1GHzサンプリング/6bit高速ADCの開発 佐々木 征一郎 新井 満 八木 勝義 菅井 男也 杉村 直昭 表1 目標仕様 近年,WLAN,Digital TV,次世代DVD,HDDなどア プリケーションの高速化が進んでおり,アナログ信号を デジタル信号に変換するADC(Analog to Digital Converter)の高速化のニーズが高まっている(図1) 。ま た,プロセスの微細化によるトランジスタの高速な動作・ スイッチング特性の恩恵を受けるためには,ゲート耐圧 の関係から低電源電圧でのアナログ回路設計技術が必要 Parameter Resolution Sampling Rate SINAD *1) ENOB *2) Input Bandwidth Power (Analog) Min Typ 6 100 32.0 5.0 400 Max 1056 34.5 5.4 60 unit bit MHz dB bit MHz mW となる。さらに,高速通信可能な携帯端末の普及により, 1000 バッテリー駆動で使われる場面も増えるため,低消費電 力化も重要である。今回,UWB(Ultra Wide Band)に 代表される高速・広帯域のワイヤレス通信LSIに必要な 単一電源で開発した。本稿では主に,開発した回路技術 とその試作品評価結果について述べる。 変換周波数(MHz) 1000 消費電力(mW) 1GHzサンプリング/6bit高速ADCをCMOSプロセス・ トレンド 100 開発目標 目標技術 with 1.2 V 動作 HDD 0.1 10 DVD 1.0 0.09μm 0.13μm 0.18μm 0.25μm 0.35μm 10 変換周波数 (GHz) 100 D i g i t a lTV 図2 国際学会における6bit換算ADC消費電力トレンド VDSL リング以上の高速ADCであるため,動作周波数・動作電 圧の制限からシンプルな構成のフラッシュ型とした。 WLAN 6 10 8 10 12 Reso l u t i on (b i t) 図1 高速ADCの分野別ニーズ 図3に本ADCのブロック図を示す。以下,各ブロックに ついて説明する。 ① クロック入力部。差動入力構成とした。 ② 基準電圧を生成するRef抵抗。差動コンパレータへの 回 路 構 成 1)2)3)4) (1)目標仕様 6bit高速ADCの目標仕様を表1に示す。国際学会におけ 接続を考慮して二対で構成した。 ③ ADCアナログ部。S/H(Sample and Hold)+3段プ リアンプ+コンパレータラッチで構成されている。 る6bit換算ADC消費電力トレンド(図2)よりアナログ部 図4にRef抵抗部とアナログ部の詳細なブロック図を の消費電力を60mWとした。消費電力以外のパラメータ 示す。アパーチャ効果によるADC変換特性悪化を軽減す についてはUWB(MB-OFDM)の仕様から想定した。 るためにS/Hを搭載した。また,容量補間回路を適用す ることでS/Hと初段プリアンプの数を半分に削減した。こ (2)アーキテクチャ ADCのアーキテクチャは,パイプライン型,フラッシュ 型,シグマデルタ型などさまざまであるが,1GHzサンプ れにより,消費電力削減,入力容量低減によるアナログ 入力の広帯域化,入力換算オフセット低減などの効果を 得られる。 *1)Signal to Noise And Distortion : 信号(signal)に対する雑音(noise)と歪み(distortion)の和との比。 22 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 *2)Effective Number Of Bits:有効ビット数 デバイス特集 ● ③アナログ部 ⑤間引き部 ④デジタル部 6 並列化 y 1/2GHz Refn Dout [6:1] 1/4GHz-1/32GHz エンコーダ Douti [6:1] 1/2GHz グレイコード dy[6:1] XOR 1GHz 1/2GHz 同期FF x ⑥出力部 エンコーダ Output Data select グレイコード c[63:1] 同期FF+エラー訂正 3rdプリアンプ Vref抵抗ラダー Vref抵抗ラダー CM 2ndプリアンプ S/H Refp 1stプリアンプ ②Ref抵抗 コンパレータラッチ Ainm dx[6:1] Ainp Doutp[6:1] 6 Doutn[6:1] DCLKp DCLKn CRCK CLKp ①クロック入力 CLKn STRB ⑧コントロール レジスタ ⑦BGR DATAI DATAO 図3 6bitADCブロック図 ④ ADCデジタル部。コンパレータラッチ出力を取り込む (3)シミュレーション結果 フリップフロップ,バブルエラー訂正回路,グレイ 図5にシミュレーション結果を示す。アナログ入力周波 コ ードエンコーダで構成されている。1GHz動作ロ 数246MHzでENOB = 5.2bitとなり,目標仕様を満足す ジック回路を削減することでタイミングマージン確保 ることを確認できた。 と電力削減効果を得るため,グレイコードエンコーダ 10 以降は並列化処理することで動作周波数を半分にして 容量補間あり 動作周波数 : 1GHz 入力周波数 : 246MHz 間引き : 1 / 1 SINAD: 33.0dB ENOB : 5.2bit SFDR : 39.2dB THD :−35.2dB ICN : 36.8dB 0 いる。 -10 -20 制することと,測定器の制約から1/4∼1/32の範囲で -30 可変の間引き回路を搭載した。 ⑥ 出力部。差動出力構成とした。評価容易化のため, [dB] ⑤ 間引き部。デジタル出力バッファで発生するノイズを抑 -40 -50 データ出力だけではなく取り込み用のクロックも出力 -60 させた。 -70 ⑦ 基準バイアス生成部。電流型バンドギャップ回路にする -80 0 100 200 300 400 500 freq[MHz] ことで低電圧動作可能とした。 ⑧ コントロールレジスタ。各ブロックのパワー制御,タイ 図5 シミュレーション結果 db63n db63p db62n db62p LVDS_out コンパレータラッチアレー clkバッファ 3rdプリアンプアレー encoder Ref抵抗ラダー ADC ダイナミックコンパレータアレー プリアンプ +ラッチアレイ db61n db61p db32n db32p db03n db03p db02n db02p db01n db01p ミング調整,電流調整などを行う。 clk遅延 LVDS_in タイミング調整回路 2ndプリアンプアレー - 1stプリアンプアレー BGR 電流調整回路 S/Hアレー レジスタ REFN REFP AINN CM AINP REFP REFN Vref抵抗ラダー 図6 6bit ADCブロックレイアウト 図4 Ref抵抗およびアナログ部詳細ブロック図 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 23 (4)レイアウト構成 (3)評価結果 図6(前ページ)にブロックレイアウトを示す。ADCの ① スペクトラム波形 約2倍のエリアをテスト回路用として確保し,タイミング 図7に試作品のスペクトラム波形と諸特性を示す。1/32 調整回路と電流調整回路を搭載した。これにより開発期 間引き出力のため,横軸は15.625MHzまでとなっている。 間短縮と,回路のタイミングマージンや電流・電圧依存 アナログ入力周波数が10MHzではあるが,シミュレー 性などさまざまな評価を行うことを可能とした。 ションと同等の結果を得られた。 試作品評価結果 10 容量補間あり 動作周波数 : 1GHz 入力周波数 : 10MHz 間引き : 1/32 SINAD: 33.2dB ENOB : 5.2bit SFDR : 42.5dB THD :-38.0dB ICN : 36.6dB 0 (1)試作チップ写真 -10 写真1に試作チップ写真を示す。チップサイズは -20 [dB] 4.2mm×4.4mmで,空スペースにはバイパスコンデンサ を配置した。 -30 -40 -50 -60 -70 -80 0 2 4 6 8 Freq[MHz] 10 12 14 図7 スペクトラム波形(容量補間あり,1/32間引き) ② アナログ入力周波数特性 図8にアナログ入力周波数を1M∼400MHzまでスイー 写真1 試作チップ写真 プさせた場合のSINADを示す。試作では容量補間回路の 有効性を確認するために容量補間あり/なしの回路水準 (2)試作品評価環境 写真2に試作品評価ボードの外観を示す。クロックとア を設けた。どちらも50MHzまでのSINADはフラットな特 ナログ信号入力用バラン,差動データ出力をシングル変 性となっている。50MHz以上の高域でSINADが悪化して 換するためのバッファ,コントロールレジスタ制御用 いるのは,入力クロックジッタ測定結果から逆算した FPGA*3)などで構成されている。アナログ入力周波数が SINAD限界値(計算値)と,アナログ入力信号のSINAD 400MHzの場合,入力クロックのジッタは50ps以下にす (実測値)から評価環境の影響が支配的であると思われる。 る必要がある。これは信号発生器のジッタよりも小さい。 また,わずかではあるが容量補間回路を適用することで ジッタを低減するために,フィルタを別途準備した。 SINADが向上することを確認できた。 60 50 デジタル出力用 LVDSバッファ 40 レジスタ制御用 FPGA TEG Chip フィルタ SINAD[dB] クロック入力 30 20 アナログ入力 容量補間なし (実測値) 容量補間あり (実測値) アナログ入力信号のSINAD(実測値) 評価環境(クロックジッタ)によるSINAD限界値(計算値) 10 0 1 10 100 Fin[MHz] 図8 アナログ入力周波数特性 写真2 6bit ADC試作品評価ボード外観 *3)Field Programmable Gate Array 24 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 1000 デバイス特集 ● ア ナ ロ グ 容量補間あり プリアンプ3 デ ジ タ ル プリ Ref プリアンプ2 アンプ 1 抵抗 同期FF+エラー訂正 CK20 バッファ CK30バッファ CK10・11 バッファ コンパレータ ラッチバッファ コンパレータ BGR ラッチ 容量補間なし プリアンプ3 プリアンプ2 プリアンプ Ref 1 抵抗 同期FF+エラー訂正 CK30バッファ ア ナ ロ グ 0 20 40 エンコーダ CK20バッファ CK10・11 バッファ エンコーダ デ ジ タ ル 60 80 電力[mW] 100 120 140 160 図9 消費電力測定結果 ③ 消費電力測定結果 図9に容量補間あり/なし水準ごとの消費電力測定結果 を示す。容量補間により,プリアンプ1の電力を約半分に 削減できた。また,各プリアンプの電力とSINADの相関 解析により,プリアンプ3の電力を抑えてゲインを上げる ことにより,特性向上可能であることがわかっている。 ●筆者紹介 ま と め 1GHzサンプリング/6bit高速ADCの回路技術とその試 作品評価結果について紹介した。1GHzサンプリング/ 6bit高速ADCを実現するための回路技術と評価技術を構 築することができた。 謝 辞 本ADCは東京工業大学 大学院理工学研究科 松澤研究 室と共同開発したものである。研究開発を進めるに当た り,ご尽力頂いた松澤教授および研究室の皆さんに心よ り感謝する。◆◆ Solid-State Circuits Conference, vol. XLIII, pp.428-429, February. 2000 4)Christoph Sandner, Member, IEEE, Martin Clara, Andreas Santner, Thomas Hartig, and Franz Kuttner,“A 6-bit 1.2-GS/s Low-Power Flash-ADC in 0.13-um Digital CMOS,”IEEE Journal of Solid-State Circuits, Vol.40, No.7, JULY. 2005 ◆◆ 佐々木征一郎:Seiichiro Sasaki. シリコンソリューションカンパ ニー 通信車載システムビジネス本部 RF技術開発部 アナログ技術 チーム 新井満:Mitsuru Arai. シリコンソリューションカンパニー 通 信車載システムビジネス本部 RF技術開発部 アナログ技術チーム 八木勝義:Katsuyoshi Yagi. シリコンソリューションカンパニー 通信車載システムビジネス本部 RF技術開発部 アナログ技術 チーム 菅井男也:Danya Sugai. シリコンソリューションカンパニー 通信車載システムビジネス本部 RF技術開発部 アナログ技術 チーム 杉村直昭:Naoaki Sugimura. シリコンソリューションカンパ ニー 通信車載システムビジネス本部 RF技術開発部 アナログ技術 チーム マネージャ ■参考文献 1)K.Kusumoto, A.Matsuzawa, K.Murata,“A 10-b 20MHz 30mW Pipelined Interpolating CMOS ADC,”IEEE Journal of Solid-State Circuits, Vol.28, No.12, pp.12001206, 1993 2)A.Matsuzawa, S.Nakashima, I.Hidaka, S.Sawada, H.Kodaka, S.Shimada, “A 6b 1GHz Dual-parallel A/D Converter,”Solid-State Circuits Conference, 1991. Digest of Technical Papers. 38th ISSCC., 1991 IEEE International, 13-15 , pp.174-311, Feb. 1991 3)Kouji Sushihara, Hiroshi Kimura, Youichi Okamoto, Kazuko Nishimura, Akira Matsuzawa,“ A 6b 800Msample/s CMOS A/D converter,”IEEE International OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 25