FEJ 78 04 294 2005

富士時報
Vol.78 No.4 2005
擬似共振電源制御 IC
特
集
丸山 宏志(まるやま ひろし)
城山 博伸(しろやま ひろのぶ)
打田 高章(うちだ たかあき)
図1 製品の外観
まえがき
DIP-8
近年,地球温暖化問題が注目され,電気製品全般での省
エネルギー化要求,製品別の待機電力規制などが年々厳し
さを増している。
このような状況の中,富士電機では商用交流電源(AC
100 V,240 V)を直流電源に変換する AC-DC コンバータ
用スイッチング電源の制御 IC として,省エネルギーに対
SOP-8
応した製品を開発してきた。中でも起動素子内蔵タイプと
呼ばれる待機電力低減に有効な制御 IC の製品化を推進し
ており,固定周波数動作の PWM(Pulse Width Modulation)制御 IC「FA5516」シリーズなどを開発している。
このタイプの IC は AC100 ∼ 240 V といった高電圧の入力
電圧からスイッチング開始前に起動電流を制御 IC の VCC
図2 FA5531 のチップ
端子に供給し,スイッチング動作を開始してトランスによ
り二次側電圧が立ち上がると起動電流をカットする機能を
持つ高耐圧起動素子を内蔵している。従来は起動抵抗を用
いて IC が動作している間は常時流れていた起動電流を,
必要なときだけ流すように切り換えることが可能になった。
今 回 , 起 動 素 子 内 蔵 タ イ プ の 疑 似 共 振 電 源 制 御 IC
「FA5530」
「FA5531」を開発したのでその概要を紹介する。
製品の概要
2.1 特 徴
FA5530,FA5531 は,擬似共振型の制御方式を採用し
たスイッチング電源用に開発した AC-DC 電源制御 IC で
ある。補助巻線電圧でパワー MOSFET(Metal-OxideSemiconductor Field-Effect Transistor)のドレイン電圧
のチップを示す。IC の特徴は以下のとおりである。
を間接的に監視し,トランスに蓄積したエネルギーを二次
(1) 500 V 耐圧の JFET(Junction Field Effect Transis-
側に供給し終わったあとの共振振動の電圧ボトムでタイミ
tor)を内蔵し,VCC 端子の電圧で VH 端子から充電電
ングを取って次のサイクルのオンを行わせることで,ス
流を供給・停止する。
イッチングロスを低減し,高効率・低ノイズ化を容易にす
電流供給時:7 ∼ 3.5 mA(VCC = 0 V ∼ UVLO オフ)
ることができ,プリンタ用や液晶テレビ用電源などノイズ
図 1 に製品の外観(DIP-8,SOP-8)
, 図 2 に FA5531
294(46)
電流停止時:20 µA
(2 ) 軽負荷時に疑似共振方式ではスイッチング周波数が高
対策が課題となるアプリケーションに適している。
くなるが,その上限スイッチング周波数を制限し,また
丸山 宏志
城山 博伸
打田 高章
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
に従事。現在,富士電機デバイス
に従事。現在,富士電機デバイス
に従事。現在,富士電機デバイス
テクノロジー株式会社半導体事業
テクノロジー株式会社半導体事業
テクノロジー株式会社半導体事業
本部半導体工場情報・電源開発部。
本部半導体工場情報・電源開発部。
本部半導体工場情報・電源開発部。
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擬似共振電源制御 IC
Vol.78 No.4 2005
FB 端子電圧(二次側からのフィードバック電圧)が
る。これを利用してドレイン電圧が極小点まで下がったと
1.3V より低下すると上限周波数をリニアに低下させる
きにタイミングを合わせて次のサイクルのオンを行うこと
ことでスイッチング回数を低減させる。
でトランスを流れる電流がゼロでドレイン電圧も小さいと
上限スイッチング周波数:65 kHz(FA5530)
きにスイッチングさせるため,スイッチングロスやノイズ
特
を低減することができる。
集
130 kHz(FA5531)
最低スイッチング周波数:1 kHz(FA5530,FA5531)
(3) ZCD 端子は補助巻線電圧の立下りを検出する端子で,
しきい値電圧は VHL = 62 mV,VLH = 152 mV のヒステ
図3の ZCD 端子はトランスの補助巻線から抵抗を介し
て接続され,一次巻線に接続されるパワー MOSFET のド
レイン波形とほぼ同じ形状で巻き数比分の1の振幅波形が
リシス付き,また ZCD 入力電圧の上限は 9.2 V(Izcd =
グラウンドレベルを中心にして現れる。この波形がハイ側
3 mA)
,下限は−0.75 V(Izcd =−2 mA)でクランプさ
から下がってグラウンドレベルになるタイミングを検出し
れる。さらに外部から 8 V 以上にプルアップすることで
てオントリガを出し(立下りエッジ信号)
,遅れ時間込み
強制的にラッチ停止させることができる。
で実際のボトムでオンするように調整される。
(4 ) VCC 端子はヒステリシスを持つ UVLO(低電圧誤動
図 4 に負荷状態(出力電力 Po)とパワー MOSFET の
スイッチング周波数(fsw)の関係,また図5に負荷状態に
作防止)回路を内蔵している。
VCC = 9.85 V オン/9.10 V オフ
よる動作波形変化のイメージを示す。重負荷時にはトラン
(5) IS 端子は,外部 MOSFET の電流をモニタする端子
スがエネルギーを放出後,共振状態に入り最初の電圧ボト
で,最大入力レベルは 1 V である。オン時のノイズ誤動
ムで次のオンとなる。このときはオン期間も,二次側にエ
作防止のため 380 ns のブランキング時間を設定してい
ネルギーを伝送するブライバック期間も長くなるためス
る。
イッチング周波数は低い状態である。
,VCC 端子過電圧(ラッチ)
,
(6 ) 過負荷保護(自動復帰)
ソフトスタート(1 ms 内部固定)など各種保護機能を
負荷が軽くなるに従って上記の期間が短くなり周波数が
高くなる。FA5531 ではオンから 7.69 µs(130 kHz)を数
えるタイマ(最大 fsw ブランキング)を内蔵し,この期間
内蔵している。
(7) パッケージは,DIP-8 と SOP-8 の 2 種類で,8 ピン
は立下りエッジ信号を無効とすることで最大スイッチング
に高耐圧起動素子(VH)端子を設定し,7 ピンを未接
図4 出力電力(負荷)とスイッチング周波数の関係
続(NC)端子にして高電圧対策としている。
スイッチング周波数 f sw
2.2 軽負荷時動作
図3に IC 全体のブロック図を示す。
擬似共振制御では,パワー MOSFET のオン期間にトラ
ンスに蓄積したエネルギーをオフ期間に二次側にフライ
バック電圧として伝送し,放出し終わった後,トランスの
L とドレイン容量 C との間で共振を起こし電圧が振動す
図3 FA5531 の回路ブロック図
最大 f sw
(130 kHz)
(1 kHz)
出力電力 P o
VH
ZCD
立下りエッジ
検出回路
内部トリガ
発生タイマ
(5 s)
5V
リセット
50 A
起動電流
制御回路
ワンショット
パルス
発生回路
(380 ns)
図5 負荷状態と動作波形
クリア
VCC
最大周波数
ブランキング
タイマ
+
5 V発生
回路
5 V出力
チェック
回路
5V
内部制御用
電源
−
9.85 V/
9.1 V
電流比較器
S
+
125
kΩ
−
Q
OUT
−
1V
7.69 s
(130 kHz)
最大 低下
f sw
(最小1 kHz,1 ms)
ZCD端子
検出
立下り
エッジ信号
ZCD
ソフトスタート
電圧発生器
(1 ms)
+
過電圧検出2
−
−
+
7.69 s
(130 kHz)
R
−
125
kΩ
8V
スイッチング
停止レベル検出
0.4 V
タイマ
190 ms
1,510 ms
タイマ
ラッチ
(48 s)
VCC
無効
−
+
過負荷検出
28 V
過電圧検出1
無効
OUT端子
スイッチング
パルス
+
リセット
−
3.3 V
最大 f sw
制限
出力
回路
20 kΩ
FB
パワー
MOSFET
V
ds 波形
低電圧保護回路
周波数低減
最大130 kHz
IS
起動電流
供給回路
GND
重負荷
中負荷
軽負荷
295(47)
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を受ける FB 端子電圧が 1.3 V 以下に低下すると,前述の
周波数を 130 kHz 以下に制限する。
さらに軽負荷となり,二次側からのフィードバック信号
最大周波数制限を連続的に低減させて,スイッチング回数
を落としていき,最低周波数は約 1 kHz まで低減させるこ
特
。
とができる(図4)
図6 過負荷時の動作波形
集
2.3 過負荷時の動作
V cc
11.55 V
9.85 V
9.1 V
図6に過負荷時の動作波形を示す。過負荷状態は FB 端
子電圧の 3.3 V 以上で検出し,検出後 190 ms のディレイ
時間後スイッチング停止となる。そのため起動時は問題が
スタート
アップ回路
なければ 190 ms 以内に二次側電圧が正常値に立ち上がり,
FB 端子電圧が下がるように平滑コンデンサ容量などを調
整する必要がある。いったん過負荷停止となるとさらに約
3.3 V
8 倍の 1,510 ms 期間まで停止状態を維持して,その後 IC
FB端子
はリセットされ再起動する。停止期間中は VCC 電圧が
9.85 V まで低下すると起動素子がオンして,VH 端子から
タイマ
動作
の供給で 11.55 V まで持ち上げる動作を繰り返し,1,510
190 ms 190 ms
1,510 ms
ms 後に起動回路が動作しなくなり,VCC 端子が UVLO
停止電圧 9.1 V まで下がった時点でリセットが働く。
190 ms
タイマ出力
1,650 ms
電源回路への応用
スイッ
チング
3.1 評価用電源
この IC を使った場合の電源回路としての特性を確認す
通常負荷
過負荷
通常負荷
。
るため,評価用の電源を製作し特性を確認した(図7)
製作した電源の主な仕様は以下のとおりである。
図7 評価用電源回路
C21
Bead 4,700 pF
D21
2,200 pF
C11
AC80∼
264 V
470 pF
C2
R1
1 MΩ
7 mH D3SBA60
D1
L1
∼ +
T1
+
C4
220 F
C3
R3
56 kΩ
C5
2,200
pF
∼ −
F1
3A
0.22 F 470 pF
D2
ERA38
-06
J1
D3
ERA15-01
R5
10 Ω
R4
7.5 kΩ
D22
+
+
+
YG865C15R
×2
C22 C23 C24
Q1
2SK3687
FG
R7
4.7 kΩ
C29
0.022 F
C6
220
pF
R8
0.22 Ω
R6
100Ω
C9
22 pF
C7
1,000
pF
C8
4,700 pF
7
3
6
N p :N s :N sub:57:10:12
4
5
L p =360 H
R11
100 kΩ
296(48)
C10
33 F
ERA22-10
D5
C28
0.1
F
R27
18 kΩ
C27
10 kΩ 0.01 F
R28
15 kΩ
8
2
6.8 Ω
R14
GND
R26
200 kΩ
R23
10 kΩ
C26 2,200 pF
R25
1
FA5531
+
+
PC1
IC21
LMV431
R12
0Ω
+19 V
0∼5 A
C25
1,000 F
R22
2 kΩ
D4
SC902
-2
100 Ω
R9
PC1
4.7 F
L22
ショート
C1
R2
1 MΩ
3,300 F
×3
L21
T1
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™入力電圧:AC80 ∼ 264 V,50/60 Hz
数の関係としてグラフ化したものを図10に示す。中負荷か
™出力:DC19 V,5 A(95 W)
ら定格負荷の領域では,出力電力が小さくなるに従い,ス
™保護機能:過負荷保護(自動復帰)
,過電流制限,過
電圧保護(ラッチ)
™使用 IC:FA5531(最大周波数:130 kHz)
イッチング周波数が高くなっていることが分かる。一方,
無負荷から中負荷の領域では,100 ∼ 110 kHz をピークと
特
して負荷が軽くなるに従いスイッチング周波数が低下して
集
いく様子が分かる。
3.2 最大周波数制限
定格負荷時のスイッチング波形を図8に示す。定格時の
波形を見ると,共振のボトムでターンオンしていることが
分かる。このときスイッチング周波数は約 40 kHz である。
3.3 無負荷時の入力電力
一般の電気製品に使用される電源回路が,無負荷で動作
する状態は,例えば AC アダプタをコンセントに差し込ん
約 30 %負荷(出力電流 1.6 A)の場合のスイッチング波
だまま,これを利用する機器側を動作させていないような
形を図9に示す。一般に擬似共振方式の場合,負荷が軽く
場合に見られる。この場合,機器側は動作していないので
なるに従ってスイッチング周波数が上昇していくが,この
あるから,無負荷時の入力電力はすべて損失となってしま
IC は上限周波数を制限する機能を有しており,スイッチ
う。省エネルギーの観点から見ると,この無負荷時の入力
ング周波数が上限に達すると,共振のボトムをスキップす
電力を削減することも非常に重要なこととなる。
ることでスイッチング周波数の上昇を抑えることができる。
今回製作した評価用電源で無負荷時の入力電力を測定し
図9では共振のボトムを一つスキップして二つめのボトム
た結果を図11に示す。この評価用電源の無負荷時入力電力
でターンオンしている部分が現れていることが分かる。
は,AC100 V の場合 67 mW,AC240 V の場合 120 mW と
この周波数変化の様子を,出力電流とスイッチング周波
小さく抑えることができた。市場での無負荷時の入力電力
に対する要求は使用されるセットにもよるが,300 mW 以
図8 定格負荷時のスイッチング波形(入力 100 Vac)
下程度を求められるケースが多く,これに対し今回の評価
図10 スイッチング周波数特性
MOSFETドレイン電圧
(100 V/div)
スイッチング周波数(kHz)
120
0
100
80
60
40
100 Vac
240 Vac
20
5 s/div
0
0
1
2
3
4
5
250
300
出力電流(A)
図9 30 %負荷時のスイッチング波形(入力 100 Vac)
図11 無負荷時の入力電力特性
MOSFETドレイン電圧
(100 V/div)
160
入力電力(mW)
140
120
100
80
60
40
20
0
5 s/div
0
50
100
150
200
入力電圧(Vac)
297(49)
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図12 無負荷時のスイッチング波形(入力 100 Vac)
負荷時には,スイッチング周波数を低下させることでス
イッチングロスが削減できる。
もう一つは,IC に内蔵した起動回路の効果である。従
特
MOSFETドレイン電圧
(100 V/div)
集
来の IC の場合,起動回路として抵抗を外付けしていた。
この抵抗では電源が動作を開始した後も,例えば 100 mW
程度の損失が常時発生していた。一方,今回の IC の場合,
内蔵された起動回路により,電源が動作を開始した後は起
動回路での損失をほとんどゼロとすることができる。この
効果により無負荷時の入力電力を削減できる。
あとがき
0
200 s/div
起 動 素 子 内 蔵 の 擬 似 共 振 電 源 制 御 I C 「 FA5530 」
「FA5531」について紹介した。この系列の IC として過負
荷ラッチ停止動作の「FA5532」も現在系列化中である。
今後,起動素子内蔵タイプの制御 IC は待機電力低減要
用電源では余裕を持ってクリアできる値である。
無負荷時の入力電力を小さく抑えることができたのは,
大きく二つの要因が考えられる。
求に対し,部品点数を増加させずに要求を実現していくた
めには必須の機能となることが予想され,さまざまな要望
に対応するためさらなる系列化を進めていく所存である。
一つは,軽負荷時にスイッチング周波数を低下させる機
能の効果が挙げられる。図12にこの評価用電源の無負荷時
のスイッチング波形を示す。この図からスイッチング周波
数が約 1 kHz まで低下していることが分かる。無負荷や軽
298(50)
参考文献
(1) 丸山宏志ほか.起動素子付き低待機電力対応電源 IC.富
士時報.vol.76, no.3, 2003, p.149- 152.
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。