AN-847 アプリケーション・ノート AD5933を使用した接地インピーダンス・プロファイルの測定 著者:Sean Brennan はじめに 本書では、インピーダンス・デジタル・コンバータAD5933を 使って接地センサのインピーダンスを測定するための回路設計 とその詳細について説明します。AD5933は高精度のインピー ダンス・コンバータ・システム(図1 を参照)で、周波数発生 器と1MSPSの12ビットA/Dコンバータ(ADC)を内蔵してい ます。周波数発生器では、既知の周波数で外部の複素インピー ダンスを励起することができます。インピーダンスからの応答 信号は内蔵のADCでサンプリングされ、内蔵のDSPエンジンで 離散フーリエ変換(DFT)が行われます。DFTアルゴリズムは、 各出力周波数で実数(R)と虚数(I)のデータワードを返しま す。掃引時の各周波数ポイントでのインピーダンスの大きさと 相対位相は、次の2つの式を用いて容易に計算できます。 Magnitude = R 2+I 2 (1) Phase=Tan−1 (I/R) (2) (VIN)は、VDD/2の仮想アース電圧をVOUTの出力励起電圧 に供給します。VOUTとVINの間には電位差があるため、オー ムの法則により、信号電流は未知のインピーダンスを通って帰 還ピンに流れます。その電流はトランスインピーダンス・アン プの出力で電圧に変換されます。トランスインピーダンス・ア ンプの出力電圧に基づく信号処理によって、インピーダンスを 正確に計算することができます(詳細はAD5933のデータシー トを参照)。AD5933は、励起信号範囲1∼100kHz、システム精 度0.5%で、インピーダンス値を測定できます(測定範囲100Ω∼ 10MΩ)。 AD5933では、有効な測定を行う前にキャリブレーションを行 う必要があります。この処理を行う場合は、AD5933のデータ シートに記載されているように、測定するインピーダンス(高 精度抵抗など)をVOUTピンとVINピンの間に接続し、スケー リング・ファクタ(ゲイン係数)を計算してその値を後の測定 に利用します。図1に示すように、送信側の出力ピン(VOUT) は、適正なDC バイアスをもつ励起電圧信号出力です。受信側 のトランスインピーダンス・アンプに接続された入力ピン MCLK AVDD 解析対象のインピーダンスを出力(VOUT)とグラウンドの間 に接続しなければならないアプリケーションについては、基本 的な問題があります。測定対象の未知のインピーダンス・セン サがグラウンドに接続されていて、信号リターン・パスが存在 しないアプリケーションの場合は、図1のような回路でAD5933 をインピーダンス・センサの解析に使用することはできませ ん。本書では、グランド接地負荷のインピーダンスを、 AD5933を使用して測定する回路と、その回路に必要な外付け 部品について説明します。また、システム設計者が接地負荷の インピーダンス・プロファイルを測定するために必要な、外付 けの部品についても説明します。さらに、99.9∼100.1kHzの周 波数範囲で20∼60kΩの変動幅のある負荷を測定する際のシス テム(5.0V単電源で動作)の性能についても説明します。 DVDD DDS CORE (27 BITS) OSCILLATOR DAC ROUT SCL SDA I2C INTERFACE VOUT TEMPERATURE SENSOR Z(ω ) AD5933 REAL REGISTER IMAGINARY REGISTER RFB 1024-POINT DFT VIN ADC (12 BITS) GAIN LPF AGND 06091-001 VDD/2 DGND 図1. AD5933 REV. 0 アナログ・デバイセズ株式会社 本 社/ 〒105-6891 東京都港区海岸1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話03(5402)8200 大阪営業所/ 〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原3-5-36 新大阪MTビル2号 電話06(6350)6868 ―1― AN-847 目次 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 改訂履歴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 回路動作の説明. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 回路の駆動. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 出力励起範囲の選択. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 センス抵抗の選択. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 システム・ゲイン係数. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 計装アンプに関する考慮事項. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 AD8220のリファレンス端子の駆動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 AD8220の同相入力電圧範囲の設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 接地インピーダンスの測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 システム・キャリブレーション. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 接地インピーダンスの計算. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 システム・クロックの設定. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 結論. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 改訂履歴 6/06―Revision 0: Initial Version ―2― REV. 0 AN-847 概要 この後のセクションでは、図2に示したAD5933周りの外部回路 について説明します。また、接地インピーダンスの測定のため に新規システムで使用するゲイン係数についても説明します。 最後に、接地インピーダンスを測定する際に使用する回路(図 2)の性能全体について説明します。接地複素インピーダンス は、99.9∼100.1kHzの周波数範囲で20∼60kΩの負荷を測定し ます。周波数掃引の実行手順については、 AD5933 のデータ シートで詳しく説明しています。 図 2 は、接地負荷のインピーダンスを測定するための回路ブ ロック図を示しています。この回路は、3 つの主要ブロックか ら構成されています。 第1のブロックは改良を加えたハイサイド電流センスです。高精 度の単電源、レールtoレール出力のJFET計装アンプ(AD8220) を使って、接地インピーダンスに直列接続されるセンス抵抗を 流れる電流を測定します。 第2のブロックはバイアス回路とリファレンス・バッファです。 このブロックによって、入力センス信号と出力信号がAD8220 アンプの内部アンプとAD5993の受信側のトランスインピーダ ンス・アンプを飽和させないようにします。 第3のブロックはインピーダンス・デジタル・コンバータ AD5933です。 16MHz MCLK AVDD DVDD VDD V BIAS 0V DDS CORE (27 BITS) OSCILLATOR V OUT DAC SCL I 2C INTERFACE SDA V CM 0.1µF TEMPERATURE SENSOR 1MΩ 8 4 SENSE RESISTOR 6 AD8220 AD5933 0.1µF IMAGINARY REGISTER 1MΩ V CM RFB 1024-POINT DFT 100kΩ V IN ADC (12 BITS) GAIN GROUNDED IMPEDANCE 7 3 1 REAL REGISTER AD 820 VDD ROUT VDD 10µF, 0.1µF VDD 2 5 RGAIN VDD/2 0V 100kΩ RSERIES LPF AGND 06091-002 VDD/2 DGND 図2. REV. 0 接地インピーダンス測定回路 ―3― AN-847 回路動作の説明 電圧(REF :ピン6 )を基準)のサイン波出力電圧信号を提供 します。その出力電圧は1 本の直列抵抗に接続され、同値の帰 還抵抗 RFB との連動により、 AD5933 の受信側の電流/電圧 (I/V)アンプの出力で反転ユニティ・ゲインの電圧が生成され ます。 図3 には、前述した回路内の改良型ハイサイド電流センス部分 のみを記載しています。AD5933の出力励起電圧は、接地負荷 に直列接続されているセンス抵抗に加えます。接地負荷を流れ る電流は、RSENSEにかかる差電圧を測定する高精度計装アンプ AD8220によってモニタされます。AD8220のサイン波出力信 号はVDD/2の設定バイアス値に対して対称であり、デジタル信 号処理(DSP)のためにAD5933に接続されます。 次に、 I/V アンプの出力電圧はローパスフィルタで処理され、 最後に1MSPSのADCによってサンプリングされます。ADCの 出力サンプルはウィンドウ化され、内部DSP に提供されます。 次に、DSPはAD5933の出力励起波形と同じ周波数で、同期し た信号ポイントDFTを実行します。DFT出力は複素応答であり、 掃引時の各周波数ポイントで、16ビットの2の補数(実数値お よび虚数値)形式で内部的に格納されます。 VDD V BIAS 0V VDD 10µF, 0.1µF VDD V OUT AD820 VDD V CM 0.1µF 1MΩ 4 6 AD8220 RSENSE 0.1µF 1MΩ V CM 7 3 1 AD5933 式(3 )で与えられる「実数および複素部」の大きさは、各周 波数に対して内部ADCでサンプリングされたピーク信号の測定 値です。ピーク信号をインピーダンスに変換するために、「実 数および複素部」の値にゲイン係数と呼ばれる数値が乗算され、 算出値はすぐそばのプロセッサによって反転処理され、各周波 数のインピーダンス値が求められます。 8 2 5 RGAIN GROUNDED IMPEDANCE RFB 100kΩ AD5933のデータシートに記載されているように、AD5933回 路(図1 )で使用されるゲイン係数はシステム・キャリブレー 100kΩ V IN 0V 図3. 06091-003 RSERIES VDD/2 (3) Magnitude = R 2+I 2 AD8220計装アンプを使用した改良型ハイサイド電流 センス・ブロック 図3のシステム電源(VDD)値は3.2Vですが、AD5933のコン トロール・レジスタのビット D9 とビット D10 を設定して、 AD5933 の出力 AC 励起電圧を 2Vp-p 、 1Vp-p 、 400mVp-p 、 200mVp-p のいずれかに設定することができます(詳細は AD5933のデータシートを参照)。いずれの場合も、出力励起電 圧の DC バイアスは選択した励起電圧の値に基づいて設定され ます。出力AC励起電圧とそれに対応するDCバイアスは、 AD5993の電源電圧(VDD)に比例します。 したがって、システム設計者は4 つの出力電圧オプションから 1つを選んで、接地負荷への励起電圧信号として使用すること ができます。励起電圧は、AD822の同相入力レンジ、接地イン ピーダンスの範囲、およびセンス抵抗の値に応じて選択しま す。 ション時に得られた値です。ゲイン係数を求める場合は、既知 インピーダンスをVINピンとVOUTピンの間に接続し、ユーザ の設定したミッドスイープ周波数でコードの大きさを計算しま す。AD5933システムのゲイン設定は、慎重に考慮する必要が あります。すなわち、ADC入力には最適な信号を提供して、測 定する未知のインピーダンス範囲でADCが飽和しないようにし ます。AD5933を適正にキャリブレートするには、被試験イン ピーダンス範囲を前もって知っておく必要があります。ゲイン 係数は、次の式(4)で与えられます。 1 (4) Impedance Admittance GainFactor = = Code Magnitude 次に、下記事項を仮定したゲイン係数の計算例を示します。 出力励起電圧=2Vp-p キャリブレーション・インピーダンス値, ZCALIBRATION=200kΩ PGAゲイン=×1 I/V変換アンプのゲイン抵抗=200kΩ キャリブレーション周波数=30kHz 図3に示したAD8220計装アンプは、AD5933の出力ピンと接地 インピーダンスの残りの端子との間に接続される、センス抵抗 (RSENSE)を通る電流を測定します。接地負荷を電流が流れると、 このセンス抵抗にかかる電圧が降下します。AD8220はこの電 圧を測定、増幅し、シングルエンド(AD8220のリファレンス ―4― REV. 0 AN-847 特定周波数ポイントでの変換後は、実数と虚数の各データ・レ ジスタに保存される結果は通常以下のようになります。 実数レジスタ:=F064h=−3996(10進数値) 虚数レジスタ:=227Eh=8830(10進数値) 1 16 2 15 3 14 4 13 5 Magnitude = (−39962+(8830)2 =9692.106 1 200 kΩ GainFactor = =515.819E−12 9692.106 AD5933 GND C1 0.1µF, 10µF 12 6 11 7 10 8 9 C1 0.1µF, 10µF VDD = 5.0V C1 1 2 新しいゲイン係数に関しては考慮を要しますが、キャリブレー ション手順は同じです。システムは、測定済の接地負荷とセン ス抵抗(ゲイン係数が計算される)を使って特定の周波数で キャリブレートします。したがって、接地負荷における変更は すべてAD5933出力コードによって測定できます。単一周波数 または特定範囲の周波数におけるインピーダンス・プロファイ ルは、近傍のプロセッサ内で得ることができます。 回路の駆動 図2の回路は5.0V単電源で動作します。AD5933とAD8220は高 いPSRR仕様を提供します。しかし、これらのデバイスは最適 な性能を得るために安定したDC 電圧で駆動する必要がありま す。そうしないと、電源ラインのノイズが回路性能に悪影響を 及ぼすおそれがあります。両デバイスの電源は、標準表面実装 の0.1µFセラミック・コンデンサと10µFの電解タンタル・コン デンサを使ってデカップリングします。回路のアナログ・グラ ウンドとデジタル・グラウンドは1点のみで接続します。 AD5933の3本の電源ピンはすべて互いに接続して、単電源(こ のシステムでは VDD = 5.0V )で駆動することを推奨します。 また、図2にも示すように、AD5933の3本のグラウンド・ピン はすべて互いに接続することを推奨します。AD5933と AD8220は図4に示すように同じ正/負電源で動作するため、シ ステムはレシオメトリックな動作を維持します。 単電源アンプの接地とデカップリングについては、アプリケー ション・ノートAN-202とAN-581を参照してください。 3 7 AD8220 6 C1 4 5 0.1µF, 10µF GND 06091-004 図 2 の回路は図 1 の回路とは異なるため、新しいゲイン係数を 使ってAD5933出力コードをインピーダンスに変換する必要が あります。新しいゲイン係数については、以下のことを考慮す る必要があります。まず、図2 の回路は測定に対して一定の値 が残るセンス抵抗があること、また被試験インピーダンスが AD5933の入力端子(VIN)に直接接続されていないという点 です。新しいゲイン抵抗については、「システム・ゲイン係数」 で詳しく説明します。 0.1µF, 10µF 8 図4. AD5933/AD8220の単電源構成 出力励起範囲の選択 AD5933の送信側のVOUTは、サイン波出力電圧を生成します。 このデバイスは、線形周波数掃引を実行します。周波数掃引は、 ユーザによって事前に設定された3 個のレジスタ(スタート周 波数、周波数インクリメント、インクリメント数)の値によっ て決まります(AD5933のデータシートを参照)。ユーザはコン トロール・レジスタのビットD9とビットD10を設定して、4つ のピークtoピーク(p-p)出力励起電圧からどれか1つを選択す ることができます。3.2Vの電源電圧の場合、AD5933は表1に 示す4つの選択可能なp-p電圧を提供します。表1には、各励起 範囲のDCバイアスも示しています。 表1. VOUT(VDD=3.2V)時のAD5993出力励起範囲 Output Excitation Voltage Amplitude Output DC Bias Level Range 1: 2 V p-p 1. 6 V (VDD/2) Range 2: 1 V p-p 0. 8 V (VDD/4) Range 3: 400 mV p-p 0.320 V (VDD/10) Range 4: 200 mV p-p 0.160 V (VDD/20) AD5933の受信側のVINピンは、VOUTの出力励起電圧に対す る AC 仮想アースです。したがって、入力 VIN は励起信号オプ ション(表1)から選択された信号に対してVDD/2の一定の強 バイアス電圧を提供します。ADCへのリファレンスもほぼ電源 範囲( 0 ∼ VDD )に収まるため、 AD5933 は真のレシオメト リック・システムです。また、電源電圧範囲は2.7∼5.5Vなの で、AC出力励起信号のp-p値と各DCバイアスは、ADCリファ レンスと連動して増大/減少します。そのため、出力コードは 電源変動の影響を受けません。これにより、時間の経過に伴う 電源ドリフト耐性が強化されます。 REV. 0 ―5― AN-847 AC出力励起電圧のp-p値(範囲2の値)は、式(5)に従って電 源電圧(VDD)でスケーリングされます。 Output Excitation Voltage ( p−p)≡ 1.0 ×VDD 3.2 図5 に示す方法で、接地された複素インピーダンスを測定する ための適正なセンス抵抗(RSENSE)を選択する必要があります。 励起範囲として範囲1(VDD/4でバイアスされた1Vp-pのサイ ン波)を選択し、接地インピーダンス範囲を20∼60kΩとする 場合は、AD8220のゲイン抵抗を選択して必要な帯域幅と同相 ノイズ除去比を設定します(「計装アンプに関する考慮事項」 を参照)。AD8220の電圧ゲインを11に設定するためにピン2と ピン3 の間に4.67kΩ の抵抗を接続しますが、これは400kHz の 3dBポイントに対応しています。したがって、AD5933の出力 励起周波数は 99.9 ∼ 100.1kHz 間を掃引し、 AD8220 はほぼ 80dB という適正な同相ノイズ除去比で平坦なミッドバンド・ ゲイン領域において動作します。 (5) 同様に、出力励起電圧のDCバイアス値は式(6)に従って電源 電圧(VDD)でスケーリングされます。 Output Excitation Voltage ( p−p)≡ 8mV ×VDD 3.2 (6) 図2の回路は5.0V電源で動作するように設計されています。し たがって、VDD=5V時の範囲1のp-p電圧は式(7)で与えられ ます。 Output Excitation Voltage ( p−p)≡ 図5の回路はインピーダンス範囲(≒40kΩ)の中間点でキャリ ブレートされ、ピークtoピークのAD8220の出力電圧がこのイ ンピーダンス・ポイントに対して対称的であり、直線的な性質 を示します。これを前提に、図5に示すように、AD8220の電圧 ゲイン11と40kΩのキャリブレーション接地インピーダンスに 対し、1Vp-pのAD8220の出力電圧を生成するようなセンス抵 抗を選択します。回路分析の際には、AD8220で測定されるセ ンス抵抗(RSENSE)の電圧(ΔV)を次式で算出します。 1.0 ×5.0 =1.5625Vp−p 3.2 (7) また、バイアス電圧は式(8)で与えられます。 Output Excitation Voltage ( p−p)≡ 80 mV ×5.0V =1.25V (8) 3.2 ΔV= センス抵抗の選択 回路のAD5933の出力励起範囲を指定したら、次に適正なセン ス抵抗(RSENSE)を選択します。これによって、AD8220は接 地インピーダンス(20∼60kΩ)の範囲を正確に測定すること ができます。センス抵抗で発生する電圧は、AD8220の内部電 圧ゲイン(AD8220のピン2とピン3の間にある抵抗の値により 設定)で乗算され、ピーク to ピークの AC 出力電圧が設定され ます。システム設計者はAD8220の電圧ゲインに基づいて適正 なRSENSE値を選択できます。 1.5265V VDD 10µF, 0.1µF 1.25V VDD 0V AD820 V OUT 8 4 RSENSE 3 1 7 =90 mV p−p (9) DC= AC= 39.9kΩ ×1.25V≡1.1715V 39.9kΩ +2.67 kΩ 39.9kΩ 39.9kΩ +39.9kΩ ×1.25 V p−p≡1.4246V p−p (10) (11) AD8220の入力における全同相入力電圧は、DC1.17Vレベルで バイアスされる1.42Vp-pのサイン波です。 したがって、 AD8220 の出力に発生する電圧は( 1.52V − 1.42V)×11=1.049Vp-pとなります。これは所望の1Vp-p出 力にきわめて近い値です。出力のAC信号は(1.25V− 1.1715V)×11=863mVのDC電圧でバイアスされます。 863mVの出力DCバイアスはVDD/2にレベル・シフトする必要 があり、バッファ電圧を AD8220 のピン 5 ( V R E F )に加えて AD5933インピーダンスの内部飽和を防止します(「計装アンプ 1V 6 AD8220 11 キャリブレーション接地インピーダンスの値(40kΩ 、測定値 は 39.9kΩ )がわかれば、単純な抵抗分圧器の分析により、 2.67kΩのRSENSE値がRSENSEにかかる90mVp-p信号を生成する条 件を満たし、したがって1Vp-p信号を生成することがわかりま す。AD8220の同相入力は、AD5933 AC励起信号(1.42V)の DCバイアス(1.17V)によって発生するAC信号とDC信号の両 方を含んでおり、式( 10 )と式( 11 )に示される抵抗分圧に よって与えられます。 この段階では、まず、AD8220のゲイン抵抗(これでシステム 帯域幅が決まる)を選択します。次に、センス抵抗( R SENSE ) を選択します。 R SENSE は、直線的で対称な( VDD/2 のバイア ス・ポイントに対して)未知のインピーダンス範囲全体にわ たって適正なAD8220の出力電圧を提供し、AD8220の内部回 路の飽和を防止します。これらの手順を実行したら、AD8220 の出力信号をさらに増幅することができます。この場合は、 AD5933内部のADCのダイナミックレンジが使用されるように RFB/RSERIESとPGA設定の適正な組合わせを選択する必要があ ります。 VDD 1Vp−p に関する考慮事項」を参照)。 VDD/2 0V 2 REQUIRED OUTPUT SIGNAL 5 RGAIN 06091-005 GROUNDED IMPEDANCE = 40kΩ 図5. 接地インピーダンスを測定するためのセンス抵抗 (RSENSE)の選択 ―6― REV. 0 AN-847 システム・ゲイン係数 計装アンプに関する考慮事項 「回路動作の説明」に示したように、図2の回路のゲイン係数は 図1(データシートを参照)に示したAD5933のスタンドアロン 構成の係数とは異なります。新しいゲイン係数を求めるには、 図2のAD5933の出力コードを調べる必要があります。その出力 コードは内部ADCの入力に加えられる電圧(システム全体に与 えられる電圧ゲイン)に比例し、式(12)で与えられます。 Output Code∝ I×ΔV×In-Amp Gain× RFB ×PGA RSERIES AD8220の電圧ゲインは、RGAIN端子間に抵抗を接続することで、 すなわち正確にはピン1とピン8間に現れるインピーダンスで決 まります。AD8220は、許容誤差0.1∼1%の抵抗を使って正確 なゲインを提供します。表2は、各ゲインに対して必要なRGAIN の値を示しています。G=1の場合、RGAINは未接続となります (RGAIN=∞)。ある任意のゲインに対して、RGAINは式(15)を 使って計算できます。 (12) RGAIN =49.4kΩ/(G−1) ここで、 Iは、AD5933の出力ピン(VOUT)から接地負荷へと流れる電 流です。 ΔVは、AD8220側のRSENSEにかかる差動電圧です。 PGAは、AD5933内蔵のプログラマブル・ゲイン・アンプのゲ イン設定です。 RFB/RSERIESは、AD8220の出力負荷抵抗とAD5933の帰還抵抗 の比です。 (15) 表2. AD8220のゲイン設定抵抗の値 1% Standard Value of RGAIN Calculated Gain 49.9 kΩ 1.990 12.4 kΩ 4.984 4.7 kΩ 1 10.51 2.61 kΩ 19.93 AD5933出力コードは、次のように表すことができます。 1.0 kΩ 50.40 Output Code∝ 499 Ω 100.0 249 Ω 199.4 100 Ω 495.0 49.9 Ω 991.0 VOUT× 1 (Z+RSENSE) ( ) × V+−V− ×11× 100kΩ ×1 100kΩ (13) 図2 のシステムが未知の被試験インピーダンス範囲でキャリブ レートされる場合、抵抗比RFB/RSERIES、PGA設定、AD8220の ゲイン設定は一定です。 1 AD8220では、ゲイン抵抗を使用しないときのゲインはデフォ ルトでG=1となります(RGAIN=∞)。AD8220のゲイン精度は、 R GAIN の絶対許容誤差によって決まります。外付けのゲイン抵 抗の温度係数により、AD8220の出力のゲイン・ドリフトは大 きくなります 回路内で使用されるゲイン係数は、式(14)で与えられます。 GainFactor = 1 Z+RSENSE 図2の回路で選択された抵抗 (14) R 2+I 2 70 60 ここで、 RおよびIは、キャリブレーション周波数でAD5933によって返 される実数成分と虚数成分です。 GAIN = +1000 50 40 GAIN = +100 30 1 −RSENSE GainFactor×Code GAIN = +10 10 0 GAIN = +1 –10 –20 (15) –30 –40 100 ここで、 1k 10k 100k 1M 10M FREQUENCY (Hz) コードは、後の掃引周波数ごとに式(1 )で与えられる格納済 みの実数成分と虚数成分の大きさを示しています。 図6. AD8220ゲインの周波数特性 この実験条件は、接地した複素インピーダンスを99.9∼ 100.1kHzで測定しています。図6に示した出力信号の帯域幅は、 AD8220のゲインで決まります。このゲインは、4.7kΩのRGAIN 値を使って、およそ×11 (すなわち、およそ20dB )に設定さ れているため、AD8220の適正な周波数範囲内での動作が可能 となります。図 7 は、 AD8220 の CMRR がこの領域でおよそ 75dBであることを示しています。 RSENSEは、未知の被試験インピーダンス範囲に対して選択され たセンス抵抗です。 REV. 0 20 06091-006 Z ( f )= GAIN (dB) この新しいアーキテクチャの測定対象のインピーダンスは、セ ンス抵抗を考慮する必要があります。この抵抗は接地負荷に直 列接続されており(R SERIES は測定全体を通して一定)、各周波 数で真の接地インピーダンスを測定するには、その抵抗を取り 除く必要があります。これは式(15)で与えられます。 ―7― AN-847 AD8220のリファレンス端子の駆動 160 GAIN = +10 BANDWIDTH LIMITED 100 GAIN = +1 80 06091-007 60 40 10 100 1k 100k 10k FREQUENCY (Hz) 図7. AD8220のCMRRの周波数特性 他のすべての計装アンプの場合と同様、AD8220が低い単電源 電圧で使用されると、アンプ・ゲインが高いために計装回路が 正しく動作しないおそれがあります。図8 はこのポイントを示 しています。これが発生するのは通常、計装アンプが高ゲイン ( 1000 など)で動作しているときです。このような環境では、 10mV×ゲイン1000により、A1の出力とA2の出力間に10Vp-p 信号が作成されます。±15Vの両電源を使用しているときには、 この状況は成立します。しかし、図2の回路の場合は5V単電源 しか使用できないため、回路は正常に機能しません。モノリ シックICのユーザは、AD8220のバッファ出力A1、A2にアク セスできないため、最終出力のA3で発生する事象しか確認でき ません。 IN-AMP SUBTRACTOR V IN– A1 V IN+ A2 RREF1 EXTERNAL VOLTAGE DIVIDER RREF2 5V + CMV 1 20kΩ V OUT A3 R2 20kΩ R1 EXTERNAL REFERENCE VOLTAGE 06091-009 GAIN = +100 120 CMRR (dB) AD8220は電圧リファレンス端子上の電位によってゼロ出力電 圧が規定されますが、これは負荷とシステムの他の構成要素間 でグラウンドをまったく共有しない場合に特に有用です。電圧 リファレンス端子は、出力に正確なオフセットを与える直接的 な手段として有効です。また、この端子は仮想グラウンド電圧 を提供するため、バイポーラ信号が増幅されるときにも役立ち ます。リファレンス端子上の電圧は、グラウンドから+VSまで の変動幅があります。通常、高インピーダンス源でAD8220計 装アンプのリファレンス・ピンを駆動しようとする試みは問題 が発生するため、これは避ける必要があります。一般に出回っ ている多くの計装アンプの場合、リファレンス入力のインピー ダンス値は通常20∼125kΩです。オペアンプなどの低インピー ダンス源からリファレンスを直接駆動した場合は問題ありませ んが、抵抗分圧器を低価格のレシオメトリック・リファレンス として用いようとすると、重大なエラーが発生する場合がよく あります。 GAIN = +1000 140 A1 図9. 24.7kΩ SIGNAL VOLTAGE 10mV p-p NOINVERTING INPUT COMMON-MODE ERROR VOLTAGE 50Ω A3 AD8220のリファレンス入力は、通常の3オペアンプで構成され V OUT る計装アンプ内の出力減算回路の一部となっています。した がって、これは一般的にRREF1+RREF2にほぼ等しい有限な入力 抵抗を備えています。図9 のように、リファレンス端子と共通 グラウンドの間に外付けの抵抗 R2 を加えると、出力( A 3 )減 算回路が不安定になって同相誤差が発生します。この問題を最 小限に抑える確実な方法は、R2の値をRREF1+RREF2の約0.1%に 減らすことです( CMR 72dB の場合)。しかし、 R REF1 および RREF2が20kΩ(合計の入力インピーダンスが40,000)のとき、 R2は40Ωでなければなりません。この値は、電圧分圧回路で多 量の電源電流を消費してしまいます。さらに、 R R E F 1 および RREF2のR2による分流が、リファレンス電圧エラーの原因とな ります。これを解決するために、 AD820 のような単純なバッ ファを使用し、それを5V電源で動作するポテンショメータで駆 動します(図10を参照)。 24.7kΩ A2 20kΩ 20kΩ IS 5mV × 1000 = 5V + THE COMMON-MODE VOLTAGE. 06091-008 –5V + CMV 1WITH 10mV p-p INPUT SIGNAL APPLIED, OUTPUT FROM A1 AND A2 バッファまたはリファレンスADR42Xを使用 図8. AD8220内部の簡略ブロック図 アプリケーションの一般的な問題は、低い電源電圧での標準の 非レールtoレール・デバイスの動作によって発生するものもあ ります。AD8220などの高品質レールtoレール計装アンプ(ゲ イン=1)は、その出力を正電源ラインの0.15V以内に、またグ ラウンドより0.2Vまでスイングさせることができます。入力電 圧範囲は、正電源の2V以内でのみスイングが可能です。ゲイン が高くなると、アンプの出力スイングは電源電圧にまで到達し ません。したがって、5V単電源を使用するときのアンプの出力 スイングは約3Vとなります。残念なことに、こういったアプリ ケーションでは、システム設計者がアンプのヘッドルームを忘 れてしまって、標準の非レールtoレール製品を使用する場合が あります。優れた両電源計装アンプの場合でも、出力スイング は各電源レールの約2V以内のみが可能です。 REFERENCE INPUT RREF OP AMP BUFFER AD820 IN-AMP 図10. ―8― V DD OR EXTERNAL REFERENCE VOLTAGE EXTERNAL VOLTAGE DIVIDER R1 R2 06091-010 INVERTING INPUT リファレンス入力のバッファ REV. 0 AN-847 AD8220の同相入力電圧範囲の設定 VS AD8220 の同相電圧範囲には制限があり、さらにこのアプリ ケーションではAD8220への同相入力信号が接地インピーダン C1 –IN スの値に応じて変化するため、この場合は計装アンプ回路の入 力をACカップリングする必要があります。この実験では AD8220が5V電源で駆動されるため、ACカップリングがさら に複雑なものとなり、 DC 同相電圧 V CM を両方の入力に印加し なければなりません(図12)。このステップが必要なのは、計 装アンプの出力が負電源電圧(この場合はグラウンド)を越え てスイングできないためです(図11を参照)。ここで、計装ア ンプの出力電圧が数ミリボルト以上負側にスイングしようとす ると、その信号はクリップされます。 R1 図12. +4.9V, +1.7V 1 0 –0.3V +4.9V, –0.5V –1 図11. 0 1 2 3 4 REQUIRED OUTPUT VOLTAGE (V) 5 6 06091-0 11 INPUT COMMON-MODE VOLTAGE (V) 2 +0.1V, –0.5V 同相入力電圧 対 AD8220の必要な出力電圧 個々の計装アンプの入力端子にコンデンサを直列に接続するの は、よく見られる誤りです。前にも触れましたが、モノリシッ ク計装アンプは全機能内蔵型のパッケージなので、システム設 計者がチップの中身を理解していないことがよくあります。こ れらのフローティング入力に接続されているAD8220などの計 装アンプは、 DC リファレンスを備えていません。入力バイア ス電流は、入力同相電圧を超過するまで AC カップリング・コ ンデンサを充電します。言い換えると、入力バイアス電流の方 向に応じて、コンデンサは電源ラインまで充電されるか、また はグラウンド電位まで落ちます。FET入力デバイスと高値コン デンサを使用している場合は、計装アンプが動作しなくなるま でに数分の時間を要します。したがって、不定期のラボ・テス トでは検出できないこともあるため、このような接続は絶対に 避けてください。 REV. 0 AD8220の入力のACカップリング 次に、低電源アプリケーションの場合は特にそうですが、VCM とVREFに対して適正な電圧を選択することが重要です。一般に は、VCMを想定している入力ダイナミックレンジの中心に設定 し、VREFを想定している出力ダイナミックレンジの中心に設定 します。出力のセンタリングの場合も同様で、計装アンプのス イングの量と方向を評価し(ほとんどの場合はΔV×AD8220の ゲイン+VCM)、そのレンジの中心に位置するVREFでリファレン ス電圧を印加します。ここで、インピーダンス範囲の上下限値 における電圧スイングをみてみましょう。図2の回路の場合は、 バイアス電圧(VCM)が、図11に示した入力同相電圧の上限∼ 下限のほぼ中ほどの1.37Vに設定されます。AD8220のピン5に 入力されるリファレンスは、5V 電源電圧の場合2.5V となりま す。 AC カップリング回路用の直流リターン抵抗値を選択する 場合は、入力結合コンデンサの物理的/電気的サイズとオフ セット・エラー間のトレードオフとなります。入力抵抗の値を 大きくすると、必要となる入力結合コンデンサは小さくなりま す。このようにすることで、コストとPCボードのスペースの両 方を節約できます。しかし、大きな値の入力抵抗を用いると、 入力オフセット電流によってオフセット電圧エラーが増大し、 オフセット電圧ドリフトや抵抗ノイズも増大します。一方、抵 抗値を小さくすると、同じ−3dBコーナー周波数を提供するの に、大きな値の入力コンデンサC1 、C2 が必要になります。こ れは式(16)で表すことができます。 +3V –1 REFERENCE INPUT V REF (TYPICALLY, V S/2) +5V SINGLE SUPPLY, V REF = +2.5V +0.1V, +1.7V R2 06091-012 C2 V OUT +IN 4 3 IN-AMP V CM F−3dB=(1/(2πR1C1)) ここでR1=R2、C1=C2です。 ―9― (16) AN-847 接地インピーダンスの測定 図2 の回路は、接地された複素インピーダンスの測定に使用し ます。電圧励起信号用として使用される、AD5933の送信側は、 センス抵抗と接地インピーダンスを駆動します。「はじめに」 でも説明したように、集積回路のインピーダンス・コンバータ AD5933は、DDS周波数発生器とADCを組み合わせて自立型の インピーダンス測定システムを形成しています。AD5933は周 波数掃引を行いますが、これは一般にユーザ定義の周波数ポイ ントでインピーダンスの大きさと位相データを収集するためで す。図2 では、分析対象のインピーダンスがセンス抵抗とグラ ウンドの間に配置されています。AD8220は、センス抵抗に流 れる電流を測定するために使用されます。AD8220の出力信号 はプログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)に入力され、フィ ルタ処理されて、 12 ビットの ADC に供給されます。受信信号 は ADC でデジタル化され、デジタル・データは DFT 処理にか けられます。 2 近傍のマイクロコントローラは、 I C インターフェースを介し てAD5933とやり取りします。ユーザは、AD5933の掃引パラ メータ(スタート周波数、周波数ステップ・サイズ、ポイント 数)のプログラミング、コントロール・レジスタの設定、励起 アンプ/PGA設定の調整を行うことができ、最終的なインピー ダンス計算のためにAD5933から測定済みのデータを読み出す ことができます。AD5933を正しくプログラムしたら、ユーザ 定義掃引のポイントごとにステータス・レジスタの1 ビットの みをポーリングして、AD5933から有効なデータを読み取れる か確認する必要があります(詳細はAD5933のデータシートを 参照)。 システム・キャリブレーション インピーダンスの測定を行う前に、図2に示したAD5933システ ムをキャリブレートする必要があります。キャリブレーション 処理では、測定する後続の未知のインピーダンスの代わりに既 知のプレシジョン・インピーダンスを使用し、次の測定のため にスケーリング・ファクタ(ゲイン係数)を計算する必要があ ります。「システム・ゲイン係数」で説明したように、この回 路のゲイン係数は式(17)で与えられます。 1 GainFactor = ZCALIBRATION+RSENSE R 2+I 2 ここで、 RおよびIは、選択したキャリブレーション周波数ポイントにお ける実数レジスタと虚数レジスタの値(94h∼97h)です。 ZCALIBRATIONは既知のキャリブレーション・インピーダンスです。 RSENSEは選択したセンス抵抗です。 ゲイン係数を計算する場合は、既知のプレシジョン・インピー ダンスとセンス抵抗値の合計を、掃引の適正な中間周波数で返 された実数および虚数データの大きさで割ります。実数成分と 虚数成分は両方とも、2個の16ビット・レジスタに格納されま す。これらのレジスタは、1つのADC変換が終了してから掃引 の次の周波数ポイントまでに読み取る必要があります。この処 理が終了するたびに、2 つのレジスタは新しいデータに更新さ れます。 接地された複素インピーダンスの範囲は20 ∼60k Ωです。した がって、キャリブレーション・インピーダンスは、値がおよそ 0kΩとなるように選択され、センス抵抗は2.67kΩです。 接地インピーダンスの計算 キャリブレーション処理がいったん終了すると、キャリブレー ション・インピーダンスは未知の複素インピーダンスに置き換 えられます。コントロール・レジスタにスタート周波数掃引コ マンドが発行されると、AD5933はユーザ定義の周波数掃引を 自動的に実行します。周波数掃引は、3 個のレジスタ(スター ト周波数、周波数ステップ、インクリメント数)の値で計算さ れます。マイクロプロセッサはAD5933とやり取りして、各周 波数ポイントで接地インピーダンスを計算します。すなわち、 周波数ごとにAD5933から返される複素コードの大きさとゲイ ン係数を掛けて、算出結果を反転します。最終的な計算ではセ ンス抵抗が差し引かれます。各周波数ポイントのインピーダン スは式(18)で与えられます。 Z Complex Impedance= 1 GainFactor× (R 2+I 2) −RSENSE (18) ここで、RおよびIは、各周波数掃引・ポイントにおける実数レ ジスタと虚数レジスタの値(94h∼97h)です。 (17) ― 10 ― REV. 0 AN-847 システム・クロックの設定 MCLK(ピン8)に提供されるクロックの周波数は、安定した 低ジッタの水晶発振器を使って 16MHz に設定します。このた め、AD5933は99.9∼100.1kHzの励起周波数を解析することが できます。表 3 は、テストで使用された設定済みの掃引パラ メータ(スタート周波数、周波数インクリメント、インクリメ ント数)を示しています。周波数範囲は99.9∼100.1kHzです。 周波数ステップ・サイズは1Hzに設定され、掃引ポイント数は 200に設定されています。実験全体をとおし、セトリング・タ イム・サイクル数レジスタの値は15出力サイクルに設定されて います。図2の回路は、100kHzの周波数でキャリブレートされ ています。 AD5933のデータシートのレジスタ・マップに示すように、ス タート周波数の24ビットワードは、内蔵RAMのアドレス82h、 アドレス83h、アドレス84hに書き込まれます。スタート周波数 レジスタにロードされる必要なコードは、マスター・クロック 周波数とDDSからの必要なスタート周波数出力に基づいて、式 (19)から算出されます。 Start Frequency Code= Required Output Start Frequency MCLK 4 16MHz MCLK 4 ×227 たとえば、掃引の分解能を 1Hz とし、 MCLK に 16MHz のク ロック信号が接続されている場合、設定するコードは式(22) で与えられます。 1Hz ≡000021hexidecimal 16MHz 4 (22) ×227≡332617 hexidecimal 4 (20) 33h をレジスタ82h に、26h をレジスタ83h に、17h をレジスタ 84hにそれぞれ設定します。 表3. Required Frequency Increment (21) ×227 たとえば、掃引を99.9kHzから開始し(表3の最初の列) 、MCLK に 16MHz のクロック信号が接続されている場合、設定する コードは式(20)で与えられます。 99.9 kHz Frequency Increment Code= Frequency Increment Code= (19) Start Frequency Code= 同じく、周波数インクリメント・レジスタの24ビット・ワード は、内蔵RAM のアドレス85h 、アドレス86h 、アドレス87h に 書き込まれます(AD5933のデータシートのレジスタ・マップ を参照)。周波数インクリメント・レジスタにロードされる必 要なコードも、マスター・クロック周波数とDDSからの必要な インクリメント周波数出力に基づいて、式(21)から算出され ます。 レジスタ85hに00h、レジスタ86hに00h、レジスタ87hに21hを それぞれ設定します。 周波数掃引を定義する第3 のパラメータは、インクリメント・ レジスタ数です。この9 ビットワードは、掃引中の周波数ポイ ント数を表します。この数値は、内蔵RAMのアドレス88h、ア ドレス89hに書き込まれます。設定できるポイントの最大数は 511です。たとえば、掃引に200ポイントが必要な場合は、レジ スタ88hに00h、レジスタ89hにC8hをそれぞれ設定します。表3 は、クロック周波数が 16MHz の場合の必要な掃引コードをま とめたものです。セトリング時間サイクル・レジスタは、レジ スタ8Bhに0Fhをプログラムすることで、値15に設定できます。 周波数範囲が99.9∼100.1kHzの場合のAD5933の必要な掃引コード Programmed Required Start Start Frequency Frequency Code Programmed Frequency Increment Required Frequency Increment Code Programmed No. Required No. of of Increments Increments Code Clock Frequency Applied to MCLK Pin 99.9 kHz 1 Hz 000021 hex 200 16 MHz REV. 0 332617 hex ― 11 ― 00C8 hex AN-847 図2のシステムは、35Ωのインピーダンスと2.67kΩのセンス抵 抗(20kΩと60kΩの中ほどの値)でキャリブレートされており、 またゲイン係数は表3 の掃引ダイアルアップ・コードを使って 100kHzのキャリブレーション周波数(掃引内の中央値)で計 算されています。計算されたキャリブレーション・ゲイン係数 は、近くのマイクロコントローラ内のメモリに格納されていま す。キャリブレーション・インピーダンスは、特定範囲の複素 接地インピーダンス(20∼60kΩの範囲で変動)によって置き 換えられています。周波数掃引は AD5933 によって実行され、 測定されるインピーダンスは周波数ポイントごとに計算されま す。この場合、式(23)と式(24)に示すように、格納されて いるゲイン係数とコードが乗算されて、応答は反転されます。 1 ZCALIBRATION+RSENSE GainFactor = (23) R 2+I 2 Z Complex Impedance= 1 GainFactor× (R 2+I 2) −RSENSE (24) 図13は、キャリブレーション周波数が100kHzの場合に、イン ピーダンス誤差(%)が 35kΩ のキャリブレーション・イン ピーダンスでゼロになり、それ以降は増大することを示してい ます。この測定結果を見ると、1 ポイントのキャリブレーショ ンを行った結果、インピーダンス誤差が60kΩの範囲全体で7% 未満となっています。インピーダンス範囲を小さくしてキャリ ブレーションを行えば、この誤差を低減できます。 結論 従来の高価なマルチチップ・ベースのソリューションに比べる と、AD5933は接地インピーダンスの測定に対して、より正確 で安価なソリューションを提供できます。近傍の接地センサの 単純なテスト回路を組み込む場合は、このAD5933とわずかな 外付け部品で済むため、必要なボードスペースを最小限に抑え ることができます。接地センサのインピーダンス・プロファイ ルは、システム・パワーアップ時に最低限の処理で評価するこ とができ、センサ・インピーダンス・プロファイルの特性評価、 エージングや損傷の影響の確認、変化の特定などを簡単に行う ことができます。 図13は、100kHzのキャリブレーション周波数における接地イ ンピーダンスとインピーダンス誤差(%)の関係を示していま す。 18 FREQUENCY = 100kHz IMPEDANCE ERROR (%) 16 14 12 10 8 6 4 CALIBRATION IMPEDANCE = 35kΩ 0 60 55 50 45 40 35 30 25 20 IMPEDANCE (k Ω) 図13. 06091-013 2 AD5933による100kHz時の接地インピーダンス 測定結果 アナログ・デバイセズ社またはその二次ライセンスを受けた関連会社からライセンスの対象となるI2Cコンポーネントを購入した場合、購入者にはこれらのコンポーネントをI2Cシ ステムで使用するフィリップス社のI2Cの特許権に基づくライセンスが許諾されます。ただし、フィリップス社が規定するI2C規格仕様に準拠したシステムが必要です。 © 2006 Analog Devices, Inc. All rights reserved. 商標および登録商標は各社の所有に属します。 ― 12 ― REV. 0 AN06091-0-6/06(0)-J 結果