは幅広く利用されており、私たちの
生活・社会に深く浸透しています。今日でもなお、ナノ領域に関する研究開発の興味は衰え
ることなく展開されており、太陽電池や燃料電池などの社会ニーズを支える環境エネルギー
材料分野あるいはバイオテクノロジー分野の鍵技術のひとつとして注目を集めています。な
かでも、最近ではナノ構造を構築する最小構成要素のひとつであるナノ粒子に対して改め
て高い関心が寄せられており、電池やバイオセンサなどのデバイス用途において、ナノサイ
ズに特異的な効果を発揮するためのナノ粒子の合成技術とナノ粒子の配列制御技術に注
目が集まっています[1]。
金ナノ粒子は磁性体ナノ粒子や半導体ナノ粒子とならんでナノテクノロジーを支える鍵材
料のひとつとして注目を集めてきました[2]。最近では、金ナノ粒子をバイオセンサなどのデ
バイスに応用としようとする試みが活発に行われています。たとえば、直径数十 nm の金ナノ
粒子を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)[3]や表面増強ラマン分光(SERS)デバイス[4]など
が挙げられます。これらのデバイスを構築する際、金ナノ粒子の間隔や配列パターンが分
光特性に大きく影響するため、金ナノ粒子の配列制御が重要な課題となっています。
これまでに提唱されている金ナノ粒子の配列制御技術については、金ナノ粒子溶液の滴
下・乾燥操作による自己組織化法や LB 膜法などの他、粒子表面に修飾された有機分子の
超分子形成能を利用する方法などが知られており、それらの手法を利用することにより特異
的な配列構造を持つ金ナノ粒子集合体がいくつか見出されています[5]。しかしながら、これ
らの手法により形成される配列構造は、一般に金ナノ粒子に修飾された有機分子の化学的
性質で決定されます。そのため、所望の配列構造を得るためには、修飾する有機分子の構
造や導入率などをその都度、種々改変するといった試行錯誤を伴うものとなります。
一方、近年、分子回路や分子センサなどの分子デバイスの創製を目指して、電極/溶液
界面での分子の配列制御に関する研究が活発に行われています[6]。とりわけ、界面にお
ける電極電位の変化に伴い変化する分子吸着力を駆動源とする手法は、選択する溶媒、
吸着分子、および印加電位の変化に応じて変化する各相互作用(吸着分子の溶解性、分子
間相互作用、吸着分子と電極基板との相互作用など)のバランスを、可逆的な分子配列制
御に利用しようとするものであり(図 1)、様々な分子を対象として数多くの研究がなされてき
ました。たとえば、ポルフィリン誘導体[7]やシクロデキストリン[8]などの生体関連機能分子
を吸着分子とした電位応答型の分子配列制御が試みられており、特異的な配列構造を有
する分子集合体がこれまでに多数見出されています[9]。この配列制御技術は、電極電位
の制御だけで各相互作用のバランスを様々にチューニングできるため、様々な分子配列構
造を容易に得る手法のひとつとして展開が期待されています。
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③ Intermolecular interaction
Molecules (A)
A
A
3
① Interplay with solvent
A
② Molecule-surface
interaction
electrode
図 1 吸着型の自己組織化膜とその構造支配因子
このような電極/溶液界面での分子の配列制御技術が、金ナノ粒子の配列制御にも適
用できれば、所望の電子特性や光学特性を示す金ナノ粒子の配列構造を容易に得ること
が可能になるものと考えられますが、分子よりもはるかに大きな構造体であるナノ粒子など
については、これまで電極表面上の電位制御により動的にその配列を制御しようとする試
みはあまりなされておりませんでした。
そこで筆者らは、電極/溶液界面での分子配列制御技術の金ナノ粒子配列制御に対す
る適用性について、これまで以下に示す検討を行ってまいりました。すなわち、電極界面に
おける有機分子の吸着能と分子認識能が金ナノ粒子の配列(自己組織化膜形成)に及ぼ
す効果を明らかにすることを目的として、溶解性の制御が容易であり、分子間相互作用や
電位応答性の吸着が既に認められているシクロデキストリンを被覆有機分子とする修飾金
ナノ粒子をいくつか合成し、その修飾金ナノ粒子の過塩素酸ナトリウム水溶液を用いて、金
(111)電極上での電位変化に伴う金ナノ粒子の吸着挙動を調べてきました(図 2)[10]。
Nanoparticles assembly constructed by a
thermodynamically controlled adsorption
R
Electrode with bias A, and/or
with guest molecule A
R
Au0m
R
R
Electrode with bias B, and/or
with guest molecule B
Electrode with bias C, and/or
with guest molecule C
The purposes of our research are…
(i)
(ii)
to develop a new methodology to obtain the desired nanostructures with
gold nanoparticles;
to understand the role of organic substituents onto the gold nanoparticles.
図 2 研究概念図
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その結果、飽和カロメル電極に対して 0 V 以上の電位を電極に印加すると、金ナノ粒子は
ランダムな吸着膜を形成し、一方、-0.6 から 0 V の範囲の電位では、シクロデキストリン分
子どうしの分子間相互作用に基づき、金ナノ粒子どうしが密集した吸着膜が形成されること
を見出しました。すなわち、電極/溶液界面の表面電荷変化に伴う吸着力の変化を駆動源
として利用することで、従来の制御手法では達成困難であった金ナノ粒子の可逆的(動的)
な配列制御が可能となることを明らかにしました。
このような金ナノ粒子の配列制御技術の適用範囲を拡張する目的で、今回、シクロデキ
ストリン分子と超分子形成することが知られるフラーレン分子を、シクロデキストリン分子で
被覆された修飾金ナノ粒子に作用させることにより、シクロデキストリンとフラーレンにより形
成される超分子を金ナノ粒子間の連結ユニットとする超分子型金ナノ粒子集合体を合成し
ました。その超分子型金ナノ粒子集合体の水溶液に対して、飽和カロメル電極に対して-0.2
V の電位を印加したところ、金ナノ粒子が配列した自己組織化膜が形成されることを見出し
ましたので、以下詳細について報告いたします(図 3)[11]。
NH2
0 m
u
A
NH2
NH2
NH2
H 2N
Au0m
NH2
H 2N
H2N
H 2N
H2N
0 m
Au
NH 2
0 m
H2N
u
A
NH2
NH2
H 2N
H2N
S. NAKAJIMA et al., IEICEAu
Trans.
Electronics,
Scheme. Plausible structure of amino-cyclodextrin-substituted
nanoparticles
with183
C60(2009)
図 3 超分子型金ナノ粒子集合体の推定構造図
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2. 修飾金ナノ粒子系の電位応答型の吸着プロセス
2.1 シクロデキストリンが修飾された金ナノ粒子の合成
3-アミノ化-β-シクロデキストリン(塩化金酸に対して 5~50 当量)を含む塩化金酸の水溶
液を水素化ホウ素ナトリウムで還元することにより、表面にβ-シクロデキストリンが修飾され
た金ナノ粒子を合成しました(図 4)[12, 13]。
OH
HO
O
HO
O
OHOHO
HO
O
OH
O
OH
O
HO
O
OH
O
OH
OH
O
OH
O
OH
HO
OH
OH O
OHO
OH
OOH
O
β-Cyclodextrin(CD)
OH
NH2
NH2
Au0m
H2N
H2N
Cyclodextrin-substituted gold nanoparticles
NH 2
NH 3 ・AuCl4
+ HAuCl4
NH3 ・ AuCl4
NaBH 4
NH 2・ Aum
H 2O
Scheme.
The average
size: 70-80 nm
Synthetic route to cyclodextrin-substituted
gold particle
nanoparticles
図 4 金ナノ粒子の合成スキーム
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得られた金ナノ粒子の平均粒子径は、およそ 70-80 nm であり(光散乱法)、540 nm 付近
に表面プラズモン共鳴に起因する光吸収を示しました。また、これらの水溶液を 1 年以上放
置しても、それらの平均粒子径や吸収スペクトルは全く変化しないことが示され、得られた
金ナノ粒子が、水溶液中において極めて安定に存在することが判りました。
金ナノ粒子の電極/水溶液界面における吸着挙動については、過塩素酸ナトリウム水溶
液(10 mmol/dm3)を電解液として、サイクリックボルタンメトリー(CV)、電気化学(EC)-QCM、
EC-AFM 測定を通じて観察しました。CV および EC-AFM 測定には、作用極として金(111)電
極を用いました。EC-QCM 測定の作用極には、共振周波数 6 MHz の金蒸着 AT カットクリス
タルを用いました。すべての電気化学測定において、対極には白金線、参照電極には飽和
カロメル電極を用いました。
2.2 電極/溶液界面の評価手法
筆者らは、これまでにβ-シクロデキストリンの過塩素酸水溶液を用いた金(111)電極基板
上での、(i) CV における濃度依存性および掃引速度依存性、(ii) EC-QCM における共振周
波数偏差、(iii) EC-AFM による表面観察などを通じて、電極/溶液界面での分子吸着挙動
および分子集合体(薄膜)の表面観察に関する評価手法を確立しました[10]。以下、それら
の観察結果について簡単に説明します。
CV 測定では、-0.2 から 0.2 V vs. SCE の電位領域において、β-シクロデキストリンの有無
による明瞭な差異が観測されました(図 5)。この領域に現れるピークについて明確な帰属に
は至っていませんが、これらのピークは主に吸着に伴う非ファラデー過程に基づくものと考
えています[8]。実際、β-シクロデキストリンの CV について、その濃度依存性を比較すると、
-0.2 から 0.2 V vs. SCE の電位領域に現れるピーク強度とβ-シクロデキストリン濃度との間
に比例関係は認められず、すなわち拡散型ではなく吸着型の変化を示す結果が得られまし
た。さらに、そのピーク強度と CV 測定の掃引速度の平方根との間にも比例関係は認められ
ず、吸着型の変化を示す結果が得られました。一方、この電位領域外では、β-シクロデキス
トリンの有無による差異はほとんど認められませんでした。これらの実験結果は、金(111)電
極表面でのβ-シクロデキストリンの吸脱着平衡が脱着側に偏っていることを示唆するもので
あります[8, 14]。
一般に、金属基板上での中性分子の吸着体については、電極電位を負に印加すると基
板-分子間に静電的な斥力が誘起されるため、その吸着力が連続的に弱まることが知られ
ています[6]。したがって、上述の結果における-0.2 V vs. SCE より負側の電位領域では、基
板-分子間に働く静電的な斥力により脱着が示されているものと考えられます。一方、0.2 V
vs. SCE より正側の電位領域では、基板-分子間に静電的な引力が働くものの、大きなイオ
ン強度を有する電解質塩のアニオン成分である過塩素酸アニオンの電極に対する吸着能
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が、β-シクロデキストリンの吸着能より高いためにβ-シクロデキストリンの吸脱着平衡が脱
着側に偏るものと推測できます[15]。つづいて、この推測を検証するために CV 測定と同条
件下で EC-QCM 測定を試みました。その結果、この電位領域における EC-QCM の共振周
波数偏差は金(111)電極上で吸着が起きていることを示し、一方、この電位領域外では脱着
を示す変化が観測されました(図 5)。
つづいて、-0.6~+0.2 V vs. SCE の電位領域において、印加電位の変化に対する
EC-AFM 像の変化を観察しました(図 5)。その結果、-0.2 V vs. SCE の電位印加において、
従来、EC-STM でのみ観測されていた金(111)電極表面でのβ-シクロデキストリン分子の自
己組織化膜を、EC-AFM でも観察できることが分かりました。
20
20
CV
-20
10
QCM
-40
- Δ f/Hz
μ A/cm
2
0
-60
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs . SCE
-0.6V a)
-0.2V
b)
1.1 nm
0.7 nm
2 nm
2 nm
図 5 β-シクロデキストリンの EC-AFM 像(濃度: 20 μmol/dm3)
2.3 修飾金ナノ粒子の電位応答型の吸着挙動
塩化金酸と 3-アミノ化-β-シクロデキストリン(塩化金酸に対して 5~50 当量)との反応に
より得られる修飾金ナノ粒子(シクロデキストリン分子の導入率がそれぞれ異なる金ナノ粒
子)について、それらの電気化学特性および吸着挙動を、CV の濃度依存性、CV の掃引速
度依存性、および EC-QCM 測定を通じて評価しました。その結果、シクロデキストリン分子
の導入率に関係なく、いずれの金ナノ粒子においても、β-シクロデキストリン分子の場合と
同様の電気化学特性を示し、類似の電位応答型の吸着挙動を示すことが確認できました。
一例として、塩化金酸に対して 10 当量の 3-アミノ化-β-シクロデキストリンを反応させるこ
とにより得た修飾金ナノ粒子の結果を図 6~8 に示します。前項で示したβ-シクロデキストリ
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ン分子の場合と同様に、(i) CV において、-0.2 から 0.2 V vs. SCE の電位領域にピークが現
れ、(ii) そのピークの濃度依存性(図 6)および掃引速度依存性(図 7)は、吸着型の変化を
示し、(iii) その電位領域において、EC-QCM の共振周波数偏差は、吸着現象を示す変化を
示しました(図 8)。
70
3
μ A/cm
2
0 μmol/dm
3
2 μmol/dm
3
20 μmol/dm
3
50 μmol/dm
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs . SCE
-70
図 6 金ナノ粒子 CD/Au (10:1)の CV 濃度依存性(4 mV/sec)
μ A/cm
2
100
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
sweep time: 4 mV/s
sweep time: 40 mV/s
E/V vs . SCE
-100
図 7 金ナノ粒子 CD/Au (10:1)の CV 掃引速度依存性(濃度: 20 μmol/dm3)
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20
20
2
QCM
-20
10
-Δ f/Hz
CV
0
μ A/cm
9
-40
-60
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs. SCE
図 8 金ナノ粒子 CD/Au (10:1)の CV と EC-QCM(濃度: 20 μmol/dm3)
つづいて、この修飾金ナノ粒子について、-0.6~+0.2 V vs. SCE の電位領域において、印
加電位の変化に対する EC-AFM 像の変化を観察しました。その結果、+0.2 V 付近の電位を
印加した場合、金ナノ粒子はランダムな吸着膜を形成し、一方、-0.2 V 付近の場合では、
金ナノ粒子どうしが密集した吸着膜が形成し、-0.6 V 付近の場合では、金ナノ粒子は脱着
することが分かりました(図 9)。
20
CV
0
-20
QCM
10
- Δf/Hz
μA/cm
2
20
-40
-60
0
-0.8
a)
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
c)
b)
100nm
0.4
E/V vs . SCE
200nm
200nm
図 9 金ナノ粒子 CD/Au (10:1) の EC-AFM 像(濃度: 20 μmol/dm3)
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ここで、吸着膜での金ナノ粒子の平均粒子間隔を電位に対してプロットすると、図 10 のよ
うな関係になることが分かりました。0~-0.4 V vs. SCE の電位領域での平均粒子間距離に
注目すると、その距離は印加電位が負側にシフトするにつれて短くなることが示されていま
す。印加電位をさらに負側にシフトすると、その距離は著しく延び、金ナノ粒子が脱着に至る
ことが示されています。印加電位の負側へのシフトは、基板-分子間に静電的な斥力の誘
起が促進されることを意味します。したがって、0~-0.4 V vs. SCE の電位領域での平均粒子
間距離の短縮は、金ナノ粒子に修飾されているシクロデキストリン分子間に働く分子間相互
作用(図 11 の③)が、基板-分子間に働く静電的な相互作用(図 11 の②)よりも優位に働く
ことにより起こる現象と考えることができます。一方、-0.4 V vs. SCE 以下の電位領域では、
基板-分子間に働く静電的な斥力がさらに強くなるため、それが金ナノ粒子に修飾されてい
るシクロデキストリン分子間に働く分子間相互作用よりも優位に働き、その結果、金ナノ粒
子と溶媒分子との相互作用が誘起されることで脱着が起こるものと考えることができます。
160
Average distance between
the paticles / nm
Sample concentration
20 mg/dm3
CD/Au (10:1)
adsorption
desorption
図 9 金ナノ粒子間の平均距離と印加電位の関係
20
-1
-0.5
0
E / V vs. Ag/AgCl
図 10 金ナノ粒子の平均粒子間隔と印加電位の関係
③
Intermolecular interaction
Nanoparticles(A)
A
A
①
A
Interplay with solvent
②
Molecule-surface
interaction
electrode
図 11 吸着型の自己組織化膜とその構造支配因子
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11
以上、電極/溶液界面での分子に対する配列制御手法が、金ナノ粒子の配列制御に対
しても有効に作用することが明らかとなりました。すなわち、金ナノ粒子に修飾されたシクロ
デキストリン分子の電極/溶液界面における動的な吸着力の変化(基板-分子間に働く相
互作用の変化)を駆動源として、金ナノ粒子の配列が可逆的に制御できることが分かりまし
た。しかしながら、ここまで示してきたβ-シクロデキストリン修飾の金ナノ粒子を用いた実験
系では、「吸着体」⇔「凝集された吸着体」⇔「脱着」といった構造変化を制御しているに過ぎ
ません。そこで次項では、ここに見出した界面での金属ナノ粒子の配列制御技術をさらに精
巧な二次元ナノパターン化へ拡張することを試みます。
これまで示してきたようなボトムアップ的な手法を利用して、二次元ナノパターン化を実現
するためには、吸着系の配列パターンにバリエーションを持たせる必要があります。筆者ら
は、先の結果(図 10)における負側の電位領域での金ナノ粒子の脱着を抑制すべく分子設
計を施せば、吸着体の配列パターンにバリエーションが増大するものと考えました。上述の
とおり、負側の電位領域での金ナノ粒子の脱着は金ナノ粒子と溶媒分子との相互作用の誘
起によるものです。したがって、金ナノ粒子を集合体化(クラスター化)すれば、金ナノ粒子
の構造多様性が抑制されるために溶媒分子との相互作用の誘起が阻止できると考えられ
ます。
クラスター化は、金ナノ粒子どうしの連結により達成されるはずですが、たとえば金ナノ粒
子間を共有結合で連結すると、その強い結合エネルギーによる分子構造の剛直性のため、
結果として金ナノ粒子の配列パターンのバリエーション増大は期待できません。そこで、筆
者らは共有結合と比較して結合エネルギーの小さな結合として知られる超分子構造に着目
し、その構造を金ナノ粒子間の連結ユニットとするクラスター化を試みることとしました。その
結果を次章にて説明いたします。
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12
3. 超分子型金ナノ粒子集合体の電位応答型の自己組織化プロセス
3.1 超分子型金ナノ粒子の合成と分光学特性
分子間どうしが、ファンデルワールス力、水素結合、配位結合などの弱い相互作用で組み
立てられている構造を、「超分子構造」と呼びます。また、包接タイプで超分子構造を形成す
る場合、そこに取り込まれる化合物との間で形成する超分子をホストーゲスト化合物と呼び
ます。これらの構造形成は可逆的であり、自己修復や自己組織化が可能となります。超分
子構造の形成は、生体内においてはよく見られるものであり、たとえば DNA の二重らせん
構造の形成や薬物受容体などでの、いわゆる「鍵と鍵穴モデル」などは分子認識による超
分子構造の形成に基づくものであり、また酵素触媒反応や抗原―抗体反応なども分子認識
を伴う超分子形成を通じて行われるものです。
筆者らは、金ナノ粒子のクラスター化に必要となる連結分子として、合成の容易性と、後
述のとおり反応追跡の容易性の観点から、シクロデキストリンとフラーレンからなるホストー
ゲスト化合物(図 12)に着目しました[16]。
OH
HO
O
HO
O
OHOHO
HO
O
OH
O
OHO
HO
OH
O
OH
OH
O
OH
O
HO
OH
O
OH O
OHO
OH
OOH
O
β-Cyclodextrin(CD)
OH
+
OH
DMF / toluene (4 : 1)
25 ℃
C60 / β-CD
Suplamolecular Complex
K. E. Geckeler, et al., Chem. Commun., 1194 (2001)
図 12 シクロデキストリンとフラーレンからなるホストーゲスト化合物
金ナノ粒子のクラスター化は、Geckeler らの方法を利用しました[16]。すなわち、前章で得
た金ナノ粒子:塩化金酸と 3-アミノ化-β-シクロデキストリン(塩化金酸に対して 5~50 当
量)との反応により得られる修飾金ナノ粒子(シクロデキストリン分子の導入率がそれぞれ
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13
異なる金ナノ粒子)の DMF/toluene (7:3)溶液に、フラーレンを添加し室温で攪拌し、フラーレ
ン分子のシクロデキストリンへの包接過程を追跡することにより行いました。包接過程の追
跡は、反応液の紫外・可視吸収スペクトル評価を通じて行いました。一般に無置換のフラー
レンは水に不溶ですが、シクロデキストリンとホストーゲスト化合物を形成したフラーレンは、
高い水溶性を保持したシクロデキストリン(シクロデキストリン分子の外側は水溶性、一方、
分子の内側は脂溶性)に包接されるため、そのπ-π* 遷移に起因する吸収帯が水溶液中で
観測されることが知られています[16]。図 13 にシクロデキストリンとフラーレンからなるホスト
ーゲスト化合物の水溶液中での紫外・可視吸収スペクトルを示しました。また、図中には、フ
ラーレン単体でのトルエン中での紫外・可視吸収スペクトルも示してあります。ホストーゲス
ト化合物の水溶液中での紫外・可視吸収スペクトルにおいて、本来、水に不溶のフラーレン
分子のπ-π*遷移が現れることから、シクロデキストリンとフラーレンからなるホストーゲスト
化合物の形成が確認できることが知られています[16]。
1
1
C60 (in toluene)
Abs / arbit. unit
Abs / arbit. unit
β-cyclodextrin / C60
(in water)
0
300
400
500
600
700
800
Wavelength / nm
0
300
400
500
600
700
800
Wavelength / nm
Figure. UV-Vis spectra of C60 (in toluene) and the β-cyclodextrin–C60
図 13 シクロデキストリンとフラーレンからなるホストーゲスト化合物の
inclusion complex (in water).
紫外・可視吸収スペクトル
図 14 に前章で得た超分子型金ナノ粒子集合体[塩化金酸と 3-アミノ化-β-シクロデキス
トリン(塩化金酸に対して 5~50 当量)との反応により得られる修飾金ナノ粒子(シクロデキ
ストリン分子の導入率がそれぞれ異なる金ナノ粒子)とフラーレンからなるクラスター]の紫外・
可視吸収スペクトルを示します。それぞれの超分子型金ナノ粒子集合体において、金ナノ粒
子に起因する表面プラズモン共鳴(SPR)による吸収帯とフラーレン分子のπ-π*遷移が観測
されました。金ナノ粒子へのシクロデキストリン分子の修飾率の増加に伴い、SPR 共鳴の吸
収強度に対するπ-π*遷移の吸収強度の比は増大しました。
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14
先に示したとおり、シクロデキストリン分子の修飾率に関わらず、それぞれの粒子径はほ
ぼ同サイズのため(約 70-80nm)、基本的にそれぞれの SPR の吸収強度に大きな差はない
ものと考えられます。したがって、SPR 共鳴の吸収強度に対するπ-π*遷移の吸収強度比の
増大は、金ナノ粒子へのシクロデキストリン分子の修飾率が増加するほど、シクロデキスト
リンとフラーレンからなるホストーゲスト化合物を多く有することを示唆するものです。
0.15
π−π* (C60)
Absorbance /arbit. unit
CD/Au (5:1)
CD/Au (10:1)
CD/Au (50:1)
CD /Au (100:1)
SPR
0
250
450
650
850
Wavelength / nm
Absorption spectra of CD-substituted Au nanoparticles with C60 in H2O
図 14 Figure.
超分子型金ナノ粒子集合体の紫外・可視吸収スペクトル(水溶液)
図 15 に超分子型金ナノ粒子集合体の推定構造図を示します。筆者らは、金ナノ粒子に修
飾されたシクロデキストリンは、フリーの分子とフラーレンに対するホスト分子が存在し、そ
れぞれ、(i) 水溶化のための部位(フリー分子)、(ii) 分子間相互作用が誘起される部位(フ
リー分子)、(iii) 金ナノ粒子の連結部位(ホスト分子)として機能するものと推測しておりま
す。次項では、これらの超分子型金ナノ粒子集合体の電位応答型の吸着特性について述
べます。
NH2
0 m
u
A
NH2
NH2
NH2
H2N
NH2
H2N
H2N
H2N
H2N
0 m
Au
NH2
0 m
H2N
u
A
NH2
NH2
Au0m
H2N
H2N
S. NAKAJIMA et al., IEICEAu
Trans.
Electronics,
Scheme. Plausible structure of amino-cyclodextrin-substituted
nanoparticles
with183
C 60(2009)
図 15 超分子型金ナノ粒子集合体の推定構造図
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15
3.2 超分子型金ナノ粒子の界面における電気化学特性
超分子型金ナノ粒子集合体[塩化金酸と 3-アミノ化-β-シクロデキストリン(塩化金酸に
対して 5~50 当量)との反応により得られる修飾金ナノ粒子(シクロデキストリン分子の導入
率がそれぞれ異なる金ナノ粒子)とフラーレンからなるクラスター]の電気化学特性(サイクリ
ックボルタモグラム:CV と EC-QCM)を図 16-19 に示します。CV を赤色で、EC-QCM を青色
の実線で示してあります。それぞれの測定は、サンプル濃度:20 mg/dm3、電解液:NaClO4
水溶液(濃度:10 mmol/dm3)、掃引速度:4 mV/sec.の条件で行いました。
いずれのサンプルにおいても、EC-QCM における共振周波数の変化は、-0.6~0.3 V vs.
SCE の電位領域で吸着挙動を示しました。フラーレンとのホストーゲスト化合物による連結
部位を持たない金ナノ粒子単体において、-0.6 V vs. SCE の電位付近で現れていた脱着挙
動が、すべてのサンプルにおいて見受けられないことは、金ナノ粒子の集合体化により金ナ
ノ粒子と溶媒分子との相互作用が弱められたか、もしくは金ナノ粒子集合体間の相互作用
または金ナノ粒子集合体と電極基板との相互作用が強められたことによるものと推測でき
ます。
つぎに、この吸着挙動を確証づけるために、塩化金酸に対して 10 当量のシクロデキストリ
ンを作用させることで得た修飾金ナノ粒子とフラーレンとの反応で得られた超分子型金ナノ
粒子集合体の EC-AFM を測定しました。その結果、 -0.8~0.3 V vs. SCE の電位領域にお
いて、超分子型金ナノ粒子集合体は脱着せずに吸着構造を保持することが分かりました
(図 20)。
CD / Au (5:1)
20
QCM
CV
0
10
-100
-Δf/Hz
μA/cm 2
100
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs . SCE
図 16 超分子型金ナノ粒子集合体の電気化学特性、CD/Au(5:1)
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CD / Au (10:1)
20
QCM
CV
0
10
-100
-Δf/Hz
μA/cm 2
100
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs . SCE
図 17 超分子型金ナノ粒子集合体の電気化学特性、CD/Au(10:1)
CD / Au (20:1)
20
CV
0
10
QCM
-100
-Δf/Hz
μA/cm 2
100
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs . SCE
図 18 超分子型金ナノ粒子集合体の電気化学特性、CD/Au(20:1)
CD / Au (50:1)
20
CV
0
10
QCM
-100
-Δf/Hz
μA/cm 2
100
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
E/V vs . SCE
図 19 超分子型金ナノ粒子集合体の電気化学特性、CD/Au(50:1)
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CD / Au (10:1)
CE: Pt
60
20
CV
30
-20
QCM
-60
-Δ f/Hz
μA/cm
RE: SCE
2
60
WE: Au(111)
0
-1
a)
-0.8
-0.6
-0.4
b)
200nm
-0.2
0
0.4
E/V vs . SCE
d)
c)
200nm
0.2
200nm
200nm
図 20 超分子型金ナノ粒子集合体の EC-AFM 像、CD/Au(10:1)、
(サンプル濃度:20 mg/dm3)
つぎに、超分子型金ナノ粒子集合体と金ナノ粒子単体について、EC-AFM 像からの画像
解析により求めた平均粒子間距離を印加電位に対してプロットしたところ(図 21)、0.2 V vs.
SCE の印加電位から負側に電位をシフトすると、どちらのサンプルにおいても平均粒子間距
離は短縮することが示されました。この結果については、金ナノ粒子単体の吸着の場合と同
様の説明で解釈することができます。つまり、印加電位の負側へのシフトに伴い、基板とフリ
ーのシクロデキストリン(フラーレンを包接していない分子)間に静電的な斥力が誘起され、
その結果、金ナノ粒子に修飾されているフリーのシクロデキストリン分子間に働く分子間相
互作用(図 22 の③)が、基板-分子間に働く静電的な相互作用(図 22 の②)よりも優位に働
くことにより起こる現象と考えることができます。
さらに、-0.4 V vs. SCE 付近より負側の電位を印加すると、両サンプルとも平均粒子間距
離は拡張することが示されました。超分子による連結ユニットを持たない金ナノ粒子単体に
おいては、印加電位を-0.5 V vs. SCE より負側にシフトすると脱着現象が現れ、平均粒子間
距離を求めることができませんでした。一方、超分子型金ナノ粒子集合体では、-0.8 V vs.
SCE まで電位を負側にシフトしても、平均粒子間距離は拡張するものの吸着が保持される
ことが示されています。これらの結果は、-0.4 V vs. SCE より負側の電位領域では、基板とフ
リーのシクロデキストリン分子間に働く静電的な斥力がさらに強くなるため(図 22 の②)、そ
れが金ナノ粒子に修飾されているシクロデキストリン分子間に働く分子間相互作用(図 22 の
③)よりも優位に働き、その結果、金ナノ粒子あるいは超分子型金ナノ粒子集合体と溶媒分
子との相互作用(図 22 の①)が誘起されることで起きる現象と考えることができます。
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18
以上、筆者らは、提案する超分子型金ナノ粒子集合体が分子吸着系の場合と同様の可
逆的な吸着平衡現象を起こすことを明らかにし、さらに基板とフリーのシクロデキストリン分
子間に働く静電的な斥力が誘起されても、分子構造を拡張した結果、溶媒分子との相互作
用がそれほど誘起されずに脱着挙動を示さない吸着系となることを明らかにしました。
160
Average distance between
the paticles / nm
20 mg/dm3
CD/Au (10:1)
CD/Au (10:1) with C60
20
-1
-0.5
0
E / V vs. Ag/AgCl
図 21 吸着膜上での金ナノ粒子の平均粒子間隔と印加電位の関係
③
Intermolecular interaction
Nanoparticles(A)
A
A
①
A
Interplay with solvent
②
Molecule-surface
interaction
electrode
図 22 吸着型の自己組織化膜とその構造支配因子
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19
すなわち、金ナノ粒子を弱い結合で集合体化(クラスター化)すれば、金ナノ粒子の構造
多様性がある程度抑制されるために溶媒分子との相互作用の誘起が阻止できるものとの
分子設計指針を検証することができ、実際に脱着を抑制した安定な吸着系を得ることができ
ました。
3.3 金ナノ粒子の二次元パターン化
つづいて、ボトムアップ的な手法を利用した二次元ナノパターン化を実現するために、筆
者らは、条件の最適化を検討しました。超分子型金ナノ粒子集合体間の相互作用、超分子
型金ナノ粒子集合体と電極基板との相互作用、超分子型金ナノ粒子集合体と溶媒との相互
作用(図 22)のいずれの相互作用についても、金ナノ粒子に修飾されているシクロデキスト
リンが重要な役割を果たしています。したがって、その導入率を変化させれば吸着挙動は、
様々に変化することが期待できます。
そこで、この超分子型金ナノ粒子集合体を用いて、電極/水溶液界面における吸着挙動
に及ぼす超分子型金ナノ粒子集合体へのシクロデキストリンの導入率について評価を行い
ました。その結果、塩化金酸に対して 20 当量のシクロデキストリンを作用させることで得た
修飾金ナノ粒子とフラーレンとの反応で得られた超分子型金ナノ粒子集合体を用いると、
-0.2 V vs. SCE の電位領域において、金ナノ粒子がいくらか配列した構造を示すことが分か
りました(図 23)。
μA/cm
2
40
20
CV
0
QCM
-40
-80
10
-Δf/Hz
CD / Au (20:1)
0
-0.8
a)
a)
-0.6
-0.4
-0.2
0
RE: SCE
CE: Pt
0.4
E/V vs . SCE
c)
c)
b)
b)
200nm
200nm
0.2
WE: Au(111)
200nm
200nm
200nm
200nm
図 23 超分子型金ナノ粒子集合体の EC-AFM 像、CD/Au(20:1)、
(サンプル濃度:20 mg/dm3)
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20
つぎに、超分子型金ナノ粒子集合体間の相互作用、超分子型金ナノ粒子集合体と電極基
板との相互作用、超分子型金ナノ粒子集合体と溶媒との相互作用(図 22)を微調整できれ
ば、さらにパターン化された配列構造が得られるのではないかと考え、先ほど示した超分子
型金ナノ粒子集合体(塩化金酸に対して 20 当量のシクロデキストリンを作用させることで得
た修飾金ナノ粒子とフラーレンとの反応で得られた超分子型金ナノ粒子集合体)を用いて、
超分子型金ナノ粒子集合体の濃度効果を検討しました(1~20mg/dm3)。
その結果、2mg/dm3 の濃度の超分子型金ナノ粒子集合体を用いると、他の濃度で調整し
た超分子型金ナノ粒子集合体に比較して、-0.2 V vs. SCE 付近での EC-QCM において共振
周波数シフトが吸着側に大きく変化することが分かりました。さらに、その濃度条件で
EC-AFM を測定すると、印加電位が-0.2 V vs. SCE の場合、電極表面で金ナノ粒子が緻密
に配列する二次元パターンを持つ自己組織化膜を形成することが分かりました(図 24)。図
25 に、-0.2 V vs. SCE の印加電位での EC-AFM の拡大像を示しました。
この実験事実は、超分子型金ナノ粒子集合体と電極基板との間に働く相互作用が強すぎ
ず、かつ弱すぎない適当な電位領域に、超分子型金ナノ粒子集合体間に働く相互作用によ
り、自己組織化する条件が存在することを示すものであります。
μA/cm
2
40
20
CV
0
QCM
-40
-80
10
-Δf/Hz
CD / Au (20:1)
0
-0.8
a)
-0.6
-0.4
-0.2
0
RE: SCE
CE: Pt
0.4
E/V vs . SCE
c)
b)
200nm
0.2
WE: Au(111)
200nm
200nm
図 24 超分子型金ナノ粒子集合体の EC-AFM 像、CD/Au(20:1)、
(サンプル濃度:2 mg/dm3)
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21
NH2
0 m
Au
NH2
NH2
NH2
H 2N
Au0m
NH2
H 2N
H2N
H 2N
H2N
0 m
Au
NH2
0 m
H2N
u
A
NH2
NH2
H 2N
H2N
Scheme. Plausible structure of amino-cyclodextrin-substituted Au nanoparticles with C60
図 25 超分子型金ナノ粒子集合体の EC-AFM 像、CD/Au(20:1)、
(印加電位、-0.2 V vs. SCE; サンプル濃度:2 mg/dm3)
測定条件を種々改変することにより、金ナノ粒子の配列パターンにバリエーションが現れ
たことは、筆者らの施した分子設計指針に深く関係しているものと考えております。次章で
は、自己組織化の原理について簡単に解説いたします。
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4. 自己組織化の原理
これまで言及してきたとおり、電極/水溶液界面における分子の吸着挙動の解釈には、
図 26 に示すとおり、三つの相互作用が重要な因子となることが知られています[6]。筆者ら
は、金ナノ粒子の配列パターンにバリエーションを持たせることを目的として、超分子構造に
着目し、それを金ナノ粒子の連結ユニットとして利用することで集合体構造の柔軟化を試み
ました。前述のとおり、超分子構造を形成する相互作用は、共有結合などと比較して小さな
結合エネルギーを示すものですが、その結合力の弱さだけでは図 24 に示されるような構造
変化を説明することはできません。そこで、筆者らが示してきた超分子型金ナノ粒子集合体
の吸着挙動の解釈のためには、図 26 に示す三つの相互作用の他に、新たな相互作用の考
慮が必要になるものとの発想に至りました。
③
Intermolecular interaction
Nanoparticles(A)
A
A
①
A
Interplay with solvent
②
Molecule-surface
interaction
electrode
図 26 吸着型の自己組織化膜とその構造支配因子
通常、金ナノ粒子の可溶化や分散化には、チオール誘導体が修飾基として用いられます。
図 27 に、チオール誘導体を修飾基とする超分子型金ナノ粒子集合体の推定構造図を示し
ます。このような金ナノ粒子における Au 原子と S 原子の結合エネルギーは共有結合的であ
り、170 kJ/mol 程度であることが知られています[17]。したがって、図 27 に示すような構造を
一旦、形成すると、Au-S 結合の自由回転はあるものの、S-Au-S 間の角度はほとんど変化
しないことが予測できます。
S
S
S
S
S
cyclodextrin
S
fullerene
gold nanoparticle
図 27 チオール誘導体を修飾基とした超分子型金ナノ粒子集合体
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23
技術紹介 超分子型金ナノ粒子集合体の電位による配列制御
一方、筆者らの設計した金ナノ粒子は、アミノ誘導体で修飾されています。この金ナノ粒子にお
ける Au 原子と N 原子の結合エネルギーは配位結合的であることが知られています[13]。つまり、
Au-N 結合は Au-S 結合に比べてはるかに弱い結合といえます。未だ推測の段階ですが、筆者ら
は、この結合が超分子金ナノ粒子集合体の吸着体における構造変化に大きく関わっているもの
と考えています(図 28)。すなわち、その構造変化は印加電位の負側へのシフトによる電極基板
―金ナノ粒子間の相互作用の低減と、そのことに伴い増大する分子運動性と超分子型金ナノ粒
子構造内の立体障害、および弱い結合である Au-N 結合が合わさることにより生じているものと
推測しています(図 29)。
Thermodynamically
Controlled Adsorption
NH2
H2N
NH2
NH2
H 2N
H2
N
H 2N
H2
N
N
H2
N
H2
H2
N
N
H2
図 28 金ナノ粒子の構造変化におよぼす配位型修飾基の効果
③
③
Intermolecularinteraction
interaction
Interparticle
Nanoparticles(A)
A
A
Interplay with
with solvent
solvent
①
① Interplay
A
②
②
Particle - surface
Molecule-surface
interaction
electrode
substituent
Molecule-surface
④
- substituent
② Particle
particle
interaction
図 29 超分子型金ナノ粒子集合体における吸着型の
自己組織化膜とその構造支配因子
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5. むすび
電極/溶液界面での分子集合体(薄膜)の配列制御手法が、分子よりも大きなサイズの
構造体である金ナノ粒子に対しても有効に機能するかどうかについて検討したところ、金ナ
ノ粒子に修飾されたシクロデキストリン分子の電極/溶液界面における動的な吸着力の変
化(基板-分子間に働く相互作用の変化)を駆動源として、シクロデキストリンの分子間相
互作用を介した金ナノ粒子の可逆的な配列制御が可能となることを明らかにしました。
このような金ナノ粒子の配列制御技術の適用範囲を拡張する目的で、シクロデキストリン
分子と超分子形成することが知られるフラーレン分子を、シクロデキストリン分子で被覆され
た修飾金ナノ粒子に作用させることにより、シクロデキストリンとフラーレンにより形成される
超分子を金ナノ粒子間の連結ユニットとする超分子型金ナノ粒子集合体を合成しました。そ
の結果、電極/溶液界面での脱着は抑制され、吸着体の配列パターンにバリエーションが
増大することが分かりました。さらに、その超分子型金ナノ粒子集合体の水溶液に対して、
飽和カロメル電極に対して-0.2 V の電位を印加したところ、金ナノ粒子が配列した自己組織
化膜が形成されることを見出しました。
今後は、ここに紹介した界面での金属ナノ粒子の配列制御技術をさらに精巧な二次元パ
ターン化手法へと拡張させ、ボトムアップ的なセンサ素子構築技術や微細配線技術など、新
たなナノテク技術のひとつとして醸成させていきたいと考えております。
NH2
0 m
Au
NH2
NH2
NH2
H 2N
0 m
H2N
NH2
H 2N
H 2N
H2N
H2N
0 m
Au
NH2
Au
NH2
NH2
Au0m
H 2N
H2N
Scheme. Plausible structure of amino-cyclodextrin-substituted Au nanoparticles with C 60
③
③
Intermolecularinteraction
interaction
Interparticle
Nanoparticles(A)
A
A
Interplay with
with solvent
solvent
①
① Interplay
A
②
②
Particle - surface
Molecule-surface
interaction
electrode
substituent
Molecule-surface
④
- substituent
② Particle
particle
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interaction
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25
【参 考 文 献】
[1] M. -C. Daniel and D. Astruc, Chem. Rev., 2004, 104, 293 and references sited therein.
[2] J. Novak, L. Brousseau, F. Vance, R. Johnson, B. Lemon, J. Hupp and D. Feldheim, J. Am.
Chem. Soc., 2000, 122, 12029; C. P. Collier, R. J. Saykally, J. J. Shiang, S. E. Henrichs
and J. R. Heath, Science, 2002, 277, 1978; P. Gambardella, S. Rusponi, M. Veronese, S.
Dhesi, C. Grazioli, A. Dallmeyer, I. Cabria, R. Zeller, P. Dederichs, K. Kern, C. Carbone
and H. Brune, Science, 2003, 300, 1130; D. L. Feldheim and C. D. Keating, Chem. Soc.
Rev., 1998, 27, 1.
[3] H. M. Hiep, T. Endo, M. Saito, M. Chikae, D. K. Kim, S. Yamamura, Y. Takamura and E.
Tamiya, Anal. Chem., 2008, 80, 1859; T. Endo, K. Kerman, H. M. Hiep, D. K. Kim, Y.
Yonezawa, K. Nakano and E. Tamiya, Anal. Chem., 2006, 78, 6465.
[4] S. Nie and S. Emory: Science, 1997, 275, 1102.
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