3相ブリッジダイオードおよび突入電流抑制用サイリスタ組込 PGHシリーズ パワーモジュール PGHシリーズは3相ダイオードブリッジと突入電 流抑制用 サ イリスタとを 組み込 んだ パワーモ ジュールです。これらのモジュールは3相イン バータなどの整流回路に数多く使用していただ いています。ここでは、3相整流回路、ゲート回路、 ヒートシンクの選定など、PGHシリーズの応用に 関する情報を提供します。あわせて、今ではなじ みのない人が多くなってしまったサイリスタの基 本情報を解説します。 E-36 E-15 34mm 41.5mm 75mm 97.5mm E-43 62mm 108mm PGHシリーズ内部構成 PGHシリーズ PGHシリーズ一覧 Part Number IT(AV), IF(AV) (A) VDRM ,VRRM (V) Case Outline PGH308 30 800 E-15 PGH3016AM 30 1600 E-36 PGH508AM 50 800 E-36 PGH5016AM 50 1600 E-36 PGH758AM 75 800 E-36 PGH7516AM 75 1600 E-36 PGH1008AM 100 800 E-36 PGH10016AM 100 1600 E-36 PGH1508AM 150 800 E-43 PGH15016AM 150 1600 E-43 PGH2008AM 200 800 E-43 PGH20016AM 200 1600 E-43 日本インター株式会社 1 S. Hashizume Oct., 2007 Rev.1.0 Id AVG 整流回路 IdAVG IdAVG e RMS e RMS e RMS eRMS e RMS Id AVG e RMS e RMS 出力電圧波形 抵抗負荷時 ( ( ) 誘導負荷時 各ダイオード 各ダイオード 平均電流 IdAVG 0.5 IdAVG 0.5 IdAVG 0.333 IdAVG 実効電流 1.57 IdAVG 0.785 IdAVG 0.785 IdAVG 0.579 IdAVG ピーク電流 3.14 IdAVG 1.57 IdAVG 1.57 IdAVG 1.05 IdAVG 平均電流 0.5 IdAVG 0.5 IdAVG 0.333 IdAVG 実効電流 0.707 IdAVG 0.707 IdAVG 0.578 IdAVG ピーク電流 IdAVG IdAVG IdAVG ) ダイオード ピーク逆電圧 1.41 eRMS 2.82 eRMS 1.41 eRMS 2.45 eRMS DC出力電圧 ピーク/平均 3.14 1.57 1.57 1.05 2 AC入力電圧 線間電圧/相電圧 2.22 AC入力電圧 実効値/平均値 1.73 1.11 1.11 0.428 表1、整流回路定数 ダイオード電流 200V RMS 200V RMS 28.2Ω 200V RMS ダイオード電圧 490V 3相全波整流回路でのダイオード電流と電圧の例 日本インター株式会社 3 ●サイリスタ 1, サイリスタとは サイリスタはスイッチ機能のあるダイオードと見 なせます。 入力AC200V系用 耐圧800V 入力AC400V系用 耐圧1600V の品種をラインアップしています。AC電源とダイ オードブリッジ間には、必ず適切なラインフィルタ を入れてください。外部からノイズの影響を受け にくく、かつ、機器内部から外部へ漏れ出すノイ ズを減衰させます。また、外来サージにより半導 体にかかる電圧(電流)ストレスを軽減します。 アノード カソード ゲート サイリスタ サイリスタはバイポーラトランジスタ同様に電流 でドライブします。バイポーラトランジスタはベー スに電流を流すと、このhFE倍のコレクタ電流が流 れます。サイリスタではゲートに規定値以上の電 流(ゲートトリガ電流)を流すとオンとなります。下 図にこの関係を図示しました。バイポーラトランジ スタではベース電流を流した期間だけコレクタ電 流が流れますが、サイリスタではゲート電流を 切っても、アノード電流は流れ続けます。したがっ てサイリスタではオンさせる期間中必ずしもゲー TDK製 3相電源ラインフィルタとその内部構成 i サイリスタ (SCR) i アノード E vT E v ゲート iG カソード iG iC バイポーラトランジスタ (NPN) コレクタ iC E ベース E vCE(sat) vCE iB iB エミッタ 日本インター株式会社 4 ト電流を流し続ける必要はありません。現在では スイッチングデバイスとしては、電圧でドライブす るMOSFETやIGBTが主流ですが、サイリスタは 電流でオンさせるデバイスです。これはゲート回 路を設計する上で重要です。 IT e e ゲートトリガ電流 ゲート 電流 IT サイリスタはゲートに電流を流しオンさせる サイリスタはオンしてもアノード電流が 保持電流以下になるとオフしてしまう。 2, サイリスタのスイッチとしての性質 — 保持電 流とラッチング電流 2, 1 保持電流 サイリスタは一度オンすると、アノード電流があ る電流より大きければオン状態を維持します。言 い換えれば、ある電流より小さくなればオフしてし まいます。この電流が保持電流で、PGH308 (30A 800V)では70mA(25℃での代表値)です。 まいます。ゲート電流が切れてもオンを維持でき る最小のアノード電流がラッチング電流です。 PGH308 (30A 800V)のラッチング電流は90mA パルスゲート電流 アノード電流が減少 時間 オフする アノード電流 保持電流 ラッチング電流 時間 オン オフ 立ち上がり緩いとサ イリスタはオフしてし まう 時間 保持電流 ラッチング電流 それでは実際の回路で保持電流の影響を見 てみましょう。ここでパルストリガゲート電流を1回 だけ流します。サイリスタはオンしますが、抵抗負 荷でアノード・カソード電圧がゼロになると、ア ノード電流もゼロ、すなわち保持電流以下になり ます。再度、サイリスタのアノードにプラス電圧が かかっても、ゲート電流を適切に流さない限り、サ イリスタはオンしません。 (25℃での代表値)です。 ラッチング電流に関係して、サイリスタがオンし ない(オン状態を維持できない)ことがあれば、 ゲートパルスの幅を増やすか、多重パルスにして ください。 なお、保持電流、ラッチング電流とも温度依存 性があり、低温になるほど、その値は増加します。 (-40℃では25℃の2倍程度が目安です) 2, 2. ラッチング電流 電流の立ち上がりが緩く、ある程度のアノード 電流まで立ち上がっていない時に、ゲート電流 が切れると、一度オンしたサイリスタはオフしてし 日本インター株式会社 5 トリガゲート電流倍率 3、 ゲートドライブ 3.1 確実にオンさせるために 3.1.1 ゲート特性の温度依存性 PGH308のデータシートにはゲート特性として 次のようなグラフがあります。 ×2 ×1 0 2µs 5µs 10µs 20µs 50µs パルス幅 パルストリガゲート電流(代表特性) 300mA程度を流さなければいけないことになりま す。このように、パルスゲート電流でオンさせる場 合は、温度とパルス幅から、いくら流したらいいか を求めてください。 3.2 ゲートの電流、電圧、電力定格 定格とは、これを超えるとデバイスが著しい信頼 性が低下する、あるいは破壊する恐れがある限 度です。ゲート定格は次のグラフのように、ピーク 電流、電圧、電力(ゲート電流とゲート・カソード間 電圧との積)が規定されています。さらにゲート電 力の平均値にも制限があります。詳しくは各タイ プのデータシートで確認してください。 このグラフは-40℃、25℃、そして、125℃で、全て のPGH308をオン(トリガ)させることができるゲー ト電流とゲート電圧とを表しています。例えば、 25℃では、DCで100mAのゲート電流を流せば、 全てのPGH308をオンさせることができ、その時の ゲート・カソード間電圧は2.5V以下であることを 表しています。 このグラフから、組み込む機器の最低動作温度 を元にして、ゲート電流をいくら流せばいいのか を求めてみます。-40℃、25℃、125℃でのトリガ ゲート電流をプロットすれば、-20℃では150mA 程度となることが分かります。 ゲート・カソード間電圧は10V以下 トリガゲート電流 200mA 電力は5W以下 -40℃で全素子オン 100mA ゲート電流は2A以下 0 -50℃ 0℃ 50℃ 100℃ 150℃ ゲート定格 ジャンクション温度 サイリスタを確実にオンさせるためにゲート電 流、電圧は高くなりがちです。DCトリガでは平均 電力、パルストリガではピーク電力にも注意を 払ってください。 トリガゲート電流の温度依存性 3.1.2 パルスゲート電流のパルス幅依存性 ゲート電流がパルスで、そのパルス幅が20µsよ り短い時は、DCに較べてより大きな電流を流さな いとサイリスタはオンしません。また、特にパルス 幅が10µsを下回るとDCより大幅に大きなゲート 電流を流さないとオンしません。 例えば、5µs幅のパルスでのトリガゲート電流は DC比で2倍となります。機器の最低動作温度が 20℃で、ゲートパルス幅が5µsなら、150mA×2で 日本インター株式会社 3.3 雑音でオン(誤動作)させないために 非トリガゲート電圧は0.25V (Tj=125℃、2/3・ VDRM)と規定されています。これはゲート・カソー ド間に0.25Vを超える電圧がかかるとサイリスタが オンしてしまうことがあることを意味します。 ノイズによる意図しないオン(誤動作)を避ける 6 となるような設計が可能です。 図のように、電圧軸(縦軸)にゲートトリガ回路の オープン時電源電圧を、電流軸(横軸)には短絡 電流値をプロットして直線で結びます。これが ゲート負荷線で、全素子トリガ範囲を上回り、か つ、ゲート電流、電圧、電力を下回るようにします。 この例ではオープン電圧が8V、短絡電流が0.5A なので電流制限抵抗は16Ωとなります。 ゲート回路専用端子 合計16Ω ためには次のような対策に効果が期待できます。 *ゲートドライブ用カソードは専用端子につなぐ。 *ゲート直列ダイオード ダイオードの順電圧約0.7Vのノイズが打ち消さ れます。ただし、その分ドライブ回路で補うこととな ります。 *ゲート並列ダイオード 過大なゲート逆電圧を防止する。 *ゲート並列コンデンサ(0.01~0.1µF) 8V 負荷線による設計例 この負荷線というのは、古典的な考え方です。 現在では定電圧、定電流ドライブ回路が容易に できるようになりました。IGBTやMOSFETは電圧 でドライブしますが、サイリスタをドライブするのは 電流です。従ってサイリスタのゲート回路は定電 流回路的な考え方で設計してください。 なお、直流ゲート電流を流がしっぱなしにして、 アノード・カソード間に逆電圧がかかると、サイリス タの逆電力損失が激増します。PGH本来の使い 方では、サイリスタには逆電圧はかからないので、 このようなことは起きません。しかし、サイリスタの 一般的な性質として記憶に留めてください。 サイリスタの誤動作防止 4,熱設計(ヒートシンクの選定) PGHを含めてパワーモジュールの多くはベー スが銅板です。しかし、ヒートシンクに取り付けな い状態では、温度上昇が大きく、ほとんど電流は 流せません。使用状況に合った適切なヒートシン クと組み合わせて、はじめて所定の能力を発揮し ます。また、繰り返しになりますが、、ヒートシンクの 表面やモジュールの取り付け面には,熱伝導性 コンパウンド(信越シリコンG746など)を薄く均一 に塗布してください。接触熱抵抗は、これを前提 3.4 ゲート負荷線 ゲートトリガ回路の電源電圧と電流制限抵抗 (電源内部抵抗を含む)を決めるためにゲート負 荷線が用いられます。これにより、最低動作温度 とトリガパルスの巾を考慮して、全数をオンでき、 かつ、ドライブ電流、電圧、そして、電力が定格内 ゲート・カソード間電圧は10V以下 30A 電力は5W以下 動作温度とゲート電 流パルス巾を配慮し た全素子トリガ範囲 ゲート電流 は2A以下 PGH508AM ゲート負荷線 日本インター株式会社 7 かに依存します。didtの条件欄に、25℃でのトリガ ゲート電流が50mAのところ、iG =200mA、diG/dt =0.2A/µsとあるように、速い立ち上がりで、大きな ゲート電流を流せば初期オン領域が大きく、これ を前提としてdi/dt耐量が規定されています。大き なdi/dtがかかる場合は、回路に関してはリアクト ルで電流の立ち上がりを抑える、サイリスタに関し ては定格内で十分大きく、立ち上がりの速いゲー ト電流を流して対処します。 電流が600Aとすると (600/√2)2×0.01=1,800A2s のように計算できます。この数字はサイリスタを ヒューズで(を切って)保護しようした場合に役立 ちます。ヒューズにも同様の規定があり、サイリスタ は壊れず、ヒューズが切れるような、バランスがと れた組み合わせを選定できます。 2ms以下のパルス電流に対して耐量を規定す るのが臨界オン電流上昇率 di/dtです。サイリスタ は全面積がオンするには、ゲート電流を流してか ら100µs程度の時間がかかります。言い換えると、 短いパルス巾の電流を流せば部分導通状態に あり、少ない面積が電力を背負うために電力密 度が高くなります。このような理由で、立ち上がり の速いパルス電流に対する耐量を規定している のがdi/dtです。以上3つの電流定格をひとつ時 間軸で表現すると次のようになります。 I2t 5,2 臨界オフ電圧上昇率 dv/dt サイリスタはご説明したようにゲート電流を流し てオンします。しかし、アノードに速い立ち上がり に電圧がかかるとオンします。この限度を規定し たのが臨界オフ電圧上昇率 dv/dtです。オフ状 態にあるサイリスタチップ内のキャパシタンス分 に流れる変位電流が、ゲート電流を流すのと同じ 効果をおよぼすためです。dv/dtは典型的なサイ リスタ誤動作の原因となります。 50Hzベース ITSM di/dt 2ms 限度を超えた速い 立ち上がりのアノー ド電圧がかかると 10ms 電力用スイッチングデバイスとして現在主流の MOSFETやIGBTでは、電流の立ち上がりが速い からといって壊れるかどうかを気にすることはあり ません。これは微少な単位セルを集積しているた め、サイリスタに較べて格段に高周波特性が優 れているからです。対して、サイリスタは単一サイ リスタでできています。このため、ゲート近傍から オンが始まり、時間とともにオン領域がチップ全 体に広がっていきます。 100V/µs程度以上のdv/dt耐量をもつサイリスタ チップには変位電流をバイパスさせる抵抗分を 内蔵しています。dv/dtでの誤動作の恐れがある 場合は、dv/dt耐量の大きなサイリスタを選び、この ゲート回路には先のノイズ対策を施すこと、そし て、CRスナバ等でdv/dt自体を抑えることになりま す。 ゲート カソード 時間ととも にオン領域 が広がる サイリスタチップでオン領域が広がる様子 臨界オン電流上昇率 di/dt定格が、例えば、 100A/µsであれば、オンが始まってから(ゲート電 流 が 流 れ 始 め て か ら)1µs で は 100A、2µs で は 200A・・・を超えれば壊れる恐れがあります。初期 にオンする領域は、どのようなゲート電流を流す 日本インター株式会社 サイリスタは オンする。 10