富士時報 Vol.80 No.6 2007 鹿島 雅人(かしま まさと) 菅原 敬人(すがわら たかと) 渕先 寛教(ふちさき ひろのり) まえがき 源 IC「FA5550/5551」を開発したのでその概要を紹介する。 製品の概要 近年,電子機器の小型化・軽量化・高機能化に伴いス イッチング電源の利用が広く普及している。スイッチング 電源ではコンデンサインプット型の整流・平滑回路が採用 今回開発した FA5550/5551 は各種の機能を内蔵し,8 されている。この方式は,その変換に際し大量の電源高調 ピ ン の DIP(Dual In-line Package) ま た は SOP(Small 波電流を発生させている。そのため電力系統の電圧ひずみ Out-line Package)に収められている。図 1 に外観を示す。 が発生し,一部の機器においては動作障害が顕在化しつつ ある。また,電源高調波電流成分の増加は力率を大幅に低 下させることになり,電力配電の観点からも問題視されて 表 PFC回路用電源ICの製品比較 いる。このような背景から,電源高調波電流成分を法的に 規制する動きが出てきており,現在はガイドラインにより 自主規制が行われている。 電源高調波電流および力率の問題を解決するために種々 の方式が提案されているが,小型・軽量で高力率を実現で きることからアクティブフィルタ方式が広く使われている。 これまでにアクティブフィルタ回路の制御 IC として電 流臨界モードの「FA5500/5501」 (8 ピン)と電流連続モー ドの「FA5502」 (16 ピン)の製品化を行ってきた。目安 として出力容量 250 W 未満には FA5500/5501,出力容量 250W 以上の大電力向けには FA5502 の適用を提案してき た。しかし近年,大電力の用途でも電源の低価格化が要求 され,外付け部品を少なく簡単に設計できる電流連続モー ド IC の要望が出てきた。これに対応するために 8 ピンで 連続モードの PFC(Power Factor Correction)回路用電 図 FA5550 の外観 項 目 FA5550/5551 FA5502 平均値モード 平均値モード 周波数(kHz) 固定周波数 65(標準) 外部設定 15∼150 ピン数(ピン) パッケージ種類 8 DIP/SOP 16 DIP/SOP 動作モード 推奨動作電圧範囲(V) 10∼28 10∼28 出力電流(A) −1/+2 ±1.5 スタートアップ電流( A) 20(最大) 30(最大) 動作電流(mA) 2.5(標準) 4.0(標準) UVLOオンしきい値電圧 FA5550 : 9.6(標準) (V) FA5551 : 13.0(標準) UVLOオフしきい値電圧 (V) 9.0(標準) UVLO ヒステリシス電圧 FA5550 : 0.6(標準) (V) FA5551 : 4.0(標準) 16.5(標準) 8.9(標準) 7.6(標準) エラーアンプ 相互コンダクタンス アンプ V fb =2.5 V±1.4 % 電圧アンプ V fb =1.55 V ±2.0 % 過電圧保護 しきい値電圧 : V fb ×1.09±2.8 % しきい値電圧: 1.64 V±2.0 % 過電流リミットしきい値 電圧(V) 1.0(標準) −1.1(標準) スロープ補償 可変 なし ブラウンアウト機能 あり なし FB端子 オープン/ショート 保護機能 あり なし 0.9∼0.99 0.95以上 クラスD クラスA 力 率 高調波対応 鹿島 雅人 菅原 敬人 渕先 寛教 スイッチング電源制御 IC の開発 スイッチング電源制御 IC の開発 スイッチング電源制御 IC の開発 に従事。現在,富士電機デバイス に従事。現在,富士電機デバイス に従事。現在,富士電機デバイス テクノロジー株式会社半導体事業 テクノロジー株式会社半導体事業 テクノロジー株式会社半導体事業 本部情報・電源事業部技術部。 本部情報・電源事業部技術部。 本部情報・電源事業部開発営業部。 441( 63 ) 特 集 電流連続モード PFC 回路用電源 IC「FA5550/5551 シリーズ」 富士時報 Vol.80 No.6 2007 . 電流連続モード PFC 回路用電源 IC「FA5550/5551 シリーズ」 特 徴 動作説明 . 特 集 表1に PFC 回路用電源 IC の製品比較を示す。FA5550/ 5551 の主な特徴は以下のとおりである。 スイッチング動作 ( 1) 本 IC はアクティブフィルタの制御 IC であり,ピーク 大電力に対応できる電流連続モード動作を実現 ( 1) 電流値を制御する方式を採用している。図 2 に概略動作回 UVLO(Under Voltage Lock Out)オンしきい値電 ( 2) 路を, 図 3 にスイッチング動作各部波形を示す。発振器 圧が 9.6 V(標準) (FA5550)と 13.0 V(標準) (FA5551) の 2 型式をラインアップ (OSC)から出力されたスイッチング周波数のトリガ信号 は,RS フリップフロップにセット信号として入力される。 動作周波数 65 kHz(固定) ( 3) この結果,OUT 端子電圧がハイ状態となり,Q1 がオン 出力電圧検出抵抗のオープンショート検出回路により, ( 4) 。Q1 がオンすると L1 からの電流が増加する。 する(t1) 出力電圧検出部が異常になった場合に回路動作を停止 Q1 の電流値は Rs で電圧に変換され,IS 端子に入力され ブラウンアウト(入力低電圧)保護機能内蔵 ( 5) る(Vis) 。Vis をスロープ補償回路(Slope)で減算した値 外付け抵抗によりスロープ補償値が可変で起動・停止 ( 6) が,乗算器(MUL)の出力で決定される電流コンパレー 時のトランス異音を抑制 タの基準に達すると RS フリップフロップにリセット信号 表 2 に主要特性を示す。 。内部発振器から出力される が入り,Q1 はオフする(t2) セット信号により,次のスイッチングサイクルへと移る。 表 本 IC は,ピーク電流を制御し電流連続モードで動作す 主要特性 (a)絶対最大定格 項 目 図 特 性 30 V 電源電圧 動作周囲温度 −30∼+105 ℃ 動作接合温度 150 ℃ OUT (Q1 ゲート) (b)電気的特性 項 目 Q1 V DS 特 性 スタートアップ電流 20 A(最大) 動作時回路電流( C l =1nF) 2.5 mA(標準) IL1 2.5 V±1.4 % 基準電圧 65 kHz(標準) 発振周波数 96 %(標準) 最大デューティサイクル 1.09V fb /1.045 V fb 過電圧保護しきい値電圧 図 スイッチング動作各部波形 過電流保護しきい値電圧 1.0±10 % ブラウンアウトしきい値電圧 70 V/63 V 出力立上り時間( C l =1nF) 50 ns(標準) 出力立下り時間( C l =1nF) 25 ns(標準) 概略動作回路 CUR.comp 出力 (リセット) OSC 出力 (セット) t1 図 t2 t1 t2 各部動作波形イメージ D1 L1 L1 + Q1 D1 C2 C1 RS MUL COMP 1 2 C3 GND 6 IS UVL0 電流 コンパレータ AOC − VSP − (0.3 V) SP OSC + VOVP (1.09 VREF) + OVP SLOPE − IS 442( 64 ) REF − 4 RS 8 VREF (2.5 V) + ERRAMP MUL − VOS + (2.0 V) Q1 C1 VCC 3 FB AC V is 5 RS フリップ フロップ + SP 7 R S ブラウン アウト SLOPE MUL V Q OVP OUT 3 (正弦波) t 4 Slope MUL + CUR.comp − ERRAMP V + (正弦波) 2 − t COMP C3 V t (ほぼ DC) FB 1 電流連続モード PFC 回路用電源 IC「FA5550/5551 シリーズ」 富士時報 Vol.80 No.6 2007 AOC(Auto Offset Control)回路が接続されている。過 ロープ補償回路を内蔵している。また,そのスロープ補償 電流保護回路は,入力電圧が高いときに基準となる過電流 量は外付け抵抗値により可変となっている。 保護レベルを小さく,入力電圧が低いときに過電流保護レ 力率改善動作 ( 2) ベルを大きくなるように設定することにより,入力電圧に 図 4 に各部動作波形イメージを示す。 依存せず一定の値で過電流保護がかかるようになっている。 誤差増幅器の出力となる COMP 端子の電圧は,C3 によ 入力電圧に対する過電流検出電圧を図 6 に示す。 り定常状態ではほぼ直流電圧となる。この電圧は乗算器に 入力される。乗算器のもう一方の入力には,AC 入力電圧 ブラウンアウト保護回路 ( 4) 入力低電圧時の保護回路としてブラウンアウト保護回路 を整流した波形が入力される。この結果,乗算器からはこ を備えており,MUL 端子入力を監視することで入力低電 の二つの波形の積となる AC 入力電圧に比例した正弦波状 圧を検出する。入力電圧 63 V(標準)でブラウンアウト の波形が出力される。乗算器の出力波形を図 5 に示す。こ (動作停止) ,タイマ約 200 ms,入力電圧 70 V(標準)で の出力された正弦波状の電圧波形が電流コンパレータにイ ンダクタ電流の基準として入力される。この結果,インダ クタ電流の平均値は正弦波となる。C1 によってこのイン ブラウンイン(動作復帰)する。 スロープ補償調整回路 ( 5) 外付けの抵抗の値を変化させることで,スロープ補償量 ダクタ L1 の電流のスイッチングリプルを取り除き,平均 の調整が可能となっている。図 7 にスロープ補償抵抗値に 化することで,交流入力電圧から流れ込む電流もほぼ正弦 対するスロープ補償量を示す。 波状になり,力率を改善することができる。 過電流保護回路 ( 3) 過電流保護は図 2 の電流コンパレータで行っている。電 流コンパレータには軽負荷時にオフセットをゼロとする 図 図 スロープ補償抵抗値に対するスロープ補償量 80 乗算器の出力波形 スロープ補償(mV/ s) 70 4.0 乗算器出力電圧(V) 3.5 COMP=3 V 3.0 COMP=2 V 2.5 2.0 1.5 1.0 COMP=1 V 0.5 0 1 2 3 V mul(V) 4 5 50 40 30 20 10 0 0 6 50 100 150 200 250 300 350 400 スロープ補償抵抗(kΩ) 入力電圧に対する過電流検出電圧 過電流検出電圧(V) 図 0 60 図 応用回路例 YG97256 1.20 500 F 1.15 2SK3683 2SK3683 47 kΩ 440 F 220 F ×2 + 0.1Ω 1.05 680 kΩ 470 kΩ 470 kΩ 10 kΩ ERA91-02 ERA91-02 220Ω 1.00 22Ω 33Ω 430 kΩ 220Ω 22Ω 360 kΩ 0.95 100 kΩ 0.90 0.85 0.80 100 47 kΩ 0.47 F 1.10 400 V 22 kΩ 120 140 160 180 入力電圧(V) 200 220 240 0.47 F VCC COMP OUT MUL GND IS 0.01 F 10 kΩ FB 0.01 F SLOPE FA5550 4,700 pF VCC 18 V 330Ω 100 kΩ + 100 F 443( 65 ) 特 集 るためサブハーモニック発振を抑制する必要があり,ス 富士時報 Vol.80 No.6 2007 図 電流連続モード PFC 回路用電源 IC「FA5550/5551 シリーズ」 入力電圧−入力電流波形 応用回路例 特 集 AC100 V 入力,400 W 出力 図 8 に 応 用 回 路 例( 入 力 90 〜 264 V, 出 力 390 V, 400 W)を, 図 9 に AC 入力電圧 100 V 時の入力電圧−入 力電流波形を示す。 図 入力電圧 (50 V/div) に高調波電流特性を示す。電流 波形が電圧波形と同位相の正弦波となっており,力率がほ とんど 1 に近い値に制御されていることが分かる。また, 電流波形は入力部のフィルタにより平均化されて正弦波と なっていることが分かる。さらに,高調波電流も十分小さ な値となっている。 入力電流 (5 A/div) 4 ms/div あとがき 8 ピン電流連続モードの力率改善 IC の概要について紹 図 介した。力率改善回路のニーズはよりいっそう高まってい 高調波電流特性 高調波電流値(A) くと予想される。今後さらに,入力電圧を監視しない方式 3.5 の力率改善 IC の開発などを行い,市場の要求に応えいく 3.0 所存である。 2.5 参考文献 2.0 黒 田 栄 寿 ほ か. 力 率 改 善 制 御 用 IC. 富 士 時 報.vol.67, ( 1) 1.5 no.2, 1994, p.121-125. 1.0 IEC61000-3-2 クラス D の規格値 0.5 0 3 5 7 9 11 13 次数 444( 66 ) 15 17 19 21 鹿島雅人,城山博伸.CMOS 力率制御用電源 IC.富士時 ( 2) 報.vol.74, no.10, 2001, p.551-553. *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。