アプリケーションノート39 1990 年 2月 昇圧トランスの設計における寄生容量の影響 Brian Huffman 図 1のような昇圧設計の最も重要な構成要素の1つはトラン スです。 トランスには寄生成分があり、トランスをその理想的 特性から外れさせることがあります。2 次側に関連した寄生容 量は、スイッチの電流波形のリーディングエッジに大きな共振 電流スパイクを生じることがあります。 これらのスパイクにより、 レギュレータの動作が不安定になることがあり、デューティサ イクルの不安定性として現れます。この影響は非常に高い電 圧の設計ではさらに悪化します。 トランスの設計に注意を払う ことによりこの問題を解決することができます。 寄生コンデンサの高周波電流経路を図 2に示します。動作の 解析では、入力電圧と出力電圧はACグランドであると仮定し ます。したがって、寄生コンデンサは全て並列です。 トランスの 2 次側はこれらのコンデンサのAC 電流経路を与えます。2 次 側には1 次側の電流のN 倍の電流が流れます。寄生容量と 巻数比が増加するにつれ、1 次側電流は累進的に大きくなり ます。 D1 MUR1100 VIN 8V TO 15V 4 5 5A30 3W VIN + MUR110 VSW 8 7• • 11 R1 + 6.8k** C1 200pF** 2 D2 MBR360** LT1070 100µF • L1 VOUT 330V 50mA 100µF 475k* VFB GND VC 1.82k* 1k 1µF AN39 F01 * = 1% FILM RESISTORS ** = OPTIONAL—SEE TEXT FOR DETAILS MBR360 = MOTOROLA MUR1100 = MOTOROLA L1 = COILTRONICS* CTX30203C04 図 1.高電圧電源 CPS IPS CD ID MUR1100 • 4, 5 L1 11 IPRI = N(IPS + IS + ID) IS 7, 8 VSW • CS 2 ISECONDARY AN39 F02 MUR1100 = MOTOROLA L1 = COILTRONICS CPS = PRIMARY-TO-SECONDARY INTERWINDING CAPACITANCE CS = SECONDARY DISTRIBUTED CAPACITANCE CD = DIODE CAPACITANCE N = TURNS RATIO 図 2.寄生コンデンサの AC 電流経路 an39f AN39-1 アプリケーションノート39 この回路の動作波形を図 3に示します。スイッチ (VSWピン̶ト レースA)が「オン」 すると、1 次側がグランドに引っ張られます。 2 次側は、その寄生コンデンサの負荷効果のため、このアクショ ンに瞬時に従うことはできません。寄生容量の影響は、スイッチ の電流波形のリーディングエッジで容易に見て取ることができ ます (トレースB)。この電流スパイクは2 次側の寄生容量の負 荷効果によって生じます。2 次側の出力 (トレースD)の振幅は 600Vを超えることがあります。したがって、スイッチング過渡変 動の間このノードを振幅させるには、大量の電荷(Q = C • V) が 必要です。 2 次側電流は巻数比だけ増幅され、1 次側電流 IPRI = N(IPS +IS +ID) を生じます。この増幅効果は、IS の影響を含まない 2 次側電流(トレースC) を、 スイッチ電流(トレースB) と比較す ることにより、観察することができます。その結果はかなり大き な電流スパイクです。 この応答の発振しやすい性質は、漏れインダクタンスと反射さ れた2次側容量の直列組み合わせによって形成されます (図4 を参照)。2 次側に置かれたどのインピーダンスも、巻数比の 二乗を係数にして大きさが減少し、1 次側の端子に現れます。 A = 50V/DIV VSW たとえば、N = 10の場合、200Ωの抵抗は2Ωのように見え、 100pFのコンデンサは0.01μFのように見えるので、2 次側の小 さな容量でも1 次側の大きな負荷になることがあります。直列 LCは自己共振回路を形成し、トランスの共振周波数でリンギ ングを生じます。 出力のスイッチング・ダイオード (D1) は、電流波形に狭いスパ イクを生じることもあります。この場合、ダイオードの逆回復時 間が重要なパラメータになります。逆回復時間は、ダイオード がその順方向導通サイクルの間に電荷を 「保存」 するため生じ ます。この保存された電荷により、逆ドライブが加えられた後 の短い時間、ダイオードは低インピーダンスの導電性素子の ように振る舞います。 スイッチのターン 「オン」 に続いて、LT1070 がスイッチ電流波 形を無視する短い時間があります (ブランキング時間)。この ブランキング時間により、電流波形のリーディングエッジの電 流スパイクによって 「オン」パルスが時期尚早に終了するのが 防がれます。このブランキング時間が経過した後、ピーク・ス イッチ電流がエラーアンプの出力 (VC ピン) によって定まるス レッショルド・レベルに達すると、出力スイッチが 「オフ」 します。 VIN LLEAKAGE VIN VSW B = 2A/DIV ISW C = 0.5A/DIV ISECONDARY N2 • (CS + CPS + CD) LT1070 GND AN39 F04 VSECONDARY D = 200V/DIV HORIZ = 5µs/DIV 図 4.過渡状態の間の簡略化した1 次側モデル AN39 F03 図 3.高電圧コンバータの動作波形 an39f AN39-2 アプリケーションノート39 この内部で固定されているブランキング時間(400ns) は標準 的アプリケーションに適切です。ただし、高電圧アプリケー ションでは、ブランキング時間が重要なパラメータになります。 トランスの寄生容量の影響により、図 5に示すように、 「スパイ ク」 の幅がブランキング時間を超えてしまい、LT1070を誤って トリガします。 スイッチ・ピン (トレースA) とスイッチ電流(トレー スB) の波形のデューティサイクルの変動は、この問題の結果 です。ブランキング時間とピーク・スイッチ電流の間の相互作 用の詳細を図 6に示します。LT1070 がスイッチ電流をサンプ ルすると直ちにスイッチが 「オフ」 することに注意してください。 LT1070 が適切に動作するには、400nsのブランキング時間が 経過する前に、スパイク電流が正常なピーク・スイッチ電流よ り下がる必要があります。 寄生容量によって引き起こされる別の問題も図 3で見て取る ことができます。トランスの発振しやすい性質により、高い逆 電流が V SW ピンに流れることがあります (トレースB)。これ により、LT1070のサブストレート・ダイオード (これは出力トラ ンジスタに本来含まれています) が順方向にバイアスされます (付録 Aを参照)。サブストレート・ダイオードが順方向にバ イアスされると、不要の電流が ICの回路のほとんどどこでも 流れることができ、予期せぬデューティサイクルの振る舞いを 生じます。 A = 20V/DIV VSW B = 1A/DIV ISW サブストレート・ダイオード電流は、VSW ピンとグランドの間に ショットキー・ダイオード (D2) を接続することにより防止するこ とができます (図1)。1次側逆電流はLT1070の代わりにショッ トキー・ダイオードを通って流れます。サブストレート・ダイオー ドが導通するのを防ぐ別の方法は、RCスナバ (R1-C1) を2 次 側に接続することです。これにより、リンギングが減衰します。 よく知られたトランスの巻線方法を使って、昇圧トランスの寄 生容量を最小に抑えることができます。基本的な技法は、2 次 側の隣接する層間の電圧差を最小にするように層の巻線を 行うことです。これを達成する標準的方法は、スプリット・ボビ ンにいくつかの別個の2 次側「スタック」 を巻くことです。この 方法やその他の方法により、2 次側容量が大幅に減少します。 トランスの情報に関しては、下記にお問い合わせください。 Coiltronics 984 Southwest 13th Court Pompano Beach, FL 33069 305-781-8900 A = 20V/DIV VSW B = 2A/DIV ISW HORIZ = 20µs/DIV HORIZ = 2µs/DIV 図 5.電流スパイクによるデューティサイクルの不安定性 図 6.スイッチの電流スパイクの詳細な波形 an39f リニアテクノロジー・コーポレーションがここで提供する情報は正確かつ信頼できるものと考えておりますが、その使用に関する責務は一切負 いません。また、ここに記載された回路結線と既存特許とのいかなる関連についても一切関知いたしません。なお、日本語の資料はあくまで も参考資料です。訂正、変更、改版に追従していない場合があります。最終的な確認は必ず最新の英語版データシートでお願いいたします。 AN39-3 アプリケーションノート39 付録 A 縦方向 NPN出力スイッチ・トランジスタが通常モード (「オン」 または 「オフ」) で動作していると、寄生トランジスタはオフして おり、影響はありません。寄生トランジスタは、逆スイッチ電流 によって縦方向コレクタがサブストレートの電位より下に引っ これによってコレクタとサブス 張られるとアクティブになります。 トレートのジャンクションが順方向にバイアスされ、これは一 般にサブストレート・ダイオードと呼ばれます。その結果、回路 の他の部分から寄生 NPNに電流が流れます。この電流が横 方向 PNPのベース・ドライブと、NPNのコレクタ電流に加わり、 ICの不可解で予測不可能な振る舞いを引き起こします (図 A2を参照)。 ジャンクションで絶縁されたICでは、図 A1に示すように、モ ノリシック・トランジスタは絶縁のためのP-Nジャンクションに よって囲まれています。このジャンクションが逆バイアスされて いると、チップ上の1つのデバイスを別のデバイスから電気的 に絶縁します。ただし、このデバイス構造は寄生横方向 NPN トランジスタも形成します (図 A2を参照)。Pサブストレートは ベース、Nエピ領域はエミッタ、コレクタは他の全てのNエピ・ ポケットです。NPNセルの簡略回路図を図 A3に示します。 EMITTER BASE N+ COLLECTOR N+ P P P N– N+ ( P SUBSTRATE TIED TO GROUND PIN OF LT1070 ) AN39 FA1 図 A1.ジャンクションで絶縁されたNPN 構造 (LATERAL PNP) COLLECTOR P P EMITTER Q1 P (VERTICAL NPN) COLLECTOR Q1 P BASE ISOLATION WALL N+ EMITTER BASE N+ P (VERTICAL NPN) ISOLATION WALL COLLECTOR N+ P N– P N– N+ N+ PARASITIC NPN EMITTER BASE N+ COLLECTOR N+ P N– N+ P AN39 FA2 PARASITIC NPN P SUBSTRATE 図 A2.横方向 NPN が形成される場所 VSW (LT1070 SWITCH PIN) ANY POCKET IN THE CIRCUIT LT1070 OUTPUT SWITCH PARASITIC LATERAL NPN BASE SUBSTRATE LT1070 GROUND PIN AN39 FA3 図 A3. 寄生要素を伴うLT1070 の出力スイッチの回路図 an39f AN39-4 リニアテクノロジー株式会社 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-6紀尾井町パークビル8F TEL 03- 5226-7291 ● FAX 03-5226-0268 ● www.linear-tech.co.jp IM/GP 290 • PRINTED IN JAPAN LINEAR TECHNOLOGY CORPORATION 1990