Siフォトダイオード 第 章 2 1 Siフォトダイオード 章 1-1 動作原理 1-2 等価回路 1-3 電流ー電圧特性 1-4 直線性 1-5 分光感度特性 1-6 ノイズ特性 1-7 感度均一性 1-8 応答速度 1-9 オペアンプとの接続 1-10 応用回路例 2 フォトダイオード S i 2 PSD (位置検出素子) 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 2-7 特長 構造、動作原理 位置検出誤差 位置分解能 応答速度 飽和光電流 使い方 3 応用例 3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 3-6 3-7 3-8 粒度分布計(レーザ回折・散乱法) バーコードリーダ UVセンサ ロータリーエンコーダ カラーセンサ VICS(道路交通情報通信システム) 三角測距 ダイレクト位置検出 23 Siフォトダイオード フォトダイオードは、 光半導体素子のPN接合部に光を照射すると電流や電圧を発生する受光素子です。 広い意味では太陽 章 2 電池も含みますが、通常は光の強弱の変化を精密に検出するセンサを意味します。 当社のSiフォトダイオードには、機能・構造 で区別するとSiフォトダイオード (PN型)、 Si PINフォトダイオード、 Si APD (アバランシェ・フォトダイオード)、 MPPC (Multi-Pixel Photon Counter)、 PSD (位置検出素子)があります。 Siフォトダイオードは次の特長があり、 光の有無・強弱・色などの検知に幅 フォトダイオード S i 広く使用されます。 入射光に対する優れた直線性 高い機械的強度 低ノイズ 小型、軽量 広い感度波長範囲 長寿命 当社独自の半導体プロセス技術を生かしたSiフォトダイオードは、近赤外から紫外・高エネルギーまでの波長域にわたり、高 速・高感度・低ノイズを特長としています。 当社のSiフォトダイオードは、 医療・分析・科学計測から光通信・民生機器まで幅広い 用途に用いられています。 メタル・セラミック・プラスチックから表面実装型まで多様なパッケージをそろえて、 カスタムデザインに も幅広く対応しています。 浜松ホトニクスのSiフォトダイオード タイプ 特長 Siフォトダイオード 高感度・低ノイズを特長とした精密測光用、一般測光/可視域用のフォト ダイオードです。 紫外∼近赤外域用 可視∼近赤外域用 可視域用 RGBカラーセンサ 真空紫外(VUV)検出用 単一波長検出用 電子線検出器用 Si PINフォトダイオード 任意の逆電圧を印加することにより、優れた応答特性を実現する高速フォ トダイオードです。光ファイバ通信や光ピックアップなどの用途に適してい ます。 遮断周波数:10 MHz∼ 赤外高感度 Si PINフォトダイオード 受光部の裏面に微細構造を形成し、900 nm以上の近赤外域の感度を向 上させたフォトダイオードです。当社従来品に比べ、 YAGレーザ(1.06 µm) に対して約3倍の高感度化を実現しています。 YAGレーザモニタ用 多素子型Siフォトダイオード 1パッケージ内に、 複数の受光部を1次元・2次元に配列したフォトダイオー ドです。光の位置検出や分光光度計などの幅広い用途に応用できます。 プリアンプ付Siフォトダイオード 電子冷却型Siフォトダイオード プリアンプ付Siフォトダイオードは、1パッケージ内にフォトダイオードとプ リアンプが内蔵されているため、外来ノイズに強く、 コンパクトな回路設計 が可能になります。電子冷却型は、S/Nが大幅に改善されています。 分析/計測用 放射線用Siフォトダイオード Siフォトダイオードとシンチレータを組み合わせた製品です。X線手荷物 検査/非破壊検査装置用に適しています。 シンチレータ付き 大面積型 PSD フォトダイオードの表面抵抗を利用したスポット光の位置センサです。 非分割型のため連続した電気信号が得られ、位置分解能・応答性に優れて います。 1次元PSD 2次元PSD 注)Si APD、MPPCについては、 「3章 Si APD、MPPC」を参照してください。 24 製品例 分割型フォトダイオード 1次元フォトダイオード アレイ 1. Siフォトダイオード 1. Siフォトダイオード 1-2 等価回路 Siフォトダイオードの等価回路を図1-3に示します。 1-1 動作原理 [図1-3] Siフォトダイオードの等価回路 図1-1にSiフォトダイオードの断面構造の例を示します。 受光面側のP型領域 (P層)と基板側のN型領域 (N層) は、 PN接合を形成し光電変換部として働きます。 Siフォトダ イオードの場合、P層は通常ボロンの選択拡散で、1 µm以 下の厚さに形成されます。 P層とN層の接合部の真性領域 を空乏層といいます。表面のP層・N層および底面のN+層 章 2 の厚さや不純物濃度をコントロールすることで、後述する 分光感度特性や周波数特性を制御することができます。 S i フォトダイオード Siフォトダイオードに光が照射され、その光エネルギー がバンドギャップエネルギーより大きいと、価電子帯の電 子は伝導帯へ励起され、 もとの価電子帯に正孔を残しま KPDC0004JA す [図1-2]。 この電子−正孔対は、P層・空乏層・N層のい たる所で生成し、 空乏層中では電界のため電子はN層へ、 この等価回路から出力電流 (Io)を求めると、 式 (1)のよ 正孔はP層へ加速されます。N層中で生じた電子−正孔対 うになります。 のうち、 電子はP層から流れてきた電子とともにN層伝導帯 に残り、正孔はN層中を空乏層まで拡散し、加速されてP 層価電子帯に集まります。 このように入射光量に比例して 発生する電子−正孔対は、 それぞれN層・P層中に蓄積さ れ、 P層は正に、 N層は負に帯電します。 P層とN層から電極 , , q VD Io = IL - ID - I = IL - IS (exp - 1) - I ............ (1) kT I S: q: k: T: フォトダイオードの逆方向飽和電流 1電子当たりの電荷量 ボルツマン定数 素子の絶対温度 を取り出し外部回路を接続すれば、N層側からは電子が、 P層側から正孔がそれぞれ反対側の電極へ向かって流 開放端電圧 (Voc)は、 Io=0のときの出力電圧で、 式 (2) れ、 電流が発生します。 このような電流のもとになる半導体 で表されます。 , Voc = k T ln IL - I + 1 ............ (2) Is q 中の電子あるいは正孔は、 キャリアと呼ばれます。 ( ) [図1-1] Siフォトダイオードの断面構造の例 I が無視できる場合、Isは周囲温度に対し指数的に増 加するため、Vocは周囲温度に逆比例し、 I Lの対数に比例 することになります。 しかし微弱光を検出する場合は、 この 関係が崩れてきます。 短絡電流 (Isc)は、 RL=0、 Vo=0のときの出力電流で、 式 (3)で表されます。 ( Isc = IL - Is exp ) q × Isc × Rs - 1 - Isc × Rs ...... (3) Rsh kT KPDC0002JA 式 (3)の第2項、第3項が、短絡電流の直線性の限界を [図1-2] SiフォトダイオードのPN接合の状態 決定する原因となります。 ただしRsは数Ω程度、Rshは107 ∼1011 Ωとなり、 第2項、 第3項は広い範囲において無視で きることが分かります。 KPDC0003JA 25 1-3 (b) 開放端電圧 電流−電圧特性 暗中でSiフォトダイオードに電圧を加えると、 図1-4の①の 曲線のように整流用ダイオードと同様の電流−電圧特性が 得られます。光が照射されると①の曲線は②へ平行移動 し、 さらに光を強くすると③へと平行移動します。②または ③の場合に、 Siフォトダイオードの両端子を短絡しておくと、 光の強度に比例した短絡電流 Isc、 Isc がアノード側からカ ソード側へ向かって流れます。 回路が開いている場合には、 アノード側を正とした開放端電圧 Voc、 Voc が発生します。 Vocは、 光量変化に対して対数的に変化しますが、 温度 章 2 による変化が大きく光量測定には不適当です。 IscとVocの 入射光量に対する関係は図1-5のようになります。 フォトダイオード S i KPDB0002JB [図1-4] 電流ー電圧特性 光電流を測定する基本回路を図1-6に示します。 (a)は、 Io × RLの電圧をゲイン Gの増幅器で増幅する方法です。 逆電圧を印加することで、 より高い直線性が確保されます [図1-9 (a)、図1-10]。 また、(b)はオペアンプを接続する方 法です。 オペアンプのオープンループゲインをAとすると、 負帰還回路により、 負荷抵抗 R Lに相当する等価入力抵抗 Rf は A と数桁小さくなり、理想的な短絡電流の測定が可能 になります。広範囲の光電流の測定をする必要のある場 合には、大きな光量に対しても出力が飽和しないようにR L やRfを適切に選択する必要があります。 KPDC0005JA [図1-6] 接続例 (a) 負荷抵抗を接続した場合 [図1-5] 入射光量と出力信号の関係 (S2386-5K) (a) 短絡電流 (b) オペアンプを接続した場合 KPDC0006JA KPDB0001JB 図1-4①の曲線の原点付近を拡大した図を図1-7に示 します。電圧が±10 mV程度の範囲では暗電流 (I D)がほ ぼ直線的に変化します。 この直線の傾きにより並列抵抗 (Rsh)が表され、後述する熱雑音電流源になっています。 当社製Siフォトダイオードは、 カソードに10 mV印加時の暗 電流を用いて並列抵抗を求めています。 26 1. Siフォトダイオード [図1-7] 暗電流−電圧 (図1-4①の原点付近を拡大) す。 この場合、 フォトダイオードに対する負荷抵抗はオペア ンプの入力抵抗であり不変の値です。 オペアンプの入力 抵抗は数Ωと低い値なのでフィードバック抵抗をいくら大き な値にしてもオペアンプの出力が飽和しない範囲では光 電流は飽和しないため、(b)は微弱光の検出に適していま す。 また、図1-10は逆電圧 (V R)による直線性上限の変化 を示します。逆電圧を加えることは、直線性の改善に役立 ちますが、一方では暗電流を増大させノイズの増加をもた らします。 また、過大な逆電圧はフォトダイオードを破損す るため、絶対最大定格内で使用し、必ずカソードがアノー KPDB0004JA ドに対して正の電位になるように極性を設定してください。 1-4 章 なお、 レーザ光を微小スポットに集光して入射したとき 2 は、単位面積当たりの入射光量が大きくなり、直線性が悪 直線性 くなりますので、 注意が必要です。 直線性をもち、入射光量 10-12∼10-2 W程度の範囲では、 フォトダイオード Siフォトダイオードの光電流は入射光量に対して優れた S i [図1-9] 接続例 (逆電圧を印加する場合) (a) 9桁以上に及ぶ直線性をもっています (フォトダイオードの 種類や使用回路などで異なります)。 直線性の下限は雑音 等価電力 (NEP: Noise Equivalent Power) により決定さ れ、上限は負荷抵抗、逆電圧などから式 (4)で求められ、 直列抵抗成分が大きいほど直線性は悪化します。 Psat = Psat : VBi : VR : RS : RL : Sλ : VBi + VR ............ (4) (RS + RL) × Sλ (b) 直線性上限入射エネルギー [W] (Psat≦10 mW) 接触電圧 [V] (0.2∼0.3 V程度) 逆電圧 [V] 素子直列抵抗 (数Ω程度) 負荷抵抗 [Ω] 波長 λにおける受光感度 [A/W] [図1-8] 電流−電圧特性と負荷直線 KPDC0008JC [図1-10] 光電流−照度 (S1223) KPDB0003JD 直線性の上限を高める目的で逆電圧を印加すると効 果的な場合があります。 図1-9は逆電圧を印加する場合の 接続例です。 (a) は負荷抵抗で光電流を電流−電圧変換 KPDB0009JC してアンプで増幅する例です。負荷抵抗が大きいと直線 性の上限が制限されるため [式(4)]、大きな負荷抵抗を 接続することができず微弱光の検出には適していません。 (b)はオペアンプ入力端子へ直接にフォトダイオードを接 続してフィードバック抵抗 (Rf)で電流−電圧変換する例で 27 1-5 QE = S × 1240 × 100 [%] ............ (6) λ 分光感度特性 「1-1 動作原理」 で述べたように、 吸収された光のエネル ギーがSiフォトダイオードのバンドギャップエネルギーより 大きくないと光起電力効果は起こりません。 S: 受光感度 [A/W] λ: 波長 [nm] 赤外高感度Si PIN フォトダイオードは、 波長 900 nm∼ 1100 nmの近赤外域で大幅な高感度化を実現したタイプ カットオフ波長(λc)は、 式(5)で表されます。 です。 Siは可視域や紫外域において光吸収係数が大きいた λc = 1240 [nm] ............ (5) Eg め、 薄いウエハでも十分検出できます。 しかし、 近赤外域で は光吸収係数が極端に小さくなり透過する割合が増える Eg: バンドギャップエネルギー [eV] ため、 感度が低下します。 近赤外域においてSiで高感度を 章 2 フォトダイオード S i Siの場合は、常温時のバンドギャップエネルギーは1.12 実現するには、厚いSiウエハを用いて光吸収層を厚くする eVのため、 カットオフ波長は1100 nmです。 短波長側では、 方法がありますが、 この場合、高い印加電圧が必要、暗電 入射光が表面拡散層内で吸収される割合が急速に増大 流が大きくなる、応答速度が遅くなるなどのデメリットが発 するため [図1-1]、拡散層が薄くPN接合が表面に近いも 生します。 のほど感度が高くなります。短波長側のカットオフ波長は、 赤外高感度Si PINフォトダイオードは、 裏面に特殊な微 一般のSiフォトダイオードでは320 nm、 紫外域用のSiフォト 細加工を施すことにより、 近赤外域において高感度を実現 ダイオード (S1226/S1336シリーズなど)では190 nmです。 しています。 たとえば、 波長 1.06 µmで量子効率が25%のSi カットオフ波長は、Siフォトダイオード固有の物性と受光 フォトダイオードに本技術を適用すると、 約3倍の量子効率 窓の波長透過率によって決まります。硼珪酸ガラスやコー 72%を実現することができます。従来では実現が難しかっ ティング樹脂は、 約300 nmより短波長側では光を吸収して た近赤外域で高速・高感度を併せもったフォトダイオード しまうため、 これらを窓材として使用すると短波長の感度が が可能になります。赤外高感度Si PINフォトダイオードは なくなります。 YAGレーザ (1.06 µm)のモニタ用に利用されています。 300 nmよりも短い波長を検出する場合は、 石英窓のタイ プを使用します。 また、 可視域だけの測光を行う場合は、 可 [図1-12] 分光感度特性 (赤外高感度Si PINフォトダイオード) 視域だけ透過する視感度補正フィルタのタイプを用います。 図1-11に各種Siフォトダイオードの分光感度特性を示し ます。BQタイプは石英窓、BRタイプは樹脂コーティング窓 のタイプです。 なおS9219は、視感度補正フィルタ付Siフォ トダイオードです。 [図1-11] 分光感度特性 (Siフォトダイオード) KPINB0395JA 1-6 ノイズ特性 Siフォトダイオードの微弱光に対する検出限界は、一般 の受光素子と同様に、 そのノイズ特性で決まります。Siフォ KSPDB0247JB トダイオードのノイズ電流 inは、 並列抵抗 Rshで近似でき る抵抗体の熱雑音電流 ij (またはジョンソン雑音電流)、 ある波長において、光電流として取り出される電子ある 暗電流に起因するショットノイズ電流 iSD、 光電流に起因す いは正孔の数を入射フォトン (光子)数で割った値を量子 るショットノイズ電流 iSLの和で表すことができます。 効率 (QE)と呼びます。 量子効率は式 (6)で表されます。 in = 28 ij2 + iSD2 + iSL2 [A] ............ (7) 1. Siフォトダイオード ijはRshの熱雑音と考えられるため、式 (8)のようになり ます。 ij = 4k T B [A] ............ (8) Rsh 感度均一性 感度均一性は、受光面内での感度の均一性を示す値 です。Siフォトダイオードは感度均一性が非常に優れてお k: ボルツマン定数 T: 素子の絶対温度 B: 雑音帯域幅 り、可視∼近赤外域で有効受光面内 80%の範囲のバラ ツキは2%以下です。感度均一性の測定は、数µmから数 図1-9のように逆電圧を印加する場合は、 必ず暗電流が 存在し、 iSDは式 (9)のようになります。 isD = 1-7 十µmに集光された光 (レーザダイオードなど)を用いて行 われます。 [図1-14] 感度均一性 (S1227-1010BQ) 2q ID B [A] ............ (9) 章 q : 1電子当たりの電荷量 ID: 暗電流 2 入射光による光電流 (IL)で発生するショットノイズ isLは フォトダイオード S i 式 (10)のようになります。 isL = 2q IL B [A] ............ (10) I L>>0.026/Rsh、 またはI L>>I Dの場合、式 (8)または式 (9)の代わりに式 (10)のショットノイズ電流 i SLが支配的に なります。 これらのノイズの大きさは雑音帯域幅 (B)の平方根に 比例するため、 単位はBで正規化した A/Hz1/2です。 KPDB0006JB 一般にSiフォトダイオードの最小光検出限界は、式 (8) または式 (9)のノイズ電流と等しい電流を発生させる入射 光量 (雑音等価電力: NEP)で表します。 1-8 応答速度 フォトダイオードの応答速度は、生成したキャリアをどれ NEP = in [W/Hz1/2] ............ (11) S だけ速く外部回路へ電流として取り出せるかを示す値で、 in: ノイズ電流 [A/Hz1/2] S : 受光感度 [A/W] 通常は上昇時間または遮断周波数で表します。 上昇時間 は、 出力信号が10%から90%に達する時間で、 主に以下の ijが支配的な場合のNEPと並列抵抗の関係を図1-13に 要素で決まります。 示します。 理論値にほぼ一致していることが分かります。 (1) 端子間容量 Ctと負荷抵抗 RLの時定数 t1 [図1-13] NEP−並列抵抗 (S1226-5BK) Ctは、パッケージ容量とフォトダイオード接合容量 (Cj) の和です。 t1は式 (12)で表されます。 t1 = 2.2 × Ct × RL .......... (12) t1を速くするためには、 CtまたはRLを小さく設計する必要 があります。Cjは、受光面積 (A)にほぼ比例し、空乏層幅 (d)に逆比例します。空乏層幅は逆電圧 (V R)と基板材料 の比抵抗 (ρ)との積の2乗根から3乗根に比例し、 式 (13) のように表されます。 Cj ∝ A {(VR + 0.5) × ρ} -1/2∼-1/3 ............ (13) したがって、t1を速くするためには、Aが小さくρの大きな KPDB0007JA フォトダイオードに逆電圧を印加する必要があります。 ただ し、 それはt1が応答速度の支配的要素となっている場合で あり、 ρが大きくなるとキャリアの空乏層走行時間 (t3)が遅 くなるため注意が必要です。 また逆電圧を印加した場合、 29 暗電流が増大するため、 低照度領域での使用時には注意 が必要です。 [図1-15] 応答波形と周波数特性の例 (a) 応答波形 (2) 空乏層外生成キャリアの拡散時間 t2 空乏層外生成キャリアは、 フォトダイオードの受光部から 外れたチップ周辺や空乏層よりさらに深い基板部で入射光 が吸収された場合に発生します。 このキャリアが拡散する のに要する時間 (t2)は、 数µs以上になる場合があります。 (3) キャリアの空乏層走行時間 t3 空乏層中をキャリアが走行する速度 (vd)は、 キャリアの 移動度 (µ)と空乏層中の電界 (E)で表すとvd = µ Eとなりま 章 2 す。 平均的な電界は、 逆電圧 (VR)と空乏層幅 (d)で表すと KPDC0010JB E = VR/dであるため、 t 3はおおよそ式 (14)で近似されます。 フォトダイオード S i t3 = d2 ............ d = (14) VR vd (b) 応答波形 (S2386-18K) t 3を速くするためには、 キャリアの走行距離を短くする か、逆電圧を高くする必要があります。比抵抗が大きいほ ど、 t3は遅くなります。 以上の3要素がフォトダイオードの上昇時間を決定しま す。 上昇時間 (tr)は式 (15)で近似されます。 tr = t12 + t22 + t32 ............. (15) 式 (15)から分かるように、 応答速度はこの3要素の中で 最も遅い要素が支配的になります。 前述したようにt1とt3は KPDB0010JA 相反する要素を含み、 どちらかを速くすればどちらかが遅 くなるため、用途に合わせたバランスのよい設計を行う必 (c) 周波数特性 (S5973) 要があります。 遮断周波数 (fc)は、正弦波発光させたレーザダイオー ドなどの光が入射した場合、 フォトダイオードの出力が正 弦波の周波数変動に対して相対的に100%を維持してい る出力より3 dB減衰する周波数で、上昇時間 (tr)とは式 (16)でおおよそ近似されます。 fc = 0.35 ............ (16) tr 図1-15にSiフォトダイオードの応答波形と周波数特性の 例を示します。 KSPDB0298JA PINフォトダイオードは、 空乏層外生成キャリアの発生が 少なく、端子間容量が小さく、空乏層走行時間が短くなる ように設計されています。 そのため、高速応答が要求され る光通信などに適しています。 当社製PINフォトダイオード は、逆電圧を加えた際の暗電流が比較的低い上、優れた 耐圧性をもっています。 図1-16に遮断周波数の逆電圧によ る変化を示します。 30 1. Siフォトダイオード [図1-16] 遮断周波数−逆電圧 (S5973, S9055) 還容量と帰還抵抗は、 同時にCf × Rfの時定数をもつロー パスフィルタとしても作用するため、用途に合わせた値に 設定します。放射線検出など入射光の光量を積算する場 合は、Rfを取り去りオペアンプとCfの積分回路を構成しま す。 ただし連続した信号検知を行うためには、Cfを放電す るスイッチが必要です。 [図1-18] Siフォトダイオードとオペアンプの接続例 (a) 章 2 KSPDB0297JA フォトダイオード S i KPDC0011JA 図1-17は簡易的な接続例で、 負荷抵抗 (測定機入力イ ンピーダンス)は50 Ωになっています。 セラミックコンデンサ (b) Cは逆電圧電源からのリップルやノイズを抑えるためのも ので、抵抗 RはSiフォトダイオードの保護用です。最大光 電流による電圧降下が逆電圧より十分小さい範囲となるよ うにRの値を選定します。 Siフォトダイオードとコンデンサの リード、 同軸ケーブルの芯線など高速パルスが通る経路は 極力短く配線します。 KPDC0035JA [図1-17] 同軸ケーブルとの接続例 IC : オペアンプ en: オペアンプの入力換算雑音電圧 バイアス電流 実際のオペアンプの入力インピーダンスは無限大ではな く、入力端子にはいくらかのバイアス電流が流入または流 KPDC0009JA 出します。検出電流の大きさによっては、 このバイアス電流 が誤差になります。バイアス電流は、FET入力型オペアン 1-9 オペアンプとの接続 プでは0.1 pA以下のものもありますが、バイポーラ型オペ アンプでは数百pA∼数百nA程度です。 FET入力型オペア ンプのバイアス電流は、一般に10 ̊Cの温度上昇で2倍に 帰還回路 なりますが、バイポーラ型オペアンプでは減少します。 この ため、 高温仕様の回路を設計する場合、 バイポーラ型オペ 図1-18は、 Siフォトダイオードとオペアンプの基本的な接 アンプの使用も考慮する必要があります。バイアス電流に 続例です。 この極性の接続において出力電圧 Voutは、 直 よる誤差電圧は、 オフセット電圧と同様にオペアンプのオ 流や低い周波数の範囲では入力電流 (フォトダイオード フセット調整端子に可変抵抗器を接続して微調整するこ の短絡電流 Isc)の逆相になります (Vout = -Isc × Rf)。 帰 とができます。 回路を構成する基板のリーク電流は、場合 還抵抗 Rfは、入力電流をどれだけ増倍したいかによって によってはオペアンプのバイアス電流より大きくなることが 決まりますが、 フォトダイオードの並列抵抗 Rshより大きく あります。 そのため、最適なオペアンプの選択とともに、パ なると、 オペアンプの入力換算雑音電圧 enと入力オフセッ Rf ) ト電圧が( 1 + Rsh 倍されてVoutに重畳してきます。 さら ターンと部品の配置や、 ガードリングやテフロン端子の採 用について適切な配慮をする必要があります。 に後述するオペアンプのバイアス電流誤差も大きくなるた め、帰還抵抗を無制限に大きくすることはできません。帰 還容量 Cfは、 入力容量 Ctが存在する場合に高い周波数 領域で回路が不安定になるのを防ぐためのものです。帰 31 (c) ノイズ出力の周波数特性 ゲインピーキング Siフォトダイオードとオペアンプ回路の高域周波数特性 は、 Rf × Cfの時定数で決まりますが、 端子間容量すなわち 入力容量が大きい場合には、 ゲインピーキングが起こるこ とがあります。図1-19はゲインピーキングの周波数特性の 例です。高い周波数領域で出力電圧が異常に大きくなり [図1-19 (a)上トレース]、 パルス光に対する出力電圧波形 に著しいリンギングが発生しています [図1-19 (b)]。 また、 オペアンプ入力ノイズに対しても前述のゲインが作用する ため、 異常に大きなノイズが観測されます [図1-19 (c)上ト 章 2 レース]。 これらは高い周波数領域で、 オペアンプの入力 容量と帰還容量の各リアクタンスがノイズに対して不安定 な増幅器を形成するために生ずる現象で、光検出性能に フォトダイオード S i 悪影響を与えます。 回路 : 図1-18 (a) オペアンプ: AD549 上トレース: Cf=0 pF 下トレース: Cf=10 pF KPDB0021JA [図1-19] ゲインピーキング ゲインピーキングの対策 (a) 周波数特性 ゲインピーキングやリンギングを起こさないで広い周波 数特性を達成するためには、 フォトダイオード・オペアン プ・帰還抵抗・帰還容量を最適に設定する必要がありま す。 この場合でも 「1-8 応答速度」 で述べたように端子間容 量 (Ct)を小さくすると効果的です。 オペアンプは、一般的 に高速・広帯域特性のものほどゲインピーキングを起こし にくくなりますが、内部の位相補償が十分でないと逆に発 振する場合があります。帰還素子には、抵抗だけでなく帰 還容量も並列に接続してゲインピーキングを避けます。以 上の対策方法について図1-18 (a)の回路を例にとると、 次 のように説明できます。 回路 : 図1-18 (a) オペアンプ: AD549 光源波長 : 780 nm 図1-20において低い周波数領域①では、 オペアンプの 上トレース: Cf=0 pF 下トレース: Cf=10 pF 回路ゲインはRshとRfの抵抗比だけで決まります。 KPDB0019JA (b) パルス光応答 Rsh + Rf 周波数の増大ととも 2πRsh Rf (Cf + Ct) の周波数 f1からは、 1 にゲインが増加する②の区間になります。次に 2πCf Rf の 周波数 f2より高い周波数では、 オペアンプの回路ゲインは CtとCfの比で決まる③の平坦な区間になります。 そして、 オ ペアンプのオープンループゲイン (通常6 dB/oct.で減衰) の曲線に接する周波数 f3から④の領域になります。 ここで f1、f2は、図1-18 (a)の回路の条件ではそれぞれ160 Hz、 1.6 kHzに相当します。 Cf=1 pFとすると、 f2はf2 に移動し、 回路ゲインはさらに大きくなります。 このとき注目すべきこ とは、③の回路ゲイン上昇の設定がオペアンプのオープン ループゲイン曲線を上回っているため、 ③の領域が存在し ないということです。 この状態においては、 オペアンプ回路 の周波数特性ではゲインピーキング、パルス光応答特性 ではリンギングを生じ、 不安定になります [図1-19]。 回路 : 図1-18 (a) オペアンプ: AD549 光源波長: 780 nm Cf=0 pF KPDB0020JA 32 1. Siフォトダイオード [図1-20] ゲインピーキングの図式的求め方 [図1-21] 極微弱光センサヘッド (a) シールドケーブルをフォトダイオードに接続した例 KSPDC0051JC (b) 回路全体を金属製シールドボックスに収納した例 章 2 KPDB0016JA フォトダイオード S i ゲインピーキングの対策のためには、 以下の点が必要で す。 KSPDC0052JB (1) 図1-20の③のような平坦な領域が存在するようにRfと (c) 光ファイバを使用した例 Cfを決定します。 (2) f2がオペアンプのオープンループゲイン直線の右側に 位置する場合、 ゲインが1になる周波数 (ゲイン帯域幅) が高いオペアンプにかえて、 ③の領域を設定します。 (3) Ctの値が小さいフォトダイオードと取り替えます。 図1-20 ) の例では、( 1 + Ct Cf を1に近づけるようにします。 KSPDC0053JB 路ゲインが存在しており、 オペアンプの入力ノイズや帰還 太線の部分は、ガードパターン内またはテフロン端子上に配線 IC1 : FET入力オペアンプなど IC2 : OP07など Cf : 10 pF∼100 pFスチコン Rf : 10 GΩ max. SW: リーク電流の小さいリードリレースイッチ PD : S1226/S1336/S2386シリーズ, S2281など 抵抗のノイズが減衰を受けず、 場合によっては増幅されて Vo = Isc × Rf [V] (1)(2)により、 ゲインピーキング、 リンギングは減少あるい は発生しなくなります。 しかし、高い周波数領域③では回 出力に現れます。 これを避けるためには (3)の方法を行い フォトダイオードの受光部をGNDに終端してシールド層 ます。 として使い、 信号をカソード端子から取り出すことも有効な このような手順で、通常のゲインピーキングやリンギング 対策です。 電源からの交流ノイズに対しては、 電源ラインに によるS/N劣化は解決できます。 なお、上記対策とは関係 RCフィルタやLCフィルタを入れることで対策を行います。 な なく、 オペアンプの出力に数百pF∼数nF以上の負荷容量 お、 電源として乾電池を使用することも有効な対策となりま (数メートル以上の同軸ケーブルやコンデンサなど)を接続 す。 オペアンプのもつノイズに対しては、 1/fノイズが小さく入 すると、 オペアンプによっては発振することがあるため、 負 力換算雑音電流の低いオペアンプを選択することによって 荷容量はできるだけ小さくする必要があります。 対策を行います。 さらに、 信号の周波数帯域に合わせて回 路の周波数帯域を帰還容量 (Cf)を用いて制限することに 1 - 10 応用回路例 よって、 高周波ノイズを低減します。 次に、 出力誤差 (オペアンプの入力バイアス電流や入力 オフセット電圧、 回路配線の引き回し、 回路基板表面のリー 極微弱光検出回路 ク電流などによる)の低減が必要です。入力バイアス電流 が数百fA以下で、FET入力型オペアンプか低1/fノイズで 極微弱光を検出する回路では、 周囲からの電磁ノイズ、 CMOS入力のオペアンプを選択します。 さらに、入力オフ 電源からの交流ノイズ、 オペアンプのもつノイズなどを低減 セット電圧が数mV以下で、 オフセット調整端子があるオペ するための対策が必要です。 アンプが有効です。 回路基板は、高絶縁抵抗の材質のも 周囲からの電磁ノイズに対しては、図1-21のような対策 のを使用します。 フォトダイオードからオペアンプの入力端 を行います。 子までの配線、 および帰還抵抗と帰還容量の入力側配線 は、 ガードパターンを使用するか、 テフロン端子を使用した 33 空中配線を行い、 基板表面のリーク電流対策を行います。 なお、 極微弱光検知用フォトダイオード用アンプとしてフォ 差をなくすため、Cは誘電吸収が小さいコンデンサを使用 トセンサアンプ C6386-01、 C9051、 C9329を用意しています。 します。 なお、 SWはCMOS型アナログスイッチです。 [図1-22] フォトセンサアンプ [図1-24] 光量積分回路 (a) C6386-01 章 2 から、短絡電流の平均値が求められます。 リセット時の誤 (b) C9051 (c) C9329 フォトダイオード S i フォトダイオード、BNC-BNC プラグ付同軸ケーブルは別売 リセット入力: TTL Lowレベルでリセット IC : LF356など SW: CMOS 4066 PD : S1226/S1336/S2386シリーズなど C : ポリカーボネートコンデンサなど VO = Isc × tO × 1 [V] C KPDC0027JB 光量−対数電圧変換回路 光量−対数電圧変換回路 [図1-23]の出力電圧は、検 出光量の対数的変化に比例します。対数変換用のログダ イオード Dは、 低暗電流で低直列抵抗のタイプを使用しま す。 小信号トランジスタのB-E間や接合型FETのG-S間をロ グダイオードとして利用することもできます。IBは、Dにバイ アス電流を供給して回路動作点を設定するための電流源 です。IBを供給しないと、 フォトダイオードの短絡電流 Isc がゼロになったとき回路がラッチアップします。 簡易照度計 (1) 視感度補正された当社製Siフォトダイオード S9219と フォトセンサアンプ C9329を用いた簡易照度計回路です。 図1-25のように、 C9329の出力に抵抗を用いた分圧回路を 外付けして1 Vレンジの電圧計に接続することによって、 最 大1000 lxの照度を測定できます。 この回路の校正には標準光源を使用しますが、標準光 源がない場合は100 Wの白色光源を利用して簡易的な校 正を行うことも可能です。 [図1-23] 光量−対数電圧変換回路 校正方法を以下に示します。初めにC9329のLレンジ を選択し、可変抵抗器 VRを時計方向へ止まるまで回し ます。 この状態でS9219を遮光して、電圧計が0 Vになる ようにC9329のゼロ調整ボリュームを回して調整します。 次に白色光源を点灯させ、 電圧計の表示が0.225 Vとなる D : 低暗電流で低直列抵抗のダイオード IB : 回路動作点設定用電流源, IB << Isc R : 1 GΩ∼10 GΩ Io: Dの飽和電流, 10-15∼10-12 A IC: FET入力型オペアンプなど Vo = -0.06 log ( ように白色光源とS9219との距離を調整します (このとき S9219の表面の照度は約100 lxになります)。続いて電圧 計の表示が0.1 VとなるようにVRを反時計方向に回して調 Isc + IB + 1) [V] Io 整し、 校正を終了します。 KPDC0021JA 校正後は、C9329のLレンジで1 mV/lx、Mレンジで100 mV/lxの出力となります。 光量積分回路 フォトダイオードとオペアンプの積分回路を用いた光量積 分回路です。波高値・周期・パルス幅などが不規則な光パ ルス列の積算光量や平均光量の測定などに使用します。 図1-24のICとCは積分器を構成し、パルス光によって発 生する短絡電流 Iscを積分コンデンサ Cに蓄えます。 リセッ ト直前の出力電圧 Voと積分時間 toおよび既知のCの値 34 1. Siフォトダイオード [図1-25] 簡易照度計 (1) 傍だけを高感度に検知できます。 またフィルタを用いて、 特 定波長域の光量バランス検知に利用することができます。 [図1-27] 光量バランス検知回路 PD: S9219 (4.5 A/100 lx) KSPDC0054JB PD : S1226/S1336/S2386シリーズなど IC : LF356など D : ISS226など 簡易照度計 (2) 視感度補正されたSiフォトダイオード S7686とオペアン 章 Vo = Rf × (Isc 2 - Isc1) [V] (ただしVo<±0.5 V) 2 KPDC0017JB S i 1 Vレンジの電圧計に接続することによって、 最大10000 lx フォトダイオード プの電流−電圧変換回路を用いた簡易照度計回路です。 吸光度計 の照度を測定できます。 オペアンプは、入力バイアス電流が小さい単電源の低 専用ICと2つのSiフォトダイオードを使用した、 2つの電流 消費電流タイプを使用します。 この校正は100 Wの白色光 入力の対数比が得られる吸光度計です [図1-28]。光源 源を利用した簡易的な方法で行うことが可能です。 の光の強度と試料を通過した後の光の強度を2つのSiフォ 初めに10 mV/lxレンジを選択し、 メータ校正用ボリュー トダイオードで測定して比較することで、試料の吸光度を ムのしゅう動端子とオペアンプの出力端子を短絡します。 測ることができます。 次に白色光源を点灯させ、電圧計の表示が0.45 Vとなる 初めに2つのSiフォトダイオードの短絡電流が同じ値にな ように白色光源とS7686との距離を調整します (このとき るように絞りなどの光学系を調整して、 出力電圧 Voが 0 V S7686の表面の照度は約100 lxになります)。続いて電圧 となるようにします。 次に、 試料を片側の光路に挿入します。 計の指示が1 Vとなるようにメータ校正用ボリュームを調整 このときの出力電圧の値が、試料の吸光度となります。吸 し、 校正を終了します。 光度 Aと出力電圧 Voの関係は、 A=-Vo [V]で表されます。 必要に応じて、図1-28のように光源の前にフィルタを設 [図1-26] 簡易照度計 (2) 置することで、特定波長域や単色光での分光吸光度を測 定することができます。 [図1-28] 吸光度計 VR: メータ校正用可変抵抗 IC : TLC271など PD: S7686 (0.45 A/100 lx) A : Logアンプ PD: S5870など KPDC0018JE Vo = log (ISC1/ISC2) [V] KPDC0025JC 光量バランス検知回路 図1-27は、逆並列接続した2つのS iフォトダイオード PD1・PD2とオペアンプの電流−電圧変換回路を用いた光 量バランス検知回路です。受光感度は帰還抵抗 Rfの値 で決まります。 PD1・PD2に入射する光量が等しいとき、 出力 電圧 Voはゼロになります。2つのダイオード Dが逆接続さ れているため、 PD1・PD2の受光量がアンバランスの状態で LEDの全放射光量の測定 LEDの発光波長幅は数十nm程度と狭いため、LEDの ピーク発光波長におけるSiフォトダイオードの受光感度か らLEDの放射光量を知ることができます。図1-29において LED側面からの光放射成分は、 表面を鏡面加工した反射 ブロック Bで正面側に反射され、全放射光量がSiフォトダ はVo=±0.5 V程度の範囲に制限され、バランス状態の近 35 [図1-31] フォトセンサアンプ C8366 イオードで検知されます。 [図1-29] LEDの全放射光量の測定 A : PD : B : S : 章 2 電流計, 1 mA∼10 mA S2387-1010R アルミニウムブロック、内側金メッキ Siフォトダイオードの受光感度 データシートの特性表参照 S2387-1010R: 930 nmではS=0.58 A/W Po : 全放射光量 Po = 高速/光検出回路 (2) Isc [W] S S i フォトダイオード KPDC0026JA 逆電圧を印加して低容量化したSi PINフォトダイオード の短絡電流を負荷抵抗 RLで電圧変換し、 高速オペアンプ 高速/光検出回路 (1) で電圧増幅する高速/光検出回路です [図1-32]。 この回 路では、 オペアンプの位相ズレに基づくゲインピーキング 逆電圧を印加して低容量化したSi PINフォトダイオード の恐れがありません。 オペアンプの選択によって周波数帯 と、高速オペアンプの電流−電圧変換回路を使用した高 域が100 MHz以上の回路が可能です。使用部品・パター 速/光検出回路です [図1-30]。 この回路の周波数帯域 ン・構造についての注意点は前述の 「高速/光検出回路 は、 オペアンプの特性で制約され、 100 MHz程度以下にな (1)」 と同様です。 ります。 周波数帯域が1 MHzを超える回路では、 各部品のリード [図1-32] 高速/光検出回路 (2) インダクタンスや帰還抵抗 Rfの浮遊容量が応答速度に大 きな影響を与えます。 そのため、 チップ部品を使用して部品 のリードインダクタンスを低減したり、 複数の抵抗を直列接 続して抵抗の浮遊容量を低減して、 その影響を抑えます。 また、 オペアンプの入力部分の基板パターンで生じる浮 遊容量やインダクタンス、 フォトダイオードのリードインダクタ ンスの影響を低減するため、 フォトダイオードのリードは極 力短くし、 オペアンプとできる限り短く太いパターンで配線し ます。 性能向上のためには、 基板銅箔面全面を接地電位と して使用するグランドプレーン構造が効果的です。 PD : 高速PINフォトダイオード (S5971, S5972, S5973, S9055, S9055-01など) R L, R, Rf: オペアンプの推奨条件に合わせて調整 IC : AD8001など Vo = Isc × R L × (1 + Rf ) [V] R KPDC0015JE なお、 オペアンプの電源ラインに接続するコンデンサ 0.1 µFにはセラミックコンデンサを使用し、 直近の接地電位 に最短距離で接続します。 交流光検出回路 (1) 当社は、 周波数帯域 100 MHzのPINフォトダイオード用 逆電圧を印加して低容量化したSi PINフォトダイオード フォトセンサアンプ C8366を用意しています。 の光電流を負荷抵抗 RLで電圧変換し、 高速オペアンプで 電圧増幅する交流光検出回路です [図1-33]。 この回路で [図1-30] 高速/光検出回路 (1) は、 オペアンプの位相ズレに基づくゲインピーキングの恐 れがありません。 オペアンプの選択によって、周波数帯域 が100 MHz以上の回路が可能です。 使用部品・パターン・構造についての注意点は、前述の 「高速/光検出回路 (1)」 と同様です。 PD: 高速PINフォトダイオード (S5971, S5972, S5973など) Rf : 並列容量を避けるため複数個直列 IC : AD745, LT1360, HA2525など Vo = -Isc × Rf [V] KPDC0020JD 36 1. Siフォトダイオード 2. PSD(位置検出素子) [図1-33] 交流光検出回路 (1) 2. PSD(位置検出素子) 光の入射位置を検出する方法として、多数の小型検 出器を並べたり、多分割された検出器 (イメージセンサな ど)を用いて行う方法があります。 これに対し、1個の検出 器で光の入射位置を検出するものとしてPSD (Position PD : 高速PINフォトダイオード (S5971, S5972, S5973, S9055, S9055-01など) R L, R, Rf, r: オペアンプの推奨条件に合わせて調整 IC : AD8001など Sensitive Detector)があります。 PSDは、 フォトダイオードの表面抵抗を利用した非分割 型の受光素子のため、連続した電気信号が得られ、位置 Vo = Isc × R L × (1 + Rf ) [V] R KPDC0034JA 分解能・応答性・信頼性に優れています。 章 位置・角度・歪み・振動の測定、 レンズの反射・屈折の 2 測定、 レーザ変位計などの精密測定、光学的なリモートコ 交流光検出回路 (2) ントロール装置の他、測距装置・光電スイッチなど幅広い S i フォトダイオード 逆電圧を印加して低容量化したPINフォトダイオードと、 分野にPSDは用いられています。 FETによる電圧増幅回路を用いた交流光検出回路です [図1-34]。低ノイズFETを使用することによって、 安価で小 2-1 型な低ノイズ回路が実現でき、 空間光伝送や光リモコンな どの受光部に使用します。図1-34ではFETのドレインから 信号出力を取っていますが、入力抵抗の小さい次段回路 特長 ・優れた位置分解能 へのインターフェースにはソース側から信号出力を取り出 ・広い感度波長範囲 すか、 ボルテージ・フォロアを追加します。 ・高速応答 [図1-34] 交流光検出回路 (2) ・スポット光の光強度と光量重心位置を同時に検出 ・高信頼性 2-2 構造、動作原理 PSDは、 高抵抗半導体基板の片面または両面に均一な 抵抗層を形成し、 抵抗層の両端に信号取り出し用の1対の PD : RL : RS : FET: 高速PINフォトダイオード (S2506-02, S5971, S5972, S5973など) フォトダイオードの感度と端子間容量により決定 FETの動作点で決定 2SK362など KPDC0014JE 電極を設けた構造をもっています。受光面は抵抗層であ ると同時にPN接合をも形成しており、 光起電力効果により 光電流を生成します。 図2-1は、 PSDの動作原理を示す断面構造図です。 N型 高抵抗Si基板の上に、受光面と抵抗層を兼ねたP型抵抗 層を形成しており、 その両端に1対の出力電極が形成され ています。裏面はN層であり、共通電極が形成されていま す。基本的な構造は、表面のP型抵抗層を除けばPINフォ トダイオードと同様の構造をしています。 PSDにスポット光が入射すると、 入射位置には光量に比 例した電荷が発生します。 この電荷は光電流として抵抗 層に到達し、 それぞれの電極までの距離に逆比例して分 割され、 出力電極 X1 、 X2より取り出されます。 37 [図2-1] PSDの断面構造図 [図2-3] 受光面図 (1次元PSD) KPSDC0010JB 入射位置換算式 [図2-3参照] IX2 - IX1 2XA ........ = (9) IX1 + IX2 LX KPSDC0005JB 章 2 図2-1におけるスポット光の入射位置と電極 X1 、 X2の出 力電流の関係は、 以下のようになります。 PSD中心を原点とした場合 フォトダイオード S i IX1 LX - XA 2 = × Io .... (1) LX IX2 - IX1 2XA ........ = (3) IX1 + IX2 LX IX2 2次元PSD 2次元PSDは、電極相互の干渉を抑えるため、受光面・ LX + XA 2 = × Io ... (2) LX IX1 LX - 2XA ....... = (4) IX2 LX + 2XA 電極の形状を工夫しています。低暗電流、高速応答、逆 電圧の印加が容易といった特長に加え、周辺部での歪み が大幅に抑えられています。入射位置換算式は、式 (10) (11)のようになります。 [図2-4] 構造図、等価回路(2次元PSD) PSD端を原点とした場合 IX1 = LX - XB × Io ...... (5) LX IX2 - IX1 2XB - LX ... = (7) IX1 + IX2 LX IX1: IX2: Io : LX : XA : XB : IX2 = XB × Io ........... (6) LX IX1 LX - XB ........... = (8) IX2 XB 電極 X1の出力電流 電極 X2の出力電流 全光電流 (IX1 + IX2) 抵抗長 (受光面の長さ) PSDの電気的中心位置から入射位置までの距離 電極 X1から入射位置までの距離 KPSDC0009JC [図2-5] 受光面図(2次元PSD) 式 (1)(2)(5)(6)からI X1、 I X2の値を求めて式 (3)(4)(7) (8)に入れると、光量およびその変化とは無関係に、光の 入射位置を求めることができます。 なお、 ここで求められる 光の入射位置は、 光量の重心位置に当たります。 1次元PSD [図2-2] 構造図、等価回路 (1次元PSD) KPSDC0012JC 入射位置換算式 [図2-5参照] (IX2 + IY1) - (IX1 + IY2) 2XA ........ = (10) IX1 + IX2 + IY1 + IY2 LX KPSDC0006JA 38 (IX2 + IY2) - (IX1 + IY1) 2YA ........ = (11) IX1 + IX2 + IY1 + IY2 LY 2. PSD(位置検出素子) [図2-7] 1次元PSDの光電流測定例 (S4583-04など) 位置検出誤差 2-3 PSDは、各出力電極より取り出される光電流からスポッ ト光の入射位置を演算することができます。 ここで求めら れる入射位置は光量の重心位置であり、 スポット光の大き さ・形状・光量の影響を受けません。 しかし、 実際の入射位置と演算によって求められる位置 (演算位置)の誤差は、 PSDによってバラツキがあります。 そ の誤差、すなわち位置検出誤差は、PSDの最も重要な特 性の1つです。 PSDにスポット光を入射し、各出力電極から取り出され 章 2 る光電流値が等しくなるPSD上のスポット光の入射位置を 電気的中心位置と呼びます。 この電気的中心位置を原点 KPSDB0114JA S i [図2-8] 1次元PSDの位置検出誤差の例(S4583-04など) フォトダイオード として、 スポット光の入射位置と光電流値より演算された 入射位置との差を位置検出誤差と定義しています。 [図2-6] PSDの断面図 KPSDC0071JB KPSDB0005JA 位置検出誤差の計算方法は次の通りです。図2-6にお いて電気的中心位置を基準 (原点)として、 スポット光の実 際の入射位置をXi、各出力電極からの光電流をI X1および IX2、 演算された位置をXmとします。 ここでXiとXmの差を位 置検出誤差 (E)と定めます。 E = Xi - Xm [ m] ............. (12) Xi : 実際の入射位置 [ m] Xm: 演算位置 [ m] Xm = IX2 - IX1 LX ........ × (13) IX1 + IX2 2 位置検出誤差の規定範囲 PSDは受光面全域での位置検出が可能ですが、図2-9 のようにスポット光の一部が受光面からはみ出した場合、 スポット光の光量重心位置と受光面上の光量重心位置 にズレが生じて、正確な位置検出ができなくなります。 した がって、 スポット光のサイズに合わせてPSDを選択する必 要があります。 [図2-9] スポット光の光量重心位置 位置検出誤差の測定条件を以下に示します。 ・光源 :λ=830 nm ・スポット光サイズ :φ200 µm ・全光電流値 : 10 µA ・逆電圧 : データシート記載の所定の電圧 図2-7・図2-8に、 抵抗長 3 mmの1次元PSD (S4583-04な KPSDC0073JA ど)を使って測定した際の光電流測定例と、 そのデータをも とに位置検出誤差を求めた結果を示します。 位置検出誤差の規定範囲については、図2-10のように 設定しています。 39 [図2-10] 位置検出誤差の規定範囲 1次元PSDを電流−電圧変換型オペアンプと接続して 使用する場合の接続例を図2-11に示します。 また、図2-12 (a) 1次元PSD (抵抗長≦12 mm) にそのノイズモデルを示します。 [図2-11] 1次元PSDと電流−電圧変換型オペアンプとの 接続例 KPSDC0074JA (b) 1次元PSD (抵抗長>12 mm) 章 2 KPSDC0076EA フォトダイオード S i [図2-12] ノイズモデル KPSDC0075JA (c) 2次元PSD KPSDC0063JA 2次元PSDの周辺部は、 中心部に比べ位置検出誤差が 大きいため、 Zone AとZone Bに区別して規定しています。 KPSDC0077JA 2-4 位置分解能 PSDの受光面上で検出できるスポット光の最小変位を 位置分解能として定義し、 受光面上の距離で表します。 位 置分解能は、 PSDの抵抗長とS/Nによって決まります。 位置 演算式 (6)を例にとると、 式 (14)が成り立ちます。 IX2 XB + Δx + ΔI = × Io ......... (14) LX ΔI : 出力電流の変化 Δx: スポット光の微小変位 したがって、 Δxは式 (15)で表されます。 Δx = LX × ΔI ......................... (15) Io 位置変化が無限小になった場合は、 出力電流 I X2に含 まれるノイズ成分が分解能を決定します。一般にPSDのノ イズ電流をInとすると、 位置分解能 (ΔR)は式 (16)で表さ れます。 ΔR = LX × 40 In ........................ (16) Io ノイズ電流 位置分解能を決定するノイズ電流について説明します。 (1) Rf >> Rieの場合 電流−電圧変換回路のフィードバック抵抗 (Rf)が、 PSD の電極間抵抗 (Rie)と比較して十分大きな値である場合、 式 (19)でノイズ電流を計算します。 このとき、1/Rfは1/Rie と比べ十分小さい値とみなせるため無視できます。 ・光電流および暗電流に起因するショットノイズ電流 Is Is = q: I O: ID : B: 2q × (IO + ID) × B [A] ............ (17) 1電子当たりの電荷量 [C] 光電流 [A] 暗電流 [A] 帯域幅 [Hz] 2. PSD(位置検出素子) ・電極間抵抗で発生する熱雑音電流 間抵抗をパラメータにして表したものが図2-14です。電極 (ジョンソンノイズ電流) Ij 間抵抗が10 kΩ程度のPSDでは、 使用するオペアンプの特 性がノイズ電流を決める要因となるため、低ノイズ電流の 4k T B [A] ............ (18) Rie Ij = オペアンプを使用する必要があります。 また、電極間抵抗 が100 kΩを超えるPSDでは、PSD自体の電極間抵抗によ k : ボルツマン定数 [J/K] T : 絶対温度 [K] Rie: 電極間抵抗 [Ω] る熱雑音が支配的になります。 [図2-13] ショットノイズ電流−光電流 注) 通常Rsh >> Rieのため、Rshについては無視できます。 ・オペアンプの入力換算雑音電圧によるノイズ電流 Ien Ien = en Rie B [A] ............ (19) 章 2 en: オペアンプの入力換算雑音電圧 [V/Hz1/2] S i フォトダイオード PSDのノイズ電流 (In)は、 式 (17) (18) (19)の和より実 効値 (rms)として式 (20)で表されます。 In = Is2 + Ij2 + Ien2 [A] ............ (20) (2) RfがRieに対して無視できない場合 Rie KPSDB0083JB ( Rf >0.1 程度のとき) ノイズ電流は、 出力雑音電圧に換算して求めます。 この [図2-14] ノイズ電流−電極間抵抗 場合、 式 (17) (18) (19)は、 出力電圧換算をするとそれぞ れ次のようになります。 Vs = Rf × 2q × (Io + ID) × B [V] ............. (21) Vj = Rf × 4k T B [V] ............................... (22) Rie Ven = 1 + Rf Rie × en × B [V] ............. (23) さらにフィードバック抵抗の熱雑音とオペアンプの入力 換算雑音電流が加わり、 以下のようになります。 ・フィードバック抵抗で発生する熱雑音電圧 VRf KPSDB0084JA 4k T B [V] .......................... (24) Rf VRf = Rf × このようにPSDは、 電極間抵抗と光電流により位置分解 ・オペアンプの入力換算雑音電流の雑音電圧 Vin 能が決まります。 この点が他の分割型検出器と最も異なる 点です。 Vin = Rf × in × B [V] ........................... (25) in: オペアンプの入力換算雑音電流 [A/Hz1/2] PSDの位置分解能を向上させるには、以下の手法が有 そのため、オペアンプの出力雑音電圧 (V n)は実効値 (rms)として、 式 (26)で表されます。 Vn = Vs2 + Vj2 + Ven2 + VRf2 + Vin2 効です。 ・電極間抵抗 (Rie)を高くする。 ・信号光電流 (Io)を増加させる。 ・抵抗長 (Lx)を短くする。 [V] ............ (26) 図2-13は、Rf>>Rieのときのショットノイズ電流、光電流 をパラメータにして表したものです。 また、熱雑音、 および オペアンプの入力換算雑音電圧によるノイズ電流、電極 ・適切なノイズ特性のオペアンプを使用する。 当社は、 光電流 1 µA、 回路系入力ノイズ 1 µV (31.6 nV/ Hz1/2)、周波数帯域 1 kHzを規定条件として位置分解能 を計算しています。 41 図2-16は、異なる波長の入射光における上昇時間と逆 応答速度 2-5 電圧の関係を示した例です。入射光の波長を短くして逆 フォトダイオードと同様にPSDの応答速度は、生成した キャリアをどれだけ速く外部回路へ電流として取り出せる かを示す値です。 通常、 応答速度は上昇時間で表します。 PSDの受光面上のスポット光の位置が高速で移動する場 電圧を大きくすることが、上昇時間を速くするために有効 であることが分かります。 また、 電極間抵抗の小さいPSDを 選択することも有効です。 [図2-16] 上昇時間−逆電圧 (代表例) 合や、信号光源をパルス点灯させて背景光を除去して使 用する場合などにPSDの応答速度が問題となります。 上昇 時間は、 出力信号が10%から90%に達する時間で規定さ れ、 主に以下の2つの要素で決まります。 章 2 (1) 電極間抵抗、 負荷抵抗、端子間容量の時定数 t1 PSDの電極間抵抗 (Rie)は基本的には負荷抵抗 (RL)と して働くため、 電極間抵抗と端子間容量 (Ct)によって表さ フォトダイオード S i れる時定数 t1は式 (27)のようになります。 t1 = 2.2 × Ct × (Rie + RL) ......... (27) PSDの電極間抵抗は電極間に分布していますが、 当社 KPSDB0110JB は受光面中心での応答速度を定義しているため、 式 (27) はおおよそ式 (28)のようになります。 2-6 t1 = 0.5 × Ct × (Rie + RL) ......... (28) PSDを屋外など背景光の多い場所で使用する場合や、 (2) 空乏層外生成キャリアの拡散時間 t2 空乏層外生成キャリアは、 PSDの受光面から外れたチッ プ周辺部に光が入射した場合や、空乏層よりさらに深い 基板内で光が吸収された場合に発生します。 このキャリア は、 基板内を拡散し出力されますが、 拡散に要する時間 t2 は数µs以上になることがあります。 PSDの上昇時間 (tr)は式 (29)で近似され、応答波形 は図2-15のようになります。 tr = t 12 + t 22 飽和光電流 信号光量が極めて大きい場合、光電流によるPSDの飽和 を考慮する必要があります。図2-17は、PSDが飽和してい ない場合の出力例です。 この場合、受光面全域で直線性 があり、 PSDは正常に機能しています。 図2-18は、 PSDが飽和した場合の出力例です。 この場合、 出力の直線性が失われ、 PSDは正常に機能しなくなります。 PSDの飽和現象は、 電極間抵抗と逆電圧に依存してい ます [図2-19]。飽和光電流は、受光面全域に光を入射さ .......................... (29) せたときの全光電流値で規定しています。微小スポット光 の入射時は、部分的に電流が集中するため、 この値よりも 低い値になります。 [図2-15] PSDの応答波形例 PSDの飽和現象を避けるためには、以下の方法が有効 です。 ・光学フィルタで背景光をカットする。 ・受光面積の小さいPSDを使用する。 ・逆電圧を上げる。 ・電極間抵抗を下げる。 ・スポット光サイズを大きくする。 KPSDC0078JA 42 2. PSD(位置検出素子) [図2-17] 正常動作時の光電流出力例 (S5629) 2-7 使い方 推奨回路 (1) 動作回路例 PSDの出力は電流であるため、 オペアンプを用いて電圧 信号に変換し専用ICで演算処理を行う方法が一般的で す。代表的な回路例を図2-20・図2-21に示します。PSDの 受光面内にスポット光が入射している場合、PSDと光源の 距離や光源の輝度の変化で入射光量が変動しても、 位置 章 演算出力は変化しません。 2 背景光がある場合は、 背景光による光電流を除去するた KPSDB0087JA めに光源をパルス点灯し、図2-21の回路例のようにPSDと フォトダイオード S i I/V変換器を交流結合して交流成分だけを取り込みます。 [図2-18] 飽和時の光電流出力例 (S5629) 図2-22は、PCへのデータ取り込みが可能なデジタル出 力を備えた回路のブロック図です。PSDの出力電流をI/V 変換・A/D変換した後、 マイコンで演算処理しています。 [図2-20] DC動作回路例 (a) 1次元PSD用 KPSDB0086JB KPSDC0085JC [図2-19] 飽和光電流−電極間抵抗 (受光面全域照射時) (b) 2次元PSD用 KPSDC0026JE KPSDB0003JA 43 [図2-21] AC動作回路例 (2次元PSD用) 得られます。 また、電源としてACアダプタを使用するため、 取り扱いが容易です。 KPSDC0029JE 章 2 [図2-22] デジタル出力DC動作回路のブロック図 (C9069) フォトダイオード S i KACCC0223JA (2) PSD信号処理回路 [図2-23] 2次元PSD信号処理回路 C9069 当社は、 1次元/2次元PSDの評価を容易に行うため各 種のPSD信号処理回路を用意しています。 DC信号処理回 路は、前述のDC動作回路例に類似したI/V変換器・加減 算回路・アナログ割算回路をコンパクトなボードにまとめた ものです。AC信号処理回路は、前述のAC動作回路例に 加えて同期回路・LED駆動回路を内蔵しているため、 電源 (±15 V)とLEDを配線するだけで測定を開始できます。 デジタル出力信号処理回路は、加減算・割算などの位 置演算をすべてマイコン処理しているため、 入射光量が大 きく輝度変化が小さい測定において安定した位置出力が 44 2. PSD(位置検出素子) 3. 応用例 3. れ、受光面内の感度バラツキが小さいため、受光面内の 応用例 どの位置に光が入射しても安定して検出することができま す。 また、 外乱光をカットするフィルタの実装や小型実装技 3-1 術にも優れており、バーコードリーダの小型化に貢献して 粒度分布計 (レーザ回折・散乱法) います。 レーザ回折・散乱法は、測定時間が短い、再現性がよ い、流動状態の粒子が測定できるなどの特長をもった粒 度分布測定法です。測定対象となる粒子にレーザ光 (単 色・平行ビーム)を照射すると、空間的に回折・散乱光の は、粒子の大きさに依存して変化します。回折・散乱光を 検出するためには、大面積で分解能の高いセンサが要求 当社の多素子タイプSiフォトダイオードは、素子ごとの 特性のバラツキが小さく、 優れた感度特性をもった受光素 子です。 また、 当社の優れた 「大型チップの実装/加工技 術」 を採用しています。 そのため、粒度分布計の心臓部に 当たるセンサ部 (前方回折・散乱光センサ&側方・後方散 乱光センサ)として、多く使用されています。10 nm∼300 µmの粒子の測定が可能な粒度分布計などに内蔵され、 紫外線はエネルギーが高く、 殺菌作用や光触媒作用をも ちます。 一方、 吸収により物質を劣化させる作用もあります。 当社のSiフォトダイオードは紫外域にも高い感度をもっ 2 ているため、 紫外線の検出に広く利用されています。 たとえ ばSiフォトダイオードと紫外線単波長バンドパスフィルタを 高信頼性パッケージに実装した製品は、 水質汚濁の1つで S i フォトダイオード されます。 UVセンサ 章 光強度分布パターンが生じます。 この光強度分布パターン 3-3 ある有機汚染を検出する装置に広く使用されています。 紫外線を受光する際、 使用環境によってパッケージ内の 樹脂から発生したアウトガスが紫外線と反応することで感 度が劣化する恐れがあります。 当社では、樹脂を用いない パッケージ技術や、 紫外線耐性に優れたSiチップの開発な どにより、高い信頼性をもった紫外域用Siフォトダイオード も実現しています。 環境測定に用いられています。 3-4 [図3-1] 粒度分布計 (レーザ回折・散乱法)の構成 ロータリーエンコーダ ロータリーエンコーダは、FA機器などに広く用いられて います。 ロータリーエンコーダにおいては、 発光素子と受光 素子 (フォトダイオード)の間に回転スリットと固定スリット があります。 回転スリットの回転により、発光素子の光が透 過・遮断されますが、 この光の変化を受光素子がとらえる ことで回転を検出します。 軸の回転数 (アナログ値)をパルス (デジタル値)に変換 するために、受光素子には高速応答と高いチップ位置精 度が要求されます。 当社の多素子タイプSi PINフォトダイ オードは、高速で変化する光信号の検出に適しており、素 子間の感度や応答速度のバラツキが少ないため、安定し KSPDC0056JA た検出能力を実現しています。 なお、受光素子の低ノイズ 化のために、受光部以外を遮光するパターニング技術を 3-2 バーコードリーダ 適用することができます。 [図3-2] ロータリーエンコーダの構成例 バーコードリーダにおいては、 LEDやレーザダイオードな どの光源の光をバーコード面に照射し、 その反射光をレン ズで集光し、光センサで検知します。検知されたパターン と登録されたパターンを比較照合することにより、文字・数 字などに変換します。 バーコードリーダの光センサには高感度や高速応答が 要求される上に、反射光を高精度に検出する必要があり KSPDC0062JA ます。 当社のSi PINフォトダイオードは、 これらの特性に優 45 3-5 カラーセンサ 3-6 VICS (道路交通情報通信システム) 色の検出を行う場合、 光の3原色である赤 (R)・緑 (G)・ 章 2 フォトダイオード S i 青 (B)のそれぞれの信号を分けて検出することで、色識 VICS (Vehicle Information and Communication 別はもとより、紙幣鑑別、塗装色識別、印刷物・繊維製品 System)は、渋滞状況・工事・交通規制・所要時間などに の色管理などが可能となります。Siフォトダイオードは広い ついての情報提供をFM多重放送・電波・光を媒体として 波長にわたって感度をもちますが、 フィルタを組み合わせ 行うシステムです。 ることにより、RGB個々の波長の検出が可能となります。 当 光媒体による情報提供は、道路の主要箇所に設置さ 社のカラーセンサ用Siフォトダイオードは、 RGBの各センサ れた光ビーコン (路上器)と車内に設置される光ビーコン が一体になっているため小型サイズで、容易に色信号を (車載器)の間で、 近赤外線の光を用いて双方向の通信を 検出することができます。 行います。 この方式の利点は他の媒体とは異なり双方向 TFT液晶バックライトのRGB-LEDの温度特性や劣化 の情報交換が可能である点で、欠点は通信エリアが限定 による色変化の影響を調整するため、 当社のSiフォトダイ されてピンポイントでの情報提供しか行えない点です。 な オードを搭載したカラーセンサモジュールが、LEDのRGB お、 アップリンク (車載器→路上器)とダウンリンク (路上器 各色の検出に用いられます。 →車載器)では通信範囲が異なります。 [図3-3] RGB-LEDを用いたTFT液晶バックライトの 色調整 (C9303シリーズの応用例) [図3-5] 光ビーコンの構成 KLEDC0029JA KACCC0212JE [図3-4] カラーセンサモジュール C9303シリーズ 光ビーコン内には、 LEDとフォトダイオードが搭載されて います。 車載器は設置スペースの問題から小型化が要求さ れ、 表面実装型フォトダイオードが使用されます。 車載器は 過酷な環境条件が想定されるため、 動作/保存温度範囲 が通常のフォトダイオードより広い設計が必要になります。 当初のVICSではLEDアレイとフォトダイオードを別々に 搭載しているタイプがほとんどでしたが、現在は一体化さ れた小型モジュールが広く使用されています [図3-6]。 [図3-6] VICS用 投/受光モジュール P8212 46 3. 応用例 3-7 [図3-8] ダイレクト位置検出の例 三角測距 三角測距の原理を図3-7に示します。 光源 (LEDやLDな ど)から照射された光を投光レンズで集光し測定対象物 に当てて、 その反射光を受光レンズを介してPSD受光面上 に入射させます。光源とPSDの間隔 (基線長)をB、 レンズ の焦点距離をf、 スポット光のPSD上の中心からの移動距 離をXとすると、 測定対象物までの距離 Lは (1/X) × f × B で表されます。 この方式では、測定対象物の反射率の違 いや光源のパワーの強弱に関係なく測距できるという特 KPSDC0080JB 長があります。 レーザ変位計には、 この原理が応用されて 章 います。 2 [図3-9] カメラの光学式手ブレ補正 [図3-7] 三角測距の原理 (a) 手ブレのない状態 フォトダイオード S i KPSDC0087JA (b) 手ブレが発生した状態 KPSDC0086JA 3-8 ダイレクト位置検出 ダイレクト位置検出の原理を図3-8に示します。光源 KPSDC0088JA (LEDやLDなど)から照射された光が、 スリットを通過し PSD受光面上に入射します。 スリットの移動に対応して、 (c) 手ブレ補正をした状態 (補正光学系を移動) PSD受光面上の入射光位置も変位します。 その位置情報 を演算することで、 スリットの変位量が分かります。 図3-9は、 カメラの光学式手ブレ補正の応用例です。手 ブレによってカメラのレンズがブレたときに、補正光学系 (PSDを使用)をブレの方向に平行移動させ、 像の中心をイ メージセンサの受光部の中央に戻すことで画像のブレを 補正します。PSDは、補正光学系と一体となっているスリッ トの移動 (位置情報)を検出し位置制御に使用されます。 KPSDC0089JA 47 章 2 フォトダイオード S i 48