AN04 APEX – AN04 Product Technology From 高精度DC基準電圧源とシステムの精度 システムの精度 基準電圧源は、高精度な出力電圧を必要とするシステム設計で使用されます。たとえば、基準電圧源がシステム校正に使用され ているデータ収集システムが挙げられます。A/D コンバータ(ADC)では、フルスケール入力を設定するために、正確な基準 電圧が必要になります。そのため、基準電圧源の選定は、 データ収集システムの全体の精度についての重要な検討事項となります。 また、 システム設計者は、設計する装置の動作温度範囲についても注意する必要があります。産業用の温度範囲で動作する 16 ビッ ト精度のデータ収集システムを必要とする設計者には、温度係数(TC)0.2ppm/℃の基準電圧源が必要になります。図 1 を参 照してください。 システム性能と基準TCの関係 10000 Reference TC (ppm/°C) 1000 100 8 BIT 10 BIT 10 12 BIT 1 14 BIT 16 BIT 0.1 18 BIT 0.01 10 1 20 BIT 100 ∆T from 25°C 図1. システム性能 基準電圧源の選定 基準電圧源に使用されるパラメータには、電源電圧変動、負荷変動、初期電圧誤差、出力電圧の温度係数、出力電圧ノイズ、 電源投入時のセトリング・タイム、アイドリング電流、および長時間安定性があります。 対象デバイスの初期電圧誤差、出力電圧の温度係数、出力電圧ノイズ、および長時間安定性が大多数の設計者にとっての重要な パラメータとなります。 現在一般的に使用される基準電圧源には、バンドギャップ型とツェナー・ダイオード型の 2 つのタイプがあります。これらの技術は、 補償ネットワークまたは能動回路を追加することで精度を高めることが可能な、それぞれ固有の性能特性を提供します。 バンドギャップ型基準電圧源は最も安価で、通常、10 ビットの精度しか必要のないシステム設計に使用されます。一般的に、バ ンドギャップ型の初期電圧誤差は 0.5 ~ 1.0% で、温度係数は 25 ~ 50ppm/℃です。また、出力電圧ノイズは通常 15 ~ 30mVp-p(0.1 ~ 10Hz) で、長時間安定性は、20 ~ 30ppm です。 ツェナー・ダイオード型の基準電圧源はバンドギャップ型に比べて高価ですが、より高い性能が得られます。一般的に、ツェナー・ ダイオード型の初期電圧誤差は 0.04 ~ 0.06% で、温度係数は 5 ~ 20ppm/℃、出力電圧ノイズは 10mVp-p(0.1 ~ 10Hz) です。 長時間安定性は、通常 10 ~ 15ppm です。ツェナー・ダイオード型基準電圧源は、12 ビット精度のシステムに 高い頻度で使用されます。 Apex Precision Power では、非線形温度補償ネットワーク(特許取得済 *)を設計に組み入れることによって、ツェナー・ダイ オード型基準電圧源の性能を高めています。この補償ネットワークは、複数の温度範囲で調整され、動作温度範囲の全域にわたっ て最適な電気的特性が得られるようになっています。 Apex Precision Power の基準電圧源では、初期電圧誤差が 0.01 ~ 0.02%、温度係数が 0.6 ~ 2.0ppm/℃を実現してい ます。なお、出力電圧ノイズは他のツェナー・ダイオード型基準電圧源と同等です。 * 米国特許 4,668,903 AN04U www.cirrus.com Copyright © Cirrus Logic, Inc. 2010 (All Rights Reserved) 2010年9月 19 APEX − AN04UREVA AN04 図 2 に、市販されている様々な基準電圧源について、初期電圧誤差と温度係数の性能をまとめてあります。このデータは、8 ピ ン・プラスチック・パッケージ DIP 製品でのそれぞれのハイグレードの製品を示しています。最も低い性能の基準電圧源が、図中、 右上の領域に置かれています。ツェナー・ダイオードは図の中央にあたります。 性能: 低い 高精度基準電圧源 REF03 100 TC (ppm/°C) LT1021 AD680 MAX876 10 REF01 MC1404 REF02 MAX674 MAX675 AD587 LT1019 1 REF110 REF105 REF102 VRE305 0.1 0.01 0.1 1 In itia l E r r o r (%) 性能: 高い 図2. 高精度基準電圧源の性能 A/D コンバータ用基準電圧源 データ収集システムでは、基準電圧源は、A/D コンバータに内蔵されることもあれば外付けになることもあります。モノリシック A/D コンバータは、バイポーラまたは CMOS、あるいはその両方の技術の組み合わせに基づいています。 バイポーラ A/D コンバータは、通常± 15V および +5V 電源で動作し、ツェナー・ダイオード型基準電圧源が設計に組み込まれ ることがよくあります。オン・チップ基準電圧源は、12 ビット精度のシステムに十分な精度を出すことができます。より高い精度 を出すためには、外部基準電圧源が必要となります。 CMOS の A/D コンバータは、通常 +5V 以上の電源電圧で動作します。この電圧は、オン・チップのバンドギャップ型基準電圧 源を設計する限界です。 システムの消費電力を削減する設計要求に対しては、新しい設計を実現するために CMOS とその関連技術がよく使用されます。 新たに開発されたデータ・コンバータでは、内部基準電圧源を持たないものが少なくありません。このことにより、必要なシステ ム精度に適した基準電圧源を選択する自由度が増すことになります。 一定温度環境 温度を一定に保つことができれば、システムの精度を達成することは比較的容易です。ハイブリッド・マイクロ回路などの電子部 品の製造フロアが、そのような一定温度環境の一例として挙げられます。そのような環境では、室温が 25℃に厳密にコントロー ルされています。この条件下で使用される試験装置には、この一定温度であることを前提にしているものが多くあります。実際、 多くの試験装置には、温度が大きく変化した場合は自動的に再校正し、温度が極端に振れた場合は試験を完全に停止する機能が 備わっています。 そのような一定温度の環境であっても、DVM のような測定器内部の電力消費は、その測定器自体の内部温度の上昇の原因にな ります。それでも最終的な温度は一定に落ち着くようになっています。DVM 校正手順では、調整時以外は測定器のケースを開 けないように要求しているものもあります。 温度変化についての検討 コントロールされていない環境では、精度の目標達成は、より難しくなります。しかし、最終的に得られる精度は、予測すること ができます。この予測を行う際に、温度変化を要因として計算に入れた場合、最終的に、いくつかの要因の驚くべき組合わせが 明らかになります。 システム精度を検討する上でのよい例の 1 つがデータ変換アプリケーションです。この検討のためには、誤差の仕様とそのソー スが同じであるため、A/D コンバータ(ADC)または D/A コンバータ(DAC)のどちらでも使用することができます。 20 AN04U AN04 データ変換システムの温度における最大誤差は、次の式で定義することができます。 誤差 = ( 直線性誤差 )+( スケール・ファクタの温度係数 x 温度 ) 全コード出力に対する全誤差要因によって発生する予測総合誤差は、直線性誤差と、スケール・ファクタの温度係数に室温からの 温度変化量を乗じたものの合計であることを、この式は表しています。 この式は、オフセット誤差がゼロであることを前提としています。ほとんどのデータ・コンバータでは、ドリフトによるオフセット誤 差は無視できる程度です。 データ・コンバータのデータ・シートを読むと、ほとんどの場合、全ての温度範囲にわたる直線性について非常に優れた数字を示 していることがわかります。これは、直線性という特性が完全にそのコンバータ内での相対値によって決まるからです。直線性は、 ドリフト特性としては表されず、多くの場合、代わりに温度範囲全域における最大値 / 最小値として表されます。 もう 1 つの問題は、スケール・ファクタの温度係数です。スケール・ファクタも、ゲインの温度係数あるいはゲイン誤差として知 られています。この誤差は、データ・コンバータにおけるスケール・ファクタの温度係数と基準電圧源における温度係数の和とし て表されます。内部基準電圧源を使用するデータ・コンバータもあれば、外部を使用するものもあり、またどちらでも使用可能 なものもあります。外部基準電圧源を使用できるコンバータには 2 つのスケール・ファクタ温度係数の仕様があり、内部基準電 圧源を使用した場合の仕様と、外部を使用した場合の仕様です。データ・コンバータと外部基準電圧源のスケール・ファクタ温度 係数は、通常、内部基準電圧源のそれよりはるかに優れています。 設計例 広い温度範囲に対応したデータ変換システムの設計を例として、全誤差要因との関連性について説明します。2 つのデータ・コン バータを比較します。 -15V +15V 16-BIT “COMPLETE” DAC WITH INTERNAL REF. DAC70 TYPE V out (AT 125°C ±0.18%) (DAC701) 図3. DAC70型 16ビットD/Aコンバータ +15V VRE100MA +15V 12-BIT CMOS MDAC AD7545 +15V OP07 V out (AT 125°C ±0.037%) -15V 図4. AD7545 12ビットD/Aコンバータ + VRE100MA 10V基準電圧源 1. 内部基準電圧源を備えた 16 ビット完結型デバイス(例 : DAC701) 直線性誤差 (1)= 0.003% スケール・ファクタの温度係数 =15 ppm/℃ 2. 外部基準電圧源を使用した 12 ビットのデバイス(例 : AD7545) 直線性誤差 (1)= 0.012% スケール・ファクタの温度係数 =2.0ppm/℃ 室温では、16 ビット・コンバータは 4 倍の精度があります。0.5ppm/℃を使用して 125℃における精度を計算するには、次の 12 ビットのコンバータでの方法を参照してください。 12 ビットの場合の計算結果 : 0.012%+(2.5ppm(2)x100℃ )=0.037% 16 ビットの場合の計算結果 : 0.003%+(15ppmx100℃ )=0.153% 注意 : 1) 直線性誤差は、多くの場合 LSB 単位で表されます。パーセンテージは、次の式により得られます。 AN04U 21 AN04 直線性 誤差 (%) = (1/2n x LSB) x 100% n = コンバータのビット数 2) DAC および基準電圧源のスケール・ファクタ温度係数を含みます。 125℃では、12 ビット・システムの方が 5 倍近い精度です。 どの程度の温度変化がこの検討の結論となるのでしょうか。両方のシステムの総合誤差が等しくなる温度変化を求めてみると、次 のようになります。 2.5ppm / ℃ x t = -0.012% 15ppm / ℃ x t = -0.003% -12.5ppm / ℃ x t = -0.009% t = 7.2℃ 温度変化が 7.2℃より大きい場合、12 ビットを使った方法の方が正確ということになります。温度が変化するに従って、データ・ コンバータのスケール・ファクタ誤差が支配的になります。このことにより、外部基準電圧源が使用できる最もスケール・ファクタ 温度係数が低いコンバータが好まれます。データ変換誤差の方程式を使い、直線性誤差をゼロに設定することによって、この公 式を使用して、どの基準電圧源を使えば全温度範囲にわたって目標とする精度を達成できるかがわかります。このことにより、公 式は次のように単純化されます。 基準電圧源の温度係数 x 変化温度 = 誤差 軍用の温度範囲の全域をカバーする設計は最も要件の厳しいものです。基準温度を 25℃とすると、最大温度変化は、25℃~ 125℃となります。一例として Apex の基準電圧源を使用すると次のようになります。 0.5ppm x 100°C = 50ppm 50ppm = 0.005% なので、大体 14 ビット程度の精度となります。 22 AN04U