富士時報 Vol.81 No.6 2008 高効率降圧コンバータ IC「FA7743N」 特 集 大和 誠(おわ まこと) 山田谷 政幸(やまだや まさゆき) 一岡 明(いちおか あきら) まえがき 1に示し,特徴を以下に述べる。 近年,フラットテレビに代表されるデジタル家電の急速 . IC の特徴 な普及や産業用市場の拡大に伴い,12 〜 24 V の電圧から 電源回路に対しては,高効率化,構成部品点数の削減, の降圧コンバータの需要が急速に拡大してきている。製品 高信頼性化,低電圧化の要求が強く求められている。これ の高効率化,小型化,高信頼性出力電圧の低電圧化には降 らの要求に応えるため,IC は以下の特徴を持っている。 高効率・小型化 ( 1) 圧コンバータの対応が必要となっている。 こ れ ま で 富 士 電 機 で は, 入 力 電 圧 45 V, 発 振 周 波 数 内蔵する降圧コンバータのスイッチング素子としてハイ 400 kHz,1.5 A 出 力 の パ ワ ー MOSFET(Metal-Oxide- サイド n チャネル MOSFET を採用した。従来の p チャ Semiconductor Field-Effect Transistor)と PWM(Pulse ネル MOSFET を用いた場合に比べてパワー MOSFET の Width Modulation)制御回路をワンチップ化した降圧非 面積を小さくすることができ,入力容量を削減することが 同期整流コンバータ IC の製品化を行ってきた。 できる。これにより効率改善および高周波動作を可能とし, 今回,市場要求に対応するため,従来機種より高効率化, 高周波化,高信頼性化,低電圧化および外付け部品削減を 小型パッケージの採用が可能となった。 部品点数削減 ( 2) スイッチング素子としてパワー MOSFET を同一チップ 図るため,45 V 耐圧,低オン抵抗のパワー MOSFET を 用いたハイサイド n チャネル MOSFET 内蔵,位相補償内 蔵,電流モード制御,ヒカップ動作を採用した高信頼性製 表 FA7743Nの電源仕様 品の降圧コンバータ IC「FA7743N」を開発したので,そ の概要を紹介する。 製品の概要 項 目 電源(VCC端子)電圧 9∼45 V 出力電圧設定 外部設定 最大負荷電流 1.5 A 動作周波数(固定) 今回開発した FA7743N の外観を 図 1,電源の仕様を 表 図 降圧コンバータ IC の外観 3.9 W 周囲温度 −20∼+85 ℃ 回路方式 降圧非同期整流モード パワーMOSFET駆動方式 ハイサイドNMOS駆動 イネーブル機能 L:動作 H:待機 スタンバイ電流 10 A 内蔵位相補償 ソフトスタート タイマラッチ 保護回路 外付け容量にて時間設定 内蔵にて時間設定 低電圧保護 6.5 V 過電流保護 3. 5 A 過熱保護 パッケージ 145 ℃ Epad-SOP8 (エクスポーズドパット付き) 山田谷 政幸 一岡 明 スイッチング電源制御 IC の開発 電源 IC の設計開発を経て,電源 スイッチング電源制御 IC の開発 に従事。現在,富士電機デバイス デバイスの企画,開発に従事。現 に従事。現在,富士電機デバイス テクノロジー株式会社半導体開発 在,富士電機デバイステクノロ テクノロジー株式会社半導体開発 営業本部開発統括部ディスクリー ジー株式会社半導体開発営業本部 営業本部開発統括部ディスクリー ト・IC 開発部。 営業統括部営業推進部。電気学会 ト・IC 開発部。 会員。 424( 44 ) 500 kHz 許容損失 位相補償 大和 誠 仕 様 高効率降圧コンバータ IC「FA7743N」 富士時報 Vol.81 No.6 2008 図 機 種 従来機種 効 率 90.7 % 88.6 % 動作周波数 500 kHz 120 kHz 位 相 補 償 2個 4個 短 絡 保 護 ヒカップ+タイマラッチ タイマラッチ 最低動作電圧 V in =6.0 V V in =9.0 V SS ENB VREF CREG ON/OFF UVLO VREG BOOST Hicup control Soft start Slope compen -sation Oscillator TSD Current sense Σ に内蔵したほか,位相補償,ブートストラップ用ダイオー + ドを内蔵し,外付け部品点数を削減した。 OTA IN − 信頼性 ( 3) 負荷短絡時にヒカップ動作により出力を停止および再起 + − S R VCC OCP Q PWM logic control Comparator Timer latch SCP High side driver Sense MOS OUT GND 動させることで,電源を保護する。また,万が一整流用の ダイオードが外れた場合には,それを検知し電源動作を停 止することにより IC および電源回路の破損を防止してい 定された電流値を超えた場合,スイッチングをオフさせる る。 出力の低電圧化 ( 4) 内部基準電圧の低電圧化により,出力電圧を 1.0 V まで 設定可能として負荷の低電圧化を実現している。 従来機種との比較 ( 5) パルスバイパルス式過電流制限回路を内蔵している。さら にこの過電流状態が一定回数連続した場合,SS 端子の外 付けコンデンサで設定される期間はスイッチングを休止さ せ,その後ソフトスタート動作により再起動するヒカップ FA7743N は従来機種に比べ, 表 2 に示すように電源回 式過電流制限回路を採用した。内蔵タイマラッチカウンタ 路の高効率化,部品点数の削減,高信頼性化,低電圧化が による設定時間内は,過電流状態が解除するまでこの一連 可能となった。 の動作を繰り返す。 これにより過電流が発生し,タイマラッチによってス . 動作説明 イッチングが停止するまでスイッチングが継続すると,ス 図 2 に内部ブロック図を示し,その詳細を以下に述べる。 イネーブル回路(ENB 端子,ON/OFF) ( 1) ENB 端子を制御し外部信号により電源出力の起動・停 イッチング素子が過熱することを防ぎ高信頼性を実現して いる。 タイマラッチ式出力短絡保護回路(Timer latch SCP) ( 6) 電源回路の出力が短絡などで一定時間低下を継続した場 止を設定することができる。停止時は消費電流を 10 µA 合にスイッチングを停止させるため,タイマラッチ式短絡 に抑える。 ソフトスタート回路(SS 端子,Soft start) ( 2) 起動時の DC-DC 保護回路を内蔵している。出力電圧を帰還する IN 端子電 コンバータ回路のラッシュ電流,出力 圧が 0.6 V 以下の状態が 65 ms 以上継続するとスイッチン 電圧のオーバシュートを抑制する回路である。エラーア グを停止させる。このタイマラッチの設定時間は内部で ンプの非反転入力に接続される基準電圧を SS 端子により 固定されている。タイマラッチによるスイッチング停止後 0 V から 0.8 V まで徐々に上昇させることにより実現して は,電源電圧または ENB 端子の再投入(オフ / オン動 いる。この動作は SS 端子にコンデンサを接続するだけで 使用でき,その容量により任意に時間を設定することがで 作)により再起動が可能である。 低電圧保護回路(UVLO) ( 7) 電源電圧低下時の回路誤動作を防止する機能である。入 きる。 エラーアンプ回路(IN 端子,OTA) ( 3) 0.8 V+ −1% の基準電圧を非反転して入力し,電源出力電 圧を帰還している IN 端子を反転して入力し制御を行って 力電圧上昇時は 6.5 V 以下,降下時は 5.5 V 以下でスイッ チング出力を停止する。 過熱保護回路(TSD) ( 8) IC 動作中にチップ内の温度上昇を監視し,145 ℃以上で いる。位相補償は内蔵しており,エラーアンプの出力端子 は設けていない。 発振器回路(Oscillator) ( 4) 発振周波数は 500 kHz で内蔵したコンデンサと抵抗で固 スイッチングを停止し出力電圧は低下する。温度が 95 ℃ まで低下すると,ソフトスタートにより出力電圧は再起動 する。 定している。 応用回路例 パルスバイパルスおよびヒカップ回路(SS 端子, ( 5) Soft start ,Hicup control) スイッチング時のハイサイド n チャネル MOSFET に流 れる電流を監視し,スイッチング周期ごとに IC 内部で設 . 回路構成 FA7743N の応用回路の一例を 図 3 に示す。入出力のコ 425( 45 ) 特 集 FA7743N 項 目 FA7743N の内部ブロック図 Dmin 従来機種との比較 Set pulse 表 富士時報 Vol.81 No.6 2008 図 高効率降圧コンバータ IC「FA7743N」 FA7743N の応用回路例 Vin 特 集 Vo L 9∼45 V 1 VCC OUT 8 2 ENB BOOST 7 CB CV CIN R6 CREG 6 3 SS ENB CS 4 GND Low:enable 5 V/1.5 A IL C1 R1 R4 R2 IN 5 D1 CR CO R3 GND GND D1 図 ダイオード SD863-06 (富士電機製) CR セラミックコンデンサ 0.1 F R3 チップ抵抗 10 kΩ L コイル 22 H CV セラミックコンデンサ 0.1 F R4 チップ抵抗 1 kΩ CIN セラミックコンデンサ 47 F CS セラミックコンデンサ 0.022 F R5 チップ抵抗 680 kΩ CO セラミックコンデンサ 10 F×2個 CB セラミックコンデンサ 0.1 F R6 チップ抵抗 22 Ω C1 セラミックコンデンサ 220 pF R1 チップ抵抗 51 kΩ C2 セラミックコンデンサ 1,000 pF R2 チップ抵抗 1.5 kΩ FA7743N の電源効率特性 図 FA7743N の起動波形 100 効率(%) V in =12 V 5 V 出力設定 95 V in =24 V OUT V in =36 V 90 Vo 85 80 75 70 図 SS 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 I out(A) 1.2 1.4 1.6 FA7743N のロードレギュレーション さらにハイサイド n チャネル MOSFET 駆動用のダイオー ドを IC に内蔵しているため,外付け部品を削減して省ス 1.0 V in =12 V 5 V 出力設定 0.5 V in =36 V 0 V out(%) ペースを実現している。 V in =24 V . 図 4 は,FA7743N の出力電圧が 5 V 設定時の電源効率 −0.5 特性であり,最大 90.7% を達成している。 −1.0 図 5 は,同じ条件での出力電圧の負荷電流依存性であり, −1.5 −2.0 効率特性・ロードレギュレーション 負荷電流が 1.5 A でも最大−0.7% と良好な特性を得ている。 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 I out(A) 1.2 1.4 1.6 . ソフトスタート電源起動 図 6 に,FA7743N の出力電圧起動波形を示す。出力電 圧(Vo)はソフトスタート(SS)により,緩やかに定格 ンデンサはすべてセラミックコンデンサを採用し,小型化 出力電圧まで上昇する。このソフトスタート時間は入力の および高信頼性を実現している。一部の位相補償を内蔵し, 電源電圧に依存せず一定となる。 426( 46 ) 高効率降圧コンバータ IC「FA7743N」 富士時報 Vol.81 No.6 2008 図 定回数繰り返した後にスイッチングが停止し,同時に SS FA7743N のヒカップ動作波形 端子に接続されたコンデンサの放電が開始する。コンデン 絡が解除されているため,ソフトスタートにて再起動を行 OUT Vo い出力は定格電圧に復帰する。 . タイマラッチ停止 図 8 に,FA7743N の出力電圧がタイマラッチ時間以上 出力短絡 短絡を継続したときの波形を示す。出力短絡後,タイマ SS ラッチ時間をカウントしている間は,ヒカップ動作にて間 欠的にスイッチングを行うが,この間に出力短絡が解除さ れないため,タイマラッチ時間が経過後にスイッチングは 停止し,電圧出力も停止する。これにより,短絡が継続し た場合でも,電源回路は安全に停止する。 図 FA7743N のタイマラッチ動作波形 あとがき 65 ms 新 規 に 開 発 し た 45 V 耐 圧 の ハ イ サ イ ド n チ ャ ネ ル OUT MOSFET を内蔵し,1.5 A 出力の降圧コンバータ IC の概 要を紹介した。 Vo SS デジタル家電の急速な普及や,通信および産業用市場の 拡大によりこれらの機器の電源として,小型化,高効率化, 高信頼性化の要求が今後ますます高くなっていくと考えら れる。富士電機では本製品の市場展開により,これらの市 IL 場の要求に応えていく所存である。 参考文献 藤 井 優 孝, 米 田 保.1 チ ャ ネ ル 出 力 降 圧 型 DC-DC コ ン ( 1) バータ IC.富士時報.vol.79, no.5, 2006, p.402-404. . ヒカップ動作 図 7 に,FA7743N の出力電圧が一時的に短絡し復帰す 山田谷政幸,佐々木修.降圧同期整流コンバータ IC.富 ( 2) 士時報.vol.80, no.6, 2007, p.420-423. るときの波形を示す。パルスバイパルスの過電流保護を一 427( 47 ) 特 集 サを放電後,再充電・再放電動作を行っている間に出力短 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。