高級冷間ダイス鋼 SLD

高級冷間ダイス鋼 SLD
1 特 長
2 主な用途
YSS高級冷間ダイス鋼SLDは、冷間型用鋼のなかでは
1.焼入性が大きく、空気焼入れができる。
2.熱処理にとるひずみが非常に小さく安定している。
3.耐摩耗性がきわめて大きい。
4.同一硬さでじん性が大きい。
5.品質が安定している。
の特長を有し、 各種冷間プレスおよび冷間鍛造用金型材
やねじの各種成形ダイスならびに特殊な成形ロール、精密
ゲージ、シャー刃などの材料に賞用されています。
SLDを一層効果的にご使用いただきますよう特長、取扱
い要領ならびに用途例についてご紹介いたします。
1 特 長
SLDは焼入性、耐摩耗性が非常に大きく、熱処理ひずみの小さい耐摩不変用鋼で、特に工具として非常に大切なねばり
SLD
強さを一段と高くしていることが特長であります。以下SLD
SLDのこれら特長を具体的にご紹介いたしましょう。
SLD
1/1 特長の概要
●安定した品質→ミクロ組織が均斉
●ゆとりをもって熱処理が行える。
→加工が容易。
●ゆとりをもって熱処理が行える。
①焼入性が大きく空気焼入れができる。
●工具としての寿命がアップする。
SLDは非常に焼入性が大きく、いわゆる自硬性があります
SLD
から、焼入温度からの大気中放冷(空冷)で十分焼入れすること
1/2 特長の詳細
ができます。約 20φのものは空冷しても、これを油焼入れした
と同じように中心部まで均一に 65HRC 前後の硬さが得られ、また、
90φ位の太物でも中心部の硬さは 60HRC 以上を示し、
一般の SKD11
●安定した品質→ミクロ組織が均斉
より焼入性は大きくなっています。
→加工が容易。
このようにSLD
SLDの焼入性はすぐれていますので空冷などの除
SLD
SLDはすぐれた製鋼技術と卓越した鍛造・圧延作業そして最
SLD
新式の自動温度制御の大形連続焼なまし方式などを駆使、徹底し
冷却にて十分焼入れすることができ、したがって焼割れ、焼狂い
などの欠陥が少なく、焼入れに際して余裕のある作業が行えます。
た品質管理を行なって製造していますので、炭化物はより微細・
均一で安定した品質の素材を提供しています。また、そのため素
材の硬さは 248HB 以下となり機械加工性も非常にすぐれておりま
②熱処理ひずみが非常に小さく、しかも安定している。
第2図に棒状試片によるSLD
SLDとSKD11の熱処理ひずみ
SLD
の比較例を示します。
す。
第 1 図にSLD
SLDの焼なまし組織を示しますが、機械加工の詳細
SLD
SLDの熱処理ひずみはSKD11に比べ著しく小さくなっ
SLD
ています。
は 5.3.で紹介します。
0.1
│
0
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
SLD
変形率(%)
0.2
│
0.3
│
長さ方向
直角方向
SKD11
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
変形率(%)=
L1 ー L 0
L0
×100
L0:熱処理前の寸法、L1:熱処理後の寸法
第 1 図 SLDの焼なまし組織(×400)
SLD
試片寸法:8φ×80L
第2図
-1-
棒状試片によるSLD
SLDとSKD11の熱処理ひず
SLD
みの比較
●工具としての寿命が向上する。
①じん性が大きい。
SLDは第1表に示すごとく工具のじん性を害するP,S,Cu
SLD
じん性
大きい
抗折荷重(N)
2000
3000
4000
│
│
│
(61.5)
小さい
などの不純物はSKD11より著しく少なく、SKD11では得
SKD
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
成分
P
S
Ni
Cu
第3図
じん性
小さい
SLDはSKD11に比べ約
30%高いじん性値を有しており
SLD
大きい
SLD
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
20
│
10
│
30
│
40
│
(61.5)
10R
10
示します。
5φ
10Rシャルピー衝撃値(J/cm2)
0
第3図および第4図にSLD
SLDとSKD11のじん性の比較例を
SLD
50L
SLDとSKD11の抗折荷重、たわみの比較
SLD
じん性を表わす試験方法としましては静的な抗折試験、動的な
シャルピー衝撃試験があります。
荷重
(
│
1.0
0
SLD ≦0.025 ≦0.010
SKD11 ≦0.030 ≦0.030
(61.7)
)内は硬さHRC
│
│
│
2.0
3.0
4.0
たわみ(mm)
破断荷重
たわみ
2
第1表 SLDとSKD11の不純物量
SLD
鋼種
1000
│
0
SLD
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
られない非常に高いねばり強さを有しております。
SKD11
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
55
(61.7)
(
10
)内は硬さ HRC
ます。
②耐摩耗性が大きい。
第4図
SLD と SKD11のシャルピー衝撃値の比較
SLDは高純度の原料を使用しているため、マトリックスの強
SLD
化、炭化物の形状の良さなどが理想的な状態となり、耐摩耗性が
良い
著しくすぐれております。
第5図に西原式ころがり滑り摩耗試験によるSLD
SLDとSKD1
SLD
1の耐摩耗性の比較例を示します。
SLDの耐摩耗性は同一硬さでSKD11より約2割すぐれて
SLD
おります。
0.01
│
0
SLD
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
悪い
最大圧力:5.93MPa
潤滑油:使用せず
回転速度 上部資料:65m/min
(61.7)
下部資料:73m/min
SKD11
1,010℃焼入れ
200℃焼戻し
③疲労強度が大きい。
耐摩耗性
摩擦量(g)
0.02
0.03
│
│
西原式摩擦試験機
(61.5)
荷重:588N
(
第5図
)内は硬さ HRC
SLDとSKD11の耐摩耗性の比較
SLD
6
アイソトロピイSLD
SLDは第6図の疲労試験に示すように
10 ∼
SLD
107 の繰返し回数では、約 60N/mm2 の疲労強さの向上が見られま
ロピイ材は 50,000 回を示しています。
2
損に至る繰返し回数として従来材の 13,000 回に対し、アイソト
1000−
応力(N/mm )
す。また、600N/mm2 レベルの応力下で使用される金型の場合、破
900−
800−
700−
600−
SLD(アイソトロヒイ)
SLD
500−
400−一般市販材(SKD11)
│
│
4
5
10
10
繰返し回数
第6図
SLDの回転曲げ疲労強度
SLD
(試験片硬さ60HRC)
-2-
│
6
10
│
7
10
2 主な用途
第2表に耐摩耗性のすぐれたSLD
SLDの特長を生かした主な用途とその硬さの例を示します。
SLD
材質面でおこまりの点および特殊な用途・形状のものについてご照会いただければ、いつでも十分ご納得いただけるよう技術的相談を承
っております。
第2表
SLDの主な用途とその硬さ
SLD
用途
硬さ(HRC)
各種プレス型(抜き型、コールドホビ
ング用ホブ型、冷間鍛造型など)
55∼62
ねじ転造用丸および平ダイス
58∼63
冷間成形ロール
(80HS以上)
薄板成形ロール
(80HS以上)
引抜ダイス
58∼63
薄板シャー刃
55∼62
精密ゲージ類
60∼65
プラスチック成形用型
50∼60
大径管 20 吋用
冷間成形ロール
-3-
第3表にSLD
SLDの代表的使用例とその効果について紹介いたします。
SLD
第3表
SLDの代表的使用例
SLD
工具名称
使用条件
効果
パンチ
プレス:15㌧自動プレス
従来、SKD11でパンチ(丸棒より
打抜き速度:100 stroke/min
削り出し、61∼62HRCに熱処理)、ダイ
被加工材:SK4
を制作、打抜き作業されていたのを、
厚さ0.5mm
パンチにYSS標準パンチ、ダイに
硬さ270HV
SLDを使用することによって製品打抜
SLD
き精度が向上し、パンチ寿命もバラツキ
ダイの熱処理:
打抜材のかえり高さ(mm)
ダイ
1010℃空気焼入れ
が少なく安定した長寿命となりました。
200℃2回焼戻し
10φmmの打抜き製品における精度比較の
硬さ 60∼61HRC
例を下記します。
0.08−
−
0.06−
SKD11
−
0.04−
−
0.02
│
0
SLD
│
│
│
│
│ │ │ │ │
2
4
6
8
10
自動プレスによるSLD
SLDとSKD11
SLD
の打抜き精度比較
│
従来、使用のSKD11では、
転造ダイス
転造盤:25㌧転造盤
(ハイテンションボルト
製造用)
被加工材:SCM435
硬さ32HRC
ねじ形状:10MP1.0
12,000ケ程度の転造でねじ山の圧
潰および割れが発生し寿命となっ
ていたが、SLD
SLDの使用により転
SLD
造数が20,000ケと大幅に向上しまし
た。
なお、量産用にはSLD
SLDの耐摩
SLD
耗性をさらに向上したSLD2
SLD2が
SLD2
使用されております。
-4-
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〒105-8614 東京都港区芝浦一丁目2番1号 シーバンスN館
TEL 03-5765- 4410 特殊鋼カンパニー
この資料に記載の特性値は代表的なデータであり、実際の製品で得
られる特性値とは異なることがありますのでご注意ください