エネルギーマネジメン 特集 トに貢献するパワー半 導体 車載用第4世代 IPS「F5100 シリーズ」 4th Generation IPS “F5100 Series” for Automobiles 鳶坂 浩志 TOBISAKA Hiroshi 中川 翔 NAKAGAWA Sho 豊田 善昭 TOYODA Yoshiaki 自動車電装システムに使用される半導体製品では,小型化,高信頼性化,低価格化の要求が高まっている。これを受けて, 出力段パワー MOSFET をプレーナ型からトレンチ型にし,制御・保護回路の微細化や多層配線技術を適用した第 4 世代 IPS「F5100 シリーズ」を開発した。製品のラインアップは,従来の SOP-8 パッケージに搭載した 1 チャネル品ならびに同 一サイズのパッケージの 2 チャネル品がある。主な特徴は次の四つである。過電流や過熱検出機能による負荷短絡保護,低 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 電源電圧動作,状態出力用ステータス端子の内蔵およびインダクタンス負荷時の高速ターンオフである。 There is an increased demand for small, highly reliable, low-cost semiconductor devices in the automotive application. Accordingly, we have developed the 4th generation IPS“F5100 series”by changing the power metal-oxide-semiconductor field-effect transistor (MOSFET) in the output stage from a planar structure into a trench structure, as well as by employing minute circuits for control and protection circuits and applying multi metal layer technology. The product lineup contains 1-channel devices mounted in existing SOP8 packages and 2-channel devices of the same package size. These devices have the following four main features: short-circuit protection by functions of detecting overcurrent and overtemperature, low power-supply voltage operation, status signed output and high speed turn-off function for inductive load. キなどの自動車電装システム向けに,インテリジェント まえがき パワー MOSFET(Metal- Oxide- Semiconductor Field⑴ 近年, “安全” “環境” “省エネルギー”をキーワードに Effect Transistor)製品の開発を行ってきた。これらの製 自動車電装分野での電子制御化が進んでいる。自動車電装 品は,出力段として用いる縦型パワー MOSFET と,制 システムに使用される半導体製品には,小型化,高信頼性 御・保護回路を構成する横型 MOSFET とを同一のチップ 化,低価格化の要求が高まっている。 上に集積化している。製品群には,電源側に半導体デバイ スを配置し,グランド側に負荷を配置するハイサイド型 富士電機では,エンジンやトランスミッション,ブレー ソース ゲート ドレイン p+ ソース p+ ゲート ドレイン ゲート n+ n+ n+ n+ ソース n+ n+ p+ p ゲート n+ n+ p+ p 第 3 世代 ゲート p p n− n+ 回路部加工ルールの微細化 ソース ゲート ドレイン 出力段パワー MOSFET の変更 ドレイン(VCC) ソース ゲート ドレイン ゲート ゲート ソース ゲート ゲート 第 4 世代 p+ p+ n+ n+ p n+ n+ n+ ドレイン(VCC) 第 4 世代 IPS デバイス・プロセス技術の特徴 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 440(52) n+ n+ n+ n+ p p+ 図 n+ n+ p+ p+ n+ p 車載用第4世代 IPS「F5100 シリーズ」 IPS(Intelligent Power Switch)と,この配置を逆にした 身の小型化および周辺部品の取込みによる顧客ユニットの ローサイド型 IPS とを,系列化している。本稿では,上 小型化といった市場要求に応える製品群が創出できる。 述の集積化を行うために開発した第 4 世代 IPS のデバイ ス・プロセス技術,ならびにその技術を適用したハイサイ ハイサイド型の第 4 世代 IPS 製品の特徴 ド型の車載用第 4 世代 IPS 「F5100 シリーズ」 について述 べる。 第 4 世代 IPS のデバイス・プロセス技術を適用するこ とにより,既に量産化している SOP-8 パッケージに搭 第 4 世代 IPS デバイス・プロセス技術の特徴 載しているハイサイド型 IPS のチップの小型化が実現可 富士電機では,インテリジェントパワー MOSFET を自 己 分 離 型 CMOS/DMOS(Complementary Metal-Oxide- (単位:mm) Semiconductor/Diffusion MOSFET)プロセス構造を用い て実現してきた。出力段パワーデバイスには,プレーナ ⑫ ⑦ ⑵ 4.4 第 4 世 代 IPS デ バ イ ス・ プ ロ セ ス 技 術 の 特 徴 は, 出 力段縦型パワー MOSFET を,従来のプレーナゲート型 6.1 の低減を推進し,顧客製品の小型化に貢献してきた。 MOSFET からトレンチゲート型 MOSFET に変更した点 。これにより,従来の出力段 MOSFET と である(図 ) ⑥ 0.35 ① 0.15 比較して,Ron・A を約 55 % 低減させることができた。 ⑴ 回路部 5 端子番号 端子名 ⑶ 従来の自己分離型統合パワー IC 技術や IPS デバイス技 ① ⑷ 術を基に,各要素デバイスの微細化を行った。また,要素 デバイス自体の微細化に加えて,要素デバイス間を接続す 0.8 る配線が占める面積を低減する多層配線技術を適用した。 端子番号 端子名 IN1 ⑥ IN2 ② ST1 ⑦ OUT2 ③ GND1 ⑧∼⑪ VCC ④ GND2 ⑫ OUT1 ⑤ ST2 2 ⑵ 主な要素デバイス 回 路 用 5 V 系 CMOS に 加 え,60 V 系 CMOS を 用 意 し (a)F5101H ている。ハイサイド型デバイスではチップ裏面電位が電 源直結端子となり,自動車用 12 V 系バッテリで発生し得 〈注 1〉 るロードダンプサージ などに対してサージ耐性を満たす ために,60 V 系 CMOS を用意した。ローサイド型ではデ バイスのオン時に裏面電位がほぼ 0 V となり,60 V 系の ⑧ CMOS は使用できないため,ロードダンプサージに対し ⑤ 4.4 ⑶ 回路用の MOSFET ゲート酸化膜として,薄膜と厚膜の 2 種類を用意した。 6.1 ては出力段パワー MOSFET でサージ耐性を満たしている。 薄いゲート酸化膜の MOSFET は,しきい値電圧が低いの ④ で,バッテリ電圧低下時に駆動を要求される製品の回路に 0.4 ① 0.15 使用できる。一方,厚いゲート酸化膜の MOSFET は,し きい値電圧は高くなるがゲート耐圧が高いので,例えば外 5 部電源電圧 VCC で直接駆動するような,高電圧でのゲート 端子名 端子番号 駆動が必要な回路にも使用できる。 1.27 さらに,寄生動作の心配のないポリシリコンデバイスや トリミングデバイスも備えている。 1.90 これらを組み合わせることにより,富士電機の現行品に 対していっそうの高集積化・高精度化が実現でき,素子自 〈注 1〉ロードダンプサージ:オルタネータ(発電機)が結線外れ F5104H F5105H ① OUT IN ② GND ST ③ ST GND ④ IN OUT ⑤∼⑧ VCC VCC (b)F5104H,F5105H した場合などに発生するサージで,時定数が 200 ms の長い サージをいう。 図 「F5100 シリーズ」の外観,外形図,端子配列 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 441(53) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 ゲート型の MOSFET を採用し,QPJ(Quasi Plane Junction)技術を適用して Ron・A(単位面積当たりのオン抵抗) 車載用第4世代 IPS「F5100 シリーズ」 表 「F5100 シリーズ」のラインアップ 新製品型式名 また,F5100 シリーズの回路ブロック図を図 に,電気的特性を表 に,最大 に,論理表を表 に示す。 F5101H F5104H F5105H 定格を表 ̶ F5044H F5049H いずれも F5101H では,1 チャネル当たりのものである。 類似現行品型式名 搭載チャネル数 2チャネル 1チャネル パッケージ SSOP-12 SOP-8 F5100 シリーズの特徴を次に示す。 ⒜ 過電流,過熱検出機能による負荷短絡保護 ⒝ 低電源電圧動作(現行品:6 V,F5100 シリーズ: 4.5 V) 能となった。さらに,同一パッケージサイズで 2 チャネ ⒞ 負荷状態・異常状態出力用ステータス端子の内蔵 ルを搭載したハイサイド型 IPS が開発できるようになっ ⒟ インダクタンス負荷の高速動作(ターンオフ時の逆 た。図 に,外観,外形図および端子配列を,表 に本稿 起電圧に対する電圧クランプ回路の内蔵) で紹介する製品ラインアップおよび対応する現行品を示す。 F5100 シリーズにおいても,従来のハイサイド型 IPS と 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 F5101H は,2 チャネルのハイサイド型 IPS を搭載した製 同様に出力段 MOSFET に過電流が流れた場合は,システ 品である。従来,SOP-8 パッケージにハイサイド型 IPS ムや負荷と素子自身を保護するための過電流検出機能を搭 を 1 チャネル内蔵していたが,同一外形サイズの SSOP- 載している。図 12 パッケージを新規に開発したものである。 に至るまでの動作波形を示す。出力発振状態でのピーク電 に,過電流検出状態から出力発振モード 流を 12 A 程度にクランプしており,過大な電流が流れる VCC 表 「F5100 シリーズ」の最大定格(T a=25 ℃) 定 格 内部電源 項 目 記 号 条 件 IN レベル シフト ドライバ 論理 回路 単 位 最 小 最 大 V CC1 DC −0.3 36 V V CC2 250 ms ̶ 50 V 電源電圧 短絡検出 OUT 負荷開放 検出 出力電流 ID ̶ ̶ 3 A 入力電圧 V IN DC −0.5 7 V ステータス電圧 V ST DC −0.3 7 V ステータス電流 I ST ̶ ̶ 5 mA 消費電力 PD ̶ ̶ 1.5 W 接合部温度 Tj ̶ −40 150 ℃ T STG ̶ −55 150 ℃ 過熱検出 ST 過電流 検出 GND 保存温度 図 「F5100 シリーズ」の回路ブロック図 表 「F5100 シリーズ」の電気的特性(T a=25 ℃) 規格値 項 目 記 号 条 件 対象機種 単 位 最 小 最 大 4.5 28 V 動作電源電圧 V CC T j=−40 ∼ +150 ℃ 静止電源電流 I CC V CC=13 V,R L=10Ω V IN=0 V 3機種 ̶ 3 mA V IN(H) V CC=13 V 3機種 3.0 ̶ V 3機種* 入力しきい値電圧 V IN(L) V CC=13 V 3機種 ̶ 1.5 V 入力電流 I IN(H) V CC=13 V,V IN=5 V 3機種 10 50 µA オン抵抗 R DS(on) I L=1.25 A F5101H ̶ 0.09 Ω F5104H,F5105H ̶ 0.12 Ω 出力リーク I OL V CC=13 V 3機種 ̶ 0.5 mA 過電流検出 I OC V CC=13 V 3機種 3 ̶ A 過熱検出 T trip V CC=13 V 3機種 150 200 ℃ ターンオン時間 t on V CC=13 V,R L=10Ω 3機種 ̶ 120 µs ターンオフ時間 t off V CC=13 V,R L=10Ω 3機種 ̶ 70 µs 負荷クランプ電圧 V clamp V CC=13 V,I L=1.25 A V IN=5 V,L =10 mH 3機種 − (50-V cc) − (60-V cc) V 負荷開放検出 R LOPEN V CC=13 V,V IN=0 V 3機種 6 36 kΩ *3機種:F5101H,F5104H,F5105H 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 442(54) 車載用第4世代 IPS「F5100 シリーズ」 「F5100 シリーズ」の論理表 IN 正常動作 負荷開放検出 ST OUT L L L H H H Open L L L H H L L L H L L L L L H L L 現行品 ー 150 自己復帰 過熱検出 自己復帰 過電流検出 I L =1.25 A,T a =25 ℃ 200 備 考 R DS(on)(mΩ) 表 自己復帰 出力発振モード 1 チャネル搭載素子 100 2 チャネル搭載素子(1 チャネル当たり) 50 0 0 5 10 15 V CC(V) 20 25 30 図 「F5100 シリーズ」のオン抵抗の電源電圧依存性(代表値) V IN :5 V/div V CC =13 V,V IN =5 V,t :1ms/div,R L=10Ω,L =10 m H V ST:5 V/div V IN:10 V/div V ST:10 V/div V OUT :20 V/div I OUT:5 A/div 図 「F5100 シリーズ」の過電流動作時波形 I OUT:2 A/div (過電流検出∼出力発振モード) 異常状態においてもデバイスが発生するノイズを低く抑え ている。また,本ピーク電流のクランプにより,ECU 配 図 「F5100 シリーズ」の L 負荷クランプ動作波形 〈注 2〉 線の微細化およびワイヤハーネスの細線,軽量化に貢献で JEITA に準拠した SSOP-20 の寸法を踏襲した。なお,端 きる。 子めっきには,現行品と同様に鉛フリーはんだ(Sn-Ag) 現行品は,電源電圧 VCC が 5 V 以下になると,オン抵抗 を使用している。 が大きくなって素子が動作しなくなった。F5100 シリーズ では,内部回路のゲート酸化膜厚を薄くすることにより, あとがき 低電源電圧時の動作を改善した。VCC が 4.5 V においても, VCC が 13 V の時とほぼ同等のオン抵抗を維持できる(図 ) 。 本稿では,ハイサイド型の車載用第 4 世代 IPS 「F5100 このため,バッテリに直結した負荷を駆動する際に電源電 シリーズ」 について述べた。Ron・A を 55 % 低減したトレ 圧が低下しても,F5100 シリーズの性能を落とすことなく ンチゲート型 MOSFET を搭載し,回路部を微細化し,多 使用できる。 層配線を適用したことで小型化・低コスト化に貢献できる。 また,回路構成を現行品と同様にして,VCC が 13 V 時 今後,第 4 世代 IPS で培った技術を用いてさまざまなパ で− 41 V と大きなクランプ電圧を確保しているので,イ ワー IC 製品を開発し,自動車分野の発展に貢献していく ンダクタンス負荷の高速ターンオフ動作を可能にしている 所存である。 (図 ) 。 F5101H は,2 チ ャ ネ ル が 同 時 に 駆 動 す る こ と に よ る 発熱量の増加を避けるために,オン抵抗を低下させてい る。これにより,1 チャネル品と同様に 1 A の通電能力を 確保した。また,内部電源回路や GND ワイヤを各チャネ 参考文献 ⑴ 岩田英樹ほか. インテリジェントパワー MOSFET. 富士時 報. 2008, vol.81, no.6, p.410-414. ⑵ 岩 水 守 生 ほ か. リ ニ ア 制 御 用IPS 「F5064H」. 富 士 時 報. ルにそれぞれ配置して,万が一,片チャネルが破壊しても, もう片方のチャネルへの影響が少なくなるように配慮し 〈注 2〉JEITA:社団法人 電子情報技術産業協会。SSOP-12 パッケー た。SSOP-12 パッケージの開発には,端子幅,ピッチが ジは,JEITA 規格の EDR-7314A に準拠している。 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 443(55) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 V CC =13 V,V IN =5 V,t :400 s/div , n チャネル MOSFET 負荷使用 車載用第4世代 IPS「F5100 シリーズ」 2010, vol.83, no.6, p.415-419. ⑶ 熊谷直樹ほか. 自動車用自己分離型統合パワー IC技術. 富 士時報. 2003, vol.76, no.10, p.622-625. ⑷ 豊田善昭ほか. 自動車用IPSデバイス技術. 富士時報. 2008, vol.81, no.6, p.450-453. 鳶坂 浩志 半導体デバイスの開発に従事。現在,富士電機株 式会社電子デバイス事業本部パワー半導体事業統 括部自動車電装技術部。 中川 翔 半導体デバイスの開発に従事。現在,富士電機株 式会社電子デバイス事業本部パワー半導体事業統 括部自動車電装技術部。 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 豊田 善昭 半導体のデバイス開発 ・ 設計に従事。現在,富士 電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導体 開発統括部デバイス開発部チームリーダー。 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 444(56) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。