富士時報 Vol.80 No.6 2007 降圧同期整流コンバータ IC 特 集 山田谷 政幸(やまだや まさゆき) 佐々木 修(ささき おさむ) まえがき 部品点数の削減 ( 2) スイッチング素子および同期整流素子としてパワー 近年,フラットテレビを中心としたデジタル家電の急速 MOSFET を同一チップに内蔵したほか,位相補償,ブー な普及に伴い,12 〜 24 V の電圧を中心とした中間バスか らの降圧コンバータ IC の需要が急速に拡大してきている。 図 降圧同期整流コンバータ IC の外観 また機器の薄型化・高機能化が進むことにより,中間バス からの降圧コンバータにはさらなる小型化・大電流出力化 が要求されている。 こ れ ま で 富 士 電 機 で は 入 力 電 圧 45 V, 発 振 周 波 数 400 kHz, 出 力 電 流 1.5 A の パ ワ ー MOSFET(MetalOxide-Semiconductor Field-Effect Transistor) と PWM (Pulse Width Modulation)制御回路をワンチップ化した 降圧同期整流コンバータ IC の製品化を行ってきている。 今回,さらに高度化する要求に応えるために,新たに開 発した 30 V 耐圧,低オン抵抗のパワー MOSFET を用い (a)表 面 (b)裏 面 たハイサイド n チャネル MOSFET 駆動,電流モード制 御を採用し,従来よりも高周波動作・大電流出力を実現 可能とする二つの降圧同期整流コンバータ IC「FA7748」 表 FA7748とFA7749の電源仕様 「FA7749」の開発を行ったので紹介する。 分 類 項 目 製品の概要 今回開発した IC の外観を図 1 に,電源仕様を表1に示す。 IC の特長 FA7749 電源(VCC端子)電圧 6∼28 V 出力電圧 任意設定 最大負荷電流 動作周波数(固定) . FA7748 動作周囲温度 1A 3A 1.5 MHz 500 kHz −40∼+85 ℃ 電子機器の小型化・高機能化とそれに伴う負荷の低電圧 回路方式 大電流化が進んでいることから,電源回路に対し構成する パワーMOS駆動方式 ハイサイドNMOS駆動方式 部品点数の削減,小型化,低損失化の要求が高まっている。 チップイネイブル機能 H:動作 L:待機 これらの要求に応えるため,IC は以下の特長を持っている。 位相補償機能 ハイサイド n チャネル MOSFET の採用 ( 1) 内蔵する降圧コンバータのスイッチング素子としてハイ サイド n チャネル MOSFET を採用した。従来の p チャ 保護回路 降圧同期整流電流モード 内蔵位相補償 ソフトスタート 外付け容量にて時間設定 タイマラッチ 外付け容量にて時間設定 UVLO ネル MOSFET を用いた場合に比べパワー MOSFET の面 過電流保護 積を小さくすることができ,入力容量を削減することが 過熱保護 できる。これらにより小型パッケージの採用が可能となり, 高周波動作にも適している。 山田谷 政幸 佐々木 修 スイッチング電源 IC の開発に従 パワーデバイスの開発に従事。現 事。現在,富士電機デバイステク 在,富士電機デバイステクノロ ノロジー株式会社半導体事業本部 ジー株式会社電子デバイス研究所 情報・電源事業部技術部。電気学 デバイス開発部。 会会員。 420( 42 ) パッケージ ー パルスバイパルス・ヒカップ 140 ℃ Epad-TSSOP16 (エクスポーズドパッド付) 降圧同期整流コンバータ IC 富士時報 Vol.80 No.6 2007 トストラップ用ダイオードを内蔵し,外付け部品点数を削 タイマラッチ式出力短絡保護回路 ( 5) 電源回路の出力電圧が短絡などで一定期間低下した場合 ダクタ,出力コンデンサ(セラミックコンデンサ対応)の に,スイッチングを停止させるためのタイマラッチ式短絡 小型化を実現し,電源回路全体の小型化が可能となった。 保護回路を内蔵している。出力電圧を帰還する IN 端子電 パッケージ ( 3) 圧 0.6 V 以下の状態が CP 端子で設定した時間以上継続す 放熱性に優れた裏面パッド付き小型・薄型の 16 ピン るとスイッチングを停止させる。CP 端子には SS 端子と TSSOP(Thin Shrink Small Outline Package)を採用した。 同様に内部電流源を内蔵しており,CP 端子に接続する外 出力の大電流化・高効率 ( 4) 部コンデンサの容量によりタイマラッチの設定時間を任意 電源電圧 6 〜 28 V にて「FA7748」 (発振周波数 1.5 MHz) に調整できる。タイマラッチによるスイッチング停止後は, は 1 A まで, 「FA7749」 ( 発 振 周 波 数 500 kHz) は 3 A ま 電源電圧または CE 端子の再投入により再起動が可能であ で出力することができる。また,電源効率は最大で 93 % る。また,CP 端子を接地するとタイマラッチを無効化で を実現した。 きる。 低電圧誤動作防止用回路(UVLO) ( 6) 動作説明 . 電源電圧低下時の回路誤動作を防止する機能である。入 図 2 に内部ブロック回路を示す。各種動作について以下 力電圧上昇時は 4.5 V 以下,降下時は 4.2 V 以下でスイッ に述べる。 チング出力を停止する。 ソフトスタート回路 ( 1) パルスバイパルス・ヒカップ式過電流制限回路 ( 7) 起動時の DC-DC コンバータ回路の異常動作(ラッシュ ハイサイド n チャネル MOSFET に流れる電流を監視し, 電流,出力電圧のオーバシュート)を抑制する回路である。 スイッチング周期ごとに IC 内部で設定された電流値を超 エラーアンプの非反転入力に接続される基準電圧を SS 端 えた場合,スイッチングをオフさせるパルスバイパルス式 子により 0 V から 0.8 V まで徐々に上昇させることにより 過電流制限回路を内蔵している。さらにこの過電流状態が 実現している。SS 端子には内部電流源を内蔵しているた 一定回数連続した場合,一定期間スイッチングを休止させ, め外部にコンデンサを接続するのみで使用でき,その容量 ソフトスタート起動により再起動するヒカップ式過電流制 により任意に時間を設定することができる。 限回路を採用した。過電流状態が解除するまでこの一連の エラーアンプ回路 ( 2) 動作を繰り返す。 電源回路出力を IN 端子(反転入力)に帰還している。 従来,入力電圧が高い場合はパルスバイパルス式過電流 また非反転入力には IC 内部で 0.8 V + − 1 % の基準電圧回 制限回路のみでは回路の遅延時間により電源回路の電流値 路が入力されている。位相補償は内蔵しており,エラーア が設定値以上に上昇してしまうという課題があったが,ヒ ンプの出力には IC 外部端子を設けていない。 カップ式過電流制限回路を併用したことでスイッチング素 チップイネーブル回路 ( 3) 子の発熱を大幅に軽減することができる。 CE 端子を使用して外部信号により電源出力の起動と停 止ができる。停止の場合は IC の待機電流を 10 µA 以下に 抑えることができる。 過熱保護動作 ( 8) IC チップの温度上昇を監視し,140 ℃以上でスイッチン グを停止する。110 ℃まで下がるとソフトスタート起動に 発振器回路 ( 4) てスイッチング動作を再開する。 発 振 周 波 数 が そ れ ぞ れ 1.5 MHz(FA7748) ,500 kHz 応用回路例 (FA7749)固定の発振器を内蔵した。 図 . FA7748,FA7749 の内部ブロック回路 回路構成 FA7749 の応用回路の一例を図 3 に示す。出力コンデン SS CE ソフト スタート オンオフ 回路 0.8 V 過熱 保護 CP 5V VCC 端子 低電圧 誤動作 防止回路 VREG 端子 低電圧 誤動作 防止回路 内部 0.8 V 基準 電源 電圧 誤差増幅器 IN ドライバ 比較器 + 現している。位相補償は内蔵しており外付け部品を削減し は外付けパワー MOSFET が主流であるが,FA7749 はパ ワー MOSFET をすべて IC に内蔵しているため非常にコ ンパクトでシンプルな回路構成を実現している。 OUT デッド タイム . − − ている。また,出力 3 A クラスの同期整流降圧コンバータ BOOT Σ + VREG 電流 検出 + + サにはセラミックコンデンサ 10 µF を採用し,小型化を実 PVCC タイマラッチ方式 短絡保護回路 発振器 VCC ドライバ 効率特性 図 4 は FA7748(1.5 MHz,1 A 出力品)の電源効率特性 であり,最大効率 90 % を達成している。 図 5 は FA7749 GND PGND (500 kHz,3 A 出力品)の電源効率特性であり,最大効率 93 % を達成している。 421( 43 ) 特 集 減した。また,スイッチング周波数の高周波化によりイン 富士時報 Vol.80 No.6 2007 図 降圧同期整流コンバータ IC FA7749 の応用回路例 特 集 Vin CSS (0.1 F) Hi:enable CE C CE (0.1 F) GND 図 1 PGND OUT 16 2 PGND OUT 15 3 PGND PVCC 14 4 GND PVCC 13 5 IN 6 SS BOOT 11 7 CE VREG 10 8 CP C boot (0.1 F) NC D1 C PVCC (10 F) 9 図 V in=12 V C out (10 F) C VCC (10 F) R2 (6.2 kΩ) FA7748 のスイッチング波形(V in =12 V,Io = 500 mA) 出力電圧 V out AC100 mV/div 90 電源効率(%) C1 (100 pF) C VREG (0.1 F) FA7748(1 A 出力品)の電源効率特性 95 R1 (31.5 kΩ) Vo (5 V) VCC 12 C CP 100 L(FA7749:6.2 H) (FA7748:4.7 H) 85 80 V in =24 V 75 70 OUT 端子電圧 DC5.0 V/div 65 60 400 ns/div 55 50 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 出力電流(A) 図 図 FA7749 のスイッチング波形(V in = 12 V,I o =1 A) FA7749(3 A 出力品)の電源効率特性 出力電圧 V out AC100 mV/div 100 V in =12 V 95 電源効率(%) 90 85 V in =24 V 80 OUT 端子電圧 DC5.0 V/div 75 70 1.0 s/div 65 60 55 50 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 出力電流(A) 7 に FA7749(入力電圧 12 V,負荷電流 1 A)のスイッチ ング波形を示す。電流モード制御方式のため位相補償内蔵, セラミックコンデンサ(10 µF)を用いても安定した動作 を得ている。 . 定常動作特性 図 6 に FA7748(入力電圧 12 V,負荷電流 500 mA) ,図 422( 44 ) . ロードレギュレーション 図 8 に FA7748(入力電圧 12 V) ,図 9 に FA7749(入力 降圧同期整流コンバータ IC 富士時報 Vol.80 No.6 2007 図 電圧 12 V)のロードレギュレーションを示す。すべての FA7748 のロードレギュレーション 出力電流範囲で良好な特性を得ている。 5.4 あとがき 5.3 出力電圧(V) 特 集 5.5 5.2 新たに開発した入力電圧 6 〜 28 V,ハイサイド n チャ 5.1 ネル MOSFET 内蔵,1 A および 3 A 出力の降圧同期整流 V in =12 V 5.0 コンバータ IC の概要を紹介した。 4.9 4.8 デジタル家電の急速な普及によりこれら機器向けの電源 4.7 として,小型・大電流出力・高効率の要求が今後ますます 4.6 高まってくることが想定される。 4.5 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 出力電流(A) こ れ ら の 要 求 に 応 え る た め, 富 士 電 機 で は 今 回 の MOSFET 内 蔵 降 圧 同 期 整 流 コ ン バ ー タ IC の 系 列 化 の ほ か, ダ イ オ ー ド 整 流 降 圧 コ ン バ ー タ IC や 外 付 け MOSFET 駆動の降圧コンバータ制御 IC の系列化を進め FA7749 のロードレギュレーション ていく所存である。 参考文献 5.5 5.4 原田耕介ほか.スイッチングコンバータの基礎.コロナ社. ( 1) 5.3 出力電圧(V) 図 1992. 5.2 Johns, D. A. ; Martin, K. Analog Integrated Circuit ( 2) 5.1 Design. John Wiley & Sons, Inc. 1997. V in =12 V 5.0 中森昭ほか.2 チャネル電流モード同期整流降圧電源 IC. ( 3) 4.9 富士時報.vol.78, no.4, 2005, p.290-293. 4.8 藤 井 優 孝, 米 田 保.1 チ ャ ネ ル 出 力 降 圧 型 DC-DC コ ン ( 4) 4.7 バータ IC.富士時報.vol.79, no.5, 2006, p.402-404. 4.6 4.5 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 出力電流(A) 423( 45 ) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。