富士時報 Vol.80 No.6 2007 第 3 世代マイクロ電源「FB6832J」 横山 岳(よこやま たけし) 山田 教文(やまだ たかふみ) まえがき 図 2004 年,マイクロ電源「FB6800 シリーズ」は,イン FB6832J のブロック図 V in ダクタと制御 IC を一体化しつつ 3.5 mm × 3.5 mm,厚さ VDD PVDD CE 1.0 mm という超小型サイズの 1 チャネル DC-DC コンバー ドライバ ソフト スタート タモジュールとして誕生した。その構造はユニークで,イ ンダクタ上部に制御 IC を載せたワンパッケージモジュー C in 10 F ル で あ る。 ま た, 超 小 型 で あ り な が ら 出 力 MOSFET (Metal- Oxide- Semiconductor Field- Effect Transistor) UVLO 過熱保護 回路 過電流 保護回路 PMOS インダクタ OUT V out エラー アンプ RFB0 − + RFB1 FB ドライバ PFM コントローラ NMOS VREF C out 10 F を内蔵し同期整流方式を採用することにより高効率を実現 した。 GND PGND 第 2 世代となった「FB6831J」は,第 1 世代から設置面 積で 40 % のサイズダウンを行った。端子配列を 4 辺配置 から 2 辺配置にすることでコイルパターンが最適化され, 特性を低下することなくサイズダウンを可能にした。また, 図 マイクロ電源の外形寸法 インダクタと制御 IC の接続をフリップチップボンディン グからワイヤボンディングへ変更することで,チップサイ 今回開発した第 3 世代となる「FB6832J」では,第 2 世 代の構造はそのままに 19 % のサイズダウンを行った。ま 1.00 mm 2.40 mm ズのさらなる小型化を実現した。 た,ターゲットを 300 mA 以下の小電流用途におき,小型 インダクタにマッチした設計をすることで高効率を維持し 2.95 mm た。 FB6832J の特徴 (a)第 2 世代 FB6832J は, リ チ ウ ム イ オ ン バ ッ テ リ ー 1 セ ル を 使 う携帯機器をターゲットに開発された,同期整流型降圧 DC-DC コンバータである。図 1 に FB6832J のブロック図 を示す。 1.00 mm 2.40 mm 特 集 藪崎 純(やぶざき じゅん) 携帯機器では,サイズとともに低消費電力(高効率) , 低ノイズ(低リプル)も要求される。これらのニーズに 2.40 mm 応えるため,FB6832J は全負荷領域でオン時間を固定し た PFM(Pulse Frequency Modulation)制御を採用した。 これにより低消費電力を実現しつつ,リプル電圧も低く抑 (b)第 3 世代 えられている。 藪崎 純 横山 岳 山田 教文 マイクロインダクタの開発・設計 電源 IC の開発・設計に従事。現 モノリシック IC パッケージの開 在,富士電機デバイステクノロ 発・設計に従事。現在,富士電機 に従事。現在,富士電機デバイス ジー株式会社半導体事業本部情 デバイステクノロジー株式会社電 テクノロジー株式会社電子デバイ 子デバイス研究所アセンブリ開発 ス研究所アセンブリ開発部。 報・電源事業部技術部。 部。 424( 46 ) 第 3 世代マイクロ電源「FB6832J」 富士時報 Vol.80 No.6 2007 主な特徴は次のとおりである。 Out)の保護機能を備えている。それぞれの保護機能は異 常解除で自動復帰する。 外形寸法 ( 1) 過電流保護は,図 4 に示すように負荷電流がある値以上 かわらず 2.4 mm × 2.4 mm,厚さ 1.0 mm(標準)の超小 に大きくなると,出力電圧を低下させる「フ」の字特性と 型を実現した。 なっている。Vout = 0 V となったときの Iout は約 370 mA インダクタ ( 2) である。FB6832J の主な電気的特性を表1に示す。 インダクタ構造は第 2 世代と同様トロイダル型である 応用回路 が,端子数を 10 ピンから 8 ピンに減らすことで,長手方 向を 2.95 mm から 2.4 mm に短縮した。インダクタの特性 ,Rdc = 0.087 Ω で あ る。 図 3 は,L = 1.56 µH(100 mA) FB6832J の応用回路例を図 5 に示す。インダクタ,出力 に構造を示す。 電圧検出抵抗,位相補償回路を内蔵しているため,外付 低消費電力 ( 3) け部品としては入出力コンデンサのみで DC-DC コンバー FB6832J は,100 mA 以下の軽負荷電流でも高効率を保 タを構成できる。出力電圧のラインアップとしては 1.0 V, つため PFM 制御を行っている。PFM 制御は,負荷電流 1.2 V,1.5 V,1.8 V を用意している。 に応じて発振周波数を変え出力電圧を一定に保つ制御方法 で,負荷が軽くなってくるとスイッチング周波数を低下 実装面積 ( 1) 従来の一般的な DC-DC コンバータとの実装面積の比較 させ,スイッチングロスを少なくできるという特徴がある。 を図 6 に示す。一般的な DC-DC コンバータと比較し,実 さらに FB6832J の制御回路は消費電流を極力抑えた設計 装面積削減が可能となった。 を行っているため,無負荷での消費電流は 10 µA と LDO 一般的な DC-DC コンバータでは,制御 IC とインダク (Low Drop Out)レギュレータなみの特性を実現している。 保護機能 ( 4) 図 FB6832J の過電流保護特性 過電流保護,過熱保護,UVLO(Under Voltage Lock 1.4 図 マイクロ電源の構造 1.2 V out(V) 1.0 V DD =3.0 V 0.8 V DD =3.6 V 0.6 V DD =4.2 V 0.4 0.2 0 表 0 0.2 0.4 0.6 I out(A) 0.8 1.0 FB6832Jの主な電気的特性 項 目 電源電圧 消費電流 記 号 V DD 出力リプル電圧 最大効率 最 小 標 準 最 大 単 位 2.7 3.6 5.5 V I VDD1 VDDピン,CE=L(停止時) ー 0.1 1.0 A I VDD2 VDDピン,CE=H,無負荷,V out =1.5 V ー 10 ー A I PVDD1 PVDDピン,CE=L(停止時) ー 0.1 1.0 A I PVDD2 出力電圧精度 条 件 V out-T1 V out-T2 PVDDピン,CE=H,I out =300 mA,V out =1.5 V 126 145 156 mA I out =50 mA −2 ー +2 % I out =0∼300 mA,V in =2.7∼5.5 V −3 ー +3 % V out =1.5 V,I out =10 mA, コンデンサESR<100 mΩ(ESR:等価直列抵抗) ー 10 ー mV p-p V out =1.5 V,I out =300 mA コンデンサESR<100 mΩ ー 8 ー mV p-p η1 V out =1.8 V,I out =200 mA 80 90 ー % η2 V out =1.5 V,I out =200 mA 80 86 ー % V ripple UVLOオンしきい値電圧 V UVLH 2.25 2.4 2.55 V UVLOオフしきい値電圧 V UVLL 2.15 2.3 2.45 V 425( 47 ) 特 集 図 2(b) に示すように,インダクタを内蔵しているにもか 富士時報 Vol.80 No.6 2007 FB6832J の応用回路例 図 FB6832J の効率特性 4 3 PVDD VDD CE NC 特 集 100 V in CE 2 1 V out =1.5 V 90 C in 10 F FB6832J V out =1.8 V 95 η (%) 図 第 3 世代マイクロ電源「FB6832J」 85 80 8 70 C out 10 F GND V out =1.0 V 0 50 100 150 200 I out(mA) 250 300 GND 図 図 V out =1.2 V 75 PGND 7 GND V out 6 FB OUT 5 FB6832J の負荷応答波形 FB6832J の実装面積比較 V in =3.6 V V out =1.2 V 2.9 mm V out:50 mV/div 2.9 mm 1.4 mm 1.1 mm I out:100 mA/div (a)FB6832J の実装面積:15.66 mm2 50 s/div 3.8 mm 7.3 mm (Pulse Width Modulation)制御の切替を行う DC-DC コ ンバータでは,PFM 制御をバースト動作させるタイプが 多い。バースト動作中は,スイッチングと休止を繰り返す ため,リプル電圧が PWM 制御時に比べ極端に大きくなっ (b)一般の DC-DC コンバータの実装面積:27.74 mm2 てしまう。これに比べ,FB6832J はオン時間を固定した PFM 制御を行っているため,負荷電流が同一であればオ フ時間は一定となりスイッチング周波数は変動しない。こ タをつなぐスイッチングラインをプリント基板上に配置す のため,リプル電圧は負荷電流に影響を受けることが少な る必要があり,実装面積を増やすと同時にノイズ発生源に く,変動幅を小さくすることができるためノイズ低減に有 もなっていた。FB6832J は,外付け部品としては入出力 効である。 のコンデンサのみであるため,制御 IC の GND とコンデ 負荷応答特性 ( 4) ンサの GND を最短でつなぐ理想的なパターン配置が可能 図 8 に示すように,10 mA から 150 mA,150 mA から となった。 10 mA の負荷変動においてドロップ電圧 50 mV,オーバ 効 率 ( 2) シュート電圧 35 mV と良好な応答特性となっている。 効率特性 を 図 7 に示す。PFM 制御を採用しているた め,100 mA 以下の軽負荷での効率低下が抑えられ,Iout 系列化 = 5 mA でも 85 % 以上(Vout = 3.6 V のとき)を維持して いる。さらに,無負荷では消費電流が 10 µA と小さいため, 現 在, マ イ ク ロ 電 源 の 系 列 化 と し て, 同 期 整 流 型 負荷が待機状態となる用途には最適である。 昇 圧 DC-DC コ ン バ ー タ「FB6841J」 を 開 発 し て い る。 リプル電圧 ( 3) 軽 負 荷 で の 効 率 を 維 持 す る た め,PFM 制 御/PWM 426( 48 ) FB6841J は,2.4 mm × 2.4 mm のサイズは同じであるが, 厚さを 0.9 mm(最大)へ薄型化している。FB6832J と同 第 3 世代マイクロ電源「FB6832J」 富士時報 Vol.80 No.6 2007 図 様に,インダクタ,出力電圧検出抵抗,位相補償回路を内 FB6841J のブロック図 蔵しているため,外付け部品としては入出力コンデンサの C in CE ク図を図 9 に,主な電気的特性を表 2 に示す。 コントロール ロジック UVLO タイマ ラッチ PWM コント ローラ TSD ソフト スタート p チャネル ドライバ あとがき OUT C out n チャネル ドライバ + − V out 第 3 世代マイクロ電源は,リチウムイオンバッテリー 1 セルを使った携帯機器に適した超小型・高効率・低リプル EA の DC-DC 電源モジュールである。 「FB6832J」は降圧タ イプで,PFM 制御を用いて軽負荷での効率特性に優れた SENSE GND 特徴を持つ。また, 「FB6841J」は厚さ 0.9 mm の薄型化を PGND 図った昇圧タイプの DC-DC 電源モジュールである。 これまで,小型であるという特徴を生かした小電流用途 表 向けの製品を開発してきたが,今後,出力電流が 1 A を超 FB6841Jの主な電気的特性 項 目 記 号 電源電圧 V DD 出力電圧 V out-T1 最大効率 η 条 件 I out =50 mA Vout =5.0 V I out =0.1 A 最 小 標 準 最 大 単 位 2.7 3.6 5.5 V 4.9 5.0 5.1 V ー 85 ー % UVLOオン しきい値電圧 V UVLH 1.8 1.9 2.0 V ヒステリシス 電圧 V UVHYS ー 100 ー mV える製品も開発が計画されており,系列拡大を図っていく 所存である。 参考文献 藪 崎 純. マ イ ク ロ 電 源( イ ン ダ ク タ 内 蔵 パ ワ ー IC) の ( 1) 設計と応用例.次世代エネルギーエレクトロニクス研究会. 2006-3. 佐野功ほか.第二世代マイクロ電源.富士時報.vol.79, ( 2) no.5, 2006, p.405-407. 427( 49 ) 特 集 みで DC-DC コンバータを構成できる。FB6841J のブロッ VDD *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。