AN-1040 アプリケーション・ノート ワイヤレス・トランスミッタの性能を改善する RF 電力キャリブレーション 著者:Eamon Nash はじめに dB~30 dB 低くなります。この方法で電力を分岐すると、送信 パスで電力損失が発生します。この方向性カプラーの挿入損失 は、通常、数十分の 1 デシベルです。 ワイヤレス・トランスミッタをデザインする際には、RF 電力の 測定と制御は重要事項です。ハイパワーRF アンプ(PA)はオープ ン・ループ・モードで動作することはほとんどありません。す なわち、アンテナに供給される電力がモニタされることはあり ません。送信電力、ネットワークの堅牢性、他の無線ネットワ ークとの共存性についての規制条件などの外部要因から送信電 力の厳しい管理が必要とされます。これらの外部条件の他にも、 RF 電力を正確に制御すると、スペクトル性能が向上するため、 トランスミッタのパワー・アンプでコストとエネルギを節約す ることができます。 最大送信電力範囲 30 dBm~50 dBm (1 W~100 W)のワイヤレ ス・インフラストラクチャ・アプリケーションでは、方向性カプ ラーからの信号はそれでも測定する RF ディテクタにとって大 き過ぎます。このため、カプラーと RF ディテクタの間に減衰 量の追加が必要です。 現代の rms および非 rms 応答の RF ディテクタは、30 dB~100 dB の電力検出範囲を持ち、温度と周波数に対して安定な出力を提 供します。大部分のアプリケーションでは、ディテクタ出力が A/D コ ン バ ー タ (ADC) に 入 力 さ れ ま す 。 不 揮 発 性 メ モ リ (EEPROM)に格納されているキャリブレーション係数を使って、 ADC 出力コードが送信電力測定値に変換されます。この電力測 定値は、セットポイントの電力レベルと比較されます。セットポ イントと電力測定値が一致しない場合、電力の調整が行われま す。この電力調整は、シグナル・チェーン内にある多数のポイ ントの内のいずれかのポイントで行うことができます。無線を 駆動するベースバンド・データの振幅、可変ゲイン・アンプ(IF または RF)、または PA のゲインを調節することができます。こ の方法では、ゲイン制御ループ自体が制御して、送信電力を所 望の範囲内に維持します。VVA と PA のゲイン制御伝達関数は 非直線性を持つことが多いことに注意することは重要です。こ のため、ゲイン調整から発生する実際のゲイン変化に不確定性が 生じます。このため、生じた変化を帰還してその後の操作にガ イダンスを提供する制御ループが必要になります。 送信電力を調節するためには、PA 出力電力の何らかのキャリブ レーションが必要になります。キャリブレーション・アルゴリ ズムは、複雑さと有効性の面から大幅に変わります。このアプリ ケーション・ノートでは、一般的な RF 電力制御方式の実現方 法について説明し、種々の出荷時キャリブレーション・アルゴ リズムの有効性と効率を比較します。 電力制御機能を内蔵する代表的なワイヤレス・ト ランスミッタ 図 1 に、送信電力の計測機能と制御機能を持つ代表的なワイヤ レス・トランスミッタのブロック図を示します。方向性カプラ ーを使って、PAからの信号の小さい部分を分岐してRFディテク タに入力します。この場合、カプラーはデュプレクサとアイソ レータの後ろのアンテナの近くに配置します。これらに対応す る電力損失は、キャリブレーション時に考慮されます。 方向性カプラーは一般に 20 dB~30 dB の結合係数を持つため、 カプラーから出力される信号は、アンテナへ行く信号より 20 TO RECEIVER PIN VGA/ VVA HPA DUPL ATTN DAC MICROCONTROLLER OR DSP ADC RF POWER METER RF DETECTOR 08385-001 EEPROM POUT 図 1.送信電力制御機能を内蔵する代表的な RF パワー・アンプ(内蔵 RF パワー・ ディテクタが送信電力について電流レベルの連続帰還を提供し、外部 RF 電力計 と RF パワー・ディテクタとの組み合わせを使ってトランスミッタをキャリブレ ーションします) Rev. 0 本 社/〒105-6891 東京都港区海岸 1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 電話 03(5402)8200 大阪営業所/〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原 3-5-36 新大阪トラストタワー 電話 06(6350)6868 AN-1040 目次 はじめに..............................................................................................1 RF電力制御ループのキャリブレーション ......................................5 電力制御機能を内蔵する代表的なワイヤレス・トランスミッタ1 RF電力制御ループのフィールドでの動作 ......................................6 出荷時キャリブレーションの必要性...............................................3 ポストキャリブレーション誤差.......................................................7 RFディテクタの伝達関数 .................................................................3 結論......................................................................................................8 Rev. 0 - 2/8 - AN-1040 が、絶対精度を持つ内蔵電力計のように動作します。この内蔵 電力計は、トランスミッタが常に既定の偏差内で所望電力を放 射できるようにします。 出荷時キャリブレーションの必要性 前述の代表的なワイヤレス・トランスミッタ・システムでは、 非常に優れた絶対ゲイン精度仕様を提供する部品はほとんどあ りません。±1 dB の送信電力誤差目標について考えます。PA、 可変電圧減衰器(VVA)、RF ゲイン・ブロック、シグナル・チェ ーン内のその他の部品のようなデバイスの絶対ゲインはデバイ スごとに変わるため、出力電力の不確定性が±1 dB 以上になる ことがあります。さらに、シグナル・チェーンのゲインは温度 と周波数の変化に対して変わります。このため、送信電力を連 続的にモニタ/制御することが必要です。 出荷時キャリブレーション手順は、RF電力制御ループのキャリ ブレーションのセクションで説明します。まず、代表的なRFパ ワー・ディテクタの特性を調べる必要があります。システムの RFディテクタの、温度と周波数に対する直線性と安定性が、キ ャリブレーション作業の複雑さと実現可能なポストキャリブレ ーション精度に大きな影響を与えます。 RFディテクタの伝達関数 出力電力キャリブレーションは、外部リファレンスの高精度を 被キャリブレーション・システムに移転することと定義するこ とができます。キャリブレーション手順には、図 1 に示すよう に、アンテナを切り離してRF電力計のような外部測定リファレ ンスで置き換えることが含まれます。この方法では、高精度外 部電力計の精度がトランスミッタの内蔵パワー・ディテクタに 移転されます。キャリブレーション手順には、電力レベルの設 定、電力計値とRFディテクタ電圧の取得、これらすべての情報 の不揮発性メモリ(EEPROM)への格納が含まれます。次に、電 力計を取り外してアンテナを再接続すると、トランスミッタ出 力電力が正確に制御されるようになります。アンプ・ゲインの 温度特性、送信周波数、所望出力電力レベルのようなパラメー タが変化すると、キャリブレーションされた内蔵RFディテクタ 図 2 に、対数応答RFディテクタ(ログアンプ)の温度特性の伝達 関数を示します(説明のために誇張してあります)。ログアンプ の伝達関数は、直線動作範囲内でシンプルな 1 次式を使ってモ デル化することができます。+25°C、+85°C、−40°Cでの出力電圧 対入力電力の 3 本のカーブを示します。25°Cでのディテクタ出 力電圧は、入力電力−60 dBmで約 1.8 Vから 0 dBmで 0.4 Vまで の範囲になります。伝達関数は、上書きしてある理想直線に良 く一致しています。伝達関数は両端でこの直線から乖離してい ますが、−10 dBm~−5 dBmの電力レベルで非直線性の傾向がみ られることにも注意してください。 DETECTOR OPERATING RANGE 2.2 VOUT AT –40°C VOUT AT +25°C VOUT AT +85°C 2.0 1.8 1.6 VOUT (V) 1.4 DETECTOR SLOPE = Y/X X 1.2 Y 1.0 DETECTOR NONLINEARITY 0.8 0.6 0.4 INTERCEPT 0 –65 –60 –55 –50 –45 –40 –35 –30 –25 –20 –15 –10 –5 PIN (dBm) 0 5 10 15 20 08385-002 0.2 図 2.対数応答 RF パワー・ディテクタの伝達関数(VOUT 対 PIN)、説明のために温度ドリフトを誇張 Rev. 0 - 3/8 - AN-1040 簡単な計算で、このディテクタは約−25 mV/dB のスロープを持 っていることが分かります。すなわち、入力電力が 1 dB 変化す ると、出力電圧が 25 mV 変化します。このスロープは、ダイナ ミック・レンジの直線部分で一定です。このため、非直線性が 少し低下しますが (約−10 dBm)、25°C での伝達関数を次式を使 ってモデル化することができます。 定値の変化に対応します。これは大部分の実際のシステムでは許 容できない値です。実用的には、温度ドリフトが小さい伝達関 数を持つディテクタが必要です。これにより、周囲温度で実行 されるキャリブレーション手順が温度に対しても有効になり、 トランスミッタの周囲温度での出荷時キャリブレーションが可 能になるため、高温と低温での、費用と時間を要するキャリブ レーション・サイクルを回避することができます。 VOUT =スロープ× (PIN −インターセプト) トランスミッタが周波数に即応し、一定の周波数帯域内で複数 の周波数を送信する必要がある場合、ディテクタの周波数特性 に注意する必要があります。理想的には、一定の周波数帯域内 で応答が大きく変化しない RF ディテクタを使う必要があります。 これにより、1 つの周波数(一般に帯域中心)でのトランスミッタ のキャリブレーションが可能になるため、周波数が変化した際 の精度の低下が無視できるようになります。 ここで、インターセプトは外挿した直線がx軸と交わるポイント です(図 2 参照)。 したがって、ディテクタの伝達関数はこのシンプルな 1 次式を 使ってモデル化することができます。キャリブレーション手順 では、2 点だけの電力レベルを測定して、この式を使うことに よりディテクタの伝達関数を得ることができるため、キャリブ レーションでこの式は便利です。 次に、この理想ディテクタの温度に対する動作を検討します。 入力電力–10 dBm では、出力電圧が周囲温度から−40°C または +85°C までに対して約 100 mV 変化することに注意してください。 スロープの前述の計算(−25 mV/dB)から、これは±4 dB の電力測 表 1 に、アナログ・デバイセズが提供する種々のrmsおよび非 rms応答ディテクタの検出範囲と温度安定性を示します。 表 1.RMS および非 RMS 応答 RF パワー・ディテクタ Device AD8317 AD8318 AD8319 ADL5513 ADL5519 AD8361 ADL5501 AD8362 AD8363 AD8364 Rev. 0 Max Input Frequency (GHz) 10 8 10 4 10 2.5 6 3.8 6 2.7 Dynamic Range (dB) 55 70 45 80 62 30 30 65 50 60 Temperature Drift (dB) ±0.5 ±0.5 ±0.5 ±0.5 ±0.5 ±0.25 ±0.1 ±1.0 ±0.5 ±0.5 - 4/8 - Package 2 mm × 3 mm 8-lead LFCSP 4 mm × 4 mm 16-lead LFCSP 2 mm × 3 mm 8-lead LFCSP 3 mm × 3 mm 16-lead LFCSP 5 mm × 5 mm 32-lead LFCSP 6-lead SOT-23, 8-lead MSOP 2.1 mm × 2 mm 6-lead SC-70 6.4 mm × 5 mm 16-lead TSSOP 4 mm × 4 mm 16-lead LFCSP 5 mm × 5 mm 32-lead LFCSP Comments Non-rms log detector Non-rms log detector Non-rms log detector Non-rms log detector Dual non-rms log detector Linear in V/V rms detector Linear in V/V rms detector RMS log detector RMS log detector Dual rms log detector AN-1040 SET RF POWER TO MAX POWER (APPROXIMATELY) MEASURE CODE FROM RF LOG DETECTOR ADC (CODEHIGH) USE RF POWER METER TO MEASURE POWER AT ANTENNA CONNECTOR (PWR HIGH) (UNIT = dBm) SET RF POWER TO MIN POWER (APPROXIMATELY) MEASURE CODE FROM RF LOG DETECTOR ADC (CODELOW) USE RF POWER METER TO MEASURE POWER AT ANTENNA CONNECTOR (PWR LOW) SLOPE = (CODEHIGH – CODELOW)/(PWRHIGH – PWRLOW) (UNIT = CODES/dB) STORE SLOPE AND INTERCEPT IN NONVOLATILE RAM 08385-003 INTERCEPT = PHIGH – (CODEHIGH/SLOPE) 図 3.ログ・ディテクタ内蔵のトランスミッタをキャリブレーションするシンプルな 2 ポイント・キャリブレーション手順 RF電力制御ループのキャリブレーション 図 3 に、図 1 に示したようなトランスミッタのキャリブレーシ ョンに使用できるフローチャートを示します。このシンプルで 迅速な 2 ポイント・キャリブレーションは、高精度な電力レベ ルの設定を必要としない場合(ただし測定は高精度)に有効です。 このキャリブレーションを有効にするためには、内蔵RFディテ クタは温度と周波数に対して安定であり、かつシンプルな式で モデル化できる予測可能な応答を持つ必要があります。 トランスミッタの動作電力範囲を RF ディテクタの直線動作範 囲に対応させます。始めに、アンテナを切り離し、電力計をア ンテナ・コネクタに接続します。次に、出力電力レベルを最大 Rev. 0 - 5/8 - 電力の近くに設定します。電力計でアンテナ・コネクタでの電 力を測定して、トランスミッタの内蔵マイクロコントローラまた はデジタル信号プロセッサ(DSP)に送信します。同時に、RF デ ィテクタ ADC でサンプルし、読み出し値をトランスミッタのプ ロセッサへ入力します。 次に、トランスミッタの出力電力を最小電力に近いレベルに減 少させて、手順(アンテナ・コネクタでの電力測定と RF ディテク タ ADC でのサンプル)を繰り返します。 これらの 4 個の読み出し値(低電力レベルと高電力レベル、小さ いADCコード値と大きいADCコード値)を使って、スロープとイ ンターセプトを計算して(図 3 参照)、不揮発性メモリへ格納す ることができます。 AN-1040 DETERMINE DESIRED OUTPUT POWER (PSET ) SET OUTPUT POWER-BASED ON BEST FIRST GUESS ENSURING THAT (POUT < PSET ) MEASURE CODE FROM RF LOG DETECTOR ADC (CODEOUT) CALCULATE TRANSMITTED POWER POUT = INTERCEPT + CODEOUT/SLOPE IS ABS |PSET – POUT| ≤0.5dB YES NO INCREMENT VGA GAIN BY APPROXIMATELY 0.5dB POUT > PSET IS POUT > PSET OR IS POUT < PSET DECREMENT VGA GAIN BY APPROXIMATELY 0.5dB 08385-004 POUT < PSET 図 4.キャリブレーション後のトランスミッタの動作 電力レベルが偏差内に収まったとき、連続的にモニタし、必要に 応じて調節します。例えば、シグナル・チェーン内の部品のゲ インが温度変化により変動する場合、電力測定値が±0.5 dB のセ ットポイント範囲を超えたときループが動作を開始します。 RF電力制御ループのフィールドでの動作 図 4 に、キャリブレーション後にトランスミッタで電力を正確 に設定する際に使用できるフローチャートを示します。この例 では、送信電力誤差を±0.5 dB以下にすることが目標です。最初 に、出力電力レベルを最適な推測値に設定します。次に、ディ テクタADCでサンプルします。スロープとインターセプトをメ モリから取得して、送信する出力電力レベルを計算します。 このアルゴリズムには他の変動も存在します。例えば、出力電 力をできるだけ小さくして、セットポイントから 0.5 dB 以上超 えないようにする場合は、別の手法を使う必要があります。こ の場合、最初に電力設定値を所望電力レベルより小さいレベル に設定します(偏差の外側)。次にループにより電力を測定しま すが、セットポイントのインクリメントは小さくなります(たと えば+0.1 dB)。この方法では、出力電力は常にセットポイントよ り小さい値からセットポイントに近づきます。 −0.5 dB 範囲に 入ると、直ちに電力のインクリメントが停止します。これによ り、実際のレベルは必ずセットポイント・レベルより低くなり、 かつ偏差以内に収まることが保証されます。 出力電力が PSET の±0.5 dB に収まらない場合は、出力電力を可変 電圧減衰器(VVA)を使って約 0.5 dB だけインクリメントまたは デクリメントします。この"約"という用語は、VVA の伝達関数 が非直線になることがあるために使っています。送信電力を再 度測定し、送信電力誤差が±0.5 dB より小さくなるまでさらに電 力をインクリメントします。 Rev. 0 - 6/8 - AN-1040 2.0 1.5 1.8 1.5 1.6 1.0 1.6 1.0 1.4 0.5 1.4 0.5 1.2 0 1.2 0 1.0 –0.5 1.0 –0.5 0.8 –1.0 VOUT1 0.8 –1.0 0.6 –1.5 0.6 –1.5 0.4 –2.0 0.4 –2.0 PIN2 PIN (dBm) 0 5 PIN1 INTERCEPT 0.2 –65 –60 –55 –50 –45 –40 –35 –30 –25 –20 –15 –10 –5 図 5.キャリブレーション・ポイントをディテクタの直線動作範囲内 に設定し、優れた全体性能を提供する 2 ポイント・キャリブレーシ ョン 2.0 2.0 1.5 1.6 1.0 1.4 0.5 1.2 0 1.0 –0.5 VOUT (V) 1.8 –1.0 0.8 –1.5 0.6 58dB DYNAMIC RANGE –2.0 0.2 –65 –60 –55 –50 –45 –40 –35 –30 –25 –20 –15 –10 –5 PIN (dBm) 0 5 2.5 VOUT AT –40°C VOUT AT +25°C VOUT AT +85°C ERROR AT –40°C ERROR AT +25°C ERROR AT +85°C 2.0 1.8 1.5 1.6 1.0 1.4 0.5 1.2 0 1.0 –0.5 0.8 –1.0 0.6 –1.5 0.4 –2.0 0.2 –65 –60 –55 –50 –45 –40 –35 –30 –25 –20 –15 –10 –5 –2.5 08385-006 0.4 PIN1 2.2 2.5 ERROR AT –40°C ERROR AT +25°C ERROR AT +85°C –2.5 図 7.キャリブレーション・ポイントを互いに接近させた 2 ポイン ト・キャリブレーションでは狭い範囲で精度が向上します ERROR (dB) 2.0 VOUT AT –40°C VOUT AT +25°C VOUT AT +85°C 5 PIN (dBm) PIN2 2.2 0 08385-007 0.2 –65 –60 –55 –50 –45 –40 –35 –30 –25 –20 –15 –10 –5 VOUT (V) 2.0 ERROR (dB) VOUT2 ERROR AT –40°C ERROR AT +25°C ERROR AT +85°C PIN (dBm) 0 5 ERROR (dB) 1.8 2.5 VOUT AT –40°C VOUT AT +25°C VOUT AT +85°C –2.5 08385-008 VOUT1 ERROR AT –40°C ERROR AT +25°C ERROR AT +85°C 08385-005 VOUT (V) VOUT2 VOUT AT –40°C VOUT AT +25°C VOUT AT +85°C VOUT (V) 2.2 2.0 2.0 ERROR (dB) 2.5 2.2 図 8.マルチポイント・キャリブレーションでは、ディテクタ範囲が 広くなり、直線性を改善できますが、キャリブレーション手順が複 雑になります 図 6.キャリブレーション・ポイントを互いに離して直線性の良くな い動作範囲に移動すると、動作範囲は広くなりますが精度は低下し ます ポストキャリブレーション誤差 図 5 ~ 図 8 に、異なる選択とキャリブレーション・ポイント数 を使用した場合の、同じRFディテクタのデータを示します。 図 5 に、 8 GHzまで動作する広いダイナミック・レンジを持つRFロ グ・ディテクタ AD8318 の 2.2 GHzでのディテクタ伝達関数を示 します。このケースでは、ディテクタは 2 ポイント・キャリブ レーション(−12 dBmと−52 dBmで)を使ってキャリブレーション されています。キャリブレーションが完了したとき、残留測定 誤差をプロットすることができます。キャリブレーションを実 行した周囲温度においても、誤差がゼロでないことに注意して ください。これは、ログアンプが動作領域内でも理想的なVOUT 対PINの式 (VOUT =スロープ× (PIN −インターセプト))に完全に従わ ないことによります。ただし、−12 dBmと−52 dBmのキャリブレ ーション・ポイントでの誤差は定義によりゼロになります。 多くのアプリケーションでは、最大電力で PA が送信するとき高 精度であることが望まれます。これは多くの点から意味あること です。1 つ目は、最大電力または定格電力でこの高いレベルの 精度を要求する規制条件が存在する可能性がありますが、シス テム・デザインの点からも、定格電力での高精度化に価値があ ります。45 dBm (約 30 W)を送信するようにデザインされたトラ ンスミッタについて考えます。キャリブレーションで±2 dB の最 大精度を提供できる場合、PA 回路(パワー・トランジスタとヒ ート・シンク)は、47 dBm すなわち 50 W もの大きい電力を安全 に送信できるようにデザインする必要があります。これは費用 とスペースの浪費になります。代わりに、45.5 dBm すなわち約 36 W を安全に送信するだけのために PA サイズを大きくするよう に、ポストキャリブレーション精度±0.5 dB のシステムをデザイ ンすることができます。 図 5 には、−40°Cと+85°Cでの出力電圧の誤差プロットも示しま す。これらの誤差プロットは、25°Cでのスロープとインターセ プト・キャリブレーション係数を使って計算したものです。温度 に基づくキャリブレーション・ルーチンを使用しない限り、小 さい残留温度ドリフトを持つ 25°Cキャリブレーション係数を使 う必要があります。 Rev. 0 キャリブレーションを行うポイントを変えることにより、実現 可能な精度は場合によって大きな影響を受けることがあります。 図 7 に、異なるキャリブレーション・ポイントを使用した、図 5 と同じ測定データを示します。図 7 の−10 dBm~−30 dBmで、 精度が非常に高い(約±0.25 dB)ことに注目してください。ただし、 - 7/8 - AN-1040 キャリブレーション・ポイントから離れた低い電力レベルで精 度が低下します。 図 6 に、直線性を犠牲にしてダイナミック・レンジを広くするた めにキャリブレーション・ポイントを移動する方法を示します。 この場合、キャリブレーション・ポイントは−4 dBmと−60 dBm です。これらのポイントはデバイス直線範囲の端です。この場 合も、25°Cでのキャリブレーション・ポイントで誤差が 0 dBと なり、AD8318 が±1 dB以下の誤差を維持する範囲は 25°Cで 60 dBに、温度に対して 58 dBに広がります。この方法の欠点は、 全体の測定誤差が、このケースでは特にディテクタの範囲の上 限で大きくなることです。 図 8 に、さらに複雑なマルチポイント・アルゴリズムを使った ポストキャリブレーション誤差を示します。このケースでは、 複数の出力電力レベル(この例では 6 dB間隔)をトランスミッタ に使用して、各電力レベルでディテクタの出力電圧を測定しま す。これらの測定値を使って、伝達関数を各セグメントが固有 のスロープとインターセプトを持つ複数のセグメントに分割し ます。このアルゴリズムはディテクタの非直線性による誤差を 大幅に小さくする傾向を持つため、温度ドリフトが主な誤差原 因になります。この方法の欠点は、キャリブレーション手順に 時間がかかり、複数のスロープとインターセプト・キャリブレ ーション係数を格納するメモリが増えることです。 図 8 に、パワー・ディテクタのダイナミック・レンジの下限と 上限での動作の興味深い違いを示します。マルチポイント・キ ャリブレーションはダイナミック・レンジの上限まで広がりま すが、この範囲の拡張は、温度ドリフトが大きくなるため、あ まり役立ちません。周囲温度、高温、低温でのカーブが−10 dBmを超えて広がることに注意してください。低い電力レベル では、この結果は役立ちます。この場合も、マルチポイント・ キャリブレーションはダイナミック・レンジの下限を広げるの に役立ちますが、このケースでは、高温と低温のカーブが周囲 温度でのカーブが非直線になったとしてもこれに密接に追従し ます。したがって、この非直線性がマルチポイント・キャリブ レーションを使って除去されても、このキャリブレーションは 温度に対して非常に良く動作します。これにより、AD8318 の 伝達関数の下限が−65 dBmまで有効に広げられます。 結論 正確な RF 電力送信が必要とされるアプリケーションでは、何ら かのシステム・キャリブレーションが必要です。現代の IC を採 用した RF パワー・ディテクタは直線の応答を持ち、温度と周 波数に対して安定しています。これによりシステム・キャリブ レーションが大幅に簡素化され、±0.5 dB より優れたシステム精 度を提供することができます。キャリブレーション・ポイント の配置と数は、実現可能なポストキャリブレーション精度に大 きな影響を与えることがあります。 © 2009 Analog Devices, Inc. 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