高級冷間ダイス鋼 SLD 3 冷間加工用YSSヤスキハガネの正しい選び方 4. 正しい使い方 正しい選び方 正しい選び方 ● 工具を経済的にうまく使いこなすためには、その工具が量産用か少量生産用か、 要求される性質が耐摩耗性か耐衝撃性かなどの使用条件を十分把握した上で、 その用途に最適の鋼種を選ぶ必要があります。 正しい使い方 ●鋼材の繊維状組織を考慮して正しい材取り方法を採用する。 ●極端な薄肉部がある場合は分割型が好ましい。 ● 切欠きは熱処理時の割れや使用中の早期割れの原因となるので、設計上許す限り大きな Rを施す。 ●バイト目跡の残存は応力集中を受けやすく、仕面精度の良好なほど工具寿命は向上する。 ● 精密工具、熱処理ひずみを特に嫌う工具では荒削り後、応力除去焼なましを行うと効果 がある。 ●仕上研削作業において、重研削は研削割れ、研削焼けの原因となるので絶対避ける。 3 冷間加工用YSSヤスキハガネの正しい選び方 3/1 生産量と被加工材の種類による選び方 工具を経済的にうまく使いこなすためには、その工具が量産用 本例に適用した各諸元を第6表および第7表に示します。 第6表 か少量生産用か、要求される性質が耐摩耗性か耐衝撃性かなどの 使用条件を十分把握した上で、その用途に最適の鋼種を選ぶ必要 緒元 があります。 金 第4表および第5表に厚さ 3mm 以下の薄物材料の打抜き、曲げ、 型 費用諸元(金型単重2kg) 鋼種 SK3 SLD X 2.19X 金型1個当りの生産量 費 5,000個 12,000個 製品1個当りの金型費 X/5,000 2.19×/12,000 絞りなどのプレス加工に使用されるYSSヤスキハガネの生産 数量の大小 に対する鋼種の選び方、被加工材の種類 による選び 金 型 費 節 2.19X 12,000 X 5,000 減 方の参考例を示します。 X100 = 90% 故に10%の節減となる。 SK3の金型費(=金型材料費+機械加工仕上費+金型熱処理費) 第4表 型種 ポ 生産数量に対する材料の選び方 総生産量(個) ン チ ダ イ <5,000 5.000 50,000 ∼50,000 ∼100,000 >100.000 SGT SLD SLD SLD YXR7(窒化) SLD8 YXR7 HAP40 SLD SLD YXR7 SLD8 SLD8 HAP40 SLD SLD SGT SLD8 SLD8 SGT ノック アウト DM ポ ン チケース DM DM DAC DAC ダ イ リ ン グ DM DM DM DAC DAC 第5表 第7表 ポ ン チ 総生産量 少量生産 被加工材 (1,000円/時) SK3 不 稼 動 時 間 1.2時間 1.88X 6.8時間 1 日 生産個数 12,133個 SLD 8時間 0.55時間 0.86X 7.45時間 13,271個 鋼種 不稼動損 実動時間 1日当り 12,133 個生産していたSK3の工具交換サイクルは毎 回 30 分ずつ 2.4 回でしたが、一方SLD SLDでは 1.1 回ですむための SLD 生産は1日 13,271 個となりました。 ダ 大量生産 イ 少量生産 大量生産 以上の結果 全経費(金型費+不稼動損失)を考慮した製品1個当りの生産量 SLD8 SLD SGT SGT SLD 炭素鋼 (C<0.4%) SLD8 SLD SGT YXR7 SGT SLD SK3の場合: 合金工具鋼 SLD8 YXR7 SGT SGT SLD SLD (b)+(c) SLD YXR7 YXR7(窒化) HAP40 オーステナイト系 ステンレス鋼 稼動諸元 1日稼動 予定時間 8時間 諸元 被加工材の種類に対する材料の選び方 型種 アルミ合金 および銅合金 をXとして示す。 SLD YXR7 HAP40 は次の通りであります。 (d) = X×2.4+1.88X X 12,133 = 4.28X X円 12,133個 …(a) SLDの場合: SLD X円 2.19X×1.1+0.86X X 3.17X 2.19X (b)+(c) = = …(a) 13,271 (d) 13,271個 3/2 経済性向上の一例 加えてSLD SLD使用の場合、1日当りの生産量はSK3に比べ SLD つぎに 7/8 インチボルト製造用ヘッダーダイに従来SK3を使 13,271 x100=110% 12,133 用していたものを、耐摩耗性のすぐれたYSS降級冷間ダイス 鋼SLDに変更した場合の経済性の一例をご紹介いたします。 10%の増産となるため、 経済性は材料費、加工費、熱処理等を含んだ金型費等を総生産 3.17X X 13,271 4.28X X 12,133 量で割った製品1個当りの金型費で比較できます。 (b)金型費+(c)不動稼動損 (a)=製品1ケ当りの金型費= (d)良製品の総生産量 1 × 1.1 ×100 ≒63% 約37%のコストダウンとなりました。 -5- 4. 正しい使い方 SLDの加工にあたっては、 SLD ●鋼材の繊維状組織を考慮して正しい材取り方 法を採用する。 ●極端な薄肉部がある場合は分割型が好ましい。 ●切欠きは熱処理時の割れや使用中の早期割れの 原因となるので、設計上許す限り大きなRを施 す。 ●バイト目跡の残存は応力集中を受けやすく、仕 上面精度の良好なほど工具寿命は向上する。 ●精密工具、熱処理ひずみを特に嫌う工具では荒 削り後、応力除去焼なましを行うと効果があ る。 ●仕上研削作業において、重研削は研削割れ、研 削焼けの原因となるので絶対避ける。 の配慮が必要であります。 4/1正しい材取り方法 鋼材から各種工具を加工する場合、できる限り加工時間を短縮するように配慮されることはもちろんでありますが、鋼材の鍛造または 圧延による繊維状組織をも考慮して、より合理的な材取り方法をご採用いただきますようお願いいたします。 第7図に正しい材取り方法の一例を示します。 特に冷間ダイス工具鋼、高速度工具鋼は耐摩耗性向上に顕著な効果のある一次炭化物を多量に生成させた顕微鏡組織を呈するため、材 取り方法が不適ですと工具の性能を大巾に低下することがありますので注意してください。 B A この場合AとBを別な素材より作るように設計する 不適 適正 このような場合右図のように平鋼より材取りする 第7図 正しい材取り方法の一例 第8図に示すように素材の長手方向は、作業時に発生する加工主応力と直角にしてください。 適正 不適 加工主応力 加工主応力 素 材 長 手 方 向 素材長手方向 第8図 正しい材取り方法の一例 -6- (事故例と対策) 第8図は 32t×50w の平鋼材によりタイプ文字コイニング用型に加工、使用されたところ、早期に欠けを生じた例であります。 第9図 第 10 図 コイニング型の欠け例 割れの進行状況(×400) 調査の結果、硬さは目標の 61±1 HRC の規格を満足しており、焼入れ焼もどしとも良好な熱処理が実施されており、異常は認められま せんが、割れは第 10 図に示すごとく炭化物に沿って進行しております。 この事故原因は加工主応力が素材長手方向と一致したためで、材取り方向を直角に改めることによってこの種の事故は完全に防止するこ とができました。 -7- 4/2 焼入前の切削加工と 応力除去焼なまし また、切欠け部は熱処理のときの焼割れ、使用中の早期疲労割 れの原因となりますますので、設計上許せる限り大きなRを 施すことが好ましく、仕上面精度は美麗にする方が応力集中を受 SLDの焼なまし素材のミクロ組織は一次、二次炭化物とも微 SLD 細かつ均一で、硬さも 248HB 以下であり切削加工は容易でありま けにくく、工具を長持ちさせるコツであります。 す。 熱処理後は硬化するため、仕上加工は能率が悪くなりますので、 焼入れ前の仕上げ代は少なくし、熱処理後研削仕上げを行って所 (事故例) 第 14 図はSLD SLDを SLD 58∼59 HRC に熱処理し、冷間鍛造プレス金 定の寸法に仕上げます。 型として使用したところ、正常品の寿命数 20,000 ショットに対 切削加工を行う場合は鋼材の脱炭深さを考慮して第8図に準じ し4分の1の 5,000 ショットで早期割れを生じた例であります。 た加工代を十分にとってください。 脱炭層が切削加工後残る場合、焼入れの際の硬さ不良、焼むら、 焼割れ、焼曲りの原因となります。 第9表にバイトおよびエンドミルによる素材の切削加工諸元を 示します。 第9表 SLD焼なまし素材の切削加工諸元 SLD 加工条件 切削工具材種 加工方法 旋 盤 エンドミル 正 面 フライス エンドミル Al2O3-TIC セラミック Al2O3 コーティング TiN サーメット TiCN コーティング 送り速度 (mm/rev) 切込み (mm) 100∼120 0.3≧ 4.0≧ 100∼150 0.5≧ 6.0≧ 120∼150 mm/刃 0.1∼0.15 5.0≧ 100∼120 0.1∼0.12 外周刃 5.0≧ mm/刃 0.08∼0.12 mm/刃 0.1∼0.12 mm/刃 0.1∼0.12 mm/刃 0.1∼0.12 外周刃 0.15 D 先端刃 2.0 D 外周刃 0.2 D 先端刃 2.2 D 外周刃 0.2 D 先端刃 2.2 D 外周刃 0.8 D 先端刃 5.0 ≧ Coハイス 18∼25 超微粒子合金 25∼30 (TiAl)N コーティング スローアウエイエ (TiAl)N ンドミル コーティング ドリル 切削速度 (m/min) 35∼45 100∼120 Coハイス 10∼15 0.12≧ φ10∼φ25 TiCN コーティング 5∼8 0.03∼0.05 φ3.0∼φ10 第 14 図 冷間鍛造プレス金型の割れ例 調査の結果、熱処理の異常は認められませんでしたが、割れは 第 15 図のように、内径段付き隅肉部より発生しており、隅肉部 にはRが施されてなく、バイト目跡の残存も認められました。 この部分に使用中、応力集中を受け割れにいたったものであり ます。 熱処理ひずみを特に嫌う精密ゲージ、精密打抜型などの工具は 荒削り加工後、加工による内部ひずみを除去するための応力除去 焼なましを行なうと効果があります。 球状化焼なまし温度の 820∼870℃に加熱するとパーライト変態が おこり、脱炭も生じやすくなり逆効果となりますので、600∼700℃ の温度を採用してください。 第 13 図に応力除去焼なまし要領を示します。 第 15 図 600∼700℃ (目標650℃) 徐 熱 300℃以下の 炉にいれる 炉 冷 1.5∼2時間 25mmにつき 第 13 図 SLDの応力除去 SLD 焼なまし要領 -8- 断面における割れ状況 4/3 熱処理品の研削加工例 第 10 表および第 11 表にSLD SLDの外筒研削、平面研削諸元を第 12 表にバイトによる切削加工諸元を示します。 SLD 第 10 表 SLDの外筒研削諸元 SLD (研 削 条 件) 使 用 機 械 被研削材かたさ 使用砥石 砥粒 粒度 結合度 結合剤 仕上精度 荒 研 削 仕 上 研 削 砥 石 速 度(m/min) 1,000∼1,600 1,000∼1,300 単 位 切 込 量(mm) 0.01∼0.02 0.005以下 諸元 円筒研削盤 80HS GC系砥石 荒研削用46∼100番 仕上研削用 100番以上 H∼I ベークライト またはビトリファイド 工作物1回転につき 工作物1回転につき 縦 送 り 速 度 砥石幅の 3/4∼1/2 砥石幅の 1/2以下 10∼15 5∼12 荒 研 削 仕 上 研 削 砥 石 速 度(m/min) 1,000 1,000 単 位 切 込 量(mm) 0.01∼0.05 0.02以下 テーブル速度(m/min) 15∼30 10∼20 被研削物速度(m/min) 第 11 表 SLDの平面研削諸元 SLD (研 削 条 件) 使用機械 主軸円テーブル形 平面研削盤 被研削材かたさ 80HS 使用砥石 砥粒 GCまたはWA 粒度 荒研削用30∼60番 仕上研削用80番以上 結合度 H∼I 結合剤 ベークライト またはビトリファイド 仕上精度 諸 元 第 12 表 SLD熱処理済品の切削加工諸元(硬さ 80HS) SLD 加工条件 加工方法 旋 盤 エンドミル 正 面 フライス 切削工具 材種 超微粒子合金 12∼15 送り速度 (mm/rev) 切込み (mm) 0.3≧ 2.0≧ 0.5≧ 2.0≧ mm/刃 0.1≧ 1.5≧ mm/刃 0.05 超微粒子合金 (TiAl)N (TiAl)N コーティング コーティング スローアウエイ (TiAl)N (TiAl)N エンドミル コーティング コーティング Coハイス ドリル 切削速度 (m/min) Al2O3-TIC Al2O3-TIC 100∼120 セラミック セラミック AL2O3 CBN 100∼150 コーティング TiN サーメット (TiAl)N 50∼60 コーティング TiCN コーティング Coハイス エンドミル 切削工具 材種 TiCN コーティング (TiAl)N 超硬 コーティング 15∼18 mm/刃 0.05 (事 故 例) 第 16 図に重研削されたため生じたプレス抜型の研削割れの代 表例を示します。 研削割れの特徴としましては、割れは研削方向に直角に亀甲状 に生じ、焼入温度が高過ぎる場合、焼もどし不足のときには特に 発生頻度が高くなりますので、研削作業のほか、熱処理作業には 外周刃 0.02D 先端刃 1.5D くれぐれも留意してください。 ★湿式切削不可 外周刃 0.02D 先端刃 2.0 D ★湿式切削不可 mm/刃 60∼70 0.05 外周刃 0.8D 先端刃 2.0 ≧ 12∼15 0.01 ∼ 0.02 φ3.0∼φ10 冷間ダイス工具鋼は合金工具鋼に比べ耐摩耗性を付与する一次 炭化物が多く、焼入時の残留オーステナイト量も多いので研削割 れ、研削焼けを起こし易く、慎重な作業が必要であります。 第 16 図 -9- 研削割れの例 <研削割れ防止法> 焼なまし (1)残留オーステナイト量を少なくする→焼入温度は低目。 (2)焼もどしは完全に2回繰返して実施する。 SLDは完全な球状化焼なましを施してありますから一般には SLD 焼なましをする必要は全くありません。 (3)熱処理脱炭を避ける。 (4)研削作業後再び焼もどしする。 (5)1回の研削量を少なくする。 830∼880℃ 徐冷 (6)冷却剤を十分使用する。 550℃ 炉冷 徐熱 (7)適正砥石の選定と目づまりの防止。 300℃以下の 炉にいれる 約60分 20℃以下 25mmにつき 1時間につ 第 18 図 SLDの焼なまし要領 SLD 4/4 鍛造要領と焼なまし 鍛造要領 SLDはすべて入念な鍛造と完全な球状化焼なましを行なって SLD ただし前記の鍛造を行なった場合にのみ第 18 図に示す要領で いなすから再鍛造の必要はありません 。もし再鍛造される場 焼なましをしてください。鋼材は熱間加工により内部ひずみが残 合は第 17 図の要領で実施ください。 り、このため硬さのむらや、熱処理変形を生じるころがあります。 1,050℃ 徐 熱 分 25mmにつき 理的な方法で組織の調整を行なうとともに、炭化物を完全球状化 炉 冷 約30 300℃以下の 炉にいれる 特にSLD SLDは高炭素高クロム系の合金工具鋼でありますから合 SLD 850℃ (目標900℃) 鍛造温度 範 囲 させることが、前述のようにきわめて重要なことであります。 30℃以下 1時間につき 第 17 図 SLDの鍛造要領 SLD SLDは耐摩耗性を付与するため 12%のクロムを添加していま SLD すので、非常に自硬性があります。そのため、加熱と鍛造後の冷 却はゆっくりとまた温度むらを生じないように作業してください。 特に鍛造後の空冷は絶対避け(焼きが入り、割れやすくなる)で きるだけ炉冷を行い、炉の都合でやむをえない場合は灰冷を実施 してください。 (注意事項) (1)鍛造温度の高過ぎや長時間加熱は肌荒れ、表面脱炭、鍛造 疵の原因となりますので加熱温度と保持時間は正しく守ってくだ さい。 (2)鍛造終了温度は目標を 900℃とし最低 850℃までとします。 したがって、作業中にこれ以下の温度になったら再加熱して作業 してください。しかし加熱を繰返しますと表面脱炭が起こり易く、 結晶粒の粗大化しますので加熱を繰返さないようすばやく鍛造す ることが大切です。 鍛造後は内部ひずみを除き、組織を均一にし、かつ適正な被削 性をもたせるために必ず炭化物の球状化焼なましを行なってくだ さい。 - 10 - ● お問い合わせ、詳細な資料のご請求は下記の担当者へ 〒105-8614 東京都港区芝浦一丁目2番1号 シーバンスN館 TEL 03-5765- 4410 特殊鋼カンパニー この資料に記載の特性値は代表的なデータであり、実際の製品で得 られる特性値とは異なることがありますのでご注意ください