低電圧電源での出力振幅を 最大化する新しい計装アンプ − デザインノート323 Glen Brisebois はじめに 入力同相範囲と出力電圧振幅の仕様が守られているときで さえ、計装アンプには慢性的に出力振幅の問題がつきまと います。これは、計装アンプの初段の内部出力電圧が指定 されていないレベルでクリッピングされることがあるため です。クリッピング自体はユーザーからは見えませんが、 出力振幅に悪影響を与え、通常は利得が低下して、結果が 無効になります。新しいLTC®6800とLT®1789-10は両方 ともこの出力振幅の問題を解決しますが、2つの非常に異 なった方法を使います。LTC6800にはフライング・コン デンサの差動レベル・シフタとそれに続くレール・トゥ・ レール出力オートゼロ・アンプが内蔵されています。 LT1789-10はもっと古典的な3個のオペアンプを使った計 装アンプで、最終段で利得を取るという工夫がなされてい ます。 問題の明確な描写 3個のオペアンプを使った古典的な計装アンプ(IA)のトポ ロジーを図1に示します。使われているオペアンプはVS− まで同相範囲が伸びており、レール・トゥ・レールの出力 段を備えていると仮定します。これは、入力がVS−から、 V S + より約1 ボルト下までのどんな値でもとることがで き、出力が電源電圧範囲内のどんな値でもとることができ ることを通常意味します。 ただし、回路を分析すると、これらの条件は有効な出力を 保証するには十分ではないことがわかります。 たとえば、IAは単一5V電源(VS+ = 5V、VS− = 0V)で駆 動されており、利得は3(RG = RF)に設定されており、入 力はVCM = 0.5Vを中心にしていると仮定します。さて、 0.5Vの同相電圧を中心にして差動入力電圧が増大するにつ れ、アンプA1とアンプA2の出力電圧も離れていきまが、 差動入力電圧 (VDM) が1/3Vに達すると何が起きるか注意し てください。このポイントで、A1の出力は1Vになり、A2 の出力は0Vになるので、A2の出力は負電源レールによって クリッピングされます。規定入力同相範囲や規定出力振幅を 超しているわけではないのに、クリッピングが生じます。 このエラー・モードが特にやっかいなのは、利得がゼロに 落ちるわけではないので、ベンチの検証テストをていねい におこなわないと、問題を見逃すおそれがあることです。 利得は低下しますが、A1とA3により(A3にクリッピング が生じるまでは) 依然として信号利得経路が部分的に保たれ ています。単一5V電源によって駆動される上記のアンプに 似たIAの有効な出力振幅の全範囲と入力同相電圧を図2に 示します1 。入力がグランドまたは4Vに近いと、IAの有効 な出力振幅は基本的に無くなることに注意してください。 、LTC、LTはリニアテクノロジー社の登録商標です。 1このプロットは実際にLT1789-1からとられ、入力のPNP段のレベル・シ VS+ + フトによりグランド近くで改善が図られている。 VCM(HIGH), THIS OP CLIPS VDM 2 5 R A1 – RG VCM RF R RF R 2RF G=1+ RG + VOUT A3 – VDM 2 – –INPUT + R DN323 F01 A2 VS– FIRST STAGE VALID OUTPUT VOLTAGE (V) +INPUT TA = 25°C VS = 0V, 5V 4 3 G=1 2 G=2 1 G = 10 VCM(LOW), THIS OP CLIPS 0 SECOND STAGE 0 1 3 4 2 INPUT COMMON MODE VOLTAGE (V) 5 DN323 F02 図1.3個のオペアンプを使った古典的な計装アンプ VCMによっては、初段にクリッピングの問題が生じる ことがある。これにより、利得が減少し、誤った値が 出力される 10/03/323 図2.レール・トゥ・レール出力のオペアンプを使用して も、入力の同相範囲にわたって出力振幅が保証されるわ けではない ソリューション LTC6800を使ったソリューション LT1789-10の場合の同様のプロットを図3に示します。大 幅に改善されていることがわかります。LT1789-10の簡略 回路図を図4に示します。入力のPNPトランジスタがVBE 1つ分だけ入力電圧を上にレベル・シフトするのに役立っ ているので、有効な小信号入力とVS−に近い (A1とA2の) 出力範囲が保証されます。ただし、出力振幅の大幅な改善 の主要因は、最終段の利得が10になったことです。最終段 に利得をもたせたことにより、特定の全利得設定と所望の 出力振幅に対して、初段の出力振幅をそれほど大きくする 必要はなくなりました。 LTC6800は出力振幅と入力同相電圧の問題から同様に解 放されていますが、その方法はまったく異なります。この デバイスは、図5に示されているように、フライング・コ ンデンサを使った差動レベル・シフタと、それに続く非常 に精密なオートゼロ出力オペアンプを内蔵しています。 レール・トゥ・レールの出力オペアンプの利得は従来どお り2本の抵抗を使って設定することができ、通常の非反転 の利得の式(G = 1+RF/RG)に従います。 5 VALID OUTPUT VOLTAGE (V) G = 10 4 G = 100 3 TA = 25°C VS = 0V, 5V 2 LTC6800の有効出力振幅と入力同相電圧を図6に示しま す。利得が1のとき、オペアンプA1の入力同相範囲によ り、出力の有効範囲は約3.5Vにクリッピングされます。プ ロットの他の部分のランプ状の限界特性は、入力を基準に したレール・トゥ・レール入力スイッチの電圧と、コンデ ンサの電源レールによるクリッピングによるものです。 LT1789-10同様、LTC6800の性能は図2の古典的な場合 と比べて大幅に改善されています。 INPUT CM LIMIT ON 5V SUPPLY 1 8 V+ +IN 0 0 1 3 4 2 INPUT COMMON MODE VOLTAGE (V) 5 CS –IN DN323 F03 図3.LT1789-10では入力同相範囲のほぼ全体にわたっ て実効レール・トゥ・レール出力が有効となる CH REF ( ) G = 10 • 1+ 5.7k – R1 10k RG 1 RG + V– – V+ – V– V– A3 5.7k –IN 2 + V– 5 5 REF RF 100k RG 8 R2 100k + R3 10k R4 100k A2 6 VOUT 7 V+ VB DN323 F05 RF 図5.LTC6800のブロック図と利得設定用外付け抵抗 A1 V + VB V+ 4 V+ V– DN323 F04 G = 10 VALID OUTPUT VOLTAGE (V) V – 2RF RG VOUT V– RG 6 RG +IN 3 7 – V+ RF 100k OUT A1 2 5 V+ R G = 1+ F RG + 3 4 G=2 G=1 3 2 1 0 0 4 V – 1 3 2 VCM(IN) (V) 4 5 DN323 F06 図4.LT1789-10のブロック図。VS−からのPNP入力の レベル・シフト。A3の利得が10あるので、A1とA2の出 力振幅の必要条件が緩和される 図6.LTC6800の出力振幅と入力同相電圧。古典的アー キテクチャに比べて大幅に改善されている データシートのダウンロード http://www.linear-tech.co.jp/ds/j6800fa.html http://www.linear-tech.co.jp/ds/j1798f.html お問い合わせは当社または下記代理店まで(50 音順) 東京エレクトロンデバイス株式会社 株式会社トーメンエレクトロニクス 〒 224-0045 横浜市都筑区東方町 1 TEL(045)474-5114 FAX(045)474-5617 〒 108-8510 東京都港区港南 1-8-27 TEL(03)5462-9615 FAX(03)5462-9695 リニアテクノロジー株式会社 102-0094 東京都千代田区紀尾井町 3-6秀和紀尾井町パークビル 8F TEL(03)5226-7291 FAX(03)5226-0268 http://www.linear-tech.co.jp dn323f 1003 40.7K • PRINTED IN JAPAN LINEAR TECHNOLOGY CORPORATION 2003