FEJ 80 06 436 2007

富士時報 Vol.80 No.6 2007
特 集
多機能低待機電力 PWM 電源 IC「FA5553/5547
シリーズ」
藤井 優孝(ふじい まさなり)
丸山 宏志(まるやま ひろし)
朴 虎崗(ぼく
まえがき
ここう)
系列化しており,今回開発した IC の系列一覧を表1に示
す。本 IC は図 1 に示すスイッチング電源の概念図におい
近年,地球環境の温暖化が世界的な問題として取り上げ
て一次側にある PWM IC として使用する。
られ,電気製品全般での省エネルギーが重要となっている。
特に常時コンセントに接続されることの多いテレビ,オー
.
特 徴
ディオ製品,ノートパソコンやプリンタなどの周辺機器で
表1に示すように各機種とも従来機種である「FA5528」
は実使用時間以外の待機状態の時間が長く,この待機時消
と同様に待機時消費電力低減のため 500 V 耐圧の起動素子
費電力を削減することが必須機能となり,電源に対しても
年々待機時消費電力の削減要求が強まっている。
図
スイッチング電源の概念図
この要求に対して富士電機では,今までも商用交流電
源(100 V,240 V)を直流電源に変換するスイッチング電
源用の制御 IC を系列化している。今回,さらに低待機電
一次側
二次側
二次側
出力電圧 / 電流
AC
電源
力性能を強化したのに加え,各種製品に最適な保護機能
+
C1
を付加した 8 ピンのカレントモード PWM(Pulse Width
半波
+
主巻線
Modulation)電源 IC「FA5553/5547 シリーズ」を開発し
RVH
たのでその概要を紹介する。
PWM IC
補助巻線
VH
LAT
製品の概要
FB (NC)
IS
VCC
GND OUT
MOS
+
C2 ゲート
信号 R
富 士 電 機 で は 30 V 耐 圧 の CMOS(Complementary
Metal-Oxide-Semiconductor)プロセスを使用した外付け
S
パワー MOSFET を駆動するタイプの AC-DC 電源 IC を
表
低待機電力用PWM ICシリーズの特性一覧
保護機能
シリーズ
型 式
パッ
ケージ
電源
構成
入力
範囲
動作
周波数
過負荷
FA5528
FA5528
SOP/
DIP8
フライ
バック
10∼
26 V
60 kHz
タイマラッチ
FA5553
FA5553
FA5554
FA5566
60 kHz
SOP/
DIP8
フライ
バック
10∼
26 V
100 kHz
FA5546
FA5547
過電圧
ブラウン
アウト
起動
回路
待機時最低
動作周波数
過負荷ライ
ン補正損失
ラッチ
○
×
○
1.1 kHz
<70 mW
ラッチ
○
×
○
0.35 kHz
<5 mW
ラッチ
○
○
○
0.5 kHz
<5 mW
自動復帰
タイマラッチ
自動復帰
タイマラッチ
FA5567
FA5547
低待機電力機能
外部ラッチ
(過熱)
SOP/
DIP8
フライ
バック
10∼
26 V
60 kHz
自動復帰
タイマラッチ
:新製品
436( 58 )
藤井 優孝
丸山 宏志
朴 虎崗
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
に従事。現在,富士電機デバイス
に従事。現在,富士電機デバイス
に従事。現在,富士電機デバイス
テクノロジー株式会社半導体事業
テクノロジー株式会社半導体事業
テクノロジー株式会社半導体事業
本部情報・電源事業部技術部。
本部情報・電源事業部技術部。
本部情報・電源事業部技術部。
多機能低待機電力 PWM 電源 IC「FA5553/5547 シリーズ」
富士時報 Vol.80 No.6 2007
から成る起動回路を有し,待機時には負荷に応じて動作周
法を示す。電源投入時には起動回路から VCC 端子に供給
される電流により VCC 端子に接続されたコンデンサ C2
て最低周波数を下げ,さらに,過負荷ライン補正での損失
は充電され,VCC 電圧が上昇し,IC が起動して電源は動
低減を行うことによってさらなる待機時の低消費電力化を
作を開始する。VH 端子から VCC 端子に供給される電流
実現した。一方,保護機能では FA5547 シリーズで低 AC
は VCC 端子電圧が 0 V の状態で最も多く,VCC 端子電圧
入力電圧保護(ブラウンアウト)機能を追加した。本機能
の上昇とともに供給電流は減少する。また,VH 端子には
は上述の起動回路で使用の端子と兼用することでパッケー
AC ラインなどのサージ電圧による IC の破壊を防止する
ジピン数を増やすことなく,従来と同じパッケージピン数
目的で抵抗を直列に接続する。
待機時最低動作周波数(共通機能)
( 2)
で実現した。
次に,電源の保護機能と外付け部品点数を表 2 に示す。
重負荷時のスイッチング周波数は表1に示す動作周波数
FA5553 シリーズは外部ラッチ方式の過熱保護機能をサー
の 60 kHz または 100 kHz に固定されている。しかし,待
ミスタのみで構成することで,従来よりも部品点数を 2 点
機状態などの軽負荷時には損失低減のためにスイッチング
削減することができる。また,FA5547 シリーズは上述の
周波数を自動的に低下させる機能を有する。図 3 に示すよ
過熱保護のほか,モータなどの負荷を有する電源に必要な
うに軽負荷時の周波数低下は FB 端子電圧に比例してほぼ
パルス負荷電流に対応した電流制限機能およびブラウンア
ウト機能を IC に内蔵したことで,従来よりも部品点数が
8 点削減できるため,電源のコストダウンが可能となる。
リニアに最低周波数である fmin(0.35 kHz)まで低下する。
過負荷ライン補正損失低減(共通機能)
( 3)
入力電圧によってトランスのインダクタ電流傾斜が異な
に示
るため,過負荷となる電流値が異なる。従来は図 4(b)
.
低待機時消費電力
すように電流検出抵抗 Rs と IS 端子間に R4,AC の整流平
滑後のラインと IS 端子間に R5 を接続しており,特に R5
起動回路(共通機能)
( 1)
図 2 に VH 端子を AC 入力電圧の半波波形に接続する方
は高電圧が印加するため,この部分の損失は 70 mW と大
きかった。そこで,新製品では IS の検出の極性をプラス
表
電源の保護機能と外付け部品点数
図
(a)過熱保護を必要とする電源
スイッチング周波数と FB 端子電圧の関係
保護機能
過負荷
過電圧
外部ラッチ
(過熱)
部品点数
FA5528
○
○
○
17
FA5553
FA5554
○
○
○※
15
※サーミスタのみによる過熱検出が可能
固定周波数
スイッチング周波数
型 式
:新製品
(b)多様な保護機能を有する電源
保護機能
型 式
ブラウン
アウト
過負荷
電流制限
過電圧
FA5528
○
×
○
○
×
25
FA5546
FA5547
○
○
○
○※
○
17
図
0.4 V
部品
点数
外部ラッ
チ(過熱)
※サーミスタのみによる過熱検出が可能
最低周波数
f min
(0.35 kHz)
0.9 V
FB 端子電圧
図
過負荷ライン補正回路
:新製品
PWM IC
起動回路
VCC
+
+
C1
R9
補助巻線
C1
IS
(a)損失低減回路
起動回路 RVH
電流
VH
起動回路
制御信号
スタート
アップ回路
R5
IS
VCC
+
PWM IC
C2
+
C2
R4
GND
主巻線
RS
(b)従来回路
437( 59 )
特 集
波数を下げる機能を有している。新製品では従来品に対し
富士時報 Vol.80 No.6 2007
多機能低待機電力 PWM 電源 IC「FA5553/5547 シリーズ」
検出からマイナス検出とした。その結果,図 4(a)
に示すよ
過負荷保護(電流制限)
( 3)
特 集
うに抵抗 R9 を補助巻線と IS 端子間に接続することで過負
インクジェットプリンタなどのモータ負荷用の電源には,
荷検出レベルの入力依存性の低減が可能となり,この部分
過負荷保護のほかパルス負荷電流に対しての保護が必要な
の損失を 5 mW と従来品の 14 分の 1 にまで小さくするこ
場合がある。図 8 にパルス負荷電流に対応した過電流動作
とが可能となった。
概念図を示す。 図 8(a)
は過負荷期間が 200 ms 未満の場合,
二次側出力電流が過負荷検出レベルより大きな負荷電流で
.
保護機能
あっても IC はスイッチングを継続し,電流制限レベルに
達するまで二次側出力電圧は保持される。電流制限レベル
外部ラッチ方式過熱保護(共通機能)
( 1)
図 5 に示すように LAT 端子にサーミスタ TH を接続す
以上の負荷ではパルスバイパルスで一次側スイッチング電
ることで,LAT 端子が 1.05 V 以下で IC はラッチモード
図
に移行する。
ブラウンインとブラウンアウト動作の概念図
次に,FA5547 シリーズのみの保護機能について説明す
る。
ブラウン
イン検出
電圧
しきい値
ダイオード
ブリッジ
半波入力
低 AC 入力電圧保護(ブラウンアウト)
( 2)
0
図 6 に示すように AC 入力電圧は VH 端子でモニタされ,
定格
二次側
出力電圧
起動回路を経由し,コンパレータに入力されている。図 7
は VH 端子の AC 入力電圧の半波入力を用いた場合のブラ
0
VCC
MOSFET
ゲート電圧
ウンアウト解除(ブラウンイン)とブラウンアウト検出動
0
(a)ブラウンイン時の動作
作の概念図を示す。図 7(a)
はブラウンイン時の動作で,半
波入力がコンパレータのブラウンイン検出電圧のしきい値
ダイオード
ブリッジ
半波入力
以上で IC がスイッチング動作を開始し,二次側出力電圧
はブラウンアウト時の動作で,半波入
は上昇する。図 7(b)
50 ms 遅延時間
0
二次側
出力電圧
定格
MOSFET
ゲート電圧
VCC
0
力がコンパレータのブラウンアウト検出電圧しきい値以下
となり,50 ms 経過後 IC のスイッチング動作が停止する。
図
ブラウン
アウト検出
電圧
しきい値
0
(b)ブラウンアウト時の動作
外部ラッチ方式過熱保護回路
図
PWM IC
5V
LAT
LAT
TH
二次側
出力電圧
定格
ラッチ
+
−
パルス負荷電流に対応した過電流動作概念図
セット
UVLO
電流制限
レベル
二次側
出力電流
リセット
過負荷検出
レベル
0
VCC
MOSFET
ゲート電圧
0
図
ブラウンアウト検出回路
過負荷期間
200 ms 未満
(a)過負荷期間が 200 ms 未満の場合
+
主巻線
C1
二次側
出力電圧
定格
0
電流制限
レベル
二次側
出力電流
RVH
過負荷検出
レベル
VH
起動回路
制御信号
保護回路へ
スタート
アップ回路
438( 60 )
C2
VCC
MOSFET
ゲート電圧
0
−
+
PWM IC
+
0
補助巻線
VCC
過負荷期間
200 ms 以上
ラッチ停止動作
(b)過負荷期間が 200 ms 以上の場合
多機能低待機電力 PWM 電源 IC「FA5553/5547 シリーズ」
富士時報 Vol.80 No.6 2007
流が制限され,二次側出力電圧は垂下する。しかし,図 8
使用 IC:FA5553(動作周波数 60 kHz)
( 3)
(b)
のように過負荷期間が 200 ms 以上となると IC はラッ
入力電圧 AC100 V と 264 V 時の 1.5 A 以下での負荷電
には 80 mA 以上で,入力電圧 AC264 V 時には 0.3 A 以上
電源回路への応用
でそれぞれ 80 % 以上と高い効率となっており,特に負荷
電流が低い領域での効率低下が小さい。このときの電源回
FA5553 を使ったスイッチング電源の特性を説明する。
.
路を図
電源効率特性
動作周波数特性
.
電源の主な仕様は以下のとおりである。
に示す。
入力電圧 AC100 V 時と 264 V 時の負荷電流と動作周波
入力電圧:AC90 〜 264 V,50/60 Hz
( 1)
数の関係を図
出力:DC19 V,0 〜 3.42 A(65 W)
( 2)
作周波数がリニアに低減しており,図 3 に示す IC の軽負
図
負荷電流と電源効率の関係
図
負荷電流と動作周波数の関係
100
70
AC100 V
60
動作周波数(kHz)
電源効率(%)
90
80
AC264 V
70
60
50
40
図
に示す。負荷電流が 0 〜 0.9 A の範囲で動
AC264 V
50
40
AC100 V
30
20
10
0
1.0
0.5
負荷電流(A)
0
1.5
0.5
1.0
負荷電流(A)
0
1.5
電源回路図
R200 C200
47Ω 200 pF
3.15 A 250 V
F001
L001
L002
L
C001
N
0.33 F
R001
1MΩ
R002
1MΩ
D050
∼ +
C051 +
120 F
400 V
∼ −
FG
(+VOUT)
T051
C053 3.3 F
R053
10Ω
C006
2
R051
100 kΩ
D200
+ C204
YG862C15
470 F
D052
1
Q050
2SK3687
FLY2
C205 +
470 F
FLY1
GND
C050
100 pF
D107
R102
360Ω
R056-1
R107
0Ω
23.7Ω
D070
R056
R006
4.7 kΩ
6.8Ω
C056
1 F
+ C054
22 F
IC100
R125
13 kΩ
RT100
TTC
104
8 7
6 5
FA5553
1 2
3 4
R127
22 kΩ
9817
817A
L051
3
10
R401
33 kΩ
R405
10 kΩ
PC300
C400
R408
0.1 F
10 kΩ
C401
IC400
K1A
431A
R122
R402
4.7 kΩ
1 kΩ
C115
1 F
D051
R400
470Ω
R056
0.68Ω
R126
20 kΩ
C116
0.47 F
C120
22 nF
R112
22 kΩ
PC300
R124
R123
75 kΩ
75 kΩ
439( 61 )
特 集
流と電源効率の関係を 図 9 に示す。入力電圧 AC100 V 時
チ停止し,スイッチング動作停止となる。
富士時報 Vol.80 No.6 2007
図
多機能低待機電力 PWM 電源 IC「FA5553/5547 シリーズ」
電力が 0.1 W 以下と小さくなっている。これは,待機電力
出力無負荷時の入力電圧と入力電力の関係
低減のために起動回路の IC 内蔵化,軽負荷時の動作周波
0.20
特 集
数の低減のほか過負荷ライン補正損失の低減を実現するこ
0.18
とで可能となった。
入力電力(W)
0.16
以上のように,今回開発した FA5553 シリーズおよび
0.14
FA5547 シリーズを使用することで低待機電力による高効
0.12
率化のほか,アプリケーションに必要な各種保護を少ない
0.10
部品点数で実現することが可能である。
0.08
0.06
あとがき
0.04
0.02
0
60
120
180
240
入力電圧(V )
AC
300
アプリケーションに必要な各種保護機能を少ない部品点
数で構成可能な低待機電力対応の電源 IC について紹介し
た。この分野は今後もさらに低消費電力化要求が厳しく
なってくることが予想されるため,さらなる機能強化・部
荷周波数低減機能が働いている。この機能により,図 9 に
品点数の削減による使いやすさを追求した製品を開発して
示す電源効率で軽負荷領域においても高い電源効率を保持
いく所存である。
することが可能となった。
参考文献
.
待機電力特性
待機電力として出力無負荷時の入力電圧と入力電力の関
係を図
に示す。入力電圧が AC90 〜 240 V の範囲で入力
440( 62 )
丸山宏志ほか.起動素子付き低待機電力対応電源 IC.富
( 1)
士時報.vol.76, no.3, 2003, p.149-152.
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。