第06章 化合物光半導体 受光素子

化合物光半導体 受光素子
1 InGaAs/GaAs PINフォトダイオード
1-1
1-2
特性
使い方
2 InGaAs APD
2-1
2-2
2-3
動作原理
特性
使い方
第 章
6
8 MCT(HgCdTe)光起電力素子
8-1
8-2
特性
使い方
9 複合素子
10 オプション
章
6
3-1
3-2
3-3
3-4
構造
特徴
特性
使用上の注意
4 PbS/PbSe光導電素子
4-1
4-2
4-3
動作原理
特性
使い方
5 InSb光導電素子
6 InAs/InAsSb/InSb光起電力素子
6-1
6-2
化合物光半導体 受光素子
3 ROSAモジュール
11 新たな取り組み
11-1 高速InGaAs PINフォトダイオード
11-2 100 Gbps ROSAモジュール
11-3 InAsSb光起電力素子
12 応用例
12-1 光パワーメータ
12-2 LDモニタ
12-3 放射温度計
12-4 距離計測
12-5 フレームアイ
(炎検出)
12-6 水分計
12-7 ガス分析計
12-8 赤外線撮像装置
12-9 リモートセンシング
12-10 選別機器
12-11 FT-IR
特性
使用上の注意
7 MCT(HgCdTe)光導電素子
7-1
7-2
特性
使い方
169
化合物光半導体
受光素子
化合物光半導体 受光素子は、
主にⅡ∼Ⅵ族の複数の元素によって構成された光半導体素子です。
構成する元素によって異
なった感度波長範囲をもち、
紫外∼赤外域でさまざまな波長域に感度のある受光素子を作製することができます。
当社は、
長年培った化合物光半導体の製造技術を駆使し、
さまざまな波長域の検出素子を取りそろえています。
特に赤外線
領域において幅広いラインアップの検出素子を用意しています。
当社の化合物光半導体 受光素子の応用分野は、
学術研究か
ら情報通信機器、
民生機器までの広い範囲に及んでいます。
化合物光半導体 受光素子の分光感度特性 (代表例)
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDB0259JI
170
浜松ホトニクスの化合物光半導体 受光素子
製品名
感度波長範囲 (µm)
0
1
2
0.5
0.9
InGaAs PINフォトダイオード
0.9
1.7
短波長高感度タイプ
0.5 µmから検出が可能
1.7
標準タイプ
高速応答、高感度、低暗電流
各種受光面サイズ、
アレイ、
パッケージを用意
水分吸収波長帯 (1.9 µm)の光計測用
電子冷却型も用意
2.1
NIR分光器用
電子冷却型も用意
2.6
0.9
0.95
高感度、高速応答、低容量、低暗電流
各種受光面サイズを用意
1.7
高速応答、高感度、低暗電流
アレイ・各種パッケージを用意
0.57 0.87
GaAs PINフォトダイオード
製品名
1.7 µm付近の光計測用
電子冷却型も用意
1.9
0.9
InGaAs APD
特長
3
感度波長範囲 (µm)
0
5
10
15
20
特長
25
1 3.2
PbSe光導電素子
1
InAs光起電力素子
1 3.8
感度波長範囲はPbSに相当。PbSより高速応答を実現
InAsSb光起電力素子
1
5 µm帯で高感度、高信頼性の赤外線検出素子
高速応答
InSb光導電素子
1
InSb光起電力素子
1
MCT (HgCdTe)光導電素子
1
MCT (HgCdTe)光起電力素子
1
5.5
0.2 4.85
Si + InGaAs
0.32 2.55
標準タイプ InGaAs +
長波長タイプ InGaAs
電子冷却型のため、高感度で長時間にわたり6.5 µm付近
まで検出が可能
6.7
Si + PbSe
化合物光半導体 受光素子
複合
素子
5.8
0.2 3
6
5.2 µmまで検出が可能
同じ波長域に感度をもつ他の受光素子に比べ高速応答で、
常温で使用できるため、
ガス分析計など幅広い範囲で使用可能
5.2
Si + PbS
章
赤外線入射によって抵抗値が減少する光導電素子
常温で使用できるため、放射温度計やフレームモニタなど
幅広い範囲で使用が可能
PbS光導電素子
大気の窓の範囲 (3∼5 µm)で高感度を実現した高速センサ
HgTeとCdTeの組成比の異なる、
さまざまな感度波長範囲
のタイプを用意
赤外線入射によって抵抗値が減少する高感度光導電素子
電子冷却型・デュワ型を用意
25
13.5
高速応答、低ノイズ
広い感度波長範囲をもったセンサ
感度波長範囲の異なる2つの受光素子を同一光軸で上下に
配置
0.9 2.55
10 µm帯に感度をもつ高速検出器 (CO2レーザ光検出用)
常温動作で高速応答
10
フォトンドラッグ検出素子
浜松ホトニクスの光通信用受光デバイス
製品名
波長
InGaAs PINフォトダイオード
プリアンプ付
InGaAs PINフォトダイオード
1.3/1.55
µm
形態
伝送帯域
(周波数)
メタル
(2 GHz)
̶
レセプタクル
ピグテイル
̶
2.5 Gbps
10 Gbps
ROSA
̶
̶
̶
̶
注) 以下の光通信用デバイスも用意しています。
・光量/波長モニタ用フォトダイオード
InGaAs PINフォトダイオード (メタルタイプ、ベアチップタイプ、サブマウントタイプ)
InGaAs PINフォトダイオードアレイ、InGaAsリニアイメージセンサ
・光リンク用フォトダイオード/赤外LED/フォトIC
・空間光伝送用フォトダイオード/赤外LED、VICS車載用投/受光モジュール
171
1.
InGaAs/GaAs
PINフォトダイオード
1-1
特性
電流−電圧特性
InGaAs PINフォトダイオード・GaAs PINフォトダイオード
は、Siフォトダイオードと同じくPN接合をもった光起電力素
子です。
InGaAs/GaAs PINフォトダイオードに暗中で電圧を印加
すると、図1-3 (a)のような電流−電圧特性が得られます。
フォトダイオードへ光を入射させると、
この曲線は図1-3 (b)
[図1-1] 分光感度特性 (InGaAs/GaAs PINフォトダイオード)
の②のようになります。
さらに光を強くすると③のようになり
ます。
ここでフォトダイオードの両端を開放しておくと順方
向に開放端電圧 Vocが現れ、両端を短絡しておくと逆方
向に短絡電流 Iscが流れます。
光電流によって光量を測定する方法を図1-4に示しま
す。
図1-4 (a)は、
負荷抵抗を接続しIo × RLの電圧をゲイン
Gの増幅器で増幅する方法です。
この回路では、
直線性の
範囲は限定されます [この様子を図1-3 (c)に示します]。
図1-4 (b)は、
オペアンプを接続した回路を示します。
オ
ペアンプのオープンループゲインをAとすると、
負帰還回路
Rf
章
の特徴により等価入力抵抗は A となり図1-4 (a)の回路
の入力抵抗よりも数桁小さくなるため、理想的な短絡電流
6
化合物光半導体 受光素子
(Isc)の測定が可能になります。
広範囲の短絡電流を測定
KIRDB0332JE
InGaAsは、Siに比べてバンドギャップエネルギーが小
さいため、S iより長い波長領域に感度をもっています。
する場合は、
Rfを必要に応じて切り替えます。
[図1-3] 電流−電圧特性
(a) 暗中
InGaAsは、InとGaの組成比によってバンドギャップエネル
ギーの値が変わるため [図1-2]、組成比を変えることに
よって、
さまざまな感度波長範囲の赤外線検出素子を作る
ことができます。
当社は、
カットオフ波長が1.7 µmの標準タ
イプ・短波長高感度タイプと、
1.9 µm・2.1 µm・2.6 µmなど
の長波長タイプを用意しています。
[図1-2] バンドギャップエネルギー − InxGa1-xAsの組成比 x
KIRDC0030JA
(b) 光照射時
KIRDB0130JB
KPDC0005JA
172
1. InGaAs/GaAs PINフォトダイオード
(c) 電流−電圧特性と負荷直線
直線性
InGaAs/GaAs PINフォトダイオードの直線性は、
下限は
ノイズで決まり、上限はチップの材料構造や組成、受光部
の面積、電極構造、入射スポット光サイズなどで決まりま
す。上限を伸ばすために逆電圧を印加することもあります
が、直線性だけを考えれば1 V程度を印加すれば十分で
す。
図1-7は逆電圧を印加する場合の接続例です。
逆電圧
を印加することは、直線性あるいは応答特性の改善に役
立ちますが、一方で暗電流を増加させノイズレベルを引き
KPDB0003JB
上げることになります。
また、
過大な逆電圧はフォトダイオー
ドの破損または劣化の原因になるため、絶対最大定格内
[図1-4] 接続例
で使用し、
必ずカソードがアノードに対して正電位になるよ
うに極性を設定してください。
(a) 負荷抵抗を接続した場合
[図1-6] 直線性
(a) InGaAs PINフォトダイオード
章
6
(b) オペアンプを接続した場合
化合物光半導体 受光素子
KPDC0006JD
等価回路
InGaAs/GaAs PINフォトダイオードの等価回路を図1-5
に示します。
短絡電流 (Isc)は、
式 (1)で表されます。
短絡
電流の直線性の限界は、
この式の第2項、第3項によって
KIRDB0333JB
(b) GaAs PINフォトダイオード
決定されます。
Isc =IL - Is exp
q (Isc × Rs)
Isc × Rs ........ (1)
- 1 Rsh
kT
IL : 入射光による発生電流 (光量に比例)
Is : フォトダイオードの逆方向飽和電流
q : 1電子当たりの電荷量
Rs : 直列抵抗
k : ボルツマン定数
T : 素子の絶対温度
Rsh: 並列抵抗
[図1-5] 等価回路 (InGaAs/GaAs PINフォトダイオード)
KGPDB0060JA
KPDC0004JB
VD: ダイオード両端の電圧
ID : ダイオード電流
Ct : 端子間容量
I' : 並列抵抗電流
Vo: 出力電圧
Io : 出力電流
173
[図1-7] 接続例 (逆電圧を印加)
たは式 (4)のノイズ電流と等しい電流を発生させる入射光
量、
すなわち雑音等価電力 (NEP)で表します。
(a) 負荷抵抗を接続した場合
NEP =
in
S
[W/Hz1/2] ........ (6)
in: ノイズ電流
S : 受光感度
図1-7 (b)の回路構成の場合、
前述したフォトダイオード
のノイズに加え、
オペアンプおよびRfのノイズなどを考慮
(b) オペアンプを接続した場合
する必要があります。
さらに高周波数領域では、
フォトダイ
オード容量 (Ct)、
フィードバック容量 (Cf)などの容量成分
を含めた伝達関数を考慮する必要もあります。
さらにアン
プの温度ドリフトや低周波数領域のフリッカノイズ、
後述す
るゲインピーキングなどの影響があるため、光検出限界は
式 (6)のNEPより大きくなります。
KPDC0008JB
InGaAs PINフォトダイオードの場合、
光検出限界を改善
するためには冷却型を使用する方法があります。
また入射
ノイズ特性
光を何らかの方法で周期的にオン・オフし、
その周波数の
信号だけを同期検出すれば、不要な帯域のノイズを除去
章
6
化合物光半導体 受光素子
InGaAs/GaAs PINフォトダイオードの微弱光に対する検
できるため、検出限界をさらにNEPへ近づけることができ
出限界は、
一般の受光素子と同様にそのノイズ特性で決ま
ます [図1-8]。
ります。
フォトダイオードのノイズ電流 inは、
並列抵抗 Rshで
近似できる抵抗体の熱雑音電流 (またはジョンソンノイズ電
[図1-8] 同期測定法
流) ij、
暗電流に起因するショットノイズ電流 isD、
光電流に
起因するショットノイズ電流 isLの和で表すことができます。
ij2 + isD2 + isL2 [A] ........ (2)
in =
図1-4のように逆電圧を印加しない場合、
ijは式 (3)のよ
KPDC0007JB
うになります。
4k T B
[A] ........ (3)
Rsh
ij =
k : ボルツマン定数
T: 素子の絶対温度
B: 雑音帯域幅
分光感度特性
InGaAs PINフォトダイオードは、
感度波長範囲により以
下の3種類に大別されます。
① 標準タイプ: 波長範囲 0.9∼1.7 µmに感度をもつ
図1-7のように逆電圧を印加する場合は、
必ず暗電流が
存在し、
isDは式 (4)のようになります。
② 短波長高感度タイプ: 標準タイプの短波長側の感度波
長範囲を延ばしたタイプ
isD =
2q ID B [A] ........ (4)
q : 1電子当たりの電荷量
ID : 暗電流
入射光のため光電流 (I L)が存在し、IL>>0.026/Rshま
たは IL>>IDの場合、
ノイズ電流は光電流に起因するショッ
トノイズ電流が支配的となり、
式 (5)で表されます。
in
174
isL =
2q IL B [A] ........ (5)
③ 長波長タイプ: 標準タイプよりも長波長に感度波長範囲
をもつ
フォトダイオードの長波長側のカットオフ波長 (λc)は、
その
バンドギャップエネルギー (Eg)により式 (7)で表されます。
λc = 1.24 [ m] ........ (7)
Eg
Eg: バンドギャップエネルギー [eV]
これらのノイズの大きさは、
測定帯域幅 (B)の平方根に
標準タイプと短波長高感度タイプのInGaAs光吸収層
比例するため、
単位はBで正規化したA/Hz1/2で示します。
のバンドギャップエネルギーは0.73 eVです。
長波長タイプ
一般にフォトダイオードの最小光検出限界は、式 (3)ま
は、
InGaAs光吸収層の組成比を変えることによってバンド
1. InGaAs/GaAs PINフォトダイオード
ギャップエネルギーを小さくしカットオフ波長を長波長側
(c) InGaAs PINフォトダイオード [長波長タイプ (∼2.6 µm)]
へ延ばしています。
InGaAs PINフォトダイオードは、
ノイズの原因となる表
面リーク電流を抑制するために、InGaAs光吸収層の上に
キャップ層と呼ばれる半導体の層を設けています。
キャッ
プ層を構成する半導体のカットオフ波長よりも波長の短い
光は、
そのほとんどがこのキャップ層で吸収され光吸収層
に到達しないため感度に寄与しません。
短波長高感度タイ
プでは、
ウエハ構造やプロセス工程の改良により、
キャップ
層を標準タイプの1/10以下の厚さに薄くし、
キャップ層で
吸収される光を減少させ、光吸収層に達する光を増大さ
せることで、
短波長の感度を向上させています。
InGaAs PINフォトダイオードの感度波長範囲は素子の
KIRDB0133JC
温度を下げることによりバンドギャップエネルギーが大きく
なり短波長側にシフトしますが、
ノイズ量が減少するため
*
D は大きくなります [図1-10]。
InGaAs PINフォトダイオード
(d) GaAs PINフォトダイオード
に使用している窓材の透過率を図1-11に示します。
[図1-9] 分光感度特性
章
(a) InGaAs PINフォトダイオード (標準タイプ)
6
化合物光半導体 受光素子
KGPDB0044JA
[図1-10] D*−波長 (InGaAs PINフォトダイオード)
(a) 標準タイプ
KIRDB0132JA
(b) InGaAs PINフォトダイオード (短波長高感度タイプ)
KIRDB0134JA
KIRDB0395JA
175
(b) 長波長タイプ (∼2.6 µm)
て、
速い応答速度が得られます。
PN接合部以外に吸収された光によって生成した電荷が
拡散によって電極に達するまで、
数µs以上かかる場合があり
ます。Ct × R L時定数が小さい場合は、
この拡散時間によっ
て応答速度が決定されます。高速応答を必要とする場合に
は、
受光部外に光を照射しないように注意してください。
上昇時間 tr (単位: s)と遮断周波数 fc (単位: Hz)との
間には、
おおよそ式 (10)の関係があります。
tr =
0.35 ........
(10)
fc
応答特性の詳細については、
「2章 Siフォトダイオード/
1. Siフォトダイオード/1-8 応答速度」
を参照してください。
KIRDB0135JA
[図1-12] 端子間容量−逆電圧
[図1-11] 窓材の分光透過率 (代表例)
(a) InGaAs PINフォトダイオード (標準タイプ)
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDB0550JA
KIRDB0331JC
応答特性
(b) GaAs PINフォトダイオード
応答特性とは、生成したキャリアをどれだけ速く外部回
路へ電流として取り出せるかを示す値で、
通常、
上昇時間
または遮断周波数で表します。
上昇時間 (tr)は、
出力信号がピーク値の10%から90%に
立ち上がる時間で、
式 (8)で表されます。
tr = 2.2Ct (RL + Rs) ........ (8)
Ct : 端子間容量
RL : 負荷抵抗
Rs: 直列抵抗
通常はR L>>Rsのため、Rsは無視して差し支えありませ
ん。上昇時間を小さくするためにはCtとR Lを小さくする必
KGPDB0059JA
要がありますが、R Lは外的要因で決められ自由に変更す
ることができません。Ctは、受光面積 (A)に比例し逆電圧
図1-13に InGaAs PINフォトダイオードを用いた高速光検
(VR)の平方根に反比例します。
出回路を示します。
これは図1-7 (a)の具体的な接続例で、
負
Ct ∝
A
VR
荷抵抗は50 Ωになっています。
直列抵抗 Rとセラミックコンデ
........ (9)
受光面積が小さい素子に逆電圧を印加することによっ
176
ンサ Cによって逆電圧電源のノイズを低くするとともにフォト
ダイオードからみた電源インピーダンスを小さくしています。
抵抗 Rはフォトダイオードの保護用としても働いており、
最大
1. InGaAs/GaAs PINフォトダイオード
光電流による電圧降下が逆電圧より十分小さい範囲になる
抵抗を選択します。
なお、
フォトダイオードとコンデンサのリー
1-2
使い方
ド、
同軸ケーブルの芯線など高速パルスが通る経路は、極力
オペアンプとの接続
短く配線してください。
[図1-13] 高速光検出回路 (InGaAs PINフォトダイオード)
図1-15にオペアンプとの接続例を示します。
図1-15のオ
ペアンプ回路の入力インピーダンスは、
帰還抵抗 Rfをオー
プンループゲインで割った値であるため非常に小さくなり
ます。
そのため優れた直線性が得られます。
[図1-15] 接続例
KPDC0009JA
温度特性
「1-1 特性/分光感度特性」
で述べたように、検出素子
の温度が変わることによって分光感度特性は変化します。
InGaAs PINフォトダイオードの並列抵抗の温度特性を図
KIRDC0040JB
1-14に示します。素子温度を下げることによって暗電流が
減少し、
並列抵抗が大きくなるためS/Nはよくなります。
6
(1) 帰還抵抗の選択
の関係は式(11)
で表されます。
暗電流の温度係数 aは検
図1-15では、
短絡電流 Iscは Isc × Rfの出力電圧 Voに
出素子のバンドギャップエネルギーによって異なります。
ま
変換されます。
Rfがフォトダイオードの並列抵抗 Rshより大
た、
検出素子に印加する逆電圧によって変化します。
きくなると、
オペアンプの入力雑音電圧と入力オフセット電
化合物光半導体 受光素子
ます。
素子温度 xの暗電流 IDxと素子温度 yの暗電流 IDy
以下にオペアンプを使用する場合の注意事項を述べます。
章
暗電流は、
素子温度が上昇すると指数関数的に上昇し
圧が (1 + Rf/Rsh)倍されて出力電圧に重畳してきます。
ま
IDx = IDy × ax-y ......... (11)
た、
オペアンプのバイアス電流誤差も大きくなるため、Rfを
当社は、動作温度を一定に (または冷却)して使用でき
る1段/2段電子冷却型InGaAs PINフォトダイオードを用
無制限に大きくすることはできません。
帰還容量 Cfは主に発振防止用で、
数pFあれば十分です。
この帰還回路は Cf × Rfの時定数をもちノイズフィルタの
意しています。
働きをしますが、
同時に応答速度を制限するため用途に合
[図1-14] 並列抵抗−素子温度
[InGaAs PINフォトダイオード (標準タイプ)]
わせて帰還抵抗の値を選ぶ必要があります。
オフセット電圧
による誤差は、
オペアンプのオフセット調整端子に可変抵抗
を接続することにより通常1 mV以下にすることができます。
なお応用回路例については、
「2章 Siフォトダイオード/1. Si
フォトダイオード/1-10 応用回路例」を参照してください。
(2) オペアンプの選択
実際のオペアンプの入力抵抗は無限大ではなく、
入力端
子にはいくらかのバイアス電流が流入または流出します。
こ
れにより、
検出電流の大きさによっては誤差が生じます。
バイアス電流は、
FET入力型オペアンプでは0.1 pA以下
のものもありますが、バイポーラ型オペアンプは数百pA∼
数百nA程度です。
FET入力型オペアンプのバイアス電流は、
一般に10 ̊C
KIRDB0544JA
の温度上昇で2倍になりますが、バイポーラ型オペアンプ
では逆に減少します。
このため高温仕様の回路を設計す
る場合、
バイポーラ型オペアンプの使用も考慮する必要が
あります。バイアス電流による誤差電圧は、
オフセット電圧
と同様にオペアンプのオフセット調整端子に可変抵抗器
を接続して微調整することができます。
177
2.
InGaAs APD
2-2
InGaAs APD (Avalanche Photodiode)は内部増倍機能
特性
暗電流ー逆電圧特性
をもつ赤外線検出素子です。
適切な逆電圧を印加すること
により光電流が増倍され、
高感度・高速応答を実現します。
InGaAs APDは1 µm帯の光に対して感度をもっており、
この波長帯では光ファイバの損失が低いことから光ファイ
バ通信で広く利用されます。
また1 µm帯の光は目に対する
安全性が高い (アイセーフ)ため、
空間光伝送や光学式距
接合と表面保護膜の界面を流れる表面リーク電流など)と
増倍される暗電流成分 IDG (半導体内部で発生する再結
合電流、
トンネル電流、拡散電流など。M=1で規定する。)
から成ります。
ID = IDs + M・IDG ........ (1)
離測定でも利用が進んでいます。
2-1
APDの暗電流 IDは、
増倍されない暗電流成分 IDs (PN
図2-2にInGaAs APDの電流−逆電圧特性の例を示しま
動作原理
す。
InGaAs APDは図2-1の構造をしているため、
低逆電圧
PN接合に逆電圧を印加すると、
空乏層内部で発生した
電子−正孔対のうち、電界によって電子はN+側に、正孔は
P+側にそれぞれドリフトします。
このときのキャリアの走行
下で空乏層がInGaAs光吸収層まで広がらない場合は感
度がありません。
[図2-2] 暗電流、光電流ー逆電圧 (G8931-04)
速度は電界に依存しますが、
電界が高くなると結晶格子と
章
6
の散乱頻度が増すため、
平均的にある一定の速度に飽和
するようになります。
さらに逆電圧を上げると、衝突を免れ
化合物光半導体 受光素子
た一部のキャリアは、
非常に大きなエネルギーをもつように
なります。
そして、
このキャリアが格子と衝突すると新たな
電子−正孔対を発生させる現象 (イオン化)が起こります。
さらにこの電子−正孔対が、
新たに電子−正孔対を発生さ
せるという連鎖反応が発生します。
これが、
アバランシェ増
倍といわれる現象です。
このアバランシェ増倍を利用した
内部増倍機能をもったフォトダイオードがAPDです。
[図2-1] 構造と電界プロファイル (InGaAs APD)
KAPDB0123JA
当社のInGaAs APDでは、光が照射されていない状態
で、
逆方向電流が100 µA流れるときの逆電圧を降伏電圧
(VBR)、
逆電圧 VR= 0.9 × VBRのときの逆方向電流を暗電
流と定義しています。
増倍率ー逆電圧特性
KIRDC0077JA
InGaAs APDの増倍特性は、
InPアバランシェ層にかか
InGaAsはバンドギャップエネルギーが小さいため、大き
る電界強度に依存し、逆電圧を大きくするほど通常は増
な逆電圧を印加すると、
暗電流が大きくなってしまいます。
倍率は高くなります。
さらに逆電圧を大きくすると暗電流も
そこでInGaAs APDでは、
光を吸収して電子−正孔対を発
大きくなり、素子の直列抵抗成分における電圧降下によっ
生するInGaAs光吸収層と、光によって発生したキャリアを
て、InPアバランシェ層にかかる電界が減少していきます。
アバランシェ増倍するInPアバランシェ層を分離した構造
これにより逆電圧を大きくしても、増倍率が上がらなくなり
を採用しています。
このように光吸収層とアバランシェ層
ます。最大増倍率付近で動作させると、直列抵抗成分に
を分けた構造のAPDをSAM (Separated Absorption and
おける電圧降下が大きくなるため、光電流が入射光量に
Multiplication) 型と呼びます。
当社のInGaAs APDでは
比例しない現象が起こります。
SAM型を採用しています。
178
2. InGaAs APD
[図2-3] 増倍率の温度特性 (G8931-04)
[図2-5] 降伏電圧ー温度 (G8931-04)
KIRDB0396JA
図2-3に示すようにInGaAs APDの増倍率は温度によっ
て変化します。特定の逆電圧における増倍率は、温度が
上昇すると小さくなります。
これは、温度が上昇すると結晶
格子の振動が激しくなり、電界により加速されるキャリアが
る確率が高くなるためです。一定の出力を得るためには、
を一定に保つ必要があります。
図2-4は、-40∼+80 ̊Cにおける暗電流−逆電圧特性の
温度依存性を示したグラフです。
半導体のバンドギャップエネルギー以上の光がフォトダ
イオードに吸収されると電子−正孔対が発生し、信号とし
て検出されます。
バンドギャップエネルギー Eg (単位: eV)
6
とカットオフ波長 λc (単位: µm)との間には式 (2)の関係
化合物光半導体 受光素子
温度変化に合わせて逆電圧を変化させるか、
素子の温度
分光感度特性
章
イオン化を起こすエネルギーに達する前に格子と衝突す
KIRDB0398JA
があります。
λc = 1.24 [ m] ........ (2)
Eg
InGaAs APDでは光を吸収する材料として、InPに格子
[図2-4] 暗電流の温度特性 (G8931-04)
整合した組成のInGaAsが使われており、
そのバンドギャッ
プエネルギーは室温で0.73 eVです。
このため、InGaAs
APDのカットオフ波長は約1.7 µmとなります。
InGaAs APDの分光感度特性は、
増倍率によって異なり
ます [図2-6]。InPアバランシェ層における短波長の光の
吸収によって短波長側の感度が低下します。
[図2-6] 分光感度特性 (G8931-20)
KIRDB0397JA
降伏電圧の温度特性を図2-5に示します。
KIRDB0120JB
InGaAs APDの分光感度の温度特性はInGaAsのバ
ンドギャップエネルギーの温度特性の影響を受けます。
InGaAsのバンドギャップエネルギーは温度の上昇とともに
179
小さくなるため、
カットオフ波長は長くなります。
ます。
そのため、
InGaAs APDでは、
InGaAs層で光を吸収し
なお、
InGaAs APDでは、
素子の表面における反射によ
て発生した電子−正孔対のうち正孔を逆電圧によってInP
り量子効率が悪化することを防ぐために、入射面に反射
アバランシェ層へドリフトしています。
防止膜を形成しています。
過剰雑音係数 (F)は、
イオン化率比 (k)によって式 (5)
で表されます。
端子間容量ー逆電圧特性
F = M k + (2 - 1 ) (1 - k) ............ (5)
M
InGaAs APDの端子間容量−逆電圧特性のグラフは
InGaAs PINフォトダイオードとは異なる曲線になります [図
過剰雑音係数は、近似的にF=M Xと表す場合がありま
2-7]。
これはPN接合の位置が異なるためです。
す (x: 過剰雑音指数)。
図2-8にInGaAs APDの過剰雑音
係数と増倍率の関係の一例を示します。
この図では、
過剰
[図2-7] 端子間容量ー逆電圧 (G8931-04)
雑音指数が約0.7となっています。
[図2-8] 過剰雑音係数ー増倍率 (G8931-04, 代表例)
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDB0124JB
KIRDB0399JA
ノイズ特性
このようにInGaAs APDでは、増倍に伴うノイズが発生
InGaAs APDのキャリアごとの増倍率には統計的な揺ら
ぎがあります。
そのため、増倍過程において過剰雑音と呼
ばれる増倍雑音が加わります。
InGaAs APDのショットノイ
ズ (In)は、
InGaAs PINフォトダイオードのショットノイズより
し、
増倍率を大きくすると過剰雑音が増加します。
一方、
出
力信号も増倍率とともに大きくなるため、
ある特定の増倍
率でS/Nは最大の値になります。
InGaAs APDのS/Nは、
式
(6)で表されます。
も大きくなり、
式 (3)で表されます。
In2 =2q (IL + IDG) B M2 F + 2q IDs B .......... (3)
q :
IL :
IDG :
I Ds :
B :
M :
F :
1電子当たりの電荷量
M=1における光電流
増倍される暗電流成分
増倍されない暗電流成分
帯域幅
増倍率
過剰雑音係数
S/N =
I L2 M2
2q (IL + IDG) B
M2
F + 2q IDs B + 4k T B
RL
...... (6)
2q (IL + IDG) B M2 F: 過剰雑音
2q IDS B: ショットノイズ
k : ボルツマン定数
T : 絶対温度
RL: 負荷抵抗
最適な増倍率 (Mopt)は、
式 (6)を最大にする条件より
1つのキャリアが半導体の単位距離を走行するときに発
求められ、
IDsを無視できるとすると式 (7)で表されます。
生する電子−正孔対の数をイオン化率と呼び、電子のイオ
ン化率 α [cm-1]と正孔のイオン化率 㸥 [cm-1]が定義され
ます。
このイオン化率は、増倍機構を決定する重要なパラ
メータです。
また、
αと㸥の比はイオン化率比 (k)と呼ばれ、
InGaAs APDのノイズを示すパラメータです。
β
k = α ............ (4)
イオン化率比は、
半導体材料固有の物性定数です。
InP
では電子よりも正孔のイオン化率が大きく、k>1となってい
180
Mopt =
4k T
q (IL + IDG)・x・RL
1
2+x
............ (7)
2. InGaAs APD
[図2-9] 信号電力、雑音電力ー増倍率
間は、
アバランシェ層以外を進む場合よりも長くかかりま
す。
キャリアがアバランシェ層を通過する時間 (増倍時間)
は増倍率が大きくなるほど長くなります。
一般に、
増倍率が5∼10の場合は応答速度においてCR
時定数とドリフト時間が支配的な要因であり、
それ以上の
増倍率の場合は増倍時間が支配的な要因です。
増倍率が低い領域で応答速度を悪化させる原因とし
て、
空乏層外からのキャリアの拡散電流による時間遅れが
あります。
この時間遅れは、
数µsオーダーとなることがありま
す。
これは、入射光がInGaAs中へ到達する深さに対して、
空乏層が十分に広がっていない場合に顕著に現れます。
高速応答を実現するためには、
一定以上の逆電圧を印
KIRDB0400JA
加して、
InGaAs光吸収層を十分に空乏化させる必要があ
ります。InGaAs光吸収層が十分に空乏化していないと空
応答特性
APDの応答速度を決める主な要因は、
CR時定数、
ドリフ
ト時間 (キャリアが空乏層内を走行する時間)、増倍時間
そ引きの原因となり、
応答特性が劣化します。
入射光量が多く光電流が大きい場合、
空乏層内の電子
と正孔の引力が電界を打ち消す方向に働くため、
InGaAs光
吸収層のキャリアのドリフト速度が遅くなり、
応答の低下をも
章
です。
CR時定数により決まる遮断周波数は、
式 (8)で求め
乏層外で吸収された光により発生したキャリアが信号のす
6
たらす現象が起こります。
これは空間電荷効果と呼ばれる
られます。
Ct: 端子間容量
RL: 負荷抵抗
化合物光半導体 受光素子
現象で、
特に光信号が途切れるときに現れやすくなります。
1
............ (8)
fc(CR) =
2π Ct R L
InGaAs APDの遮断周波数と増倍率の関係を図2-10に
示します。
[図2-10] 遮断周波数ー増倍率 (G8931-04)
CR時定数により決まる遮断周波数を大きくするために
は、端子間容量を小さくする必要があります。
そのために
は、
受光面サイズが小さく空乏層が厚い方が有利です。
遮
断周波数 (fc)と上昇時間 (tr)との関係は、式 (9)で表さ
れます。
tr =
0.35 ............
(9)
fc(CR)
一方、
空乏層を厚くした場合、
ドリフト時間が無視できな
くなります。
ドリフト時間 trd、
およびドリフト時間により決ま
る遮断周波数 fc(trd)は以下の式で表されます。
trd =
W .....................
(10)
vds
fc(trd) =
0.44 .............
(11)
trd
W : 空乏層の厚さ
vds: ドリフト速度
KIRDB0401JA
受光面の感度均一性
InGaAs APDには大きな逆電圧が印加され高電界がPN
接合にかかるため、
特に接合周辺で局部的な電界集中が
InGaAsにおける正孔のドリフト速度は電界強度が約104
起こり、
ブレークダウンが発生しやすくなります。
これを防ぐ
V/cmから飽和し、
そのときのドリフト速度は約5 × 106 cm/s
ために、
当社のInGaAs APDはPN接合周縁にガードリング
です。
ドリフト時間により決まる遮断周波数 fc(trd)は空乏
を形成する構造を採用しています。
これによって受光面全
層が薄い方が有利であり、CR時定数により決まる遮断周
体にわたって均一な電界がかかるようになり、感度均一性
波数 fc(CR)とはトレードオフの関係にあります。
が確保されます。
アバランシェ層を通過するキャリアは結晶格子と衝突を
繰り返しながら進むため、単位距離を進むのに要する時
181
[図2-11] 受光面の感度分布 (G8931-20)
[図2-12] 接続例
KIRDC0079JA
KIRDC0078JA
2-3
使い方
InGaAs APDは、
InGaAs PINフォトダイオードやSi APDと
章
6
ほぼ同様に扱うことができますが、以下について注意する
化合物光半導体 受光素子
必要があります。
① InGaAs APDの逆電流の最大定格は2 mAです。
このた
めバイアス回路に保護抵抗を付加した上で、
電流制限
回路を組み込むといった対策が必要です。
② 通常、低ノイズの読み出し回路は、過大電圧に対して
初段部の損傷を招く恐れがあります。
この対策として、
過大電圧の入力を電源電圧に逃がすための保護回路
を接続してください。
③ APDの増倍率は、温度によって変化します。広い温度
範囲で使用する場合には、温度変化に合わせて逆電
圧を制御するか、
APDの温度を一定に保つなどの対策
が必要です。
④ 微弱な信号光を検出する場合、
検出限界はショットノイ
ズで決定されます。背景光がAPDに入射すると、
その
ショットノイズのためにS/Nが低くなる場合があります。
このような場合は、光学フィルタを使用する、
レーザの
変調度を向上させる、視野角を制御するなど、背景光
の影響を低減する必要があります。特にInGaAs APD
は、構造上Si APDと比べて過剰雑音指数が大きいた
め、過剰雑音を含むショットノイズによる影響を考慮す
る必要があります。
図2-12に接続例を示します。
なお、InGaAs APDのAPDモジュールについてカスタム
対応が可能です。
182
2. InGaAs APD 3. ROSAモジュール
3.
を使用する必要があります。
ROSAモジュール
(2) イーサネット
最近の光通信モジュールの高速化・小型化に対応した
InGaAs PINフォトダイオード内蔵 ROSA (Receiver Optical
イーサネットは、
使用するファイバと伝送距離に応じて表
3-2の規格に分類されます。
OMA (Optical Modulation Amplitude)は、
光送信器の
Sub-Assembly)モジュールを紹介します。
特性を決める測定パラメータです。OMAは式 (1)で表さ
3-1
れます。
構造
OMA = 2 × Pave × (1 - ER)/(1 + ER) ...... (1)
ROSAは、光ファイバコネクタとの嵌合部をもつハウジン
グにTO-CANタイプのメタルパッケージの受光素子を取り
Pave: 平均パワー
ER: 消光比
付けた構造です。
ハウジングにはメタルとプラスチックのタ
長距離伝送用として長波長のシングルモードファイバが
イプがあります。図3-1に示すメタルタイプは、内部に反射
用いられる場合には、低い光反射減衰量が求められるた
防止構造をもっており光反射減衰量を抑えることができま
め、
SONET/SDHの場合と同様にメタルタイプのROSAを用
す。一方、図3-2に示すプラスチックタイプは非球面レンズ
いる必要があります。
なお光反射減衰量が大きくても構わ
との一体成形を行い安価になりますが、光反射減衰量が
ない場合はプラスチックタイプのROSAを用います。
大きく短距離通信に用いられます。
一方で、300 m以下の短距離伝送の場合、
コア径の大
[図3-1] メタルタイプROSAの構造図
きなマルチモードファイバが用いられ、
850 nm付近の短波
6
化合物光半導体 受光素子
3-3
章
長帯が使用されます。
特性
周波数特性
図3-3は、
受光モジュールの周波数特性の測定系です。
LDは、
被測定受光モジュールに比べ十分帯域が広いもの
KIRDC0083JB
を使用するか、周波数特性の分かっているLDを用いて測
定系を校正して、
測定系の周波数特性の影響が無視でき
[図3-2] プラスチックタイプROSAの構造図
るようにします。
[図3-3] 周波数特性の測定系 (受光モジュール)
KIRDC0084JB
3-2
特徴
KIRDC0054JA
(1) SONET/SDH
デジタル光通信に使用される受光モジュールは、
広いダ
SONET/SDHは、主に長波長のシングルモードファイバ
イナミックレンジを得るために、
通常AGC (Automatic Gain
を使った幹線系で使用されます。SONET/SDHの規格は
Control)アンプまたはリミッティングアンプが内蔵されてい
表3-1のように分類されます。
ます。
周波数特性の測定の際には、
AGCアンプならばAGC
SONET/SDHには高トランスインピーダンスゲイン、
高感
がオフとなる光量、
リミッティングアンプならば線形領域とな
度とともに低光反射減衰量が求められるため、
光反射防止
る光量にLDの出力を調整します。
構造をもったメタルタイプのROSAが使われます [図3-1]。
10 Gbps PIN ROSAの周波数特性とその温度特性を図3-4
80 kmを超えるような長距離の伝送用には、
さらに高感
に示します。
ゲインが低周波の値から3 dB下がったところの
度が要求されるためPINフォトダイオードの代わりにAPD
周波数を遮断周波数 (fc)としています。
183
[表3-1] SONET/SDHの規格 (伝送速度: 9.95328 Gbps)
波長
(nm)
分散補償方法
最大伝送距離
(km)
最大受信感度
(dBm)
最小受信感度
(dBm)
SR-1
1310
-
7
-1
-11
-14
6
SR-2
1550
-
25
-1
-14
-27
8.2
IR-1
1310
-
20
-1
-11
-14
6
IR-2
1550
-
40
-1
-14
-27
8.2
IR-3
1550
-
40
-1
-13
-27
8.2
LR-1
1310
-
40
-9
-20
-27
6
LR-2
1550
PCH
80
-7
-24
-27
9
LR-2a
1550
PDC
80
-9
-26
-27
10
LR-2b
1550
SPM
80
-3
-14
-27
8.2
LR-2c
1550
PCH
80
-9
-26
-27
10
LR-3
1550
-
80
-3
-13
-27
8.2
VR-2a
1550
PDC
120
-9
-25
-27
10
VR-2b
1550
PDC & SPM
120
-7
-23
-27
8.2
VR-3
1550
-
120
-9
-24
-27
8.2
通信規格
章
6
最大光反射減衰量 許容最小消光比
(dB)
(dB)
[表3-2] イーサネットの規格 (伝送速度: 10.3125 Gbps)
化合物光半導体 受光素子
ファイバ
波長
(nm)
最大伝送距離
最大受信感度
(dBm)
最小受信感度
(dBm)
最小受信感度
OMA
(dBm)
SR
MMF
850
300 m
-1
-9.9
-11.1
-12
3
LR
SMF
1310
10 km
0.5
-14.4
-12.6
-12
3.5
ER
SMF
1550
40 km
-1
-15.8
-14.1
-26
3
通信
規格
[図3-4] 周波数特性 (10 Gbps PIN ROSA, 代表例)
最大光反射減衰量 許容最小消光比
(dB)
(dB)
ビットエラーレート
図3-5にビットエラーレートの測定系を示します。パルス
パターンジェネレータからの擬似ランダムパターンでLDを
直接強度変調させます。
この変調光のパワーレベルを光
可変減衰器で変化させ、受光モジュールに入射します。
受光モジュールの出力をポストアンプ、CDR (Clock Data
Recovery)を通してエラーディテクタに入力し、LD駆動時
のパターンと受信パターンを比較することでビットエラー
レートを測定します。
[図3-5] ビットエラーレートの測定系
KIRDB0416JB
KIRDC0055JA
一定のビットエラーレートを確保するために必要な最小
の受光パワーを最小受信感度といいます。
また、
最大の受
光パワーを最大受信感度(オーバーロード)と呼びます。
プラスチックタイプ10 Gbps PIN ROSAのビットエラー
レートを図3-6に示します。
184
3. ROSAモジュール
[図3-6] ビットエラーレート
(プラスチックタイプ10 Gbps PIN ROSA, 代表例)
3-4
使用上の注意
(a) 最小受信感度
取扱上の注意
光半導体素子は、静電気、電源や測定器のサージ、
は
んだごてのリーク電流などで比較的簡単にダメージを受け
破壊されるため以下の点に注意する必要があります。
・はんだ付け・組立・測定などの際にはアースバンドを装着
し、必要に応じてイオナイザなどを使用して静電気の発
生を抑えてください。
・デバイス・作業机・治具・はんだごてのこて先・測定器な
どは同電位になるようにしてください。
・電源投入時には電源からのサージに注意して、
Vpd、
Vcc
の順に電圧をかけてください (製品によっては電圧をか
KIRDB0415JB
ける順序が異なるものがあります)。
(b) 最大受信感度
・光モジュールのファイバ端面に汚れや傷があると、信号
光がフォトダイオードに入射しにくくなり、見かけ上の感
度が落ちてしまいます。
ファイバ端面の汚れや傷には十
章
6
分注意して、
汚れた場合は清掃を行ってください。
化合物光半導体 受光素子
実装時の注意
高速デバイスの性能を十分に引き出すために実装時
には以下の点に注意してください。
なお、図3-7に受光モ
ジュールの測定回路例を示します。
・実装の際には、
リードはできる限り短くして基板にはんだ
付けしてください。
KIRDB0419JB
・電源ラインには、
グランドとの間にバイパスコンデンサとし
て周波数特性の優れたコンデンサをできるだけ近くに付
けてください。
[表3-3] 電気的および光学的特性 (プラスチックタイプ10 Gbps PIN ROSA: G12072-54)
項目
受光感度
*1
記号
Typ.
Max.
単位
0.7
0.8
-
A/W
Icc
暗状態, RL=∞
-
28
50
mA
遮断周波数
fc
λ=1.31 µm, -3 dB, Pin= -18 dBm
fref=1 GHz
7
10
-
GHz
fc-L
λ=1.31 µm, -3 dB, Pin= -18 dBm
fref=100 MHz, 消光比=6 dB
-
30
100
kHz
1.0
2.25
-
kΩ
-
-19.5
-17.5
+2
+5
-
差動, Pin= -5 dBm
200
280
400
mVp-p
トランスインピーダンス*2
Tz
最小受信感度 (平均)
Pmin
最大受信感度 (平均)
Pmax
出力振幅
Vomax
λ=1.31 µm, Pin= -10 dBm
Min.
電源電流
低域遮断周波数
R
条件
f=1 GHz, Pin= -18 dBm
11.3 Gbps, λ=1.31 µm
PRBS=231-1, BER=10-12
消光比=14 dB
dBm
RSSIオフセット電流
IRSSI
暗状態, RL=∞, Vcc=3.3 V
2.5
10
17
µA
光反射減衰量*3
ORL
λ=1.31 µm
12
14
-
dB
*1:
受光感度=2 × (RSSI出力電流 - RSSIオフセット電流)/入射光量
シングルエンド (Vout+)にて測定
*3: 反射対策あり (ORL≧27 dB)のメタルタイプにも対応が可能です。
*2:
185
・リード部は機械的ストレスにより破壊または劣化が起きる
[図3-8] 外形寸法図 (G12072-54, 単位:mm)
場合があるため、実装時には注意してください。
なお、
回
路基板に接続した際のリード部に加わる機械的ストレス
を少なくできるフレキシブル基板付きのROSAも用意して
います [図3-8]。
・10 Gbps用のモジュールでは、実装する基板についても
注意する必要があります。図3-9に評価基板の例を示し
ます。片側を信号ラインとグランドパターン、
その裏側を
グランドパターンとし、両面のグランドパターンはスルー
ホールで接続します。
また信号ラインのパターンは、後段
回路のインピーダンスに合わせたコプレーナラインあるい
はマイクロストリップラインにします。
[図3-7] 受光モジュールの測定回路例
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDC0053JA
KIRDA0214JA
[図3-9] 10 Gbps PIN ROSAの評価基板
注) 負荷抵抗との容量結合が必要なモジュールの場合は、測定機器を
AC結合に切り替えるか、測定機器と評価基板の間に結合コンデン
サを挿入してください。
コプレーナラインは、図3-10に示すように伝送線路導体
とグランド導体が誘電体基板の片側の同一平面状に配
置された構造をしており、基板の誘電率、伝送線路導体
の幅、
伝送線路導体とグランド導体の間隔で特性インピー
ダンスが決まります。
マイクロストリップラインは、図3-11に示すように誘電体
基板の片側に伝送線路導体、
その裏側にグランド導体が
配置された構造で、基板の誘電率・厚さ、伝送線路導体
186
3. ROSAモジュール 4. PbS/PbSe光導電素子
の幅で特性インピーダンスが決まります。
4.
PbS/PbSe光導電素子
[図3-10] コプレーナライン
PbS光導電素子・PbSe光導電素子は、
赤外線が入射す
ると抵抗が減少する光導電効果を利用した赤外線検出
素子です。
同じ波長領域の他の検出素子と比較して、検
出能力が高い、室温動作が可能といった優れた面があり
ます。
しかし、
周囲温度によっては暗抵抗・感度・応答速度
が変化するため、
注意して使用する必要があります。
KLEDC0024JA
[図3-11] マイクロストリップライン
動作原理
4-1
PbS/PbSe光導電素子は、赤外線が入射するとキャリア
が増加して抵抗が減少します。図4-1のような回路で信号
を電圧として取り出すため、
受光感度の単位はV/Wです。
[図4-1] 光導電素子の出力信号測定回路
章
6
化合物光半導体 受光素子
KLEDC0025JA
KIRDC0028JA
出力電圧 (Vo)は式 (1)で表されます。
Vo =
RL
・VB ................................. (1)
Rd + RL
光が入射したとき、Rdの変化 (ΔRd)によるVoの変化
(ΔVo)は式 (2)で表されます。
ΔVo = -
RL VB
・ΔRd ...................... (2)
(Rd + RL)2
ΔRdは、
式 (3)で表されます。
ΔRd = - Rd
q(
+
σ
e
h)
・
η τ λ P A ..........
(3)
lwdhc
q : 1電子当たりの電荷量
e : 電子の移動度
h : 正孔の移動度
σ : 電気伝導度
η : 量子効率
τ : キャリアの寿命
λ : 波長
P : 入射光量[W/cm2 ]
A : 受光面積[cm2 ]
h : プランク定数
c : 真空中の光速
4-2
特性
分光感度特性
PbS・PbSeのバンドギャップエネルギーの温度特性は
負の係数をもっているため、素子を冷却することによって
187
分光感度特性は長波長側にシフトします。
PbS/PbSe光導電素子のS/Nの周波数特性は、図4-3の
ようになります。
[図4-2] 分光感度特性
またPbS光導電素子の室温 (+25 ̊C)、電子冷却温度
(a) PbS光導電素子 (P9217シリーズ)
(-20 ̊C)における感度の周波数特性は、
図4-4のようになり
ます。
[図4-3] S/N−チョッピング周波数
(a) PbS光導電素子
KIRDB0265JD
(b) PbSe光導電素子 (P9696シリーズ)
章
6
KIRDB0047JC
化合物光半導体 受光素子
(b) PbSe光導電素子
KIRDB0342JE
応答特性
PbS/PbSe光導電素子の感度の周波数特性 (チョッパを
KIRDB0441JB
用いた場合)は、
式 (4)から求められます。
R(f ) =
[図4-4] 感度ーチョッピング周波数 (PbS光導電素子)
R(o)
2
2
1 + 4π f τ
2
........ (4)
R(f) : 周波数応答
R(o) : 零周波数における応答
f
: チョッピング周波数
τ
: 時定数
PbS/PbSe光導電素子のノイズは、典型的な1/fノイズス
ペクトルをもつため、
D*は式 (5)で表されます。
D*(f) =
k f
2
2
1 + 4π f τ
D*(f)は、f =
2
[cm・Hz1/2/W] ........ (5)
1
のときに最も大きくなります。
2π τ
KIRDB0083JC
188
4. PbS/PbSe光導電素子
直線性
温度特性
入射光量と出力の関係を図4-5に示します。
直線性の下
PbS/PbSe光導電素子は、
素子温度の変化により、
受光
限は、
PbS/PbSe光導電素子のNEPによって決まります。
感度・暗抵抗・上昇時間が変化します [図4-6、
図4-7]。
[図4-5] 直線性
[図4-6] 受光感度−素子温度
(a) PbS光導電素子
(a) PbS光導電素子
6
(b) PbSe光導電素子
化合物光半導体 受光素子
(b) PbSe光導電素子
KIRDB0048JD
章
KIRDB0050JA
光源: 黒体炉 500 K
入射光量: 16.7 µW/cm2
印加電圧: 15 V
チョッピング周波数: 600 Hz
KIRDB0056JA
KIRDB0442JC
[図4-7] 暗抵抗、上昇時間−素子温度
(a) PbS光導電素子 (P9217シリーズ)
KIRDB0303JA
189
(b) PbSe光導電素子
負荷抵抗
負荷抵抗 (RL)が暗抵抗 (Rd)と同じ値のとき、
信号は最も
大きくなります。
出力信号とRL/Rdの関係を図4-9に示します。
[図4-9] 出力−RL/Rd
KIRDB0443JC
4-3
使い方
PbS/PbSe光導電素子は、図4-8の回路のように通常
KIRDB0137JA
章
チョッパを使い交流で信号を取得します。
6
チョッピング周波数
[図4-8] 接続例
化合物光半導体 受光素子
「4-2 特性/応答特性」
で述べたように、
D*は f =
1
の
2π τ
ときに最大になります。
またアンプの帯域を狭くすると、
ノ
イズが減少しS/Nがよくなります。特に微弱光測光では、
チョッピング周波数、
帯域幅に配慮する必要があります。
電圧依存性
PbS/PbSe光導電素子のノイズは、
素子にかかる電圧があ
る特定の値を超えると急激に大きくなります。
信号は電圧に
KIRDC0012JC
図4-8における信号電圧 (Vo)は式 (6)で表されます。
Vo = -is × Rd (1+
Rf ........
)
(6)
Ri
is: 信号電流
温度補正
PbS/PbSe光導電素子は、感度・暗抵抗が素子温度に
よってドリフトするため、
その対策が必要です。
電子冷却型のPbS/PbSe光導電素子は、
サーミスタを内
比例して増加しますが、
データシートに記載されている最大
印加電圧以下のできるだけ低い電圧で使用してください。
受光面サイズ
小面積のPbS/PbSe光導電素子を用いて光学的に光を
絞ることによって単位面積当たりの光量が大きい光を入射
させる方が、大面積の素子を使用するよりもS/Nの点から
有利です。
また、入射光が受光面からずれていたり、信号
以外の光が入射することによって、S/Nが低下する場合が
あるため十分に注意してください。
蔵しており素子温度を一定にすることによってドリフトを抑
えることができます。
ヒータなどで素子を温め、温度を一定
取扱上の注意 (PbS光導電素子)
にして使う場合もありますが、感度の低下をもたらすだけ
でなく、素子の劣化を早める原因にもなりますので注意す
る必要があります。
PbS光導電素子を高温または可視光 (室内光)・紫外
線などの下で放置した場合、
特性変化を起こすことがあり
ますので、
必ず冷暗場所で保管してください。
また、
可視光
下などで使用する場合には、
遮光対策を行ってください。
190
4. PbS/PbSe光導電素子 5. InSb光導電素子 6. InAs/InAsSb/InSb光起電力素子
5.
6.
InSb光導電素子
InAs/InAsSb/InSb
光起電力素子
InSb光導電素子は、
6.5 µm付近までの検出が可能な赤
外線検出素子です。
なお、InSb光導電素子は、電子冷却
InAs/InAsSb/InSb光起電力素子は、
InGaAs PINフォトダ
型のため取り扱いが容易です (液体窒素が不要)。
イオードと同様にPN接合をもった赤外線検出素子です。
InAs光起電力素子はPbS光導電素子と同様に3 µm付近
[図5-1] 分光感度特性
に感度をもち、InAsSb/InSb光起電力素子はPbSe光導電
素子と同様に3∼5 µm帯に感度をもっています。
InAs/InAsSb/InSb光起電力素子は高速応答・高S/Nの
ためPbS/PbSe光導電素子とは異なる用途に使われます
6-1
特性
分光感度特性
InAs光起電力素子には非冷却型、電子冷却型 (Td=
-10 ̊C, -30 ̊C)、
液体窒素冷却型 (Td=-196 ̊C)があり、
章
KIRDB0166JD
6
用途に応じて使い分けられます。InAsSb光起電力素子に
̊C)があります。InSb光起電力素子は液体窒素冷却型で
数が正のため、
冷却するとカットオフ波長は短波長側にシフ
す。図6-1にInAs/InAsSb/InSb光起電力素子の分光感度
トします。
これは、
InSb光起電力素子においても同様です。
特性を示します。
[図5-2] D*−素子温度 (P6606-310)
[図6-1] 分光感度特性
化合物光半導体 受光素子
は電子冷却型 (Td=-30 ̊C)、
液体窒素冷却型 (Td=-196
InSb光導電素子は、
バンドギャップエネルギーの温度係
(a) InAs光起電力素子
KIRDB0167JA
KIRDB0356JD
191
(b) InAsSb光起電力素子
(b) InAsSb光起電力素子
KIRDB0556JA
KIRDB0430JD
ノイズ特性
(c) InSb光起電力素子
InAs/InAsSb/InSb光起電力素子のノイズ (i)は、
ジョンソ
ンノイズ (ij)、暗電流 (背景光による光電流も含む)による
章
ショットノイズ (i SD)に起因し、
それぞれは以下の式で表さ
6
化合物光半導体 受光素子
れます。
i=
ij2 + iSD2 .............. (1)
i j = 4k T B /Rsh ............ (2)
2q ID B .............. (3)
iSD =
KIRDB0063JF
[図6-2] D*−素子温度
k :
T :
B :
Rsh :
q :
ID :
ボルツマン定数
素子の絶対温度
雑音帯域幅
並列抵抗
1電子当たりの電荷量
暗電流
InSb光起電力素子の感度波長範囲においては、周囲
(a) InAs光起電力素子
からの背景光の揺らぎ (背景放射ノイズ)が無視できませ
ん。
ノイズ源が背景放射ノイズだけと考えた場合、InSb光
起電力素子の D*は式 (4)で表されます。
D* =
λ η
h c 2Q
[cm . Hz1/2/W] ........ (4)
λ : 波長
η : 量子効率
h : プランク定数
c : 光速
Q: 背景放射光量子束 [フォトン数/cm2・s]
背景放射ノイズを減少させるためには、視野角 (FOV:
Field of View)を制限するコールドシールドや不必要な波
長をカットするバンドパスフィルタを冷却して使用する必要
KIRDB0555JA
192
があります。
D*と視野角の関係を図6-4に示します。
6. InAs/InAsSb/InSb光起電力素子
[図6-3] 視野角 (FOV)
抵抗値の測定
InAs/InAsSb/InSb光起電力素子の抵抗をテスタで測定
すると素子を破壊する恐れがあります。
特に室温では破壊
されやすいため、必ず冷却した状態で測定してください。
この場合、素子にかかるバイアス電圧は絶対最大定格の
値以下にしてください。
KIRDC0033JB
[図6-4] D*−視野角
可視光などの入射 (InSb光起電力素子)
InSb光起電力素子は、赤外線よりエネルギーの大きい
可視光や紫外線が入射すると、表面に電荷が蓄積して暗
電流が増加する現象が生じます。暗電流が増加すると、
ノ
イズが増加してS/Nの低下を招きます。使用時は、
まず可
視光 (室内光)や紫外線などが入らないように入射窓にふ
たをしてから (黒テープを2重に貼るなど)、液体窒素を注
入してください。液体窒素を注入してから可視光などにさ
らしてしまい暗電流が増加した場合には、液体窒素を抜
章
いて素子の温度を室温まで戻してください。
その後、上記
6
操作を行えば、
暗電流は元の値に戻ります。
化合物光半導体 受光素子
KIRDB0138JB
6-2
使用上の注意
動作回路
InAs/InAsSb/InSb光起電力素子の接続例を図6-5に示
します。
負荷抵抗またはオペアンプを用い、光電流を電圧
として取り出します。
[図6-5] 接続例 (InAs/InAsSb/InSb光起電力素子)
(a) 負荷抵抗を接続した場合
(b) オペアンプを接続した場合
KPDC0006JC
193
7.
[図7-2] 分光感度特性 (MCT光導電素子)
MCT(HgCdTe)
光導電素子
MCT (HgCdTe)光導電素子は、
赤外線が入射すると抵
抗値が減少する赤外線検出素子で、
主に5 µm・10 µm付
近の検出に用いられます。
7-1
特性
分光感度特性
KIRDB0072JI
HgCdTeの結晶は、
HgTeとCdTeの組成比によってバン
ドギャップエネルギーの値が変わります。組成比を変える
ことによって、
さまざまな波長に最大感度波長をもった赤
ノイズ特性
外線検出素子を作ることができます。
バンドギャップエネル
ギーとカットオフ波長の間には式 (1)の関係があります。
MCT光導電素子のノイズ成分には、
1/fノイズ、
電子−正
孔の再結合によるg-rノイズ、
ジョンソンノイズがあります。
数
章
6
1.24
λc =
Eg
........ (1)
百Hz以下の周波数では1/fノイズが、
それ以上ではg-rノイ
化合物光半導体 受光素子
ズが支配的になります。MCT光導電素子のノイズ量と周
λc: カットオフ波長 [µm]
Eg: バンドギャップエネルギー [eV]
波数の関係を図7-3に示します。3 µm以上に感度をもつ
MCT光導電素子では、
300 K背景光の揺らぎがノイズとし
バンドギャップエネルギーは、組成比の他、素子温度に
て無視できません。
このノイズは、
視野角を小さくすれば減
よっても変わります。
らすことができます。
Eg = 1.59x - 0.25 + 5.23 × 10-4 T (1 - 2.08x) + 0.327x 3 ...... (2)
[図7-3] ノイズ量−周波数 (P2748/P5274シリーズ)
x: Hg1-xCdxTeの組成比を表す
T: 絶対温度
素子温度が高くなるとバンドギャップエネルギーは大き
くなり、
最大感度波長は短波長側にシフトします。
図7-2にMCT光導電素子の分光感度特性を示します。
[図7-1] バンドギャップエネルギー − Hg1-xCdxTeの組成比 x 1)
KIRDB0074JD
温度特性
MCT光導電素子のD*と分光感度特性は、素子温度に
よって変化します。温度が上がるにつれて、D*は減少し分
光感度特性は短波長側にシフトします。
その例として3∼
KIRDB0087JA
5 µm帯用MCT光導電素子 P2750のD*およびカットオフ波
長の温度特性を図7-4・図7-5で示します。
194
7. MCT(HgCdTe)光導電素子
[図7-4] D*−素子温度 (P2750)
7-2
使い方
動作回路
MCT光導電素子の接続例を図7-7に示します。
電源はノ
イズ、
リップルの少ないものを使用してください。R Lに数kΩ
の抵抗を使用して定電流源とする方法が一般的です。バ
イアス電流を増やすと信号・ノイズともに増加しますが [図
7-8]、特定の値からノイズが急激に増え始めるため、D*が
一定になる範囲で使用してください。必要以上にバイアス
電流を大きくすると、
ジュール熱により素子温度が上がり
D*を悪くし、
さらには素子を破壊する恐れがありますので
KIRDB0140JD
避けてください。
[図7-7] 接続例 (MCT光導電素子)
[図7-5] カットオフ波長−素子温度 (P2750)
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDC0021JA
[図7-8] 信号、
ノイズ、D*−バイアス電流 (P3257-10, 代表例)
KIRDB0141JB
直線性
[図7-6] 直線性 (P2748-40)
KIRDB0091JB
周囲温度
MCT光導電素子は、
周囲温度によって感度が変化しま
す。周囲温度が上昇すると、背景放射ノイズが増加し、素
子内のキャリア数が増加します。
そのため、
信号光によって
KIRDB0471JB
励起されたキャリアの平均寿命が短くなり感度が小さくな
ります。
195
8.
[図8-2] 直線性 (MCT光起電力素子)
MCT(HgCdTe)
光起電力素子
MCT光起電力素子は、
InAs光起電力素子と同様に、
赤外
線によって光電流を発生する光起電力効果を利用した赤
外線検出素子です。
主に10 µm付近の検出に使われます。
8-1
特性
分光感度特性
KIRDB0404JA
[図8-1] 分光感度特性 (MCT光起電力素子)
8-2
使い方
動作回路
章
6
MCT光起電力素子の接続例は、図6-5と同様です。
負
化合物光半導体 受光素子
荷抵抗またはオペアンプを用い、光電流を電圧として取り
出します。
周囲温度
MCT光起電力素子において、
周囲温度により背景放射
KIRDB0334JB
ノイズが変化すると暗電流も変化します。
この現象を防ぐ
ためには、余分な背景光を拾わないようにコールドシール
ノイズ特性
ドの形状を工夫するなど、光学系の設計に注意する必要
があります。
光起電力素子のノイズ特性については「6. I n A s/
InAsSb/InSb光起電力素子/6-1 特性/ノイズ特性」
を参
照してください。
光起電力素子は、
光導電素子に比べ l/fノ
イズが小さく、
低い周波数で測定する場合に有利です。
直線性
MCT光起電力素子の直線性の上限は、
MCT光導電素
子の数mW/cm2に比べると1桁以上よい特性を示します。
196
8. MCT(HgCdTe)光起電力素子 9. 複合素子
9.
(b) 複合素子 (標準タイプ InGaAs + 長波長タイプ InGaAs)
複合素子
複合素子は、感度波長範囲を広げるために2種類以上
の素子を上下に配置した赤外線検出素子です。Siを上に
配置して入射面とし、
下にPbS、
PbSe、
InGaAsを同一光路
に配置した製品に加えて、標準タイプInGaAsを上に配置
し、下に長波長タイプ InGaAsを配置した製品も用意して
います。
その他、
InAsとInSb、
InSbとMCT (HgCdTe)などの
組み合わせにも対応できます。上に配置する検出素子は、
赤外線を検出するとともに、下の検出素子の短波長カット
フィルタの役目も果たします。
[図9-1] 外形寸法図 [複合素子 (Si + InGaAs)、単位: mm]
KIRDB0479JB
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDA0147JB
[図9-2] 分光感度特性
(a) 複合素子 (Si + InGaAs)
KIRDB0405JB
197
10.
オプション
当社は、
化合物光半導体 受光素子用オプションとして、
アンプ、温度コントローラ、放熱器、
チョッパ、
ケーブルなど
を用意しています。温度コントローラ・放熱器は電子冷却
型用で、
温度コントローラは素子温度を一定に制御するた
めに使用され、放熱器は電子冷却素子からの熱を効率よ
く放出するために使用されます。
チョッパは、赤外線検出を
行う場合に検出光だけを変調して背景光と区別すること
で、背景光の影響を低減することができます。
その他、赤
外線検出素子とプリアンプを一体化したプリアンプ付赤外
検出モジュールも用意しています。
[図10-1] 化合物光半導体 受光素子用オプションの接続例
章
6
化合物光半導体 受光素子
KACC0321JB
ケーブル番号
*1:
ケーブル
およその長さ
備考
①
同軸ケーブル (信号用)
2m
放熱器 A3179シリーズに付属しています。
ケーブルはできるだけ短くして使用してください。
(10 cm程度が望ましい)
②
4芯ケーブル (コネクタ付)
A4372-05
3m
温度コントローラ C1103シリーズに付属しています。
別売もしています。
2m
赤外線検出素子用アンプ C4159/C5185シリーズ、C3757-02、
プリアンプ付赤外検出モジュール (常温型)に付属しています。
別売もしています。
電源ケーブル (6芯コネクタ付) A4372-03 [プリアンプ付赤外
検出モジュール (冷却型)に付属]の別売もしています。
1m
別売品
③
電源ケーブル (4芯コネクタ付)
A4372-02
④
BNCコネクタケーブル E2573
⑤
電源ケーブル (温度コントローラ用)
⑥
チョッパ駆動ケーブル
(チョッパに接続されている)
⑦
2芯ケーブルまたは同軸ケーブル
(チョッパの電源用)
1.9 m
2m
2 m以下
温度コントローラ C1103シリーズに付属しています。
チョッパ駆動回路に接続してください。
ユーザにて用意してください。
バラ線などを電源に接続してください。
はんだ付けが必要です。アンプ C5185シリーズを使用する場合、BNCコネクタが必要です。(ユーザにて用意してください。例: E2573の一端)
*3: 専用ソケットはありません。
はんだ付けが必要です。
*2:
198
10. オプション 11. 新たな取り組み
11.
Amplifier: 半導体光アンプ)などを使用して、
受信する光パ
新たな取り組み
ワーを上げる方式が採用されています。
25 Gbps × 4波の伝送方式では、
これまで以上に高速な
11 - 1
高速InGaAs PINフォトダイオード
高速応答の受光素子として、
25 Gbpsおよび40 Gbpsの
フォトダイオードの製品化が求められています。
その際に
システム自体が高価にならないように、低消費電力化や
アッセンブリの簡易化が要求されます。
また、S/Nを確保
するためには、従来品からの感度の減少は許されません。
フォトダイオードには、現状の受光感度を維持しつつ、低
逆電圧下で高速動作するとともに、小さな受光部にできる
だけ多くの光を入射させるための光学技術との融合が必
要となります。
現在、
低逆電圧駆動の高速InGaAs PINフォ
トダイオードとしては、V R=2 Vで25 Gbpsまでの伝送帯域
が確認され製品化されるとともに、
さらなる高速化への対
デバイスとともに波長多重化技術が必要となります。
当社では、
このような高速化に対応するフォトダイオード
およびモジュールの開発を進めています。
フォトダイオード
に関しては構造などの見直しを行い、1 ch当たり25 Gbps
で使用可能な、
プリアンプ付4 chフォトダイオードアレイを
開発しました[図11-2]。パッケージ材料にはSiを用い、高
信頼性を確保するため気密性を保ち、後段回路との接続
が容易となるフレキシブル基板が付いています。パッケー
ジ内部には、高周波に対応するためにインピーダンスが最
適化された配線が形成され、
フォトダイオードアレイとアン
プが実装されています。
今後は、
波長多重方式における多
チャンネル化を実現するため、光分岐機能を統合した100
Gbps ROSAモジュールの開発を目指します。
[図11-2] プリアンプ付4 chフォトダイオードアレイ (100 Gbps)
応を進めています。
[図11-1] 周波数特性(高速InGaAs PINフォトダイオード)
章
6
化合物光半導体 受光素子
[図11-3] 断面構造 (プリアンプ付4 chフォトダイオードアレイ)
KIRDB0394JA
11 - 2
100 Gbps ROSAモジュール
光通信の高速化は、今後も続いていくものと思われま
KACCC0717JA
す。
イーサネットでは10 Gbpsの次のバージョンとしてデー
タセンター用途を想定した40 Gbpsイーサネットとメトロ市
場を想定した100 Gbpsイーサネットの規格化が完了しまし
た。
ただし、
100 Gbpsをそのままシリアルで伝送することは
フォトダイオードやトランスインピーダンスアンプなどの技
術的な面から現状では非常に難しいため、波長多重によ
る方式となっています。
シングルモードファイバによる10 km、
40 kmの伝送方式とし
ては、
25 Gbps×4波の波長多重方式が採用されています。
波長帯は分散の少ない1310 nm帯が採用されており、
外部変調または直接変調方式による4つの波長のレーザ
光を1本のシングルモードファイバにて多重伝送します。
40 km版では、
受信側にSOA (Semiconductor Optical
199
11 - 3
InAsSb光起電力素子
12.
応用例
赤外域は多くの分野において非常に注目されています
が、扱いやすい検出素子は少数にとどまっています。
当社
12 - 1
光パワーメータ
は、均一性に優れて大面積化が可能な半導体材料の検
討を行い、
III-V族系化合物半導体材料であるInAsSb混晶
光パワーメータは、光の強さを測定するもので、光ファイ
を選択しました。InAsxSb1-x混晶の組成制御を行うことに
バ通信・レーザ光検出など幅広い用途があります。光ファ
より、
室温におけるカットオフ波長が3.3 µm (InAs)から12
イバ通信は近/中距離用と長距離用に分類されますが、
µm (InAs0.38Sb0.62)までの検出素子が可能となります。現
長距離用には光ファイバの伝送損失が小さくなる1.3 µm
在、
2段電子冷却型 (素子温度: -30 ̊C)のカットオフ波長
および1.55 µmの波長域の赤外線が使われています。
こ
8 µmのタイプを開発中です。
今後、
さらなる長波長化と1次
の波長域の検出には InGaAs PINフォトダイオードなどが
元/2次元アレイの開発に取り組みます。
使われ、
光ファイバの伝送損失、
中継のよしあし、
レーザパ
ワーの測定などを行います。光パワーメータに要求される
[図11-4] バンドギャップエネルギー、最大感度波長
−InAsxSb1-xの組成比 x
特性は、
直線性とユニフォミティです。
低いパワーの光も低
ノイズで検出できるように、冷却型の検出素子を使用する
場合もあります。
[図12-1] 光パワーメータ
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDB0406JA
KIRDC0100JA
[図11-5] 分光感度特性 (InAsSb光起電力素子, 代表例)
12 - 2
LDモニタ
LD (レーザダイオード)の出力レベルと発光波長は、
LD
素子の温度によって変化します。LDを安定させるために、
APC (Auto Power Control)を行います。
APCには、
LDから
の光パルスの積分量をモニタする方法と、
光パルスのピー
ク値をモニタする方法があります。LDの高出力化に伴い、
モニタ用の検出器では、入射光量の多い領域での直線性
が重要になってきました。
また、光パルスのピーク値をモニ
タするためには、
高速応答も要求されます。
LDモニタに用いられるInGaAs PINフォトダイオードは、
LDと同じパッケージ内にマウントする場合と外部に取り付
KIRDB0407JB
ける場合があります。
さらに長い波長のレーザには、InAs/
InSb光起電力素子も利用されます。
200
11. 新たな取り組み 12. 応用例
[図12-2] LDモニタ
放射温度計に使用する赤外線検出素子は、対象物の
温度や材質に合わせて選ぶ必要があります。
たとえばガ
ラス類では5 µm付近、
プラスチックフィルムでは3.4 µmや8
µm付近に放射率のピーク波長があります。
この波長域に
合わせて検出素子を選ぶ必要があります。
また、赤外ファイバと検出器を組み合わせることで、
ホッ
トメタルディテクタ (HMD)、回転体、内部の複雑な構造
物、
真空中・高圧ガス中などの危険な場所にある物体の温
KIRDC0096JB
度測定が可能になりました。
[図12-3] 黒体放射の法則 (プランクの放射則)
放射温度計
12 - 3
物質は、
絶対零度以上であれば物質自体の温度に応じ
て赤外線を放出します。実際には物質から放射される赤
外線の量は、温度によって一義的に決まるわけではなく、
放射率 (e)を補正しなければなりません。
図12-3は黒体からの放射エネルギーを示します。黒体
の場合はe=1です。
図12-4にさまざまな物体の放射率を示
章
します。
放射率は、
温度・波長によって異なります。
6
温度分解能を表す指標として、
雑音等価温度差 (NEΔT)
化合物光半導体 受光素子
があります。
NEΔTは式 (1)のように定義されます。
NEΔT =
dL
dT
LN
........ (1)
T=T1
KIRDB0014JB
[図12-4] 各種物体の放射率
2)
LN: 雑音等価輝度
T1: 物体の温度
LNは、
検出器のNEPと式 (2)の関係にあります。
NEP=To LN Ω Ao / γ ........ (2)
To :
Ω :
Ao:
γ :
光学系の損失
光学系から被測定エリアを見込む立体角
光学系の開口面積
回路系の損失
式 (1)の dL
は、温度 T1における物体の放射輝度
dT T=T1
(L)の温度係数を表しています。
放射輝度は、
観測波長域
(λ1∼λ2)にわたって分光放射発散度を積分して得られます。
L=
λ2
λ1
1
........ (3)
π Mλ dλ
Mλ: 分光放射発散度
他の温度測定法と比べると、放射温度計には以下の特
長があります。
・被測定物に直接接触しないで測定が可能
・高速応答
KIRDC0036JA
・パターン計測が容易にできる
201
[図12-5] ガラスの分光透過率、反射率ー波長
[図12-7] 炎からの放射波長
KIRDB0146JA
12 - 4
章
6
距離計測
KIRDB0147JA
12 - 6
水分計
化合物光半導体 受光素子
対象物にレーザを照射して反射した微弱光を検出する
近赤外域にある水分の吸収波長 (1.1 µm, 1.4 µm, 1.9
ことで、対象物までの距離を高速・高精度に測定すること
µm, 2.7 µm)の光とリファレンス光を食品などの被測定物
ができます。
InGaAs APDは、
逆電圧を印加することにより
に投光し、被測定物からの反射光あるいは透過光の比率
S/Nの高い信号を得ることができ、微弱光の測定に適して
を演算することにより水分量を測定します。受光素子とし
いるため、
測距センサとして広く用いられています。
ては、InGaAs PINフォトダイオード、InAs光起電力素子、
PbS光導電素子が適しています。
[図12-6] 距離計測
12 - 7
ガス分析計
ガス分析計は、
ガスの赤外域における光の吸収を利用
して、
ガス濃度を測定します。
ガス分析計には、光源から
の赤外線を分光して波長ごとの吸収量を測定して試料
の成分とその量を測る分散方式と、特定波長の吸収量だ
KIRDC0098JA
けに限る非分散方式とがあります。現在は非分散方式が
主流です。非分散方式のガス分析計は、
自動車の排気ガ
12 - 5
フレームアイ(炎検出)
フレームアイは、炎から放射される光を検出し、燃焼状
態を観察するものです。炎からの放射波長は、図12-7のよ
うに紫外域から赤外域にわたって広く分布しています。検
出方法には、PbS光導電素子を使って赤外線を検出する
方法、
複合素子 (Si + PbS)を使って紫外域から赤外域ま
で幅広い波長域を検出する方法、
PbSe光導電素子を使っ
て4.3 µmの波長を検出する方法などがあります。
ス測定 (CO, CH, CO2)、
呼気の成分測定 (CO2)、
燃料排
気ガスの管理 (COx, SOx, NOx)、燃料漏洩検知 (CH4,
C2H6)などに用いられます。
また、
炭酸飲料 (ソフトドリンク、
ビールなど)のCO2 (4.3 µm)、
糖分 (3.9 µm)の成分測定
にも用いられます。図12-8にさまざまなガスの吸収スペクト
ルを示します。
当社では、InGaAs・InAs・InAsSb・InSb・PbS・PbSe・
MCTなど、
さまざまな波長に合わせたセンサを用意してい
ます。
また、
ガス分析計用の中赤外半導体レーザとして、
量子カスケードレーザ (QCL: Quantum Cascade Laser)も
用意しています。
中赤外域 (4∼10 µm)の特定の波長に
発振波長をもつ製品ラインアップがあります。
202
12. 応用例
[図12-8] ガス吸収スペクトル
12 - 9
リモートセンシング
物体から放射または反射される光には、図12-9のように
波長によって異なる情報を含んでいます。
これを波長別に
計測することによって、
物体についてのさまざまな情報を得
ることができます。
その中で赤外線を用いたリモートセンシ
ングでは、
固体・液体の表面温度や気体の種別・温度など
の情報を得ることができます。特に最近では人工衛星や
航空機によるリモートセンシングが盛んになり、
地上や海面
の温度、大気中のガス濃度など、地球規模の巨視的情報
が得られるようになりました。
これらの情報は、環境測定・
気象観測・資源探査などに利用されています。
KIRDB0148JA
地上や海面の温度測定にはMTC/InSbアレイが用いら
れ、
大気中のガス濃度検出にはMCTが用いられています。
12 - 8
赤外線撮像装置
[図12-9] 資源探査用光学システム
3)
赤外線撮像装置の応用分野は、
産業から医学、
学術分
野まで多方面に及んでいます [表12-1]。
赤外線撮像方式
章
6
の原理は、
2つの方式に分けられます。検出素子として1次
化合物光半導体 受光素子
元アレイを用いる方式では、光学系をZ軸中心に走査させ
て画像化します。2次元アレイを用いる方式では光学系で
走査する必要がありません。
なお、InSb・MCT光導電素子/光起電力素子、QWIP
(Quantum Well Infrared Photodetector: 量子井戸型赤外
線センサ)、MEMS技術を利用した熱型検出素子、CMOS
回路との異種接合による2次元アレイによって、
さらに高品
質の画像が得られます。
KIRDC0039JB
[表12-1] 赤外線撮像装置の応用分野
応用分野
応用例
産業
鉄鋼・紙などの加工工程の管理、溶接・はんだ加工部の非破壊検査、建造物・構造物の非破壊検査、
ウエハ・ICチップの評価試験、送電線・発電機などの保守点検、車軸・圧延ロールなどの発熱の監視、
海洋資源の探査、森林分布の監視
公害監視
海水・温排水の汚染監視
学術調査
地質探査、水資源探査、海流調査、火山調査、気象探査、宇宙・天文探査
医学
赤外線画像診断(乳がんの検診など)
保安
ボイラなどの温度監視、火災探知
自動車、航空機
視界補助用暗視装置、
エンジン評価試験
203
12 - 10
選別機器
参考文献
有機物特有の吸収波長を利用して、
有機物と無機物の
判別をすることができます。米・ジャガイモ・トマト・タマネ
ギ・ニンニクなどの農作物と土壌・小石との区別をこの原
理で行うために、
InGaAs PINフォトダイオードアレイや PbS
光導電素子が使われています。
これらの赤外線検出素子
は、
ベルトコンベアで移動する対象物の温度・放射率・透
過率の違いを検出することによって、糖度による選別や、
PETボトルなどの廃棄物の分別にも利用されています。
[図12-10] 透過光の検出による穀物選別
章
6
化合物光半導体 受光素子
KIRDC0099JA
12 - 11
FT-IR
FT-IR (Fourier Transform-Infrared spectrometer: フー
リエ変換赤外分光光度計)は、2光束干渉計で得た干渉
信号をフーリエ変換してスペクトルを得る装置で、以下の
特長をもっています。
・非分散方式 (同時に多くのスペクトルエレメントを測定す
るため高S/N)のため光量が多い。
・波長精度が高い。
FT-IRの心臓部である赤外線検出素子には、以下の仕
様が必要とされます。
・広い感度波長範囲
・高感度
・光学系に合った受光面サイズ
・広い周波数帯域
・入射光量に対して優れた直線性
2.5 µmから25 µmの広範囲の領域では、
通常、
熱型検出
素子が使われています。
また高感度/高速測定用として
はMCT、
InAs、
InSbの量子型検出素子が使われています。
InGaAsやInAsの利用によって、
近赤外域への波長範囲
が拡大しました。
またMCTやInSbなどの1次元/2次元アレ
イによるマッピングや赤外イメージ分光が行われています。
204
1) 大槻、赤外線技術、8 (1983)、P73
2) 宮内、センサ技術、15 (1985)10月号、P48
3) 工藤、奈倉、赤外線技術、11 (1986)、P73